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リリカルなのはクロスSSその116

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/17(火) 00:21:03.26 ID:hGSsh3ED
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
本スレが雑談OKになりました。ただし投稿中などはNG。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその115
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1304097153/

規制されていたり、投下途中でさるさんを食らってしまった場合はこちらに
本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1231340513/


まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはデータwiki】
ttp://www31.atwiki.jp/nanoha_data/


2 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/17(火) 00:21:44.41 ID:hGSsh3ED
【書き手の方々ヘ】
(投下前の注意)
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  ttp://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認して二重予約などの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・鬱展開、グロテスク、政治ネタ等と言った要素が含まれる場合、一声だけでも良いので
 軽く注意を呼びかけをすると望ましいです(強制ではありません)
・長編で一部のみに上記の要素が含まれる場合、その話の時にネタバレにならない程度に
 注意書きをすると良いでしょう。(上記と同様に推奨ではありません)
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

(投下後の注意)
・次の人のために、投下終了は明言を。
・元ネタについては極力明言するように。わからないと登録されないこともあります。
・投下した作品がまとめに登録されなくても泣かない。どうしてもすぐまとめで見て欲しいときは自力でどうぞ。
 →参考URL>ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3168.html

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、さるさん回避のため支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は、まとめWikiのコメント欄(作者による任意の実装のため、ついていない人もいます)でどうぞ。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
 不満があっても本スレで叩かない事。スレが荒れる上に他の人の迷惑になります。
・不満を言いたい場合は、「本音で語るスレ」でお願いします(まとめWikiから行けます)
・まとめに登録されていない作品を発見したら、ご協力お願いします。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
・携帯からではまとめの編集は不可能ですのでご注意ください。

3 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/17(火) 12:27:06.96 ID:ZTgM9ZdJ
スレ立て乙!

そういや最近、いろんな人が戻ってきてるなぁ
これから、どんどんこのスレも活気が戻るといいなぁ

4 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/17(火) 20:05:50.54 ID:Xf1TuiOu
>>1
乙! 


5 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 22:24:15.31 ID:cEkElWXP
>>1
乙です〜
では11時ちょいすぎ頃よりマクロスなのは第21話を投下するので、よろしくお願いします。

6 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:06:44.79 ID:cEkElWXP
では時間になったので投下を開始します
マクロスなのは第21話「サジタリウス小隊の出張」

1700時まで準警戒態勢を維持していた防衛部隊だが、結局ホテルでは異常は見られず、1800時をもって全ての部隊が帰投を開始した。
その内六課は陸路ではなくヘリで帰投したため、隊舎には1930時ごろ到着した。
機動六課の隊舎屋上に設けられたヘリポートには到着した輸送ヘリと、隊長達の話に傾注するフォワード陣の姿があった。

「みんなお疲れ様。私は現場にいなかったけど、陸士部隊の人達から聞きました。『今すぐにでもウチの部隊にに欲しい』って言ってたよ」

それを冗談と受け取った前線の4人は顔を見合わせて笑った。
実は第5小隊の隊長が言っていた本当のことだったりするが、そこは大して重要なことではないのでスルーし、フェイトが続ける。

「今日は明日に備えてご飯食べて、お風呂にでも入って、ゆっくりしてね」

「はい!」

直後の解散の命令と共に前線の4人は、宿舎へとワイワイ騒ぎながら引っ込んで行った。
そこに空から爆音が轟いて来た。

「バルキリー隊・・・・・・かな?でもこんな遅くに低空飛行なんて・・・・・・」

バルキリー隊は6時以降市街地では5000メートル以下の飛行は、騒音による苦情が多発するので敬遠されていた。

「レイジングハート、どこの機体かわかる?」

『They are the Sagittarius platoon to Frontier air base.(彼らはフロンティア航空基地のサジタリウス小隊です)』

それを聞いたフェイトはさらに首を傾げる。

「サジタリウス小隊?アルトくんの小隊がどうして?」

「ああ、フェイトちゃんにはまだ話してなかったね。明日から3週間、私がさくらちゃんの戦技教導をやることになったの」

「・・・・・・そうなんだ。でもなのは、少しハードワーク気味じゃないかな?大丈夫?」

「うん、朝が少し早くなるだけだけだから」

なのはは言うと、ロングアーチスタッフに通信を入れ、眼下に見える滑走路の夜間発着灯を点けさせた。

(*)

アルト以下サジタリウス小隊の3機は夜間発着灯に従ってファイターで着陸した。3人は機体から荷物を降ろすが入場の許可がまだ降りないため、
その場で待機する。

「やっと休める・・・・・・」

天城が機体の近くで大きなボストンバックに腰を降ろし、これまた大きく伸びをしている。
8時間に及ぶ警備任務からフロンティア航空基地に帰還。即座に荷造りして六課に飛ぶという離れ業をしたのだ。疲れるのも無理はないと言えた。
アルトは自らの愛機を振り返る。今は近所迷惑なためエンジンを止めてしまっているが、荷造りの間に簡単な点検・整備は行ったため、エンジンか
ら空調まで正常に動作していた。

7 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:12:22.84 ID:cEkElWXP

「しかしやっぱり暑いな・・・・・・」

アルトは手をヒラヒラしながら服をパタパタ。天城やさくらも同じようなことをやっている。
8月であるここクラナガンでは、日中最高気温38度という酷暑日が続いていた。
バルキリー内部では冷房がついていたし、ホテルのある軽井沢は涼しく適度な気温が保たれていた。
しかし今、クラナガンは暑い。
また、警備任務で消耗した魔力の回復を早めるために温度調節機能も付いた厚さコンマ数ミリのインナースーツ型バリアジャケットを着用していないのだ。
そんなこんなでバテバテになった3人に連続した爆音と共に、空から声がかかった。

『おーい、アルトく〜ん!』

・・・・・・本人に自覚はないようだが、ランカ用の大型フォールドスピーカーで大きくなったなのはの声はヘリの飛行音に負けないぐらいの超大音量
だ。フォールドスピーカーなのでヘタをすれば10キロ四方に響き渡ったかもしれない。
ヴァイスのヘリはそのまま降下。なのはを後部ハッチから降ろし、格納庫へそのまま滑るように入っていった。
どうやらヘリをヘリポートから格納庫に移動するついでになのはを送って来たらしかった。

「アルトくん達早いね。私達はさっき着いたばっかりなのに」

「まぁ、ヘリじゃ仕方ないだろ」

ヴァイスの『JF−704式・汎用大型輸送ヘリ』はノーター式で、ローターが1基しかないが、最大積載時でも巡航速度が時速150キロメートルという
そこそこ優秀な機体だ。これは2カ月前にエンジンが熱核タービンに換装されたためで、デフォルトの内燃型エンジンだと速度を維持できない。
しかし超音速巡航できるバルキリーは今回の片道行程にして360キロという距離でもマッハ2で10分弱しか掛からなかった。

「許可は貰ってきたから入っていいよ。それと機体の方は明日にはこの格納庫の受け入れ準備が終わると思うから、それまでここに停めておいてね」

なのはが先程ヘリが入った格納庫とは別の、明かりの灯っている格納庫を示す。
今回のサジタリウス小隊の六課での合宿は表向きにはバルキリー隊の六課への出張ということになっている。
クラナガンから200キロ以上離れたフロンティア航空基地(我々の世界で言うと静岡県の浜松にある)は緊急スクランブルしても六課と数分遅くなる。
またCAP任務(武装して上空待機。有事の際は即座に迎撃する役どころ)に就く小隊も、今後経験の浅い2期生が多くなる。そこで六課にサジタリ
ウス小隊を無期限で試験的に置き、その防衛力を計るという名目だった。
そのために明日には各種武装と小隊付きの数名の整備員が陸路でやってくる予定だ。バルキリーや彼らのためにも格納庫は空けなければならな
かった。

「わかった。・・・・・・よいしょっと。さくらに天城、行くぞ」

振り返ると天城が

「うぃーす」

などと返事を返しながら荷物を持ち上げており、さくらも重たい荷物にフラフラしながらやってきた。

「世話になるな」

アルトに続いて後ろからも

「よろしくお願いします!」

という2人の声が聞こえる。なのははそんな3人に笑顔を作ると、


8 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:17:05.69 ID:cEkElWXP

「うん。六課にようこそ」

と迎えた。

(*)

その日は軽く部隊員達に挨拶してまわると、各自にあてがわれた部屋で死んだように熟睡した。

(*)

次の日

アルトはメサイアのアラームで目を覚ました。
午前5時。
空はほんのり明るく、チュン、チュン≠ニいう鳥のさえずりも心地よい。
彼は身支度を済ますと、昨日さくらと約束した集合場所、ロビーへと向かう。

「おはようございます。アルト隊長」

すでに待っていたさくらが敬礼する。
聞くと(アルトに比べて)あまり寝てなかったという。だが

「あこがれのなのはさんの教導が受けられるなんて・・・・・・」

と、その顔は天にも登らんと輝いていた。
しかしなのはから教導されていた時期のあるアルトは一言

「まぁ・・・頑張れよ」

とだけ言った。

(*)

外に出ると昨日は暗くてわからなかったが、六課の施設には変化が数多くあった。
まず地面には芝生で偽装された大きな装甲シャッターがいくつか埋設されていた。

「なんでしょうか?」

さくらがシャッターを指さす。

「避難用のシェルター・・・・・・か?」

しかしそれにしてはたくさんあったし、大きかった。
歩いているとそのうち1つが建造中だったために、その恐ろしい正体がわかった。

「み、ミサイルファランクスVLS(垂直発射機)・・・」

そこにはずん、とまさに地面に埋設されんとするミサイルランチャーがクレーンの先に居座っていた。
ミサイルCIWSシステム(ミサイル型の近接防衛火器システム。多数の誘導弾を斉射して物量で敵を迎撃するシステム)だとすると、大きさから考え
て瞬間発射能力は10を下らないだろう。また格納式のため再装填も自在だろうと思われる。


9 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:21:55.06 ID:cEkElWXP
それがここから確認出来るだけでも5基あった。
どうやら自分のいた頃に計画された自動迎撃システム計画は現在も進んでいるらしい。
敷地の端には全方位バリアであるリパーシブ・シールド発生用の中継機も確認できる。
また逆に昔はあった電線が今確認できないため、大型反応炉もすでに埋設されているかもしれない。
一定レベルの自活自営機能を備え、強力な自衛装備を施した基地。人はそれを─────

「六課ってすごい要塞≠ネんですね・・・・・・」

アルトは、さくらのセリフに苦笑いするしかことしかできなかった。

(*)

「おはよう。2人とも」

訓練場についた2人を教導官の制服を着たなのはが迎えた。

「おはようございます!高町教官!」

さくらがビシッ≠チと敬礼する。

「うん。でもさくらちゃん、表向きには私はあなたの教官じゃないし、いつも通りなのはさん≠チて呼んでいいよ」

「は、はい。なのはさん」

言い直すさくらを横目に、アルトは話を進める。

「それで訓練は何をするんだ? バルキリーを使うなら持って来なきゃいかんが・・・・・・」

「私の教導にはバルキリーは使わないよ。さくらちゃんは十分使いこなしてるみたいだから教える事はないし、第一、こんな朝早くにエンジンを回した
ら近所の人に怒られちゃうよ」

六課の隊舎のある場所は開発が進んだ埋立地から1kmの連絡橋を隔てた海上に位置する。そしてその埋め立て地は立地条件がいいため、民家
が多くなっていた。

「それもそうだが・・・・・・ならどうするんだ?」

「うん。わたしね、アルトくんのところのシミュレーターを何回かやってわかったの」

なのははこの3カ月、技研と基地にお忍びでやって来て、シミュレーターで遊び─────もとい、研究していた。

「このシステムの凄さが」

彼女は言うと、彼女は首に掛けた宝石に願う。

「レイジングハート、セットアップ」

『OK,set up.』

辺りに一瞬桜色の光が包み、2人は目が眩む。そして光が収まったとき、そこにはいつものなのははいなかった。


10 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:27:10.60 ID:cEkElWXP

身長は2メートル以上になり、その鋼鉄の掌(てのひら)は人の頭ほどもある。
人を熊と対等以上に戦わせることができ、飛行することも可能なパワードスーツ、EXギアがあった。
それはヘッドギアをひょい≠ニ上に上げると、着た者の顔をのぞかせた。
あれからよほど練習したらしい。その挙動に無駄やためらいはなかった。

「EXギア、すごいよね。これさえあればバトロイドなんてへっちゃらなんだから」

EXギアシステムは2050年頃開発され、最近になってやっと制式化されてきた技術体型だ。
これはVFとのインターフェイスの改良及び標準装備化による脱出時のサバイバビリティ(生存性)の向上を主眼に開発された。
空を最大時速500キロで飛び、地上でも舗装されていれば時速55キロで走行できる。
また、もっとも特徴的なのがガウォーク・バトロイド形態の時のインターフェイス機能だ。これによって操縦者はバルキリーを着ている♀エ覚で操
縦できる。
つまりEXギア単体でダンスが踊れるならば、まったく同じことがバルキリーでもほとんど練習なしでできるのだ。

「私が教えるのは魔導士の機動法。つまり人型の機動法。だからこのEXギアで練習してできるならバルキリーでもそのままできるはず。さすがに
可変を加えるとどうなるかわからないけど、そこは─────」

なのはは2人にウィンクする。

「なんとか自分逹で昇華してね」

「はい!頑張ります!」

さくらは再び敬礼した。

(*)

「さて、早速始めようか。まずEXギアに着替えてみて」

なのはに促され、さくらは首から提げたペンダントを取り出す。
それの先には大きく翼を広げた鳥が象られており、それが彼女のデバイスだった。
さくらはそれを掲げると同時に宣言した。

「『アスカ』セット、アップ!」

すると彼女をなのはより白に近い桜色の光が包む。これが彼女の本来の魔力光だ。
普段バルキリーや陸士によく見られる青白い魔力光は、MMリアクター(疑似リンカーコア)や量産型カートリッジ弾などに封入される人工的に作る
魔力の共通の魔力光だった。(本当に青白い魔力光を持つのはバルキリー隊ではアルトだけ)
なお、封入される魔力は99、999%ほど魔力炉より抽出後、人のリンカーコアで作られた本物の魔力を混ぜたものだ。現在人間を介さずに機械だ
けで完璧な魔力を生成する技術は開発されていない。
さて、眩い桜吹雪が晴れた時、そこには長大なライフルを両腕でしっかり保持したさくらのEXギア姿があった。
このライフルは第97管理外世界の『M82 バーレット』と呼ばれるアンチ・マテリアル(対物)ライフルを元にしていて、EXギアに合わせるために寸
法がすべて約1、5倍に拡大されている。この改修によって全長が1メートルを越え、口径が15mmになったので大容量カートリッジ弾をそのまま撃
つという怪&ィライフルに変貌していた。
無論その重みは元が12キロなので想像を絶する重さ(約3倍程度)になっているが、EXギア用の兵器としてはは普通の重さと言えた。

「それじゃまずはさくらちゃんの実力が知りたいから、これを撃ち落としてみて」

なのはは直径10センチ程の魔力球を生成して見せ、海上へと誘導する。


11 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:33:34.65 ID:cEkElWXP

「・・・・・・あ、そうそう、デバイスの補助は受けちゃダメだからね」

さくらは少し苦い顔をしたが、黙ってマーキングされた射撃位置につく。そうしてテストが始まった。
まずは止まった目標。距離は500メートル。
さくらはライフルの銃床をEXギアの肩部装甲板にあてると、空中に浮いた魔力球を狙いすまし、引き金を引いた。
重い発砲音とともにマズルブレーキから飛び出た空の大容量カートリッジ弾は彼女の思い描いた通りの軌跡を描き、見事500メートル先の魔力球
を貫いた。

「うん。さすがフェイトちゃんを追いつめただけのことはある」

なのはが感想を述べる。EXギアはその大きさから、通常操縦者の1.2倍ほどの動きをトレース(真似)するため、生身の人間よりはるかに精密作業
に向かない。
しかし狙撃という作業は、ほんの数ミクロのブレですら着弾位置が余裕でセンチやメートル単位でずれてしまう。
さくらはこの最悪の組み合わせであれに当てたのだ。まさに天性の素質と言えよう。

「じゃあ次はちょっと近くなるけど、横に動く目標」

なのはの説明通り、今度は距離が100メートル程の所に魔力球が静止した。
そのまま秒読みに入る。

「3、2、1・・・・・・!」

ゆっくりと右に動き出す魔力球。追う銃口。しかしそうして満を持し、発砲されたカートリッジ弾は外れてしまった。

「!?」

さくらが声にならない叫びを放つ。

「あれ、どうしたのかなぁ?」

「す、すみません・・・・・・もう一度お願いします」

なのはは頷くと再び秒読みする。
さくらは『次は外せない!』と地面に片膝をつけ、より安定した狙撃モードに入った。
そして動き出した魔力球に、彼女の必中の願いを込めたカートリッジ弾が放たれる。しかしそれは先ほどの再現映像でも見ているように掠りもしな
かった。

「的が・・・・・・そんなはずは!」

納得できないさくらは等速直線運動を続けるそれに第2、第3射を放つが結果は同じだった。
目の前の光景にさくらは茫然としてしまう。
アルトも直感的に何か違うものを感じていた。初回もふくめてすべての弾道は正確だったはずだ。

(なのに全部外れただと?)
その時なのはが堪え切れなくなったように笑いだし、その理由を告げた。

「さくらちゃん、避けないとは言ってないよ。狙撃専門のくせにそんなことも気付かなかったの?」

「え・・・・・・だってなのはさんそんなこと・・・・・・」

「さくらちゃんはまっすぐなんだねぇ。私がそんな風に実力と真面目さだけでこの地位まで登ってきたって思ってるの?」


12 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:39:46.75 ID:cEkElWXP
「ち、違うんですか?」

そんなさくらの様子になのはは彼女を嘲笑≠キるように笑った。
普段の彼女のイメージからかけ離れたその姿に、さくらはやはり茫然としていた。

(*)

その早朝訓練では

「こんなこともできないの?これでよく今までやって来れたね」

などとボロくそにいびられた≠ウくらはついに魔力球に当てることができないまま終了した。
午前は予定どうり陸上輸送隊からバルキリーの武装を受け取って格納庫に移送したり、整備員の受け入れ作業に終始した。
そして午後、スクランブル待機するアルトとさくらはロビーにいた。
さくらは自販機コーナーからコーヒーを2杯持ってきて、片方をベンチに座るこちらに差し出す。

「サンキュー」

「いえ・・・・・・」

彼女はそう返事すると力なく隣に座り込む。横目で確認してみると、その顔には今朝の元気はなかった。

『憧れのなのはさんが、あんな意地悪≠ネ人だったなんて・・・・・・』

と相当ショックを受けているらしい。
前回自分がその渦中にいたが、今回外部から見るその威力。アルトは内心

(やっぱりアイツの十八番が来たか・・・・・・!)

と戦(おのの)いていた。
これは彼女の上級教導術だ。こうして教官自身が卑怯で意地悪な行動をすることで

「教導官は正しい。正義だ」

と思っている狂信者に幻滅感を持たせる。
また、狂信者でなくともモラルを持った人間は

「あんな奴なんかに負けるか!見返して見せる!!」

と事情を知る誰かから知らぬ間に誘導されて更に真剣に取り組むようになり、成長が早くなるのだ。
普段と違いすぎるためすぐに演技と見破れそうなものだが、訓練期間の異常な精神状態ではそれがマヒしてしまう。そのためさくらなどの素人だけ
でなく、演技を本職としたアルトでさえその期間はまったく感知できなくなってしまうのだ。
これは彼女が短期間で優秀な人材を育てるために編み出した教導のノウハウであり、自らの『優しいいい人』という社会的知名度を逆手にとった彼
女の最重要機密だった。
彼女の教導を受けた者のほとんどはこの洗礼を受けており、自分も最初の1カ月間にこれを浴びていた。
また、彼女の教導を絶賛する者は大抵この洗礼を受けきった者逹だ。この教導の素晴らしいところは、最後には誤解が解け、共に歩んで行こうとい
う気持ちになれることだった。
そのため卒業生はみんながみんな彼女を慕い、なのはが一声かければ仕事を放り出してでも集まって来てくれるだろう。(俗になのは軍団≠ニい
う卒業生から構成された非公式の団体が存在したりする)



13 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:49:33.79 ID:cEkElWXP
ちなみに、六課の前線メンバーの4人には行われていないらしい。
なのはが言うには

「4人は他の生徒と違って若すぎる。それに1年間たっぷり時間があるから、絶対無理しないでいいように、ゆっくりで丁寧に教えてあげたい」

のだそうだ。

(まったく、アイツらが羨ましいぜ・・・・・・)

さくらの元気が無いという重い雰囲気の中そんなことを思っていると、点いていたロビーのテレビのニュース放送が速報の電子音を鳴らす。

──────────

『─────速報です。第6管理外世界において発生した恒星間戦争は開戦から今日で2ヶ月目に入りました。第6管理外世界は時空管理局・本
局が次元航行船の造船を全面委任している世界で、管理局では対応が協議されていました。
それが今日、どうやらなんらかの動きがあったようです。今、時空管理局・本局支部の伊藤記者と中継が繋がっています。・・・・・・伊藤さん?』

キャスターの呼びかけにカメラが跳び、急いで中継を繋げたのだろう。荒い画質の人影を映し出した。彼の後ろには大中小多数の艦艇がひしめき
合っている。

『─────はい、こちらは本局が艦隊拠点を置く次元空間内の停泊場です』

「こちらから見た所これと言って変化はないようですが・・・・・・何があったかわかりますか?」

『─────はい。実はつい1時間前にそこに・・・・・・あー、映せますか?・・・・・・はい。えーと、あそこ≠ノ接舷されていた廃艦予定だったL級巡
察艦と、他9隻の高速艇が艦隊を組んで第6管理外世界へのホットラインルートに乗ったことが確認されました』

「理由はわかりますか?」

『─────いえ。本局は未だ出撃の理由は明らかにしていません。しかしそのL級巡察艦にはアルカンシェル≠積み込んだ形跡はなく、高速
艇にも本格的な宙間戦闘ができるような武装を装備する設備は存在しません』

「?それはつまり、武装はしていないということですか?」

『─────確定はできませんが、極めて破壊的な装備はなかったものと思われます』

「なるほど、わかりました。また新たな情報が入り次第伝えてください」

『─────はい』

その一言を最後にカメラがスタジオに戻った。

「このニュースは続報が入り次第速報としてお伝えします。・・・・・・次に内閣支持率が20か月連続で60%を超えている現、浜本内閣について─────」

──────────

実はこの本局の動きにはアルトや六課も一枚噛んでいた。
なんと言っても本局の要請と彼女*{人の自由意思により、いやいやながらも送り出したのは彼らなのだから。

「元気で帰って来いよ」

14 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/17(火) 23:59:00.16 ID:cEkElWXP
アルトはその友人へ想いを乗せて呟いた。
時を同じくして第6管理外世界への直通ルートに乗ったL級巡察艦内で、緑の髪をした少女が可愛くくしゃみをしたとかなんとか。

「どうしました?」

どうやらさくらに聞こえてしまったらしい。

「何でもない」

と返すと、少し冷えてしまったコーヒーで喉を潤した。
すると不意に俯いていた彼女がこちらに向き直る。

「アルト隊長・・・・・・私ってなのはさんに嫌われてるんでしょうか?突然頼んでしまいましたし、やっぱり怒ってるんでしょうか・・・・・・私はどうした
ら・・・・・・!」

さくらの問いに無表情を保っていたが、内心

(来た来た!)

と叫んでいた。
実はこれとほぼ同じ問いをアルトもしたことがあった。相手は当時同僚だったヴァイスだ。
その時彼の答えはこうだった。

「さぁな。俺になのはさんの好き嫌いなんてわかんねぇよ。んだがな、嫌いなら訓練なんてやってくれたりしねぇって。それに1つだけ言えることがあ
る。『諦めないで頑張ること』だ。俺達も全力でバックアップしてやる。きっと上手くいくから、いつもみたいに最後まで飛んでみせな!」

そのヴァイスのセリフと押してくれた背中にどれだけの活力をもらった事か・・・・・・
推測するところでは、聞かれたらそのような要点のセリフを答えることが彼女の教導の伝統なのだろう。

そして世代は自分へ。

アルトはその時輝いて見えたヴァイスの姿を脳裏に思い出しつつ、満を持してそのセリフを吐いた。

「さぁな、俺にはわかんねぇよ。だがなさくら、嫌いなら訓練なんてやってくれたりしないだろうよ。それに俺も、天城だってついてる。諦めないで頑張
ればきっと上手くいくと思うぜ」

(ちょっとキザだったかな?)

言ってからちょっと後悔して自らのセリフを省みたが、さくらの表情には生気が戻っていく。

「そうですね・・・・・・はい!頑張ってみます!」

その顔にはもう暗いオーラはなかった。

(*)

その日はスクランブルもなく、六課のフォワード4人組に対する訓練は中断されることなく続いた。

15 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/18(水) 00:03:07.78 ID:8n4/RKEI

(*)

1645時 訓練場

その時刻になると、なのはは笛を鳴らした。

「みんな集合〜!」

なのはの呼び掛けに、それぞれの訓練に散っていた4人が彼女の元に集まる。
ティアナはなのはとの訓練のため、ほとんど動かなくて済んだが、他は違う。
スバルはフロントアタッカー≠ニ呼ばれるポジションの訓練のためにヴィータと組んでおり、エリオとキャロもフェイトと訓練に取り組んでいた。
そしてなのはは集まった4人に告げる。

「はい、みんなお疲れ様。今日の訓練はここまでとし、このまま解散します」

そのセリフを聞いた4人に戸惑いが走る。
しかしその事≠ノ関しての説明がないようなので、ティアナは4人の代表として手を挙げた。

「どうしたの?」

「はい。みんな疑問に思ってると思うんですけど、まだ6時じゃないですよね?」

六課の訓練は原則夕方6時までとなっており、延びたことはあってもいままで(出動以外で)早く終わったことはなかった。

「うん、それはね、私の個人的都合≠ナ1時間繰り上げることになったの。・・・・・・ああ、でも心配しないで。その分午前の訓練時間を伸ばすから。今後この時間割が3週間ぐらい続くから、そのつもりでね」

周囲の教官逹も了解している所をみると、どうやらなのはの個人的都合≠ニやらはよほど重要であるらしい。ティアナ達はそれ以上詮索せず、言
われた通りに解散した。

(*)

4人がいなくなってすぐ、さくらとアルトがやってきた。

「こんにちは。さくらちゃん、よく来る気になったね?」

笑顔を保ちながらさくらに言うと、彼女の表情が少し陰った。
自分で編み出しておいて何なんだが、正直この方法が好きではなかった。
周囲がいくら十八番≠ニ絶賛しようと、そして後で和解できるとしても、人の痛みを知っている自分としては人を傷つけたり貶(けな)すような言動は
したくないと考えていた。
しかし信念を曲げてまでも自分には彼ら生徒を育てる義務があった。

(はぁ・・・・・・「悪魔」でもいいけど、きっと「嫌な人」って軽蔑されてるんだろうなぁ・・・・・・)

なのはは内心気落ちする。しかし気づくと、さくらの目は真っ直ぐこちらを見据えていた。そして彼女は言い放つ。

「なのはさん。私、負けません。きっとあなたと同じ高みに登ってみせます!」

その言葉のどこにも迷いはなかった。


16 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/18(水) 00:06:53.36 ID:8n4/RKEI
「うん、やる気があることはいい事だよ。でも、これを落としてから言おうね」

手のひらに魔力球を生成して、手のひらで弄(もてあそ)んでみせる。

「はい!頑張ります!」

こちらの嫌みったらしい口調にもさくらは気落ちした様子を見せず、テキパキとEXギアに換装して位置についた。
なのはは初めての反応に驚いていた。この訓練ノウハウを確立、採用してから3年。今までいろんな生徒を見てきた。そのなかにはさくらのような者
もいた。
分類としては挫けず頑張れる≠ニいう生徒だ。しかしこのような生徒も大抵立ち直るのに1日はかかる。それに尊敬している≠ニいうスパイスが
効いているさくらなら2〜3日は立ち直れないはずだ。
無論なのははその期間を無駄にせず、基本練習をやればいいと考えていた。

(さすがアルトくんってことなのかな?)

聞けば有名な歌舞伎の跡取りというし、その演技力もすごいものだとフェイトやはやてから伝え聞いている。
今回さくらの心理誘導を彼に頼んだ覚えはない。しかし内心そうしてもらおうと考えていたので、鋭敏な彼の「望まれている自分センサー」に引っ掛
かってそう演じてしまったのかもしれない。

「さすがアルトくん・・・・・・侮れない・・・・・・」

「?」

実は自分がされてカッコよかったことを真似したかっただけというしょーもない真相はともかく、訓練が開始された。

「・・・・・・それじゃ、今朝のテストの続きだね。あの魔力球を撃ち落として」

「了か─────」

さくらの返事が終わるか終わらないうちに魔力球を動き出させる。しかし彼女は慌てなかった。
さっとライフルを肩に当てると、立て続けに3発のカートリッジ弾を撃ち出した。
しかしそれが魔力球に当たる事はなかった。
それは魔力球が避けたのではない。さくらがそのカートリッジ弾に託した任務が違ったのだ。
まず1発目が魔力球の行く手の海面に着弾。水飛沫をあげた。海水は魔力素の結合を脆くしてしまうため、レイジングハートに自動操縦された魔力
球は反対側に退避しようとする。
しかし更にその行く手に2発目が着弾し、またも水飛沫が阻む。
3発目も同じ手だろうと判断したレイジングハートは、水飛沫など届かないぐらいに上昇をかけた。
だがさくらのカートリッジ弾は予想に反して魔力球の上を通り過ぎていく。
これをレイジングハートは人間によくある「未来位置予測の失敗」と判断して通常の機動に戻ろうとした時、カートリッジ弾が自爆≠オた。

「実弾!?」

その間も大容量カートリッジ弾という縛りから解き放たれた魔力が爆発的に炎熱変換され、火球を形成。魔力球を襲う。
レイジングハートは爆心から最短の離脱コースを設定する。しかしそれは爆心の反対側、つまりなのは逹の方だった。
その魔力球の機動はさくらにはただの点に見える機動だっただろう。


唸るライフル


次の瞬間には魔力球の中心をカートリッジ弾が見事射抜いていた。

17 :マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/05/18(水) 00:08:56.23 ID:8n4/RKEI

(*)

『Mission complete.(作戦完了)』

首に掛かったレイジングハートはそう告げると、さくらの足下にあった射撃ポイントのマーキングを消した。
彼女は精密照準器付きのヘッドギアを外すと、こちらを窺ってくる。
気付くとそんなさくらに素の笑顔を見せてしまっていた。


以上投下終了です。
うわ・・・見直せば見直すほどミスが出てくる・・・・・・orz
駄文ですみません。ありがとうございました。


18 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/05/18(水) 16:08:17.65 ID:y9pxikYf
新すれ乙です
16時半から
インターミッション的に3レスほどいきます

19 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/18(水) 16:31:54.20 ID:y9pxikYf
 スクライア商会のガレージに、Zは久しぶりに戻ってきていた。
 数日前から違和感はあったのだが、ついにはっきりわかるほどにエンジンに異常が起きている。
 いつもの産業道路で、ユーノを横に乗せて一往復してみたが、Zのエンジンははっきりと息つきの症状を起こしていた。
 キャブの同調を疑ってみたが、3基すべてフロート面もジェットも安定していて特におかしな点は見当たらない。

「やっぱり6000回転あたりに谷があるよ」

「そこを越えると結構回るには回るんだけどね……パワー的にもタレた感じはないし」

 ユーノも唸った。ガレージにはスクライア商会の社長であるコウちゃんも来ている。
 一応ユーノの先輩にあたり、近所なので小さい頃はなのはも遊んでもらったことがある縁だ。

「まーなんのかんの言ってもベースは40年前の車だ、それでこんだけ走りゃ上等だろ」

 S30型のデビューは1969年だ。もはや、旧車どころかクラシックカーといってもいい。
 当時としては高性能スポーツカーだったが、それも昔の話だ。

「レイジングハート、私が迷ってるからだめなのかな……?私がもっとうまくならないと、私を認めてくれないのかな……?」

 なのはは呟く。このZを乗り始めてまだいくらもたっていないが、
その短い間に2回もクラッシュしてしまったのはなのはにとってもかなり悔しいところではある。

「なのはちゃん、気持ちはわかるが、車は所詮キカイだぜ、それ以上でもそれ以下でもねェんだ」

 この辺りはさすがに女の子だな、とコウちゃんは苦笑する。

「まぁとりあえずだな、オレもなのはちゃんの熱意をくんでだ、できる限りは見てやるよ。
アライメントとかも全部自己流だろ?ユーノもなんだかんだでまだ半人前だし、
プロがキッチリ足回りみりゃあ少しはシャキッとするさ」

「すみません、お願いします」

 コウちゃんは今でもバリバリのアフロヘアで見た目はちょっと怖いが頼れる兄貴、といった感じだ。
 実家でまだ暮らしていれば、こんな風に恭也と談笑することもあったのかな、と、なのはは少し思い返していた。

20 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/18(水) 16:36:54.07 ID:y9pxikYf
 一方、リインの方も今まで乗っていた930型ターボを下取りに出し、新たに93年式の964型ターボ3.6をオーダーしていた。
 今までの3.3リッターエンジンでは、もはや悪魔のZと、そして現代の最新チューニングカーと戦うことは厳しい。
 ガレージの社長も最初は迷っていた風だったが、すぐにリインの希望通りの、黒色の964を探してきてくれた。

「こいつはノーマルでも360馬力、トルクは53キロある。前のオーナーもそれほど激しい走りは
してなかったようだから、まずはブーストアップから様子を見ていきたいが」

「それで結構です」

 工場のほかの作業場に入庫しているのは、同じポルシェでもより新しい997型や、より街乗り志向のカレラなどがほとんどだ。

「ですが最終的にはビッグツインターボでしょう。少なくとも600馬力はほしいですね」

 社長はしばらく黙り、気を紛らわすようにいつもかけている茶色のサングラスをいじった。

「悪魔のZに勝つにはまずパワーが必要です」

「……こんなこと言うのもあれなんだが、実は今度、この工場も陸事の認定を取るんだ。
車検整備とか、ディーラーからの仕事ももらってね……意外とこれが大口なんだよ」

「チューニングカーに入れ込むのは世間体的によくない……と?」

 静かな工場は、表の通りから伝わってくるバイパスの流れの騒音と、コンクリートの反響が複雑に混ざり合って
くぐもったように声が伝わりにくい不思議な空間を醸し出している。

「八神ちゃんの気持ちもわかるんだけど、それでももう十分じゃないかな、と……
僕も君たちの車をやれて本当に楽しかったよ、でも、あの頃の仲間はもうみんな走っていないし……
僕はね、あくまでも僕の考えなんだけど」

「わかってます、社長。……急がせてすみませんでした」

 リインは新たなポルシェのキーを受け取り、運転席に乗り込んだ。
 メーカーオプションの本革バケットシートががっちりと身体をホールドする。

「はやてちゃんも、確かもう来年から大学だったよね、僕が今更言えた義理じゃないかもしれないけど、それでもやっぱり──」

「──ありがとうございます。気持ちは受け取っておきます」

 ギアをいれ、道路へ向かって走り出す。
 十分。もうじゅうぶん。そんな言葉は飽きるほど聞いてきた。
 あの頃の仲間はもうみんな走っていない。
 そうだ。もう自分だけだ。残っているのは自分だけだ。

 はやてを悲しませる結末に、いつ自分が遭遇してもおかしくない。
 夜になるたび、生きて明日の朝日を見られないかもしれないという恐怖が襲ってくる。
 走るなら、逃れることはできない。だからみんな去って行った。

 それでも自分がこだわり続けているのはなぜなのか、そして、そう問われてなぜ自分は答えに窮するのか──
 その理由は、それ自体が他人に理解されるものではない。ましてや、家族になど。

21 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/18(水) 16:41:56.01 ID:y9pxikYf
 長引いた収録からフェイトが帰宅したときには、すでに時計は深夜0時を回っていた。
 これからすぐに寝て、また明日は12時からスタジオへ行く。
 テスタを預けている間はどちらにしろ、夜は身体を休める以外なにもすることがない。

 そういえばしばらくチェックしていなかったな、と、1階の集合ポストフロアへ足を向ける。

 まばらに入っているダイレクトメールはすぐにくずかごへ捨て、いちばん下に、筆記体のラテン文字が綴られた封筒が入っていた。

 母からの手紙だった。

 しばらく封筒を手にして見つめ、見慣れたはずの自分の実家の住所を見つめる。

 イタリアの実家を離れ、無理を言って日本へ上京することを、母は何も言わず見送ってくれた。
 今、自分は充実しているだろうか?
 仕事と、遊びと。歌と、声と、そして走り。
 どうして自分は湾岸に魅せられているのだろうか?
 サブカルチャーのメッカである日本で成功する。成功するのは何のためだったのか?
 アルフも言っていた。これから半年の仕事で決まるんだと。
 数多の泡沫アイドルに埋もれることなく、歌手として声優として、自分を売り出していくために何が必要なのか。
 日本でのこの生活は、自分の望んでいた夢だったはずではないのか?

 テスタを駆って湾岸を走っている時だけは、そんな疑問から逃れられる気がしていた。

 だが、それは所詮、逃避でしかなかった。

 あのZに出会ってからだ。
 あの白いZと、それを駆る少女。

 彼女が湾岸を走っている理由は、少なくとも自分のような逃避などではありえない。
 あのZと彼女を知れば、きっと自分の探しているものに出会えるかもしれない。

 もしかしたら、彼女が自分を救ってくれるかもしれない。そうフェイトは思い始めていた。

 家族のしがらみと、母への贖罪の意識。
 親不孝な娘でごめんなさい。ずっと不幸だった母さんだから、幸せにしてあげたい。
 元気づけてあげたい。

 それなのになぜ、自分は湾岸を走りたいと思うのだろう。

 フェイトは詰まる胸をこらえながら、マンションのエレベータに乗り込んだ。

22 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/18(水) 16:47:05.13 ID:y9pxikYf
今日はここまでです

実写版のレイナはなんなんでしょうねアレ(汗)
コウちゃんはキャスティングもすごいハマってました

ちなみに本SSでの海鳴市はだいたい横浜南部あたりをイメージしていただければと

私の別のSSでは愛知県蒲郡市を海鳴のモデルにしてますが
いくらなんでも愛知と東京じゃ離れすぎてる(汗)

23 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/18(水) 17:06:09.33 ID:Uoeb7KPJ
乙乙!

24 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/19(木) 01:06:39.04 ID:+SWQNU8U
>>22
GJでした!
湾岸ミッドナイトを全く知らないにも関わらず、走りに命を懸けるなのはさん達に
全く違和感を感じないのがすごいw

25 : ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/19(木) 18:38:16.30 ID:tKXuwA5H
新スレ乙です。18:45以降に投下させていただきます。

【注意事項】
・悪の組織が百合人気を利用した世界征服を企み、その一環として他ジャンル否定を行ったりし、
なのは達がそれに抗うので作品全体を通してみると百合否定っぽく見えます。
・↑に伴い現状のアニメ界及びヲタを風刺する要素があります
・みんなふざけている様に見えますが、やってる当人達は至極真剣です。
・ディエンドの無駄遣い
・自分の好きなキャラがディエンドに勝手に呼び出されて使役される事に我慢出来ない人には不向き。
・少々オリも出ます



登場作品
・魔法少女リリカルなのはシリーズ
・仮面ライダーディケイド&仮面ライダーBLACK&歴代仮面ライダーシリーズ
・プリキュアシリーズ
・恋姫無双
・ブラック★ロックシューター(ディエンド的意味で)
・ハルヒ(ディエンド的意味で)

26 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/19(木) 18:46:14.44 ID:tKXuwA5H
 17:絶望! 百合生命体編

「さて、戦いも終わったしこれでお開きにするか…。」
「そうだね。皆ありがとうございました。」

 これで戦いも終わったと確信し解散しようとしたのだったが…そこでBLACKがゴルゴムによって
世紀王として改造されるに伴い身に付いた超感覚が不思議な感覚を感じていた。

「ちょっと待て! 何だこのエネルギーの反応は!?」
「どうしたの光太郎さん?」
「何だ何だ?」

 皆の視線がBLACKに集中する中、BLACKの視線は丁度聖王の百合かごの落下地点である
無人の採石場へ向けられていた。

「まだ何かが残っている気がする…。」
「どうせまだ続いているアレの爆発の際に生じたエネルギーを感じただけじゃないのか?」
「もしくは何時ものゴルゴムの仕業〜とか?」

 もう戦いは終わったと考え気が抜けてしまっていた皆は半信半疑であったが、BLACKの目は真剣だった。

「いや違う! 今までの物とは違う全く異質な…。こうはしていられない!」
「光太郎さん!?」
「はわわわわっ…。」

 余程気になるのだろう、BLACKは思わず採石場の方へ駆け出してしまった。これにはなのはやら朱里ちゃんやらも
思わず追い駆けてしまっていたのだったが、ディエンドはその様を首を傾げながら見送っていた。

「やれやれ、まだ何かあるようだね。じゃあ念の為に何人か増員しておこうか。」

 ディエンドは何枚かのカードをディエンドライバーに差し込み、空中へ向けて発射した。

『プリキュアライド! ドリーム!』
「大いなる希望の力! キュアドリーム!」

 ここに来てキュアドリームもディエンドにライドされる形で参戦。筆者がフィギュアーツとして持っていたとは言え
ディケイドがドリームにライド変身する展開やりたかった為にあえて自重されて来たが、もうそれも行われてしまった今では
問題は無い。ちなみに他の四人+その他一名も一緒に出してやれよとか言ってはいけない。

「それだけじゃない。最近になって急遽筆者がフィギュアーツ購入したこの二人もだよ。」
『プリキュアライド! ベリー! パイン!」
「ブルーのハートは希望の印! つみたてフレッシュ! キュアベリー!」
「イエローハートは祈りの印! とれたてフレッシュ! キュアパイン!」

 実はここに来て筆者が今更ベリー&パインのフィギュアーツをも衝動買いした影響で、この二人の参戦も決定したのであった。
しかし、これでフレッシュ組が全員集合となると、ますます一人しか出してもらえないドリームが惨めに…なるなんて言ってはいけない。

『カメンライド! キバ!』
「キバって行くぜ!」

 最後は普通にカメンライドでキバを呼び出していたのだが、これも実はリアルの世界に住む筆者が
Amazonの世界から装着変身版のキバを取り寄せたが故の参戦と言うなんとまあ中途半端な理由であった。

27 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/19(木) 18:47:11.70 ID:tKXuwA5H
「よし。僕達も様子を見に行こう。」
「仮に敵がいたら皆で協力してやっつけるー! 決定ー!」
「だって私、完璧だから。」
「これだけのメンバーが集まったんだから、どんな敵が現れても何とかなるって私、信じてる。」
「キバって行くぜ!(大切な事だから二回言った)」

 こうしてディエンドを先頭にして彼にライドされたライダー及びスーパーヒロインズもまたBLACK達の後を追い走るのだった。


 聖王の百合かごの落下した採石場。もう爆発は収まっていたが彼方此方に焼け焦げ砕けた百合かごの残骸が転がり、
墜落時の爆発で相当な高熱が発せられたのであろう、地面の土等はガラス化し、未だ周囲の空間は焼ける様な暑さとなっていた。

「ふ〜何て暑さだ…。」
「聖王の百合かごだってこの有様だ。もう誰も生き残っていないんじゃないのか?」
「そうだと良いのだが…………。」

 落下地点が無人の採石場だったから良かった物の、もしも町や村に落下していたら相当な大惨事になっていた事は
想像に難くは無い程の爆発だったのである。仮に聖王の百合かごに誰かが残っていたとしても、爆死は確実…と思われたのだが…

「ん!? 何だいあの光は!」
「あっ!」

 なのはの左肩に乗っていたユーノがある方向を指差し、皆がその先に視線を集中させる。するとどうだろうか。
確かにそこにあるのは焼け砕けた聖王の百合かごの残骸が転がるだけ…のはずなのだが、その奥から強烈な光が放たれているのが見えた。

「あれだ! 俺が感じたのはあのエネルギーだ!」
「何!?」
「じゃあアレは…何だ?」
「はわわわわ…。」

 ここで初めてまだ敵が残っている事に気付いたBLACK以外の一同。その次の瞬間だった。その光の発せられた箇所に
転がっていた瓦礫や百合かごの残骸を吹き飛ばし、何かが現出していたのだった。

「何かが出て来た!」
「それより瓦礫がこっちに飛んでくるぞ!」

 強烈な光を発する何者かが現出するに伴い吹き飛ばされた瓦礫や百合かごの残骸が次々になのは達へ襲い掛かる。
これに対しユーノの防御魔法、そしてキュアサンシャインにライド変身したディケイドのサンフラワーイージス等で
防ぎ事無きを得ていたが、一体何者が現れたと言うのだろうか?

「誰かいるぞ!」
「ん!」

 瓦礫を跳ね除けた後、皆の注目する視線の先には…小さな一人の少女が立っていた。

「女の子…? 何故に…。」
「まさかあの子が…? そんな馬鹿な…。」
「しかし…誰かに似ている様な…。」

 少女は全身から光を発しており、まるで神の様な神々しさを放っていた。だが、それと同時に禍々しさも感じられる。
しかし、なのは&ユーノ&クロノの三人にはその姿に見覚えがあった。

28 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/19(木) 18:48:28.34 ID:tKXuwA5H
「アリシア!!」
「フェイトちゃん?」

 仮面ノリダー&めちゃイケライダーマンに預けていたはずのフェイトが何時の間にかに駆け付けて来ており叫んでいた。
そう。彼女がアリシアと叫んだ通り、あの少女はアリシアにそっくり…いや瓜二つだったのである。

「アリシア…アリシアって…確かフェイトちゃんの…。」
「そんな馬鹿な! アリシア=テスタロッサはとっくの昔に亡くなっているはずだ!」

 アリシア=テスタロッサ。ジュエルシード事件の主犯であるプレシア=テスタロッサの実の娘であったのだが、
既に相当昔に幼くして事故で亡くなってしまっている。そして彼女の遺伝子をクローンニングして作られたのがフェイト
と言う事は周知の事実である。だが、その亡くなったはずのアリシアが今目の前に立っていたのだ。

「アリシア! アリシアなの!? 本当にアリシアなの!?」
「落ち着けフェイト! 確かにあれがアリシアに似てるのは同意するが、アリシア=テスタロッサでは無い!
彼女はとっくの昔に亡くなったんだ! 死んだ者はもう二度と生き返らないんだ! あれはアリシアの姿をした別の何者かなんだ!」

 アリシアと瓜二つの少女に駆け寄ろうとするフェイトを慌ててクロノ・ジョーカーが捕まえ抑え付けて
そう説得する。確かに彼の言った通り。死者は二度と生き返らない。故にフェイトには落ち着いて欲しかったのだが…

「なあ士…俺達一度死んで生き返った事あるよな?」
「俺も一度死んだ事あるけどクジラ怪人の命のエキスで蘇生された事がある…。」
「私もイースだった頃にメビウス様から寿命を言い渡されて死んだ後でキュアパッションになったんだけど…。」
「しかしなぁ…キュアムーンライトの親父とか妖精みたいに死にっぱなしの奴もいるし…ここはあえて突っ込まない方が良さそうだ…。」

 死者は絶対に生き返らないと言うのは『リリカルなのはの世界』における価値観であるが、
仮面ライダーの皆様に関してはそうでは無かったりする。何しろ『ライダー大戦の世界』において
激情態となったディケイドのライダー狩りによってディエンドを除くその時点で活動していた全てのライダーが
殺されてしまったし、ディケイド自身も彼を止める為に新たに光夏海が変身したキバーラによって命を奪われている。
そしてそのディケイドの死によって全てがリセットされて消滅しようとしていた全ライダーの世界は元に戻り、
それに伴い全ライダーは復活。ディケイドもその後の一悶着後に復活した。

 仮面ライダーBLACKもシャドームーンとの戦いで一度死亡していたのだが、ゴルゴム怪人の中で
例外的にBLACKとの友好関係を築く事の出来たクジラ怪人が持つ命のエキスによってそれまでの
数倍パワーアップした状態で蘇ると言う事をやらかしていた。

 キュアパッションも、まだラビリンス幹部のイースだった際に幾度もの作戦失敗の罰として
当時のラビリンス総統メビウスから寿命を言い渡され、キュアピーチとの最後の一騎打ちの後に寿命が来て
死亡したのだが、その後でアカルンに見出されてキュアパッションとして再生していた。

 とまあこんな感じで他の世界では死者が蘇る事も結構起こってたりするのだが…
だからと言って誰でもホイホイと生き返れるわけでは無く、キュアムーンライトの父親とか妖精コロンとかみたく
奇跡の復活とか無しで死んだら死にっぱなしの奴もいるんで、ここはクロノの顔を立ててあえてその辺は突っ込まない様にしていた。

「アリシア…じゃ…ないの…?」
「当たり前だろ! アリシアはもう昔に死んだんだ! あれは恐らくこちらを動揺させる為の罠だ!」
「そう…か………。」

 クロノ・ジョーカーに諭されフェイトも何とか落ち着かせていたのだが、その後で謎の少女は口を開いていた。

29 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/19(木) 18:50:12.56 ID:tKXuwA5H
「私の名はユリシア。来たるべき百合世紀の為に作り出された百合生命体だよ。」
「ユリシア!?」
「それに百合生命体って…まさか………。」

 ディケイド&なのは&ユーノは百合神博士ことユリデビルが死に際に言っていた言葉を思い出した。
百合生命体…あの少女が百合神博士の言っていた百合生命体と言うのか?

「そうか…お前が爺さんの言っていた百合生命体とやらか…。」
「アリシアと百合をかけてユリシア…と言う事か…。あの子がアリシアの姿を取ってたのは洒落的意味でしかないみたいだね。」
「どういう事だ?」

 これに関してはディケイド&なのは&ユーノを除く皆はちんぷんかんぷんだった。無理も無い。
その三人でさえ百合神博士の口から出た言葉を聞くまでその存在を知らなかったのだ。
だが、百合神博士が倒れる間際に残した台詞が気になる所となっていた。

「そう言えば爺さんは言っていたな…百合生命体は完成した…我々の勝利だ…と…。」
「あの子がその百合生命体として…完成した時点で勝利なんて…。」
「つまり、あの子がそれだけの力を持っているって事でしょ?」
「確かに見た目はただの小さい少女に見えるが…その内からは凄まじいエネルギーを感じる。」

 百合生命体ユリシア。アリシア=テスタロッサと瓜二つのその姿は見た目だけならとても力があるとは思えない
普通の小さい少女にしか見えない。しかし、先程の瓦礫や百合かごの残骸を吹き飛ばした力やBLACKが感じた
凄まじいエネルギー等、かなりの力を持っている事が予想された。

「見た目は女の子でも加減して戦える相手じゃないって事だな。」

 ディケイドはライドブッカー・ソードモードを構え、それに合わせる様に皆もそれぞれ戦闘体勢を取っていた。
だが皆その場から動かない。相手の能力が読めない以上下手に飛び出すのは危険だと誰もが考えていたからである。
ただ一人を除いては………

「アリシアを……アリシアを汚さないでぇぇぇぇ!!」
「フェイトちゃん!?」
「落ち着け! 不用意に飛び出すな!」

 何と言う事か、フェイトはバルディッシュを握りユリシアへ向けて猛烈な速度で突っ込んでいたのである。
百合生命体ことユリシアがアリシアと瓜二つの姿を取っている事が、アリシア=テスタロッサへの侮辱、冒涜と
受け取っていたのである。なのはとクロノ・ジョーカーが慌ててフェイトを止めようと追うが、ことスピードに関しては
フェイトに勝るべくも無く、追い付けなかった。

「うああああああ!!」

 アリシアを汚された怒りからか完全に頭に血が上っていたフェイトはバルディッシュを力一杯百合生命体ユリシアへ
振り下ろしていたが……次の瞬間、逆にユリシアによって片手で弾き飛ばされ山の向こうの空遠くへ吹っ飛んで行きお空の星になった。

30 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/19(木) 18:51:35.10 ID:tKXuwA5H
「あぁぁぁぁぁ!」
「フェイトちゃん!」
「俺となのはの二人がかりをあれだけ手こずらせたフェイト=T=ハラオウンを一撃で……冗談じゃないぞ…。」

 百合ショッカーもフェイトの人気と実力は見逃せず、人々(百合厨)の支持を得る為に洗脳し首領として祭り上げていたのは
言うまでも無く、さらにはなのはとディケイドの二人がかりを相当に苦戦させたのは記憶に新しい。しかし、そんなフェイトすら
一発でお空の星にしてしまう程の力を百合生命体ユリシアは誇っていた。

「あ〜あ〜、大人しく百合ショッカー首領のままでいれば良かったのにね。でもまあ今日からは私が新首領になって
百合ショッカーを立て直すんだけどね。」
「百合ショッカーの主要なメンバーはもう俺達が全員片付けたぞ。後に残った百合厨は烏合の衆だ。
それを率いた所で高が知れるはずだが? たった一人で何が出来ると言うんだ?」

 そう。百合ショッカーの上層部にいた者…つまりシャドームーンや百合神博士等はもう既に倒され
後に残ったのは末端の百合戦闘員や百合怪人、そして百合厨達のみである。単純な数だけなら相当数が
残っていると言えるが、上から仕切る者がいなければ烏合の衆である。しかし、ユリシアはにっこりを笑顔でウィンクしていた。

「大丈夫大丈夫。百合生命体の私さえいれば百合ショッカーは安泰なんだから。」
「それはどういう事……んっ!?」

 ユリシアがウィンクしながら軽く指を鳴らした時だった。突如として瓦礫や百合かごの残骸が吹き飛び、
百合かごと運命を共にして死んだと思われていた百合怪人や百合戦闘員が現れていたのである。

「ユリー! ユリー!」
「ゲゲル! ゲゲル!」
「何だと!?」
「奴等あの中で生きていた…いや蘇ったのか!?」

 百合怪人や百合戦闘員はユリシアの周囲に集結し、跪いた。だがそれだけでは無かった。

「うあぁぁぁ!! 淫獣はゲゲルしろー!!」
「淫獣に股開いた中古・オブ・中古・ビッチ・オブ・ビッチもゲゲルしろー!!」
「え!?」
「こいつ等またやる気か!?」

 何と言う事か、散り散りになって立ち去ったはずの百合厨達が再び戻って来て木刀や釘バットを振り回し
なのは達へ襲い掛かって来ていたのである。しかし、今までの百合厨とは目の色も気合の入り様も違う。
まるで何かに強制的に凶暴化させられている様な…そんな雰囲気が感じられた。

「ウフフフ。これが私の力だよ。私は百合厨を活性化させ操る事が出来るの。勿論あらゆる世界の…ね。
今頃他の世界でも大騒ぎになってるんじゃないかな〜?」

 百合生命体ユリシアは笑いながらそう説明する。ユリシア個人としても凄まじい力を持ちながら
さらに百合厨を活性化させ操る事が出来ると言う。死んだはずの百合怪人や百合戦闘員が蘇ったのも
解散したはずの百合厨達が再び徒党を組み、しかも以前より凶暴化して襲って来たのも彼女の力による物だった。

 そして…他の世界においても……

31 : ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/19(木) 18:53:22.38 ID:tKXuwA5H
終わりの始まりと言う所で次回に続きます。

32 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:33:53.60 ID:QN09hbQ6
スレ立て&皆様投下乙です
フェイトさん…………勢いよく吹き飛ばされてしまいましたか
ディケイド達は敵の陰謀を止められるのか、楽しみですね。


そしてこの後21時45分より、地獄の四兄弟最新話の投下予告をします
長らくお待たせしまい、申し訳ありません

33 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:44:31.58 ID:QN09hbQ6
そろそろ時間ですので、投下を開始します



世界は、とても暗かった。
光なんて一片も差し込まず、冷たい。
夜の暗闇よりも、遙かに暗い。
目前の物すら、まともに見えない。
立っているだけで、発狂してしまいそうな漆黒だった。
無限に広がる闇の中を、エリオはたった一人で歩いている。
普通ならば、このような所にいれば不安などの感情が芽生えるかもしれない。
しかし、彼は何も感じなかった。
一切の光が見えてこない、闇の世界。
永遠に抜け出す事の出来ない、地獄。
いくら足掻こうとしても、最後には竹篦返しを喰らう。
彼には、不思議と見覚えがあった。
幼少時代、モンディアル家の子息として生まれたエリオ。
しかしそれは長く続かず、崩壊が訪れた。
両親から裏切られ、暗いどん底に突き落とされる。
保身のため、紛い物として生み出された自分は切り捨てられた。
そして、一切の尊厳を奪われる。



それでも、光は差し込んできた。
自分と同じように、信じてきた親から見捨てられた人。
あの人は自分に、生きるきっかけを与えてくれた。
数え切れないほどの希望も。
本当の親のように、自分と向き合ってくれた。
同じような境遇を味わった、友達も。
一緒に道を歩いてくれる、大切な人達も。
多くの事を教えてくれた、尊敬する人達も。
全て、あの人のおかげで見つける事が出来た。




でも、自分はそれを裏切った。
長い間共に過ごしてきた友達を、理不尽に殴って。
あの子の悲しい瞳を見て。
相棒から向けられた怒りの瞳を見て。
大切な人から失望されるのが怖くて。
みんなから否定される事が怖くて。
あの子を傷つけた。
言い逃れの出来ない、最低の所為。
許されるわけがない。
だから、逃げ出した。
光から目を背けるように、闇の中へと。
とても暗い世界で、地べたを這い蹲って。
自分が今まで目指してきた道から、踏み外した。
それでも、悪い気はしない。
ここにいれば、何からも否定される事はないから。
闇は、全てを飲み込む。
だから、誰にも見つける事は出来ない。
ここには、自分を受け入れてくれる人がいる。
もしかしたら、ここは自分にとって本当の居場所ではないのか。
明るくて暖かい光ではなく、冷たくて暗い闇の中。




34 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:47:16.56 ID:QN09hbQ6

そう考えれば、何も怖くはない。
これが本当の自分。
考えてみれば、幼い頃から暗闇に浸かってきた。
なら、今更闇の中に堕ちたところで悔やむ事はない。
本来の姿に、戻るだけだ。
全てから見捨てられた、あの頃のように。
エリオはただ、闇の中を歩いていた。
先の道はまるで見えない。
でも、怖いと思わなかった。
このまま歩けば、会える。
自分と同じように、闇の中を生きる人達を。

「よう、待っていたぜ」

そんな中、声が聞こえた。
こんな自分を『弟』と呼んでくれる、闇の中で生きる人達の。
エリオは振り向く。
するとすぐに見つけた。
別の次元からやって来た闇に生きる二人の男、影山瞬と神代剣を。

「やっぱりここはいいよな、深い深い闇の中は……」

影山は薄ら寒い笑みを浮かべていた。
兄と慕う男にいつも向けている、不気味な笑みを。
普通なら薄気味悪さを感じるかもしれない。
でも、慣れてしまったのかエリオは特に何も感じなかった。

「我が弟よ、ここが俺達の居場所なんだ……」

剣も不敵に笑っている。
影山とは対照的に、まだ何処か暖かみが残っていた。
それでも、光を感じ取る事は出来ない。
まるで、壊れているように見えて。
その笑顔の奥に、闇が潜んでいるような気がして。

「あれ……?」

そんな中、エリオは違和感を覚える。
一番の人が、ここにいない事。
自分を闇の世界に連れてきてくれた人。
ワームから救ってくれた人。
ザビーの力をくれた人。
この二人が兄と慕う人。

「あの、矢車さんは……?」

矢車想がいない。
一番闇を知っていて、一番闇を見てきていたあの人が。
地べたに這い蹲ってこそ、見える光がある事を教えてくれた人が。
ここにいない。

「兄貴は、ここにいないね」

当然の言葉を、影山は返す。
粘り着くような笑顔を保ったまま。
しかし、エリオはそれに違和感を覚える。
まるで目の前の影山が、影山じゃないような気がして。

35 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:49:49.62 ID:QN09hbQ6

「でも、別にいいじゃないか」

そして、もう一つ。
剣にも疑問を感じた。
矢車がいないのに、笑顔を浮かべたままなのを見て。
エリオは違和感を覚えてしまう。
まるで目の前の剣が、剣じゃないような気がして。

「えっ……?」

無意識のうちに、エリオは後退ってしまう。
ここにいる二人が、まるで二人の顔をした別人のように見えたから。
一歩、また一歩と彼らは歩みを進めた。

「だって、お前はここで永遠の闇に沈むのだから」
「だって、君はここで永遠の闇に沈むのだから」

その言葉と共に、彼らの身体が変わる。
人であったはずの外見は、一気に異形の物へ。
影山は昆虫の蛹を思わせる緑色の怪物に。
剣は蠍とよく似た巨体が銀色に輝く化け物に。
一瞬の内に、変貌した。
ワームと呼ばれる、人の皮を被った忌むべき怪物に。
ネイティブワームとスコルピオワームは、爪を掲げた。

「あっ……あ………!」

それを見て、エリオは愕然とした表情を浮かべる。
同時に、確信した。
自分は騙されていた事を。
自分は闇に堕ちても尚、裏切られる運命である事を。
嗚呼、どん底にいても周りには誰もいないのか。
誰からも必要とされないのか。
暗闇からも、拒絶されてしまうのか。
じゃあ、どこに行けばいい。
どこにも行かず、朽ち果てろと言うのか。

(兄弟)

後退る中、闇の中から声が響く。
この世界に誘い込んだ、男の声が。
闇のすばらしさを教えてくれた、男の声が。
二人が兄と慕う、男の声が。
ワームから助けてくれた、男の声が。

(お前、やっぱり面白いな)

いつか闇の中で聞いた言葉。
彼の姿は見えないのに、聞こえてくる。
まるで、すぐ隣から囁いてくるかのように。
見えないのに、とても近くに感じた。

36 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:50:48.27 ID:QN09hbQ6

(裏切りってのはな、最高の暗闇だ)

その直後、影山と剣が闇に飲み込まれる。
彼らが見えなくなるまで、それほどの時間は必要なかった。
瞬く間に、エリオは一人になる。
暗闇の中で、ひとりぼっちになって。
それでも不安とかは、感じなかった。
この暗闇が、まるで自分の事を分かってくれているような気がして。
真っ黒な闇に、どんどん自分を包んでいく気がして。
流れる闇の中に、エリオは身を任せていた。



10  



夕暮れによって、空は赤みを増している。
吹きつける風は、冷たくなっていた。
周辺には、草木の匂いを感じる。
肌寒さを感じて、エリオの意識は覚醒した。

「う………んっ」

呻き声を漏らしながら、瞳を開ける。
辺りを見渡すと、木々が並ぶのが見えた。
既に見慣れた物となっている、鬱蒼と生い茂る森。

「あれ……何で?」

目覚めた直後、エリオの中で疑問が芽生える。
何故、自分はこんな所にいるのか。
川岸に現れた怪人、ライオンファンガイアとの戦いに負けて、川に突き落とされたはず。
それで何とか土手にまで上がったが、意識を落とした。
なのに、どうしてこんな所にいる。

「やっと起きたか」

疑問が広がる中、声が聞こえた。
振り向くと、岩の上に座っている矢車がいる。
彼の姿を見て、エリオは起きあがった。

「矢車さん……!」
「随分と寝ていたな」

矢車は相変わらず、無愛想な表情を浮かべている。
いつもの見慣れた顔を見て、エリオは確信した。
あれから、矢車が自分をここまで連れてきたと。
また、この人に助けられてしまった。
初めてザビーゼクターを貰った、あの日のように。

37 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:52:52.33 ID:QN09hbQ6

「あの、さっき戦ったあいつは……」
「逃げられた」

エリオの疑問を、矢車は鼻を鳴らしながらあっさりと遮った。
いかにも不機嫌を示すように。
すると、彼らの間に重い空気が流れて、沈黙が広がった。
日頃見せる事がない、矢車の苛立ち。
それを見て、エリオは自然に口を閉ざしてしまう。
敗北が悔しかったのか。
四人で戦ったのに、結局は負ける。

「……あっ!」

その直後、彼は思い出した。
先程の戦いで、起こった出来事を。
突然、敵であるはずのワームとなった影山と剣。
そして、矢車に攻撃を仕掛けた。

「矢車さん、ちょっといいですか」

数時間前の戦いが脳裏に蘇る中、エリオは詰め寄る。
その瞳に、確かな怒りを込めながら。
しかし矢車は、それを刺されても一切動じていない。

「影山さんと神代さんの事ですけど……!」
「ワームだった……それがどうした?」

そして、あっさりと言い放った。
それが当たり前であると、言うかのように。
エリオはそれを聞いて、表情が驚愕に染まった。

「知ってたんですか……!?」
「ああ」
「それじゃあ、あなたはワームだった二人と、今までずっと一緒にいたんですか!?」
「だから何だ?」

怒鳴るように問いただすが、あっさりと返される。
矢車は一言喋るたびに、うんざりしたように顔を顰めた。
それを見て、エリオの身体はわなわなと震える。

「あなた達は今まで、ずっと僕を騙してたんですね……」

矢車は何も答えない。
相変わらず無表情を保ったままだった。
そこに何が込められているのか、エリオには分からない。
しかしそれでも、言わずにはいられなかった。
ワームという怪物を庇ってきた男への、怒りを込めて。

「まさか、二人は知らないところで、誰かを襲って……」
「違うッ!」

だが、エリオの言葉は遮られた。
これまでとは異なり、感情的な否定によって。
すると、矢車は振り向く。
今まで見た事もないような、複雑な表情を浮かべていた。
怒っているようにも、悲しんでいるようにも、後悔しているようにも、嘲笑っているようにも見える。
普段の彼からは想像出来ない顔を見て、エリオの口は止まった。
一方で矢車は、睨むような瞳を弟に向けている。

38 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:54:56.51 ID:QN09hbQ6

「笑ったな……お前、あいつらが偽物だって笑ったな?」
「なっ……!?」
「そうだ……俺達は所詮、光を求めたって竹篦返しを喰らうんだ……なら、笑えよ?」

そして、彼はいつものように笑った。
この世の全てから見捨てられ、どん底に追いやられた悲しみ。
いくら光を求めても、闇に堕ちたからにはもう二度と帰ってこれない。
自嘲するようないつもの笑顔。
見慣れた筈の顔だが、エリオはそれを素直に見る事が出来なかった。
偽物。
矢車の言葉を聞いた事によって、エリオの怒りが沈んでいく。
むしろ、悲しみが沸き上がっていた。
人間の皮を被った異形、ワーム。
本物ではない紛い物。
それは決して、他人事ではなかった。

「笑えませんよ……」

先程までとは打って変わって、エリオは弱々しく呟く。
自分自身、ただの人間ではないのだから。
誰かの肉体と記憶を複製コピーして、クローン人間を生み出すプロジェクトFと呼ばれる技術。
不意に、忌むべき自分自身の正体をエリオは思い出した。

「僕だって……ワームと同じような偽物なんですから」
「何?」
「この世界には、プロジェクトFっていう誰かのクローンを作る技術があるんです。僕は、それで生まれた『エリオ・モンディアル』の偽物なんですよ」

特に感情を込めることなく、淡々と言い放つ。
彼の顔を見て、矢車は笑うのを止めた。
それに構うことなく、エリオは言葉を続ける。

「でも、そんな事はこの世界じゃ許されないんです。僕は結局、僕を生み出した両親によって見捨てられましたね……一度は、助けられましたけど」

彼は全てを告白した。
それで何かになるわけではないのに。
それで何かが変わるわけではないのに。
でも、言わずにはいられなかった。
何故なのかは、エリオ自身でも分からない。
憎むべき筈のワームに、共感してしまったからなのか。
影山と剣の事を、知ってしまったからなのか。
答えは見つからない。
一方で矢車は、黙り込んでいた。
しかし、ほんの少しだけ驚いている。
新しく弟にした奴が、二人と似たような存在であった事に。
その事実は彼でさえも、驚愕させるには充分だった。

「作り物の身体に、作り物の記憶か……」
「そういう事になりますね」

しばらく経って、矢車は納得したように呟く。
それにエリオは静かに頷いた。
本物の命ではなく、歪んだ技術による贋作。
だから、ワームである二人を侮蔑する資格など無い。

39 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 21:56:08.96 ID:QN09hbQ6

「やっぱりお前も、闇を見てきたんだな」

矢車は初めて出会った時から、エリオの闇を感じ取っていた。
自分を信じた者を裏切ってしまった罪悪感。
人の皮を被ったワームからもたらされた絶望感。
光を浴びる事に対して持ってしまった恐怖感。
今まで自分で築いてきた物を自分で壊してしまった虚無感。
自身を生み出した者に対する嫌悪感。
闇から抜け出しても、結局は堕ちる運命にあるのか。
生まれは違っても、似たような境遇にいる。
だからこそ、エリオに興味を持ったのか。
矢車はそんな事を考える。

「……そういえば言ってませんでしたね、僕の事」

不意に、エリオは呟いた。
自分の正体を言っていないのも、当然の結果。
そもそも聞かれなかったし、特に言う理由も無かった。
しかしそれでも、彼の中では罪悪感が芽生えている。

「考えてみれば、騙してたのは僕も同じですね……ごめんなさい、二人の事を悪く言って」
「そうか」

そして、弱々しく謝罪した。
二人がワームである事を隠してたのと同じように、自分もクローン人間である事を隠す。
違いなど何一つ無い。
結局、自分もワームと同類だった事だ。
矢車は一言返しただけで、後は何も答えない。
責めるつもりはないのだろうが、逆にそれが辛かった。
何よりも今は、影山と剣に会いたい。
会って、話がしたかった。

「僕、二人を探してきます」
「何?」
「影山さんと神代さんと、話がしたいんです!」

エリオは思いを伝えると、矢車から背を向けて走る。
ワームである影山と剣に会うため。
彼らにも、自分の事を伝えるために。
鍛えられた彼の足は、木々の間を一瞬で駆け抜けていった。
そして、エリオの姿は一瞬で見えなくなる。

「チッ……!」

舌を打ちながら、矢車も走り出した。
闇に堕ちても尚、妙な熱意を持つエリオを追うために。
そして弟たちを探すために。
あの白峰という男は、どうにも胡散臭い部分がある。
弟たちを探すとは言うが、信じても良いのか。
しかしまずは、エリオを追う事。
奴は意外と足が速いから、力を抜くと見失いかねない。
そう思いながら、矢車は速度を上げた。



40 :一尉:2011/05/19(木) 21:57:42.49 ID:ZBUYHIT9
支援

41 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:00:16.39 ID:QN09hbQ6




時間が流れ、一日の残りは既に六時間を切っている。
太陽の光は完全に消えて、夜の暗闇が空を支配していた。
しかし、天に昇る月と星の光は見えない。
夜空を厚い雲が覆っていたため。
電灯といった人工的な光が、闇の世界を照らしている。
そんな中で、一人の少年が笑みを浮かべながら夜空を飛んでいた。
バリアジャケットを展開して、その手に長い槍を模したアームドデバイス、ストラーダを構えて。

「おっ、いたいた!」

そして見つけた。
自分のオリジナルとも呼べるプロジェクト・Fの産物。
エリオ・モンディアルが、人気のない薄暗い道を走っていた。
そこから少し離れた位置では、同胞のワーム達が待ちかまえている。
獲物を捕らえる為に。
赤い毛を揺らしながら飛ぶ、彼の目的はただ一つ。
本物に絶望を植え付けてから、潰す事。
ターゲットを見つけた彼は邪悪な笑みを浮かべながら、急降下を始めた。

「さあて……エリオ・モンディアル。君を闇に突き落としてあげるよ!」




闇に覆われた道の中を、エリオは走る。
何処かに消えてしまった、影山と剣を見つけるために。
あれから、先程戦いが起こった川岸を再び訪れ、付近を捜索。
しかし、見つかる気配はなかった。
ワームどころか、人っ子一人の気配もない。
矢車達と行動するようになってからは常日頃、人のいない道を通っていた。
当然かもしれないが、都合が良い。
もしも二人が町に行ってたら、パニックになる。
そうなったら、管理局に狙われるに違いない。
でも、見つけるのが遅れたらどうなるか。
走るエリオから、若干の焦りが生まれていく。


その最中、闇の中より複数の気配が、唐突に感じられた。


エリオの敏感な聴覚は、それらを一瞬で気づく。
すると彼は、足を止めて辺りを見渡した。
響く足音に続いて、殺気もあちこちから放たれるのを感じる。
直後、闇の中より見慣れた怪物が現れた。
皮膚が薄気味悪い緑色に染まった、サリスワーム。
十匹を超える数で、群れを成していた。

「ワーム!」

ワーム達を見たエリオは、反射的に左腕を翳す。
そんな彼の元に、夜空の中からザビーゼクターが飛来してきた。
軌道を描きながら飛んでくるそれを、エリオは掴む。
そしていつものように、ザビーゼクターをライダーブレスに填め込みながら、言葉を紡いだ。

42 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:04:25.89 ID:QN09hbQ6
「変身!」
『Hensin』

電子音声が発せられた瞬間、タキオン粒子が手首より吹き出す。
それは一瞬で金属片に変わり、エリオの全身を包んだ。
彼の変身は、一瞬の内に終わる。
一秒も経たない内に、エリオの身体は重厚な鎧に覆われていた。
辺りを灯す微かな光に、銀色の装甲が照らされる。
仮面ライダーザビーへの変身を終わると同時に、エリオは走り出した。

「やあっ!」

一瞬でサリスワームの目前にまで接近し、拳を放つ。
胸部に凄まじい衝撃が伝わって、巨体が揺れた。
その隙に、ハイキックを脇腹に叩き込んで、吹き飛ばす。
足が着くのと同時にザビーは、別のワームへ振り向いた。
相手は鋭い爪を振り下ろしているが、左に回ってそれを回避。
続くように、ザビーはジャブを振るう。
異形の足元は、8トンの重量に耐えきれずに数歩蹌踉めいた。
ザビーはそれで止まらない。
彼は周囲を囲むサリスワーム達に、打撃を放ち続けた。

「キャストオフ!」
『Cast Off』

異形が倒れた隙を付いて、ザビーは左手首を反対側の手で添える。
ブレスレットに装着されたゼクターを、180度回転させた。
蜂を模した機械から、電子音声と稲妻が迸る。
すると堅牢な鎧は、勢いよく弾き飛ばされていき、サリスワーム達に激突。

『Change Wasp』

闇夜の中で、脱皮を果たしたザビーの瞳が煌めく。
ライダーフォームの形態を告げる声と共に、彼は再び駆けだした。
ようやく起きあがったサリスワーム達は、腕を振るう。
しかし一発たりとも、ザビーに当てる事は出来ない。
軽快な動きと、強化された視覚を駆使して全て避けていた。
加えて、エリオは元々卓越した身体能力を誇る。
故に、彼にとってサリスワームの攻撃などまるで脅威にならなかった。

「おりゃあっ!」

ザビーはまた一度、鋭い蹴りを放つ。
するとサリスワームの巨体が、6トンの重量によって宙に舞った。
素早い攻撃によって、異形達は地面に倒れる。



43 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:07:38.92 ID:QN09hbQ6

「ライダースティング!」
『Rider Sting』

ザビーゼクターのフルスロットルを押し込んだ。
叫びと共に、蜂の内部から膨大なタキオン粒子が吹き出す。
一方で、サリスワーム達は起きあがって襲いかかろうとしていた。
しかしザビーは、集団に向かって走り出す。
そのまま、左腕を敵の胴体に叩き付けた。
一匹だけでなく、次々と。
するとザビーゼクターの先端より、タキオン粒子がサリスワーム達に流れ込む。
やがて最後の一匹に、ライダースティングが放たれた。
異形の皮膚に亀裂が走り出し、勢いよく電流が迸る。
それを合図とするように、サリスワーム達の肉体は次々と爆発した。
緑色の炎が、メラメラと燃え上がっていく。
そんな中、空気を切り裂くような鋭い音が聞こえた。
同時に、上空から迫り来る殺気。
ザビーはそれらを察して、横に飛んだ。

「ッ!?」

直後、彼のいた地点に一閃の刃が流れる。
身体を一回転しながら、ザビーは襲撃者に振り向いた。
その瞬間、仮面の下で愕然とした表情を浮かべる。

「なっ…………!?」
「へえ、流石だねえ。エリオ・モンディアル」

目の前に立つ者の姿が、到底信じられない。
理解は出来ても、納得が出来なかった。
赤く染まった頭髪とジャケット、風に棚引く白いマント。
その手には、異様な大きさを誇る槍が握られていた。
青い瞳からは、侮蔑の目線が感じられる。

「まあ、これくらいじゃないと拍子抜けだけど!」

見覚えがあるどころではない。
同じだった。
自分自身の姿と。
相棒であるストラーダを起動させて、バリアジャケットを身に纏ったエリオ・モンディアルの姿と。
かつての自分自身、そのものだった。

「お前はっ…………!?」
「ああ、そういえば名乗ってなかったっけ? 僕はエリオ・モンディアル、よろしく!」

エリオと名乗った彼は、嘲笑うかのように名乗る。
そのまま、ストラーダを一閃させた。
呆然と立ちつくすザビーの胸が、横一文字に斬られる。
自分に酷似した人物が現れた事で、彼の身体は動く事を失念していた。
ザビーブレストに傷が刻まれ、勢いよく火花が飛び散る。
激痛が中にいる装着者にも伝わり、体勢が蹌踉めいた。
しかし、それで止まる事はない。
目の前にいるエリオは、力強くストラーダを振るい続けた。
ザビーの胸に、脇腹に、両腕に、次々と傷が生まれる。
彼は刃を避けようとするが、相手はそれを許さない。
エリオの速度が、尋常ではなかった為。

44 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:11:30.03 ID:QN09hbQ6

「くっ!」
「遅いよっ!」

ザビーは反撃の拳を打ち出す。
しかしエリオはそれを軽々と避け、逆に反撃の一閃を繰り出した。
するとザビーの身体は、衝撃によって吹き飛ばされる。
そのまま地面に倒れるのを見て、エリオは勢いよく跳躍する。
ザビーは何とか立ち上がって、空を見上げた。

「一閃必中――!」

金属が弾かれる音が、二度響く。
魔力の塊である、カートリッジが消費される音。
するとストラーダの刃より、大量の電流が迸った。
掛け声と構え。
全てを、ザビーはよく知っている。
魔導師として戦っていた頃、幾度となく使ってきた技への動作。
それをあいつは、今からやろうとしている――――!?

「メッサーアングリフッ!」

答えは、瞬時に帰ってきた。
空に浮かんだエリオは、弾丸の如く勢いで突撃を開始する。
重力をも利用した事によって、速度は徐々に上昇。
やはりそれは同じだった。
かつての自分が、修行と戦いの末に会得した技、メッサーアングリフと。
ストラーダの矛先は、ザビーに容赦なく叩き込まれた。

「あああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

仮面の下から、中にいるエリオの絶叫が発せられる。
激突による衝撃と、魔力で構成された電流が全身に流れたため。
アーマーの至る所から爆発を起こし、肉体に激痛が伝わる。
そのまま、ザビーは背中から勢いよく、固い壁に叩き付けられた。
鈍い音と共に、コンクリートが人型に凹んでいく。
ザビーは滑り落ちるように崩れるも、意識は失ってはいなかった。
サリスワーム達との戦いの疲労、そしてエリオから与えられた膨大なダメージ。
それでもザビーの変身は、何とか保っていた。
しかし、それも時間の問題だと、身体の節々から伝わる痛みが教えている。
全身の神経が苦痛に支配される中、敵が目前にまで迫っていた。

「やれやれ、これじゃあちっとも面白くないなぁ」
「君は一体……何なんだ!?」
「だから言ったじゃないか。僕はエリオ・モンディアルだって」

エリオはストラーダの矛先を、倒れたザビーに向ける。
その表情は、自分が作るとは思えないほど、侮蔑で染まっていた。



45 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:15:19.78 ID:QN09hbQ6

「まあ、それが分かったところで、君が死ぬ事には変わりないけどね!」
「ぐっ……!」
「そうだ、せっかくだから見ると良いよ! 君の相棒を!」

嘲笑う声によって、ザビーは視線を移す。
今まで、何度も一緒に危機を乗り越えてきたデバイス、ストラーダ。
エリオに握られた彼は、点滅する。

「ストラーダ……?」
『実に不甲斐ない姿だな』
「えっ…………!?」

帰ってきたのは、蔑むような言葉だった。

『こんな奴がマスターだったとは……まったく、あまりにも不快だった』
「ストラーダ、一体何を言って…………!?」
『名前を呼ぶな、虫酸が走る』

長い間付き合った彼から続くのは、とても想像できない暴言。
それを聞いて、ザビーは仮面の下で呆然とした表情を浮かべてしまう。

『お前のような負け犬など、もうマスターなどではない。私は、このエリオ・モンディアルをマスターと認めている』
「それってどういう――――!?」
『まだ分からないのか? 劣化コピーが…………お前は自分の愚考を他者に攻められるのを恐れて、私の元から逃げ出した』
「それは違っ……!」
『何が違うというのだ? 崇高なる管理局の理念に反して、お前は姿を消した。その間、私はたった一人で取り残された』

ストラーダから吐かれる言葉は、未だに刃物のように鋭利だった。
一言一言が、ザビーの心に容赦なく突き刺さる。
相棒の言葉が、嘘だと信じたかった。
しかし発せられる光が、それを真実であると証明する。

「だからこの僕が、屑みたいな君の変わりにストラーダと一緒に戦ってあげたんだよ?」

不意に、エリオの顔がザビーの視界に入り込む。

「本当に可哀想だったよ、君みたいな駄目な奴と一緒にいるストラーダ。それにフェイトさんやキャロ達も」
「フェイトさんやキャロ…………!?」
「僕が管理局に現れた時、みんな本当に泣いていたなぁ! そして心の底から、嬉しそうな顔をしてたよ!」
「なっ……!? どういう事だ!」
「言葉の通りだよ! 君の居場所なんて、もう何処にもないんだよ!」

ザビーの声は、いつの間にか狼狽に染まっていた。
奴が言った言葉の意味。
それは自分が消えた間に、自分の位置に居座っている。
しかも、ストラーダまで奪った。
納得など、出来るわけがない。



46 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:21:00.36 ID:QN09hbQ6
「ふざけるなっ!」
「ふざけてるのは君の方だろ? 君は逃げ出してみんなを悲しませた、僕はそれを埋めてあげた
むしろ君は、僕に感謝しなきゃいけない立場のはずだよ? 
それともアレかな、君は僕達の仲間をたくさん殺してきたから、それでチャラになるとでも思ったのかい?
まあ、人々の影で暗躍する秘密のヒーローを演じていた君から見てみれば、チャラになる程の偉業かもしれないけど!」

エリオはザビーの怒号を遮りながら、ハッと鼻で笑う。
そのまま彼は、ストラーダの方に視線を向けた。

「君も本当に気の毒だったね、ストラーダ」
『全く持ってその通りです。この男は人々を守る英雄という仮面に酔いしれて、その実本当にするべき事は何も見えていなかった……』
「僕は、そんな事一度も思ってない!」

ザビーは必死に頭を横に振って、否定する。
しかしその仮面の下で、エリオの表情は歪んでいた。
不安と怯え。
その影響なのか、声も震えている。
ザビーが抵抗しようとする度に、エリオは足に込める力を強くして暴れるのを押さえた。

「やれやれ、最後に残った自分の存在意義を否定されたからって、怒らないで欲しいな!
君って奴は現実も分からないのかい? まあ、だからこそあんな簡単に逃げ出せたのかもしれないけど」
「そ、それは…………」
「にしても、君の自己満足は本当に凄いよ。帰る場所にも帰らないで好き勝手にする
その挙げ句に、正義の味方を気取ってるなんてね!」

青い瞳の中にどす黒い闇が潜ませながら、饒舌に語る。
呪詛の如く不吉な言葉が、次々とザビーの耳に入っていった。
その度に仮面の下で、歯がカチカチと震える。
聞いてはいけない。いや、聞きたくなんかない。
しかし、無情にも彼の意志は叶わなかった。

「まあ君のおかげで、僕は正義の味方になる事が出来たんだけどさ」
「えっ……?」
「僕は管理局に教えてあげたんだよ。『僕に擬態したワームがどこかにいる』……って」

あまりにも唐突すぎて、それでいて衝撃的な一言が発せられる。

「今の君はね、エリオ・モンディアルに擬態したワームなんだよ!」
「ぼ、僕が…………ワーム!?」
「ああそうさ! 今頃管理局は躍起になって君の事を殺そうとしているだろうね!
フェイトさんやキャロ、シグナム副隊長達だって! わかるかい、君はただの化け物なんだよ!
それを僕が始末して、僕は英雄として祭り上げられる! 君はその為の踏み台なのさ!」



47 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:27:39.63 ID:QN09hbQ6
その言葉が、トドメとなった。
ザビーの。いや、エリオ・モンディアルが今まで培ってきた物が、全て崩れ落ちるような感覚がした。
絶望の底から救ってくれた、フェイトさんとの出会い。
いつも隣にいたキャロとの思い出。
シグナム副隊長との修行。
機動六課や、それからの日々。
それらはもう、僕の物ではない。
目の前にいるワームの所有物。
だとすると、僕に残っている者は何なのか。
何もない。
もしかしたらあの日から、全てが無くなっていたのかもしれない。
考えてみたら、当然の結果だ。
この世界に現れたワームが、僕に擬態して管理局に忍び込む。
こんな当たり前の事に、何故気づかなかったのか。
僕に残った最後の存在意義。
それはエリオ・モンディアルを英雄に仕立て上げる事。
だったらこうなっても仕方ない。
だったらもう消えたって良い。
だったら生きていたくない。
みんなから、化け物と呼ばれたくなんかない。
そんな汚名を被るくらいなら、せめて少しでも名をあげた方がいいや。

「まあ、お喋りはこの辺でいいかな」

エリオは、ザビーの脇腹を楽しげに蹴る。
威力はワームが誇る筋力の影響で、その身体は勢いよく転がっていった。
しかしザビーは、受け身を取ろうとしない。
いや、する気力が沸き上がらなかった。
この世界で僕は、知らない間にワームとされている。
そしてストラーダも、完全に僕を見限った。
もう何もない。何も残っていない。
だったら、これ以上生きたって何も得られるわけがない。

――だって、お前はここで永遠の闇に沈むのだから
――だって、君はここで永遠の闇に沈むのだから

ふと、ザビーの中で夢の中で聞いた影山と剣の言葉が蘇る。
ああそうか。
あれは正夢だったのか。
永遠の暗闇に沈む運命にある事を、予言していたのか。
だったら、もういいや。
ここであの人達が言ってたように、本当の闇に堕ちてしまえばいいんだ。

「じゃ、とっとと死ねよ」

エリオは両手に握ったストラーダを、高く掲げた。
あれで僕は粉々に砕かれる。
ストラーダに殺されるのだったら、ある意味では本望かなぁ。
それなら変に悪あがきしないで、このまま黙ってよう。
仮面の下で、エリオは空虚な瞳でもう一人のエリオとストラーダを見つめた。
避ける気も、避ける気も、立ち上がる気なんてもうない。
このまま、闇の中に沈むのを待てばいい。
厚みを持つストラーダの刃が、ザビーに沈み込むまであと一秒――
そのはずだった。

48 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/05/19(木) 22:38:45.04 ID:QN09hbQ6

「「!?」」

突如、金属同士が激突する鋭い音が、両者の耳に響く。
その直後、ストラーダの動きが止まった。
彼らの間に、一つの影が乱入した事によって。

「や、矢車さん……?」

ザビーはぽかんと口を開いた。
目の前に立つ背中が、彼にとって見覚えがあった為。
頭部から生えた三本の角、全身に彩られる緑色、両肩から伸びる突起。
それはワーム達に殺されそうになったあの日、ザビーの力を手に入れてない彼を救った男の背中。
矢車想の――――。
否。

「貴様ぁ…………俺の兄弟を笑ったな?」

仮面ライダーキックホッパーの背中が、ザビーの目前で存在していた。



以上で、久々の投下完了です
2年近く更新を止めてしまい申し訳ありませんでした。
こんなペースですが、四兄弟本編の完結の目処は立っております。
今後とも、よろしくお願いします。

そして今更ながら、リリカルなのはクロス作品バトルロワイヤル完結おめでとうございます。
職人の皆様、お疲れ様でした。
素敵な作品を、ありがとうございます。
そして、死者スレで地獄の四兄弟のネタも使ってくれて、心からありがとうございました。

49 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 00:38:26.06 ID:SK5kbIwp
4兄弟氏乙!!

50 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 20:47:00.63 ID:hZ3O8lI5
どうもですー
21:00からいきます
今回はちょっと長めです

51 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:01:37.46 ID:hZ3O8lI5
 学園都市の片隅にある貸し倉庫を、スカリエッティは臨時のチューニングガレージにしていた。
 使い古した工具を引っ張り出し、ほこりだらけのガレージの中に、薄汚れた建物には不似合いな車が入れられている。

 フェラーリ・テスタロッサ。

 リヤカウルが外され、パイプフレームシャーシとエンジン、リヤサスペンションメンバーがむき出しになっている。

 この日の夜、フェイトはアルフのGT-Rで送ってもらい、テスタの仕上がりを見に来ていた。

「ずいぶん気が早いんだね、お嬢さん。そんなに急ぎの用なのかね?」

 身を乗り出してテスタのエンジンをいじりながらスカリエッティが言う。

「ええ……。私には、時間がないんです」

「まあ待っていたまえ。すぐに未知のパワーを味あわせてやるよ」

 新しく交換した大容量インジェクターを12気筒分取り付け、各パイピングを繋ぎなおす。
 実際のところ、フェラーリのエンジンというものは工場出荷状態ですでに高度なチューニングがされた状態でもあるため、
 あえて内部をいじることはあまりない。日本車のエンジンでは必須なバランスどりやポート研磨なども、最初から行われている。
 今回行ったのは、ハイリフトカムへの交換とそれに対応したコンピュータの書き換えだ。
 これだけでも、ノーマルからプラス100馬力の上積みが期待できる。

「レブリミットは」

「ノーマル6800rpmから、8000までは回せるね。もちろんナラシはしてくれよ」

「わかってます」

 アルフがこの場にいたら怒るだろうな、と思いつつ、フェイトは疑問を口にした。

「スカリエッティさん……どうして何も言わないんですか?自分で言うのもなんですが、
私みたいな若い子どもが、ポンと1000万円持ってきたことに口を挟まないのは……」

 くくく、とこの夜何度目かの含み笑いを漏らし、スカリエッティはトルクレンチをゆらゆらとかざしながら言った。

「私としては客の素性には興味がないのでね。君がどんな手段でその金を用意したかに興味はないのだよ。
興味があるのは自分のつくる車を乗りこなしてくれるかどうかだけさ」

「…………」

「例の……木村のオヤジに私のことを聞いてきたんだろう?私が車をつくってやるのは、死んでも構わないような、
死んだほうがいいようなろくでなしだけさ。人生を引きかえにするほどのカネをかけて車をつくり、
それで一晩走ってそれだけで死ぬ、そういう人種がいるんだよ、この世の中にはね」

52 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:06:27.44 ID:hZ3O8lI5
 しばらく黙り、その辺に転がっていたオイルの空き缶の埃を払ってから腰かけ、スカリエッティの作業を見つめる。
 電装系を繋ぎなおせばあとはエンジンをかけるだけだ。

「まずは様子見……ですか?まだ全然本気のチューンじゃあないですよね」

「わかるかね、やはり」

「少しは……最終目標は何馬力くらいですか?」

「そうだね。こいつの場合、シリンダーボアを87ミリまで拡げて排気量は5.4リッターまで可能だ。
鍛造ピストンで圧縮比を12まで上げ、それにハイリフトカムを組み合わせる」

「今回組み込んだものとは別の?」

「とりあえず現状を見なければならんからね。最適なカムプロフィールをキメてから発注をかける。
最後にもう一度全バラシして動弁系と各部メタルを強化品へ交換する。
エンジンの状態次第だが、600馬力はくだらないよ」

 片側ずつ、リヤカウルをねじ止めして元通りに取り付けていく。
 外観が市販車であっても、フェラーリの車体構造は他の多くの一般乗用車が採用するスチールモノコックではない。
 クロームモリブデン鋼材のパイプフレームにアルミとFRPを被せただけの、真のレーシングカーだ。

 日本製チューンドであっても、市販車両を購入して改造する限りは基本として、ノーマルのモノコックボディを使う。
 ロールケージを取り付けていてもそれは単なる見た目だけのものだったり、
直接車体構造の強化に寄与しない乗員保護目的のものであったり。
 ロールケージによる剛性確保が必要なレベルまでチューンされた車というのはほんのひとにぎりだ。

 そう、ほんのひとにぎり。

 車に限らず、どんな業界であってもトップに立てるのはほんのひとにぎりの人間だけだ。
 自分のいる芸能界、アニメ業界でも、そしてこれから踏み込もうとしている走り屋の世界でも。

 そのひとにぎりの人間になれることを夢見て、人は高みを目指す。

 振り返れば、かつての自分と同じように、これから登ってこようとしている人間が見える。
 追いかけてくる後進がいる。いつか、夢を追う立場から夢に追われる立場になる。
 追いつかれてしまったら、そのときが、自分の終わりの時だ。尽きるのは夢だけではない。夢を見るための命が尽きてしまう。

 すでに自分は一歩を踏み出してしまった。もう、立ち止まるわけにはいかない。

53 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:11:29.60 ID:hZ3O8lI5
 数日もする頃には、湾岸を走るガンメタのフェラーリ・テスタロッサの噂はすっかり広まっていた。
 その噂はもちろん、なのはにも聞こえてきていた。

「やっぱり、行くしかないよね。たとえ何があっても……走ることでしかわからないんだ」

 思えば、名乗りあったわけでも、連絡先を交換し合ったわけでもない。
 それなのに、会える気がした。

 今夜、首都高に行けば、彼女に会える気がしていた。

 なのははガレージからZを出し、首都高へ向け発進させた。
 フロントウインドウには、海鳴の夜景が広がっている。高速に乗ればすぐに首都高だ。

 迷ってはいけない。迷いを見せたら、このZは許してくれない。
 信じて、踏み込む。それだけだ。



 テスタのコクピットでギアの感触を確かめながら、フェイトはナビシートに座る男を見やった。
 いつでも不敵に笑う表情を崩さない。この男もまた、その車が現れることを予感している。

「驚きましたよ、まさか隣に乗ってくるなんて……どうなっても知りませんよ」

「やはり自分のつくった車の走りはきちんと自分で見なければね」

 大パワーに対応するため、クラッチはメタルツインプレートに強化しギアオイルも高耐久のものに変えている。
 明らかに重くなったクラッチペダルをそっと戻し、テスタを発進させる。

 2速のままランプを登り、合流路に入ったところで踏み込んでいく。そのまま8000回転まで引っ張って140km/h。
 3速へ上げ、一般車をかわしながらスラローム、そして5速にいれての高速クルーズ。
 ピークパワーを引き上げながらも、大排気量ならではの中速トルクが失われていない。

 ステアリングを握る手のひらから腕へ、そして胸へ、寒気のような快感が伝わっていくのをフェイトは感じていた。

 まだパーフェクトの仕上がりではないにもかかわらず──

 勝てる。この車ならZに勝てる。
 わきあがってくる熱いものは、闘争心か、それとも、もっと別の恐ろしい何かか。

54 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:17:07.91 ID:hZ3O8lI5
 横羽線を上っていき、平和島を過ぎたあたりで、フェイトは前方を走る小ぶりなシルエットを目に留めた。
 古めかしいテールコンビランプ、白いボディ。
 初めて遭遇した夜、湾岸でちぎられた時のことを忘れてはいない。

「見とれてます?」

「くくく、いいから踏んでいきたまえ」

 悪魔のZ。それをつくったといわれる男、ジェイル・スカリエッティ。
 その男に依頼して自分はこのテスタをつくらせた。
 何百基ものエンジンを組んで悪魔のようなパワーを与え、そしておおぜいの人間の人生を狂わせてきた。
 自分もまた、悪魔にとりつかれてしまうのか。
 でもそれでもいい。いや、そう見えるのは周りの人間だからだ。
 当事者にはわかる。
 こいつはただ純粋なだけなんだ、と。
 Zの走る後姿を見ていると、吸い込まれそうになる。それは悪魔のささやきではない、純粋無垢な命の叫びだ。

「あのテスタ──やっぱりフェイトさんだ」

 なのはも、追い上げてくるヘッドランプの光をバックミラーに見て取っていた。
 速い。以前に見た時とは動きが違う。エンジンの出力が相当上がっている。

 Zは何馬力出ているのだろうか?
 以前にキャブの中を見たときには、インナーベンチュリが取り除かれているのが分かったくらいだった。
 相当な高回転型にセットされているのは間違いないが──

 堀切までは回らず、箱崎からすぐに湾岸へ向かう。
 新木場の右コーナーで、テスタがラインを変えてオーバーテイクの体勢に入った。

「──!」

 パスされる瞬間、目が合った。テスタのナビシートに乗っている男が、Zをじっと見ていた。
 自分を見ている。自分の走りを、そして、自分が乗っている車の走りを見ている。

 大胆にインをカットして前へ出たテスタはさらに加速していく。ここから先、辰巳までは長めの直線が続く。
 すこしでもレーンチェンジが遅れればあっというまにおいていかれてしまう。

 速い。
 本当に、競うとはこういうことだ。

 辰巳ジャンクションより湾岸合流、西行き。決戦は、海の上で。

55 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:24:36.33 ID:hZ3O8lI5
 時間帯が早く、流れる車は荷物の配送を終えて埠頭へ帰るトラックが多い。
 ほぼ第1車線をキープしつつ、Zとテスタは突っ走る。
 東京ビッグサイトを後目に見ながら東京港海底トンネルへ飛び込む。
 テスタのスピードメーターはトンネルの底で315km/hを指し、登りに転じて小刻みに震え始める。

「(──ミッドシップエンジンの宿命か……フロントの手ごたえがかなり薄れている)」

 ただでさえ重量がリア寄りのテスタは、揚力を強く受ける超高速域ではフロントのリフトを抑えきれない。
 登り坂でZが追い上げてくる。

「(こらえろ!)」

 トンネルを飛び出して大井コーナーへ。右車線を維持したまま230km/hで通過。
 ここでZが並んできた。

「すごいパワーですね」

「不満かね?これでも」

「そんなことありませんよ……ただ、あのZがもっとすごいだけです」

 ナンバープレートの数字がはっきり読み取れる距離まで近づく。
 前に出たZのスリップストリームを使い、ぴったりと後ろにつけていく。
 羽田トンネルに入ったら、いったん減速してクーリング走行に移る。
 トンネルを抜けて浮島料金所を越えれば、日本で唯一の超高速ステージ、湾岸神奈川エリアに入る。
 実に全長10キロメートルに及ぶ直線道路だ。

「うれしいですか?こうしてZに会えて」

 スカリエッティは返事をしなかった。もしかしたら、エンジン音にかき消されて聞こえなかったかもしれない。
 フェイトは再び視線を前に据え、道の先へ向かってアクセルを踏み込む。

 静止状態から並んでスタート。
 Zは9000回転まで引っ張ってシフトアップし、ギアチェンジの瞬間にぐいっと頭を出していく。

「そうだ……そうやって走ってくれ」

 フェイトには聞こえた。ひとりごとのつもりで言ったのかもしれないが、
この甲高いフラット12のエンジン音の中でも、Zとなのはに向けたスカリエッティの言葉が聞こえた。

56 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:31:11.27 ID:hZ3O8lI5
 東京湾の埋め立て地、扇島の、巨人のはらわたのような巨大建造物が、闇の中に浮かび上がっている。
 その中を突っ切る神奈川湾岸線、そして、今、そこを走るZとテスタの速度は310km/hを超えている。

 もう横を見る余裕もない。
 ステアリングを握る手は、ほんの1ミリの舵角、ほんの1グラムの荷重さえも感じ取れなければ、車体を制御できない。

「(あのZに……魅せられたものたち……それはつくった本人さえも)」

 東扇島を抜けるあたりからトラックが増え始める。本牧に下りるための列を作って固まっている。

「(いや……すこし違う──それは自分を認めてほしいと思う心──)」

 この男の、不敵なポーカーフェイスの陰にも、隠しきれない欲求がある。
 無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)と呼ばれ、畏れられ、しかしそれをどこかで拒否しようとしていた──
 畏れは、ひとびとが自分を見る目にフィルターをかける──
 自分を、ほんとうの自分を見てくれなくなる──

「(この人も──私と同じ──?)」

 一定間隔で道路端に立てられている照明水銀灯の列が、流れ星のように残光を引いて光の帯になる。

「(悔いがないといえば嘘になる……仕事としては失敗もいいところだった)」

 車体を路面に押し付けるようにしてZが加速する。
 回転の立ち上がりに若干のもたつきがあるが、消耗品を取り換えてオーバーホールすれば直る。
 エンジンそのものは健在だ。

 スカリエッティの金の瞳に、Zのテールランプが焼き付いている。

「(店はツブしたし家族も逃げた──日の当たるところを歩けないと思っていた──
──あのZがまだ走っていると知るまでは)」

「(認められることなんてありえないとわかっているのに──
みんなに迷惑と心配をかけるだけだとわかっているのに──私はこうして走っている──
私がこんなことをしていると知ったら、母さんはきっと悲しむのに──)」

 水平線の彼方に、つばさ橋のきらめきが見えてくる。

「(Z──心からお前に向き合おうとする乗り手に──お前は出会えた──)」

「(たったひとりの観客もいないステージでも──私は歌い続けられるの──?
私は誰のために歌って、誰のために声を演じていたの──?
私はどうして湾岸を走っているの──教えて、テスタ────)」

 高架中央に向かってオフセットされたつばさ橋に、吸い込まれるように風の流れが変わる。
 Zがゆらりと車体を揺らす。前方200メートル、中央車線を走るトラックを右からパスするラインに乗せる。

「(ごめんね──母さん────)」

57 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:39:34.00 ID:hZ3O8lI5
 それは一瞬だった。
 スリップストリームの境界、大気の流れの境界面に触れたテスタは、左後輪をリフトさせてパワースライド状態に陥った。

 前方からトラックが迫り、フェイトはたまらずステアリングを右へ切る。スライドに合わせて左へカウンター。
 Zは左からパスするラインに移っていく。
 距離は60メートル。こちらの速度は290km/h、トラックは速度抑制装置がはたらいていれば90km/h。
 追突でも200km/hもの相対速度になる。

 テスタの右テールが中央分離帯をかすめ、左フロントに激しい衝撃。同時にステアリングから鈍い圧迫が伝わる。

 おそらく、トラックのホイールナットに接触した。
 高速回転する巨大な質量に、テスタの操舵システムは一瞬で破壊されただろう。
 タイロッドが折れたか、キングピンが脱落したか──右へカウンターステアが入ったまま、制御不能。
 スピードメーターの針は280km/hで止まった。前輪が死んだ今、この数値は当てにならない。

 暴れるタイヤがフェンダーに接触する音が聞こえたと同時に、フロンドウインドウには空しか見えなくなった。

「!!」

 トラックを左車線からパスしたなのはの目に、破片をまき散らしながらスピンするテスタの姿が飛び込んできた。

 タイヤをロックさせないよう細心の注意でフルブレーキ。テスタは宙に浮きながら転がり、タイヤで速度を落とせない。
 つまづいても、傷ついても、倒れても、それでも走ることをやめない──どこまでも走ろうとしている。
 いつか、自分とZもこうなってしまうかもしれない──
 それが宿命だったとしても、その刻を迎えるのは自分の意志だ。

「踏ん張ってください!」

 ほとんど動かないステアリングを握りしめ、焼け焦げるオイルと金属の臭いの中で、
かろうじて生きている駆動輪を使ってフェイトはテスタの車体をガードレールにこすりつける。
 いちばん怖いのはキャビンが変形して脱出できなくなることだ。
 横転しないよう、車体を直進状態に保ちつつ速度を殺していく。

 何十秒たっただろうか。
 最終的に左側の路肩に止まって動かなくなったテスタに、なのはが駆け寄ってきた。

「大丈夫──ッ!?フェイトさん──!!」

 名前を呼んでくれた。それが一番最初にフェイトの感情に浮かび上がった。
 笑顔になっている。横のスカリエッティも笑っている。二人とも、車内にあちこちをぶつけて血だらけだが、笑っている。

「くくくっ、生きてるのかね。どうやらあの悪魔は私たちを逃がすつもりはないようだね」

「あはは、生きてるよなんとか!救急車おねがい!」

 呆気にとられるなのはに、フェイトは笑顔で手を差し伸べた。
 いつのまにか、湾岸の空は薄く白み始めていた。


   SERIES 2. テスタロッサの少女 END

58 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:45:46.36 ID:hZ3O8lI5
◆ SERIES 3. モンスターマシン


 湾岸を疾走する一台の黒いポルシェがいた。
 964ターボ3.6。エアロをカレラRS用のレーシングタイプに変え、空力特性と冷却能力を上げている。
 リインは以前の930ターボを下取りに出すにあたって、組み込んでいたパーツはすべて取り外してノーマルに戻した。
 とはいえ、それはパーツを流用するためではない。事実、同じ911型でも930と964には互換性はほとんどない。

 次に乗ることになるオーナーのことを考えて──だ。

 もし次にあの930ターボを購入した何も知らない人間が、あの車のこわさを気づかずにアクシデントを起こしてしまったら──

 リインにとっては、避けられるなら避けたい事態ではあった。

「(やはり964といえどもノーマルでは厳しい──250km/hを超えるともう足が対応しきれない)」

 もともとホイールベースが短く、さらにRRレイアウトを採用するポルシェは、
どちらかというと一発のトップスピードを出すよりも同じペースで走り続ける耐久向きの性格をしている。
 ショートホイールベースによる回頭性の高さは、超高速域での直進安定性を犠牲にする。

「(パワーも足りない……もともと空力的には不利なボディ形状だが──)」

 湾岸線をベイブリッジまで走ってきたとき、見覚えのある赤いR32GT-Rをリインは見つけた。
 以前、Zと走っていた時に遭遇した車だ。

「あの時乗っていたのとは違う──!?あれは……あの男は」

 GT-Rのドライバーもそれに気づいた。ちらりと横目にポルシェを見やり、先導するように前に出る。
 リインもはっきりとその男の顔を思い出していた。

 ジェイル・スカリエッティ。

 悪魔のZをつくった男。そして、かつて悪魔のZのルーツを探していた自分を追い返した男。
 GT-Rは金港ジャンクションから三ツ沢線へ入っていった。リインもポルシェをその後に続ける。

59 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 21:52:39.24 ID:hZ3O8lI5
 常盤台から降りてしばらく走り、GT-Rは郊外の貸し倉庫の前に止まった。

 ガレージの前では、赤みのかった茶髪の女が待っていた。
 以前にスカリエッティを同乗させてこのRをドライブしていた女だ。

「おっそいオッサン、どこまで行ってたんだよ」

「なに、ちょっと湾岸をね」

「あーもうわかってますって、どうせアタシのRは遅いですよ」

「まあいいんじゃないのかね。君はあくまでもあのお嬢さんのお目付け役なんだろう?召使が主人より強くては絵にならんがね」

「いってろー!」

 アルフとスカリエッティのやりとりを、リインはしばらく後ろから見ていた。
 ポルシェのアイドリング音は、貸し倉庫の薄いトタンぶきの屋根にさわがしく反響する。

「250km/hオーバーで足が全然ついてこないんです……あとパワーもたりなくて……
お願いできませんか。964の3.6リッターです。一応ひととおりのセットアップはされていますが……」

 スカリエッティはポルシェを一瞥し、ふん、と鼻を鳴らした。

「いいだろう。中へ車を入れたまえ」

 ガレージのシャッターを上げる。
 中には、乱雑に散らばったパーツのほかに、シートをかぶせられたもう一台の車がいた。

「君としてはテスタがこのまま直らないほうがいいんじゃないのかね?」

「え!?アタシ?」

 アルフは一瞬たじろいだ。たしかに、もうフェイトをあんな危険な目にあわせたくない。
 280km/hでのクラッシュは、普通なら死んでいてもおかしくない。生きていたのは本当に奇跡だ。
 だが、走りをやめさせられたら、フェイトは生きる希望を失くしてしまうのではないかという不安もある。

「──それ、あのテスタですか」

 スカリエッティはかぶせていたシートをどけた。
 テスタの車体は文字通りぼこぼこで、クラッシュの衝撃でルーフやピラーも変形し窓ガラスは粉々になっている。
 ひしゃげた足回りとホイールが、その衝撃のすさまじさを物語っている。

「見た目はその通りなのだがね。フレームは全く歪んでいないのだよ。さすがの私も見直したね、フェラーリというものを」

 フレームは無傷。すなわち、ボディを張り替えて足回りを直せば、また走ることができるということだ。

60 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 22:01:09.98 ID:hZ3O8lI5
「エンジンは?」

 スカリエッティは笑いをこらえきれないように、スパナでツールボックスをたたいた。

「まだやりかけだったからね。最終的にはIMSAレース用ハイリフトカムをぶち込む。
もうエレクトラ・モーティブ社には注文済みで到着待ちだよ。
インジェクションはメカニカル制御にする。吹け上がりのレスポンスはどんなエンジンよりも鋭くなる。
バルブ径はあえて大きくせずに最大回転を上げたいね。メタルとクランクシャフトが耐えるなら、
間違いなく1万回転オーバーで回せるよ。アクセルひと踏みで失神するほど気持ちいいぞ」

 最後には声を上げて大笑いするスカリエッティに、アルフはさすがに目をひそめている。

「変わっていませんね、あなたは」

「君はだいぶ変わったようだね。あの頃のフザけた駄々っ子の顔はもうない」

 やはり覚えていた。この男に認められるかどうか、それが走り屋としての心構えの違いだ。
 過去の湾岸──まだリインが仲間たちと共に走っていた頃。
 まだ日本車の性能が低く、ポルシェ911ターボが最強のスポーツカーだった頃だ。

「あれかね?やはり医者というのはもうかるのかね。あの頃の君の齢でもう911を乗れたとは」

「医者……?」

 アルフがいぶかしげにリインを見る。

「君のところ(海鳴大学病院)に入院しているんだろう、どうだねドクターの意見で、あのお嬢さんは?」

「んなっ、知ってんのかいアンタ」

「さあ……。ただギプスは今日取ったみたいですよ、私は直接の担当ではないので」

 フェイトの怪我は奇跡的に打撲と腕のヒビだけで済んだ。
衣装で傷を隠して激しい動きを避ければ、なんとか仕事は可能だ。
 今まで通りステージに立つこともできる。
 今回、患者の職業が職業なので、見た目の傷跡を可能な限り消したいと、
形成外科のリインに、外科部長から応援の依頼が来ていたのだ。

61 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 22:07:55.49 ID:hZ3O8lI5
 チューニングプランを簡単に打ち合わせ、リインはそのまま帰路につこうとした。

「ちょい待ちな、どうせついでだし送ってってやるよ。フェイトが世話になったみたいだし──」

 アルフはGT-Rのルーフに肘をついてリインを呼び止めた。
 スカリエッティは相変わらずにやにやと笑い続けている。

「スカリエッティさん──見たんですよね?あのZの走りを、テスタのナビシートで──」

「ああ……」

「もしZの彼女があなたのことを見つけてやってきたら──どうしますか?」

「さて、どうだろうね」

 Zのエンジンがさすがに疲れてきているのはリインも気づいていた。
 だが、あの化け物のようなL28改ツインターボは、なのはやユーノの技術レベルではとても整備できないだろう。
 もし、このままZが息絶えてしまうのなら……

 考えようと思っても、リインはその未来を思い描けなかった。

 それはなのはも、そしておそらくはフェイトも、同じだろう。



 スクライア商会のガレージで、なのはとユーノ、それからコウちゃんの3人は、
エンジンフードをあけたZの前で作業の準備を整えていた。
 なのはもユーノのおさがりのつなぎを貸してもらい、汚れてもいいように髪もまとめてあげている。

「L28は基本的には難しいところはない。これだけのハイチューンエンジンだと正直自信はないが、オレも手伝ってやる。
ガスケット、パッキン、Oリング、もろもろ必要なパーツの調達は任せてくれ」

「はい」

「それじゃ、はじめようか」

 エンジンクレーンを用意し、順番にチェーンをかけ、マウントのねじ止めを外していく。
 補機類をひとつずつ慎重に取り外し、そして最後に、クレーンを使ってエンジンを車体から持ち上げる。

 姿を現したZの心臓──L28改ツインターボエンジンのシルエットに、なのはは息をのんだ。

 直列6気筒、排気量3.1リッター。最大許容回転数1万回転。
 腕を掲げているユーノが小さく見えてしまうほどの巨大なエンジンだ。
 それを、当時としてもコンパクトだったS30の車体に押し込んでいる。

 悪魔のような車だ。
 なのはは改めてそう思うと同時に、このZを、せめて自分だけは信じていたいという思いを新たにしていた。

62 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 22:15:02.25 ID:hZ3O8lI5
 首都高11号羽田線、芝浦パーキングの一角に車を止め、携帯電話で話している若い男がいた。
 傍らに停められている車は、銀色の80スープラ。
 エアロこそノーマルのままだが、排気によって振動する太いマフラーは、この車がチューンドカーであることを示している。

「──ああ、今夜も会えそうにない。やっぱり噂は本当だったらしいな」

『悪魔のZもブラックバードも、ここ数週間出てきてない。
例のテスタも、悪魔のZと走ってハデに事故ったって聞くし、こりゃマジで今の湾岸に連中に勝てるヤツはいないぜ』

「いや、一人だけいるだろ」

『……マジでやる気か、クロノ?』

「もちろんさ──そうでなけりゃ、わざわざ母さんに頼み込んで日本に来たかいがないってもんだぜ」

 男の名はクロノ・ハラオウン。横須賀在日アメリカ海軍の巡洋艦艦長、リンディ・ハラオウン提督の一人息子だ。

 アメリカの実家でも、ハイスクールの仲間たちと車で遊びまわっていたクロノは、素行不良が過ぎると
とうとう実家から追い出されることになってしまった。
 そこで、海軍で日本に赴任している母のつてを頼って来日し、今や世界中のスポーツカー愛好者の
あこがれの的となっている日本で走るためにやってきた。

 一応は留学生という身分で、都内の大学に通っているが、夜、そして週末は
毎晩のように横須賀から首都高へ走りに出かけている。

 そして、耳にしたのはもはや伝説の走り屋となっているブラックバード、そして悪魔のZの噂だった。

 クロノが電話していた相手は、名をアレックスといい、彼はもともと高校卒業後に海軍に志願して、
現在はクロノの母リンディが指揮する打撃巡洋艦アースラに勤務している。連れのランディも同じく。
 非番の日に彼らがたむろしているのは、横須賀に点在する外国人向けのレストラン、グリル・アースラだ。
 ここを切り盛りしているエイミィはクロノたちとは学生時代からの連れで、クロノが日本行きを決めたのも、
彼らがいる街なら、誰も知り合いのいない街にひとりで行くよりは気が楽だろうと考えたからだった。

「ねえ、今の電話クロノ?」

 奥の厨房からエイミィがピザトーストを運んでくる。

「ああ、今から帰るとこだってさ。しかしあいつ今回はマジだぜ、確か先週六本木に面接に行ったんだろ」

「似合わねーよな、昔からああなんだよ、根が真面目なくせして人の話きかねーんだよな」

 あまり人間関係が器用ではないクロノが、客商売ができるのか──というのは、友人たちにとっては心配の種だった。

「クロノ、確かスープラだったよね新しく買ったの。どうしてGT-Rにしなかったのかな」

 エイミィが質問する。クロノたちの車談義をそばで聞いているうち、車種名くらいは覚えてきていた。

「こだわりだろー、確かアイツのおやじもスープラに乗ってたんだぜ、
もちろん先代、いや2代前か、トヨタがアメリカに輸出してたんだ」

 エイミィとクロノは幼馴染だった。その頃から、クロノの父、クライド・ハラオウンが乗っていた銀色のスープラ──
 ──日本名“ダブルエックス2.8”は、二人の思い出の中に残っていた。

63 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/05/20(金) 22:19:36.13 ID:hZ3O8lI5
今日はここまでです

>>24
ありがとうございますー
リリなのも各話アバンタイトルにモノローグ入りますが
あれは湾岸におけるポエムにつうじるものがあると思いますねー


ところで本作のリインはへたするとみそじこえてる・・・(汗)
島先生はたしかぎりぎり20代だったような気が

ではー

64 :FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/05/20(金) 22:47:03.12 ID:5bfl8I9F
 >>24さん、乙です!!僕も久しぶりに湾岸みようかなぁ…
 前回から更新が一カ月以上開いてしまって申し訳ありません。
 またまた不定期更新になりますが、よろしくお願いします。
 それでは、第14章投下します。

65 :FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/05/20(金) 22:52:06.82 ID:5bfl8I9F
……ここは、何処だ。
 アイクは真っ先にそう思った。何せ、自分が立っているのは真っ暗な森の中。
 少しづつ、記憶がはっきりしてきた。確か、ここは親父と漆黒の騎士が戦った、因縁の―――――

そこまで思い出した瞬間、重苦しい金属音が聞こえてきた。
 まるで、これからがショーの始まりだと言わんばかりの、鈍い音が。
 アイクはその音に反応し、音のした方へと駆け出していく。
 まさか、自分の考えていることが正しいとしたら―――
 アイクは無我夢中で森の中を駆けていく。
 あの悪夢を繰り返さぬために。大切な人が奪われる前に。

 アイクがたどり着いた場所は、すでに戦場と化していた。
 父、グレイルと漆黒の騎士が剣と斧をぶつけあっている。
 グレイルがどれほど斧をぶつけようと躍起になっても、漆黒の騎士にはかすりもしなかった。


66 :FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/05/20(金) 23:06:50.13 ID:5bfl8I9F
 すみませんが、さるさんを食らいました。
 代理投下スレに投下します…。

67 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:50:49.27 ID:vMpBOfB9
……ここは、何処だ。
 アイクは真っ先にそう思った。何せ、自分が立っているのは真っ暗な森の中。

 少しづつ、記憶がはっきりしてきた。確か、ここは親父と漆黒の騎士が戦った、因縁の―――――

そこまで思い出した瞬間、重苦しい金属音が聞こえてきた。
 まるで、これからがショーの始まりだと言わんばかりの、鈍い音が。
 アイクはその音に反応し、音のした方へと駆け出していく。

 まさか、自分の考えていることが正しいとしたら―――

 アイクは無我夢中で森の中を駆けていく。
 あの悪夢を繰り返さぬために。大切な人が奪われる前に。



 アイクがたどり着いた場所は、すでに戦場と化していた。
 父、グレイルと漆黒の騎士が剣と斧をぶつけあっている。
 グレイルがどれほど斧をぶつけようと躍起になっても、漆黒の騎士にはかすりもしなかった。

 誰の目から見ても、グレイルは押されていた。かつての力、かつて使っていた武器を失い、「老い」が今のグレイルを見るも無残な姿に変えたのだ。

跪き、乱れた息を整えるグレイル。そんな彼に、漆黒の騎士は先ほどまで使っていた神剣「ラグネル」を投げて、グレイルの前に突き刺した。

「…何のつもりだ。」

「貴殿との戦いを楽しみにしていた。まともな武器で手合わせ願いたい。」

そう伝え、腰に差してあったラグネルと瓜二つの剣、神剣「エタルド」を抜く。
そして、グレイルに突きつける。

「…神騎将、ガウェイン殿!!!!」




68 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:52:10.75 ID:vMpBOfB9
その名はアイクが聞いたこともない名だった。
 その名は、かつてグレイルがデイン王国に勤めていたころの二つ名。

 デインを抜けた今となっては、その名を知る者はほぼいないと思われていた。

 そんな、ほぼ機密事項扱いにも等しい名を知り、超人的な剣の腕を持つ。

 その男が、この戦いを楽しみにしている、と言った。
 それほどまでに、アイクの父親は強かったのだ。

「…昔、そんな名で呼ばれたこともあったな。」
 ラグネルを地面から引き抜く。

「だが…」
と続け、ラグネルを投げ返す。

「その名はとうの昔に捨てた。今の相棒は…これだ。」
ガウェイン、いや、グレイルはこの世でたった一つの斧、「ウルヴァン」を構えなおす。

だが、その言葉を発した瞬間にグレイルは死を覚悟するべきであった。
騎士にとって名を捨てるということは、それまでの自分、それまでの戦いのすべてを否定することになるのだから。

そんなことを思いつつ、漆黒の騎士は、

「…死ぬ気ですか。」
 と冷たく言い放つが、グレイルはそんなことは気にしていなかった。
 そして、次に彼の口から出た言葉は意外なものだった。

「…その声、覚えているぞ。たった10数年で師であるこのわしを追いぬいたつもりか?…フン、若造が…」

 さっきまで昔を懐かしむ表情が、突然こわばる。
 神騎将としての本能が目覚めたのか、それともただ単にキレただけか。

「これでも、食らうがいい!!」




69 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:52:53.75 ID:vMpBOfB9
グレイルが斧を持って突進する。

 今思えば、これが父を救う唯一のチャンスだったかもしれない。

だが、アイクは戸惑っていた。

 今ここで出ていけば、確実に殺される。要するに、死ぬのが恐かったのだ。

 だが、ここで躊躇っていればグレイルが死ぬ。

 命を賭して身内を守るか、それとも未来を生きるために今ここで父を見殺しにするか。
 それは、非常に残酷な問いだった。

(俺は…)

 腰に差してある剣に手をかける。だが、抜くことができない。
 自分の命と他人の命を天秤にかけるには、このころのアイクは幼すぎた。

 そして、答えを出せぬまま―――静寂が訪れる。

 エタルドに貫かれ、驚愕に目を見開くグレイル。
 親父の生命は急速に失われつつあった。

「親父!!」
 アイクは父親のもとに駆け寄る。抱きとめた父親の体は、ぞっとするほど冷たかった。

 そして、そのまま二人は倒れこむ。

 そして、何処からか声が響いてきた。あの少女の声で。

「あなたは、また見殺しにするつもり…?」




70 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:53:58.14 ID:vMpBOfB9
「ッ!!!」
 飛び起きたアイクはぐっしょりと汗をかいていた。
 トラウマの記憶をリアルに、そして鮮やかに思い出した自分に対して舌打ちをする。

 原因は言うまでもなく、先日ルーテシアから言われた言葉だ。

「あなたはまた見殺しにするつもり…?」

 頭の中でその声がはっきりとリピートされる。
 本日のアイクの寝ざめは、最悪のようだった。



第14章「罪の意識」

 そのころ、教会ではちょっとした事件が起きていた。
 それは、先日保護した少女の姿が無い、というものであった。

「状況は?」
 なのはが状況をシャッハから聞き出す。

 なんでも、検査の合間に係員の目を盗んで脱走したとか。
 「ただの」少女ならそこまで問題は無いのだが、それならば係員が退避したり魔法の感知をするわけがない。

 魔力が十分にある(といっても、子供のレベルでそれなりの量である)ので、もしかしたら、の状況を考えて聖王教会は実質閉鎖状態にあった。

「早く見つかるといいですけど…」
 シャッハがつぶやく。
 実際、ここら一帯は隠れることができるようなものはほとんど何もないので、楽と言えば楽である。
「では、手分けして探しましょう!」
 なのはのその一言を合図に、なのはとシャッハ、そして運転役でついてきたシグナムは少女を探しに行った。

 案の定、一番最初に見つけたのはなのはだった。
 だが、幸か不幸か懐いてしまった。

 それもそうだろう。少女が怯えているときに優しい女性が手を差し伸べる。
 それだけで、子供というものは懐いてしまうのだ。…もっとも、それに加えて外見が良ければ、の話だが。




71 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:55:12.69 ID:vMpBOfB9
その少女は、名前をヴィヴィオと名乗った。そして、母を探していることも。

 それを見かねて、起動六課まで連れてきて、フォワード陣に相手をしてもらおうという魂胆だったが、それはいささか傲慢だったようだ。

「うぇぇええーーーん!!行っちゃやだーーーー!!」

 駄々っ子のように(というかむしろすでに駄々っ子である)泣き叫ぶヴィヴィオ。
 その様子をモニターしていたフェイトとはやてが、なのはとフォワード陣の所にやってきた。

 無論、アイクとセネリオもいたのだが、二人はあえてヴィヴィオに近づかないでいた。
 それを変と悟ったのか、スバルがこっそりと耳打ちする。

「アイクさん、セネリオさん、どうしてこっちに来ないんですか?」
「俺らが行ったら、泣くだろう。」
「右に同じです。」

 つまり、ゴリラの様なムキムキの筋肉を持つ男と、人見知りで冷徹な物言いしかしない人物がヴィヴィオに接したら、泣いてしまうと思ったのだ。

 と、そこになのはの声が入る。

「それじゃ、ライトニングの二人はヴィヴィオのこと、お願いね。スターズは、そろそろデスクワークの時間だから、行くよ。」

 そう言ってティアナとスバルが部屋を出ようとした時だった。

「ティアナ、少しいいか。」
「……?」
 アイクがティアナを呼びとめる。心なしか、その時のアイクの表情は迷っているような、苦しんでいるような気がした。

 その雰囲気を察したティアナは、アイクの瞳を真正面から受け止める。
 いまだに、じっと見つめられると頬が赤くなるのだが、この時ばかりはそうは言ってられなかった。




72 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:56:09.58 ID:vMpBOfB9
「………ティアナ。仮に、自分の犯した罪が誰にも裁かれないとしたら、お前は…どうする?」

 その言葉の意味を真に理解することができるのは、あの時にルーテシアの言葉を聞いた者だけだろう。
 だが、あの言葉がもたらす苦痛と苦悩はアイクにしか理解できなかった。

 それを知ってか知らずか、ティアナが答える。
「うーん…私だったら、罪のことを忘れて生きるか、ひそかに償いながら生きると思います。」
「具体的に、どう償うんだ?」
「えと、例えば…人を殺してしまったときとかは、その人のことを忘れないようにして二度と殺人をしない…とか、です。」

 それは、果たして正しいのか。それを尋ねたかったが、神ならぬ人の身にそんな抽象的な答えが出せるわけではない。
「ありがとう、ティアナ。」

 素直にお礼を言っておく。
「いえ、どういたしまして。」
 ティアナも笑顔で返す。

 さて、と一息ついてティアナが立ち去ろうとした瞬間だった。


 ドサッ

 アイクとセネリオが倒れ始めた。
「アイクさん!?セネリオさん!」

 ティアナとエリオ、キャロが駆け寄って体を揺らすが意識はない。
 その様子をおびえた目でヴィヴィオが見つめていた




73 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:57:05.69 ID:vMpBOfB9
(ここは…)
 暗闇の中。だが、意識がある。この感覚には覚えがあった。

(また女神ですか。)

――――――その通り。

朗らかな、しかし優雅な声でアスタテューヌが受け応えした。

――――――アイク、あなたの加護を封印しようと思って。

(封印?どういうことだ?)

――――――あなたの中に、女神の力を封じ込めるの。これで、女神の加護同士の反発は起こらないと思うけど…

(何かあるんですか?)

――――――これは、あくまでも封印。あなたがその封印を解きたいと願えば、いつでも簡単に解けてしまう、脆いもの。強い心でまたそれを封じ込めればいいんだけどね。

 そういって、アスタテューヌは女神の加護の封印を施す。

――――――これでよし。あとは、何か聞きたいこととかある?

(…罪を償うには、どうしたらいい?)

 先ほどの問いを、女神に尋ねる。その姿は、さながら懺悔のようだった。

――――――じゃあ、あなたは何の罪を許されたいの?

 穏やかな声で尋ねる。
(俺は…?)
 何を許されたいのだろうか。
 父を見殺しにしたことか。それとも、戦争で多くの命を奪ったことだろうか。
あるいは、その両方か。

(…人殺しの罪だ。)
 全てをひっくるめた、アイク自身の罪だった。

――――――…そうね。今は、まだ答えはあげられない。それは、私から与えるものではないわ。

(そうか…)

――――――でも、ヒントくらいならあげられるわ。「その罪で苦しんでいる人は、あなただけではない。」

(なんだって?)
 そう尋ねるが、それがアスタテューヌに届くことは無く、視界は光に包まれた。




74 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:57:42.68 ID:vMpBOfB9
目覚めた場所は、先ほどのヴィヴィオ達がいた部屋だ。
 どうやら、壁にもたれかかって寝ていたようである。
「あっ!目が覚めましたか!」

 そう言って、エリオとキャロがヴィヴィオを置いて駆け寄ってくる。

「突然どうしたんですか?」
「どこか悪いところでもあるんですか!?」
 目覚めた二人に質問を浴びせる。
 その様子をおびえながらヴィヴィオが見ていた。

「…大丈夫です。ところで、あなたたちは何を?」
「え…と、なのはさんたちが、この子のことよろしくって…」

 ずいぶんと災難な話だった。
「………もしかして、それは僕たちもですか?」

 冷たい声でセネリオが聞く。
「えっと…そうしてくれると、ありがたいん、ですけど…」

 苦笑を浮かべ、冷や汗を流しながら頼み込む。特にすることも無かったので、
「まあ、いいでしょう。」
 と意外に乗り気であった。

 だが、それで彼の人見知りは治るわけもなく、アイクの見た目が変化するわけでもないので、ヴィヴィオが彼らに懐くまでに2時間の時間を有したのだった。すっかり暗くなった景色に浮かぶ満月と街のネオン。
 それらをいつもの河原で眺めながらアイクは傍らにあるラグネルを握り締め、アスタテューヌが言ったことを考えていた。

―――――「その罪で苦しんでいる人は、あなただけではない。」
 冷静に考えれば、その意味はおのずと理解できた。

(俺が共に戦った人たちは、この罪を抱えているんだよな…)
 人殺しの罪を抱えて、なお生きる。誰がどこで暮らそうと、その事実は消え去ることはない。
 それでも、あいつらは生きている。
 ミカヤ、サザ、傭兵団の皆、クリミアの王宮騎士団――――
 挙げたらきりがない。
 彼らは罪と向かい合うなり、逃げるなりしているのだ。もしかしたら、答えを出していないのは自分だけではないか、と俯きながら思う。



75 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/20(金) 23:59:09.66 ID:vMpBOfB9
(やはり…殺人の罪は…)
 アイクの中に一つの答えが浮かぶ。償うでもなく、逃げるでもなく。
(「死」によって償われるのか?)
 それはよくあること。多くの人を死に追いやった人物は死によって償われる。
 そんな考えが頭をよぎった瞬間だった。

「アイクさん、またここにいたんですか。」
 ティアナがやってきた。バリアジャケットを着ている姿からして、夜の訓練が終わったところだろう。

「なぜ俺がここにいると思ったんだ?」
「だって、前にもここに来たじゃないですか。」
 笑顔でそう答える。そして、アイクの隣に座る。

「まだ…悩んでるんですか?」
「俺の罪はそう簡単には消えない。そこで、償う方法を考えていてな…」
 なぜか、ティアナにはこの悩みを打ち明ける。
 心のどこかで彼女を許している証拠だった。
「俺は、「死」をもって償うべきなのか…」

 その言葉に、ティアナは激怒した。
「そんなことあるわけないじゃないですか!!」
 いきなりの怒号に、アイクは目を丸くする。
「死んで償うなんて、そんな悲しいこと、言わないでください…」
 そして、涙目になっていく。

「ティアナ…」
「お願いです、死なないで…」
 どうやら、慰める立場と慰められる側が入れ変わってしまったようだ。
 アイクは、最初の方こそ驚いたものの、少しづつうれしさを感じていた。
 これまで傭兵として生きていたアイクにとって、ここまで自分の心配をしてくれることがありがたかったのだ。
 
「落ち着いたか」
「はい……」
 アイクに泣きついて、8分ほどが経過した。
「すみません…」
 顔を真っ赤にして謝るティアナ。対して、アイクは穏やかな気持ちになっていた。
「でも、とにかく死んで償うのはなしですよ?」
「わかったさ。」
 ぶっきらぼうに告げる。
 そして、戦いの中で見せる微笑とは正反対の柔らかい微笑みを浮かべた。

「ティアナ…ありがとう。」
 その言葉と微笑みを受け取り、ティアナはさらに真っ赤になる。
「はい…」
 俯きながらも、その顔はとても嬉しそうだった。



76 :FE ◇lJ8RAcRNfA氏 代理投下:2011/05/21(土) 00:00:08.92 ID:/4ONPSnw
「さて、そろそろ戻るか。」
 そう言って、アイクが立ちあがる。
 それに続き、ティアナが立ちあがろうとしたところ、
「ッ…」
 ぐらり、と体が揺れる。立ちくらみだろう。
「おっと…」
 その体をアイクが抱きとめる。とっさにティアナは離れようとするが、立ちくらみが抜けきっていない。
「あ…」
「部屋まで送ってやろう。」
 そういって、ティアナをお姫様だっこする。また顔が真っ赤になったが、アイクはそんなことには気づかない。
 
 そうして送り届けられたティアナは数日の間、スバルにその手の話題でいろいろとつつかれることになるのだった。




  時は少し前にさかのぼる。


 デイン王城:王室

「サザ、ベグニオンに行くわよ。」
「ミカヤ、何を―――」
「ひとつ、確かめたいことがあるの。」

 To be continued……



77 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 00:02:43.59 ID:vMpBOfB9
以上で、代理投下終了です
もし不備がありましたら、指摘をお願いします

そしてFE氏投下乙です
グレイルの死を夢に見た上に、これまでの戦いによる罪を感じたアイクが
これからどうなるのかとても気になります
あとティアナが、凄くヒロインしてますね!
これからも頑張ってください

78 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 08:55:56.70 ID:mMP4A3ZG
両氏とも乙ですん

79 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 19:12:44.03 ID:pOkt3WWD

なにやら懐かしい人たちがいっぱい来たな
復活ブームかな

80 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/22(日) 03:16:07.17 ID:i8+VpJDI
前スレラストのなのはクロスロワの話
1st開催当時はスレも一番盛り上がっていたから、お祭り感覚で何でも出来たってのが大きいんだと思う
今でもその盛り上がりがあるのかと聞かれたらちょっとなぁ…って感じだから、俺は現状では何とも言えない
けど、やってみたい気持ちはあるというか、自分の作品のキャラを参加させて、他の好きな作品のキャラと絡ませてみたいって気持ちもある
だから今は様子見で、皆やるようなら俺も参加しようかな

81 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:21:03.27 ID:k+5KDjBC
これより、代理投下します


明朝、桜台登山道。。
まだ陽も昇りきっていない時刻の中、高町なのはとヴァッシュ・ザ・スタンピードは相対していた。
なのはの手中にはレイジングハート。
ヴァッシュの手中には無銘のリボルバー。
互いの手中にはそれぞれの得物が握られていた。

「いきますよ、ヴァッシュさん」
「お手柔らかに」

両者は僅か2メートル程しか離れておらず、殆ど手を伸ばせば届く距離だ。
静けさが場を包む。
僅かに汗ばんだ手でレイジングハートを握り締め、なのはが動いた。
まるで槍を扱うかのようにレイジングハートをヴァッシュへと突き立てる。

―――カチン

が、レイジングハートの矛先は横殴りに叩き付けられたリボルバーにより、横へと流される。
代わりとして、なのはの眼前へと突き立てられるリボルバーの銃口。
なのはは体勢を整え、再度レイジングハートを振るう。
金属音が鳴り、今度はリボルバーが横へと流れた。
そこからは断続的に金属音が鳴り続ける。
カチカチカチと、レイジングハートとリボルバーとが火花を散らし、互いの射線を奪い合う。
小気味よいテンポで繰り広げられる応酬は、とてもゆったりとしたもの。
まるで舞踊の如く緩やかで、だが本人からすれば全力全開の攻防が、一定のリズムで続いていく。
なのはの額に雫が溜まり、足元へと垂れ落ちる。
流れる汗はそのつぶらな瞳にも侵入するが、なのはは拭う事すらしようとしない。
高まる集中力が、行動を一本化させていた。


それは近接戦闘をイメージした訓練。
なのはの苦手とする、近接の間合いでの砲撃戦の訓練であった。
近接戦闘での『砲撃を当てる方法』をなのは風に考えた結果が、この訓練である。
相手の武器を払いのけて射線を取り、砲撃を撃ち込む。
先の模擬戦でヴァッシュがなのはにしてみせた攻防が、発案の切欠となっていた。
とはいえ、近接戦を不得手とするなのはには、この訓練は過酷の一言。
中距離、遠距離での訓練は順調な経過を見せているにも関わらず、近距離を主とするこの訓練は遅々として進展していなかった。

「はい、ここまで。なかなかやるようになったじゃん、なのは」

ヴァッシュの一言になのはの動きが止まる。
時間にして十分ほど続けられた射線の取り合いが、音もなく終わった。
金属音が鳴り続けていた周囲に、久方振りの静寂が舞い戻る。


82 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:23:05.73 ID:k+5KDjBC
「うー、何で上手くいかないんだろ。イメージではもっと早く動かせるんですけど」
「焦っても仕方無いって。こういうのは慣れと経験だよ」

滴る汗を拭いながら、なのははレイジングハートをスタンバイモードへと戻す。
紅色の宝玉と化したレイジングハートを首に掛け、ヴァッシュの方へと視線を向けた。
疲労の欠片すら見せず、飄々と笑顔を浮かべてタオルを差し出すヴァッシュがそこにいた。
差し出したタオルを受け取り、更に汗を拭うなのは。
動作による疲労というより、極度の集中状態からの疲労が主といったところか。

「それに相当よくなってきてると思うよ。訓練を始めてまだ何日と経ってないんだ。これだけできりゃあ凄いもんさ」

ヴァッシュの言葉に偽りはなかった。
あの模擬戦から数日しか経過していない今、それでも目に見える成果が上がっているだけでも驚嘆に値する。
天才の一言では語りきれない才覚が眼前の少女には眠っている。
そうヴァッシュは確信していた。

「そうですか? そう言われると嬉しいですけど……ヴィータちゃん達がいつ現れるか分からないからなぁ」

なのはは、守護騎士達を止める力が欲しいと言っていた。
世界に崩壊をもたらす魔導書・『闇の書』。
『闇の書』を完成させる為に活動する守護騎士達。
守護騎士達の活動は世界の崩壊をもたらし、数多の命を呑み込んでいく事となる。
そんな守護騎士達を、止める。
倒すでも、殺すでもなく、止める。
心中に宿る優しさが、その言葉を選択させたのだろう。

「……最近は探知にも引っかからないしね。蒐集活動もどうなってる事やら」

しれっと語りながらも、ヴァッシュはなのはに虚言を飛ばした。
結局、ヴァッシュと守護騎士達との繋がりも断裂してはいない。
相変わらず敵意まるだしの守護騎士達だが、実質弱味を握られている現状ではヴァッシュを無視する事ができない。
何度か蒐集活動に参加し、それなりの戦果はあげている。
どさくさ紛れに攻撃される事も多々あったが、そこら辺はヴァッシュにとって慣れた物。
飄々と受け流して無事に帰還を果たしていた。

「……ヴァッシュさんは、どうしてヴィータちゃん達が『闇の書』の完成を目指しているんだと思います?」

ボンヤリと道場を眺めていたヴァッシュへと、なのはが唐突に問い掛けた。
守護騎士達の戦う理由、『闇の書』を完成させたがる理由。
ヴァッシュはその問いの答えを知っていた。
八神はやて。
それが守護騎士達の戦う理由にして、全てであった。
強大な力を持つ管理局と対立してでも、過酷な蒐集活動をこなしてでも、救いたい存在。
守護騎士達には引けない理由がある。
そして、引けない理由はなのは達にも、管理局にもある。
ヴァッシュはそのどちらの事情も知っていた。



83 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:28:41.41 ID:k+5KDjBC
「どうしても引けない理由が、あるんだと思う。彼女達の覚悟は相当なものだ。そりゃもう世界を敵に回す覚悟だってあるだろうね」
「ヴァッシュさんも……そう思いますか」

こう見えてなのはは中々に鋭いところがある。
薄々、守護騎士達の覚悟の度合いも察していたのだろう。
顔を俯かせながら、少し物思いにふけるなのは。
なのはが何を思考しているのか、何となくではあるが、ヴァッシュにも予測がつく。

「世界を敵に回してでも守りたいものって、何だと思います?」
「……難しい質問だね」
「私も、そう思います。でもヴィータちゃん達の気持ちを知るには必要な事だと思って」
「世界を敵に回してでも、か……」

世界を敵に回してでもという言葉に、ヴァッシュはふと仇敵であるナイブスの姿を思い出す。
世界を敵に回して同種の解放を目指す男。
ナイブスはこの世界に於いても人類の滅亡を望んでいる。
ヴァッシュにすら分からない強大な力を使用して、そして世界を滅ぼす力を持つ『闇の書』を利用して、人類を根絶やしにしようとしている。
絶対に止めなければいけない敵であった。

「質問の答え、考え付きました?」
「そうだね……僕だったら、できるだけ誰とも対立しないような道を目指したいな。守りたい人も守れて、世界も敵に回さないような道をね」
「それが出来なかったらって、前提があっての話なんですけど。……でも、ヴァッシュさんらしいかも」
「そうかい? なのはだって同じ道を目指すと思うよ」
「そうですかね?」
「そうさ」

闇の書、八神はやて、守護騎士、ナイブス、時空管理局。
様々な要因が組み合わさって引き起こされた今回の事件。
世界の滅亡を賭けた、余りに大規模な戦い。
あの砂の惑星で繰り広げられた銃撃戦とは、何もかもが違う。
しかし、ヴァッシュは誰も死なない魔法のような解決を望む。
誰もが幸福となる奇跡のような解決を。

「……なのはは、守護騎士達が戦う理由を知りたいかい?」

朝日が差し込み始めた道場にて、ヴァッシュはなのはへと視線を向けて問い掛けた。

「知りたいです。まずは話を聞かなくちゃ、話を聞いて貰わなくちゃ、何も始まらないと思うから」

問い掛けになのはは微塵の迷いもなく答えた。
紡がれた答えに、ヴァッシュは笑顔を浮かべる。

「話を聞かなくちゃ、聞いて貰わなくちゃ、か。うん、そうだ。そうだよ、なのは」

ヴァッシュはなのはの言葉を嬉しそうに反唱し、立ち上がった。
何処か晴れ晴れとした表情でヴァッシュはなのはに振り返る。

「今日の放課後、またここにに来てくれないか。大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「そうだな、出来ればフェイトも連れてきて欲しいな。大事な……本当に大事な話があるんだ。必ず来てくれ」
「えと、分かりました」

ヴァッシュはそう言うと練習場から去っていった。




84 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:32:03.48 ID:k+5KDjBC
「大事な話かあ。何だろう?」

赤色のコートを朝風にたなびかせて歩き去るその背中を見詰めながら、なのはは笑顔で呟いた。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
優しく、お調子者で飄々としていて、でも数え切れない傷を心身に負ってきた男。
なのはにとってヴァッシュは憧れに近い存在であり、そして守ってあげたい人の一人であった。
とある世界にて深い深い悲しみを背負い続けてきたヴァッシュ。
とある世界にて最強のガンマンとして君臨し続けたヴァッシュ。
その全てが、話に聞いたに過ぎない。
実際にヴァッシュがどのような生活を送ってきたのか、なのはは見たこともないし、想像するにも限界がある。
でも、分かる事だってある。
ヴァッシュが傷ついているという事実だけは、なのはにも理解できていた。
初めて出会った時のボロボロな様子、時折見せる暗く儚げな表情、そして―――ある一定のライン以上に他人を踏み込ませる事のない心。
なのはは、気が付いていた。

「……もっと人を頼っても良いんですよ、ヴァッシュさん」

呟きは誰に聞こえる事もなく消えていった。
大事な話とやらに僅かに心を踊らせながら、一抹の寂しさに心をくすぶらせながら、なのはは家路に付いた。







シグナムは八神家のソファに腰掛けて、暗闇に染められた世界を眺めていた。
深夜の蒐集活動を終えたばかりという事もあって、身体は膨大な疲労感に包まれている。
だというのに、眠れない。
疲労に満ちた身体とは裏腹に、意識は鮮明に覚醒していた。

(闇の書の完成が世界を滅ぼす……か……)

シグナムは考えていた。
数日前、ヴァッシュから伝えられた言葉。
闇の書が完成すれば世界を滅ぼしかねない力が暴走するという事。
主の死と共に幾数の転生を繰り返してきた『闇の書』。
確かにこれまでの主の死が如何なるものだったかの記憶は薄い。
『闇の書』の覚醒の時は覚えていれど、それ以上の記憶があやふやなのだ。
その空白の記憶が疑惑に信憑性を持たせる。
信じられない、信じたくない言葉であった。

「シグナム、起きてたのかよ」

思考に没頭しているシグナムに声が投げ掛けられた。
声のする方に視線を飛ばすと、そこには片手にうさぎのぬいぐるみを握った鉄槌の騎士の姿があった。
彼女も蒐集活動から帰還したばかりだというのに、寝付けずにいるようであった。
幼い顔には僅かにくまが浮いていた。



85 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:33:14.87 ID:k+5KDjBC

「……早めに寝ておけ。日中の生活に支障をきたすぞ」
「人のこと言えねーだろ。シグナムも早く寝ろよ」

ヴィータは言いながら、シグナムの横へと腰掛ける。
ポスン、という音が響きソファが僅かに沈んだ。
隣に座る、という事は何らかの会話でも求めてきたのだろうが、ヴィータが口を開く様子はない。
ヴィータは主から貰ったぬいぐるみを抱き締めながら、険しい顔で床を睨んでいた。
何かを考えているようであった。
沈黙が続く。
ヴィータは視線を下に向け、シグナムは視線を上に向け、沈黙する。

「……なぁ」

どれ程の時間が経過したのであろうか、ヴィータがポツリと呟きを零した。
視線は動かさず、床を見詰めたままに放たれた言葉。
シグナムは無言で先を促す。
既にカーテンからは淡い朝日が差し込んできており、空は白み始めていた。

「シグナム……何か、私たちに隠し事してねえか?」

続いで出たヴィータの言葉に、シグナムの心臓が跳ね上がった。
愕然の表情で、シグナムはヴィータの方へと顔を向ける。
床を睨んで言葉を紡ぐヴィータの姿が視界に映った。

「最近、なんか変だ。落ち込んでるっていうか、ふさぎ込んでるっていうか、悩んでるっていうか……とにかく変なんだよ、シグナム」

一度動き始めた口は止まらない。
溜め込んだ想いを吐露し続ける。

「シャマルも、ザフィーラも、ナイブスも……はやてだって心配してた。あん時からだ。お前がアイツと二人きりで喋ったあの時から、何か変だ」

語尾が段々と荒がっていく。
理性の歯止めが効かなくなってきていた。

「どうしたんだよ、シグナム……どうして何も言ってくれねえんだよ!」

そして、爆発する。
シグナムへと振り返ったヴィータの顔には、怒りと悲しみがない交ぜになった不思議な表情が張り付いていた。

「私達は家族だろ。何で相談しねえんだよ、何で一人で背負い込もうとしてるんだよ!
 シグナムがアイツに何を言われたのかは分かんねーよ。でも、一人で背負い込む事はねえだろ! 少しは私達を頼ってくれよ! アタシ達はそんなに頼りねえのかよ!」



86 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:36:26.08 ID:k+5KDjBC
語りきったヴィータは、瞳に涙を溜めながらシグナムを睨んでいた。
その瞳をシグナムは呆然と見詰める。
再び、沈黙が流れ始める。
重い、重い、沈黙が。

「……ごめん、感情的になりすぎた」

沈黙を破ったのは、やっぱりヴィータであった。
涙の溜まった瞳を下に向け、ゴシゴシと手で擦る。
ヴィータはそれきりシグナムに背中を見せて、寝室の方へと歩き去ってしまう。
その背中に声を掛けようとして、だが掛けるべき言葉が浮かばない。
ヴァッシュから聞かされた『闇の書』の事実は、絶対に語る訳にはいかない。
真実かどうかも怪しい所だし、聞いた事でヴィータもこの苦悩を味合わう事になる。
それだけは嫌であった。
だが、此処まで自分の事を心配してくれたヴィータをこのまま見送るのは嫌であった。
何か言葉を掛けてあげたい。
だがしかし、考えれどシグナムの脳裏に気のきいた言葉は浮かばない。
沈黙のまま、ヴィータはドアノブへと手を掛ける。
そして、ドアノブを下げる。
ガチャリという音が、いやに大きく響いた。

そこで―――何かを叩くような軽い音がなった。

音はリビングの一角にある窓から聞こえたものであった。
誰かが窓を叩いている。
こんな時間に、玄関からでなく裏窓の方から現れた時点で、怪しさは全開であった。
ヴィータの動きが止まり、不審気な表情で振り返る。
シグナムも警戒態勢に入り、レヴァンティンを発現させ装備する。
窓からはノックの音が鳴り続いていた。
シグナムが窓へと近付き、カーテンを引き上げる。

「や、おはよう」

其処には、鮮やかな金髪を天へとトンがらせた男・ヴァッシュがいた。
片手を上げ、親しげに挨拶を飛ばす男に、思わずシグナムの理性が吹き飛びかける。
このまま窓越しから、斬り伏せてしまいたかった。
それだけで頭痛の種の半分は消化できるように思う。

「……何の用だよ」

ヴァッシュへと声を投げたのはヴィータであった。
嫌悪の感情を隠そうともせず、敵意に満ちた瞳でヴァッシュを見ている。
手中の人形には指が食い込んでいた。

「伝えたいことがあってね」

ヴァッシュの視線がヴィータからシグナムへと移る。
シグナムの姿を見たヴァッシュは一瞬、目を細めた。

「……夕方、そうだな4時位にでも桜台の登山道にある広場へ来てくれ。この事はシグナムとヴィータとだけの秘密にして欲しい。待ち合わせにも二人できてくれ」

その時ヴァッシュの瞳に宿った感情が如何なるものなのか、相対しているシグナムにだけは理解できた。
恐らくは、謝罪の念。


87 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:40:15.03 ID:k+5KDjBC
口には出さねど、瞳は語っていた。済まない、と。
その瞳がどうしようもなくシグナムを苛立たせる。
謝るくらいなら、知らせなければ良い。
知らねば何も苦悩せずに済んだのに。
何も苦悩せず、主の救済に専念する事ができたのに。
思わず心が沸騰する。
心中を占めるその感情は、久しく感じていない『  』であった。
レヴァンティンを握るシグナムの手が震えていた。

「頼む、大事な話があるんだ。絶対に、絶対に来てくれ」

シグナムは感情を隠そうとしなかった。
『  』を表情に張り付けて、シグナムはヴァッシュを見る。
ヴァッシュにもシグナムを占める感情がひしひしと感じ取れた。
感じ取れて尚、口を動かす。

「……頼む」

シグナムもヴィータも、返答はしなかった。
ヴァッシュも返答を期待していなかった。
ヴァッシュはそれきり無言で歩き去っていく。
二人の守護騎士を、痛いくらいの静寂が包み込んでいた。







「……やはり動き出したか」

そして、とあるビルの屋上にてナイブズが一人呟いた。
徐々に活動を始めた海鳴市。その全てを見下ろすような形でナイブズは立ち尽くしていた。
表情に感情はない。無表情でただ海鳴の街を見下ろす。
何処へ向かうのか、車を走らせる人間。
携帯で誰かと会話しながら街を歩く、スーツ姿の男。
わらわらと人々で溢れかえる。
人々は時間の経過と共に、急激な勢いで増えていく。
まるで害敵の到来に巣穴から飛び出す虫螻のようだ。
ナイブズの表情が僅かに険しくなる。

「分かっているな。先に伝えた通りに動け」

次の呟きは決して独白ではなかった。
何時の間にやらナイブズの後方には二人の男が立っていた。
男達の姿は瓜二つで、顔に装備した奇妙な仮面が印象的な男達である。
男達はナイブズの言葉に無言で頷き、蒼色の発光現象に包まれて消えた。
転移魔法であった。



88 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:44:14.86 ID:k+5KDjBC
「……ヴァッシュ、お前の足掻きももう終わりだ」

そしてまた、独白が続く。
人々を見下ろし、人外の種は呟く。

「知れ。そして絶望しろ」

終焉を告げる宣告がなされた。
無表情の鉄仮面は愉悦の色へ。
ナイブズは歪んだ笑みを浮かべながら、訪れる未来に思い出してを馳せていた。







同日、昼過ぎの喫茶店・翠屋。
平日という事もあってか客はまばら。
現在、そんな翠屋のレジに高町士郎は立っていた。
とはいえ客もいないので行う事はない。
クリスマスに向けてのケーキ仕込みも順風満帆で、特別昼の時間を削ってでも行わねばいけない事などなかった。
現状を端的に現すならば『暇』の一言である。
監視役の桃子も今は買い出し中だ。
客入りが激しくなる午後まではノンビリ過ごそうかと考えながら、士郎は視線を窓の外へと向ける。
そこでは箒を持った箒頭が欠伸をしながら、店先を掃除していた。
彼が高町家に来てから既に1ヶ月程が経過している。
付き合った時間はそう長くはないのに、彼は面白いほどに周囲に溶け込んでいた。
身体を傷だらけにしながらも、地獄のような世界を旅してきた男。
『人間台風』の異名で、国家予算並みの懸賞金をその首に懸けられた男。
今の彼からは想像もできない、というのが士郎の正直な感想であった。

「士郎さ〜ん、店先の掃除終わりました〜」

間の抜けた声が響く。
温和な笑顔で入店するヴァッシュが目に入った。
そんなヴァッシュに士郎はハァ、と溜め息を吐く。
思わず呆れ顔で士郎は口を開いていた。

「ヴァッシュ君。君、また何か思い詰めてるだろう?」

虚を突かれたヴァッシュはポカンと口を開けてその言葉を聞いていた。
そんなヴァッシュに構わず、士郎は言葉を続ける。

「君は楽観的に見えて、中々に悩み易いようだね。せっかく良い表情になったと思ったのに、最近また何かに悩んでる。今日は特に、だ」

言葉を区切り溜め息一つ。
首を左右に振って、両手を掲げる。
やれやれ、とその動作が語っていた。

「……今日、何かを決心したんだろう? 僕には何も分からないけどさ、でもアドバイスくらいは出来る。
 ―――自分が後悔しないようにすると良い、それだけさ」

そして、満面の笑みで士郎はヴァッシュに言った。
その言葉はヴァッシュの心に、どのように届いたのだろうか。
ただヴァッシュは茫然と士郎を見ていた。


89 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:49:47.81 ID:k+5KDjBC
「応援してるよ。全てが終わったらまた酒でも飲もう、月でも見ながらね」

ヴァッシュの表情が徐々に変化していく。
茫然に段々と感情の色が灯る。
表情を覆う感情は喜びだった。
いつもの満面の笑みとは違った、薄い薄い微笑み。
でもそれは、士郎が今まで見て来たヴァッシュの笑顔の中で最も中身の籠もったものに思えた。

「楽しみにしてるよ」
「僕も……楽しみにしてます。ああ、楽しみだ」

男二人の昼過ぎはこうして経過していく。
魔法少女と守護騎士との約束の時まで、あと数時間であった。







「……大丈夫、これで上手くいく筈だ」

そして、夕刻の桜台登山道。
毎朝、魔導師の練習場として活用されている場所に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードはいた。
ベンチの一つに腰掛け、祈るように手を組みながら前方を睨む。
魔法少女と守護騎士との邂逅の場は整えた。
全てを知り合う邂逅の場。
互いの気持ちを通じ合わせ、誰もが助かる道を歩む。
八神はやても、この平穏な世界も救える、そんな魔法のような道。
それを、歩む。
魔法少女と守護騎士、全員でだ。
その第一歩、最初の邂逅を此処で成す。
ぶつかり合うだろう。苦悩もさせるだろう。明確な対立すら起こるだろう。
その道を歩むという事は苦難の連続なのかもしれない。
でも、それでも、この選択がエゴでしかないとしても―――その道を歩みたい。
それがヴァッシュ・ザ・スタンピードの選択であった。

「や、待ちかねたよ」

来訪者の登場に、逡巡と謝罪の念を胸の奥へと仕舞い込む。
ヴァッシュは朗らかな笑みを浮かべて、前を見た。
来訪者に視線を合わせて、ヴァッシュは軽い挙動で立ち上がる。
白銀の拳銃が陽光に照らされ、光った。

「来ると思ってたよ、ナイブズ」

淡い夕焼けを背に登山道から現れた者は、ナイブズであった。
人類の滅亡を夢見る、ある意味では至極純粋な心を持った男。
ヴァッシュとナイブズ、二人の人外が対峙する。

「此処でシグナム達を懐柔される訳にはいかんからな。少しの間、眠っていて貰うぞ、ヴァッシュ」
「ご自由に。俺も全力で抵抗させて貰うけどね」

返答と共にヴァッシュが拳銃を抜いた。
ナイブズも溜め息混じりに左手を掲げる。



90 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 09:50:56.12 ID:k+5KDjBC
「……考えを改めるつもりはないようだな」
「もちろん」

ナイブズの言葉にヴァッシュは笑みで応える。
ヴァッシュの言葉にナイブズは失意をもって応える。
次元を越えた世界にて対峙する二人の兄弟。
一世紀半にも及ぶ因縁に終わりを告げるべく、ヴァッシュは拳銃を握る。
此処で倒れても構わない。
この男さえ止めれば、彼女達は自らの足で先に行ける筈だ。
少なくとも高町なのははそうだ。
必ず最良の道を歩んでくれる筈だ。
そう信じられるから、ヴァッシュは拳銃を握れる。
ナイブズという底知れぬ強敵とも立ち向かえる。

「いくぞ」
「ああ―――」

自分は、命に換えても、この男を倒す。
何があろうと絶対に。
ヴァッシュは自身の右手に全ての神経を集中させる。
勝利を託すは、何千何万と引き金を引き続けてきた右腕。
数多の危機を救ってくれた早撃ちに全てを賭ける。


そして、ヴァッシュは右腕を動かそうとし、


「―――だが、今日お前の相手をするのは俺じゃあない」


直前、光が発生した。
白色の光の輪っか。
唐突に出現した光の輪が、ヴァッシュの四肢を空間に縫い付ける。
驚愕に染まった顔で見詰めるヴァッシュに、ナイブズは一言だけ告げた。


91 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 10:00:13.46 ID:k+5KDjBC

「眠っていろ、ヴァッシュ」

バインドから逃れようと必死に身体を動かすヴァッシュへと、衝撃が走った。
後方からの一撃であった。
身体の芯から力を抜き取られるような薄気味悪い感覚が、ヴァッシュを襲う。
脱力と共に意識が遠のいていく。
薄れる意識の中でヴァッシュは見た。
身体を貫通したかのように生えたる誰かの右腕と、右腕が握り締める光球。
この光景をヴァッシュは見た事がある。
闇の書の蒐集活動だ。


「目を覚ました時、そこは既に―――」


首を回し後方を覗くと、其処には見知らぬ男が二人いた。
顔に被った仮面が印象的な、瓜二つな二人組の男。
その内の一人が伸ばした手が、リンカーコアを抜き取っていた。


「―――終わりの始まりだ」

ヴァッシュは漆黒に染まる意識の中、ナイブズの言葉を聞いた。
彼の言葉通り、終わりの始まりが、始まった。



92 :リリカルTRIGUN氏 ◇jiPkKgmerY 代理投下:2011/05/22(日) 10:05:05.29 ID:k+5KDjBC
これにて投下終了です。
タイトルは「始まりの終わり」です。
前回はご指摘ありがとうございました。
細かい設定がちょくちょく抜けちゃいますね…気をつけるようにします。



リリカルTRIGUN氏投下乙です
最近、氏に影響を受けてトライガンを全巻読みました!
ヴァッシュもナイブズもどうなるのか、期待大です。
完結まで頑張ってください


>>80
自分もやってみたいけど、盛り上がるかどうか分からないって意見も分かる
まあ、現状じゃあ様子見だね
やるなら参加したいけど

93 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/22(日) 10:50:45.91 ID:JBxAhbmt
投下乙です
終わりの始まりか・・・

>>80>>92
基本「殺し合い」だからね
ただ他キャラとからませたいなら別の手段の方が良いからなあ

94 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/22(日) 12:20:25.55 ID:nKENCQSI
投下乙です。
終わりの始まりとは……これからどう展開されるのかが楽しみです

95 : ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/23(月) 13:54:35.01 ID:xLRz4ix/
14時以降に投下します。

【注意事項】
・悪の組織が百合人気を利用した世界征服を企み、その一環として他ジャンル否定を行ったりし、
なのは達がそれに抗うので作品全体を通してみると百合否定っぽく見えます。
・↑に伴い現状のアニメ界及びヲタを風刺する要素があります
・みんなふざけている様に見えますが、やってる当人達は至極真剣です。
・ディエンドの無駄遣い
・自分の好きなキャラがディエンドに勝手に呼び出されて使役される事に我慢出来ない人には不向き。
・少々オリも出ます
・今回は少々グロっぽい?



登場作品
・魔法少女リリカルなのはシリーズ
・仮面ライダーディケイド&仮面ライダーBLACK&歴代仮面ライダーシリーズ
・プリキュアシリーズ
・恋姫無双
・ブラック★ロックシューター(ディエンド的意味で)
・ハルヒ(ディエンド的意味で)

96 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/23(月) 14:00:46.02 ID:xLRz4ix/
 他の様々な世界でも百合ショッカーと、それに抗う勇士達の戦いが繰り広げられている事は既に
説明されていた通りであるが、百合生命体ユリシアの誕生とその力の行使の影響により
あらゆる世界で次々に百合戦闘員や百合怪人、百合厨達が活性化しますます大暴れをして
各世界の勇士達を押し圧倒し始めていた。

 さらに同じ頃、ある世界において精神が仮面ライダージョーカーの方に入っている為に抜け殻となっていたクロノを
担いで走るリンディと光夏海こと仮面ライダーキバーラの姿があった。そして彼女達の後には大勢の百合戦闘員が
物凄い剣幕で追い駆けていた。

「ユリー! ユリー!」
「大人しくなったと思ってたのに突然凶暴化して…一体何が起こってるんですか!?」
「私にも分かりませんよ!」

 そしてまた別所では仮面ライダー1号&2号&V3が凶暴化した百合厨達に取り囲まれ、
百合ショッカーライダー軍団やユリユリンダとの戦いで消耗した隙を突かれて圧倒されており、
同じく仮面ノリダーとめちゃイケライダーマンも凶暴化した百合厨に取り囲まれ、仮面ノリダーは
コントまがいな事をしながらも何とか頑張れてるから良いけど、めちゃイケライダーマンの方は
もう完全に袋叩きにされてしまっていた。

 東映スパイダーマンとイタリアンスパイダーマンもまた無数の百合厨や百合戦闘員百合怪人に取り囲まれていた。

「絶体絶命の危機に立たされようとも挫けぬ男! スパイダーマッ!」
「ファック! 百合ショッカー!(イタリア語だと思って下さい)」


 場所は戻って採石場。百合生命体ユリシアの力の影響によって活性化され、本来以上の力を発揮する
百合戦闘員や百合厨になのは達は思わぬ苦戦を強いられていた。

「淫獣をゲゲルしろ!」
「淫獣に股開いた中古をゲゲルしろ!」
「くっ! なんて力…。」
「なのはママもユーノくんも頑張って!」

 活性化に伴いより過激になった百合厨はなのはとユーノの所へ殺到し、釘バットや木刀を振り回す。
ユーノとなのはの二人が防御魔法を展開し、その中にかつて百合ショッカーに操られBLACKと
戦った時の傷によって戦える状態とは言えないヴィヴィオとアインハルトも含め守っていたのだが
百合厨は四方八方から凄まじい力で何度も釘バットや木刀をぶつけ、それは高い防御力を誇るはずの
二人の防御魔法すら突破せんと言わんばかりの勢いで迫っていた。

「くそっ! 倒しても倒してもキリが無い!」
「やはり奴を倒さなくては意味が無いのか!」

 百合戦闘員や百合怪人への対処を行いながらもディケイド達の視線はユリシアに向けられる。
相当数の百合怪人や百合戦闘員に取り囲まれ、見た目こそ子供ながら首領然と偉そうに踏ん反り返る
ユリシアの姿は異様な雰囲気を放っていた。

97 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/23(月) 14:01:46.84 ID:xLRz4ix/
「ええい! 邪魔だ! 時空管理局の一員として義妹の仇も兼ねてお前を取らせてもらうぞ!」
「クロノ君!?」

 クロノ・ジョーカーが走った。勿論行く手には相当数の百合戦闘員が立ち塞がるが
クロノ自身が持つ優れた魔導師としての技術と、ディエンドにライドされた複製とは言え
仮面ライダージョーカーの持つ身体能力と技を駆使してその隙間を上手く掻い潜り、
ユリシアへと肉薄していた。

「例え子供と言えど容赦はしないぞぉ!! ライダーパァァンチ!!」

 クロノ・ジョーカーの拳がユリシアの顔面に炸裂した…が…それだけだった。

「サイクロンジョーカーの半分しか無いジョーカーの力じゃ全然痛くないよ。」
「何ぃ!?」

 クロノ・ジョーカーの渾身のライダーパンチを顔面に受けながらユリシアは微動だにしない。
確かに仮面ライダージョーカーは仮面ライダーWサイクロンジョーカーの半分のパワーしか無いが
それでもパンチ力1.25トンと常人の域を遥かに凌駕している。だが、ユリシアはそれを
受けてなお平然としていた。

「確かお兄ちゃんは結婚して子供もいるんだよね〜? でもそれ、私がこれから作る百合の世では
重罪になっちゃうんだよね〜。よって一族郎党まとめて死刑!」
「うあぁ!!」

 次の瞬間、ユリシアの掌から放たれた衝撃波によりクロノ・ジョーカーは背後にいた百合戦闘員達を
弾き飛ばしながら吹っ飛んでいた。しかしユリシアの手は止まらず、槍状に形成したエネルギーの塊を
数本掌の上に出現させていた。

「これで串刺しになっちゃえ。」
「うっ!」

 ユリシアが軽く放ると共に猛烈な速度でエネルギーの槍数本はクロノ・ジョーカーへ迫る。
もはやこれまでか…とクロノ・ジョーカーは思わず目を閉じ、妻であるエイミィ、母であるリンディ、
そして二人の子供…カレルとリエラに心の中で謝っていたのだったが…その槍が届く事は無かった。

「ん? あぁ!」

 目を開いたクロノ・ジョーカーは驚愕した。そこには彼に代わってエネルギーの槍数本を受けて
全身串刺しになって真っ赤な血を流す長門有希の姿があったからだ。

「なっ! 何故そんな……僕を庇って…。」
「平気。」

 全身を串刺しにされてもなお長門の表情は平然としていた。それだけでは無い、串刺しにされた傷も
瞬時に回復…いや再構成されていたのである。

98 :なのは&ディケイド 超百合大戦 ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/23(月) 14:02:46.49 ID:xLRz4ix/
「お前は……人間じゃないのか…?」
「貴方は私が守る。」

 長門の掌から生じたエネルギーがユリシアへと猛烈な勢いで投げ込まれるが、それもユリシアに
届く前に消滅させられていた。

「『涼宮ハルヒの憂鬱の世界』の銀河系を統括する情報統合思念体が作った対有機生命体コンタクト用
ヒューマノイドインターフェース。まともにぶつかれば苦戦は免れないけど、でもその情報統合思念体の力も
この世界にまでは及ばない。貴女も果たして本気の何割の力が出せるのかな〜?」
「………………。」

 ユリシアはあざ笑うが長門は表情一つ崩さず攻撃態勢を取ろうとする。だが、そんな彼女をクロノ・ジョーカーが止めていた。

「待ってくれ! お前がとにかくただの人間では無い事は分かった…しかし…何故赤の他人である僕を庇ってくれたんだ!?」
「それは貴方が彼に似ているから…。」
「彼!? 彼とは一体誰の事だ…!?」

 クロノ・ジョーカーは叫んだ。長門の言う『彼』とは一体誰を指しているのかと…。

「私の正体を知りながら恐れず接してくれた彼…貴方は何処と無く彼に似ている…他人とは思えない…不思議…。」
「君の加わってるヘンテコな団体にいるあの男の事言ってるんだよね? 能力的に見ても立場的に見ても
私の作る百合の世界においては必要の無いゴミみたいな人間だよ。何故君程の者があんなのにご執心なのかな〜?」
「彼を愚弄する事は許さない…。」

 ユリシアへ向けて長門は猛烈な速度で突撃した。表情は一切変わらないポーカーフェイスであったが
その動きは激しく、何処か怒りにも思える様な物が感じられた。

「だから情報統合思念体の支援を受けられない今の君じゃ、百合怪人をあしらう事は出来ても私には勝てないって。」
「!」

 突撃も空しく、ユリシアの手刀によって長門の腕が、脚が次々に斬り飛ばされていく。
その度に真っ赤な血が迸って行くが…それも瞬時に再構成され元に修復される。

「凄い回復力だね。確かに君はそう簡単には殺せないかもない。でも、そんな君だって斬られれば
痛いはずだよね? 一体何処まで耐えられるかな?」

 ユリシアがニヤリと笑みを浮かべ指をパチンと鳴らした。その直後、刃を手に携えた百合戦闘員達が
四方八方から長門へ向けて殺到し、その刃を長門の全身の彼方此方へ串刺しにしていた。
勿論長門も瞬時に損傷部の修復を行うが、百合戦闘員も直ぐに長門の身体へ何度も刃を突き刺し貫く。
ひたすらにその繰り返し。これでも長門は顔色を変えずまず死ぬ事は無いが、それを間近で
見せられたクロノ・ジョーカーにとっては見てて心地良い物では無かった。

「ええいやめろやめろぉぉぉ!!」
「ユリー! ユリー!」

 クロノ・ジョーカーは長門を助けるべく駆けるが、多数の百合怪人や百合戦闘員に阻まれ
その対処に追われている間も長門はひたすら百合戦闘員に全身を斬られ刺し貫かれる無間地獄に陥っていた。

99 : ◆e4ZoADcJ/6 :2011/05/23(月) 14:05:25.30 ID:xLRz4ix/
今回は短いですがここまで。キリが付く所がここしか無かったので。
大人クロノの中の人も「彼」だったと言うお話。

それはそうと、ウルトラアクト版レオの購入によってレオクロスの野望がふつふつと…
でもそれをやるとレオ原作再現の為にリリカルキャラの大半が殉職してしまう事に…はてさてどうしましょうか…

100 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/23(月) 21:04:05.31 ID:bKHDLWUS
こんなの書いて楽しいですか?

101 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/23(月) 22:35:15.27 ID:eACEL5FN
ライダーの次はレオの思い出が汚されるのか
ウルトラ戦士で一番好きだったのに残念だ

102 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/23(月) 23:07:31.29 ID:jSE4IOiw
>>100
大丈夫だ、問題無い

103 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/23(月) 23:44:42.11 ID:XNgszyge
>>101
スルーしよう
イタリアスパイダーマンってなんぢょよ、なろうのにじファン行ったら大人気間違いないのにな

104 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 15:13:16.03 ID:HiR21oTH
心の狭い奴等ばっかだなこのスレw

105 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 15:29:03.85 ID:gATfOFOu
既に初代マン・帰マン・エース・ベリアルをやった人だから問題無いな。当時もレオネタをどうこう言ってた記憶ある。
エース・ベリアルネタはアンチ百合的な要素があったが(でも前にも言われていたけど当時は全然叩かれてなかったんだよな)
初代マン・帰マンネタの方はリリカルなのは本編と上手く当てはめたストーリーになってたから多分普通な内容になるんじゃないかと思う。

106 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 16:20:38.78 ID:at7Ekd3d
いつまでも引っ張んなよ

107 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 17:07:24.98 ID:HiR21oTH
変な偏見で見るから汚されたように見えるだけで別に変な事は無いからな

108 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 19:15:09.01 ID:ekMf+jv6
読まなければ、気にならないよ。

109 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 20:08:43.43 ID:gATfOFOu
存在自体が気に入らんって奴もいるからな。本音スレでやればいいのに。

110 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 20:40:24.24 ID:F9InKrqP
もうさっさと◆e4ZoADcJ/6は百合大戦終わらせてほしい
せっかくスレが良い雰囲気になりかけてもこれじゃ台無し
そろそろいい加減にしてくれ

111 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 21:08:57.17 ID:HiR21oTH
◆e4ZoADcJ/6が悪いのか、野暮な批判しかしない奴が悪いのか

112 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 21:27:30.86 ID:XDI0WXHN
気に入らない作品を書いてるSS作者を潰すようなことをしてたら、
他の作者まで書き込まなくなるぞ。頼むから、嫌なら読まないでくれ。
専ブラ導入したら簡単に見えなくすることができるだろう。

113 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 21:28:40.89 ID:7VtY2dqF
問題にしかならない作品を書いた◆e4ZoADcJ/6が悪い

114 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 22:05:01.31 ID:F9InKrqP
>>112
もう無理だろう
つうか、叩かれているの◆e4ZoADcJ/6だけだから黙って出ていけば全て丸く収まる
他の書き手も内心そう思っているんじゃないかな

115 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 22:08:37.91 ID:XDI0WXHN
>>114
そうして一人を追い出したら、また他の人間を追い出そうとする人間が出てくるだろうね。
ところで、何で読み飛ばせないんだ?

116 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 22:12:19.80 ID:7VtY2dqF
>>115
なんであんな作品をこのスレに投下させないといけないんだ?

117 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 22:21:15.46 ID:XDI0WXHN
>>116
ここは作品を発表するスレだから。
投下するなと言えるのは、なのはと他作品のクロス作品じゃないときか、
18禁作品ぐらいだろう。

118 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 23:00:11.70 ID:THLDjT6g
>>114
お前さんが出てけばおっけ

119 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 23:33:15.99 ID:F9InKrqP
なんでみんな百合大戦を許せるのか不思議だ

120 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 23:43:19.50 ID:6khCYgK6
百合大戦を許せるんじゃない。自分が気に入らないからってだけで排斥しようとする態度が許せないだけだ

121 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 23:56:40.67 ID:F9InKrqP
つまりみんなこのままで問題ないのか
それなら何を言っても無駄か

122 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 00:00:07.38 ID:umEOGoVO
そうそう無駄無駄、見切りを付けて出て行ったら?

123 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 00:09:51.18 ID:b7VYb/YY
>>121
お前さんは本気で百合大戦『のみ』をターゲットにしてるのかもしれんが、
世の中には愉快犯とかクレーマーとか呼ばれる人種がいるんだよ
そういう連中は一度追い出しに成功すると、味を占めて次のターゲットを探し出す
結局>>115の言う通りなんだよ。どんな作品であれ、『追い出し成功』という悪しき前例は作るべきじゃない

124 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 00:14:51.41 ID:TrCCNLZW
>「追い出し成功」という悪しき前例
・・・・本気で言ってるのか?
今更だろ

125 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 02:01:15.95 ID:Tjqw2xXI
そりゃこのスレも紆余曲折あったが、少なくとも、気に入らないってだけで一方的に追い出したことはないだろ


126 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 04:19:46.07 ID:Gn0xuMAh
>>119
リリカルなのはのファンの全員が百合マンセーしてるわけじゃないのと同じ事じゃないか。
ヘイトものなんて他に幾らでもあろうに、何故百合大戦だけがスレの悪意の矛先を一身に引き受けさせてるみたいに
叩かれるのかがわからん。ヘイトと言ってもリリカルなのは本編がどうこうと言うよりも
百合厨が登場してる時点でおまいら批判みたいなもんだからそれで怒ってるの?
でも、だとしたら逆に奴の狙い通りとも取れる。皆からマンセーされてる物を擁する事で
それを批判する者を悪人に出来るとかそういう文章があったじゃん。

127 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 07:30:54.71 ID:FtEz3zYi
>>119
読んでないから

128 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 09:23:55.58 ID:Ts+V0o+d
>>119
書いてる人にゃ悪いが、専ブラで見えなくなってるからな

129 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 11:20:03.40 ID:yk3vsejq
12時に投下予約します。

130 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 12:01:13.79 ID:1iBJQQEE
嫌いならレスつけてやる労力も惜しいだろうに、なんというツンデレ・・・

131 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:14:16.30 ID:yk3vsejq
投下します

第1話 遭遇

クルトとリエラが探索を開始し、まずは今クルトたちがいる部屋から出て廊下へと出た時だった。出会いがしらにいきなり大剣をつきつけられたクルト。
が、クルトにはその武器に見覚えがあった。その刀身は戦車砲弾を発射する大きな砲身と一体化しており、全体的に青いコーティングが施されていた。
この武器を使うのは…

「イムカ!無事だったか!」
「…なんだ、NO.7とNO.13か。驚かせてすまない」

濃紺の髪を持ち、それをリボンで後ろに縛った身長150cmほどの小柄な少女。彼女はNO.1(エース)ことイムカ。弱冠17歳にして422部隊最古参の隊員だった。
イムカは実力においてもNO.1であり、先ほどクルトたちに向けた専用武器『ヴァール』とともに数々の戦果を挙げてきた。

「NO.7、状況はどうなっている。自分たちは砂漠にいたのではないのか?」
「俺にもよくわからない。砲弾が間近で炸裂して閃光に包まれたと思ったらこの廃墟の中だ。イムカ、ほかの皆とは会っていないか?」
「あっていない。自分もつい5分ほど前に目覚めたばかりだ」

イムカもつい先刻目覚めたばかりでほかの隊員たちとは会っていなかった。ここが一体どこなのかを突き止める前にまずは隊員たち全員と合流することが
先決だとイムカに告げたクルト。

「問題ない」

と、ただ一言。イムカは隊員内でも1,2を争うほど無口で他の隊員たちとは必要最低限の会話しか行わずしかもそのほとんどが「必要ない」や
「いらない」、「興味ない」などといった否定的ニュアンスを含んだものだった。ただ、実力は随一であるため、隊員たちは彼女のことを信頼してはいる。
イムカが2人に合流したところで再び隊員たちの捜索を開始しようとした矢先だった。

「隊長!それにリエラにイムカ!無事だったか!」

3人の背後から声が聞こえた。驚いてクルトが振り返るとそこにいたのは、先ほどクルトにあきらめるのかと詰め寄ったNO.21、フェリクス・カウリー、
そしてそのフェリクスとともに隊員たちの世話役を買って出ているNO.32、ジュリオ・ロッソ、さらにNO.26、ジゼル・フレミングの姿があった。
フェリクスとジゼルは突撃兵、サブマシンガンを手に敵陣へと切り込み敵兵を駆逐する役割を担っている。
一方、ジュリオは対戦車兵。堅甲な装甲と大攻撃力を持ち、陸戦において圧倒的有利にある戦車に対して有効な対戦車槍を装備している。
先ほどの声はフェリクスのものだった。クルトら3人駆け寄り、合流する。

「フェリクス、ジュリオ、それにジゼル。無事で何よりだ。他の隊員たちとは会っていないか?」
「いや、会ってないな。それにここがどこなのかもわからないし」

ジュリオが額に手を当てながら答えた。だが、こうして3人と合流できたことはクルトたちにとって大きな前進だった。これで6人となり、
その内訳は偵察兵のリエラ、突撃兵のクルト、フェリクス、ジゼル、対戦車兵のイムカ、ジュリオ。屋内で対戦車砲をぶっ放す事態に出くわすとは
考えにくいが、何分ここは未知の場所。クルトたちの常識では推し量れないものに遭遇する可能性もある。慎重に行動するようにと指示し、
前衛をリエラとフェリクス、中核を対戦車兵のジュリオとイムカ、後衛をクルトとジゼルが務めることなった。


132 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:14:38.54 ID:yk3vsejq
リエラは偵察兵であるため視界が広く、
万一何者かが潜んでいた場合にもいち早く発見できるようにするためだ。そして、探索における武器はリエラの視界だけではなかった。

「ジゼル、君の嗅覚で何か異変に気付いた時はすぐに俺に報告してくれ」
「わかりました………隊長さん…………」

火薬や灯油・ガソリンをはじめとした燃焼促進剤の匂いに対してジゼルは異常ともいえる嗅覚をもっている。ジゼルによるとまだその気配はないようだが、
何者かが罠を仕掛けている可能性も否定はできない。そこで、そういった炎にかかわるトラップのエキスパートと言っていいジゼルがいれば
あらかじめ回避することも万一回避できなくとも、炎を知り尽くしているジゼルならばたやすく解除できることをクルトたちは知っていた。
そこからこのフロアを5分ほど探索したところで、再びジゼルが消えそうな声でつぶやいた。

「そういえば隊長さん………無線は通じないんですか……?」

その言葉にはっとする一同。突然の出来事に無線の存在を完全に失念していた。422部隊においてクルトが各隊員への指示と状況確認に使用する無線。
隊員全員が持っているもので、422部隊の戦車・ドレッドノートにも搭載されている。クルトは腰元に装着されているホルスターから無線を手にし、
戦車無線に周波数を合わせ、応答を求める。

「カリサ!カリサ!こちらはクルトだ!応答してくれ!カリサ!」

すると、ジージーというノイズが数秒流れたと思うと、無線からやわらかい女性の声が聞こえてきた。

「ああ隊長。今どちらですか?こっちはいま正体不明の部隊と交戦中です。なるべく早い合流をお願いします」

戦車長、カリサ・コンツェンの状況報告に愕然とするクルト。その報告を受けた直後、外から銃声が聞こえてきた。
廊下の窓から外を見渡すと、およそ500m先にて交戦中の422部隊戦車・ドレッドノートが主砲を発射しているところを目撃した。

「今状況を確認した!今すぐそちらに急行する!彼我戦力差はどうなっている?」
「隊長と、リエラさん、イムカさん、フェリクスさん、ジュリオさん、ジゼルさん以外の全員がこちらにいますから、不足ということはないです。
指揮もマルギットさんが代行してくれていますし」

マルギットが指揮をとってくれているのなら心強い。非常事態とはいえ、いくらか落ち着くことができた。マルギットとは、対戦車兵の
NO.33、マルギット・ラヴェリのことである。クルトと同じランシール王立士官学校を卒業し、階級は少尉を拝命。士官として部隊指揮を任命される。
しかし、帝国との戦いで作戦失敗を重ねたマルギットはその責任を取らされる形で422部隊に転属させられてしまう。その後紆余曲折を経て当初は
橇も合わなかった隊員たちの信頼を獲得。彼女がクルトの代わりに指揮を執った先頭においても勝利をおさめ、クルトにも認められる指揮官となった。
続いてクルトが無線で連絡を取ったのがそのマルギットだった。警戒態勢を維持しながらも全速力で現場へと急行するクルトたち。
走りながらクルトはマルギットと連絡を取り、更に詳しい状況を把握しようとした。ところが、マルギットから受けた報告によって再び愕然とする。


133 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:15:01.18 ID:yk3vsejq
「隊長!それが敵勢力はどうやら人間では無いようで、楕円形をした機械が独立して行動しています。まるで意思を持っているかのように!」
「…そんな馬鹿な!とにかく、俺がそちらと合流するまで指揮は任せた。それと、これからはナンバーで隊員たちを呼称するように」
「了解!隊長たちの一刻も早い合流をお待ちしています!」
「ああ、NO.33も頑張ってくれ。では、現場で会おう」

そうマルギットを励まし、クルトは無線を切り再びホルスターへとしまう。そして、廃墟から飛び出しドレッドノート号へと向けて駆けていく。

同時刻、時空管理局・古代遺失管理部機動六課隊舎司令室にて。司令室の大画面モニターにガジェットドローンが出現したのを確認し、
出現した場所を把握したのち、通信主任のシャーリーことシャリオ・フィニーノが機動六課フォワード陣に出撃要請を行おうとしたところだった。

「え、なにこれ…?」

その直後、ガジェット群とは明らかに違う反応を示す光点が大画面に映し出されたかと思うと、一つまた一つとガジェットを示す光点がその数を減じていく。
何が起きているのかシャーリーはすぐには理解できなかった。今回ガジェット群が出現した地点は臨界第八空港近隣に位置する廃棄された都市群だ。
4年前に空港を襲った大火災の影響を受け、再起不能と判断され打ち捨てられたビルが並び今は完全に廃墟と化している街並みであった。
そんな場所になぜガジェット群が現れたのかは不明だが、モニターを見る限りガジェット群と何者かが戦闘を行っているのは明らかだった。
しかもその数は一人二人ではなく、一小隊規模の人数がガジェット群と今も戦っている。シャーリーはハッとしたように通信士のアルト・クラエッタと
ルキノ・リリエに指示を飛ばす。

「アルト、現場の状況を映像に映し出してもらえる?それからルキノは八神部隊長を呼んでくれるかな?」

そう指示を受け、アルトが手元のキーボードを操作し、現場の映像をモニターに表示する。
最後にエンターキーを叩き、映像が大画面モニターに映し出される。

「完了しました!映像、出ます!」
「…え…?なにこれ…?」

モニターに映し出された映像を見てまたも言葉を失うシャーリー。今回はシャーリーだけではなく、司令室内にいたアルト、ルキノ、それに
部隊長補佐を務めるグリフィス・ロウランも同様に言葉を失ってしまう。それもそのはず、眼前の映像では見たこともない軍服を着た部隊が
この世界では違法とされている質量兵器を手にガジェット群と戦っていたのだから。さらには、キャタピラで走行する巨大な砲塔が取り付けられた車。
シャーリーたちはそれを初めて目の当たりにするのだが戦車という質量兵器であった。その戦車の砲塔が20度ほど上に角度をつけたかと思うと、
バシュッと言う音とともに砲塔から砲弾が発射され放物線をえがくようにしてガジェット群に着弾。大爆発を起こし今のでモニターで確認する限り
5体のガジェットを撃破した。ドレッドノートは三種類の兵装を搭載している。主として敵戦車に対して発射する徹甲弾。これが主砲である。
続いて、草むらに匍匐していたり、土嚢に隠れている敵兵に対して有効な榴弾砲。先ほどガジェット群に対して用いたのがこれだ。


134 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:15:23.79 ID:yk3vsejq
最後に、接近してくる敵兵に対する迎撃に用いられる機銃。突撃兵の装備するサブマシンガン並みの威力があり、敵兵に対しては申し分ない威力を持つが
敵戦車に対してはほとんど無力と言っていい装備でありまた、こちらから攻撃を行う際は先の徹甲弾・榴弾砲を用いればいいので、迎撃以外に
用いられることはあまりない。散布界が広く当たり難いという欠点があるためだ。更に、威力の高い兵装のみならず堅甲な装甲と十分な機動力を備え、
ガジェット群の攻撃を受けてもびくともしていない。そして、その戦車をガジェットの攻撃から身を隠す防壁として使う歩兵たち。
移動する戦車を盾にすることで敵の攻撃から身を守りつつ、サブマシンガンの射程に入ったところで一斉掃射を浴びせ、ガジェットを駆逐していく。
そのほかにも、トランシーバーを手に他の隊員たちと連絡を取り合い、建物の影に隠れながら接近してくるガジェットを各個撃破してゆく。

「…すごい、もうガジェットの8割が撃破されてる…」

シャーリーがつぶやく。ここまで練度の高い部隊は時空管理局にもどれくらいあるだろうか。そう思ったとき、司令室のドアが開き茶髪の少女が入ってきた。

「ごめん!遅くなってしもうて!」

彼女こそこの機動六課部隊長・八神はやて陸上二佐だった。そして同時にそれを待っていたかのように濃紺の髪を後ろに束ねた少女がその小さな身体に
似つかない大きな、ほかの隊員たちが持っている武器とは明らかに違う兵器を構えたかと思うと、砲身が赤く発光し、次の瞬間その砲口から数条の赤い光線が
解き放たれ、残りの2割のガジェットもそれによって撃破されてしまった。―武装解放。彼ら422部隊が持つ3つの切り札のうちの一つだ。
彼女、もといイムカの持つヴァールの真の力を呼び覚まし、イムカの視界にとらえられている敵影をすべてロックオン。そしてトリガーを引くと
先ほどのように赤い光線が榴弾砲のような軌道を描きつつ敵に着弾。爆発を起こし敵を撃破するという仕組みだった。

「ガジェットドローンT型、全滅を確認しました」

アルトが422部隊の戦果をその場にいた全員に報告する。一方、422部隊の損害はというと…ほぼゼロと言っていい状況だった。
知能がそんなに高くないガジェットドローンT型が相手とはいえ、この結果にははやても舌を巻いた。

「地上本部よりも前にあの人たちにコンタクトを取りたいな。ルキノ、なのはちゃんかフェイトちゃんに連絡して、動ける方どっちか、あるいは両方に
 現場に向かってもらえるよう要請してくれへんかな。今もっとも早く現場に向かえるのがあの二人やろうし」
「了解しました。………八神部隊長、お二人とも動けるそうです。なので、現状を連絡し、現場に急行するよう要請しました」
「仕事が早くて助かるなルキノ。さて、じゃあ後はなのはちゃんとフェイトちゃんに任せよか」

そして、再び422部隊。ガジェットドローン群の襲撃を難なく退け、隊長のクルト以下、隊員21人は廃棄されたビル群の中でこれまでの状況を整理していた。
まず、ここはどこなのか。また、さきほどの襲撃者は何者なのか。そして、これからどうすべきか。当然というべきか、隊長のクルトがまず最初に議題を提示した。

「みんな、突然の事態にも動じずに冷静に俺の指示に従ってくれたことに感謝する。さて、まずはこれまでの流れを整理しようと思うのだが…」
「えっと、なぜか正規軍から攻撃を受けて、砲弾が私たちに着弾したと思ったら、体には傷一つついてなくて、気が付けばここにいたんですよね


135 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:15:45.64 ID:yk3vsejq
NO.24 アニカ・オルコットがすべての始まりを語る。よく言えば活発、悪く言えば落ち着きがない少女で年齢は17。突撃兵を務め、性格は謙虚で他の隊員たちが自分よりも少しでも優れた部分を持っていればそれだけで尊敬の対象となる。
アニカの語るように、砲弾が着弾した際の強烈な閃光に包まれ、気が付けばこんな見知らぬ場所にいた。
それが彼らの置かれた境遇だった。ここでクルトは因果律で考えることにした。因果律とは原因と結果の関係のことであり、わかりやすく言えば
道を歩いていて何かに躓き転んだという原因と、膝を擦りむいたという結果、この関係が因果律である。
つまり、先ほどアニカが語った砲弾の着弾またはそれによる閃光を原因だと仮定するならば、その結果超科学的な力が働き、422部隊をこの未知の場所に
飛ばしたと考えられる。クルトはこの考えを隊員たちに話した。するとそれに反論するものがあった。NO.12 ヴァレリー・エインズレイである。
422部隊でも1、2を争う頭脳の持ち主で年齢は28。偵察兵を務め、持ち帰った情報をもとにクルトらと作戦立案を行う才女である。

「隊長、いくらなんでもそれは荒唐無稽すぎるのでは?」
「だけど、隊長の言うように現に僕達はこうして未知の場所にいる。ヴァレリーさんはそれ以外に僕達がこんなところにいる理由を説明できるんですか?」

ヴァレリーにさらに反論したのは、NO.45 セルジュ・リーベルトだった。422部隊で唯一少年と呼べる隊員で年齢は18。本来は支援兵だったのだが
クルトにその卓越した射撃の腕を見込まれ、狙撃兵へと転向した。確かにセルジュの言うように現時点でクルトの考えを妄説だと切り捨てられる根拠はなく、
ヴァレリーも反論することはできずに口をつぐんでしまった。すると、唐突に口を開く者があった。

「ここがどこか、なんで俺たちがここにいるのかなんて考えても仕方ないさ。それよりもさっき襲ってきたあいつら、ありゃ何モンなんだい?」

そう語るのは、NO.25 セドリック・ドレーク。悪知恵が非常によく働き、また銃器の扱いにも非常に長け、体力も非常に高いため頼りにされている突撃兵で
年齢は47になるが、その正体は窃盗、強盗、殺人までありとあらゆる犯罪を重ね、逮捕と同時に処刑台直行が確定している完全無欠の犯罪者である。
セドリックの言うようにここがどこかなど考えていても仕方ない、というか答えを出すにはあまりにも情報が不足していた。
先ほど襲ってきた襲撃者。あれは何者なのか。そこらじゅうに転がっている襲撃者の残骸を調べてみても、中は見たことのない部品がたくさん詰まっていて
人が入れるスペースがあるとはとても考えられない。となると、この機械が意思をもって422部隊を襲ったということになるのだが、問題なのはクルトたちの
世界にはこんなものを作る技術力は存在しないということだった。何せ航空機ですらまだ実用段階には至っていないのだ。
ということは、先ほどの議論の答えの一つとして導き出されるのは、ここはクルトたちの世界ではないということだった。

「にわかには信じられん話だが認めるしかないのだろうな。待て、問題はほかにもあるぞ。これらが機械だということは当然、作った側がいるということだろう?」

NO.16 エイダ・アンゾルゲの言葉にハッとした表情になる隊員たち。エイダはセドリックの422部隊入りを知り、あとを追うように422部隊に入隊した
筋金入りの刑事で、年齢は28になる。刑事だけあり射撃の腕は超一流で、セルジュに勝るとも劣らず、結果422部隊の狙撃班をセルジュとともに任されている。
エイダの言葉通り、機械は人の手によって作られるものであり、今回の襲撃者を作り出した何者かが、422部隊をイレギュラーとして排除しようと
差し向けたものと考えられる。しかも、数を考えるに量産化に成功しているのは確実で今後これらの改良版が出てこないとも限らず、これからの
行動に慎重さが求められることとなった。一様に不安げな表情を浮かべる隊員たちをよそに、常にマイペースなジゼル・フレミングが独り言をつぶやいた。


136 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:18:13.37 ID:yk3vsejq
「これからどうしよう……」

そう、422部隊にとって今もっとも重要なのはこれからどうするかである。先ほどの襲撃者の調査によりここがクルトたちの世界ではないことが
判明したが、今後もこの襲撃者に襲われる可能性は高い。幸い、422部隊の拠点となる移動車両一式は先ほどの戦いでも傷一つつくことはなかった。
これを拠点としこの世界を調査しつつ元の世界、彼らの故郷ガリアへ帰る方法を模索することになるのだが…クルトがカリサにあることを尋ねた。

「カリサ、弾薬や燃料はあとどれだけ残っている?」
「救出任務に赴く前に補給を受けたばかりですからまだ十分な量が残っていますよ。ですが、無駄遣いは厳禁です」

NO.63 カリサ・コンツェンは戦車長のほかに軍の元兵站部所属として物資担当係を任されている。ちなみに422部隊で唯一年齢が明らかになっていない。
また、美人ではあるがかなりの毒舌家で、営業スマイルでえげつない発言を連発したりする。
物資の量は十分だが、弾薬・燃料には限りがあるため極力戦闘は避けたい。そのためにはこうして全員で行動するよりも、部隊を3つに分け分担して
調査する方が効率的かつ見つかるリスクも少なくなる。だがもし発見された場合、少数では対処しきれないかもしれない。
悩みどころであり、ここが隊長であるクルトの決断力によった。腕を組み、冷静に思考をまとめるクルト。
そんな時、呆然と空を見上げていたNO.56 ダイトが何かに気づき、隊員たちに話しかけた。

「おい、みんな…空から何か来るぜ…」

イムカと同じ濃紺の髪を持ち、皮肉屋で厭世的な27歳。422部隊一の長身で191cmを誇る。手先が器用であるため技甲兵を任され、地雷の撤去や土嚢の修復、手にした軍用レンチで鉄扉や敵の守るコンテナを破壊する役目を担う。
ダイトから報告を受けたクルトは一時思考を中断し、隊員たちに指揮を飛ばす。

「突撃兵、技甲兵、機関銃兵は戦車を背にする形で戦闘配備、対戦車兵は戦車の両翼に展開、偵察兵はいざという時の退路を捜索、狙撃兵は
建物に上り見えない位置から狙撃体制に着いてくれ」

クルトの指示が飛ぶと、隊員たちは即座に配置に着いた。偵察兵はリエラ、ヴァレリーら6人を擁するため、一人でも退路を見つけてくれればというクルトの狙い。
突撃兵、機関銃兵で弾幕を展開しつつ、敵の反撃はダイトが展開する巨大な盾に隠れてやり過ごし、更に背にした戦車、対戦車兵による第2波攻撃。
さらに周りの建物に配置に着いたセルジュとエイダの援護狙撃。2人の征道射撃は標的を確実に打ち抜く。無駄のない作戦だった。
そして、ダイトが発見した『何か』がゆっくりとクルトたちの眼前へ降り立った。なんとそれは人であり、一人は全体的に白を基調とした服にところどころ
アクセントとして青が使われた服と、それに合わせた長いスカートを身にまとい手には何やら赤い宝石のようなものが付いた金色の槍のようなものを装備している
茶色の髪をツインテールにまとめた綺麗な顔立ちの女性だった。
もう一人は対照的に黒を基調としたスーツのような服に同じく黒のミニスカートを身にまとい、肩からは純白のマントを羽織っていた。
刀身そのものが光輝く大きな剣を装備し、金色の髪を黒いリボンでツインテールにまとめたやはり綺麗な顔立ちの女性だった。
2人とも年齢はクルトと変わらないように見えた。そして、茶色の髪の女性が口を開いた。包み込むような、優しい口調だった。

「私は時空管理局古代遺失管理部機動六課所属、高町なのは一等空尉です。あなたたちの名前と所属を聞かせてもらえますか?」


137 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:19:35.59 ID:yk3vsejq
高町なのはという女性が語る時空管理局という組織に関してクルトは全く聞き覚えがなく、やはりここは自分たちの住んでいた世界とは違うのだということを確信した。
しかし、彼女の問いに答えることはできない。なぜなら

「悪いが、軍規により我々の所属と名前を名乗ることは一切禁じられている。残念だがあなたの問いに答えることはできない」

そう、ガリア軍において彼ら422部隊は存在しない部隊として扱われるため時には本来非合法である国外任務も任せられるため、
所属と名前を名乗らなければガリア当局は一切関与していないとシラを切れるというわけだ。
先ほどクルトがマルギットにナンバーで互いを呼称するようにと命じた理由はここにあるのだ。すると、ここで金色の髪の女性が話に割って入る。

「ですが、ここはあなたたちの住んでいた世界とは違います。ならばあなたの語る軍規もこの世界にまでは及びません。
それに、何もわからないとあなた方を元の世界に送り届けることもできませんよ」
「…あなたは?そしてなぜ我々がこの世界の住人ではないと断言できる?」
「…申し遅れました。私はなの…高町一等空尉と同じ所属の、フェイト・T・ハラオウン執務官です。どうぞよろしく。それと断言した根拠ですが」

そしてフェイトが語る根拠。フェイト達の世界、ミッドチルダではクルトたちの持つ武器は総じて質量兵器と呼ばれ違法とされているのだ。
つまり、それを軍が持っているはずがない。クルトは先ほど軍規と口にした。つまりその軍規とは、元の世界における軍規だと判断した、というのである。

「なるほど。確かにあなたの言うように我々はこの世界の人間ではない。さて、俺も自己紹介をしよう。ガリア公国正規軍第422部隊所属、NO.7だ。よろしく頼む」
「セブンさんというお名前なんですね。ガリア公国という国に聞き覚えはないですが、何とか無事元の世界に送り届けられるように努力しますね」
「いや、NO.7は名前ではなく…」

今度はクルトが語る番だった。自分たち422部隊は配属された瞬間から名前をはく奪され名を名乗ることを禁じられる。
だが、部隊内には相手を認めた場合に限り自らの名前を打ち明けるという習慣が出来上がっている。
クルトも422部隊に配属された直後は、認める認められない以前に隊員たちが彼の命令・指示に従わず戦闘に参加しないということすらあったが、
グスルグという一人の男の助力を得て隊員たちの信頼を獲得していき、今ではクルトはNO.56 ダイト以外全員の名前を把握している。

「…つまり、私たちのことを認めてはいないと?」
「ああ、会って間もない相手を認めろ、信頼しろという方が無理な話だろう。それで俺たちはこれからどうなる?」

クルトの答えになのはが悲しそうな表情を浮かべる。しかし、そこは不屈のエースオブエース。すぐに表情を切り替え、クルトの問いに答えを返した。

「あなたたちは私たち機動六課が保護します。あなた方の身の安全は保障しますので安心してください。それと、NO.7さん」
「なんだろうか」
「これからあなたたちと接していく中であなたたちが私たちを認めてくれた時には、名前を教えてくれますか?」
「もちろんだ。それが俺たち422部隊の流儀だ。さて、リエラたちを帰投させないと」

そしてクルトは無線を取り、リエラたち偵察班、セルジュたち狙撃班に合流するように命令する。だが、クルトはまだ知らなかった。のちにJS事件と呼ばれるこのミッドチルダを揺るがす大事件に巻き込まれることを。


138 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/25(水) 12:23:20.61 ID:yk3vsejq
投下終了です。終わった後に気づきましたがダルクス人についての記述が抜けてましたね。
後の機会ということで。

139 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 16:35:59.24 ID:hGgpoS2Z
ヴァルキリアとのクロス?
最初に投下する際はクロス先を書いてくれると嬉しいかな
ネタばれの危険があったり短編とかなら別にいいけど

140 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/25(水) 19:08:37.03 ID:Tjqw2xXI
>>138
乙です
前にプロローグはあったね
でもタイトルは明記するようにした方がいいと思います


141 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/05/26(木) 01:11:08.13 ID:coRNG6JW
1時20分ごろから投下しますー

142 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/26(木) 01:21:28.81 ID:coRNG6JW
 芝浦から出たらいったん環状内回りを一周し、浜崎橋を右へ折れて横羽線に乗る。
 クロノはいつも横須賀へ帰るときはこちらのルートを使っていた。
 湾岸に比べて道幅が狭く、コーナーも多い横羽線は高速テクニカルコースのレイアウトをしている。
 現在の日本のチューンドカーのレベルでは、スープラで湾岸ならば400km/h台に手が届く。

 もっとも、そこまで行くにはそれこそ金を湯水のように注ぎ込んだ車でなければ不可能だ。

 スープラは中古車で100万程度からある。ベース車の価格よりも、それにどれだけつぎ込むことが可能かということだ。
 車体を丸裸にしてボディを補強しなおし、エンジンブロックから何からすべてを強化してビッグタービンを組み込む。
 そうすれば、スープラの2JZエンジンならば1000馬力オーバーが可能だ。

 しかし、今のクロノのように個人レベルのでのチューニングとなるとどうしても限界がある。
 エンジンの強化をするには加工屋に依頼しなければならないし、強化バルブやタービンキットを組むにしても、
素人の作業では組み付けや仕上げの精度など、どうしてもプロの仕事にはかなわない部分がある。
 それでも、このスープラはT78タービンを組み込み、市販のGセンサー付きデジタルメーターによる
簡易計測では、約700馬力を発揮していることが分かっている。
 冷却が追い付かず1分も全開にしていればタレてくる700馬力ではあるが、実際に300km/hを出すことが可能な車だ。

「2台くる──速いな」

 きらめく星のような小さな点光源。
 バブル景気はなやかなりし1980年代末、日本車で流行したプロジェクターヘッドランプだ。
 球形レンズを使うことでライトユニットを小型化し、エクステリアデザインの自由度を上げた形だ。
 現代の2000年代では、鋭角的な大型ランプユニットを採用する車が流行だが、当時の日本製スペシャリティカーたちは
発売から10年以上経ってもなお色あせない魅力を持っている。
 アメリカでも、チューンドカーブームの中心にいるのはそれら80〜90年代の車だ。

「R32GT-R!」

 白いGT-R。それにもう一台、同色の33Rが続く。
 2台はまるでアサシンのようなすばやいフットワークで隊列走行を見せ、あっという間にクロノのスープラに追い付いてきた。

143 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/26(木) 01:25:12.36 ID:coRNG6JW
 33Rがスープラをパスして前に出る。追い越しざま、ドライバーの姿が見える。

「リーゼ姉妹の個人レッスンというわけか……やっぱり何もかもお見通しか」

 2台のGT-Rはそれぞれスープラの前後につき、引っ張るような形での走りに入っていく。
 道を教えるように、それぞれの場所での走り方を教えるように。
 それもあくまでも追い込むのではなく、ありのままを見せるように。
 自分の意志でそのラインをトレースしようとしなければ、動きがかみ合わないまま違和感だけが残る。
 違和感のない走りができていたら、次はその理由を考えていく。

 事前に打ち合わせをしたわけでも、携帯電話などで会話をしているわけでもない。
 それでも、こうしてつるんで走ることで通じ合うものがある。

 クロノが首都高を走り始めてから、特にそれを知人に触れ回ったわけでもないのに、
この2台のGT-Rはクロノのそばに現れた。

 それは同じにおいを持つ者たちが自然と集まるように、獣が自分の縄張りに入ってきた者を確かめようとするように。

 神奈川エリアに入ると、次第に直線が長く速度が乗るようになる。
 GT-Rとスープラの最大の違いは駆動システムだ。エンジンは、極論を言えば出力の大小の違いしかない。
 FR(フロントエンジン・リアドライブ)のスープラに対し、GT-Rは可変4WDシステムを持つ。
 後輪のスリップを感知して前輪を駆動させ、軽快な運動性と安定性を両立させる、アテーサE-TSシステムだ。
 同じ速度でコーナーに飛び込んでも、立ち上がりの脱出速度はGT-Rが圧倒的に速い。

 路面に張り付くように。アクセルペダルを踏む足の動きと、後輪に荷重をかけて加速するスープラの姿勢をイメージする。
 ハイパワーFRを速く走らせるには、荷重移動を極めることがポイントだ。
 前輪が操舵を、後輪が駆動を、それぞれ分担しているFRレイアウトは、特に荷重移動による操縦性の変化が極端に出る。
 前荷重をかけずに曲がろうとすればまるきり曲がらないし、後荷重をかけずに加速しようとすればたちまちスピンする。

 リーゼ姉妹にとっても、こうして出会うたびにクロノが上達していくのは目を見張ることだった。

144 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/26(木) 01:28:02.61 ID:coRNG6JW
 2台のGT-Rは金港ジャンクションでスープラと別れ、第3京浜へ向かった。
 彼女たち、リーゼ姉妹の根城は東京は福生市に居を置く米軍横田基地だ。
 いったん第3京浜経由で環状まで戻り、そこから中央高速へ乗って八王子まで行く。

 途中休憩のため、2台は第3京浜都筑パーキングへ滑り込んだ。

「アリア、ミルクティーでいい?」

 元気のいいロッテが自販機へ走る。
 彼女たちは実は軍属ではないのだが、横田基地に勤務している
ギル・グレアム提督の姪ということもあって基地内の家族住宅に住んでいる。

「知ってるアリア、クロスケのヤツ、六本木の外人パブでバイトすんだってさ、ブラックバードと悪魔のZ、
例の2台が引っ込んでる間に金貯めて、本気であのスープラやり直すつもりらしいよ」

「ああいうのはディスコっていうんじゃないの?よく知らないけど」

「あたしだってよくわかんないけど、そーゆう需要があるんでしょ、そーゆうお店があるってことは」

 かなりグレーではあるが、それだけに給料はいい。育ち自体はいいので、
クロノなら面接も難なくパスするだろうとは予想していた。
 しかし、本気で働きだすとはさすがのロッテも意外だったらしい。

「真面目クンは反動ではっちゃけちゃうのかな?」

「真面目だからこそ、じゃないの?やる時はとことん、でもやめる時はスパッと、って。
見たとこ、仕事は仕事として割り切ってる感じよ」

「うーんアリアはそう見るかあ」

 並んだ2台のGT-Rは、R32とR33の違いはあれど、基本的には似た仕様のチューニングとなっている。
 R33がロッテ、R32がアリアだ。
 似た仕様の2台だが、走りの性格はずいぶん違う。
 ロッテはアグレッシブに攻めるタイプ、アリアは無駄なくタイトにまとめるタイプ。
 それでも、実際のところ突き詰めていくと速さは同じくらいになっていく。
 知り合いの米兵たちからも、双子姉妹ならではのコンビネーションと評されていた。

145 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/26(木) 01:31:22.40 ID:coRNG6JW
 リインはスカリエッティをナビシートに乗せ、湾岸で911を走らせていた。
 140km/hでのクルーズから、3速全開の加速でいっきに踏み込んでいく。
 フルスケールメーターの針は狂おしいほどに上昇し、数十秒ほどで300の目盛りを指す。
 大気の壁と重力で押さえつけられる車体は、路面のわずかな凹凸さえも数千倍に増幅して揺さぶってくる。
 それでも、911は路面をつかんで離さず、驚異的な安定性をもって疾走する。

「いいですね、今までと違いリヤがワンテンポ遅れません」

 走りながらの会話は、走行音がすさまじく、叫ぶようにしなければ声が聞こえない。

「足はOKかね。パワーはどうだね」

「文句ありません」

 つばさ橋を高架の向こうに望み、アクセルを戻す。
 狂気の重力から解放され、911はゆっくりと速度を落としていく。

「とりあえず300km/h出せるようにはなったね。だがもちろんこれで終わりではないよ。
今のは単にブーストを上げて足のセッティングをゴマカシただけだ。やるからにはタービンもサスも換えて、
エンジンをすべて組み直したうえできっちりセッティングを出す」

「ただ300出すだけではなくいかに早く300までもっていくか、ですね」

「今の湾岸のレベルはさらに上をいっているのだろう?」

 リインはハンドルに指先を滑らせる。
 この男、表情こそ変わらないもののまるで獲物を前にした猫のようにうずいている。

「時速200マイル、320km/h……今の湾岸なら360は出せなければ話になりませんね」

 実際はバトルとなればもっと低い(それでも驚異的な速度だが)スピードレンジで行われるが、
単独で最高速アタックをするならばもうスペック上でなら400km/hを超える車もいる。
 そういう記録狙いの車は、開通してまだ新しくよりスピードの乗りやすい伊勢湾岸へ遠征に行ったりするらしいが、
それでも、首都高、それも湾岸での走りが原点でありそして最終目標である。
 少なくともリインはそう考えている。

146 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/26(木) 01:36:08.14 ID:coRNG6JW
 しばらく黙っていたスカリエッティは、三ツ沢線に入ったあたりでやおら口を開いた。

「君が狙っている車は────あのスープラ、だろう」

 リインは横目にスカリエッティを見た。
 相変わらず不敵に笑っていて、腹の内を見せようとしない。
 それはあくまでも楽しんでいるように。
 本当は心の中では楽しくはないのかもしれない、あるいは自分のやっていることが
馬鹿馬鹿しく思えてくるかもしれない。
 それでもなお、スピードにのめりこむことをやめることができない。

 この男と同じ目をした人間を、リインはもうひとり見たことがあった。

「今はまだ……。ですが、いずれ上がってきます。
いずれ私の前に立ちふさがろうとするのなら、その時は──
──その時は、証明してやります。
湾岸の黒い怪鳥、ブラックバードこそが首都高の帝王だと」

 くくく、とスカリエッティは再び笑った。
 知らない人間からすればとんだ大見得だろうが、それでもそれなりのプライドは持っている。
 二つ名を付けられるというのは、それなりの人間でなければ受けられないリスペクトなのだ。

 そう、リスペクト──

 多くの者たちの、憧憬と、畏怖。
 それを一身に集めるというのは、ある種の人間たちにとっては究極の欲望である。
 認められたい。誰もが羨む人間になりたい。

 それは一般的には、アイドル、すなわち芸能界で成功することなのかもしれない。
 しかし、最近湾岸で見たあの少女は、少し違う気がした。

 もちろん歌は好きなのだろう。同僚の医師や、看護婦たちがたまに
話題にあげているのを聞くとそんな気はする。
 だがそれと同じくらい、いやそれ以上に、走ることも好きなのだ。
 そこには、もはや単なる欲求を超えた何かがある。
 リインもまた、走りに向かう自分の気持ちを、単なる欲望の表れとは思えずにいた。

 いつしかそれが当たり前のようになっていた。

 言葉にするなら、それがいちばん直観的だった。もはやそれは自分の生活の一部だった。
 仕事をして収入を得るのは何のためなのか。収入の多寡が人間の価値なのか。
 違う。収入は単に生活の手段に過ぎない。そしてその生活とは、
すなわち収入を何に使うかというのは、自分の場合で言えば走りだ。

 彼女もそうなのだろう。オリコンで何位になった、声優として初の云々、
そんなのは単なる通過点でしかない。
 そうやって得た手段の先に、湾岸での走りがある。
 それが彼女と自分との、アイドルと医師という全く別の世界に生きるはずの人間を、
引き合わせた交差点なのだろう。

147 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/26(木) 01:42:24.01 ID:coRNG6JW
今日はここまでです

グレアムさんの故郷イギリスはいろんな名車がいますねー
ロータスヨーロッパにグリフィスブラックプール
リスターストームにタスカンスピードシックス

そういえばリーゼ姉妹はロータスエリーゼが元ネタ?(汗)

148 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/26(木) 14:08:00.81 ID:eg76jyNl
>139-140
了解しました。次回から第〜話の前にタイトルを入れるようにします。

>147
投下乙です。この話を読んでると無性にGT(グランツーリスモ)をやりたくなるのは僕だけでしょうか。

149 :一尉:2011/05/28(土) 21:13:02.94 ID:3eabIeNR
支援b

150 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:24:02.48 ID:jPm+ezGE
リリカルTRIGUN20話、0時に投下します。

151 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:44:03.58 ID:jPm+ezGE
予定時間からは少々早いですが、他に投下される方がいなさそうなので投下させて頂きます

152 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:44:47.37 ID:jPm+ezGE
「……来ないね、ヴァッシュ」
「バイトが長引いてるのかなぁ。それにしても遅い気けど」

高町なのはとフェイト・テスタロッサの二人は、夕刻の登山道広場にて並んでベンチに腰掛けていた。
冬場という事もあり日が落ちる時刻も早い。
時間が経過するにつれ陽が落ち、周囲の気温も低くなっていく。
ホウと、吐いた息は純白に染め上がっていた。
寒気に包まれながら二人は待ち人の到来を待つ。

「なのは、ヴァッシュの話って何だと思う?」
「うーん、何なんだろ。大事な話だとは言ってたけど」

ヴァッシュから告げられた待ち合わせ。
彼の言う大事な話と一体何なのだろうか。フェイトにもなのはにも予想がつかない。
ただヴァッシュがあれだけ言うという事は、本当に大事な話なんだろう。
あれこれ思考してみながら、なのはは空を見上げる。
静かな赤焼けの空には、まだ夕刻だというのに真ん丸な満月が光っていた。

「でも、ヴァッシュがこういう事を言い出すのって珍しいね」

なのはに釣られて空へと視線を移しながら、フェイトがポツリと呟いた。
夕焼けの中、満月を見上げる二人の少女。
何処か幻想的で、とても平穏な光景がそこにはあった。

「フェイトちゃんもそう思う?」

にゃははと苦笑を浮かべながら、なのはもフェイトの言葉に同調する。
寧ろ普段は苦笑を浮かべられる側のなのはである。
僅かな呆れを含んだその苦笑は、なのはにすれば珍しい部類の表情であった。

「ああ見えて、ヴァッシュって余り人に悩みを打ち明けるタイプじゃないから。一人で抱え込んじゃう質だ」

フェイトもまた苦笑する。
悩み事を一人で抱え込み、誰も巻き込む事のないよう、誰にも心配を掛ける事のないよう、一人で解決しようとする。
まるで何処かの誰かを見ているようであった。

「ふふっ、フェイトちゃんと似てるかもね」
「それを言うなら、なのはにだって似てるよ。そっくりだ」

なまじ常人より力を持つばかりに、余り人を頼ろうとしない。
信頼してない訳ではなく、ただ巻き込みたくないから、そうする。
それは、二人の魔法少女とも何処か通じているようにも思えた。
言葉を交わして、肩を寄せ合って、似たもの通しの二人が笑顔を浮かべる。

「遅いね、ヴァッシュ」
「ねえ」

二人は顔を見合わせて笑い合いながら、ヴァッシュを待つ。
寒空の下を長時間待たされ、だがしかし、その言葉に辛辣な色はない。
時間がとても穏やかに過ぎていく。
寒空の彼方では、世界を照らす恒星が一日の役目を終えて地平へと沈んでいく。
一日がまた終わろうとしていた。
暖かく平穏な一日が、また終わる。
そして太陽が沈み、広場の街頭が音をたてて点灯したその時―――遠くから足音が聞こえてきた。

「ヴァッシュさん、遅いですよ」

と、なのはは頬を膨らませて、フェイトはそんななのはに苦笑しながら、足音のした方へと振り向く。
待ち人のようやくの到来かと思われた瞬間。
だがしかし、其処にいたのは二人にとって思いも寄らぬ人物達であった。

153 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:45:40.53 ID:jPm+ezGE

「シグ……ナム……」
「……ヴィータ、ちゃん……」

闇の書の守護騎士。
鉄槌の騎士と烈火の騎士が、其処にいた。
呆然とした表情で守護騎士達を見るなのは達に、守護騎士達もまた虚をつかれたように動きを止める。
この遭遇は守護騎士達にとっても予想の範囲外の事。
街灯に照らされる広場を、重い重い静寂が支配する。
予想外の出会いは両者から言葉を奪い去っていた。
沈黙の中、ギリという鈍い音が聞こえる。
歯を噛み締めた音。その音は烈火の騎士から届いたものであった。
直後、事態が急変する。


「はあああああああああああああ!!!」


咆哮と共に烈火の騎士が斬り掛かってきた。







寒空の下ベンチに腰掛ける二人の魔法少女を見て、シグナムは思った。
ただ一言、裏切られた、と。
その結論は、ヴァッシュへの不信が積み重なって導き出されたものであった。
待ち合わせの場所にいた管理局の魔導師。
肝心の男の姿は何処にもなく、いるのは管理局の魔導師だけ。
あの男は自分達の事を管理局には伝えないと言っていた。
なのに何故、管理局の人間がこの場にいる?
何故、管理局の魔導師が待ち構えている?
まるで、誘き出されたかのようだ。
大事な話があると嘘ぶき、待ち合わせの場所へと管理局の魔導師を待機させ、一網打尽とする。
そんな意図が、見え隠れする。

「はあああああああああああああ!!!」

だから、シグナムは激昂した。
はやてを救いたいとのたまいながら、結局は管理局に情報を流した男に対して。
あれだけの事をのたまいながら、結局ははやてを見捨てた男に対して。
世界の滅亡と主の救済、その選択を持ち掛けておいて、結局は自分達を裏切った男に対して。
シグナムの感情が、爆発する。
積もり積もった鬱憤をも巻き込んで爆発した感情は、既に理性で引き止めるものではなかった。
男に対する憤怒の感情は眼前の魔法少女達へとすり替わり、シグナムは行動を開始した。
レヴァンティンを起動させ、騎士甲冑を纏うシグナム。
一瞬の躊躇いもなく、対話の暇すら与えようとせず、シグナムは剣を振るった。
全力で地面を蹴り抜き、宿敵の魔導師との距離を詰め、レヴァンティンを横一閃に振り抜く。

「くうッ!」

唐突の襲撃に、だがしかしフェイトの防御はギリギリのところで間に合った。
右手を掲げて殆ど反射的に防御魔法を形成し、シグナムの刃を阻止する。
とはいえ、急場の防御魔法でシグナムの渾身の一撃は止められない。
シールド魔法を挟んで伝わる強大な剣圧に、フェイトの細躯が後方へと大きく弾かれた。
その身体が後方の森林へと激突する寸前、フェイトを抱きかかえたのはなのはであった。
バリアジャケットに身を包み、レイジングハートをアクセルモードで装備する。


154 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:47:01.71 ID:jPm+ezGE
「待って、話を聞いて下さい! 私達は……!」
「あの男に言われて来たのだろう! なら、交わす言葉などない! お前等は我らの敵だ!」

取りつく島もなく、シグナムは烈風の如く攻撃を仕掛けてくる。
その熾烈な攻撃は前回の戦闘時とはまるで別人のようなもの。
がむしゃらと言えば聞こえは悪いが、シグナムの剣術から繰り出される攻撃は疾風怒涛の勢いであった。
その攻撃は、ただ疾く、重い。
剣の矛先は、フェイトを庇うように立ったなのはへと向けられている。

「盾!」

掲げた桜色の防御魔法に、重い重い剣戟が突き刺さる。
充分な魔力を込めた盾だというのに、僅かに軋む様子が窺えた。
重い一撃であった。
シグナムを突き動かす感情が、なのはにも伝わる。
だが、なのはには理解しきれない。
何故、シグナムが此処までの感情を持って敵対するのか。
前回の戦闘から今回の間に、何があったのか。
疑問に覚えど、答えを見出すには判断材料が少な過ぎる。

「だりゃああああああああ!!」
「なのは!」

シグナムの猛攻に耐えるなのはに二つの声が掛かる。
絶叫と共に突撃してくる鉄槌の騎士に、臨戦態勢を整え戦線に介入する雷光の魔導師だ。
横合いからなのはに襲い掛かるヴィータを、フェイトの戦斧が食い止めていた。
なのはとフェイトが目を合わせて、一度頷き合う。
直後、なのはを守護していた防御壁が爆音と共に弾け飛んだ。
クロスレンジで戦闘していた四人を巻き上がった爆煙が包み込む。

「ヴィータちゃん、シグナムさん、話を聞いて。私はあなたとお話がしたいの!」

煙を切り裂いて宙に舞い、魔法少女達は守護騎士から距離を取る。
離した間合いを挟んで、なのはが言葉を飛ばした。

「うるせー! お前らに話す事は何もねえって、言ってんだろうが!」

だが、言葉は届かない。
願いの言葉はそれ以上の憤りを持って弾かれる。
何故ヴィータがそれだけの憤りを覚えているのか、なのはには分からない。
敵意が桁違いに高まっている。
その敵意の太源が、ヴァッシュ・ザ・スタンピードとの邂逅だという事をなのは達は知り得ない。
知り得ないからこそ、困惑する。
そして、なのは以上の困惑を覚えていたのはフェイトであった。
フェイトと相対しているシグナムは、ヴィータと比較しても段違いな程の激情を表出している。
前回までの冷徹な面持ちなど何処かに消え去っていた。
憤怒を顔に張り付かせ、怒りに肩を震わせている。
まるで別人の如く形相であった。

「シグナム、一体……」
「預けた決着は今しばらく後にしたかったが……すまんな、自分を抑えられそうにない!」

フェイトの問い掛けを遮るように、シグナムは動く。
次いでヴィータも、なのはへと急迫する。
ヴァッシュへの不信感が疑念を育て、謀られたとの想いを産む。
もしヴァッシュがこの場にいたのなら、幾らか話は違って来たのだろう。
同様にシグナム達の激怒から襲撃をされたとしても、ヴァッシュは必死に語る。
話し合おう、と。
話し合い、誰もが助かる道を探そう、と

155 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:48:35.05 ID:jPm+ezGE
だが、もう遅い。
守護騎士達の不信は限界を越え、戦闘へと身体を突き動かす。
魔法少女と守護騎士が再び交差する。
本来ならば対話の道を歩む筈だった邂逅は、架け橋たるガンマンの不在により、激闘の舞台へと姿を変えた。
魔法少女は守護騎士達を止める為に武器を掲げ、守護騎士達は感情に身を任せて、そして己の使命の為に武器を振るう。
流転する場を止められる者など、もう居なかった。







「始まったようだな」

薄暗の空を走る光線を眺めながら言葉を零す者がいた。
仮面の男。その片割れが空を見上げてポツリと呟く。
仮面の男の足元には、幾重ものバインドでがんじがらめにされたヴァッシュが転がっていた。

「良いのか? 管理局のデータにクラッキングを掛ければ発見を遅らせられるが」

もう一人の仮面の男が、言葉を紡ぐ。
その視線の先にはボンヤリと空を見上げるもう一人の男・ナイブズがいた。
ナイブズは仮面の男の言葉に顔を向けずに答える。

「必要ない。むしろ奴等に見ていて貰わねば困る」

視線すら合わせず、何の気なしに発せられた言葉だというのに、仮面の男達は思わず息を呑む。
百戦錬磨の経験によるものか、それとも獣特有の本能的なものなのか。
ともかく、仮面の男達はナイブズの脅威をひしひしと察知していた。
邂逅の時に見せ付けられた『力』。
そして、人類に対する異様なまでの憎悪。
仮面の男達もナイブズの危険性は理解している。
だが、その活動を止める事もできない。
敵対すれば、瞬きの間もなく殺害されると分かっているからだ。
自分達では敵わない。
いや、おそらく管理局の魔導師でも、ナイブズを打倒する事は不可能だろう。
現状が奇跡といっても良い程だ。
死者が一人も出ていない現状が。

「……そうか。なら、良いが」

現在は利害が一致から協力体制を取ってはいる。
だがしかし、ナイブズが人類を滅亡させる活動を始めた時、自分達は本当にナイブズと敵対できるのか。
自問するも答えは出ない。
眼前の男との敵対を、心の根っこの部分が拒絶する。
胸に巣くう感情の正体を、仮面の男達も理解できていた。
恐怖だ。
情けないとは、彼等自身も思う。
しかし、そんな上っ面の感情では抑えが効かない程に、恐怖は大きいものだった。

「お前達は手筈通りに行動しろ。それで、おそらく完成だ」

仮面の男達はナイブズの言葉にただ頷くだけであった。
利害は一致すると頭の片隅で言い訳をしながら、行動する。
心中の恐怖から逃げるかのように、仮面の男達は夜天の空に飛び出した。





156 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:49:32.94 ID:jPm+ezGE



「うおおおおおおお!」

高町なのはとヴィータとの戦闘は膠着状態にあった。
果敢に突撃してくるヴィータに、なのはも得意な中・遠距離戦を展開する事ができない。
振るわれる鉄槌をレイジングハートで防ぐ。
レイジングハートの柄が火花と共に悲鳴を上げた。

「どうしても……話を聞かせては貰えないの?」
「うるせえ! 何も知らないお前が首を突っ込むんじゃねえ!」

交差するデバイスを挟んで、なのははヴィータへと語り掛ける。
返答は怒号で、ヴィータは渾身をもってグラーフアイゼンを振り抜いた。
なのはの身体が錐揉みを描いて、宙を舞う。
体制を崩したなのはに好機を見たヴィータは、更に攻め込もうと空を駆ける。

「レイジングハート!」
「なッ!?」

錐揉み状態にありながら、なのははヴィータを見失ってはいなかった。
螺旋を描く身体をコントロールし、無理矢理に砲撃の体制を取る。
大袈裟に吹き飛ばされわざと隙を見せ、そこに付け込んできたヴィータへと砲撃をぶちかます。
一連の動作は殆どフェイク。確実にヴィータへ砲撃を当てる為の布石であった。

『Divine Buster』
「シュート!」

相棒の言葉に、なのはが合わせて吼える。
同時に撃ち出されるのは桜色の奔流。
空気を呑み込む轟音と共に鮮やかな砲撃が、鉄槌の騎士へと迫っていく。

「なめんじゃッ……ねええええええ!」

視界を埋め尽くす桜色にも、対する鉄槌の騎士は怯まない。
迫る砲撃に対してシールド魔法を形成し、斜めに傾ける。
砲撃の奔流をいなす。
砲撃を正面から受け止めるのではなく斜めに受ける事で、流れのベクトルを変更。
桜色の奔流はヴィータから反れ、その後方の空間へと流れていった。
無茶とも取れる攻防の末に、ヴィータはなのはへの接近に成功する。
手中の鉄槌から空薬莢が二発飛び出す。
鉄槌が、形状を変えた。

「ラケーテン……ハンマーアアアアアアア!」
「レイジングハート!」

カートリッジを使用しての一撃に、レイジングハートもまたカートリッジの使用で応える。
魔法楯が掲げる右手から発生し、加速の付いた一撃を食い止めた。
鉄槌に備わるスパイクと、プロテクションとが火花を散らす。

「何も知らない……そう、私は何も知らないよ。ヴィータちゃんが何でそんなに怒っているかも、何でそんな辛そうな目をしてるのかも、私は知らない」

均衡の最中、なのはは口を動かす。
楯を掲げる右手に渾身の力を込めて、それでもヴィータに向けて言葉を投げる。

「伝えてくれなくちゃ、言葉にしてくれなくちゃ、分からない。何も言ってくれないんじゃ、伝わらないよ」

激烈な攻防とは反対に、なのはの声は静かで落ち着いたもの。
だが聞く者が聞けば、分かる。その言葉の奥底にて燃えたぎる感情を。

157 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:51:33.99 ID:jPm+ezGE
「私は知りたい。ヴィータちゃんが何でそんなに怒っているのか、辛そうな目をしているのか、私は知りたい」

なのはの瞳に光が灯る。
力強い輝きを放つ瞳に、歴戦の騎士が僅かに気圧される。

「だからお話を聞かせて貰うよ―――全力で!」

言葉を切ると同時に、なのはは右手を少しだけ傾けた。
右手の動きに同調して、なのはを守っていたプロテクションが斜めに傾げる。
グラーフアイゼンが、火花を散らしてプロテクションの表面を滑る。
何の事はない。ヴィータが先程なのはに行った事を、同様に行っただけだ。
鉄槌をいなし、その突き進むベクトルを変更させた。
激情に支配され判断力が低下したヴィータの、その裏をかいた一手。
ヴィータの体勢が、鉄槌に引っ張られ前につんのめる崩れる。
その鼻先に紅色の宝玉が突き付けられた。

「くそッ!」

高速移動魔法を発動させ、無理矢理に身体を動かしてヴィータはなのはから距離を取る。
視界の先では着々と発射シークエンスが進んでいるが、不思議と焦燥はなかった。
砲撃ならば先程、ギリギリではあったもののいなす事が出来た。
ならば、問題ない。
何度砲撃を撃たれようと、何度でも弾き飛ばす。
勝利を掴むまで何度だろうと、繰り返すだけだ。
そして、砲撃が放たれる。
数瞬前と同様に盾を斜めに突き出し、衝撃に身構えるヴィータ。
桜色の光と紅色の盾とが、ぶつかり合う。

「なっ……!?」

だが、此処でヴィータにとって完全に予想外の事が発生する。
砲撃の威力が先刻のものと段違いなのだ。
受ける事は勿論、反らす事すら叶わない。
ヴィータを守る唯一の防壁に、一瞬で亀裂が走っていく。

「てめぇ……ッ!」

先程の一撃はなんだったのか、とヴィータの脳裏に疑念が湧く。
同様の砲撃魔法、カートリッジの追加もない。だというのにこれだけの威力の差。
ヴィータは知らない。
先の一撃が、対話を優先させての一撃だという事を。
今回の一撃が、撃破を優先させての一撃だという事を。
だからこその、桁違いの威力差。
ヴィータを守るシールド魔法が、音を立てて粉砕される。
声を上げる暇もない。
ヴィータの身体が桜色の奔流に呑み込まれていった。

―――が、どういう訳かヴィータを呑み込んで直ぐに、砲撃の魔力放出が止まる。

魔力の奔流に包み込まれていたのは一秒にも満たない僅かな時間。
身体中が痛みに悲鳴を上げるが、戦闘不能に陥る程ではなかった。

「え……」

呆然の声を上げたのはなのはであった。
話を聞く為に、話を聞かせて貰う為に、放った砲撃。
撃破するつもりで放った全力全開の一撃。
撃破の末の対話を掴む為の、全力全開の一撃であった。
その一撃が無惨に宙へと無惨する。
ヴィータを撃破するには至らず、僅かな照射で砲撃が消え去った。

158 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:53:28.20 ID:jPm+ezGE
何で、となのは思わずレイジングハートを見る。
魔力が切れた訳ではない。
発射シークエンスにも問題はなかった。
何故砲撃は中断されたのか、純粋な疑問になのはは手中の相棒を見る。
見て、驚愕すると同時に、理解した。
砲撃が中断された、その理由を。
レイジングハートが、切断されていた。
柄部とレイジングハートの本体たる宝玉とが切り離され、宝玉が重力に引かれ落下している。
僅かな感触もなかった。
斬り取られた瞬間も分からない。
砲撃が阻止された理由は分かれど、また新たな疑問が脳裏を埋め尽くす。
何が起きたのか、ただその疑問がなのはの思考を支配した。
相棒の不在に、飛行魔法の維持すら困難となる。
崩れるバランスの中で、落下中のレイジングハートの元へと強引に駆けるなのは。
墜落する直前でレイジングハートを掴み取る。
魔力を込めると共にレイジングハートの修復機能が発動し、元のアクセルモードへと戻る。
体勢も何とか立て直す事ができた。

「何をしている」

声が、響き渡る。
ただポツリと呟かれただけの言葉が、轟音鳴り止まぬ戦場を駆け抜け、二人の動きを止める。
なのはは警戒に満ちた表情で、ヴィータは驚愕に満ちた表情で、声のした方へ振り向く。
其処には、男が立ち尽くしていた。

「何でお前がここにいんだよ……ナイブズ!」

闇夜の中にポツンと、白い点がある。
ライダースーツのような、身体に張り付いた真っ白な服を纏った男。
刈り上げられた短髪は薄い金色に染められている。
なのはは、男の顔に覚えがあった。
映像記録の中にて一騎当千の活躍を見せていた正体不明の敵。
アンノウンがそこにいた。

「少し用があって近場にいた。お前は相も変わらずの苦戦か、ヴィータ」

アンノウン―――ナイブズが、口を開く。
圧倒的な存在感であった。
喉が干上がり、視線は固定される。
レイジングハートを握る腕にも、知らず知らずの内に力が籠もった。
この男は何者なのだろか……、なのはは警戒を崩さずに男を見る。

「……うるせーよ」
「まぁ良い。せっかく通りかかったんだ、力を貸してやる。こいつの相手は俺に任せろ。お前はシグナムの助けに行け」

ナイブズは、まるで買い物でも任されたかのような気楽さで、なのはの相手を引き受ける。
その様子に気負いと云ったものは微塵も感じ取れない。
言葉一つで、管理局エースとの対戦を選択した。

「……殺すなよ?」
「善処する。それよりシグナムを任せたぞ。奴は冷静さを失っている」

僅かな逡巡を見せたものの、ヴィータも戦線を離脱する。
ナイブズの『力』はヴィータも認めていた。
高町なのはを圧倒する事も分かっている。
だからこその、忠告。
主の命を守る為の、主の道を穢さない為の、忠告であった。



159 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/28(土) 23:54:15.75 ID:jPm+ezGE
「待って、ヴィータちゃん!」

離脱する鉄槌の騎士に声を掛けるも、ヴィータはチラリと視線を向けるだけであった。
ヴィータの瞳は敵に向けるものだというのに、心配気に揺れていた。
その瞳が意味する事に、なのはは気付かない。いや、気付けないというのが正解か。
なのはの視界の内で、ヴィータの姿が見る見る小さくなっていく。
遠方にて激突し合う黄色と紫色の光の最中に、赤色の光が交わっていった。
ヴィータを追跡する事はできない。
眼前に立ち塞がる男がそれを許さないだろう。
焦燥を押し殺して、なのははナイブズと相対した。

「あなたは、何が目的でヴィータちゃん達に協力するんですか?」

問い掛けに対するナイブズの返答は熾烈極まるものであった。
ナイブズは無言で左腕を掲げた。
掲げた左腕が白色に変化し、十枚程の刃と化す。
刃の横幅は、凡そ人の胴体と同等かそれ以上。
余りに巨大な刃の数々が、一瞬で男の左腕から湧き上がる。
異様な光景になのはは息を呑んだ。
人一人を殺すには余りに大袈裟な凶器が、なのはを狙っていた。
其処からは無言の戦闘であった。
ナイブズはなのはと会話をするつもりもなく、なのはは口を開く余裕すらない。
上下左右から覆い尽くすように迫る巨大な刃の数々に、なのはは己の全身全霊を賭けて、回避を行っていく。
全方位から迫る刃の数々は、まるで徐々に閉じていく巨獣の口の様。
なのはは、生きながらに咀嚼される獲物の気分を味わった。

『Accel Fin』

旋回、宙返り、高速移動、緩急を付けてのフェイントと、なのはは持てる全ての回避行動を施行して、命を繋いだ。
巨大な刃が、皮膚から僅か数センチの所を通過する。
掠めた刃が、堅牢なバリアジャケットをまるで紙切れのように切り裂く。
肌が粟立つ。
今まで感じた事のない程の巨大な『死』の感覚を、なのはは感じていた。
数分の回避運動の末に、攻撃が止む。
バリアジャケットの端々が切り裂かれ、身体の至る所に浅い切り傷を負いながらも、なのはは猛獣の咀嚼から生還した。
ナイブズとの距離は、凡そ1キロ程離れてしまっていた。
逃げ惑う中で知らずの内に離れていったのだろう。
空の彼方で豆粒大の大きさになったナイブズを見て、なのはは思わず安堵を覚える。
そんななのはを、ナイブズは遠方の空から見詰めていた。
プラントの翼手を使用しての攻撃など、彼からすれば殆どお遊びレベル。児戯に等しい攻撃である。
だが、その児戯に等しい攻撃から生還した人間など、百五十年の人生で二人しか見た事がない。
成る程、流石は次元を統べる管理局の尖兵といったところか。
それ相応の実力は有しているのだろう。


再びナイブズの左腕が動く。
先程同様に、なのはへと殺到する刃。
刃は1キロという距離を一瞬で埋め、四方八方からなのはを囲う。
なのはもまた、足首に備わった桜色の羽根を羽ばたかせて加速する。
迫る刃からまた逃げ回ろうと動いたところで、だがしかし刃が唐突に動きを変える。
視界を囲む刃の数々が、更なる拡散を見せたのだ。
木々が枝分かれするかのように刃の先端が幾重にも分裂し、それぞれが独自の動きを取りながらなのはを穿たんとする。
さしもの、なのはも反応しきれない。
身を捩り、最後の最後まで回避運動を取るが、足掻きに終わった。
避けきれなかった四本の刃が、なのはの四肢を貫通する。
プラントの刃が切れ味を前にバリアジャケットは本来の役目を果たせない。
リアクターパージすら発動する事が出来ず、刃に切り裂かれる。
経験した事のない激痛が、なのはを襲った。



160 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/29(日) 00:00:06.34 ID:jPm+ezGE
「っぐ、あああああああああああああああああ!」

声が、止まらない。
痛覚が意識を支配し、精神を汚していく。
貫通した刃に四肢が固定され、動く事すら許容されない。
細刃に両手両足を拘束されたなのはの姿は、まるで張り付けにされた罪人のようであった。

「あく……せる……」

だが、なのはの心は折れない。
貫通する右腕で、それでも相棒たるレイジングハートを握り締める。
なけなしの集中力で必死に魔力を練り、射撃魔法を発動させる。
精神すら削る未体験の激痛に、流れ止まらない血の喪失感に、それでも不屈の闘志は輝きを止めない。
足掻きにも到らぬ反撃をしようと試みる。
そんななのはの姿に、ナイブズは無表情を貫く。
光り輝く不屈の闘志を前にして、ナイブズが心を揺るがす事は、一瞬たりともなかった。
決死の想いで魔力を操るなのはへ、ナイブズは冷酷に冷徹に終焉を与えた。
プラントが真なる力―――『門』を開く。
視認すら不可能な、極小規模の『門』。
ミクロ単位の大きさで発動された『門』が、『持ってくる力』を引き出しエネルギーとして爆発させる。
エネルギーは指向性を以て、1キロ先のなのはへと殺到し、その身体に直撃した。
レイジングハートが緊急防御として発動させたプロテクションは、飴細工の如く砕け散る。
音すら消えて、なのはの身体が横っ飛びに吹き飛んだ。
加速魔法すら超越する勢いで、なのはは山あいへと墜落する。
十何本の木々をへし折り、地面を抉り飛ばし、ようやくなのはの身体が進行を止めた。
完全に意識は消失し、頭が力無く垂れる。



ここに魔法少女の完全敗北が決定付けられ―――そして、終わりの始まるを告げる材料が取り揃った。







「よう、ヴァッシュ。始めようぜ、終わりの始まりを」

ボロボロとなった魔法少女を肩に担いで、ナイブズは始まりの場所へと舞い戻っていた。
全身をバインドでがんじがらめにされ、地面に転がるヴァッシュの近くへと魔法少女を投げる。
どしゃ、という鈍い音と共に、魔法少女が地面を転がる。
魔法少女が、ヴァッシュが、言葉にならぬ声を漏らす。
薄ぼんやりとではあるものの、辛うじて意識はあるようだった。
とはいえ、殆ど意識は混濁しているだろうが。
ナイブズはヴァッシュの側で膝立ちとなる。
左腕が、掲げられた。

「物覚えの悪いお前にもう一度教えてやるよ。俺達の『力』を、人間の醜悪さを」

掲げた左腕で、ヴァッシュの顔に触れる。
その顔を隠すように、覆う。
ヴァッシュが僅かに身を捩った。
それが彼に可能な最後の抵抗であった。

「見せつけるんだ、俺の、俺達の『力』を」

ナイブズの左腕が、光る。
それに呼応するように、ヴァッシュの右腕も。

161 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/29(日) 00:00:50.99 ID:jPm+ezGE
始まりは灯火の様な淡い光。
だが、光量は瞬く間に膨張していき、照らすものを増やしていく。
場にいるヴァッシュ達を。
暗闇の森林を。
桜台そのものを。
光が、満たしていく。
白色の、強烈で暴力的な光。
光は加速度的に輝きを増加させていき、全てを覆い尽くす。

「人間共に、見せ付けろ!」

そして、終わりの始まりが、始まった。
白色が、世界を覆い尽くした。







朦朧とする意識の中、なのははその光景を見ていた。
視界に溢れる痛い程の白色が、世界を染め上げる、その光景。
朧気な視界を動かす。
なのははの視線は無意識の内に、白色の極光が発生源へと向けられていた。
不意に、なのはは感じた。
身体を支配する脱力感を押して、心底から噴出するは怖気。
見てはいけない。
これ以上、そちらに目を向けてはいけない。
心が、本能が、叫んでいた。
でも、意志に反して瞳が動く。



―――駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、



ぼやける視界が其処にいる何かを捉えた。
白色の光の中、横たわる何かを。



―――見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな



それは白色の中でも目立つ赤色であった。
赤色の布が、白色の轟風を受けて千切れんばかりに靡いていた。



―――駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ、見るな、駄目だ



視線が、動く。
靡く赤色を追って、視線が上方に動く。


162 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/29(日) 00:01:32.87 ID:nEIVMegk



―――今、



そして、



―――『彼』を



そして、



―――見ては、



そして、



―――いけない



見た。



赤色から生える、天使の如く右腕を。



その右腕が生えた『男の姿』を。



『ヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿』を、見てしまった。



「――――――――――――――――――ッッッ!!!?」



高町なのはは声にならない絶叫を上げて、意識を失った。





163 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/05/29(日) 00:02:27.82 ID:3SlNEfpf
白色が世界を震撼させる。



星々が輝く夜天を、人々が暮らす海鳴市を、世界を隔てる次元をも、震撼させる。



人々は見た。



世界を揺らす閃光に、遙か天高くへと伸びる光線。



そして、天に聳える月を蹂躙する光球を。



物理的に、精神的に、それは世界を震撼させた。



こうして平穏な日々は終焉を告げ、物語の終わりが始まった。



二人の人外と、魔法少女と、闇の書が描く物語。



その終わりは、この瞬間を境にして始まった―――。








これにて投下終了です。
タイトルは「終わりの始まり」です。

164 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 02:11:49.37 ID:ntCmGveQ
投下乙です。
まさかのAA発動とは…この流れはマキシマム中盤を彷彿とさせますね。
なのはもトラウマったみたいだし、キツい展開が待ってそうです。
続き楽しみにしてますー

165 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 08:10:08.73 ID:sMvpzEV4
おつおつ!

166 : 忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/05/29(日) 10:45:50.59 ID:vr1mS6fk
乙華麗

167 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/29(日) 12:38:37.51 ID:EYugY5j3
13時に戦場のStrikerS第2話投下予約します。

168 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/29(日) 13:02:24.68 ID:EYugY5j3
投下します。

戦場のStrikerS 第2話 非効率的天才

なのはとフェイトに案内され、422部隊は廃棄都市群から機動六課隊舎へと向かっていた。その道中、クルトたちはなのはからこの世界のこと、
時空管理局という組織、また自分たち機動六課の役割を大まかに説明された。質量兵器が使えない代わりに魔法でこの世界の平和を維持しているという点は
クルトたちにとって驚きであった。そして、クルトも元の世界の状況、ガリア軍の性質、422部隊のことなどをなのはとフェイトに話した。

「つまり、あなたたちは全員何らかの罪や命令違反を犯した結果、配属されたということなんですね」
「ああ、俺の場合は反逆罪だが正直全く覚えがない。ある日突然辞令を言い渡され、この部隊に配属されることになった」

クルトのようにいわれのない罪状で422部隊に配属されたものもいる。ダイトに至ってはダルクス人というだけで422部隊に配属されたのだ。
ダルクス人というのは、ダイトやイムカのように濃紺の髪を持っているのが特徴で、大昔に起きたとされる『ダルクスの災厄』により現在でも疎まれ、
『ダルクスの災厄』を犯した罪で姓を奪われている。クルトがそう語ると、なのはとフェイトが悲しそうな表情を浮かべ、フェイトが思ったことを口にした。

「たとえその『ダルクスの災厄』が本当に起こったことであってもそれと今を生きているダルクス人は何の関係もない。なのになぜ…」

その言葉に答えるものがあった。ダイトである。

「教えてやろうか。世の中はな、俺たちみたいな犠牲者が必要なんだよ。迫害の対象、弾圧の対象、いつの時代だって時代には俺たちみたいな犠牲者が
 必要なんだ。『ダルクスの災厄』があろうがなかろうが関係なくな。あんたたちのこの世界でもそうなんじゃないのか?」
「そんなことありません!時代には常に犠牲が必要だなんて、そんなことあっていいはずがない!」

ダイトの言葉にフェイトが声を荒げる。しかしダイトはなおも続ける。

「…あんたがそう思うのは自由だ。だが、世の中はそうとは限らない。さっき魔法と言ったがこの世界の人間すべてが魔法を使えるわけじゃないんだろ。
 案外そいつらが犠牲者なのかもな…人は自分よりも劣った奴を本質的に貶める生き物だからな…」
「…ッ!知ったような口を…!」

フェイトが表情を険しくする。さすがにまずい雰囲気だと感じたなのはとクルトはそれぞれを諌める。

「すまない。NO.56も悪気はなかったのだが、彼の発言でハラオウン執務官の気を悪くさせてしまった。隊長として謝ろう」
「いいえ、大丈夫です。フェイトちゃんも落ち着いて」

このいやな空気を変えようと、唯一ダイトの名を知るNO. 15 エイミー・アップルが新しい話題を切り出す。エイミーは422部隊最年少の隊員で
年齢はなんと15歳。故郷で義勇軍に所属していたのだが、422部隊の性質を知らされないまま『正規軍の特殊部隊』と説明され、また給与が高かったこともあり
志願、というか騙されて422部隊に配属された偵察兵である。幼いながらもかなりしっかりしており、ダイトはエイミーに今は亡き妹の面影を重ねている。

「…と私はこういう経緯でこの部隊に配属されたんですけど、お二人はどういう経緯でその…時空管理局に入ったんですか?」
「え、うん、それはね…」

そしてクルトたちはなのはから二人が時空管理局に入った経緯、そしてなのはとフェイトが十年来の大親友であることを知る。


169 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/29(日) 13:03:41.98 ID:EYugY5j3
「そんなに小さい時からそんなに大変なことを?すごいです!尊敬しちゃいます!」

アニカが目を輝かせる。アニカは街中で絡んできたゴロツキを叩きのめしたことが過剰防衛と判断され、なにか書類にサインした結果422部隊に転属となった。

「あはは…ありがとうございます。えっと…NO.24さん」
「あ、私はアニカ・オルコットって言います!以後よろしくお願いします!」

アニカから名を告げられた途端、なのはの顔が晴れやかなものになった。422部隊と出会ってまだ一時間も経たないうちに一人目の名前をゲットしたのだから。
更にアニカに続くようにこの話題を振ったエイミーが名乗る。

「あの、私もいいですか。エイミー・アップルと言います。これからよろしくお願いします」
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね、アニカさん、エイミーさん。えっと、ほかの隊員さんたちは…」
「確かにそんな小さいころからそんな活躍してることは素直にすごいと思うが、認めるかどうかの判断はあんたたちの人となりを見てからでも遅くないだろ」

フェリクスの言葉に頷く隊員たち。それでもなのはは今度は悲しい表情を浮かべることなく、ニコリと笑って隊員たちに口を開く。

「構いません。残りの隊員さんたちにも必ず私たちのことを認めさせて見せますから」
「ふふふ、そう構えなくても大丈夫ですよ高町さん。私たちは皆相手の実力を素直に認めますから。高町さんたちがみんなに認められるのも時間の問題ですよ」

リエラがなのはに微笑みながら語る。リエラは過去所属していた5つの部隊が5つとも全滅し、リエラだけが生き残ったことから『死神』と呼ばれ、
隊員たちから避けられていた。しかし、クルトが配属されその話を隊員たちから聞くと、「くだらないオカルトはこの俺が消してやる」とリエラとともに出撃、
見事勝利をおさめ生還した。それがきっかけで他の隊員たちとも打ち解けることができ、今に至る。

「ありがとうございます、NO.13さん。それにしてもみなさん様々な経歴をもって422部隊に配属されてるんですね。あと、NO.7さん」
「なんだろうか?」
「あなたが隊長ということは士官…になるんですか?その、もしよければ士官学校時代の話でも聞かせてもらえればと」
「ああ、別にかまわない」

そして語られるクルトの士官学校時代。クルトは入学当初はどちらかというと成績は悪く、時には補修を受けることもあった。
しかし、半年後には教官も舌を巻くほどの成績を修めるのである。そしてさらにすごいのが、試験で98点を取った時それで満足するのではなくむしろ
なぜ後の2点を取れなかったかを至極真剣に考え、さらに猛勉強して満点を取るまで再試験に臨むのである。教官たちはそんなクルトの姿を見て彼のことを
こう評した。『非効率的天才』と。結局、それからクルトは常にトップを走り続け、歴代最高成績でランシール士官学校を卒業後、第2次ヨーロッパ大戦が開戦。
ガリアに侵攻してきた帝国軍を迎え撃つため、一個小隊の指揮を任されることになるが、ここでもクルトはその能力を存分に発揮し初陣で見事勝利をおさめ、
しかもそれがこの戦争におけるガリア軍の初勝利であった。しかし、この勝利はのちにクルトが422部隊に転属となったため、記録に残ることはなかった。

「あの時の努力があったから今の俺があるわけだが、あなたたちのその力は言ってみれば『才能』だろう。魔法の力で自由に大空を翔ることができる。
 正直、俺はあなたたちが羨ましい。俺たちの世界では空を飛ぶ術がないがあなたたちは自らの力で空を飛ぶことができるのだから」

そう語ったクルトから羨望のまなざしを向けられ、赤面するなのはとフェイト。時空管理局の誇るエースオブエースとして尊敬と憧れの対象であるなのは。
執務官として数々の事件を解決へと導き、やはり多くの後進から尊敬と憧れの対象であるフェイト。だが、彼女たちを羨望、つまり羨ましいと思う人間は
少なくとも彼女たちの周囲にはいなかった。そんな中にあってクルトは初めてなのはたちに羨望を向けた人間であり、それがなのはたちを赤面させた理由でもあった。
そんなクルトに耳打ちをする人物がいた。ダイトである。クルトの耳元で何かを囁き、クルトが首を縦に振る。そしてダイトは移動拠点の隊長室へと入ってゆく。


170 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/29(日) 13:04:09.83 ID:EYugY5j3
どうやらダイトはクルトに何かを頼み、それをクルトは許可したようだった。先ほどのダイトとのやり取りから訝しげな表所を浮かべてダイトが入っていった
部屋を見上げるフェイト。そんなフェイトにキセルを吹かしながら話しかける者があった。NO.3 グロリア・ダレルである。彼女は422部隊ではイムカに次ぐ古参兵で、年齢は部隊最年長になる62歳。トレードマークである、
肩から掛けた機関銃用弾薬のベルトリングが示すようにグロリアは機関銃兵を担当。拠点に接近する敵兵をサブマシンガンの2倍の装填数を誇る機関銃で
迎撃し、撃破する役目を担う。実は彼女の本職は娼館の女将であり、裏社会を渡り歩いてきた猛者である。武器の横流し、贈賄、禁制品の密輸、
脅迫、傷害などセドリック顔負けの犯罪歴を持つ。

「お嬢ちゃん、アタシもこれまでいろんな人間を見てきてね、その経験から言わせてもらうが、アンタ、NO.56のような男に会ったことないだろう。
 優しさの中で育てば人は自然とそうなるものだが、NO.56のような男と関わるのもアンタのこれからの人生でもいい経験になると思うがね」
「…アドバイスありがとうございます。えっと…」
「NO. 3だよ。見ての通りのババアだが、まあこれからよろしく頼むよ」
「こちらこそ。あの…その経験を見込んでこれからいろいろご相談に乗っていただきたいのですが」
「アタシでよければいくらでも相談に乗ってやるさ。この部隊でもそんな役回りだからね」

その後も、なのはとフェイトは隊員たちと談笑し、結果、セルジュ・リーベルト、リエラ・マルセリスの2人の名前を新たに教えてもらうことができた。
それから一時間ほど経過した頃、クルトに無線が入る。無線越しに二言三言話したのち、クルトがフェイトに話しかけた。

「フェイトさん、あなたに隊長室に行ってもらいたい。NO.56が話したいことがあるそうだ」
「私に…ですか。わかりました。あの部屋でいいんですよね?」

そしてフェイトは422部隊の移動拠点の隊長室へと入っていく。中に入ると、4人掛けのテーブルの一角にダイトが俯きながら座っていた。
フェイトが入ってくると、顔をあげて立ち上がり、彼女の方へと歩み寄った。

「それで…NO.56さん、話というのは?」
「アンタにこれを受け取ってほしくてね…」

と言ってダイトは手に握っていたものをフェイトに見せる。それは針金で作られた青い薔薇の花だった。そのクオリティにフェイトは思わず息を飲む。

「これはセルヴェリアっていう花でね…俺も実際に見たことはないんだが昔読んだ本に載っててね…その記憶を頼りに針金細工を作ってみたのさ…」
「これを、私のために?どうして…」
「俺もさっきは言い過ぎたよ…アンタみたいな奴が俺たちの世界にもっといればダルクス人に対する風当たりも少しは良くなったのかもな…」

どうやらこれは先刻のやり取りに対するダイトなりのお詫びであるようだった。そんなダイトにフェイトは微笑みながら彼の掌に手を伸ばした。

「ありがたく頂戴します。私もさっきは言い過ぎました。ですが、私も過去の色々な経験からあなたたちダルクス人を放っておけなかったんです」
「そうなのか…もしよかったら…その経験ってヤツを聞かせてくれないか…」
「構いません」

そして語られるフェイトの過去。フェイトはアリシア・テスタロッサという少女のコピーとして生まれ、その母親であるプレシア・テスタロッサに言われるがまま
ジュエルシードと呼ばれる特殊な力を持った宝石を蒐集することになる。その過程でなのはと出会い、幾度か戦いを交える。
そして、のちにプレシア・テスタロッサ(通称P・T)事件と呼ばれるこの一連の騒動も終わりに近づいたある時、ついにフェイトはプレシアから自分の出生に
関する真実を聞かされる。絶望と耐えがたい心の痛みと涙を背負いながらフェイトはなのはという心の支えを得てそれを乗り越える。
そんな過去からフェイトは世界の誰にも不幸になって欲しくないという思いを抱き、そのために時空管理局に入り執務官になったのだ。
そんなフェイトの過去を知ったダイトは、絶句した表情を浮かべていたが、その表情は次第に怒りへと変わっていった。

「ゆるせねぇ…世の中には生きたくても生きられねえヤツがたくさんいるってのに…命を弄んだ挙句不要となればポイ捨てか…死んで当然だな、そんなヤツ…」


171 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/29(日) 13:04:34.56 ID:EYugY5j3
そのダイトの言葉にフェイトは複雑な表情を浮かべる。フェイトは今でも亡き母プレシアを大切に思っていて、それを『死んで当然』と言われれば当然
いい気はしないが、ダイトも戦場で生きる兵士として様々な人間の死を目の当たりにしてきたことをフェイトは理解していた。
そんなダイトにフェイトは自らの感情を押し殺し、優しくダイトに語りかけた。

「すべては過去の話です。大切なのは今の私たちがどう生きているか。そうじゃないですか?」
「ああ…そうだな…さて…アンタの辛い過去を俺が聞いて終わりってのもフェアじゃないだろ…俺も俺の経歴を話してやるよ…」

そしてダイトも自らの経歴をフェイトに語る。ダイトは自らの住まうこの国ガリアを、また唯一の家族である妹のダイナを守りたいという思いから
義勇軍に入隊。が、その後ダルクス人であるということだけを理由に422部隊へと転属させられる。このような経緯もあって正規軍はもちろん
422部隊の隊員たちほとんどに心を開いていない。また、長身が目を引くことから昔からダルクス人迫害の対象となりがちで、そのせいですっかり皮肉屋で
厭世的な性格になってしまった。そしてある日、命がけで戦っても何も評価されない日々に疑問を感じたダイトは脱走を企てる。
が、それは失敗に終わりクルトの判断によって脱走は不問とされたが、それと同時にクルトからダイトの唯一の心の希望であった妹、ダイナの死を告げられる。
それに絶望したダイトは、ただ一人でも多くの帝国兵を道連れに心中するような戦い方を続ける。そんなダイトを励ましたのが最年少隊員である
エイミー・アップルだった。エイミーに亡き妹ダイナの姿を重ねたダイトはエイミーに少しずつ心を開いていき、

『あなたが死んだら私が泣く!』

というエイミーの言葉にダイトは自らの名前をエイミーに告げ

『名前も知らないヤツのために泣くなんて、できないだろ』

と語った。そしてダイトは自分にできることを探すために生き、戦い続けることを決意するのだった。

「こうしてこの世界に飛ばされたのも何かの運命なのかもな…だから俺はガリアに帰れるまで…いや帰れなくてもこの世界で俺にできることを見つけてやるよ…」
「NO.56さん、その実現のために私たちも全力でサポートします」


172 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/29(日) 13:06:43.10 ID:EYugY5j3
「NO. 56か…ダイト」
「え?」
「俺の名前だよ…ダルクス人には苗字がないからダイトって名前だけだが…」
「名前を教えてくれたということは、私のことを認めてくれたということですか?」
「ああ…そんな小さな時にそんな辛い経験をしても挫けずに今を生きて頑張ってるその姿は十分認めるに値する…」
「はい、ありがとうございます。そしてこれからよろしくお願いしますね、ダイトさん」
「ああ、こちらこそよろしくな…フェイト」

そして2人は握手を交わすと、移動拠点が止まるのを感じた。ダイトが窓から外を見ると、何やら立派な建物が目に入った。

「ああ、どうやら着いたようですね。あれが私たち機動六課の隊舎です」

投下終了です。そろそろレイラが「私の出番はまだなの!?うp主には教育が必要なようね」
と怒ってそうなので次の話で登場させます。

173 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 16:17:58.64 ID:EjdBpGXJ
代理投下始めます。

174 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 16:25:36.54 ID:EjdBpGXJ
お久し振りです
1年振りとなりますが、R-TYPE Λ 第三十三話を投下させて頂きます
それでは、宜しくお願い致します

175 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 17:00:02.54 ID:k6OZFVBh
支援
久しぶりで楽しみ過ぎる

176 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:19:18.96 ID:EjdBpGXJ
約15分。
衝突警報の発令、そしてコロニー全体を強烈な衝撃が襲ってから、これまでに経過した時間だ。
警報音が鳴り響き、赤と黄色の回転灯の光に埋め尽くされた、ベストラ内部セクター間連絡通路。
其処を、居住区シェルターより脱したなのはを含む数名の魔導師達は、自身等が発揮し得る最高速度で以って翔けていた。
大型車両での通行を想定して建造されているのであろう通路は、魔導師が飛翔魔法によって高速飛行するに当たり最適な空間である。
構造物が崩落している地点は多々在れど、それらもなのは程の技量を有する空戦魔導師の前には、全く障害たり得なかった。
しかし、物理的障害は存在しないも同然であるとはいえ、彼女達の飛行経路は平穏という表現から程遠い状況である。

『一尉、これは・・・』
『考えるのは後だよ。飛行に集中して』

177 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:25:34.57 ID:EjdBpGXJ
戸惑う様に発せられた念話に、なのはは鋭く応答した。
彼女の視界には、崩落した構造物の残骸と共に散乱する無数の肉片と、床面から天井面までを赤黒く染め上げる大量の血痕が映り込んでいる。
そして、壁面に穿たれた無数の弾痕、明らかに砲撃魔法によるものと判別できる大規模な破壊痕。
何らかの恐ろしい力学的干渉により無惨にも引き裂かれた、人体であったものの成れの果て。
それら全ての周囲に散乱する、ランツクネヒト装甲服と多種多様な衣服の一部、質量兵器とデバイスの破片。

178 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:28:01.06 ID:EjdBpGXJ
『しかし、一尉。明らかにこれは、ランツクネヒトと魔導師による交戦の跡です。これまでに確認した痕跡から判断できるだけでも、間違いなく数百人は死んでいる』
『我々が察知し得ぬ内に、ランツクネヒトと被災者の間で大規模な衝突が在った事は間違いない。此処に来るまでランツクネヒトは疎か、魔導師の1人とさえ遭遇しなかった事も異常だ。一体、戦闘要員は何処へ消えたんだ?』

前方から後方へと過ぎる、破損した大量の臓器と骨格が積み重なって形成された、肉塊の小山。
通路上に数多の血流を生み出すそれを明確に視認してしまったなのはは、腹部より込み上げる嘔気を必死に堪える。
周囲の魔力残滓と構造物の損壊状況から推測するに、恐らくは非殺傷設定を解除した近代ベルカ式による攻撃を受けた人間達の成れの果てだろう。
これまでに幾度となく向き合い、時に敵対し、時に教え導き、時に良き戦友であった者達が有する戦闘技術。

179 :殺戮の天使 ◆zesDAMf38qAm :2011/05/29(日) 17:30:14.13 ID:EYugY5j3
支援いたします。

180 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:30:24.38 ID:EjdBpGXJ
敵対すればこの上なく恐ろしく、味方であればこの上なく頼もしい、近代ベルカ式という近接戦闘主体魔法体系。
気高く義に満ちたその技術が、非殺傷設定という制約を解いた、唯それだけの事で目を背けたくなる程に凄惨な殺戮を生み出したというのか。
或いは、あの肉塊は魔導師によって生み出されたものではなく、逆にランツクネヒトが運用する質量兵器群によって殺戮された魔導師達のものなのだろうか。

『きっと、外殻に出ている。衝突警報が出たって事は、要因は外に在るんだもの』
『其処に誰かが居たとして、それは本当に味方なのか? 次元世界の連中ならば未だしも、敵対を選択したランツクネヒトだったら?』

余計な思考を振り払おうとするかの様に発した念話は、更なる疑問によって上塗りされる。
果たして、外殻には誰かが居るのか。
何物かが存在したとして、それはこちらにとって味方か、或いは敵対する者か。

181 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:32:28.10 ID:EjdBpGXJ
なのはとて最悪の事態、それに遭遇する可能性を考えなかった訳ではない。
外殻に展開する勢力がランツクネヒトであり、彼等がこちらに対し明確に敵対を選択しているとすれば、魔導師達は忽ち質量兵器による弾幕に曝される事となる。
際限が無いと錯覚する程に魔導資質が強化され続けている現状でさえ、ランツクネヒトが有する携行型質量兵器群、そして何よりR戦闘機群は、未だ魔導師にとって絶対的な脅威そのものなのだ。
散弾と榴弾の暴風に呑み込まれる事も、波動砲の砲撃によって跡形も無く消し飛ばされる事も、どちらも御免であった。

しかし現段階では、外殻の様子を知る術が無い。
如何なる理由か、こちらからの指示に対し、システムが全く応答しないのだ。
システムが沈黙した訳でない事は、鳴り響く警告音と明滅する回転灯群の光が証明している。
汚染の可能性も考えはしたが、それを確かめる術すら無かった。

182 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:35:16.26 ID:EjdBpGXJ
汚染の可能性も考えはしたが、それを確かめる術すら無かった。
そして如何なる理由か、居住区シェルター内部からの指示ならば、システムは正常に応答するのだ。
この事実が意味するものとは、何か。

『何で、私達はあそこに居たんやろうな』
『・・・はやてちゃん?』

はやてからの念話。
呟く様に放たれたそれに、なのはは問い掛ける様に彼女の名を呼ぶ。
B-1A2によるコロニー襲撃時、はやては自身の左前腕部と共にザフィーラを失った。
その直前にはシャマルまでもが死亡しており、彼女の精神が危うい処まで追い詰められている事は、誰の目にも明らかだったのだ。
だからこそ、なのはは彼女にシェルターへ残るよう言い聞かせた。
この場に残る被災者達を護って欲しいと頼む事で、負傷者であるはやてを可能な限り前線から遠ざけようとしたのだ。

183 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:37:23.78 ID:EjdBpGXJ
だが、そんななのはの願いは、当のはやてによって拒絶された。
広域殲滅型魔法の行使に特化した自身が、戦線に加わらないという訳にはいかない。
バイド、又は地球軍を相手取るならば、手数は少しでも多い方が良い。
そう主張し、はやてはなのは達と共にシェルターを発った。
リインと融合し、夜天の書を胴部に固定した上で、残された右腕にシュベルトクロイツを携えたその姿。
そんな鬼気迫るはやての様相に、なのはは圧倒されていた。
幽鬼の様な無感動さで戦場へと赴かんとする彼女は、思わず目を背けたくなる程の鬼気と、今にも崩れ落ちそうな危うさに満ちている。

『ヴィータは、シェルターに居らんかった。キャロも、エリオも、セインも』

続いて放たれる念話。
唯、事実のみを続けるその内容に、なのはは疑問を覚えた。
一体、はやては何を謂わんとしているのか。

184 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 17:39:38.62 ID:EjdBpGXJ
『魔導師にせよ兵士にせよ、あのシェルター内に居った戦闘要員の数は100名足らずやった。そして、そのほぼ全員に共通する点が在る』
『共通の・・・?』
『皆、ランツクネヒトとの協調体制に肯定的やった』

瞬間、後方のはやてを見やるなのは。
前方認識はレイジングハートに一任している為、障害物へと激突する心配は無い。
彼女の視界の中央には、シュベルトクロイツを携えて宙を翔けるはやての姿。
虚ろな紺碧の双眸がなのはを、或いはその先に存在するであろう何かを、射抜く様に見詰めていた。
なのはの身体を奔る、冷たい感覚。
はやては、続ける。

『この場に居るのは、ランツクネヒトと・・・延いては、第97管理外世界との敵対を選択する事に、否定的な見解を示していた人間ばかりや』

数瞬ばかり、なのはは思考へと沈んだ。
そうして、はやての言葉が正しいものであると気付く。

185 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 17:50:28.68 ID:wzKwVSk8
支援
しかしこれは……確かに氏の言うように長いな
これだけ埋まりかねないレベル

186 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:00:15.13 ID:EjdBpGXJ
確かに、この場に存在する面々は協調体制を重視し、被災者達の間に蔓延していた第97管理外世界に対する強硬論について、否定的な立場を取っていた者達だ。
結論に至るまでの経緯は各々に異なってはいるであろうが、第97管理外世界との戦端を開く事が事態の解決に結び付くものではない、との思想は全員に共通している。
だが、それだけでは理解できない点も在った。

『アンタ等はどうなんだ。少なくとも、第97管理外世界に対する強硬論に反対している様には思えなかったが』

1名の魔導師が、なのはが抱いていた疑念そのものを念話として放つ。
はやての推察が正しいのならば、何故なのはと彼女までもが、あのシェルターに「隔離」されていたのか。
当たっていて欲しくはない推測が、なのはの思考を占めてゆく。
だが、はやては無情にその答えを述べた。

『私達が、第97管理外世界の・・・地球の出身者だからやろ』

187 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:05:31.84 ID:EjdBpGXJ
知らず、唇を噛み締めるなのは。
聞きたくはない言葉、認めたくはない推測。
だが、はやての言葉は続く。

『このベストラで「誰か」が「何か」をしようと企んだ時、私達はソイツ等の目に邪魔な存在として映ったんや。ランツクネヒトと地球軍を肯定的に見ている人間、地球を故郷とする人間・・・だから、あのシェルターに私達を隔離した』
『邪魔っていうのは、どういう意味での事だ。護る為に手間が掛かるという事か、それとも潜在的な脅威となるって事か』

言うな、聞きたくない。
そんな声ならぬ声が、念話として紡ぎ出される事はない。

188 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:10:33.67 ID:EjdBpGXJ
なのはの意思の外、交わされる念話が無機質に、淡々と事実を浮き彫りにしてゆく。

『前者なら「誰か」はランツクネヒトね。なら、後者は・・・』
『シェルターに居た連中を除く被災者達か。じゃあ「何か」ってのは何なんだ?』

前方、新たな肉塊の集合体。
その周囲に大量の薬莢が散乱している事を確認し、なのはは叫び出しそうになる自身を必死に抑える。
自身達が知り得ぬ間に、このベストラで発生した「何か」。
なのはは既に事態についての推測、その内容に対する確信を得ていた。
だからこそ、自身の後方にて交わされる念話を、何としても遮りたかったのだ。

『この死体の山を見れば解るやろ? 結論を出したんや・・・私達の、知り得ないところで』

轟音が、振動となって肌へと響く。
レイジングハートを強く握り締め、通路の先を睨むなのは。

189 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:16:29.60 ID:EjdBpGXJ
振動は更に大きくなり、防音結界を突破した騒音が微かに鼓膜を震わせる。

『結局、連中は私達と・・・』

その瞬間、なのはの前方約100m。
構造物の全てが崩落し、床面下へと呑み込まれた。
顔面を襲う、強烈な風圧。

『止まって!』

咄嗟の制止。
危うく崩落地点へと突入する、その寸前で一同の前進が止まった。
唐突に眼前へと現出した惨状に、なのはは唖然と周囲を見回す。

「何が起こったの・・・?」
「おい、あまり近付くな」

崩落跡は、惨憺たる有様だった。
連絡通路に沿う形で数十m、更に両側面方向へと100m以上もの範囲が完全に崩壊していたのだ。
デバイスを用いての走査により破壊の規模は判明したものの、粉塵が周囲を覆い尽くしており、視覚的に崩落箇所の全貌を捉える事ができない。

190 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:20:53.80 ID:EjdBpGXJ
そして数十秒ほどが経過して、漸く破壊痕を詳細に観察する事が可能となった。

「上は・・・何も見えないな。真っ暗だ」
「何処まで続いているの?」

ベストラは居住型に見受けられる様な、円筒形型の構造を有するコロニーではない。
17層もの層状構造物が重なる様にして構築され、更にそれらの間隙を埋める様にして無数の各種構造物が配されている。
外観的には、巨大な箱型構造物という形容が最も相応しいだろう。
第1層上部より第17層下部まで15.8km、最小規模である第4層の面積が291.6平方km、最大規模である第12層の面積が543.4平方km。
表層部の至る箇所に無尽蔵とも思える数の防衛兵装を配し、各種センサーを始めとする機能構造体が無数に突出した、一見するとデブリの集合体にも見える軍事コロニー。
なのは達の現在位置は、第4層のほぼ中央だ。
第1層上部から現在位置までは、3km前後もの距離が在る筈である。

191 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:26:05.80 ID:EjdBpGXJ
「外殻から此処まで貫通してる・・・なんて事は、ないよね・・・?」
「だとしたら、その原因なんて考えたくもありませんね」
「おい、あれ!」

何かを見付けたのか、1名の魔導師が声を上げた。
見れば、彼は足下に拡がる空間、崩落した構造物が積み重なる其処を覗き込んでいる。
なのはは彼が指し示す先、其処彼処から白い煙が立ち上り続ける地点の中心へと視線を移した。
そして、それを視界へと捉える。

「・・・戦闘機?」
「R戦闘機か」
「いや、違う・・・見た事も無いタイプだ。バイドの新型かも」
「待て、待ってくれ・・・目標、魔力を発しているぞ。何だ、これは?」

崩落跡の最下部に横たわる、白に近い灰色の装甲。
損壊した表層の其処彼処から内部機構を露にし、大量の火花を散らす金属塊。
無惨に折れ飛んだ三角翼が、数十mほど離れた地点で業火を噴き上げている。

192 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:30:58.65 ID:EjdBpGXJ
形状からして、明らかに戦闘機類に属する機動兵器であると判るも、しかし何処か確信する事を妨げる半有機的な外観。
そして何より異常な点、その戦闘機から膨大な量の魔力が検出されているという事実。

「例の、クラナガンの機体と同類か?」
「何とも言えませんが・・・何だ? 振動して・・・」

更に、異常な点。
灰色の機体が、微かに霞んで見える。
見間違いかとも思われたが、そうでない事はすぐに解った。
落下した構造物の破片が機体に触れるや否や粉砕され、一瞬にして細かな粒子となって消失したのだ。
機体表層部、超高周波振動。
良く見れば、機体下部の構造物も徐々に粉砕が進んでいるのか、機体は少しずつ瓦礫の中へと埋没してゆくではないか。
その光景を目にしたなのはの脳裏に、在り得る筈のない可能性が浮かぶ。

「・・・振動破砕?」
「あれを知っているのか?」

193 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:33:32.23 ID:EjdBpGXJ
先天的固有技能「振動破砕」。
即ち、なのはにとって嘗ての教え子であるスバル、彼女が有するISである。
四肢末端部から接触対象へと振動波を送り込み、対象内部にて発生する共鳴現象によって目標を破壊するという、実質的に防御不可能とも云える格闘戦特化型ISだ。
それによって為される破壊の様相と、眼下の不明機によって構造物が粉砕される様相。
双方が、余りにも似通っていた。
片や戦闘機人とはいえ魔導師、片や所属不明の戦闘機。
共通点など在ろう筈もないというのに、何故こんな事が思い浮かぶのだろうか。

「ランツクネヒトと地球軍の連中が、スバル達の解析結果を流用して作り上げた機体、とは考えられんかな」
「まさか。こんな短期間の内に?」
「在り得ない事とは思わんけどな。連中の事なら、何をやっても不思議とは思わへんよ。寧ろ・・・」
「足下、退がれ!」

突然の警告。

194 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 18:37:02.85 ID:EjdBpGXJ
反射的に後方へ飛ぶと同時、数瞬前まで立っていた床面が、呑み込まれる様にして階下へと消えてゆく。
なのはは驚愕に目を見開きつつ、20mほど後方の地点へと降り立った。
そして、新たな崩落地点を見据える。

奇妙な感覚だった。
崩落の前兆となる振動どころか、崩落の瞬間でさえも衝撃を感じなかったのだ。
宛ら流砂の如き静かさで、床面は下方へと呑み込まれていった。
通常の破壊ならば、断じてあの様には崩れまい。
一体、何が起こったのか。
その疑問に答えたのは、警告を発した者とは別の魔導師だった。

「あの崩落際・・・何なんだ?」

その言葉に、なのはは気付く。
崩落地点周囲の破壊された構造物、その断面が飴細工の様に溶け落ちているのだ。
状況からして高熱による融解かと思われたが、しかしこれといって熱は感じられない。
ならば何故、構造物が溶解しているのか。

195 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 18:48:44.79 ID:wzKwVSk8
思うんだけど、これ全部投下するの?
忍法帖リセットされて一レスの行数も規制されてるし、残りの量を考えると相当時間掛からない?
それに新スレも立ちにくいようだし、これで2,3日以内に埋まったりしたら面倒なんじゃ
R-TYPE氏も無理に投下しなくていいって言ってるし



196 :R-TYPE Λ氏 代理投下:2011/05/29(日) 19:06:56.64 ID:EjdBpGXJ
投下断念します。
第三十三話は避難所の代理投稿スレにあるんでそっちで読んでください。

197 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 19:47:08.53 ID:wzKwVSk8
乙です

198 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 19:59:23.47 ID:ArxoClqM
忍法帳のせいで投下しようにも出来ない人多そうだ

199 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 21:05:17.79 ID:8vRRujD7
多いというほど投下する人間がそもそも・・・・

200 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 21:22:23.50 ID:MQnNM05q
特にΛ氏の作品は量も半端ないからな・・・
おとなしく避難所で読もう

201 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 22:07:09.42 ID:d4ii3yHb
自分はやれるなら代理投下したいけど……
氏が断念したなら、無理に投下するつもりはない

202 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 22:31:20.37 ID:wzKwVSk8
でも、ここ1ヶ月くらいはかなり盛り上がってる方じゃないか?

203 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 22:59:19.57 ID:d4ii3yHb
確かに、色んな人が来てるよね
またスレが盛り上がるといいな

204 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 00:13:58.95 ID:Pt5oyck2
最近ここの存在知ったんだけど、オススメのSSってあります?
未完結や更新が止まってるのでも構わないんで

205 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 00:36:32.62 ID:DP2o0gYx
>>204
今上にあるR-TYPEΛとかおススメ
ただ単純なグロ描写ではない、世界が壊されていく本当の意味での鬱が味わえます

人類不信になること請け合い

206 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 00:43:04.18 ID:qlE+vyYU
DMCとのクロスでいいのあったような。
ダンテがティーダと知り合いで、ティアナの兄貴分の作品。
原作より幻術が使えないが、射撃センスが高すぎる仕様のティアナw

207 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 01:09:14.25 ID:K54P5ir9
R-TYPEΛ欝ですね。

みんなどんどん壊れていく……

それどころか、描写が無いだけですでにバイドになっている可能性もあるんじゃ……
提督を見る限り自分じゃ分からないみたいだし。

208 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 01:58:11.49 ID:7qIPom4P
>>204
最近更新されてるのだと、上にもあるリリカルTRIGUNを推すよ。
AsとのクロスだからStS以降のキャラは出ないけどオススメ。
なのはと人間台風の絡みにほっこりするw最新話でアレだけど・・・

209 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 07:10:33.66 ID:cIJPBEnw
>>206
DMCと言われるとデビルメイクライよりもデトロイドメタルシティの方が先に思い浮かぶ

210 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 07:14:43.32 ID:IIqTmstN
無名氏のブレイドクロスであるリリカル×ライダーが個人的に好きだな
あとマスカレード氏のマスカレード本編やクウガおかえりとかも

211 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 09:10:30.58 ID:IIqTmstN
っと、もう一つ忘れてた
あとはファイアーエムブレムクロスも好き
アイクがお気に入りってのもあるけど

212 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 14:32:39.60 ID:rWYnLLNs
15時ごろからいきます
忍法帳のおかげで1レスがすごく短くなりそーですが
なんとかやってみます

213 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:04:47.74 ID:rWYnLLNs
 日差しが頬に当たり、肌が暖かくなっていくのが感じ取れる。
 太陽の光のあたたかさ。
 いつ眠っていつ起きて、自分が生きている時間を忘れそうになる。

「ん……朝なの、ユーノ君?」

 目を開けると、ユーノが呆れ顔で見下ろしていた。

「なのは、いくらなんでもガレージの床にじか寝はどうかと思うよ」

「いいじゃない、どうせ部屋もここも同じようなもんだし」

「まあね……」

214 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:07:20.07 ID:rWYnLLNs
 ときどき、なのはは部屋に戻らずガレージで寝てしまうことがある。
 距離的にも数十メートルで、わざわざ2軒分の家賃を払うよりは、
ちゃんと車庫の付いた部屋に引っ越した方がいいとアリサに言われたこともあったが、
なのはは今の部屋が気に入っているからといつも答えていた。
 もともとの部屋は士郎に家賃を出してもらっていて、ガレージの方は自分のバイト代から払っている。
 そのうち、両方自分で払うようにしたいとは考えていた。

 その時、自分の中で何かが変わる。なにげない手続きの変更であっても、
それがきっかけ、それが決定的な違いとなり、自分と実家の縁が切れるかもしれない──


215 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:10:21.98 ID:rWYnLLNs
 ただ、どこかで自分の生き方を決める時期が来るとは思っていた。
 アリサもすずかも、聖祥というエリート学校の生徒として小学生のころからきちんと進路を考えていた。
 自分も、二人より遅くなるとしてもいずれ自分なりの生き方を決める時期が来る。

 その時というのは、それはこのZに出会ったときになるのだろう。

「さ、ユーノ君、朝ご飯食べてきたら始めよう。今日中に洗浄終わらして組み始めようね」

 寝ても覚めても考えるのは車のことばかり──今のこれがそういう状態なんだな、とユーノは思っていた。

「ああ。準備して待ってるよ」

 シリンダーヘッドとエンジンブロック、クランクケースまで分解されたL28の部品が、
作業台の上に載せられ、再び組み上げられる時を待っている。

216 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:13:25.19 ID:rWYnLLNs
 当たり前のオーバーホールの作業メニューでも、それを初めてイチからやる──ユーノにももちろんその時はあったが、
今、なのはは初めてその経験をしている。その初経験を、このL28改ツインターボエンジンで迎える──

 ユーノは走りに向いた人間ではないと自分では思っているが、メカニックとして素直に羨ましい──となのはを思っていた。



 休み時間、教室の机でなのはがいつものように昼寝をしていると、いきなり、アリサがなのはの手をとってにおいをかぎ始めた。
 あわてて飛び起き、もう片方の手で口元のよだれをぬぐう。

「あ、アリサちゃんなにしてるの!?」

「いやー、あのZのエンジンバラしてるなんていうから、オイルくさくなってんじゃないかと思って」

「大丈夫だよ、ちゃんと手は洗ってるって」

217 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:16:23.62 ID:rWYnLLNs
 なのはの肩にぽんと手を置き、アリサは落ち着いた笑顔を見せた。
 小さいころはとにかくはしゃいで、やんちゃでおてんばを絵に描いたようなアリサだったが、こんな顔もできる
ようになったんだと、なのはは今更ながらに思い返していた。

「あんた、あたしたちくらいしか友達いないもんね!大丈夫だって、たまに差し入れ持ってってあげるし、
ひとりで根詰めてばっかじゃもたないでしょ、気晴らしにも付き合ってあげてもいいしね」

「──うん。ありがとう、アリサちゃん」

 帰り道、いつものスクールバス。
 お気に入りの最後尾の席に急ぐなのはたちに、見知った少女の姿が見えた。

「あれ、はやて!?」

「おひさし……」

 やわらかい表情ではやてはなのはたちを迎えた。

218 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:19:12.61 ID:rWYnLLNs
「珍しいじゃんはやてがひとりでバス乗ってるなんて、どうそっちのガッコは」

 久しぶりの旧友との再会にアリサはすっかりテンションが上がっている。

「ええとこだよ、結構な進学校やから授業はキビしいけど」

「はやてならヨユーでしょー」

「みんな変わりないみたいやね」

 窓側の席で頬杖をついていたなのはに、アリサが肘を入れた。

「何ぼけっとしちゃって、疲れてる?」

 間抜けな声を漏らして振り向いたなのはに、はやてもやや表情を緩める。

「考えてたんだ、進路のこと」

「は──!?」

 アリサの大声がバスの車内に響く。

219 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:22:49.63 ID:rWYnLLNs
「あんたがそんなマジメなこと言うなんて、こりゃ明日は雪かしらね」

「ふふふっ、今は夏やでアリサちゃん」

「いちおー進路相談では進学っつってたでしょ?聖祥大の」

「まーね、でもさそれって言っちゃえば決断の先送りでしょ。アリサちゃんやすずかちゃんは、
ずっと前からちゃんと目標があったわけだしさ。経済学と、機械工学って」

「んー、まあ家業があるわけだしさ、それ継ぐのに足しになればなってくらいだけどね」

「私はさ……その話したの、たしか小学校の2年か3年のころだったよね、そのころ将来のことなんて何も考えてなかったし、
せいぜいが、翠屋でケーキつくったりウエイトレスやったりするのをなんとなくイメージしてただけだし」

 普段は気にしていなかったが、車体最後部に大型ディーゼルエンジンを搭載する
バスの振動が、なのはには心地よく感じられていた。

220 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:26:03.33 ID:rWYnLLNs
「実際にこうして、Zっていう、生活の中心になるものかな、そういうの抱えてみると、今の生活、
こーゆうのも悪くないかななんて思っちゃったり」

「そこでそうなるワケ──っ!?」

 アリサの強烈なツッコミがなのはの頭に直撃する。

「なんだかんだ言ってそれただのフリーターでしょうがっ!ったく昔からバカだとは思ってたけどここまでとは」

「そんなミもふたもない」

 シートに座り直し、こほん、と咳払いをしてアリサは改めた。

「でもま、軸を持つのは悪いことじゃないわよ。けして無目的に生きてるわけじゃないんだしね。
その日暮らしのプーちゃんと違って、今のあんたはきっちり目的を持って、バイトでも何でもしてるワケじゃん?
その目的がいいことか悪いことかは別としてサ」

「……うん」

221 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:29:43.46 ID:rWYnLLNs
 背もたれに大きく伸びをして、アリサは天を仰ぐようにする。

「しっかし、八神先生もフェイトちゃんも、世間からすりゃ羨ましすぎるほどの仕事をしてるのに、何でだろね」

 なのはの方に向き直り、つん、と指でおでこをつく。

「あんたはともかく、さ。片や超人気声優、片や不良女子高生、ほんとなら何も接点なんてなかったはずなのにねー」

「ふふ、そうだね」

 接点。それは、あの夜あの時間に、湾岸を走っていたということ。ただそれだけだ。





 深夜の海鳴大学病院。
 仮眠室を出たリインは、帰る前にふと思い立ち、病棟の廊下をひとまわりしていた。
 普段の勤務では当直明けでもそのまま帰るリインだが、走りに行く時だけは仮眠室を使っていた。
 今は、ポルシェを預けているので本来なら用は無いはずだが、今夜はなんとなしに病院に残っていた。

222 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 15:32:26.81 ID:rWYnLLNs
 スポーツ走行というのは非常な体力を使う。プロのレーシングドライバーは、1レースをこなすと体重が数kgも
落ちるといわれている。それはもちろんストリートの走りであっても、ドライバーの肉体にかかる負荷は当然同じだ。

 フェイトが入院している病室の前まで来たが、中はのぞかず、通り過ぎる。

 あの少女は、見かけよりもずっとスピードに取りつかれている。
 一日でも、車から離れていたくない。見て見ぬふりをするのは医師としての職業倫理にもとるのかもしれないが、
同じスピードに魅せられた者として、リインもまたフェイトの気持ちは痛いほどに理解できた。
 たとえドクターストップをかけたとしても、彼女はまた走り出してしまうだろう。

 つらいことは、経験しなければ理解できない。

 そして、本人に理解しようとする意志があるのならば、それは必ず乗り越えられる。

223 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/05/30(月) 16:42:54.33 ID:rWYnLLNs
さるさんくらって投下終了の宣言ができませんでした
大変失礼しました(;´д`)ノノ

10res/hがめやすですかねー

また明日未明あたりちょろっといくかもしれません

ではー

224 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/30(月) 21:54:32.58 ID:DFN8HdqW
投下おつっす

225 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 02:46:57.59 ID:VwV9Sz23
>>206
「リリカルなのはStylish」だね。
アレは面白いよね〜 ダンテの存在が違和感無さすぎで素晴らしい。マジでオススメ作品

あと個人的にはティアが主役級の『ブラスレイター』とのクロスSSも未完だけどオススメ

226 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 12:35:47.18 ID:3WtVfsFp
数少ないティアナ主人公で、しかも良作。だが未完だ。
チート化していないのに、根性でなのはにくらいつく良バランス主人公。だが未完だ。
不穏な伏線や、パワーアップの伏線があり続きがとても気になる。だが未完だ。

227 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 17:58:22.47 ID:OgElSE1j
>>225
リリカルなのはStylishだったか。ありがとう。
あれのティアナは、退けない理由が凄い伝わってきて良かった。
自分の命を大事にしなくてはならないってのは正しい、
でも、それを破ってでもやらなくてはいけないことがある感じがw

ブレスレイターのは、自分視点の凡人から強制的に化物という特別になってしまったのが見物だった。


228 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 21:56:48.99 ID:5A1XVHW5
化物に対抗するために化物に成り下がった(HELLSING風)ティアナもつい最近いたな

229 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 22:22:06.06 ID:hGsYQn7S
努力する凡人って設定がクロスSSだと活かしやすいんだろうか?>ティアナ
天才ばかりのなのはキャラの中じゃ珍しい部類だし。

まあ、周りが化け物揃いなだけで、相応の才能はあるけど

230 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 22:29:17.98 ID:pKuSYYQ9
俺的には、FE氏とシレンヤ氏を応援したいな。

231 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/05/31(火) 23:07:45.33 ID:rt0bHBOl
>>225,227
推薦、感想、ありがとうございます。
お久しぶりです。0:30頃から続きを投下したいと思います。

【注意書き】
途中から読む人もいないと思いますが、一応。
初めてご覧になる方へ。

本作品には鬱展開、グロテスクな表現、原作キャラの死亡(両作品共)が多分に含まれます。
今回とは限りませんが、今後、必ず出てきますのでご注意ください。
また展開の都合上、毎回注意文を載せるとは限りません。ご了承ください。
念の為、wikiのページにもその旨を掲載しておきます。



232 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 23:07:47.72 ID:OgElSE1j
>>229
キャラクターの中で、感情を理解しやすく動かしやすいってのがあるのかも。
逆に、なのははSTS放送当時は、人によってなのは像が違い、いろんなななのはがいた気がする。


233 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 23:19:13.30 ID:VwV9Sz23
>>231
おぉー お久しぶりです!!
期待して全裸で待機!!!!

234 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:38:29.37 ID:OqTcLOql
 早朝、まだ陽が昇る前にエリオは目を覚ました。ベッドから起き上がろうと無意識に右手をつくと、

「痛ぅっ……!」

 電流にも似た痛みが右腕を肩まで駆け抜ける。見ると、二の腕は、しっかりとギプスで固定されていた。
 そうだった。そういえば、この右腕は二日前の戦闘で折れたのだったか。
 薄暗い室内を見回すと、そこは寮の自室。昨夜、フェイトに付き添われて戻ってきたばかりだった。
 エリオは左手で身体を支えるとベッドに腰掛ける。じんわり鈍い痛みで、すっかり目が覚めてしまった。
短パンから伸びる左膝には包帯が巻かれ、右肩も同じように巻かれていた。

 硬い腕を撫でる。この腕を見つめていると、あの日の光景がまざまざと蘇る。あの日、感じた怒り、憎しみ、そして恐怖が。
 二日前――そう、まだ二日なのだ。信じる正義が揺らぎ、誰を相手に戦えばいいのか分からなくなってから。
それを言えば、顔見知りの同僚を喪って怒りに燃えたのは二週間と少し前だし、
仲間の夢の道を断たれて激しい復讐の念に駆られたのはその一週間後だ。

 そもそも融合体と名付けられた怪物が現れだしたのが数ヶ月前である。
たったその程度の時間で、エリオを取り巻く世界は大きく変わってしまった。
 それでも、やるべき仕事を果たしさえすればよかった。その意味では身体は辛くとも、はっきりと目指す先は見えていた。
二日前、すべてが崩れ落ちるまでは。

 それは、十二日前の戦闘で両目を抉られ負傷、入院していたティアナ・ランスターの見舞いに行った時のこと。
 突然の悲鳴に駆け付けたエリオを待っていたのは、気絶したスバルを抱く怪物の姿。
上半身と下半身でアンバランスな容貌をした、朱色の髪をライオンの鬣の如くなびかせた融合体。
 エリオはスバルを助ける為にストラーダを振るった。傷を負った融合体は逃走、それを怒りのままに追跡し、
一度は融合体に深手を負わせることに成功したが、またも逃げられてしまう。

 そして、追い詰めた路地裏で再びの戦闘。最初は単調な動きと侮っていたが、その油断を突かれ、右腕を折られた。
雨で濡れた地面を利用し、サンダーレイジで反撃したと思いきや、それは幻術で作り出した偽物。
本体は、はるか空中に跳び上がり、強烈な踵落とし。明らかに融合体に可能な芸当ではない。
 辛うじてストラーダで防いだものの、がら空きになった左膝と右肩を、それぞれ同時に撃ち抜かれる。

 エリオは我が目を疑った。融合体の両手には見慣れた白い二挺の拳銃――クロスミラージュ。そして幻術と来れば、もはや疑う余地はない。
 融合体の正体は病室から消えた僚友、完全に視力を失ったはずのティアナ・ランスターなのだと。
 倒れたエリオの額に銃口が押し付けられる。銃身は雨に濡れて冷たく、それでいて、魔力弾を放ったばかりの銃口は熱を帯びていた。



235 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:41:45.35 ID:OqTcLOql

 その燃え盛る炎のような朱の瞳に晒された瞬間。

 ゴリ、と額に硬い銃口が押し当てられた瞬間。

 頭が真っ白になった。

 忙しなく渦巻いていた、何故だとか、どうしてとかいった思考はすべて吹き飛び、残ったのは絶対なる死のビジョン。
自分のたった十年余りの短い生涯は、ここで唐突に、あまりにも呆気なく終わってしまうのだという確信だけ。
 窮地を救ってくれたのはフェイトでもなのはでもない。ティアナと同じく――いや、彼女以上に、そこにいるはずのない人。
殉職したはずのヴァイス・グランセニックとストームレイダーだった。エリオはヴァイスの言葉に唯々諾々と頷き、去り行く二人を見送った。
 傷で動けなかったんじゃない。完全に思考が停止していた。
 この時、何もしなかった自分を悔いたのは、もっと後になってからだった。

 追想を終えたエリオは立ち上がり、少しよろめいてベッド脇の松葉杖を掴む。本当は杖がなくとも支障はないのだが、何故だか立ち上がった瞬間、傷が疼いた。
 小さな魔力弾だったせいと、撃たれた場所がよかったらしく、膝と肩の傷は思いのほか軽かった。
シャマルの治癒も受けた結果、杖も数日でいらなくなるだろうとのこと。ただ折られた右腕だけは、どれだけ早くても一週間は掛かるらしい。
 シャマルもキャロも常に付いていてくれるわけではないし、骨など重要な部位は自然治癒に任せるのが一番だと言われた。
 痛みはほとんどない。けれども疼くのだ。
 ティアナを、それと知らず悪魔と罵ったこと。あまつさえ殺しかけたこと。そもそもが憎しみに囚われて先走った挙句、目を曇らせていたこと。
 不甲斐ない自分への怒り。

 思い起こせば、病室でのティアナはまだ正常な状態だったのかもしれない。だとすれば、どうして弁解してくれなかったのか。
逃げても状況が好転するはずなどないのに。
 ティアナに対する疑念。

 ティアナとヴァイスを見送ったことで、融合体の真実はまた一歩遠ざかった。自分が戦えない間は、スバルとキャロと隊長達に負担を背負わせる。
 仲間への申し訳なさ。
 深く、治る当てのない傷。それはエリオ自身の心に刻まれた傷だった。
 傷は今、この瞬間も叫んでいる。焦燥感を伴ってエリオを苛む。こんなことをしている場合ではないと。
 確かに。怪我をしていても、戦えなくても、何かしらできることはあるはずだ。ティアナとヴァイスの件を伏せておけるのは、今日が限界。
最悪の場合、二人はXATの手によって抹殺されてしまう。


236 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:43:54.40 ID:OqTcLOql

 しかしエリオは迷っていた。いっそ二人の件はXATに任せるのも手ではないかとすら思い始めていた。
 何故なら、エリオにはもう一つ傷があったからだ。
 自分を苦しめる傷の最たるもの。誰にも言えない、知られたくない、その傷を知っているのは一人だけ。

 それは昨夜の出来事。
 退院するエリオを迎えに来てくれたのはフェイトだった。杖をついて、彼女の運転する車の助手席に乗り込む。
 帰りの車中で二人きり。どちらも黙って口を開こうとしない。
 普段なら照れを感じて会話が途切れてしまうのだろうが、この時は違った。圧し掛かる重過ぎる現実が、互いから会話する余裕すら奪っていた。
 やがて車が道程の半分を過ぎた頃、フェイトが重い口を開く。

「昨日、ティアナとヴァイス君に会ったよ」

 ゲルト・フレンツェンの脱走、暴走に始まり、ヴァイスとの戦闘とティアナの転落事故。彼女が見たすべてを、フェイトは淡々と語り切った。
 その心中は窺い知れない。彼女の中で整理は付いているのか、それとも、今のエリオのように混乱が渦巻いているのか。
 フェイトは反応を求めているのか、再び口を閉ざした。それきり重苦しい沈黙が車内に充満する。
 聞こえてくるのは、すれ違う対向車の音のみ。重みを増した空気は口から入り込み、少しずつエリオから言葉を絞り出そうとする。
 そして数分後、とうとうエリオの口をついて出たのは、自身でも信じられない一言だった。

「僕は……ティアナさんが怖い……」

 フェイトに臆病な自分を晒したくはなかった。
 無論、男の矜持もある。しかし、それ以上に怖かった。
 軽蔑されるんじゃないか。
 仲間を恐れるなんて、と叱責されるんじゃないか。
 そんな考えが頭をよぎってしまって。
 けれど、己の弱さを吐露できるのが彼女しかいなかったから。
 ひとたび堰を切ったが最後、エリオ自身にも止められなかった。

「あれは……人じゃなかった……」

 ティアナじゃなかった。
 本当はそう言いたかったけれど、言えなかった。あれは間違いなくティアナなのだ。


237 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:46:31.90 ID:OqTcLOql

「これまでも死にそうになったことはあるけど……あんなに怖かったのは初めてだった。
どうしようもなく怖いのに、体を動かそうにも、どうにもならなくて。それなのに、ああ……僕は死ぬんだ、って。そう、淡々と感じてた……」

 語るエリオはフェイトを見ない。
 怖くて見られなかった。
 ただ、膝に置いた拳を見つめ、身体ごと震える声で打ち明ける。
 そこにいたのは騎士でも魔導師でもない。
 プライドや立場を取り払った、ただの子供としてのエリオ。

「それなのに、後になってから堪らなく怖くなって」
「エリオ……」
「教えてください、フェイトさん。あれは"まだ"ティアナさんなんですか? 僕達は……もう一度、分かり合えるんでしょうか」

 フェイトに縋って答えを求める。泣き出す寸前の、この上なく情けない顔で。
フェイトは淡々と前を向いたまま、エリオを見ずに答えた。

「最初の質問については、"まだ"ティアナと呼べると思う。
私は直接話してないけど、ヴァイス君の口振りから察するに、彼が一緒にいることでティアナの精神状態は安定してるみたい。
それがいつまで続くのか、今もそうなのかは分からないけど。でも、もう一つは……私にも分からない」

 なのはに課せられた宿題。
 ティアナを、その手で斃せるか否か。
 スバルならきっとティアナを守りたいと言うだろう。ティアナを救う為に戦うと。暴れるなら身体を張って止めると。
 毎日、足しげく見舞いに通う姿からして、彼女がティアナの負傷に責任を感じているのは明らかだった。
エリオとキャロだけが知っている、ティアナの前でスバルが見せていた顔。
表面上は笑っているのに、どこか不安定な、今にも泣きだしそうな張り詰めた表情。
見るに堪えなかった。
 キャロは迷っている様子だったが、彼女は強くて優しい娘だ。確信はないが、スバルと同じ意見に傾くような気がする。

「でも駄目だ……僕にはできない……」

 強くて優しい、キャロのようにはなれない。染みついた恐怖が、どうしたって拭い去れない。
けれど、それが"あれ"を見たが故と言い切るのも、己の弱さを誤魔化すようで嫌だった。

「でも怖いからってだけじゃないんです。ティアナさんを放っておいたら、きっと恐ろしいことになる。だから……」
「だから?」

 フェイトは車を路肩に寄せて停車させ、優しい声で繰り返した。

「だから……僕は……」



238 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:48:36.93 ID:OqTcLOql

 どうしたいのだろう。
 ティアナを放置しておけない。スバルほどティアナを手放しに信用できない。
だからと言って、ティアナを融合体として斃すのも嫌だった。それ故の苦悩。
もう一度、仲間の為に、力なき人々を護る為に、死んでいった人々の為にと、
大義を振りかざして心を怒りに染められたなら、どれだけ楽だろう。
でも、ティアナとヴァイスであると知ってしまった以上、それもできそうになかった。

「いいんだよ、エリオ。無理に戦わなくても……」

 優しく、赤子をあやすようにして髪を掻き分け、頭を撫でられる。エリオが驚いてフェイトを見ると、
彼女は目を細め、慈愛の瞳で語りかけていた。

「これは隊長としてじゃなくて、私個人としての願い。エリオが辛いなら、ここで降りていい。
私と同じ……ううん、一緒に訓練して戦ったティアナを斃すなんて、きっと私以上に辛いと思う」

 それはいつだったか、自暴自棄になっていた自分を抱き締めてくれた時と同じ瞳。
実の母親でさえ注いでくれなかった優しさだった。

「私にも誰にも強制なんかできない。だから、エリオが心に取り返しのつかない傷を負ってまで戦うくらいなら降りてほしい……なんて」

 降りる――即ち、リタイア。局を辞め六課を去る。
 現状で可か不可かはともかく、それをフェイトの側から提示してくれたことで、エリオの心は幾分か救われた。
 だが、フェイトの慈みは誰にでも向けられるものではない。守るべきものの為なら、修羅にもなる。
それを確信したのは直後のことだ。

「ねぇ、エリオ。私は決めたから。ヴァイス君と話して分かったから、私のやるべきことが」

 いつしか慈愛の瞳は、決意を秘めた真摯なものに変わっていた。凛とした視線はエリオから外れ、真っ直ぐ前を向いたまま揺るがない。

「ティアナとヴァイス君を討つ。私は撃てる。それが必要なら。ティアナとヴァイス君が人を傷つける側に回るなら」



239 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:50:53.28 ID:OqTcLOql

 自分に言い聞かせるようにフェイトは呟く。その発言にエリオは悲壮な覚悟を感じずにはいられなかった。
心優しい彼女が、その結論に至るまでにどれだけの苦悩を繰り返しただろう。
彼女はエリオに話すことで、自身をもう戻れない状況まで追い込もうとしている。

「だから、エリオもエリオ自身で決めて。六課に来た時と同じように、まだ戻れるうちに」

 ゴクリ、と息を呑む。
 まだ戻れるうちに。
遠からずミッドチルダを揺るがす何かが起こると、フェイトは示唆しているのだ。
 
「命懸けで戦うのは自分だもん。自分で決めなきゃきっと後悔する。だから相談には乗れても、決めるのはエリオだよ」

 フェイトは再びエリオに目を向け、きっぱり言った。
突き放す物言いにも取れるが、想いは十分に伝わっていた。
 直後、そっと伸びた手に抱き寄せられる。それが確かな証だった。

「でもね、それがどんな道であれ、エリオが悩んで決めたなら私は受け入れる。その選択を応援する。
私のエリオへの気持ちは何も変わらない。それだけは忘れないで……」

 頭が彼女の胸に沈み込む。目を閉じると感じる、柔らかい感触と香り、そして温もり。
 どうしようもなく優しくて嬉しくて。
 いつしか頬を涙が濡らしていた。

「はい……ありがとうございます、フェイトさん」

 震える声で言うと、それきりエリオは我慢を止めて泣きじゃくる。後はもう嗚咽が漏れるだけだった。
 フェイトは何も言わず、泣き止むまで頭を撫でてくれた。



240 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:53:19.38 ID:OqTcLOql

 この時、誓ったのだ。
 みっともなく泣くのは今日で最後にしよう。
 明日はもっと強くなろう。
 まだ迷いは晴れないし、答えは出ない。それでも彼女に縋らず自分の足で立てるように。

 エリオは片手を器用に使い、ややもたつきながらも訓練着に着替えた。
この腕ではまともにストラーダも握れないが、基礎体力訓練なり回避練習なり、何かやり様はあるはずだ。
左手一本での槍の取り回しを練習するのもいい。
 ただでさえ二日も無為に過ごしている。もう一分一秒でも無駄にしたくなかった。
とにかく、がむしゃらに。何処を目指すのかもわからぬまま、何でもいいから強くなりたかった。

 時刻は午前五時半を回った頃、まだ窓の外は薄紫に染まり、寮内も寝静まっている。
朝の冷えた空気に少し身震いしながら、エリオは部屋を出て訓練場に向かう。
冷たい無機質な廊下を、足音を押さえながら抜ける。が、外に出ると冷えた空気は一変した。
いや、気にならなくなったと言うべきか。
 今日の訓練場は廃棄都市区画などに姿を変えることはなく、そこには六課の現フォワード陣が勢揃いしていた。

「ああ。おはよう、エリオ」
「腕の調子はどうだ? あまり無理をするなよ」
「けどまぁ、病み上がりでも朝練しようって根性と熱意は褒めてやるぜ」
「あ、はい。おはよう……ございます」

 なのは、シグナム、ヴィータが口々に声を掛けてくる。エリオは呆気に取られ、曖昧な返事を返すのが精一杯だった。
 何故、彼女らがここにいるのだろう。まだ訓練開始には早い。一人二人ならまだしも、特にシグナムなどは訓練に顔を出すことすら珍しいのに。
だが、今日は全員――そう、全員がエリオより早く出ており、当然その中にはスバルとフェイトも含まれている。

「おはよう、エリオ君。もう大丈夫なの?」
「あ、うん。ねぇ、キャロ。これはいったい……」

 最初に近寄ってきたキャロに問う。目下最大の疑問は、フォワード陣の存在よりも――
 何故、フェイトとスバルはBJを装着し睨み合っているのか、であった。
 これはただの訓練とは異なり模擬戦なのだろう。それは分かる。ただ、二人の間に漂う空気は、交差する視線は本気そのもの。
とても一日の初めに軽く慣らす訓練とは思えない。
スバルに至っては見るからに全身が熱を帯びていて、ゆうに一時間以上は身体を動かしているだろう。明らかに息を荒げている。



241 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:55:53.40 ID:OqTcLOql

「ん……なのはさんの発案で、ちょっと模擬戦」
「模擬戦って。スバルさん、何時から訓練してたの? 朝からあんなに飛ばして大丈夫かな」

 心配するエリオにキャロも表情を曇らせる。彼女も不安を感じているのだ。

「かれこれ一時間ってとこかな。大丈夫だよ、あれくらい。これまではウォーミングアップみたいなもの、むしろ身体が温まってちょうどいい」
「なのはさん……」

 キャロに代わって答えたのは高町なのは。観戦している面子で一人だけBJに身を包んでいる。
 視線で意味を問うエリオに、なのはは続けた。

「ちょっと試しにティアナを想定した模擬戦ってとこかな。って言っても、融合体のティアナとのね」
「ティアナさんとの……」
「戦闘の映像を見て、フェイトちゃんがシミュレーションには適任だと思ったの。
思考した上での戦術か、本能レベルかは分からないけど、ティアナは接近戦を絡めてくる可能性が高い。
融合体のボディの耐久性と膂力、これを接近戦に使わない手はない。
多分、ただの打撃でもリボルバーナックルを装備したスバルぐらいの力は出せるだろうね。それに――」
「加えてクロスミラージュからの銃撃も警戒しなきゃいけない――だから、遠近どちらも得意なフェイトさんに?」

 エリオが続きを引き継ぐ。
 なのはの意図するところはすぐに理解できた。確かにフェイトなら、"あの"ティアナを再現するのに適している。
いや、管理局に魔導師多しと言えど、彼女以上の適役はそういない。その理由は誰より自分が一番知っていた。

「そう、でも一番の理由はスピード。人型の上半身と真逆に、下半身は獣に近い形をしている。エリオも言ってたでしょ? 瞬発力では負けてるって。
地上限定とはいえ、フェイトちゃんにも匹敵するかもしれない」

 融合体と化したティアナの下半身は太く、それでいて強靭な、さながら獣の後肢だった。あの脚で蹴られれば、まず無事では済むまい。
しかも先端には鋭い爪まで生えている。

「決定打には欠けていても、今のティアナは完全なオールラウンダー。
それを殺さずに制するって言うんだから、手加減したフェイトちゃんにくらい勝てなきゃ話にならない」
「だから、スバルさんはあんなに……」

 スバルの本気は、眼、体捌き、全身から溢れる魔力からも明らか。対するフェイトも隙のないの構えで、スバルと対峙している。
こちらも本気だ。
 なのはと副隊長陣の視線は一触即発の二人に注がれていた。今回、なのはは敢えて開始の号令を控えている。
両者のタイミングに任せるつもりなのだろう。


242 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 00:59:12.89 ID:OqTcLOql
 エリオは隊長陣の邪魔にならぬよう、隣のキャロに小声で囁いた。

「なのはさん、よく許可したね……。スバルさん、昨日の夜まで拘禁されてたんでしょ? なのに、いきなり早朝から自主練と模擬戦なんて……」
「これからは、空き時間はできるだけスバルさんに付いて教導するつもりみたい。勝手に動かれるよりはいい、だって」
「そっか……じゃあ、やっぱりスバルさんは――」
「エリオ、キャロ、始まるよ」

 なのはが言うが早いか、スバルとフェイトが同時に動きを見せる。よく均された土の地面を蹴って、両者弾かれたように飛び出した。
 互いの間に横たわっていた10mほどの距離は一瞬で縮まり、ゼロになる。
 そして激突。
 バルディッシュとリボルバーナックル、金属と金属がぶつかる耳障りな轟音が空気を震わせた。
余波はエリオとキャロの許まで伝わり、思わず身を竦ませてしまう。
それこそ隊長達が平然としていられるのが不思議なほどに。

 一度正面からぶつかった後は距離を取る。スバルはバックステップ、フェイトは後方に大きく跳んだ。その間も攻撃の手は止まない。
 フェイトの掌からはプラズマランサーがスバル目掛けて放たれた。スバルを狙う雷撃の槍は地面を穿ち、土を巻き上げる。
 スバルはスバルで、ステップしながら態勢を立て直し、すぐに飛びかかれるよう拳を構える。 
 どちらも掛け値なしの本気。音や衝撃のみならず、闘気の波とでも言うべきものをエリオは感じ取っていた。
 フェイトはティアナを想定している為か、飛行はせず跳躍だけではあるが、戦う姿勢は真剣だ。

 矛盾しているようだが、フェイトともなれば、制約の中で力の上限を抑えた上での全力全開が可能なのだ。
上から課せられたリミッターとは似て非なる、意識の上でのリミッターとでも言うのか。
 だが、それはスバルも同じ。マッハキャリバーが唸りを上げ、跳び退るフェイトを猛追する。彼女もまた、模擬戦故に残す体力、魔力量を概算。
合わせて力の上限を下げ、その中で全力を発揮する術を心得ていた。
 それもそのはず。まだ時刻は早朝。
スバルはこれから夕方、或いは夜まで更なる訓練をし、出動ともなれば融合体やガジェット、戦闘機人との闘いに赴くのだから。

「どうしてそこまで……」

 エリオが呟いた。
 信じられなかった。そうまでして自らを痛めつけるスバルも。それを許すなのはも。
 いや、本心では分かっていた。スバルが焦る理由は一つしかないと。


243 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:01:18.47 ID:OqTcLOql

「ティアナさんの為だよ」

 戸惑いがちに発した独り言に返したのはキャロ。なのはに聞こえないよう、エリオの耳元で囁く。

「スバルさんもね、独房にいる間に私たちと同じことを聞かれたんだって。ティアナさんを殺せるかどうかを。
それでスバルさんは悩んで悩んで、ずっと苦しんで……ティアナさんを助けたいって決めたの」
「でも、それじゃ市民や局員、XATに危険が……!」
「だからね、『あたしが真っ先にティアを捜し出して駆けつける。戦わなきゃいけないなら、あたしが先頭に立ってティアを止める。
誰かがティアを殺めようとしても、あたしには止められない。でも、その瞬間まであたしはティアと話したいんだ。
力尽くでも、たとえティアをぶっ飛ばしてでも。それも分かり合う為の手段の一つだと信じてるから』だって」

 戦うことで、力と力をぶつけ合うことで対話する。言うのは簡単、だが、そんなものは夢想に過ぎない。
 今のティアナはスバルよりも確実に強いというのに、それを殺さずに制するなんて無茶にも程がある。
 それでもスバルは諦めていない。今も遥かに格上のフェイトに果敢に立ち向かっている。
がむしゃらなその姿がエリオにはやけに眩しく、言いようのない不安が胸に湧き起こった。

「だからって、市民や仲間の危険は払拭し切れないじゃないか……。いくらスバルさんが先陣切って戦うからって、危険には変わりないよ」
「エリオ君……」
「ごめん。こんなこと言うつもりじゃなかった」

 完全な八つ当たりだった。とことん一途になれるスバルへの、それを嬉しそうに語るキャロへの嫉妬。
 二人はこんな自分を情けない奴と笑うだろうか。冷たい奴だと蔑むだろうか。
そんな思いがつい、口をついて出てしまった。

「スバルさんね、なのはさんに頭を下げたんだよ。自分の無茶を許してほしい。できるならティアナさんを助ける為に力を貸してほしいって」

 これまでの誇らしげな顔とは異なり、語るキャロの表情は暗い。まるで自分だけ仲間外れにされたような――今のエリオと同じ寂しげなもの。

「それで……キャロはどう思うの?」
「確かにティアナさん一人を助ける為に皆が協力するのは危険だと思う。
けど、ティアナさんがいればもっと多くの人が救える。
ヴァイス陸曹と一緒に……二人の協力があれば融合体の秘密に近付ける……ううん」

 キャロは一旦そこで言葉を切った。目を閉じ、力なく首を振る。


244 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:03:43.82 ID:OqTcLOql

「これは詭弁。私はきっと、ティアナさんにもヴァイス陸曹にも死んでほしくないの。ただ、それだけ。
ほんと言うとね、私もちょっと諦めてた。私も一瞬だけどティアナさんの後ろ姿をこの眼で見たから。
正直、怖かった」

 キャロも同じだったのだと知り、エリオの心は少しだけ救われた。だがホッとしたのも束の間、すぐに自己嫌悪が込み上げる。
 何を安心しているんだ僕は。
 ティアナを恐れる同類が自分だけじゃないのが嬉しいとでも言うのか。

「でもね、戻ってきたスバルさんは違った。絶対に諦めないって力強い意志を瞳に秘めて……眩しかった」

 キャロの唇は次々とスバルを称える美辞麗句を紡ぎ出す。
 首を絞められて気絶させられたのに。
 死にかけたのに。
 諦めない彼女は強い、凄い、逞しいと。

(何だよ、それは。それじゃあ……それじゃあ、僕は……)

 裏を返せば、殺されかけたのを、いつまでも引き摺って恐怖している自分は――。
 またも嫉妬心が頭をもたげてくる。何か、何か言ってやらないと気が済まなかった。

「でも、それじゃ市民の安全が……!」

 この瞬間、エリオにとっての護るべき市民はただの言い訳に成り下がっていた。
嗚咽のように堪えきれず吐き出した指摘は正論だったろう。けれどその心中は醜い。否定されたくない、
己が弱いと認めたくないという自分本位で利己的な主観に満ち満ちていた。
 自分自身、それを自覚していたからこそ最後まで言えなかった。キャロはエリオの言わんとするところを察したらしく、

「うん、そうだね。XATみたいに見つけ次第、処分……殺してしまった方が被害は抑えられるのかもしれない。でも、ほんとにそれでいいのかな」
「……どういうこと?」
「だって、このままじゃ融合体になった"被害者"の大事な人があんまりだよ。融合体になったが最後、もう助けられないなんて悲し過ぎるよ。
そりゃあ今も融合体を人間に戻す研究はなされてるみたいだけど、いつになるか……。ティアナさんやヴァイス陸曹、ゲルトさんは明らかに他と違ってる。
そんな人達を融合体だからって殺すのは違うと思う」
「どうかな。一昨日の事件でゲルトの名声は地に堕ちたじゃないか。ゲルトは人を襲おうとしたんだ。みんな掌を返してゲルトを殺せって叫んでる」
「それは、みんな怖いからだよ! だから攻撃しちゃう。でも、ゲルトさんやティアナさんもそうだったのかもしれないじゃない。
放っておけないのは分かってる。だからこそ、私たちがいるんだよ。でなきゃ真実が掴めないまま、みんなが周りの人を疑って生きていく」


245 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:07:40.40 ID:OqTcLOql

 キャロは一歩も退かなかった。気弱だった彼女は今、そこにいない。その瞳に力強い光を秘め、キッとエリオを見据えている。
その立ち姿は彼女の語ったスバルを想起させた。
 だからこそ認めたくなかった。気高い彼女と矮小な自分を比較して、余計に苛立ちが募る。意固地になってしまう。
本当はこんなことを言いたいのではないのに。

「その為に僕たちが無用な危険に身を晒すことになる。そんなの――」
「無用じゃないよ! 無駄なんかじゃない!」

 突然叫んだキャロに面喰ったのはエリオだけでなく、なのはもそうだった。
振り向いてキャロを見ているが、キャロはそんなことにも気付かず、胸の前で拳を固め震えている。
ふるふると。目にいっぱいの涙を溜めて。
 怒りと悲しみが綯い交ぜになったような、爆発する感情を堪えているような、そんな顔。
エリオは完全に圧倒され、たじろぐばかりだった。

「キャロ、エリオ、いい加減にして。今は訓練中、視ることも訓練の内だよ」

 まだ何か言いたそうだったキャロを厳しい口調で抑えたのは、やはりなのはだった。

「思想を戦わせるなとは言わないよ。最終的な決定は本局や地上本部が下すものとしても、二人に問いかけたのは私だしね。
だけど、どちらにせよ私たちは戦わなきゃいけない。その時、自分のデバイスに想いを乗せられるか、両足を支える力にできるかどうか――
スバルはそれをやってる。だから、しっかり視てて」

 キャロと二人してスバルを見やる。会話に熱中して数分、スバルはまだ食い下がっていた。
 けん制しつつ距離を保つフェイト。それは彼女にとって射撃、格闘、どちらにも対応可能な最適の距離。
 どれほど激しく動こうと縮まらない一定の間隔は、如何なる侵入も許さない鉄壁の城塞のよう。
フェイトの周囲、およそ半径2m以内は、まさしく彼女の制空圏であると言えた。
 対するスバルは必死に食らいつく。絶対の領域に一歩でも踏み込もうとマッハキャリバーを走らせる。
 バルディッシュを持った右手、空いた左手、両の手で展開し重なり合う魔法陣。
 左手からは直射型の魔力弾、バルディッシュからは刀身の形をした誘導刃――ハーケンセイバーが放たれる。
バチリと至近距離で弾ける雷の矢は、一撃でもスバルの足を止めるに足るもの。それが無数に迫るのだ、非殺傷設定と知っていても恐怖するはず。


246 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:11:18.27 ID:OqTcLOql
 だが、スバルは止まらない。身体を左右に振って、極限まで引きつけた魔力弾を回避。
首を振ると誘導魔力刃が耳元を掠める。
それでも視線はぶれなかった。後退する目標を見据えて、足はひたすら進み続けた。

「ちぃっ!」

 フェイトの口からこぼれたそれは無意識に漏れたように感じられたが、表情に焦りは見られない。
弾幕はすべてかわされ、ほぼ肉薄されたにも関わらず、である。
 手を伸ばせば掴める距離まで近付いたスバル。そして彼女は手を伸ばす。当然だろう、組めばスバルの有利は絶対。
如何にフェイトと言えどバルディッシュを振るうには近過ぎる上、得意のスピードも殺される。捕まえて離さなければスバルの勝利は揺るがない。
 それら不利な状況を些細な計算ミス、歯車の食い違いだとばかりに平然としているフェイトに奇妙な違和感を覚えた瞬間、

「っくぁあああああああ!!」

 苦悶の絶叫がスバルの喉から絞り出された。背中で魔力刃が炸裂したのだ。小規模の爆発と共にBJが破れ、前のめりに倒れ込もうとする。
通常なら鋼鉄だろうと合金だろうと切り裂く金色の刃も、非殺傷ならこの程度。しかしその程度でもスバルに与えたダメージは大きい。
おそらく今の彼女は熱と衝撃で声も出せないだろう。
フェイトはハーケンセイバーが回避されることを読んでいた。だからこそ生きていたハーケンを再度操作、がら空きの背中に撃ち込んだ。

 こんな単純で稚拙な策に引っ掛かったのも、前だけ見ての猛進、いや、前しか見ていなかったが故の油断。その結果の被弾。
彼女は、あまりにも一本気過ぎた。まっすぐで決して己を曲げず、折れない。だから読み易く、足を掬うのも容易かった。
 ふらついたスバルに対し、フェイトはここぞとばかりに追撃を開始する。バルディッシュを軸に跳躍、回転による遠心力を加えた爪先が側頭部にめり込む。
傍目にも痛い一撃。ゴッ、と耳障りな音と共にスバルのバランスが崩れた。
まだ終わらない。フェイトは地に足を付けることなくスバルの髪の毛を掴み、回転と逆方向に身体を捻る。
もう一方の膝を叩きつけ、先ほどとは反対側から脳を揺らした。

 羽でも生えているのかと見紛うほどに軽やかな動き。これで飛行魔法を切っているというのだから驚きだった。
バルディッシュを手放したフェイトは、しかし華麗な体捌きのみで三撃、四撃と徹底してスバルの顔面に蹴りを加えていく。
一撃目は呻きを発していたスバルだったが、もはや声を出す余裕もないのか、或いは既に意識が飛んでいるのか、
されるがままになっている。それでもなお、フェイトは打撃を加え続ける。見下ろすその視線は恐ろしく冷ややかだった。
 破壊のみに重きを置いた、残酷で容赦ない体術。だが、不思議と美しさすら感じられた。もっとも、やられた方は堪ったものではないだろうが。
 フェイトの体術は初めて見たが、スバルほどじゃないにしろ堂に入っている。
と言うか、あれだけ体重とスピードが乗っていれば格闘の心得はさほど問題じゃない。
まぁ彼女とて、単独捜査をすることもある執務官でありライトニング分隊長、当然と言えば当然。デバイスなしでの無力化に長けていても何ら不思議はない。
ただ、らしくない。

 いつものフェイトならバルディッシュを起点にして攻撃、防御を行っているだろう。
こんなふうにバルディッシュを手放してでもアグレッシブに攻めることはまずない。
機動六課きってのオールラウンダーであり、シグナムと互角の接近戦を可能としながらも、その戦法は冷静で堅実。
 『動』と『静』で言えば間違いなく『静』。
 なのにあの戦闘は何だ。普段のフェイトとはほど遠く、まるで獲物に喰らいつく野獣。だが、どこか既視感がある。


247 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:13:44.22 ID:OqTcLOql
 エリオは暫し黙考し、やがて確信した。

「そうか、あれはティアナさんなんだ……」

 フェイトはティアナを再現していると。
 それ自体はなのはから聞いていたが、まさかこんな形で再現するとは思ってもみなかった。土俵を合わせるだけだろうと、そう思っていた。
 さしずめハーケンを当てるまでが手傷を負わせた後のティアナ。今の状態が最初のティアナといったところか。
 狡猾で冷徹な狩人と狂乱する野獣。どちらが強いかは言うまでもないが、どちらが恐ろしいかは判断に迷うところではある。

 あの日、自分は怒りで恐怖心を麻痺させていたが、もし何の前触れもなく、或いはティアナと知った上で対峙していたならば、あれほど上手く捌けただろうか?
 おそらく否。スピードだけでもティアナは並の融合体を凌駕している。少しでも足を止めていたなら、狩られていたのはこちらの方。
圧倒的な勢いと迫力は、時にそれだけで脅威となる。手傷を負わせられたのは、偏に迷いなく身体が動いてくれたお陰だ。
 戦士ならば、頭に血が上っていても身体は訓練した動きを取る。感情とは別の部分で戦いの為だけの直感が働く。
だが視野が狭まれば、その内側には意識を集中できるが、代わりに思わぬ落とし穴に嵌まるもの。それも普段なら考えられないような単純な形で。

 今のスバルがまさにそうだ。しかもスバルは一撃を受けた時点で混乱している。
フェイトらしからぬ攻撃に、自分が"どちら"のティアナを相手にしているのか、"どちら"に合わせた戦法を取るべきか分からなくなった。
無論、それがフェイトの作戦である事は言うまでもない。
 だからと言って、これは――。

「なのはさん……止めないんですか……?」

 凄絶な光景にエリオは堪らず抗議した。とっくに勝負は着いている。むしろ遅過ぎるくらいだ。
なのに、いくら待ってもなのはは止めようとしない。打ちのめされるスバルを睨んでいる。それはシグナムもヴィータも同じだった。
誰もがフェイトの暴挙とも言うべき行為を黙認している。

(これじゃあの日と同じだ……。スバルさんとティアナさんが、なのはさんに撃墜された模擬戦の日と……)

 どう考えてもやり過ぎだ。模擬戦の度を超えている。
本当にこれが抑えた全力なのか、この後スバルは訓練を続けられるのか、だんだんエリオは自身がなくなってきた。
 いまだ絶え間ない殴打を続けるフェイトの冷たい視線。あれは、あの日のなのはと同じ、いや、それ以上の警告ではないかと。
エリオは昨晩、フェイトの決意を聞いている。必要なら、ティアナとヴァイスを殺すことも厭わないという悲壮な決意。
そこへどうしても救いたいと、戦意を削ぐような発言をするスバルは邪魔なのかもしれない。
 思い知らそうとしているのか?
 そんなことは不可能だと。
 そんな甘い戦いではないと。


248 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:15:48.90 ID:OqTcLOql

(いや……フェイトさんに限ってそんなことするはずが……)

 信じたい。しかし、今のフェイトの真意が読めないのも確かだった。
見るとキャロも青褪めた顔で、半分目を背けかけていた。

(仕方ない、こうなったら僕が――)

 と、エリオが一歩踏み出した瞬間、

「まだだよ、エリオ、キャロ。黙って見てて」

 ぬっとレイジングハートが眼前に突き出された。なのはから制止が掛かった。
何故かフェイトではなく、エリオたちに、である。

「何でですか! あんなの……もう決着はついてるじゃないですか!」
「ついてない。どちらかが戦闘不能になるか、負けを認めるまで。タイムアップはなし。そういうルールだよ」
「そんな……」

 エリオは言葉を失い、身体を震わせた。
 怒り、悲しみ、失望、恐怖。様々な感情がない交ぜになって、制御が利かなくなりそうだった。

「どうしちゃったんですか、なのはさん……。やっぱりあの時と同じなんですか!?」
「待って、エリオ君。まだスバルさんは倒れてない。それにあの時とも違うよ」

 食い掛ろうとするエリオを止めたのはキャロ。両手でエリオの肩を抱いて、正面から視線を捉えて毅然と告げた。

「最後まで見てなきゃ駄目。そうすればエリオ君にも、私の言いたいこと分かってもらえると思う」

 エリオは荒い息を吐きながらも、渋々といった様子で元の位置に戻る。
キャロにこうも真剣に止められては押し切るに押し切れなかった。
 なのはは、その様子を横目でチラリと見遣るが、すぐに視線をスバルとフェイトに戻してしまった。
一瞬、垣間見えたその眼は、感情の込められていない目ではなく、押し殺した目にも見えた。


249 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:18:25.28 ID:OqTcLOql
 一方的な蹂躙はまだ続いていた。
 スバルの顔がみるみる腫れていく。BJ越しとはいえ、あの乱打の嵐では無理もない。
むしろ、まだ立っているのが不思議だった。どうして、スバルは倒れないのだろうか?
エリオは注視して、その意味に気付き戦慄。背筋を冷たい汗が伝う。

 正体は倒れることも許さない恐ろしい速度の連撃。
流石は六課最速のオールレンジアタッカー。フェイト・T・ハラオウンは近距離でも格闘戦でも、その異名に違わぬ速さなのだ。
 エリオは飛び出したい気持ちを堪え、歯を食いしばって視る。
じっと右に左に揺れるスバルに目を凝らし――小さな光を見つけた。

「あれは!」

 スバルの目はまだ死んでいない。嵐に耐え、反撃のチャンスを虎視眈々と窺っていた。
 拳が勝手に握られる。
 自然と、身体が前のめりになる。
 自分が興奮しているのを自覚する。これ以上ないくらいに。
 
「私達の仕事は市民の安全と財産を守ること。それだけでもままならないっていうのに、
スバルは更に敵になる可能性が高いティアナを、あくまで助けたいなんて言う」

 スバルの目が輝きを放つのとほぼ同時に、なのはが語り出した。
ぽつり、ぽつりと。視線は戦闘中の二人に固定されている。

「スバルは言ったよ。命を懸ける、命を賭けてでも、ティアナの本当の願いを聞き出すって。
そんなスバルがこの程度で挫けてちゃ、ティアナは引っ張れっこない。それにスバル自身も確実に死ぬ」
「なら……なら、僕達がサポートすれば――」
「これはね、私も誰も手伝っちゃいけない。だって本来の仕事じゃないんだから。
これが、スバルのごく私的な我が儘に対する私達の最大限の妥協点。
私も手伝うとは言ったけど、先頭を行くのはスバルじゃなきゃいけないの」



250 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:20:50.32 ID:OqTcLOql

 スバルはティアナが視力を失った原因であり、ティアナが融合体に変貌した現場に居合わせた。
そこで互いに本音をぶつけ合い、傷付け合い、ティアナはスバルの首を絞めて昏倒させた。
 無意識だった、とスバルは弁解しているが、だとしてもティアナがスバルを危うく殺しかけたことに変わりはない。

 二人の関係はもう、十日前までの親友とも、三日前までの依存し依存される関係とも違う。
最早、エリオやキャロには及びもつかない何かがあるらしく、
こればかりは直接スバルの真意を問うたなのはにしか理解できないのかもしれない。
 一つだけ確かなことは、ティアナと話をつけるに相応しい相手はスバルを措いて他にいない。
少なくとも、なのははそう考えている。


「エリオ、キャロ、これだけはもう一度、肝に銘じておいてほしいの。
今、ミッドチルダは大変な事態に陥ってる。私達の任務は、市民の安全と財産を守るって仕事は、
天秤の向こうっ側に乗るのが、仲間との友情や家族や恋人への愛情だったとしても、決して軽いものじゃないんだよ」


 俯いて唇を噛むエリオ。自分もあの雨の日、一人の市民を守れなかった。
もしティアナと知っていたら、それでも刃を向けられただろうか?
 おそらく、無理だっただろう。
そうなれば、あの殴られた男は、エリオのティアナへの情のせいで命を落としていてもおかしくなかった。
 本当は天秤になんか掛けたくない。仕事を貫くことが大事な人を守ることに直結するならいい。
けど、現実は唐突に取捨選択を迫り、こちらの都合なんて待っちゃくれない。
 エリオにも、最近それが分かってきた。その上で、どちらも取るという選択がどれだけ欲深で困難かも。

 果たしてフェイトはスバルに警告しているのか、覚悟を試しているのか、
それとも彼女が望みを叶えられるよう徹底的に鍛えるつもりか。
 いずれにせよ、容赦も妥協もあり得ないのは確か。スバルのやらんとしていることは、それほどまでに重い。
 そう考えると、理不尽に思えたフェイトの行動にも多少、得心が行った。

(そうとも知らずに僕は……)

 握り締めた拳が震えた。己の不明につくづく嫌気が差す。
けれど怒りの捌け口が分からず、持て余す他ない。
 その時だった。震える拳が、そっと握られた。
 優しく、包み込む温もりの主はキャロだった。


251 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:23:12.57 ID:OqTcLOql

「エリオ君、今はスバルさんの戦いを見てよう? 反省なら後でもできるから」
「キャロ……うん」

 そうだ。反省なら後で幾らでもできる。それよりも、今はスバルを――。
 エリオは毅然と前を向き、スバルの戦いを見届ける。
 スバルはまだ耐えていた。フェイトのなすがままだったのが、徐々にではあるが両腕を上げ、防御の型を取る。
勢いに乗ったフェイトを崩すには不意打ち以外にない。とはいえ、それも困難と判断したのだろう。
これでは隙を見出すより先にスバルの身が持たない。
 スバルがガードを固めた以上、暫く拮抗が続く。そう長くはないだろうが。

 エリオは何とはなしに隣のキャロを見た。キャロも同じようにエリオに向いており、視線がかち合う。
そう言えば、まだ手は繋がれていた。
 キャロも意識したのか、ぽっと頬を赤らめて目を逸らしたが、すぐにぎこちない感じで視線を戻した。
ただし、瞳に浮かんでいたのは照れではなく憂いだった。

「あのね、エリオ君。私も昨日、なのはさんと話したんだ。
二人がティアナさんを探すなら、私も手伝わせてほしいって言ったんだけどね……」

 ゆっくりとキャロは不安を吐き出し始めた。
 握った手がきゅっと締められる。まるで彼女の不安を表しているかのように。

「駄目だよ、って。これは私とスバルだけの我が儘だから、みんなには甘えられないって言われちゃった。
ミッドチルダは今、こんな状況だし……ティアナさんと戦う時は、キャロにも協力してもらうかもしれないからって」

 なのはの拒否はもっともだった。全員が私情で動けば、部隊はたちまち立ち行かなくなる。それを踏まえての先の発言。
 だからこそ、今日までに発見しなければXATから追手が掛かるというのに、僅かな暇を見つけての捜索しかしなかった。
 それを理屈で分かっていても、キャロは疎外感を感じていたと思う。
ミッドチルダも六課も崩壊寸前の現状で、不安を感じないはずがない。
しかしスバルもフェイトもなのはも、頼りたい人物は皆、各々の問題で精一杯で、唯一、対等な立場のエリオは入院していた。

 エリオは静かに空を仰いで息を吐く。

「そっか、キャロは強いね……」

 なのにキャロは、スバルやエリオに情報の橋渡しをしてくれていた。折れそうな不安や悩みを、こんな小さな身体に閉じ込めて。
相談できる相手もいないのに。


252 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/01(水) 01:33:48.17 ID:OqTcLOql
 エリオは改めて、彼女の強さを知った。同時に、自分の不甲斐なさも思い知る。だが、それもすべては終わってから。
スバルの戦いを見届けてからだ。

ごめん。それから、ありがとう……

 心の中で、そっとキャロに礼と謝罪を告げる。
 直後、膠着していた戦局が動いた。
まるで切れ目のない乱打にも流石に疲れたのだろう。フェイトの勢いに衰えが見られた。
そして始まるスバルの反攻。必要なのは起死回生の一撃。一撃必倒のディバインバスターより他にないだろう。
 となれば狙いは足だ。フェイトの超スピードの要たる足さえ潰せば、体力を温存し足を溜めていたスバルから逃れる術はない。
もっともそれしきのことは、フェイトとて読んでいる。エリオに読める、それは即ちフェイトにも読めるということだ。
今はデモニアックを演じているとはいえ、いつ切り替えるかは彼女次第。

 そうでなくても強弱、緩急織り交ぜた戦法が取れるフェイトである。勝敗はまさに神のみぞ知るか。スバルの目的同様、綱渡りに等しい。
 そんな一切合切を承知で、スバルは勝負に出た。
 腕は変わらず顔面を守り、足は肩幅に開き、腰を落とす。一見して変わらないが、その姿勢が意味するものはカウンターだ。
そこまではエリオにも読めたが、当然警戒しているであろうフェイトにどこまで通用するか。
 フェイトが動く。軽い跳躍からのハイキックが、スバルの左側頭部に向けて放たれた。スバルは左腕でそれを払い、前に出た。

「ぅぉおおおおおおお!!」

 気勢を発して突進するスバル。
 フェイトは右足を戻すと同時に、左足を繰り出す。狙いはあくまで顔面だ。
 執拗に顔面を攻めるのは、足や胴では今のスバルの勢いを止められないから。
フェイトの体術も相当だが、やはり軽さは否めない。相手がシューティングアーツの練達者であるスバルなら尚更。
意表を突いてバルディッシュを手放したのが仇になったか。

 スバルはこれも凌いでみせた。と、言っても、本命でないからこそ楽にできただけのこと。
 フェイトは飛行さえできれば、追撃のないところからバルディッシュを引き寄せるなど造作もない。
しかしフェイトは、この模擬戦で飛行と砲撃を封じている。今回の訓練ではティアナをトレースしているのだから当然だが、
この期に及んでも定めたハンデを遵守する余裕があるのは流石。
 とはいえ、狙いを定めるのも魔力を練るのも困難な接近戦では魔力弾は焼け石に水。
バックステップを踏みながら、スバルのガードを掻い潜って牽制しつつ、本命をぶち込む機会を窺っている。

(つまりこの勝負、フェイトさんがバルディッシュにたどり着くまでに捕らえられればスバルさんの勝ち。
逃げ切るか、頭部に直撃させればフェイトさんの勝ち……)

 そしてバルディッシュまで十数歩の距離。スバルが徐々にだが確実に距離を詰めた時、フェイトが強く足を踏み込んだ。

(来る――!)

 最初と同様、右足でのハイキック。スバルが手の甲で弾く勢いを利用して素早く足を戻す。
地中に埋め込まれた杭の如く深く踏み込んだ左足を軸に回転、後回し蹴りへと繋げた。

「くぅっ……!」

 スバルの食い縛った口から苦悶の声が漏れた。フェイトの踵が、防御の上からでも重い衝撃を与えているのだろう。
リボルバーナックルをはめた右腕がビリビリ痺れているのが見て取れた。
 そうか、これがフェイトの本命。攻撃を仕掛けてくるなら、ナックルのある右腕と踏んだ。
一時的にでも封じれば、逃げるにせよ攻めるにせよ有利に転がる。



そろそろ規制を喰らうと思うので、すいませんが一度切ります。
続きは明日にでも。
最近視力が落ちたのか年を取ったのか、小説は普通に読めるんですが、横書きでビッシリ詰まった文章がきつく感じてしまい・・・
なので、大分改行を増やしました。必然的にレス数も増えるようになりますが、ご理解いただければと思います。
読みにくければ仰ってください。



253 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/01(水) 02:44:58.27 ID:/8yftQtL
支援

254 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/01(水) 12:14:30.02 ID:HcLyvldY
GJ
なのはの「私達の仕事は〜」って台詞がいい
なのはって二次創作の方が職業意識高いような気がする

255 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/01(水) 21:32:36.76 ID:+oMzCtCg
GJ!
待っていたぞネクロダイバー!jなくてブラスレイター!

256 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/02(木) 01:21:56.68 ID:cdMpA91r
GJ、待っててよかったー
フェイトがティアナに遭遇したら、問答無用で攻撃しそうでこわいな

257 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/02(木) 02:26:15.53 ID:67nS7aCJ
GJ!
しっかしエリオは何とかなりそうだが、フェイトがな・・・なんか怖い
「エリオを怪我させた」っていう私的な怒りが、まだ拭えてない様で怖いな。

てか、下手したらフェイトの『怒り』とエリオの『恐怖』に漬け込んでベアさんが暗躍しそうで・・・

258 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 00:11:33.73 ID:zcMQQjym
>>254
それはまぁ、作者さんそれぞれのさじ加減じゃなかろうか。

259 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 00:21:26.05 ID:YXq3mI1P
申し訳ありません。昨日はPCに触れず投下できませんでした
(すまなかったな、許してくれ)
01:00頃から続きを投下します


260 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 00:36:34.10 ID:iPiE24gN
PCが融合体と化していたんですね。

261 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:06:59.35 ID:YXq3mI1P
>>260
むしろPCと融合したいと思う時があります



 フェイトの勝ちは決まったか。高を括ってフェイトの動きに集中していた時だった。

「エリオ君! スバルさんが!」

 キャロの声に視線を移すと、そこにはスバルがナックルのない左腕を腰溜めに構えていた。
 振り向くフェイトの表情に、初めて驚きが浮かぶ。それは彼女の読みが外れたことを意味していた。
 対照的な二人の顔を青い魔力光が照らす。
万全とはいかないまでも、チャージを経て撃ち出される技は、フェイトの足を潰すには十分。

「これで!!」

 青い魔力を纏った拳が、足を戻すより早くフェイトの脛を撃ち抜いた。

「っぐぅぅぅぅ!」

 噛み殺した悲鳴。
 非殺傷でも手加減していても、痛いものは痛い。右足は暫く使い物にならないだろう。 
 後ろ回し蹴りという不自然な体勢も災いした。転倒は辛うじて避けたものの、
今のフェイトは、スバルに背を向けるという致命的な隙を晒している。
 ナックルダスターだったか。拳に魔力を圧縮し放たれる魔力付与打撃。ナックルから放たれるものとばかり思っていたが、
左手からでも撃てたとは。 短い間に、スバルは目覚ましい成長を遂げていた。
 背を向けた上に、右足を引き摺って逃げるに逃げられない状況。今度こそ決着は付いたかと思われたが、さっきのこともある。
どんなどんでん返しがあるか分からない。何より、エリオから見えたフェイトはまだ諦めていなかった。

 無理を押して逃げるか、スバル相手に格闘戦を挑むか。どちらも勝ち目は薄いが、それとも――。

 エリオ、キャロはもちろん、なのはや副隊長、誰よりスバルの視線がフェイトに釘付けになる。
このフェイトの動きで、勝敗が決すると言っても過言ではない。
 この隙を見逃すほどスバルは馬鹿ではない。拳を振り上げ、フェイトに狙いを定める。



262 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:09:23.67 ID:YXq3mI1P

 全員の視線が集まる中、フェイトが跳んだ。
 飛んで逃げるのではない。残った左足で、トン、と軽やかに宙を舞った。

 高く、スバルの背丈を遥かに超えた跳躍。スバルの拳は空振り、フェイトは空中で華麗に身を翻した。
 この跳躍の意味。単なる回避に止まらない。隣のキャロやなのはを見ても、すぐには理解していないようだった。
 だが一人だけ。エリオだけは一瞬で悟っていた。
 当然だ。映像データを見ただけの人間には分かるまい。その場にいた人間でなければ。
 だからこそ、エリオに分からないはずはなかった。
 そう、これは自分とティアナの戦いの再現なのだから。
 となれば、次の行動は決まっている。
 案の定、フェイトは左足を突き出して、スバル目掛けて落下を始める。狙いは鋭く正確に、その額を捉えて。
 回避は間に合わないと判断したか、スバルは両足を開き、地をしっかと踏み締めた。

「受けちゃ駄目だ!!」

 高度からの踵落とし。たとえ受け切っても、空いた両手から魔力弾の直撃を喰らう。
 あの時はエリオが片手を折られ、雨で足場もままならない状況だった。
故に、確実に決めるならそこまで追い込まねばならないが、スバルの消耗を考えれば十分有効だろう。
フェイトもここで全力を尽くしてくるはず。片手で受けるのは困難、となれば必然と選択肢は回避か迎撃に絞られる。

 模擬戦に横から茶々を入れるのはルール違反と知りながら、エリオは叫んだ。
 それはスバルに自分と同じ轍を踏んでほしくないという思いからか。それともエリオ自身が、この戦いにティアナを重ねていたからか。
 どちらにせよ、エリオの願いも空しくゴッッと硬い音が届いた。
 しかし、それはスバルが両手で踵落としを防いだ音ではなく。

 一歩前に出た彼女が、真っ向から額で踵を受け止めた音だった。


263 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:13:37.27 ID:YXq3mI1P

 スバルは重い一撃にも揺るぎなく、鋭く尖らせた目で額に乗った踵を睨みつけている。
 持ち前の打たれ強さ、ヴィータから教わった防御、咄嗟に魔力を集中し強化したフィールド。
それらすべてが相まって、スバルを立たせている。
 しかし、本当にそれだけだろうか。
 彼女の両足を支えているのは、そんな理屈とは別次元にあるもの。
 絶対にティアナを止め、そして助ける。その願いを貫き通そうとする意志ではないか。
 そう思えてならなかった。

「あはは……。まったく……言ったそばから無茶するんだから」

 なのはが誰にともなく呟く。エリオが目をやると、なのはの口元には、呆れと不安が混じり合ったような複雑な微笑が浮かんでいた。
 スバルの行動には誰もが目を見開いているが、一番驚いているのはフェイトだろう。
まさかスバルがノーガードで、しかも両手が自由になっているとは想像だにしなかったに違いない。
 幾度となくひっくり返った戦いの趨勢は、ここに来て再び反転した。
 スバルの両腕が振るわれる。フェイトが痛む右足で退くよりも、魔力弾で追撃するよりも早く。
 当然だ。想定外の行動の対処を組み立ててから動くフェイトと、予定通り実行するだけのスバル。どちらが早いかは自明の理というもの。
 何より攻撃対象は、無防備にも彼女の頭の上に自分から乗っかってきている。こうなれば、どんな行動もスバルに追いつけるはずがなかった。

 そして力を溜めた両の拳が、左足を左右から挟み潰した。

「――ッッ!!」

 声どころか音にもならない息だけが、フェイトの口から唾液と共に吐き出された。これで本当に非殺傷なのか、ダメージが残らないものなのかと心配になるほどに。
 フェイトは力を振り絞った右足で後ろに跳んだ。しかしあまりに弱弱しく、スバルから逃れるには到底足りない。
おまけに体勢はガタガタ、膝は今にも崩れ落ちそうだ。
 今やフェイトの防御は両手のみ。スバルなら容易く突き破れるだろう。
 絶好の好機。スバルは止めを刺ささんと踊りかかる。せめてもの抵抗にと交差された両腕を左腕で弾き、跳ね上げた。
 がら空きのボディにリボルバーナックルが唸る。
 最早、フェイトに打つ手はない。直撃を受ければ、耐えたとしてもフェイトの反撃の芽はないに等しい。


(決まった! 今度こそ……!)

 誰もが決着を確信した。即ち、スバルの勝利を。
 だが、それは成らなかった。

 スバルの拳が直前で止まる。
 ナックルを叩き込む寸でのところで、スバル自身が急制動を掛けたようにしか見えなかった。
 エリオからはスバルの表情は窺えない。ただ、攻撃を覚悟していたフェイトは目を白黒させている。
 スバルと同時にフェイトも、誰もが動きを止めた。実際には一秒少々だったろうが、何倍にも引き延ばされたように感じられた。
 突如、訪れた静寂。
 引き裂いたのは、やはり彼女だった。



264 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:17:19.88 ID:YXq3mI1P


「スバル!!」


 静止した空間に怒号が轟いた。
 声の主は――なのはだ。
 かつてないほどの怒気を孕んだ声。なのはは目に見える怒りのオーラを全身に纏い、腕を組んで佇んでいる。
彼女がここまで怒っているのを見るのは初めてだった。
 なのはが何故、こうも怒っているのか。エリオには見当も付かないが、ともあれ彼女の叱咤は止まっていた時間を動かした。

 スバルはビクッと肩を震わせ、一拍遅れて動き出す。しかしスバルは拳を撃ちこまず、代わりにフェイトの左手を取って捻った。
関節を極めて取り押さえる気か。だが――。

 無理だ。
 即座にエリオは看破した。
 手つきからして、自分にも分かる拙さ。フェイトなら苦もなく抜けられる。
 一度抜けられて、それでも腕を取ることに拘る。スバルは明らかに平静を欠いていた。
 二度目は足取りの重いフェイトを捕らえられたが、どう考えても罠だ。
だが、スバルはそれすら気付いていない。結果、致命的な隙を晒すことになる。

「そうは……させない!」

 後ろ手に捻られ背中に回されたフェイトの手と、スバルとの間で金色の光が爆ぜる。
 フェイトが掌で溜めていた魔力弾が、至近距離で炸裂した。おそらく捕まることを予測し、
スバルの狙いを察した瞬間からチャージしていたのだろう。
 白煙を上げてフェイトは前のめりに倒れ、爆発に面喰ったスバルは堪らず仰け反り、手を放す。
フェイトは前へ、スバルは後ろへ。両者の距離が離れる。
 しかしフェイトは堪えた。だん、と左足を強く踏ん張った。 
 先の踵落としもそうだが、覚悟が有れば大抵の苦痛は耐えられるもの。
同じ痛みでも自ら引き起こし、予想していたフェイトは行動に移せる。


265 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:20:59.00 ID:YXq3mI1P

「はぁああああああああ!!」

 振り向きざまにフェイトは拳を突き上げ、スバルの顎をストレートに捉える。
 ただの拳ではない。高々と掲げられたフェイトの拳は金色に輝いていた。
 紫電一閃。
 エリオはシグナムから教わった技を連想した。
 そのものと呼ぶには些か不細工であり、原理も異なるだろうが――とはいえ電撃を拳に纏わせたのは確か。
おそらく、即興で電気を帯びた魔力スフィアを形成し、叩きつけた。発射するには不安定でも、直接ぶつける程度なら問題ない。
 そんなものを、まともに顎に喰らったのだ。普段のスバルならまだしも、今のスバルではひとたまりもないだろう。
 スバルは吹っ飛び、仰向けに倒れると、やがて動かなくなる。
 それは、この模擬戦の決着を意味していた。
 
「何で……」

 エリオは呟いた。
 互いがハンデを負い、ルールに基づき先を読み合う、言わばチェスのように進んでいた一戦。
一手一手が意外なものこそあれ、振り返ってみれば、すべてが理に適った攻防。
 しかし分からない。スバルがあそこで手を止めた合理的理由が、どうしてもエリオには理解できない。
いくら考えようと説明がつかなかった。
 
「スバルさんはフェイトさんを取り押さえようとした……。この模擬戦はティアナさんを想定したもの、
つまりスバルさんはティアナさんに致命傷を与える危険があると判断し、関節を極めて無力化を試みた……?」

 いや、本当にそれだけか? あの状況下で、本当にそんな余裕があるものだろうか。
 第一、これは模擬戦だ。急所に直撃してもまず重症には至らない。勝敗の懸かった土壇場で、そんなことを気にするだろうか。
 そこまで没頭していた……?
 そうだとしても説明がつかない。実戦と仮定するなら、あの場で拳で止める選択は、それこそ愚行以外の何物でもない。
 エリオの思考が、ぐるぐる堂々巡りを繰り返していたところへ、

「エリオ、それは違うよ」

 なのはに否定される。
 彼女はエリオとキャロの視線を集めた後、話を続けた。普段の教導と同じく、やんわりと教え諭すような口振りで。


266 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:23:06.85 ID:YXq3mI1P

「融合体の身体はそんなにやわじゃないよ。もしもティアナと戦闘になったとしたら、完膚なきまでに叩きのめさなきゃ捕らえられないだろうね。
関節を外したり骨を折ったくらいじゃ――ううん、たぶん腕一本、脚一本落としたとしても止まらない。それこそ四肢をもぐくらいしなきゃ」

 恐ろしいことを平然と口にするなのはに怯むエリオ。
 ティアナが四肢をもがれて達磨のようになった絵を想像してしまい、気分が悪くなる。
だが実際に、ティアナの強さと融合体の生命力は身を以て知っている。なのはの言う通り、それほど至難の業なのだ。 

「そもそも、融合体相手に"組む"って選択肢があり得ないんだよ。デバイスと融合される恐れがあるからね。そう教えたでしょ?」

 確かに。
 極力正面から一人で仕掛けるな。
 接近された場合は距離を取ることを第一に考えろ。
 ヒットアンドアウェイを心掛け、懐に入る時は必ず反撃されない、反撃を許さない状況であること。
 フォワード全員が口を酸っぱくして言い聞かされた注意事項である。
特に近代ベルカ式の使い手であり、前衛を務めるエリオとスバルは。
 
「じゃあ今のは判断ミス? それとも……」

 隣ではキャロも首を傾げている。そうだろう、あれを見て疑問に思わない者はいない。
 少し離れた場所では、ヴィータとシグナムが囁き合っている。

「やべぇな……」
「ああ、あれは根が深いかもしれん」

 エリオはその会話が意味するところを考え、キャロと同時に一つの仮説に行き当たる。
なるほど。これなら、なのはの怒りにも説明がつく。
しかし――。

「まさか……」
「攻撃しなかったんじゃなく……できなかった?」

267 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:25:09.51 ID:YXq3mI1P

 なのはは肯定も否定もしなかった。ただ、今は横たわって荒い息を吐くスバルを見つめている。
 何を思っているのか、その横顔からは窺い知れない。

「あれならティアナとの模擬戦の時の方がまだまし。行動の是非はともかく、あの時は二人とも迷いがなかったから。
強くなりたい――その意志を二人なりに貫いた。でも今のスバルは違う。土壇場で迷い、手を止めた。
自分の我が儘に他人を巻きこんでおいて、今更それはないよ」

 スバルには自分たちが与り知らぬ事情があるのだろう。それも相当深刻な。
 なのははそれを誰より理解している。理解していながら怒っている。いや、だからこそか。
今のスバルに甘えに繋がる言葉は厳禁、とでも考えているのだろうか。
 もちろん、すべてはエリオの想像の域を出ていない。だが想像通りだとすれば、理由はこうだ。

 スバルの、言うなれば信念がなのはを動かした。そのなのはが、キャロや副隊長陣を動かした。
 それは管理局の法や理念に反するものかもしれない。XATの任務を妨げるものかもしれない。
それでも、なのははティアナを助けるというスバルの意志に、可能な限り協力を約束した。
 その意志は、大勢の人間を巻き込んで既に走り出している。

 先頭を走るのはスバルだ。
 彼女には人を動かした責任がある。
 故に、スバルは止まることも倒れることも許されない。彼女の行動に理解を示し、乗った人間がいる限り。
もう事は彼女の一存で止まれる段階を通り越しているのだ。

「スバルは昨夜帰りに言ってたよ。『もう一分だって一秒だって立ち止まってる暇はない、一刻も早くティアのところに辿り着く』」

 なのはは静かに語る。声音は柔らかく、穏やか。
 エリオは内心、胸を撫で下ろした。
 なのはは、まだスバルを見放していない。

「『どんな無茶も覚悟の上。今こそ命を張らなきゃ意味がない。今無理しなくて、いつ無理するんですか』、ってね」

 スバルはまだ寝転がっている。時折ゴシゴシと額を拭っていたが、涙を拭っているようにも見えた。


268 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:27:26.74 ID:YXq3mI1P
 彼女の為に自分に何ができるのか、そもそも何かすべきなのかどうか。
 なのはと共にスバルの無茶を支えるのか、フェイトのように職務と正義に忠実であるべきか。
 今はそれさえ分からない。
 しかし、ただ一つ。

(僕は今こそ強くなりたい。ならなきゃいけないんだ。どちらを選ぶにせよ……!)

 何かせずにいられなかった。
 胸を熱いものが突き上げる。動かせない右腕がもどかしかった。
 なのはは、そんなエリオの逸る気持ちを察したのか釘を刺す。

「でも往々にして、そんな時に限って道に迷わされるんだけどね。それも本人の意思に因らずさ……」
「迷わされるって……誰にですか?」
「う〜ん……」

 なのはは顎に手を遣り、考える素振りを見せた。
 やがて彼女は両目を細め、静かに、冷たく言い放つ。 

「現実って奴かな……。なんにせよ、今のスバルじゃ出動には出せないね。あれじゃ使い物にならない」

 突然の戦力外通知。
 キャロは目を丸くし、副隊長二人は苦い顔で頷く。
 エリオは冷や水を浴びせられた気分になった。それは三人の反応にではない。
 なのはの声は抑えられてはいたが、確かにスバルにも届いていた。彼女の肩が震えるのを見たからだった。
  


269 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:30:41.46 ID:YXq3mI1P



「うっ……ん……」

 小さく声を漏らして、ティアナは身動ぎした。
朝の光が顔に当たる。心地いいが眩しくもあり、目を開けるのが億劫だった。
 それ故、寝惚けたティアナの脳が最初に認識したのは触感であり、匂い。

「あ……れ……?」

 疑問符を発しながら抱いているものをまさぐり、形を確かめる。
 これは何だろう。ごつごつして硬い、それに温かい。鼻腔をくすぐる匂いには、どこか覚えがあった。
 差し込む朝日に、徐々に寝相を維持するのが辛くなり、ティアナが目を開くと同時に飛び込んできたのは、広く大きな背中。
同衾しているヴァイス・グランセニックの背中だった。

 感じていたものの正体は、両腕で抱いている硬くがっしりとした肉体の感触と、男性特有の体臭。
彼はタンクトップ一枚、どうりでハッキリ体形が分かったはずだ。
 徐々に昨夜の記憶が蘇り、起き抜けのティアナの頬に紅が差す。

「ぅわっ――!」

 声を上げかけて、ティアナは抱き締めていた両手を放した。
 そうだ。ここはヴァイスと逃避行の末、行き着いた安ホテルの一室。
 寝惚け眼を擦ると、昨夜の出来事が徐々に思い起こされる。

(そうだ。あたしが我がまま言って一緒に寝てもらったんだっけ……。うわぁ……何言ってたんだろ、あたしったら) 

 今思い返すと、かなり恥ずかしい。とんでもない内容を口走っていた気がする。
 もちろん、一緒に寝ただけで何もなかった。ただただ二人して泥のように熟睡していただけ。
神と聖王陛下に誓って、男女のそれなどあろうはずもないのだが。




270 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 01:34:27.39 ID:YXq3mI1P

 だからと言って、ヤバイことに変わりはない。同僚――いや、元同僚か――と同衾して、
ともすれば愛の告白とも取れる世迷言を囁くなんて。
 スバルやアルト、ルキノ、シャーリーあたりに知れたらどうなることか。八神部隊長も危険だろう。
 いや、しかし、これはいわゆる吊り橋効果と言う奴でして……
 誰も見ていないのに、あたふたと手を振って妄想を振り払う。

 暫し一人ではしゃいでから不意に動きを止めると、

「そんなことある訳ないか……」
 
 ふっと寂しげに、自嘲気味に笑った。
 何を馬鹿なことを、と。
 心配しなくても、どうせもう、笑い合った日々は戻ってこない。六課には二度と戻れないのだ。
自分とヴァイスの関係も、彼らの目には化け物同士が番ったようにしか映らない。
 久しぶりの安眠でリラックスしたせいか、まだ幸せだった頃の感覚が戻ってきたのだろう。つい、懐かしんでしまった。
まだ二週間も経っていないというのに。

 夢は見なかった。ここ最近は悪夢しか見なかったので幸運と言えた。
六課時代の、スバルやなのはとの夢なら幸せな夢だが、目覚めた時により一層現実が虚しくなるだけ。だから、これが一番いい。
 時計はちょうど朝の八時を指していた。眠ったのが二十一時半だから、約十時間も寝ていたことに驚く。
昨日は、とてもよく眠れた気がする。
 ベッドだったせいもあるだろうが、きっと何より、一緒にいたのがヴァイスだから。

 隣のヴァイスに目を移すと、くかーっと安らかな寝顔を晒している。

「ふふっ」

 その寝顔を間近で見て、思わず微笑みが零れた。
 バイクのリアシートからずっと見ていた、広く大きく逞しい背中。自分の数少ない同類であり、今は頼れる存在。
それが、こうして無防備に眠りこけている。
 なんだか子供みたいで可愛い。胸の奥から、何か温かい感情が湧いてくるよう。
これが母性本能という奴だろうか、それとも――。



271 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:04:42.90 ID:YXq3mI1P

「ま、どうでもいいか……」

 彼への想いは言葉で言い表せるものではない。ティアナは眠りに就く前からの問いに対する答えを保留した。
 一番じゃなくてもいい。どんな形でも傍にいてくれればそれでいい。
 それ以上は何も望まないことにした。

 ふと気が付くとパジャマ変わりのシャツがぐっしょり濡れていた。よほど緊張したのか、単に暑かったのか、
あれだけ抱き付いて寝ていればこうもなるか。
 まだヴァイスはぐっすり寝ている。

「なら今の内に……」

 朝からネガティブな方に向かう思考をリフレッシュしようと、ティアナは立ち上がった。
 ヴァイスが起きる前に寝汗を流そうとバスルームに入る。
 バスルームは狭い個室にトイレと洗面台とユニットバスが詰められた、些か粗末な物ではあったが、贅沢は言ってられない。
 手早く服を脱ぐと、シャワーを浴びる。
 熱湯が汗と一緒に眠気を洗い流していくようで気持ちいい。次はいつ入れるか分からないので、全身を念入りに洗って浴槽を出た。
 裸で髪を拭いていると、ふと洗面台の鏡が目に入った。タオルを首に掛け、鏡に向き直る。

 そこには、生まれたままの自分が映っていた。
 濡れたオレンジの髪。
 きめ細やかで滑らかな肌。小さな傷はあるものの、ほとんど分からないくらい。
 体形は鍛えているだけあって引き締まってはいるが、女性的な丸みも申し分ない。
 ふくよかなバストは、スバルには多少劣るかもしれないが、それなりに自信があった。
 ウエストは言うまでもない。
 総括すると、鏡に映る裸身は自分のよく知るティアナ・ランスターそのものだった。
 しかしティアナにはそれが自分ではないように思え、触れて確かめようとしたのだろうか、恐る恐る左手を伸ばすが――。

「……ひっ!」

 すぐに悲鳴を上げかけて左手を引っ込めた。
 かつてのティアナ・ランスターとの絶対的な違いが鏡には映っていたのだ。
 そういえば、と思い出す。
 三日前の夜、ヴァイスとの劇的な再会の後、服と靴を買ってもらった。
その時、厚手の手袋も一緒に貰い、着けておけと言われた。ヴァイスもだ、バイクを降りてからもグローブを人前では絶対に外さなかった。
 この時は然して疑問に思わなかったが、すべては身を守る為だったのだ。一般人なら見た瞬間、悲鳴を上げて逃げるであろう、それを隠す為に。



272 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:14:26.02 ID:YXq3mI1P

 それは左掌に刻まれた、黒い紋章。
 融合体と化した人間であることを示す、逃れられない証。
 洗っても擦っても決して消えない悪魔の烙印。

 入浴中も寝る時も、無意識に見ないようにしていたそれ。
改めて直視した魔法陣の紋章は、ティアナの楽観的な感情を吹き飛ばした。

 衝動的に備え付けのカミソリを手に取る。
 皮膚ごと削ぎ取れば、或いは――そんな考えが過ぎった。
痛みも出血のことも完全に頭になく、今はとにかく、この忌わしい紋章を消し去りたかった。
 掌にカミソリを押し付け、震える手で引くと、痛みと共にじわりと血が滲む。

 こんな身体でも血は赤い。血を見ると、封印していた記憶が蘇る。
 危うく殺しかけたエリオのこと。
 助けてくれたのに傷付けてしまったジョセフのこと。
 自責の念と自分への恐怖で気が変になりそうだった。
 その時である。

 ドアの向こうから、ゴトッと物音がした。

「ヴァイス陸曹……?」

 恐る恐る問い掛けるも、答えはない。
 ヴァイスが起きたのだろうか。そうだ、きっとそうに違いない。
 いや、だとしたら返事があって然るべきだ。
 
(まさかXATか局の追手がもう嗅ぎ当てた!? それとも……)

 この安宿である。治安もいいとは言えない区画だ。もしかしたら強盗でも侵入したのかも。
そもそも、この部屋の扉はオートロックだっただろうか?
 あり得ないと頭では理解していても、猜疑心は際限なく膨らんで、どうしようもなくなる。

 普段の習慣か、手元には常にクロスミラージュがある。特に、三日前からは肌身離さず持ち歩いていた。
 ティアナは考えた。
 もし仮に、今この瞬間、バスルームに暴漢が乱入してきたら自分はどうするだろう。
 逮捕術で取り押さえるか。
 それとも、すぐさまクロスミラージュを起動させて突きつけるか。

 おそらく、どれも違う。
 たちまち思考は恐怖で染め上げられ、数秒後には、引き裂かれ無残な肉塊になった暴漢が転がっているのだろう。
そして狭いバスルームは血の海になっているに違いない。
 そう、三日前の雨の日のように。


273 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:16:31.16 ID:YXq3mI1P
 想像して吐き気を催すと同時に、頭に電流を流されたような激痛が走る。

「くぅっ!?」

 頭が割れるように痛い。
 動悸が激しくなり、喉が渇いて息が苦しい。
 目まいと耳鳴りが酷くなり、しまいには視界が赤く染まってきた。
 融合体に変異する兆候である。

(ああ……これはまずい……。これだけは絶対に駄目。分かってる。分かってるのに……)

 もう三度目だ。少しは制御できるかと思ったが、理性を失うまでの時間が長くなったに過ぎないのか。
むしろ些細な出来事を引き金に、容易くスイッチが入ってしまうようになっている。
 ティアナは頭を振って苦悶した。必死に、心を静めろと自分に言い聞かせた。
ここで融合体になったら、ヴァイスの身が危ない。誰より大切な人を殺めてしまいかねない。

(なのに……自分で自分が抑えられない!!)

 誰かの嘲笑う声が聞こえる。
 許せない。
 自制心が薄れ、次第に怒りが込み上げる。
 ブラスレイター特有の被害妄想。
 最初に見たブラスレイターらしき男にも、ヴァイスの話に聞いたゲルトにも確認されている。
ティアナ自身、幾度となくこれに苛まれ、抗おうとするも最後には必ず屈していた。
 スバル、名も知らない一般人、エリオ、ジョセフ――その度に誰かを傷つけずにいられなかった。
 
「っく……またなの……? また……」

 皮膚が強張り、硬化するのを感じる。徐々に胸の痛みと、全身を駆け巡る熱が強くなる。
精神だけでなく、身体の変化まで始まろうとしていた。
 自我の喪失と肉体の変異。二つの苦痛に押し潰されながら、ティアナは思わずにいられなかった。

(あたしは何も悪くないのに、どうして、どうしてこんな目に……)



274 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:19:43.36 ID:YXq3mI1P

 この言葉は麻薬だ。
 自己を肯定したが最後――自分は悪くない、何をやっても仕方ない、そんな身勝手で独善的な考えを抱いてしまう。
 不可抗力だとしても、この身体で散々罪を重ねてきた。本心では自覚しているからこそ、何度でもこの言葉に縋らずにいられない。
そうでもしないと、心がバラバラになりそうだった。

(この笑い声を止めなきゃ、あたしはきっとおかしくなる。そうだ、必要なら殺してでも――)

 内なる声、とでも言うのだろうか。自分であって自分でない声が脳裏に響く。
 抵抗も空しく声はティアナと同化して、思考が塗り潰される。

 赤く染まった目で鏡を見ると、そこに立っていたのは、ついさっきまでの裸の少女だけではなかった。
別の何かが、狂気と恐慌で歪んだ表情のティアナに、影の如く寄り添っていた。

 燃えるように逆立って流れる朱色の髪。

 髪の間から僅かに覗く捻れた双角。

 髪よりも色濃い炎を宿した瞳のない目は、鋭く横に伸び、爛々と光を放っている。

 青く縁取られた白いドレスと黒のロンググローブ。黒光りする突起で覆われた獣の下肢。

 おぼろげに重なる像は、紛うことなき融合体。三日前のあの日、あの運命の日に鏡の中に見た自身の姿だった。

「あ……ああ……」

 わななきながら頬に手を当てると、鏡の中の自分と融合体が同じ動作を取る。
自らの鏡像は全身が赤く発光しており、顔面には光の線が浮かび上がっていた。
 知っている。何もかも知っている。
 身体が意思に反してデモナイズしようとしている。赤い光が輝きを増した時、自分は隣にいる融合体に乗っ取られるのだ。
 この姿を直視するのは二度目だった。今すぐに鏡を叩き割りたい衝動に駆られるが、
そんなことをしても無駄だと今では理解している。

 最早、限界だった。
 次はもう人間に戻れないだろう。そんな予感がした。

 狂乱と絶望の叫びが喉を突き上げる。



275 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:21:04.14 ID:YXq3mI1P

 それがティアナの、人間としての最後の存在証明――となるはずだった。

「おーい、入ってんのかー?」

 声を上げる寸前で、背後のドアがゆっくり開く。
 半ばデモナイズしかけていたティアナは、人間をはるかに超えた反射速度で振り向いた。 
 すると、そこには――。

 ヴァイス・グランセニックが、ボサボサの頭を掻きながら立っていた。
 上はタンクトップ、下はショートパンツ。つまりは寝巻のまま。
 むにゃむにゃと欠伸を噛み殺しながら、目はほとんど開いていない。
 どうやら、彼はまだ夢と現実を行き来しているらしい。平たく言えば寝惚けていた。

「……え?」

 先ほどまでの極限状態はどこへやら。出ばなを挫かれた悲鳴は引っ込み、心中は別種の混乱に支配される。
状況の把握が追い付かないのが幸いしたのだろうか。嘲笑は耳に入らず、不吉な妄想をする余裕すらなかった。
そのうちに耳鳴りも止み、視界は鮮明に戻る。
 それでもティアナは一歩も動けなかった。鮮明になった分、彼の目が自分を直視していると気付いてしまったから。

「ん〜…………」

 ティアナは呆気に取られ硬直、ヴァイスは変わらず目を細め対象を凝視している。
彼が現実に戻るまでには未だ数秒を要するようだ。

「あ……あう……」

 まったく予想だにしなかったアクシデントに、ティアナの口が金魚のようにパクパク開閉を繰り返す。
 赤みが差していた視界が正常に戻ると、顔を縦に走っていた光線も消え、代わりに顔中が真っ赤に染まった。
 身体中を淡く覆っていた赤色の発光も、吸い込まれたかのように柔肌を染める。

 入ってるのかと聞きつつドアを開けるとは、どういう了見なのだろう。
 普通はノックの一つもするのがマナーではないのか。
 などと思わないでもなかったが、思考がとっ散らかって、それどころじゃなかった。

 何故なら――何故なら、今の自分は全裸であるからして。
 


276 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:24:16.84 ID:YXq3mI1P

「――きゃぁ!!」

 先に状況を理解したのはティアナ。同時に、ヴァイスの両目が完全に開いた。 
 目が合った瞬間、ティアナは違う意味で悲鳴を上げ、胸を隠してしゃがみ込む。

「おっと、すまん」

 言うが早いか、すぐに回れ右してドアを閉めるヴァイス。
 いつの間にかデモナイズの進行は止まっていたにも関わらず、心臓は変わらず早鐘を打っている。
全身を覆う熱も同じ、特に顔は今まで以上に熱い気さえして、いつまでも引く気がしなかった。

 何秒か待ってもヴァイスの側から声は掛からない。だが、気配はある。ドアの向こうにはいるようだ。
 せめて、向こうから何か言ってくれれば気も楽なのに。
 さて、何から話せばいいのか……混乱する頭で考え、ティアナが最初に発した台詞は、

「お、おはようございます……」

何とも間抜けなものだった。

「ああ、おはよう。悪いな、鍵が掛かってなかったもんだから」
「い、いえ……こちらこそ……」
「着替えは持って入ってるのか? 何なら外に出てても――」
「いえ、大丈夫です! すぐに出ますから!」

 早口で捲くし立てて、一方的に会話を打ち切る。

「はぁ〜……」

 ティアナは裸でうずくまったまま、深々と溜息を吐いた。
 奇妙な感覚だった。
 つい今まで誰かが乱入してきたらなどと恐怖しておきながら、それがヴァイスだと認識した瞬間、
波が引くように恐怖が治まり、想像だにしなかった感情が湧き起こった。
 その瞬間、ティアナの胸に湧き起こったのは恐怖ではなく羞恥。
 自分自身、戸惑っていた。
 しかも驚くべきことに、腹が立ったのはたぶん裸を見られたからではない。
 いや、無論それもあるだろうが、一番の理由は、裸を見たヴァイスが何ら動揺した素振りを見せなかったことだった。
こっちは狼狽して声が震えて仕方なかったと言うのに。



277 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:27:47.12 ID:YXq3mI1P

 そういえば、と今更ながらにティアナは考える。ドアに背を向け、裸でうずくまった格好で。
 何故、自分はヴァイスに襲いかからなかったのか。ヴァイスだと認識した途端、精神が安定したのか。
 考えに考え、

(そうか、もしかして――)

 やがて一つの結論に至る。
 
(あたしは、こんな壊れかけた精神状態でもヴァイス陸曹のことを……)

 仲間、家族、同胞、庇護者……どんな言葉を当てはめればいいのか迷って、

(唯一の味方として、本能で認識している……?)

 或いは、その点に措いてのみ制御が利いているのか。
 だから攻撃衝動が起こらなかったと考えれば、一応の辻褄は合う。
 それだけじゃない。彼の存在がリミッターとなっているのだ。
 これまでを思い起こしてみても、それは明らか。ヴァイスは自分の精神の安定に必要不可欠となっている。
だからジョセフもヴァイスとの合流を急いだ。

「は……はは……」

 気の抜けた笑いが漏れる。いつしか頬を涙が伝っていた。
 様々な感情が溢れて心の整理が付かないが、最も大きな感情は安堵だった。
 彼だけは傷つけずにいられる。一緒なら人間として生きていける。それが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
 恐る恐る左手の紋章を見たが、今は何ともない。これが確かな証拠。

 ヴァイスがいれば精神は安定するが、それは同時に、彼なしでは生きられないことを意味している。
ティアナは、これまで以上に彼に依存している自分を改めて自覚した。
 でも、今はそれでいい。
 今はただ、この幸福を噛み締めていたい。
 外ではヴァイスがトイレを待っているとも知らず、ティアナは一人、嬉し泣きに浸っていた。



278 :BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI. :2011/06/03(金) 02:32:23.80 ID:YXq3mI1P
以上、投下終了。
新生活のゴタゴタやらで間が開きましたが、今後はなるべく一ヶ月くらいを目指したいと思います。

とことんハードな原作には似つかわしくないけど、ちょっと原作にない要素も入れてみようかと。
ティアナパートはベタ過ぎるシチュとか書いてて色々恥ずかしかったですが……でも、やってみたかったので。
恥じらう姿とか好きだったりします。今回と次回は、ちょっとした小休止のつもりで読んでいただければと思います。


279 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 04:52:38.86 ID:0MTIyhZH
GJであります
二人で支え合って生きてほしいけど、色々と限界がちかそうだな

280 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 08:53:13.73 ID:601OBrPf
GJ
ヴァイスめ、羨ましいことを……
この調子でラブコメしてくれればいいが、原作が原作だからどうなるかな
カミナとか、未熟な主人公を序盤で牽引する役は大体……


281 : 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/06/03(金) 13:16:26.37 ID:d4OpXPy/
乙、普通に書ける人はうらやましいね。どうやって忍法帖のレベル上げてるのか教えて欲しい。

282 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 14:39:29.66 ID:C3oDPvaT
>>259
俺はもう隊長許したよ(ピピピ

283 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 21:14:51.39 ID:iPiE24gN
GJ!
この手のほのぼの日常は崩壊へのフラグだからな。

284 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 08:03:32.36 ID:rmfWLldK
8:30ごろからいきます
今度は1レス文字数とか大丈夫だと思います(汗)

>>148
どうもですー
GTといえばMoon over the castleもなのはMADに合いそうですよね

285 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 08:31:33.80 ID:rmfWLldK
 常盤台郊外の貸し倉庫に、空冷エンジンのプロペラ音が響く。
 ロードテストから戻ってきたスカリエッティはガレージの中に911を入れ、リヤのエンジンハッチを開けた。
 ポルシェ911ターボのRRレイアウトは、後車軸のさらに後ろに、
車体からぶら下がるようにしてエンジンが取り付けられている。
 純正のターボでは、車体を真後ろから見て左側後部にターボチャージャーが位置する。
 そこから真上にパイピングが伸び、エンジンの上、リヤハッチの下にインタークーラーが配置されている。
 インタークーラーはIHI製で、フィンピッチは大きめで走行風の抜けを重視している。

「なるほどね……ポルシェをよく知っている人間が手を入れている。
ノーマルのよさを生かしてきっちり基礎は作りこんである……だがまあ、確かにこれだけでは湾岸はツラいね。
タービンはツイン、左右振り分けでいくか。リヤハッチにエアスクープをつけてインタークーラーも
大きくする……ブーストはやはり1.2にオトして、圧縮比の低下も抑えないとね」

 つぶやきながらチューニングプランを練っていると、後ろで足音がした。

「そんなのほっといてくださいよ」

 スカリエッティが振り向くと、そこにはスウェット姿のフェイトがいた。
 寝起きで寝間着のまま出てきたといったような、汗でくたびれた姿で、目にも憔悴と狂気の色が強く出ていて、
これがあの有名なフェイト・テスタロッサだといわれても一般のアニメファンには信じられないだろう。

「私のが先でしょう、全然直ってないじゃないですか」

「おいおい、大丈夫かね。まだ退院したという話は聞いていないが」

 腕と頭には包帯を巻いているが、これは傷跡の処置の途中だ。処置が終わればきれいな肌が戻る。
 だが、それでもフェイトは予感していた。今きっちりやっておかないと、かならず後でしっぺ返しが来る。

 もし本当に、あのZと走り続けたいのなら、少し、ほんの少し、我慢しなければいけない。

 そうしなければ、二度と取り返しのつかないことになる。

286 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 08:35:06.47 ID:rmfWLldK
 芸能人のマネージャーというのは実に多忙な仕事だ。おおぜいのスタッフたちとの折衝、スケジュール管理など。
 東京都内某所、Kレコードのオフィスで、アルフは打ち合わせに出ていた。
 その中で、今後のフェイトの出演作品のスケジュールが議題に上がった。

 プロデューサーは、3か月ほど空けることができる、と言った。
 その間にきちんと完調にもっていってくれ、と。

 普通の声優なら、こんなにスケジュールに無理を聞いてもらえない。
 それだけでも、フェイトがどれだけ信頼されているかがわかる──が。

「フェイトちゃんは本当にノビるよ、僕もティンときたからね」

 妙な口癖だが、彼の選別眼は確かだ。それゆえに、フェイトには選りすぐりのスタッフが配属され、
ステージパフォーマンスやコンサート、ライブにもリソースが惜しみなく投入されている。

「あー、高木サンも以前はご自身でプロダクションやってたんでしたっけ」

「これからはね、単なるタイアップじゃなくて、アニメと楽曲と、総合的に売り出していくことが大事だよね。
だから単に声だけやってればいいってものでもないんだよ、キャラってのは絵と声と背景が組み合わさって
初めて成り立つんだから、専門ってのは言い換えればソレしかできないってことだからね」

「ですね」

 たしかにフェイトには才能がある。それを伸ばすための努力もしてきた。
 だが、周囲の人間が思うほど、器用ではない。

 アルフにはわかっていた。そしてそれは、従者として先輩であるリニス、彼女が仕えていたプレシア──
 イタリアの故郷にいる彼女らと、同じ姿が重なっていた。

287 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 08:40:53.15 ID:rmfWLldK
 打ち合わせが終わった後、アルフがオフィスを出ると、フェイトはビルのエントランス前で、
ちょうど正面に見える首都高5号池袋線の高架を見上げていた。
 もちろん昼間は多くの車たちがゆったりと流れ、とても攻められるような道ではない。
 夜のひと時だけ、首都高は別の顔を見せる。

「ほんとに好きだねフェイトも」

「去年だっけ?池袋線でタンクローリーの横転事故があったの──火災のせいで高架の強度がオチたとか」

「考えてたのはそんなことじゃないだろ。──テスタが直ったらまた走るのかい?」

 フェイトは少し逡巡したが、やがて、小さく、もちろん、と答えた。

「無理はするなよ、本当に。高木サンも心配してくれてたから──」

「──わかってる」

 走りに限らず、歌でも、うまい人間は不調を隠すことができる。
 だが、見るものが見ればそれは分かってしまう。
 いくら腹から声を出し、喉に負担をかけない歌い方をしても、それは実際に出力される音として
何も見分けがつかなくても、本人が無理をしているのは分かってしまう。

「あの海鳴大学病院の先生──ブラックバードだって、フェイトのこと気づいてるよ。
本人がいくらいいコト言っても、医者の目はごまかせないって」

 治療をするなら、その間走りは休止しなければならない。

 それがゆえに、フェイトは決断できずにいた。ほんのわずかな時間でも、車から離れなければならないことに
強い不安と焦燥感を抱いていた。それはもう、病みつきと表現されてもおかしくないのかもしれない。
 どこかで自分は違うと思っていた──
 だが、それは、否定したところで意味はない。自分がそういう人間なんだと認めるしかない。

288 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 08:45:41.65 ID:rmfWLldK
 華やかなイメージのあるオフィス街からそう遠くない場所に、
すぐそばに隠れるようにして繁華街の雑踏、そして陰気な裏通りがある。
 日本ならでは、いや、東京ならではの光景だと、クロノは思っていた。
 たしかにアメリカにもスラム街はあるが、どこかからりとしている。
 自分が生きていくべき場所──生きていたい場所。

 それは、まだ探している途中だ。

「どうだいクロノ、もう一週間だけど、慣れたかい?」

「……まあな」

「そんな辛気臭くなるなよ、まだまだこれからだよ」

 そう笑った男の名はヴェロッサ。六本木の片隅で暗躍する外人風俗界で、今一番の人気ホストと目される男だ。
 クロノはそんなヴェロッサに、よく目をかけられて一緒につるんでいる。

 リーゼ姉妹が評する通り、もともとクロノは厳格な軍人家庭の生まれで生真面目な性格を持ち、
小学校からずっとエリートコースを進むための教育を受けてきた。
 幼いころはまだ何も疑問を持たずにやってきたが、父クライドが身を置いていた走りの世界を知り、
父がなぜその世界を選んだのか知りたくなっていった。
 家庭でも、そんな父の早逝を気にするそぶりを全く見せなかった母リンディへの反発もあった。

 父さんは、どうして、どういう気持ちで生きていたんだ。それをクロノは知りたかった。

289 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 08:52:24.80 ID:rmfWLldK
 年相応の背伸び、格好つけ。もちろんそれだけでこの世界に飛び込んできたような人間もいる。
 痛い目を見て逃げ帰ったり、そのまま堕ちてしまったり。

 だがヴェロッサは、クロノには何か一本通った芯のような強さがあると感じていた。

「朝まで客と飲んで終わってからモーニング食べて、でダラダラ寝てまた夕方から出勤か……感覚狂うよな、マジで」

「サウナに行くかい?頭がすっきりするよ」

「いや、やめとく──お前目が危ないぞ」

 そういえば、とヴェロッサが視線を走らせた。

「君の車はどこにとめてるんだい?すごく速いって話じゃないか」

「ああ、いちおー寮の裏を貸してもらったよ。あそこは近所のコたちも集まってるんだな」

「まあ暴走族のたまり場みたいなもんだけどね。そーか、社長が許可してくれたか」

「いい人だな」

「いい人だよー」

 今まで、だましだまし走らせてきたがもうあのスープラも限界だろう。
 車体全体をやり直さなければもうもたない。
 だが、それでも走り続けていなければ、心がさび付いてしまう。

290 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 09:01:35.82 ID:rmfWLldK
 外人パブに集まるのは、何も舶来好きの日本ギャルだけではない。
 日本に住んでいる外国人も、なじみのある人種を求めてやってくる。

「あれ?」

 カウンターの向こうで手を振っている見知った顔を見つけ、クロノはスーツの襟を直しながら歩み寄った。

「よーおクロスケ、ホスト姿キマってるねおにーさん」

「酔ってるのかロッテ……今日は何で来たんだ?」

「んーアリアに送ってもらった!大丈夫だって、帰りはタクシーよぶから」

 普段から調子のいいロッテは酒が入るとさらに活発になる。
 クロノに抱き着きながら、さらに片手でグラスをあおる。

「仕方ないな、絶対オレをアシにする気だっただろ」

「わかってますこと」

 ロッテを連れて、クロノは少し早い夜の六本木に出た。
 店を出ると、ちょうど首都高環状線の高架がビルの谷間から見える。
 表の六本木通りの真上を、霞が関から谷町まで、赤坂ストレートが通っている。

 スープラは環状線に上がり、すぐに浜崎橋から台場線へ向かった。
 ナビシートにはロッテが座っている。

「いやーアフターにも付き合ってくれて、いいなーチップはずんじゃうぞー」

 レインボーブリッジの上をゆったりと流れている一般車は、まだ少し多い。
 この時間、湾岸をおりていく車はところどころにかたまりをつくる。

 その中を、押しのけるようにして追い上げてくる黒いR32の姿をクロノはサイドミラーに見ていた。
 ルーレット族の車に驚く一般車の揺らぎは、水面に反響する波のように重なり、やがて大きなうねりとなる。

「少しまずい流れだな……」

「おっ、あんたもそういうのわかるようになってきた?」

 酔っていても、走りとなればロッテの目は鋭くなる。
 有明ジャンクションを右へ曲がり、湾岸神奈川へ向かう。

291 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 09:09:49.28 ID:rmfWLldK
 リインはひととおり仕上がった911の感触を確かめるため、湾岸を往復していた。
 本牧から上がって東行きを千葉まで走り切り、いったん降りて西行きに乗りなおす。
 首都高を走る者たちは普通はできるだけ少ない料金で周回しようとするため
料金所やインターチェンジでの乗り換えを避けるが、リインは迷いなくこの最高速コースを選んでいた。

 有明ジャンクションを通過してしばらく過ぎたとき、台場線からの合流車に速い車が数台いるのが見えた。

「(攻めているか────!)」

 前方は軽いクリア状態だ。リインは4速のまま、アクセルを踏み込んでいく。
 ハーフスロットルからの踏み足しでもしっかりエンジンがついてくるようになった。

「スープラに32R……あのスープラは例の?」

 見たところ、スープラがRに絡まれている感じだ。だが、おそらくRのドライバーは気づいていない。
 流れる一般車に混じって、自分を狙っているアクシデントがあることを。

 たしかに、R32に始まる第2世代GT-Rは、当時の車を圧倒する高性能を持ち、レースで無敵の速さを誇ったのも事実だ。
 だが、それはあくまでも当時の話だ。どんな車であっても時の流れには勝てない。
 R32型のデビューは1989年、もうデビューから20年がたつ。時を経ればボディもエンジンもくたびれて性能は落ち、
中古車の価格は落ち、そして入手もしやすくなる。
 だがそれは、GT-Rの価値がわからない、本当に乗りこなせないような人間にも、容易に手に入れられてしまうことを意味する。

「くるのか、R──たしかに乗りやすくて速くていい車だ──だが、ちゃんと自分のものにできているか!」

 リインの911を見つけ、獲物が増えたと思ったのだろう、Rはさらに加速してきた。
 大井の直線で、いっきに左から抜きにかかる。

「(速すぎる!流れに乗れていない──車の速さに乗せられているだけだ────!!)」

 ポルシェを抜き去っていくRの後姿を見て、リインは表情を険しくした。
 直後、前方の走行車線にいたトラックが、不意に追い越し車線に移ってきた。
 スピードが乗りすぎていたRはそれをよけきれず、急ブレーキで大きく姿勢を崩した。

292 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 09:17:14.50 ID:rmfWLldK
 中央分離帯にノーズをぶち当てたRはコマのようにスピンし、反対側の側壁に当たって火花を散らしながら滑る。
 リインは911のステアリングに素早いひと振りをくれ、RR独特の重いテールスライドを繰り出してRの残骸を回避する。
 スープラもその後ろを追ってくる。バックミラーの中で、ボディから外れて転がったRのエンジンをトラックが蹴散らす。

「(すぐに検問が始まる──このまま浮島料金所は通過できない、東海から横羽へ昭和島合流だ)」

 横羽線経由で東名高速への進路をとる911を、スープラも追走する。

「ロッテ、あのポルシェはいったい……」

「今の事故で湾岸はしばらく走れない。一瞬で状況を先読みして総合的に判断できる──
並の走り屋じゃないよ。公道を長年走って身についた経験だ。さすが、湾岸の黒い怪鳥といわれるだけはある」

「オレたちもついていくしかないな。ヘタに別ルートにそれて検問に引っかかったらおしまいだからな……」

「東名に抜けて──どこまで行く?」

「──どこまでも」

 もうすっかりアルコールが抜けたのか、落ち着いた低いトーンの声でロッテがつぶやいた。

「いいよ。ついていく」

 ビルの谷間をカーブしながら走り抜ける高速道路を、ポルシェとスープラはつかず離れずの距離で駆け抜けていく。
 彼らが目指す先には、闇しかない。

 どこまでも深い、虚数のような、底なしの闇。

293 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 09:23:59.07 ID:rmfWLldK
 東名高速を神奈川県の端まで走って、スープラは箱根スカイラインにたどり着いていた。
 峠道の非常帯に車を止め、外に出て一息つく。

「星がたくさん見えるねー。都内とはえらい違いだ」

 クロノはスープラのボンネットを見つめ、黙っている。

「どーしたクロスケ?」

「──考えてたんだ」

「あててみせよーか?コイツを速くする方法だろ」

 当てるまでもないだろう、とクロノは苦笑してため息をついた。
 あのポルシェについていけなかった。環状から3号渋谷線に入ってすぐのあたりで振り切られてしまった。
 パワーが違うのか、ウデが違うのか──
 自分一人でやれることには限界がある、キチンとしたチューナーに依頼して車をつくってもらわなければならない。

 かといって、今のクロノにそんなあてがあるわけでもない。

「今日はあの緑に聞きに来たんだよ、あんた結構無理してないかって気になってネ」

「ヴェロッサだ。名前くらい憶えてやれよ」

「まーま。でも、クロスケ、意外と楽しそうじゃん?水があってるのかな」

 ロッテはちょこんとスープラのフロントフェンダーに腰掛ける。
 ひとたび自分の33Rに乗れば、可愛い顔に似合わないアグレッシブな走りを見せるが、今のロッテは
まるで子猫のようだ、とクロノは思っていた。

「浮気してっとエイミィちゃんにしばかれるゾ」

「わーってら……」

 それはともかく、とロッテは咳ばらいをした。
 普段は茶化していても、走りへの情熱は本物だ。

「ほんとはね。お父様に、クロノを頼む、って言われたんだ」

 お父様。リーゼ姉妹がその呼び名を使うとき、その相手とは、在日米軍横田基地の重鎮、ギル・グレアム提督だ。

294 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 09:34:07.19 ID:rmfWLldK
 クロノはロッテの案内で、横田基地内の家族住宅の一角にスープラを持ち込んでいた。
 輸送用のコンテナを改造したガレージがあり、そこが臨時のファクトリーとなっている。

 グレアムがクロノのために用意したという、スープラのチューニングパーツがすでに届けられていた。

「こんなに大量の……パーツだけでも2万ドルは下らないだろ」

 倉庫の床に積み上げられた、HKSやトラスト、アペックスなど、日本の有名チューニングメーカーの
ロゴが入った段ボール箱を見渡してクロノは唸った。
 新品のタービンキット2基、エンジン内部の強化パーツ、足回り。
 これらをすべて組み込めば、今まで使っていた中古パーツとは比べ物にならないパワーを出せるだろう。

「君にそれだけの投資をするということだよ」

「!」

 貫録を感じさせる老紳士の声にクロノはとっさに振り向いた。
 そこにいたのは、まぎれもなく、あのギル・グレアムだった。在日米軍の長老格として、プレスの前にも出ることがある。
 クロノの母リンディが所属する横須賀基地でも、一目置かれる名提督だ。

「クライドは私の部下であると同時にかけがえのない友人だった」

「……父さんを、知っているんですね。オレも、知ってます。
小さかったから、覚えてないと思ってたかもしれませんが……」

「君は確か3つか4つのころだった……まだ小さかったから、悲しみもそんなに深くは残っていないと思っていた」

 確かに、そうだった。クロノも、物心ついてからクライドが既に亡くなっていることを知った時、
どこか実感ができなかった。
 自分にとって、父は最初からいなかった。かすかに覚えているような気もするが、
それでも、クロノにとって家族とはリンディだけだった。それから、アースラのクルーたち。

295 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 09:41:28.68 ID:rmfWLldK
「スープラのチューンはわたしも手伝います」

「彼女はマリエル・アテンザ軍曹だ。普段は戦闘機の整備をしているが、車ももちろん扱える」

 そう言ってグレアムは眼鏡の若い女整備士を紹介した。
 マリーはタブレットPCを開き、バイナルグラフィックをまとったスープラの完成予想図を見せる。
 タービンはギャレット・エアリサーチ社製GT3037をツインで搭載する。
 これにより出力は常用900馬力となる。

「提督……オレに、投資をする、と言いましたが」

「──夢を見させてほしいんだ。クライドの果たせなかった夢を」

「父さんの……?」

 公道最速。その称号は、たしかに日の当たる世界では通用しないのかもしれない。
 そんなものを目指したところで誰も褒めてくれないのかもしれない。
 それでも、ある種の人間たちを強く惹きつけるのは事実だ。

「クライドの見ていた夢は、彼の命を代償にした。投資をすると表現したが、
スピードを追い求める者が本当に支払うべき対価は金ではなく命なんだ。
リンディから君が日本に来ると聞いたとき、私はアリアたちに君のことをみてほしいと頼んだ」

「ええ──聞きました。提督は、オレが無茶をしないよう、彼女たちに見張らせたんですよね」

「場所を変えよう。少し、昔話をしよう。アリア、ロッテ、君たちもきたまえ」

「はい」

 クロノたちはグレアムに従い、横田基地のコモンホールへ向かった。
 思えば、横須賀でも母の職場にはあまり行かないようにしていた。
 家族とはいえ身分は民間人だし、それに、将来軍に入隊する気もなかった。

 だが、今はそれとは別の理由で、この世界に入ってきた。

 この世界を知る。父のいた世界を知る。それが、クロノの願いだった。


   SERIES 3. モンスターマシン END

296 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/06/04(土) 09:47:30.08 ID:rmfWLldK
今日はここまでです

もし地球とミッドチルダが国交を持ったら日本とかに管理局艦隊が駐留するんでしょうかねー

高木さんといえば湾岸ではウーロンだオレの人ですが
某ア○マスでは(ry

ではー

297 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 17:38:50.54 ID:wsxPtF8k
職人の皆様、投下乙です!

>BLASSREITER LYRICAL氏
BLASSREITERは漫画しか読んでませんが、氏の影響で
アニメにも興味が出ました!
ティアナがこれからどうなってしまうのか……とても気になりますね
そしてヴァイスさんもナイスでした!

>Gulftown 氏
車に関しての知識はほとんどありませんが、それでも雰囲気に引き込まれました!
マリオカートやカービィのエアライドを、やりたくなってきますね。
いつか機会があれば、アニメや映画も見てみようと思います。
グレアムさんからの投資を受けたクロノがどうなるのか、とても気になりますね。


そして自分も、18時30分より四兄弟最新話投下の予約をさせていただきます。

298 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 18:25:11.26 ID:wsxPtF8k
そろそろ時間なので、投下します

 矢車は闇の中を駆ける。
 既に姿が見えなくなった、エリオを見つけるため。
 新しい弟を、死なせないために。
 唯一残った守るべき存在を、零さない為に。
 故に、矢車はいつもと違って焦っていた。
 普段の彼からは、決して出てこない感情が湧き上がっていく。
 理由は、エリオが自分自身の事を告白したため。

――僕だって……ワームと同じような偽物なんですから

 あいつはそう言っていた時、寂しげな表情をしていた。
 まるで、自分自身が許されない存在であるとでも言うかのように。
 あの時の顔は、とてもよく似ていた。
 忘れもしないあの日、港で見た影山と。
 人間では無くなった自分に絶望してしまい、永遠の闇に沈んだ弟と。
 それほどの暗闇が、エリオから感じられた。


299 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 18:29:09.08 ID:wsxPtF8k

――結局、僕を生み出した両親によって見捨てられましたね……

 やはりあいつも、地べたを這い蹲っている。
 兄弟達と同じように、全てから見捨てられて闇に堕ちた。そしてようやく光を再び掴んでも、またどん底に堕ちる。
 そして、あいつは泣いた。大切な人間から裏切られて。
 だがそれでもあいつは、光を求めているようだった。かつて、共に白夜の世界を目指した影山のように。

「兄弟……」

 矢車は目の前で走るホッパーゼクターを追いかけながら、静かに呟く。
 エリオを探している最中に、突如として現れた。まるで自分の事を必要としているかのように。
 だから矢車は、ホッパーゼクターの後を追う。緑色の相棒からは、焦る様子すらも見えた。
 現に、そのスピードは徐々に上がっていく。それに合わせて、矢車も疾走した。
 
(お前は一体、何を考えてる……?)

 二人の兄を捜すために、エリオは闇に飛び込む。
 あいつらと会って、何をする気なのか。何を話すつもりなのか。
 自分に告げたように、本当は人間ではない事を話すつもりなのか。
 それでワームであるあいつらに、同情でもする気なのか。
 まあ、勝手にすればいい。あいつが竹篦返しを受ける事を恐れないのなら、別に構わなかった。

「わかるかい、君はただの化け物なんだよ! それを僕が始末して、僕は英雄として祭り上げられる! 君はその為の踏み台なのさ!」

 突如、ホッパーゼクターが動きを止める。
 その瞬間、声が聞こえた。この世界に来てから、ほぼ毎日聞いた声。
 矢車は振り向くと、見つけた。ザビーに変身したエリオの姿を。


300 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 18:34:53.65 ID:wsxPtF8k
 しかし、その近くにもう一人エリオがいた。見慣れないマントと服を纏って、巨大な槍を握っている。
 もう一人のエリオは、嘲笑を浮かべながらザビーを蹴った。それを見て、矢車は気づく。

「変身……」
『Hensin』

 そのまま、ゼクターをベルトに装填する。
 甲高い音声が発せられた瞬間、ホッパーゼクターからタキオン粒子が噴出され、矢車の身体を覆いながら姿を変えた。仮面ライダーキックホッパーの名を持つ戦士へと。
 キックホッパーへの変身が終えた瞬間、瞳が赤い光を放つ。そして彼は、地面を蹴って疾走。
 もう一人のエリオが槍を振り下ろそうとした瞬間、前に立って左足を振り上げた。激突音と共に衝撃を感じるが、どうという事もない。
 巨大な槍を受け止めたキックホッパーは、目の前のエリオを仮面の下から睨み付ける。

「貴様ぁ…………俺の兄弟を笑ったな?」

 エリオに擬態したワームは、驚いたような顔を浮かべていた。だが、そんなことはどうでもいい。
 キックホッパーは槍を弾いて、エリオを蹌踉めかせた。足元がふらついて、腹部ががら空きになる。
 そこを目がけて、キックホッパーは前蹴りを放った。



301 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 18:37:27.43 ID:wsxPtF8k
「フンッ!」
「ぐ……っ!」

 エリオの鳩尾に6.5トンもの衝撃が襲いかかり、呻き声を漏らす。如何にバリアジャケットといえども、マスクドライダーの一撃は軽く済む程度ではなかった。
 ふらつくエリオに、キックホッパーは右足を振るう。その一撃は、槍によって阻まれた。
 二度目の激突の後に、互いに背後へ飛ぶ。距離が空いたのを好機と見たのか、エリオはストラーダを掲げながら突貫した。
 それは空気を薙ぎながら振り下ろされるが、キックホッパーは易々と避ける。続くようにストラーダを振るうが、洗礼されたフットワークによって悉く回避された。
 上から来る刃を、横に飛んで避ける。横から来る刃を、後ろに飛んで避ける。斜め上から来る刃を、跳躍して避ける。
 そして、キックホッパーはエリオに回し蹴りを叩き込み、吹き飛ばした。

「がはっ!?」

 背中から壁に叩き付けられて、激痛のあまりに酸素を吐き出してしまう。
 そのままエリオは崩れ落ちていくのを見て、キックホッパーは鼻で笑った。

「俺の事も笑ってもらおうか……?」

 そしてまた一度、蹴りを放つ。続くように二度三度と、神速の勢いで繰り出されていった。
 エリオはそれに反応する事が出来ない。キックホッパーから受けた蹴りによるダメージで、身体の動きが鈍っていたため。
 反撃しようとしても、槍を振りかぶる僅かな動作が隙となる。故に、迫り来る攻撃を受ける事しかできなかった。
 それでもエリオは、キックを避けて後ろに下がる。

「くそっ、調子に乗るなよ!?」


302 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 19:00:26.95 ID:wsxPtF8k
さるさんに引っかかってしまいました……
続きです

 毒づきながら、彼は右手を向けた。姿勢を低くして迫り来るキックホッパーに。
 その直後、疾走は止まった。虚空より突如として現れた、鎖に身体を縛り付けられて。

「何ッ!?」

 唐突な現象に、流石のキックホッパーも驚愕した。
 光を放ちながら現れた、謎の鎖。引きちぎろうと藻掻くがビクともしない。
 それはどんな相手でも捕縛する魔法、バインド。キックホッパーが知らない、ミッドチルダに存在する技術の一種だった。
 
「ハッ、いい姿だねぇ?」

 縛られたキックホッパーを見て、エリオは先程のような嘲笑を浮かべる。そこには、確かな怒りが込められていた。

「さっきはよくもやってくれたじゃないか、君をこのまま切り刻んであげるよ……!」
「ぐっ……!」

 先程のお返しとでも言わんばかりに、じりじりと迫りながらエリオはストラーダを掲げる。
 バインドを引きちぎろうとしても、まるで反応がない。むしろ、抵抗しようとすればするほど拘束が強くなっていた。
 キックホッパーから焦りが生まれているのを見て、エリオは充実感を感じる。
 それ故、彼は見落とした。視界の外から、拳が迫るのを。

「やめろっ!」
「なっ――!?」

 急接近したザビーのパンチを見て、エリオは咄嗟に振り向く。そして、ストラーダで攻撃を受け止めた。

303 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 19:05:52.00 ID:wsxPtF8k
 二つの金属が激突する音と共に、火花が飛び散る。そこからザビーは痛む身体に鞭を打って、拳を振るい続けた。
 エリオはストラーダを構えて、防ぐことしかしない。キックホッパーより受けた、キックの痛みによって身体の動きが鈍っていた為、下手な動きは出来なかった。
 しかし動きが鈍いのはザビーとて同じ。メッサーアングリフを受けた時のダメージで、彼の動きにキレが無くなっていた。
 やがて互いに何合か打ち合った直後、再び距離を取る。ザビーはキックホッパーに縛られたバインドを掴み、力尽くで引きちぎった。

「矢車さんっ!」
「お前……」
「大丈夫ですか!?」

 拘束が解けたキックホッパーを、ザビーは支える。その声からは、先程までの闇は感じられなかった。
 彼の中に、絶望はまだ残っている。しかしキックホッパーが現れた瞬間、微かな希望が沸き上がったのだ。
 助けてくれた彼の姿に、見覚えがある。まるで、かつて自分をどん底の闇から救ってくれた、フェイト・T・ハラオウンのようだった。
だから、死んで欲しくない。ここで見捨ててしまったら、最後に残った寄る辺も消えてしまう気がしたから。

「……兄弟」
「えっ?」
「やっぱりお前は、最高だな」

 駆け寄ったザビーを見て、仮面の下で矢車は笑う。こいつからは、確かな光を感じられた。
 やはり、地べたを這い蹲ってこそ見える。白夜のような、淡い光が。
とっくに汚れきった自分には、大きすぎるほど。



304 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 19:09:29.19 ID:wsxPtF8k

「矢車さんこそ……ありがとうございます」

 ザビーの仮面の下で、エリオもまた笑った。
 一見すると、ガラの悪い男にしか見えない矢車さん。しかし彼は、影山さんと神代さんと侮辱した自分を助けてくれる。
 今までだって、反発した態度を何度も取っても、決して見捨てなかった。だから、決して悪人ではないかもしれない。

「行くぜ、兄弟……」
「はいっ!」

 キックホッパーとザビーは、同時に振り向く。エリオに擬態したワームを。
 その瞬間、闇の中から新たなるワームが三匹現れる。白蟻を連想させるような異形、フォルミカアルビュスワームが。
頭部や身体の形状が違うワーム達は、エリオを守るかのような陣形を取る。
 数の点で一気に不利となったが、キックホッパーとザビーは狼狽えずに突貫した。
 
「畜生、何なんだよ君達!」

 先程までの余裕が嘘のように、エリオは怒鳴りながら走る。それについていく様に、フォルミカアルビュスワーム達も走り出した。
 エリオはその手に持つストラーダを、勢い良く振るう。しかし、ザビーは姿勢を低くしたことで、それを簡単に避けた。
 ストラーダの一撃をかわして、彼は拳を叩き込む。エリオの肉体は、微かに揺らいだ。
 ザビーは追撃を加えようとする。しかし、エリオの振るうストラーダによって、勢いよく弾かれてしまい、数歩後退った。
 戦いは、一進一退。決め技に入り込めずに、互いが小手先の技でダメージを受け続けている。
 

305 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 19:13:40.02 ID:wsxPtF8k
「やあっ!」
「でりゃあっ!」

 そして今も、ザビーとエリオの攻撃は続いていた。
 その度にライダーアーマーとバリアジャケット、そして周囲の物に傷が刻まれていく。
また一度、エリオがストラーダを振るうが、ザビーは身体を一歩だけ左にずらして回避。
 そこから、硬質感溢れる柄を両手で掴んだ。

「なっ、離せっ!」

 エリオは振り解こうとするが、ザビーは両足に力を込めて踏ん張る。
 目前で彼らは、睨み合った。

『エリオ・モンディアル。お前はまた裏切るのか』

 視界が交錯する中、声が乱入する。
 エリオの手に握られた、ストラーダの音声が。

『私を見捨てただけでなく、今度は破壊しようとする……やはりお前は、卑怯者どころではない』
「そうだよ、結局君はストラーダを裏切るんだ! 相棒を傷つけようなんて、正気じゃないね!」

 ストラーダの言葉に合わせて、エリオは嘲笑を浮かべる。
 それは、ザビー自身にも分かり切っていた。今やっている事が、相棒の裏切りであると。
 この決断をしてしまったからにはもう、堕ちるところまで堕ちてしまっている。

「僕は薄汚いと呼ばれても仕方がないよ。もう分かってるから」

 ザビーは淡々と答えた。
 声には、自分の侵した全ての罪を受け入れるかのように、闇が満ちている。

306 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 19:20:41.33 ID:wsxPtF8k

「でも、矢車さんは……僕を助けてくれた矢車さんを殺すなんて事は、例えストラーダだろうとさせはしない!」

 しかし、それでも力も満ちていた。
 大切な人を守りたいという決意。それは闇に堕ちた今だろうと、燃え滓のように残っていた。
 どんな目に遭おうとも、どんな世界に辿り着こうとも、どれだけ闇を見てこようとも。
 譲る事も、手放す事も出来なかった。

「でりゃあああぁぁぁぁっ!」
「なっ!?」

渾身の力を込めて、ザビーは両腕でストラーダを頭上の高さまで振るう。
 するとその動きに合わせて、エリオの身体も持ち上がっていった。ザビーは遠心力に任せて、相手を投げ飛ばす。
 そのまま地面に叩き付けられていくが、エリオはすぐに立ち上がった。

「ハッ、結局開き直るのか! 『僕はクズです』って!」
「何とでも呼べばいい……でも言ったはずだよ、殺させはしないって」

 侮蔑の言葉を耳にしながら、ザビーは左腕を翳す。
 そして、反対の右手でゼクター上部のフルスロットルに手を付けた。

「ライダースティング……ッ!」
『Rider Sting』
 
 資格者とゼクターの声が、重なる。
 それが意味するのは、一撃必殺の構え。ここにいる誰もが知っている、現象だった。
 ザビーは、腰を深く落とす。タキオン粒子が稲妻となって迸る音を、耳にしながら。


307 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 19:24:51.89 ID:wsxPtF8k
 
「そういうことかい……上等だよ! ストラーダッ!」
『Yes!』

 ザビーの構えを見て、エリオもまた構えた。かつて、ザビーに選ばれる前の『エリオ・モンディアル』が、幾度となく取った構えと寸分の狂いもなく。
 ストラーダの声と同時に、彼の足元に魔法陣が浮かび上がった。その意味は、先程ザビーに与えたメッサーアングリフへの繋ぎ。
 カードリッジが二発弾かれた瞬間、エリオは突貫した。
 ザビーもまた、地面を蹴って真っ直ぐ疾走する。

「やあああぁぁぁぁぁぁっ!」
「だあああぁぁぁぁぁぁっ!」

 咆吼と共に距離は縮んでいく。互いの突進は、一瞬だった。
 ザビーゼクターのゼクターニードルと、ストラーダの矛先が勢いよく激突。
 その瞬間、接触地点ではタキオン粒子と魔力が拮抗を始めた。
 二つの物質は止めどなく溢れ出し、凄まじいほどのスパークを生む。
 大気は震え、中心にいる二人のエリオにも、振動が襲いかかっていた。
 突如、ピキリと乾いた音がする。それは、ザビーゼクターとストラーダに亀裂が走った音だが、彼らは気付かない。
 スパークの輝きと音で、確認する事が困難となっていた。もっとも、今の彼らがそれに気付いた所で戦いを止めていたかは分からない。
 互いが、相手を潰す事だけしか頭に入っていなかった。
 やがて二つの粒子は嵐の如く荒れ狂い、轟音と共に爆発する。
 それを引き起こす、二人を巻き込んで。

308 :地獄の四兄弟 ◆LuuKRM2PEg :2011/06/04(土) 19:34:09.16 ID:wsxPtF8k
今回の投下は、この辺で終わりです
さるに引っかかってしまい、スレを独占して申し訳ありません
相変わらず自分の投下ペースは遅いですが、BLASSREITER LYRICAL氏やGulftown氏を初めとした
職人の皆様を見習い、これからも努力します。
今後とも、よろしくお願いします。

そして遅レスですが
>>80>>92>>93
クロスロワに関してですが、もしも2ndがあるのでしたら自分も参加して力になりたいですね


309 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 21:51:40.04 ID:Ye9xPK4R
皆様、投下乙です。

自分も11時45分に投下をさせて頂きたいと思います

310 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/04(土) 23:02:32.15 ID:YcCBrW9p
凄い投下ラッシュだなw

311 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:45:49.39 ID:Ye9xPK4R
では、投下を始めたいと思います。


312 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:46:32.56 ID:Ye9xPK4R
フェイト・ハラオウンは困惑を覚えながらシグナムと剣を交えていた。
烈火の如く勢いで魔剣を振るうシグナムは、これまで見たどんな姿とも違っていた。
険しい表情で、ただ敵を切り裂く為だけに刃を振るう。
刃を通してシグナムの激情が察知できる。
ただ、激情の理由は分からない。
何故シグナムはこれだけ感情を湧き立てているのか。
大元が自分達にあるのは分かる。
だが、具体的な理由までは分からない。
言葉にして問い掛けるには、フェイトはまだ不器用すぎた。

「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
「はああああああああああああああ!!」

この日何度目かの鍔迫り合いが発生する。
斧と剣が火花を散らして攻めぎ合う。
鍔迫り合いは、徐々にフェイトの方へと傾いていった。

「うおりゃああああああああああ!!」

そして、その均衡に横合いから介入する者が現れた。
鉄槌の騎士・ヴィータ。
唐突な乱入にフェイトの反応がワンテンポ遅れる。
横っ面に鉄槌が直撃する―――直前でバルディッシュが自動防御を発動させた。
金色の魔力壁が、鉄槌を止める。
鉄槌に込められた力は魔力壁を容易くぶち破るが、寸前にあった一瞬の均衡がフェイトを救う。
均衡の隙に、フェイトは全速を以て二人の守護騎士から距離を取った。
充分な間合いを挟んで、フェイトがヴィータを見る。

「形勢逆転だな、管理局の魔導師」
「……あなたは、なのはと戦ってた筈じゃ」
「増援だよ。高町でも、アイツにゃあ敵わねーぞ」

ヴィータの言葉に、フェイトは嫌な予感を覚えた。
この場にいるシグナムとヴィータ以外の守護騎士は、どちらかというと支援系統の騎士だ。
ヴィータをバックアップしての戦闘ならまだしも、正面からなのはと戦闘できるとは思えない。
其処まで思考し、フェイトは気付く。
内に芽生えた嫌な予感の、その正体に。

「まさか……!」

アンノウン。
クロノを瞬殺した怪物の姿が、フェイトの脳裏に浮かんでいた。
親友の危機に、フェイトの身体は殆ど反射的に行動していた。
相対する二人の守護騎士に背を向け、親友の救援へと身体を向ける。

「行かせると思うか」

が、身体を加速させるよりも早く、隙だらけのフェイトへとシグナムが斬り掛かる。
上段の構えから振り下ろされた斬撃は、一層の速度と威力を持ってフェイトへと迫っていく。
再びバルディッシュが自動防御を発動させるも、今度は防ぎきれない。
フェイトの細体を烈火の魔剣が捉える。

『Jacket Purge』

だがしかし、此処でもフェイトを救ったのは、相棒たるバルディッシュであった。
バリアジャケットを強制的に爆発させ、フェイトの身体を吹き飛ばす。
爆発に圧されたフェイトは、結果としてシグナムの縦一閃を回避する事となった。
再度離れた間合いでバリアジャケットを再構築し、バルディッシュを構え、二人の騎士と向かい合う。



313 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:47:54.74 ID:Ye9xPK4R
『集中して下さい、マスター』
「……ごめん、バルディッシュ」

珍しい相棒からの忠告に、フェイトは素直に謝罪を零した。
身体を包む痛みに、相棒からの忠告に、フェイトが目を覚ます。
親友を救う為にも、シグナム達を止める為にも、此処で自分が撃墜される訳にはいかない。
まずは全力でシグナム達を撃破し、なのはの援護に向かう。
全力全開の最速で、だ。
雷光の魔導師の瞳が、決意の色に染まる。

「バルディッシュ……ソニックフォーム、いける?」
『Sir. Barrier jacket. Sonic form』

二人の守護騎士を前にフェイトは己の切り札を躊躇せずに切った。
それは自身の長所を全開に活かす、最速の形態。
防御を度外視した高機動フォームを守護騎士へと晒す。
シグナムとの一対一でさえ殆ど圧倒されていた状態。
二人の守護騎士を相手に正面から戦い、勝利する事は不可能と云っても過言ではない。
だからこその、高機動形態。長所を前面に押し出しての戦闘だ。

「状況は二対一……まるであの時とは逆の状況だ」

胸中に敗北の苦い記憶が蘇る。
二対一という破格の条件での敗北。
自分が気絶している間にヴァッシュが傷付き、クロノが撃墜された。
シグナムは止められず、闇の書は完成への道を着実に歩んでいる。
自分の無力さが、嫌だった。
仲間が傷付くのが、嫌だった。
だから、それを糧に訓練を重ねた。
とあるガンマンと共に、親友である魔法少女と共に。
それはたった数日の短い時間。
でも、何かが見えた気はした。
強くなる為の、何かが。

「力も、技も、関係ない……戦場を支配する能力」

だから、躊躇いはしない。
シグナム達を止め、アンノウンと戦闘しているなのはを救う。
二対一であろうと、関係ない。
自分の力は、戦場を支配する力だ。

『Sonic Move』

勝負は一瞬であった。
雷光の魔導師が選択したのは、高機動形態での高速移動魔法の発動。
守護騎士達の知覚限界点まで到達したフェイトが、金色の閃光となって戦場を駆け抜ける。
ヴィータの懐に飛び込み、バルディッシュを袈裟斬りに振るう。
それまでのものと比較しても段違いの加速・最高速に、ヴィータは反応しきれない。
機動力をカードとして持っているのは知っていたし、警戒もしていた。
しかし、反応しきれない。
初見という所が大きかった。
これがもし、一度見ていての攻撃であったら、ヴィータも身構える位の反応は出来ただろう。
結局の所、勝負を決めたのはフェイトの覚悟。
装甲を薄くしたハイリスクの形態を、二対一の状況にありながらノータイムで切る覚悟。
それが最悪の状況に於いての、活路に繋がった。

『Haken Form』

戦斧から、金色の魔力刃が飛び出す。


314 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:50:00.48 ID:Ye9xPK4R
魔力刃はヴィータの身体を切り裂き、魔術的なダメージを負わせた。
直撃だった。
なのはとの戦闘でダメージを負っていた事も相成り、ヴィータは声も上げずに昏倒した。
再び、フェイトの身体が加速する。
次なる獲物は、烈火の騎士・シグナム。
ただ一直線に、最短の距離を最速で駆け抜け、懐に潜り込む。
紫電纏う金色の魔力刃が、空気を切り裂いて、その身体を穿った。
身体を走り抜ける電流に、心底へと脱力を叩き込む魔力ダメージに、シグナムの身体が傾ぐ。

「……ふざ……けるな……」

だが、烈火の騎士は倒れない。
抱き付くようにフェイトへと寄りかかるも、決して倒れはしない。
シグナムの顔には、ただ意志が張り付いていた。
絶対に負けないという、余りに強固な意志が。
何が彼女を突き動かすのか、やはりフェイトには分からない。

「……私達を、騙しておいて……主を……見捨てておいて……」

シグナムの口から漏れた、殆ど譫言のような言葉。
フェイトは思わず動きを止める。

「世界も……主も救うと言っておきながら………裏……切り……」

言葉は眼前のフェイトに向けられたものではなかった。
それはフェイトにも理解できた。
自分以外の誰かに向けられた言葉。
それが誰に向けられたものなのかを特定する事は出来ない。

「ならば……私は…………私達は……負ける訳に……いかないッ!!」

言葉が爆発し、満身創痍のシグナムを動かした。
レヴァンティンを振り上げ、間近に立つフェイト目掛けて、振り下ろす。
シグナムが一撃に対して、フェイトの身体が再度消失する。
シグナムの後方へと一瞬で回り込み、決死の抵抗を断ち切るべく、金色の刃を横一閃に振り抜く。
だが、この一撃に烈火の将は反応せしめた。
レヴァンティンが軌道を変え、防御へと使用される。
烈火の剣と雷光の斧とが、攻めぎ合う。
互いの渾身が込められた均衡は、火花となり闇夜に輝く。
フェイトは驚愕していた。
未見の一撃ではないとはいえ、満身創痍のシグナムがソニックフォームでの限界速度に反応した事実に。
何よりバルディッシュを通して伝わる、剣圧に。
満身創痍の身でなければ、均衡すらなりたたなかっただろう。
一瞬で押し切られ、この身は切り裂かれていただろう。
だが、とフェイトは思う。
このままなら負けはしない。
最初の一撃が効いている。
勝負を決定付けるには充分過ぎる一撃であった。
このままスピードで圧倒する。
そう判断し、フェイトは高速移動魔法を発動させた。
背後から前方へ。
そして、前方から死角となる頭上へ。
緩急を付けての連続高速移動は、完全にシグナムから隙を引き出した。
後はバルディッシュを振り下ろすだけで勝負は終わる。
なのはの救出にも問題なく迎える筈だ。
騎士と魔導師との三度目に至る激戦は、魔導師のリベンジ達成で終焉を迎えようとし、

「なっ……!?」

寸前で、終わりの始まりが、始まった。

315 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:54:26.51 ID:Ye9xPK4R
視界の端の森林から溢れ出る、白色の輝き。
白色の光は加速度的に範囲を広げていき、フェイトがいる位置すらも呑み込んでいく。
白色が、世界を埋め尽くす。
唐突に訪れた異常事態に雷光の魔導師は事も出来ず、ただ立ち尽くす。
遅れて、烈風が吹き荒れた。
飛行魔法ですら体制を維持しきれない、まるでそれ自体が攻撃であるかのような、轟風。
轟風の奔流に呑まれて、フェイトの身体が宙にて弄れる。
視界の端には、自分と同様に吹き飛ばされるシグナムの姿があった。
その姿も白色の中へと消えていく。
全てが、自身の身体も手中のバルディッシュすらも白色に蹂躙されて、視認する事ができない。
今自分が何処を向いているのかも、分からない。
フェイトは、混乱に満ちた表情で白色の世界を見詰める事しかできなかった。







終わりの始まりから凡そ数分前の、闇の書事件臨時本部。
唐突に始まった魔法少女と守護騎士達との戦闘に、臨時本部は騒然としていた。
様々な映像が映し出されたディスプレイの前では、エイミィが五指を忙しなく動かし、情報の整理を行っている。
突然の事態に対応しようと、孤軍奮闘していた。

「なのはちゃん達が交戦している場所は海鳴市桜台の上空! 今、本部へ増援の申請をしていますが、到達にはまだ時間が掛かる模様です! あ?、何でこんな所に現れるのよ、守護騎士達は!」

愚痴を飛ばしながらもエイミィの手は止まらない。
本来ならば数人の人員で捌く緊急状況を、必死の想いで解決へと運んでいた。

「なのはちゃん達に通信は繋がる?」
「繋がるには繋がるんですけど、応えてくれないみたいで。通信を返す余裕もないようです!」
「クロノは今、どこに?」
「クロノ君もユーノ君も、闇の書の調査で本部にいます〜! 到着には時間が掛かります! ヴァッシュさんは音信不通! 何やってのよ、こんな時に!」

中継される映像を見つめながら指示を飛ばすリンディであったが、状況は良くなかった。
増援も望めない今、臨時本部では大きな動作を取る事ができない。
今の状況では、現場で戦っている魔法少女達に全てを託すしかなかった。
リンディは小さく歯噛みして、ディスプレイを睨む。

「……!? ア、アンノウンです! なのはちゃんの所にアンノウンが出現! なのはちゃんと交戦状態に入った模様!」

そして、事態は急変する。
アンノウンの出現。
高町なのはとの交戦状態への突入。
先日の分析により、リンディもアンノウンの有する強大な『力』には気付いていた。
最悪の展開も十二分に有り得た。

「マズいわ、なのはさんに撤退の指示を。1対1でのアンノウンとの戦闘は避けて」

心中の焦燥を声色に出さなかった事は、指揮官として流石だと言えるだろう。
だが、指示らしき指示は行えない。撤退を促す事しかできなかった。
リンディは、強く強く唇を噛む。エイミィも同様だ。
何もできない自分に苛立ちを感じずにはいられなかった。
そんなリンディ達の眼前で、余りに一方的な蹂躙は執り行われた。
左腕から噴出した巨大な刃による全方位からの攻撃。
視認すらできない、謎の高エネルギーによる攻撃。
勝負は数分と経過せずに終わった。


316 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:55:33.40 ID:Ye9xPK4R
木々を薙ぎ倒して、山間を削り飛ばして、高町なのはは撃墜された。
バリアジャケットは弾け飛び、四肢からは多量の血が流れている。
視線は虚空を揺れ、何物も捉えはしない。
額から流れた血が、なのはの身体を赤く染め上げる。
息があるのが、不思議とすら思える惨状。
エイミィが、リンディが、言葉を無くす。
恐れていた最悪の事態が現実となってしまった。
虚脱する臨時本部を尻目に、アンノウンは更なる行動を続ける。
満身創痍の魔法少女を担ぎ上げ、何処かへと移動を始めたのだ。
我に返ったエイミィが、必死の想いでなのはへと念話を送る。
返答はない。
エイミィの呼び掛けも段々と調子が変わっていき、徐々に涙声が混じる嗚咽となっていた。
それでも返答どころか返事も返ってこない。
遂には、エイミィの呼び掛けがただの泣き声に変わる。
二人きりの臨時本部を、絶望が包んでいた。
そして、絶望の最中、終わりの始まりが執行される。

「…………何、これ…………」

愕然を声に出したのはエイミィであった。
嗚咽は止まり、頬を伝う涙も止まっている。
画面に映るデータを見て、エイミィは茫然としていた。
それは、ディスプレイに映る数多のウィンドウの内の一つ。
円グラフやら棒グラフやらが幾何学的な模様を形成しているウィンドウであった。
そのウィンドウが、観測者へと異常を告知している。

「……エネルギー反応……急速に、増大……!? 嘘、こんな数値……」

異常は一瞬にして警告となった。
危機感を煽るようにサイレンが一斉に鳴り出し、紅色の警告灯が点滅を始める。
『CAUTION』の文字が、臨時本部のディスプレイを埋め尽くす。
無感情な機械が、危険と異常を教えていた。
映像の中では、バインドに拘束されているヴァッシュへとアンノウンが手を伸ばしている。
頼みの綱であったヴァッシュも、既に戦闘不能に陥っていたようだ。

「信じられない速度で……エネルギーが増加していきます! エネルギーの源は…………ヴァッシュ、さん……?」

驚愕は、時に絶望すらも覆い隠す。
それは、エイミィの後ろで場を見渡すリンディ・ハラオウンも同様であった。
情報が示す現状はとても単純なもの。
端的に言えば、謎のエネルギーが観測されているという事だけ。
だが、そのエネルギーの量が、エネルギーの源と示される存在が、二人に驚愕を与えていた。
光が、溢れる。
なのは達を映しているウィンドウが、光量の許容範囲を越えて発光する。

「ッ、なのはさんを別の場所に転送して! あの位置じゃ巻き込まれる!」

映像越しにさえ、白色の閃光は臨時本部を染め尽くした。
リンディもエイミィも目を開けている事ができない。
強烈で暴力的な白色に、目を閉じる。
その光の渦中で、エイミィがなのはの転送シークエンスを完了させた事は、奇跡的と言えた。
オペレーターとしての長年の経験が、目隠し状態での転送を成功させたのだ。
閃光は、一分程の照射の末にようやく陰りを見せ始める。
世界が色を取り戻す。
映像の中では、ヴァッシュ・ザ・スタンピードが一人取り残されていた。
転送を成功させたなのはは勿論、アンノウンも何処かへ消えていた。
地面に横たわるヴァッシュに、リンディもエイミィも言葉を発しようとしない。
静寂が場に重くのし掛かっていた。



317 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:56:50.15 ID:Ye9xPK4R




声が、聞こえた。
深い深い闇の底から響く、粘ついた声。
声は語る。
見せ付けろ、と。
俺達の力を見せ付けろ、と。
嫌な予感がした。
肌が粟立ち、身体が震える。
心の奥底がその言葉を拒絶する。

手が、伸びてくる。
白い白い光の中から伸びる、無骨な手。
それは何処かで見た事のある光景だった。
思い出したくないような、思い出してはいけないような、記憶。
思考が回る前に、手は視界を覆い隠した。

何かが、弾けた。
身体の奥底で何かが弾け、溢れ出す。
凄まじいまでの解放感。
その感覚にも、覚えがあった。
思い出したくないような、思い出してはいけないような、記憶。
その記憶が何なのか、やはり思い出す事はできなかった。

声が、聞こえる。
聞き覚えのある、声。
何時もは明るい声だけど、今は全く別種の感情に満ち満ちていた。
恐怖。
恐怖が、声を汚していた。

ああ、そんな声を上げるのは止してくれ。
君には笑っていて欲しいんだ。
俺を救ってくれた、君。
俺を救いたいと言ってくれた、君。
君がいたから、決心できた。
君がいたから、銃を握れた。
君がいたから、希望を持てた。



だから、そんな声を上げないでくれ。



俺を、



俺を見て、



そんな声を上げないでくれ。



何故だが、世界は白色に染まっている。
何故だが、君は恐怖に満ちた声を上げている。

318 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:58:07.43 ID:Ye9xPK4R
夜天の空には満月が光る。
この月を見て一緒に酒を飲もうと、約束した。
全てが終わった後に、酒を酌み交わそうと、約束した。
楽しみだ。
本当に、楽しみだ。
全てが終わった世界で、皆と飲む酒は格別だろう。


ああ―――楽しみだ。







覚醒のヴァッシュ・ザ・スタンピードを待ち構えていたのは、見覚えのある天井であった。
何処かボンヤリとした思考で天井を見詰めながら、ヴァッシュは記憶を辿る。
何故、自分はここにいるのか?
自分は何をしていたのだったか?
脳に血を通わせ、ゆっくりと思い出そうとする。
ドグンと、あるビジョンが浮かび上がった。
視界を埋め尽くす掌。
白く染まる世界。
投げ掛けられる、二つの声。
愉悦に満ちた声と、恐怖に満ちた声。
何だ、この記憶は。
自分は一体何をしてた―――と、其処まで思考して、思い出す。
ナイブズと相対したその記憶を、後方からの不意打ちに気を失ったその瞬間を、思い出す。
思い出した瞬間、ヴァッシュは上体を跳ね起こしていた。
首を左右に振って、周囲を見回す。
白色の壁で四方を囲まれた部屋に、ヴァッシュは見覚えがあった。
管理局本部の病室。
クロノとの模擬戦の後にヴァッシュもお世話になった部屋だ。
焦燥がヴァッシュの心中でせり上がっていく。
ナイブズは、どうなった。
待ち合わせをしていたなのはとフェイトは、シグナムとヴィータは、どうなった。
言いようのない嫌な感覚が腹の底で渦巻く。
自分は取り返しようのないミスをしてしまったのではないか。
そう思わずには居られなかった。

「……驚いたな。もう意識を取り戻したのか」

不意に、眼前へと見覚えのある顔が浮かび上がった。
空中にディスプレイが映し出されたのだ。
ディスプレイの中では最年少執務管が驚きの顔を張り付かせている。

「クロノ、教えてくれ。何が起きた、何で俺はここに寝かされている!」

ヴァッシュの言葉に、クロノは口を噤んだ。
眉をひそめ、何かを思案するようにヴァッシュを見る。

「……覚えて、いないのか」
「どういう意味だ。やっぱり俺が、何かをしたのか?」

数秒の時間を置いて吐かれた言葉は、ヴァッシュに更なる当惑を与えた。
懇願の響きを乗せながら、ヴァッシュは画面上のクロノに問い掛ける。
対するクロノは、やはり何かを考えているようであった。
思考し、口を開く。


319 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/04(土) 23:59:13.27 ID:Ye9xPK4R
「僕から君に教えられる事はない。でも、ただ一つ、僕は君に伝えなくてはいけない事がある」

クロノの口調は、事務的で感情を押し殺したものであった。
クロノ・ハラオウンとしてではなく、管理局執務官として、クロノは話を続ける。

「ヴァッシュ・ザ・スタンピード、君の身柄を管理局で保護する事が決定した」

クロノの発言に、ヴァッシュはポカンと口を開くだけであった。
言葉の意味が分からない、というのが主な所だろう。

「その部屋にて監視状態に置かせて貰う。管理局への協力行動は勿論、外出も禁止だ」

だが続く言葉に、ヴァッシュは思わず目を剥いた。
クロノの言葉を要約すれば、体の良い軟禁。
この緊迫の状況下にて、管理局への協力活動さえも禁止され、何もするなと言っているのだ。
そんな事を了承できる訳がなかった。

「もうコレは決定事項だ、拒否する権利はない」

一方的に言い切られ、宙に浮かぶディスプレイが消失する。
何にもなくなった空間を見詰めて、ヴァッシュはうなだれた。
やはり自分は『何か』をしたのだ。
その『何か』が原因で、自分は管理局の監視下に置かれる事になった。
恐らくはジュライでの出来事とも、ジェネオラ・ロックでの出来事とも、関連している。
声を、思い出す。
あやふやな記憶の断片にある、心優しき少女の、声にもならぬ絶叫。
唇を、強く強く噛む。
ヴァッシュはただ怖かった。
己の内に宿る、自分も知り得ない脅威が、怖い。
その脅威が、大切な人を傷付けてしまったんではないかという可能性が、怖い。
歯がぶつかり合い、音をたてる。
身体の震えに、ヴァッシュは己の肩を強く抱いた。
あの平穏な日々には、もう戻れないような気がした。









頬を叩く冷たい風の感触に、シグナムは目を覚ました。
眼下を流れるは、世界を彩る人工の灯火。
何処か緩慢な思考で、シグナムは地上に広がる景色を見つめていた。
頬を通り抜ける風は、シグナムの身体が移動している事を意味している。
誰かに抱えられている、とシグナムが気付いたのは、覚醒からたっぷり十数秒の時間が経過した後だった。
シグナムは肩に抱えられていた。
まるで荷物のような扱いに、だが不思議と暖かみを感じる。
無骨な優しさを受けているような気がするのだ。
シグナムを運んでいたのは、ナイブズであった。
右肩にシグナムを、左脇にはヴィータを抱えていた。

「……私は、何をしてるんだろうな……」

シグナムの覚醒にナイブズも気付いているだろう。
だが、ナイブズは何も語らなかった。
その沈黙が今は非常に心地良く、シグナムは知らずの内に心中を語り始めていた。


320 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/05(日) 00:00:32.35 ID:aaubdLta
「あんな男の言葉を僅かでも信じ……のこのこと連れ出されてみれば、コレだ。
 あの男が裏切ったという事は、おそらく主の居場所も管理局に知られたのだろう。……もう、どうすれば良いか、分からんよ……」

シグナムの言葉に、やはりナイブズは沈黙を貫き通す。
シグナムの位置からその表情は窺えないが、恐らくは何時も通りの無表情なのだろう。
このような状況下でも変わらぬ様相は、頼もしさすら感じる程だ。

「テスタロッサにも無様な姿を見せた……管理局に主の居場所を知られた今、主を守りきる事も困難だろう……あと数日、数日もあれば闇の書も完成できるというのにな……」

現状は、最悪だった。
管理局へ主の居場所がバレたという事実。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードが裏切ったという事は、当然はやての居場所も管理局へ報告している筈だ。
管理局の組織力は絶大である。
目先の尖兵を打ち倒したところで、直ぐに次なる兵士が現れ、戦場に立つ。
小隊単位で局員を動員されてしまえば、それだけで守護騎士達に成す術はなくなる。
管理局の強みは『数』。
中には高町なのはやフェイト・テスタロッサという、騎士に匹敵する猛者だっている。
正面からの戦闘で、守護騎士達が管理局に勝利する事はできない。
今だって監視網の合間を縫う事で、何とか蒐集活動を続けられている状態である。
完全な敵対をしてしまえば、守護騎士達に未来はなかった。
そして、主の居場所が判明された今、管理局は遠慮なくその組織力を振るう事ができる。
暗雲立ち込める現状に、シグナムは絶望にも酷似した想いを抱く。
抗いきれない閉塞感が、現状を覆っていた。
もはや目指す先には、希望がないように思えた。

闇の書の完成は、寸前にまで迫っている。

ナイブズの協力に、裏切ったとはいえヴァッシュの協力もあった。
二人の協力、特にナイブズの助力は蒐集に於いて大きな意味を持った。
蒐集効率は格段に跳ね上がり、予定よりかなり早期での完成も見えてきた。
魔獣を相手にしたとしても、あと数日。
高町なのはやフェイト・テスタロッサ級の魔導師であれば、一人分といった所まで迫っている。
その一人分が、その数日が、遠い。
今この瞬間にも襲撃されてる可能性も、大いに有り得る。
傷付き疲弊した身体で、何処まで管理局の部隊を抑えられるか。
もし闇の書が完成したとしても、それから平穏な生活など送れるのか。
闇の書の強大な力があれば、管理局とも渡り合えるだろう。
だが、要注意人物として管理局に狙われた状態は、果たして主の望む平穏な生活と云えるのだろうか。
昨日までの穏やかな日々が、もう取り戻し得ぬ遠いもののように感じた。


「……どうすれば良いんだろうな、本当に……」


シグナムの空虚な呟きが、風に乗って消えていく。
沈黙だけが三人を包んでいた。
そして、三人は八神家へと辿り着く。
玄関前に直陸したナイブズは、気絶したヴィータを抱えたまま、シグナムを地面へと降ろした。
既に日が落ち、外は真っ暗になっている。
シグナムは気怠げな身体を押して、扉へと手を伸ばす。

「シグナム」

ドアノブに手を掛けた所で、無言を貫いていたナイブズが、遂に口を開いた。
シグナムは振り返らず、動きを止めて、続く言葉を待った。

「覚悟はあるか? はやての為に修羅の道を進む、覚悟が」

シグナムは言葉を返さなかった。
言葉を返さず、ただ一度背を向けたまま、頷く。

321 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/05(日) 00:01:22.88 ID:aaubdLta
「ならば、俺が道を示そう。付いて来い、シグナム」

再度、肯首。
シグナムは扉から手を放し、ナイブズへと振り向いた。
それはまるで平穏な日々からの離脱を、決意したかのよう。
シグナムの瞳には、決意の灯火が爛々と輝いていた。

「……分かった」

シグナムの言葉に、シグナムの瞳に、ナイブズは思わず―――歪んだ愉悦を表出しそうになっていた。
『ある一つの事象』を除いて、殆ど全てがナイブズの思い通りになった。
笑みが、零れそうになる。
もう少しすれば、この世界に蔓延る数十億もの人類を滅ぼす事ができる。
そう考えただけで、気分が昂った。
今この瞬間にも母なる大地を汚し、自ら滅亡の道に進もうとしている愚かな種族。
この『地球』も恐らくは変わらぬ道程を経て『プラント』を、もしくはそれに似た存在を産み出すだろう。
変わらない。
人類は、変わらない。
次元という壁を越えて尚、人類は変わらなかった。
だから、滅ぼす。
滅ぼす為に、利用できる全てを利用する。
ナイブズは、変わらない。
ヴァッシュが変わらないように、人類が変わらないように、ナイブズもまた変わらない。
人類の滅亡だけを望んで、前へ進んでいく。


―――夜が、更ける。





322 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/05(日) 00:02:35.00 ID:aaubdLta
これにて投下終了です。
タイトルは『日々の終わり、夜の始まり』です。
前話ではナイブズのAA描写で物議を引き起こしてしまったようで、申し訳ありません。
SS内の描写でも分かるように、自分は『門』を使用しての攻撃と剣に変化させた腕との攻撃を別物だと捉えております。
ここら辺は読み手の方々にも諸々の考え方はあるでしょうが、割り切っていただきたいと思います。
まあ、そうでもしないと本当にヴァッシュ以外の対抗策がなくなりますしねw

自分のSSで少しでも楽しんで下さる人がいることに、またトライガンを読み出してくれた方がいることに、喜びを覚えずにはいられません。
何時までに完結できるかは分かりませんが、余り期待せずに待っていてもらえると幸いです。

323 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 00:46:33.14 ID:hyG91QgE
投稿乙です。
原作ではナイブズの腕を変化させた刃(巨大化も放逐された村も)は門による次元刃という設定と古いアワーズで語られてるけど、その解釈でもありですな。
てかそうしないと対抗がww
1年分の鬱憤を晴らすような投稿速度と高クオリティw

324 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 00:54:14.96 ID:7BDr9uTF
投下乙です!
いやあ、フェイトは熱いですね。二対一の状況からのソニックフォームでの逆転は、まさにヴァッシュの師事あってこそって感じでした。
でも、事態はどんどん悪い方に事態が転がっていくなあ。
これはハッピーエンドで終わるんでしょうか? 何かもう絶望しか見えないんですが…

325 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 09:41:55.68 ID:LjDlFRtB
投下乙
二つの勢力の橋渡しは失敗。
立場も危うくなり状況悪くなるかぁ
今度どうなるのだろうか。


326 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 09:47:49.46 ID:F5Rj77A/
ここにきて投下祭り。いいねー
でも、どうしちゃったの皆?w

327 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 11:37:42.48 ID:iMx2oEdo
Λが良い起爆剤になったんじゃないか

328 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 12:18:11.80 ID:oyFQa7Hv
避難所で避難所進行or移転に関しての議題が上がっています
特に書き手の方、他にも意見のある人は参加して下さい


329 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 22:37:57.29 ID:D2tsUs3s
今のところ、現状維持派がほとんどみたいだね
ところで、今は投下って大丈夫かな?

330 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 22:55:39.00 ID:aaubdLta
問題ないのでは?
議論は議論、こっちはこっちで。


331 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/06(月) 23:22:01.48 ID:tnnbGqoU
23:45に投下をさせて頂きます。
先に言っておきますと、リリカルTRIGUNとは別のクロスSSとなります。


332 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/06(月) 23:35:31.64 ID:wBCaNWQU
なん…だと…

333 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/06(月) 23:45:28.93 ID:tnnbGqoU
では投下をします

334 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/06(月) 23:46:53.10 ID:tnnbGqoU
次元の壁にて隔絶された、後のエースオブエースを産み出した地球とはまた別の『地球』。
その世界には、『魔法』とは別種のベクトルにて発展した『科学』があった。
その世界には、『魔法』とは別種のベクトルにて発展した『魔術』があった。
そんな『科学』と『魔術』が交差する混沌の世界に、その青年はいた。
名は上条当麻。
『科学』と『魔術』が交差する物語の、その渦中に居続けた男である。
上条当麻は数多の戦いを乗り越えてきた。
全ての異能を打ち消す『右手』と、決して揺るがぬ信念を武器にして、己の信じる道を突き進む。
上条からすれば、ただ自分の思いに任せて行動しただけ。
だがしかし、上条の行動は数多の人物に影響を与え、その生き方に変化を与えてきた。
かつては敵だった者すらも味方に引き込み、その生き方にすらも変化を与える。
何時しか上条当麻は、その世界に於いてキーマンとされる存在にすらなっていた。
そして、上条当麻は世界の中心に立つ。
『魔術』と『科学』が交差して執り行われた第三次世界大戦。
世界大戦の首謀者である右方のフィアンマとの戦い。
『神上』の力を振るうフィアンマは、絶対的という言葉を絵に描いたかのような実力であった。
だが、上条当麻は怯まなかった。
とある少女を救う為、そして自分の信念に突き動かされて、ただ右腕を振るう。
結果は、奇跡と言えた。
上条当麻の右手が『神上』なるフィアンマの頬を捉え、吹き飛ばす。
一介の高校生たる上条当麻の勝利により、第三次世界大戦は終焉を迎えた。
第三次世界大戦は終戦と向かった。
だが、世界大戦が終われど世界の危機は去らなかった。
フィアンマが計画の最中で発現させた天使。
暴走状態へと陥った天使は、世界を滅ぼしかねない勢いで行動を開始していた。
上条当麻は、一人天使に立ち向かう。
ただ自分の想いに従って、上条当麻が『上条当麻』たる唯一の証に従って、天使へと右腕を振り上げる。
そして、天使は消滅した。
だが、仲間達による捜索も虚しく、上条当麻の姿もまた忽然と消えていた。
こうして『上条当麻』は二度目の死を迎える事となり―――新たな物語が始まる。
本来ならば起こる筈のない物語。
それは天使が引き起こした気紛れなのかもしれない。
鍵となる人物は上条当麻。
そして、大魔導師の手により『造られた』一つの命。
『幻想殺し』と『造られし命』が交わる時、新たな物語が始まる―――。




335 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/06(月) 23:50:26.23 ID:tnnbGqoU




時の庭園。
ミッドチルダの魔法技術によって作られた、次元間航行すらも可能な巨大庭園。
庭園の片隅には巨大な屋敷が一つ建っている。
庭園の大きさからすればちっぽけな、だが居宅として見れば壮大な屋敷。
現在の住人はたったの二人と一匹。
その大きさからすれば何とも淋しい限りの邸宅に、フェイト・テスタロッサはいた。
ベッドへと横になり、ボンヤリと天井を見つめている。
フェイトの表情からは疲労の色がありありと見て取れた。

(母さんに、怒られちゃった……)

寝返りを打ったフェイトの視線が、机の上の菓子箱を捉える。
管理外世界で母へのお土産にと買ってきた菓子。
でも、母はそのお菓子に一切手を付ける事はなかった。
自分が言い付けを守れなかったからだ、とフェイトは思う。
母に命じられた『ジュエルシード』の確保。
自分は、全部で21個ある『ジュエルシード』の内のたった4つしか入手できなかった。
母が激怒して当然だ。
折檻をされても仕方がない。
お土産なんて受け取ってくれる訳がない。

(もっと、頑張らなくちゃ……)

痛む身体を無理矢理に起こして、フェイトは自分の役目を果たすべく動き出す。
管理外世界へと飛び立ち、ジュエルシードを収集しなくては。
休んでる暇なんて、無い。
泣き言を言ってる暇なんて、無い。
早くジュエルシードを集めて、優しい母さんに戻って貰わなくちゃ。
ただそれだけの想いを胸に、フェイトはベッドから起き上がる。
相変わらずの疲れた表情で、だがその瞳だけが強固な意志に輝いていた。
菓子箱の横に置いてある相棒を握り、部屋の出口へと歩いていく。



その時だった。



空間が割れ、その隙間から男が転がり落ちてきた。
男は、つい一瞬前にフェイトが立ち上がったベッドへと、墜落した。
後方から聞こえたドサッという音に、フェイトが反射的に振り返る。
紺色の学生服に身を包んだ、何故だか全身がびちょ濡れの男。
ぐっしょりと塗れているにも関わらずツンツンに逆立った髪の毛。
全く見覚えのない男が、フェイトのベッドを支配していた。
突然の事態にポカンと口を開け、立ち尽くすフェイト。
ふかふかのベッドに沈み込む、全身ずぶ濡れの男。
これが始まりだった。
『幻想殺し』と『造られた命』との。
『上条当麻』と『フェイト・ハラオウン』との。
本来ならば有り得る筈のない、邂逅。

それが、物語の始まりであった。



上条当麻がその鬱展開(げんそう)をぶち殺しにいくそうです。無印編、始まります。

336 :リリカルTRIGUN ◆96GgaZtJ22v. :2011/06/06(月) 23:53:26.58 ID:tnnbGqoU
短いですが、これにてプロローグ投下終了です。
作品のタイトルは『上条当麻がその鬱展開(げんそう)をぶち殺しにいくそうです。』です。
いわずもなが、とある魔術の禁書目録とのクロスでございます。
鬱々とした展開ばかり書いてたら、こういうのを書きたくなってきました。
展開は単純明快で殆ど捻りなし。短編的な感じで話も比較的短くなると思います。
息抜き感覚でひっそりと書いていくつもりです。



タイトルになのは要素がないのは秘密だ。


337 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/07(火) 00:45:02.04 ID:zB8kYP8s
投下乙です。
まさかの禁書クロスとは…w
トライガンクロス共々続きを楽しみにしています。

338 :マスカレード ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 12:50:42.21 ID:KL1pUz3Y
職人の皆様、投下乙です。
久々なのですが、予約が無ければ1時頃からクウガ25話の投下を開始しようと思います。

339 :クウガおかえり第25話 ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 13:03:52.98 ID:KL1pUz3Y
それでは投下を開始します。
と、その前に前回までのあらすじを簡潔に説明しますね。
一つ。ダグバの霊石を誤って取り込んでしまったミックは、未確認生命体にも似た外見になってしまった。
二つ。しかしミックはその自我を失ってはおらず、なのは達の攻撃を受けたミックは涙を流し逃げ出してしまった。
そして三つ。受け入れ難い現実に涙するすずかに、なのは達は絶対にミックを助け出すと約束するのであった。

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 楽しかった頃の想い出は、いつだって昨日の事の様に思い出せる。
 事実、つい昨日まではミックは普通の猫で、すずかの元で普通に暮らしていたのだ。
 だけれど、それも過去の話になってしまうのかと思えば、堪らなくなって涙が溢れてしまう。
 最も信頼出来る親友であるなのは達は、ミックを必ず救ってくれると言っていたが、保証なんかは何処にもない。
 信用していない訳ではないが、不安でどうしようもなくなるのは、当然であった。
 そんなすずかに会いたいと、わざわざ月村の豪邸まで脚を運んだのは、五代雄介だった。
 ミックの話を直接聞きたいと、直接この月村邸まで脚を運んで来たのだ。

「ミックの話、ですか」
「うん、何でもいいんだ。想い出話でも、最近あったことでも」

 五代雄介の表情は、笑顔のようでありながらも、真剣そのものであった。
 今はもう未確認となってしまった飼い猫の話なんて聞いてどうするのか、と思う。
 状況が状況なのだ。そんなのんきな話をしている場合なのか、とも思う。
 だけれども、それでもミックの話をするのは、不思議と嫌では無かった。
 というよりも、五代さんの人懐っこい笑顔を見ていると、断るのも悪い気がして。
 彼の笑顔を見ていると、焦る気持ちが落ち着いて、警戒心も薄れるから、不思議なものだ。
 うーん、と少し考えて、すずかは五代さんにミックの話をしてもいいだろうと判断した。



 月村すずかは小さい頃から、猫が大好きだった。
 どうして猫が好きなのか、と問われても、それは小さい頃の記憶だし、ハッキリとは解らない。
 けれど、恐らくは純粋な気持ちで、子供ながらに猫を可愛いと思ったからだとか、そういう単純な理由だと思う。
 さて、すずかは物心がつくよりもずっと前から猫が好きであったけども、猫との直接の触れ合いは無かった。
 良くある理由だ。すずかの両親が、幼いすずがが猫を飼う事を許してはくれなかったのだ。
 当時、生き物を飼うという行為自体がすずかにはまだ早いと思われていたからなのだろうと、今では思う。
 そうして、「飼いたい」という気持ちをずっと抑えられて来たすずかは、次第に猫への気持ちが大きくなっていった。
 いい加減な気持ちなら、時間の経過と共にその熱も冷めて行くが、すずかはその真逆だったのだ。
 やがて、5歳の誕生日を迎えた時、その熱意はようやく両親にも通じたらしかった。
 そうして買い与えられた猫は、ブリティッシュショートヘアーと呼ばれる種類の仔猫。
 その日の事は今でもしっかりと覚えているし、今だかつてこんなに嬉しくなった日も無かったと思う。

「それがミック、って訳か」

 五代さんが、なるほどと頷いた。
 察する通り、すずかは最初に出会った仔猫に「ミック」と名付け、可愛がった。
 だけれども、ミック自体は非常に気性が荒い猫で、当初は中々すずかにも懐かなかった。
 撫でようとすれば噛み付いて来るし、近寄ろうとすれば勝手に何処かへ逃げてゆく。
 どうしてこんなにも懐いてくれないのだろう、とすずかは泣きたくなったが、しかし同時に楽しくもあった。
 どんな形であれ、それはすずかが夢にまで見た猫との触れ合いなのだ。
 懐いてくれない悲しみ以上に、猫と遊べるという楽しさの方が上回っていたのだった。
 根気良く接し続けていれば、やがてミックも少しずつ心を開いてくれるようになった。
 他のメイドやすずかの両親には懐かなくても、すずかにだけは振り向いてくれるようになったのだ。

「それでも、まだ結構人見知りする方なんですけどね」

 何処かおかしくなって微笑むすずかに、五代さんも微笑みで返してくれる。
 こうして黙って話を聞いてくれるのは、語り手にとっては気持ちのいい事だ。
 気付いた時には、すずかは自ずと饒舌になっていた。

340 :クウガおかえり第25話 ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 13:07:56.38 ID:KL1pUz3Y
 

 ようやく懐いてくれるようになったとは言ったものの、それでもミックは気性が荒い方だ。
 悪気はなくとも、ミックと遊べばすぐに服は解れてしまうし、手には引っかき傷だって出来る。
 当時は非常に内向的で、外見などあまり気にして居なかったすずかは、髪の毛だって無造作に長かった。
 伸びっぱなしになった前髪は、はしゃぎ回るミックが相手では、すぐに絡まって痛んでしまう。
 父はそんなすずかに、せっかくの綺麗な髪の毛が勿体ないと言って、とあるプレゼントをくれた。
 そのプレゼントこそが、今もすずかが肌身離さず付けている、カチューシャ型のヘアバンドだった。
 これを使えば前髪を抑えられるし、何よりも、内気なすずかにとっての初めてのお洒落でもある。
 それはミックの次くらいに大切な宝物となって、今ではいつだってヘアバンドを付けて出歩くくらいだった。

「そっか、そのヘアバンド、そんなに大事なものなんだ」
「うん……今では、なのはちゃん達と友達になった切欠でもあるから」

 ヘアバンド自体にもミックとの想い出が詰まっているし、親友と知り合う切欠にもなったものだから。
 と言っても、今は髪の毛もきちんと手入れしているし、美容院にだって定期的に通っているのだが。
 すずかは照れ笑いするように頭のヘアバンドをなぞって、楽しかった想い出を一つ一つ思い出してゆく。

 そもそもすずかには、なのは達と知り合うまでは友達と呼べる友達が居なかった。
 家から出る事も無いし、すずかにとっての世界とは、即ち、家の中から見るものが全てだったのだ。
 そんな世界の中で、すずかが唯一心を許せるミックを大切に思うのは当然の事だった。
 それはなのは達という友達が出来てからも変わらない。ミックも彼女らも、大切な友達なのだ。
 そうして友達が出来てからも、ミックのお陰で、アリサとは「ペットの話題」で盛り上がる事だって出来た。
 なのは達皆が遊びに来た時には、ミックも一緒に遊んで、楽しい時間を送る事だって出来た。
 やがて長い間一緒に遊んでいる内に、ミックもなのはとアリサにだけは懐く様になってくれた。
 今では、すずかでしか知らなかった筈のミックの手懐け方だって、彼女らは知って居る程だ。

「あっ、ちょっと待って! その手懐け方っていうのは?」
「え……? えっと、ご褒美や餌を与える時に、決まってするポーズがあるんです」
「それ、もしかしたらミックを助ける為の大きなヒントになるかも!」

 五代さんは、何か面白い物を見付けた子供みたいな無邪気な表情でそう言った。



 EPISODE.25 想出



 海鳴市、月村邸―――08:21 a.m.
 燦々と降り注ぐ休日の朝の日差しは、本来ならば誰にだって心地の良いものだと思う。
 だけれど、今日ばかりは誰も、そんな事を考えている余裕は無かった。
 五代雄介は、昨日起こった出来事の一部始終を聞いて、正直な話、困惑した。
 結果だけを述べるならば、すずかの飼い猫が未確認になってしまった、との事らしい。
 当然、雄介はそんな状況に直面した事など無いし、どうすればいいのかなど皆目見当もつかない。
 だけれども、助けられる保証は確かにないが、どちらにせよ未確認と戦えるのは自分だけなのだ。
 なれば、自分がクウガとして、未確認へと変じてしまったミックと戦わねばならない。
 それは雄介にとっての素朴な義務感であり、正義感でもあり、一つの願望でもあった。

341 :クウガおかえり第25話 ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 13:11:24.92 ID:KL1pUz3Y
 
 そもそも、雄介がクウガとなって戦うのは、人々の笑顔を護りたいからだ。
 誰にも悲しい涙を流していて欲しくないと願ったからこそ、この力で戦うのだ。
 そして今、すずかは未確認が関与する事件に巻き込まれた事によって、泣いている。
 例え周囲を心配させない様にと気丈に振舞ってはいても、その心は泣いているのだと思う。
 もしもミックを助けられなかったとしたら、どうだろう。
 きっとすずかは、今以上に、もっと沢山の悲しい涙を流すのだと思う。
 だとしたら、出来るかどうかとかではなくて、雄介は「戦わなければならない」のだ。
 そこで誰かが泣いているのなら、今は自分に出来る戦いをするしかないのだと思うから。

 だけれども、戦うなら戦うで、その為にはそれ相応の心構えが必要だ。
 元来暴力が嫌いな雄介であるのだから、戦うにはその意志を燃やすだけの“何か”が欲しかった。
 だから雄介は、直接月村すずかの家まで出向いて、すずかの気持ちを、本人の口から聞きたかったのだ。
 そうしてすずかの口から語られたのは、ミックとの出会いから、昨日までに起こった様々な想い出。
 楽しい想い出や、悲しい想い出、沢山の話を聞いて雄介が思ったのは、やはり、いつも通りの事だった。

 ――目の前の女の子の笑顔を、守りたい。

 こうして直接話して、その思いは確固たる意思へと変わった。
 すずかは、本当ならこんなにもやさしい笑顔で笑う女の子なのだ。
 それなのに、こんな下らない事の為に、このやさしい笑顔を悲しみの涙に変えてしまうのは、嫌だった。
 今まさに泣いている女の子一人を救う事が出来なくて、世界中の皆を笑顔になんて出来る訳がないとも思う。
 だから、やるのだ。出来るかどうか、とかじゃなくて、絶対に、助けなければならないのだ。
 雄介はすずかの頭にぽんと手を置いて、いつも通りの変わらぬ笑顔を浮かべた。

「安心して、すずかちゃん。ミックはなのはちゃん達と俺が、きっと助けてみせるから」
「え……五代さんも、手伝ってくれるんですか?」
「当然だよ。俺はその為に来たんだから」

 だって俺、クウガだから。
 内心でそう告げつつも、訝るすずかに、親指を立ててみせる。
 きっと、大丈夫だから。きっと、助け出してみせるから。
 これは、すずかに対する、約束の証でもあった。

「ありがとうございます、五代さん……でも、どうやって?」
「俺には俺にしか出来ない事もあるからさ。言ってなかったっけ? 未確認は元々俺の世界に居た奴らなんだ」
「あ……そういえば、そんな事をみんなから聞いたような……」
「うん、だから、俺が居れば未確認にも対処できるって事」

 それを聞いたすずかの顔が、僅かに明るくなった。
 こうして目の前に、愛猫を救う為の希望が居るのだ。
 それは何の保証も無かったすずかにとっては、大きな励みにもなったのだろう。
 だとすれば、その期待を裏切る訳にも行かない。行動を起こすなら、早い方が良い。
 そもそも、アマダムの例で言うならば、雄介の身体は徐々にクウガの身体へと作り変えられていった。
 きっと、作り変えられた身体を元に戻す手段なんかは無いし、雄介はクウガをやめられるとも思ってはいない。
 事実として、アークルにも一度装着した霊石は二度と取り外す事は出来ないという記述だって刻まれている。
 だけれども、ミックが取り込んだ霊石の欠片とやらは、恐らくアークルの様に、人によってシステムとして造られたものではない。
 また、アークルとアマダムが雄介の身体と完全に融合するまでに一年掛かった事を考えると、まだ希望だってある、と思う。
 その前例から考えると、まだ数時間しか経過していないミックの身体は、まだ完全に作り変えられてはいない筈なのだ。
 今日中……出来るなら、午前中に。ミックの動きを止めて、身体から霊石を排除すれば。
 否、排除出来ずともいい。その力を無効化させる事さえ出来れば、何とかなるのではないか。
 ともすれば希望的観測としか取れない考えではあるが、何の希望もないよりはマシだった。
 なれば、こうしてはいられない。今すぐにすずかに別れを告げ、この家を飛び出そうとした、その時であった。
 すずかの携帯電話の着信音が鳴り響いたのだ。すずかは無言でそれを取って、電話相手に相槌を打つ。

「うん……うん、そうだね……大丈夫だよ、うん……うん、わかった、ちょっと待ってね」

 電話越しの相手に対し柔らかな微笑みを浮かべたすずかは、すぐに携帯電話を雄介に差し出した。

342 :クウガおかえり第25話 ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 13:13:14.93 ID:KL1pUz3Y
 
「ん、俺に?」
「うん、はやてちゃんが代わってって」

 今雄介がここに居るのを知って居るのははやてだけだ。
 とすれば、雄介に用がある相手というのも、必然的にはやて以外はいなくなる。
 そして、この状況を考えるに、きっと何かあったのだと判断した雄介は、すぐに電話を受け取った。

「もしもし、俺だけど」
『あ、雄介君…… ちょっとこれは拙い事になったかもしれへんよ』
「ん? どうした? 何かあったの?」
『すずかちゃんには悟られへんように、何気ない感じで聞いてな?』
「え、ああ、うん、大丈夫」

 ちらとすずかを見て、雄介はすぐに意識を電話に戻す。
 不安そうに佇むすずかを、今は刺激しない様に、というはやてなりの優しさなのだろう。

『単刀直入に言うで。今、ミックと思われる未確認が、警官隊に囲まれてるらしい』
「……どういう事?」
『テレビ点けたら分かると思うけど、今、臨時ニュースで未確認生命体第3号が海鳴市で暴れとるって話をしてるんよ。
 正直、これは拙いよ。これじゃミックは完全に悪者やし、こんだけ人がおったら穏便に済ますのも難しい』

 焦慮の所為か、はやてが早口にまくし立てる。
 それには具体的な答えなどは返さずに、雄介は何食わぬ顔で問い返した。

「そっか……場所は?」
『詳しい場所はアースラの皆が説明してくれる。ビートチェイサーから連絡入れたらすぐに分かるやろうから』
「うん、わかった、ありがとう……じゃあ俺、行くよ」
『……どうせ雄介君は、止めたかて聞けへんのやろ?』
「うん、まあね。だってさ、嫌じゃない。こんな事の為に、誰かが泣くのって」

 電話の向こうで、はやてが小さく嘆息するのが聞こえた。
 それは、はやても自分を心配してくれているからだという事くらいは、鈍感な雄介にだって分かる。
 だけど、こればかりは止める訳には行かない。俺はクウガで、目の前で女の子が泣いているから。
 それだけで戦う理由は十分だし、何よりも、中途半端に関わる様な真似はしたくない。
 首を突っ込むなら、最後まで責任を持って関わるというのが、最初に決めた決意でもある。

『今回は今までとは状況が違う。まずミックの行動範囲が広すぎて結界の範囲を絞りにくい上に、
 警官隊の皆さんや、避難途中の一般人にマスコミの人間……結界の発動範囲内に、あまりに人が多過ぎるんよ。
 発動範囲の絞り込みにしても、一般人全員を転送させるにしても、今回は結界の発動に想像以上に時間がかかる』
「……そっか、わかった。でも、俺がやる事は変わらないよ」
『まぁ……雄介君ならそう言うと思っとったよ。こっちも出来る限りのサポートはするから、無茶はせえへんようにな?』
「うん、大丈夫大丈夫、ありがとうはやてちゃん」

 それから雄介は、軽く挨拶を交わして電話を切った。
 結界と言う物は、発動時にそれなりの魔力がコストとして掛かる。
 それ故に、範囲を広げようとすればそれだけ時間が掛かるし、絞ろうとしても問題がある。
 その上、結界範囲内には外に避難させるべき人々が未だ多く密集しているというのだ。
 彼ら全員を転送させた上で、ミックと戦っても被害を出さないだけの結界を発動せねばなるまい。
 ともすれば、それはやはりそれなりに時間が掛かるらしく、下手をすれば雄介は公衆の面前で戦わねばならぬらしい。
 が、だから何だと思う。自分一人の身を晒す事で、少女の笑顔を守れるのであれば、雄介はそんな事を厭おうとは思わない。
 元の世界では、未確認生命体第4号として、世間に認知された上で戦っていたのだから、今回だってそれと同じだと思えばいいのだ。
 なれば、とにかくすぐに行かねばならない。雄介は携帯電話をすずかに返すと、その頭を撫で、言った。

「待っててね、すずかちゃん。俺達が絶対、ミックを助けて戻って来るから」

 二人の間に、それ以上の会話は無かった。
 最後に笑顔を向けた雄介は、そのまま踵を返して、走って行く。
 すずかがどんな表情でその後ろ姿を見詰めていたのかなど、気にも留めずに。

343 :クウガおかえり第25話 ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 13:16:09.34 ID:KL1pUz3Y
 




 未確認生命体――。
 人知の及ばぬ力や能力を駆使する、人類の天敵。
 その生態、目的、あらゆる情報は謎のままである。
 だけれども、奴らが人の命を脅かす存在ならば、やる事は決まっている。
 今自分に出来る事をして、少しでも被害を抑え、一人でも多くの命を守る事だ。
 海鳴の住宅街に停車されたセダンの運転席で、氷川誠は手にした手帳にメモを取って居た。
 この日も氷川は、無事助かった子供達の家を回って、聞き込み捜査を繰り返している最中だ。

「やっぱり、子供達はまだ脅えてるか……」

 表情に陰りを落として、氷川はメモ帳と向き合う。
 未確認生命体第2号の出現からそれなりの時間が経過したが、未だ第2号が倒されたという情報は入ってはいない。
 だけど、第2号による小学生連続殺害事件が切欠で、未だに学校に行けない子供達が大勢いるのもまた事実。
 このままで良いなどとは、氷川は絶対に思わない。子供たちが学校に行けないのは、とても悲しい事だ。
 子供たちは学校で勉強をして、休憩時間には友達と笑い合って、成長して行くものであるのだから。
 だから未確認生命体対策班に配属された氷川は、せめて安全なら安全である確証が欲しかった。
 子供たちに、もう学校は安全な場所なんだよ、怖くないんだよ、と、教えてあげたかったのだ。
 その一心で情報を纏めようとする氷川の耳に入ったのは、コツコツと、ドアを叩く音だった。
 ガラス越しに見えるその人物が顔見知りだと知った氷川は、すぐに窓を開ける。

「河野さんじゃないですか、どうしたんですか、こんな所で」
「おう、たまたま近くを通り掛かったんでな、差し入れだ」

 言いながらコンビニ袋を渡して来る河野に、氷川は頭を下げて軽く礼を言う。
 初老の男の名は河野浩司。氷川もよく世話になっている、捜査一課の刑事だった。
 渡された袋の中に入って居たのは近くのパン屋で買ったサンドイッチ。
 瞳を輝かせた氷川は、それを頬張りながら問う。

「それにしても珍しいですね。ここは河野さんの管轄外ではないんですか?」
「ああ、まあ、これは俺が勝手に負ってるヤマだからなあ。そう言うお前さんこそ、毎日毎日大変そうじゃないか」
「ええ……ですが、休んでは居られません。子供達には、一日も早く安心して欲しいんです」

 真顔で告げる氷川に、河野は感心した様子で頷いた。
 河野とて、氷川達未確認生命体対策班が第2号の足取りを追っているという事くらいは知っている。
 だからこそ、熱心に聞き込み捜査を続ける氷川を、河野はまるで息子でも見るような目で見詰めた。
 それからぼんやりと空を眺めて、河野は自分の分のサンドイッチを頬張って、続ける。

344 :クウガおかえり第25話 ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 13:17:40.59 ID:KL1pUz3Y
 
「にしても、この辺もいきなり物騒になったもんだよなあ。何だ、未確認生物……だっけか」
「いえ、未確認生物ではなく、未確認生命体です。UMAと呼ばれるものとはまた別件です」
「ああ、そうだそうだ、その未確認生命体ってのか。いきなりそんな奴らに暴れられても、こっちだって困るってもんだよなあ」
「それはそうですが……奴らは待ってはくれません。また、いつ現れるかも解らないんです」

 だから……と続けようとした所で、氷川の言葉は止まった。
 ピー、と音を鳴らして、氷川が乗って居た車に搭載された無線機が音を鳴らしたのだ。
 何事かと思い覗き込む氷川と河野に、無線機からの指令が伝えられる。

「警視庁から各局、海鳴市内にて未確認生命体第3号が出現したとの通報。付近を警邏中のPCは至急現場に急行せよ」

 瞬間、氷川の表情は変わった。
 繰り返される警視庁からの応援要請を聞きながら、考える。
 ここ数日の間、何事も無かったと思っていた矢先の、新たな未確認だ。
 未確認生命体は、子供だろうがお構いなしにその命を奪い、輝かしい未来をも閉ざす。
 そんな奴らを、氷川は許せない。理由も無く人を傷つける奴らが、どうしても許せないのだ。

「河野さん、僕は」
「ああ、行くんだろ」
「はい。それが警察官としての義務ですから」

 氷川誠の人としての正義感は、良くも悪くも、猪突猛進であった。
 こうと決めたら、こう。こうだと決めたら、その道を、突っ走らねば気が済まない。
 河野もそれを知っているからこそ、氷川を止めようなどとはせずに、車から離れていった。

「俺も後から自分の車で行く。お前も無茶はするなよ」
「ありがとうございます、河野さん、それではまた!」

 その言葉を最後に、氷川はガラスの窓を閉めた。
 きっと現場には、この応援要請を聞いた警察官が、大挙して押し寄せるだろう。
 警察官の義務とは、人を守る事。それが当然であると信じている氷川は、人の正義感を疑いはしない。
 故にこそ、自分と同じ志を持った人間が、未確認にむざむざ殺されるのは、絶対に見過ごせない。
 勇敢な同僚達を、何よりも、罪のない人々の命を、一人でも多く助けてやろうと、強く思う。
 それが警察官として……否、それ以前に、人として当然の責務だと思うから。
 表情を一気に険しくした氷川は、アクセルを踏んで一気に車を走らせる。
 次いで、鳴りっぱなしの無線機を引っ掴んで、怒鳴る様に告げた。

「こちら氷川。了解しました、至急現場に急行します!」

 無線機を所定の位置に戻すと、ハンドルを大きく回し、アクセルを踏み込む。
 車の通りもまばらな車道を、氷川を乗せたセダンは白線を越えて方向転換した。
 パトライトが点灯して、けたたましいサイレンの音を響かせながら、氷川は現場へと急ぐのであった。

345 :クウガおかえり第25話 ◆RIDERvUlQg :2011/06/07(火) 13:29:17.44 ID:KL1pUz3Y
今回はここまでです。
30話までのプロットは固まって居るので、近い内に投下出来ると思います。
ミック編が終わって、少し別の編が入る予定ですが、そろそろ終章に入って行く予定です。
年内に完結出来ればいいかなー……といった感じですね。

それでは、予定している次回予告(あくまで予定)を簡単に。

「あの警察官、逃げる気はないの!?」
「助ける手段……一つだけ、あるかもしれない」
「貴方には、待っている人がいるんだ! 貴方が戦う事なんてないんです!」
「――だから、見てて下さい! 俺の、変身!」

EPISODE.26 人間

346 :一尉:2011/06/07(火) 19:38:12.05 ID:UnPL4+Ow
支援

347 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 00:45:29.99 ID:aCCL6LFO
予約が無ければ01:00分頃から「魔法少女なのは☆マギカ 第4話」の投下を開始しようと思います。

348 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:04:21.38 ID:aCCL6LFO
 見上げれば、透き通るような青空は何処までも拡がっていた。
 太陽の光に照らされた小鳥達は気持ちよさそうに空を飛んでいて、それをぼんやりと眺
める高町なのはは、この青空と同じくらいに広大で、尚且つ漠然としているのであろう疑
問の答えを探して、思慮に耽っていた。
 なのはは昨日、巴マミの家で魔法少女の説明を聞いた上で、キュゥべえから「魔法少女
にならないか」という誘いを受けたのだが、結局の所、なのははその誘いにすぐに乗る事
は出来なかった。
 何故なのか、と問われた所で、ただ漠然とした不安があるからとしか答えようがなかっ
たし、何よりも「たったひとつ叶えられる願い」が何であるか、などといきなり訊かれて
すぐに答えられる訳もなかった。

 聞けば巴マミは、家族全員でドライブに出掛けた際に大規模な交通事故に遭い、マミ自
身も瀕死の重傷を負った際、キュゥべえから何を望むかと問われたらしい。そんな状況で
願い事は何かと問われれば、誰だって「生きたい」と願うしかないに決まっている。
 そんな状況で決断を迫ったキュゥべえの事を、なのはは卑怯だと思うし、その事実は余
計に魔法少女への決意を鈍らせる由縁となった。
 巴マミにも昨日言われた。「願いを叶えるチャンス」が残っているなのはらには、一刻
を争う状況であった自分とは違い、沢山の可能性があるのだ。もしも魔法少女になるのだ
としても、良く考えて、後悔をしないようにして欲しいと。

「願い事かぁ……突然訊かれても、すぐには思い付かないよね」
「あたしも全然だわー。命掛けてまで叶えたい願いかって聞かれるとねぇ」

 美樹さやかが、紙パックのジュース片手に言った。
 この時間は、学校でのお昼休みだった。昼食を食べる為になのはと共に屋上に上がった
さやかもまどかも、きっと今、なのはと同じ事を考えているのだろうと思う。
 さやかだってまどかだって、皆普通の家庭で普通に暮らして来た普通の女の子なのだ。
命を掛けて戦う代償、なんて言われても、まだ現実味が湧かないし、威勢の良い返事を返
せる訳もないのは当然の事だ。
 ぼんやりと考えていると、黙々とお弁当を食べていたまどかが、不意に口を開いた。

「……ねえ、ほむらちゃんは一体、何を願って魔法少女になったのかな」
「何だっていいじゃん。何にせよ、昨日あいつがやった事を考えれば、あいつが碌な人間
じゃないのはもう確定。魔法少女になった理由も、どうせ自分本位な目的の為なんでしょ」
「本当にそうなのかなぁ……」

 お弁当を食べる箸を進めながら、まどかはうーんと小さく唸って、視線を落とす。

「ほむらちゃんとは、前に何処かで会った気がするんだよね……」
「何、実は覚えてないだけで知り合いだったってパターン?」
「ううん、そこまではわかんないけど……」

 考えと言葉が上手く纏まらないのか、まどかは困り顔のまま何も言わなくなった。

「ま、何にせよ、マミさんやキュゥべえもそう言ってんだから、あいつは敵で確定でしょ」

 少なくとも、マミとキュゥべえはそう言っていた。
 暁美ほむらも魔法少女である事はまず間違いないが、その目的―キュゥべえを追い立て
た理由―は、十中八九この管轄での魔女退治における手柄を一人占めする事にあるのだと、
マミ達はそう語った。
 そうやって自分の為だけに戦うような奴の思い通りにはさせられないというさやかの気
持ちは解るし、それが本当なのだとしたら、なのはもほむらと友達になりたいなどとは言
わなかった。彼女が自分本位の目的の為に戦い、誰かを傷つけると言うのであれば、なの
ははそれを見過ごす事は出来ないし、何とかして食い止めたいとも思う。
 だけれど、なのははどうしてもほむらがその為だけに戦っているとは思えなかった。
 何故なら。

349 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:05:05.88 ID:aCCL6LFO
 
「でも、ほむらちゃん……凄く悲しい目をしてたんだよね」
「あー、なるほど、大体わかった。優しいなのはは悲しい瞳をした孤独な美少女転校生を
助けてあげたい……! なーんて殊勝な事考えちゃってるわけねー」
「ま、まあ……そこまで上から目線で助けてあげたい、なんて考えてる訳ではないけど、
やっぱりああいう目をした子、放っておけないっていうか……」
「あたしは逆。あいつの目、何か、嫌いなんだよね」
「……どうして?」
「いや、どうしてって言われてもなー」

 眉を顰め、右手で髪の毛を掻きながら唸った。
 嫌いな相手の事を何故嫌いか、と問われても具体的に答えるのは難しいのだろうか。数
十秒ほど悩んださやかは、ようやっと考えを纏めたのか、視線を遠くに向けながら言う。

「すっごく辛い事があった時、たまーにだけど、妙に乾いちゃう奴っているのよね」
「乾いちゃう奴……? ほむらちゃんがそうだって言いたいの?」
「そそ。怒ったり、じめじめ腐ったり……それこそ人によって千差万別だけど、あたしは、
ああやって乾き切って、何もかもを諦めたような眼をしてる奴は好きになれないんだよね」

 さやかが握る紙パックのジュースに力が込められて、突き刺したストローから、僅かに
オレンジ色の中身が噴き出した。おっとっと、なんて言いながら、すぐにいつもの調子に
戻ったさやかは、ポケットから取り出したハンカチで零れたジュースを拭きとり始めた。
 なのははそれ以上、何も言おうとは思わなかった。さやかの言う事は解るし、否定をす
る要素もなかった。何よりも、それを言うさやか自身も何処か思う所があったらしく、今
はそれについて触れるのは得策ではないと感じたからだ。
 返す言葉を失ったなのはは、空を見上げてぼんやりと呟いた。

「……なんで、私達なんだろうね」

 まどかとさやかが、ぴくりと反応して、視線だけをなのはへ向ける。

「どうしても叶えたい願いがある人って、世の中もっと沢山いる筈なのに」
「あー、それあたしも不公平だなあって思ってた。命に変えても叶えたい願いがある人、
探せば幾らでも居る筈なのにさ」
「うん……生きたいって願ってるのに生きれない人や、救われて然るべきなのに、救われ
ない人。私はそんな人を見る度に、この手で救いたいって思って来た……願いを叶える力
があるのなら、私はそんな人達にこそ相応しいって思うんだけど」
「って、それは流石に言い過ぎだって! 戦場カメラマンかお前は!」

 さやかの軽妙なツッコミに、なのはは「ちょっと言い過ぎたかな」なんて軽い冗談気味
に笑って見せた。
 そもそもなのはが魔道師として幾つもの任務をこなし、戦地へ行く度に人を救ったり、
救えなかったりを繰り返しているのは、彼女ら一般人は誰も知らない事だ。
 世界の壁を越えて、傷つく人や、救われなかった人々を数え切れない程見て来たなのは
は、それこそさやか達とは違ったスケールで物事を考えていた。この力は、自分には勿体
ないとすら思う。自分に願える事があるとすれば、そんな人達を一人でも多く救う事だが、
それはキュゥべえの魔法の力に頼らずとも、自分の力で成し遂げようと思っている。
 だけど、もしもキュゥべえの力を借りる事で、この手の魔法が更なる力を手に入れる事
で、より多くの命を救う事が出来るのであれば、それも悪くはないのかも知れない。

「ちょっといいかしら」

 抑揚のない声で、暁美ほむらが彼女ら三人の目の前に現れたのは、丁度そんな事を考え
た時だった。相変わらずの無表情でそこに突っ立っている暁美ほむらに、なのはとまどか
は驚いた顔をして、さやかはあからさまに嫌そうな顔をした。

「あんた……何の用だよ。昨日の続きか?」
「そのつもりはないわ。もう手遅れだし」

350 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:05:51.73 ID:aCCL6LFO
 
 少しだけ沈黙したほむらは、しかしすぐにまどかに向き直った。

「あなた」
「えっ」
「昨日私が言った事は覚えてる?」
「う、うん……」
「そう……なら忘れないで居て。奴の甘事に惑わされて、後悔する事がないようにね」

 奴、というのはキュゥべえの事なのだろう。顔色一つ変えずに淡々と告げるほむらの声
を聞いていると、なのははどうにも不安に駆られる。魔法少女になると言う事は、魔女と
戦う運命を架されるという事は、そんなにも厳しい事なのだろうか。
 暁美ほむらは、本当に邪魔者を増やしたくない為だけに、こんな忠告をするのだろうか。
 色々な疑問を考えて、我慢が出来なくなったなのはは、その場で立ち上がった。

「ねえ、ほむらちゃん」
「……何かしら」
「教えて欲しいの。魔法少女になったら、一体どうなるの?」
「全てを失うわ」
「それじゃわからないよ。具体的にどうなるのか、教えて欲しいんだけど」
「言った筈よ。それを話した所で、あなた達には理解出来ないと」
「……なら、これだけ教えてくれるかな」

 なのはの瞳は、真っ直ぐにほむらを捉えていた。相対するほむらも視線を逸らす事なく、
なのはの瞳を……というよりも、まるでその奥を見通しているかのように、ただ無感動に
視線を向けていた。
 なるほど確かに、さやかが「乾き切った目」と揶揄するのも解るくらい、ほむらの瞳に
は「表情」が無い。喜びもなければ悲しみもなく、さやかの言葉を借りるのであれば、そ
れは確かに「何もかもを諦めたような目」と言える。
 しかし、そんな瞳をしてはいても、ほむらは苦しんでいるのだと思う。かつての親友も、
今のほむらと近い、よく似た瞳をしていたから、何となくそう思えてしまうのだった。
 だからこそ、なのははどうしても気になっていた事を、尋ねようと思った。

「ほむらちゃんは、何―だれ―の為に戦っているの?」

 それはつまり、暁美ほむらが戦う、その理由だった。
 彼女は一体、何を願って魔法少女になり、何の為に命を賭して、また、何の為にその力
を使うのか。それがどうしても気になったのだ。回答次第では、なのはもほむらに対する
対応を変えねばならないかも知れないが、この質問だけは避けて通りたくなかった。
 問われたほむらは緩く歯噛みをして、視線を逸らした。答えられない質問であるのか、
ほむらの表情は涼しげであったが、しかし何処か気まずそうであった。この場の空気がど
んよりと重くなって、遂に我慢の限界を迎えたさやかが突き刺すような視線をほむらに向
けた。

「なに? こっちの質問には答えられないってワケ?」
「ごめん、さやかちゃんは少しだけ黙っててくれないかな」
「……ッ、でもなのは、こいつは!」
「いいから、ね?」

 別に意図してそうしようとした訳ではないが、なのはの声には、目には見えない重圧が
含まれていた。その青の瞳には、確固たる信念を持たぬ者が自分の前に立つ事を許さぬだ
けの、確かな威厳が満ち満ちていて。
 何も言わずに、というよりも何も言えず、黙って引き下がるさやかの表情を形容するな
ら、「苦虫を噛み潰したような表情」とでも例えるのが相応しいのだろう。
 さやかが身を引くと、無言になったこの場に緊迫した空気が流れて、三人を包む空気が、
まるでピリピリと肌を刺す微電流のようにすら感じられた。慌てふためいてほむらとなの
はの表情を矯めつ眇めつしているまどかなどは、まだ可愛らしい方だった。
 そんな緊迫した空気の中であるが、当のほむらは何も答えはしないが、しかし一歩たり
とて引き下がりはしなくて、それが余計にこの場の空気を重たくさせる。そこに何らかの
強い意思を感じ取ったなのはは、ならばとばかりに質問を変えた。

351 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:06:37.74 ID:aCCL6LFO
 彼女らは皆、自分の胸中に宿る信念を貫く為に戦った。フェイトはそれを、少なくとも
自分の中の『正義』だと信じなければやってられなかっただろうし、守護騎士などは、自
分が『悪』だと知りながらも、救いたい人への想いを力に変えて、戦い続けていた。
 人は想い詰めれば思い詰める程、誰かを護りたいと言う気持ちや、自分の正義を守りた
いという気持ちがどんどんエスカレートして、最後には自分自身では止められなくなって
しまうのだ。
 皆、そんな譲れない想いがあったからこそ、お互いの道がぶつかり合って、最終的には
互いに戦い合うしかなくなってしまった。だけれども、なのははそんな強い想いを持った
人間の事は、嫌いではない。
 そういった強い想いを持った人間はきっと、悪い人間ではないし、例え戦う事になった
としても、最後にはいつだって分かり合えて来た。もっと言えば、そう言った強い意志を
持った人間同士でなければ、真に分かり合う事など出来はしないのだ。
 ならば、暁美ほむらはどうなのだろう。そこに譲れない想いはあるのだろうか。そして、
それはなのはの往く道とぶつかり合う事になるのか否か、それを見極めたかった。
 しかし、答えに詰まったほむらから返って来たのは、僅かに論点からズレた回答で。

「……少なくとも、あなたの言うそれは『正義』とは言い難いんじゃないかしら。そもそ
も確信した『正義』なんてものは存在しないから」
「どういう、意味かな……?」
「人が自分の『正義』を確信する為には、自分以外の何物かを、自分以上の『悪』と錯覚
する他ないわ。そういう人間が一番厄介だって事くらい、あなたならわかるでしょう?」

 なるほど確かに、ほむらの言う通りだと思った。
 出来る事なら人間の綺麗な面ばかりを見ていたいと思うのは、なのはだけでなく、誰だ
ってそうだろうとは思う。けど、それでも人は醜いものだ。結局の所、人が掲げる『正義』
は人によって違うのだから、その気持ちだけが暴走してしまった者は最早『正しい』とは
言えない。
 そうやって戦争が起こって行くのだという世界の仕組みも、なのはは理解しているつも
りだったし、それは先程なのはがほむらに言った言葉とも、捉え方が違うだけでほぼ同義
であった事にも気付く。そういう意味では人はすべからく『悪』だと言えるし、ともすれ
ば、言葉遊びとも取れるほむらの言葉にも、返す言葉を失ってしまうのだった。
 同時に、上手い返しだと思う。なのはの問いを上手くはぐらかした上で、僅かに論点を
逸らして、今度はなのはに答え辛い質問を投げかけて来るあたり、彼女は只者ではない。
 沈黙を引き裂いて、次に饒舌になったのはほむらだった。

「……結局の所、『正義』が『正義』たり得る為には、常に自らの『正義』を疑い続けな
ければならないのよ。少なくとも私は自分を『正義』だなんて思っていないし、目的の為
に必要であれば、あなた達の敵になる可能性だってある……あなた達はそんな私を『悪』
と呼ぶのでしょうけど」
「それは……」
「でも安心して。あなた達が邪魔をしない限り、私はあなた達の味方よ」

 何処をどう安心すればいいのか、とても難しい案件である。けれども、少なくともほむ
らを突き動かすのは、何処ぞの国の強硬派テロリストの如き盲信ではないらしい。自分自
信を正義と信じて疑わず、他者を悪と決め付けて排除に掛かるつもりでないなら、やはり
その目的が知りたい所ではあるが、恐らく今はこれ以上訊いた所で答えはしないのだろう。
 今はまだパズルのピースが揃っていないのだと諦めて、なのはは再び微笑みを浮かべた。

「少なくとも、今は私達の敵ではないって事で、いいんだね」
「そういう事になるわね」
「そっか、なら安心したよ」
「ってなのは、それでいいの!?」
「うん、今はそれで十分だよ」

 慌てた様子でさやかが言った。今までずっと言いたい事はあったのだろうが、なのはに
免じて暫くは黙って居たのだろう。なのはとしても、とりあえずの話は終わったので、こ
れ以上黙って居て欲しいなどと言うつもりも無かった。
 先程までの緊迫した空気とは打って変わって、ぎゃあぎゃあと騒ぐさやかと、それを宥
めるなのはという構図に落ち着いた所で、それを静観していたほむらも踵を返した。

352 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:07:22.73 ID:aCCL6LFO
 長く艶やかな黒の髪は、ほむらのターンに合わせて、さらりと風に舞う。
 そんなほむらを黙って見送るなのは達に、彼女はぽつりと一言告げた。

「私の忠告が無駄にならない事を祈って居るわ」


* * *


 高町なのはを始めとする魔法少女見習いの三人はその日、巴マミから「魔女と魔法少女
の戦い」について、一部始終の説明を受けた。
 魔女は狙ったターゲットに「口づけ」をし、狙われた者は、どういう訳か自殺をしたり
交通事故を起こしたり、自己を滅ぼす行動に出るらしい。
 それは一種の呪いのようなもので、口づけをされた人間を魔女の呪縛から解放するには、
魔女を倒すしかない。それが魔法少女の役割で、巴マミはそうやって魔女から人々を救う
為に日夜戦っているらしい。
 魔女が造り出した空間を、奥へ奥へと進みながら、マミはなのは達にそう説明してくれ
た。マミは解り易く説明してくれたつもりなのだろうが、やはりなのはの知り得る常識で
は理解し難い内容で、すぐに全てを飲み込めというのは、些か難題であった。
 周囲に無数に沸いているのは、昨日マミが戦った異形とよく似た奴らで、時たま魔女を
討伐しようと進むなのは達へと襲い掛かってくるが、戦力としては大したことは無い。
 こいつらは使い魔で、使い魔も人を喰い続ければいずれは魔女になるそうなので、一応
は明確な敵という事になる。が、こいつらが魔女に成長するのだとしたら、次に生まれる
疑問は、魔女とは果たして如何なる生物であるのかだ。
 初めて魔女と聞いた時、なのはは大魔道師プレシア・テスタロッサのような人間を想像
したし、恐らくはさやかやまどかだって、俗に言う所の「悪い魔法使い」を想像したのだ
ろう。
 だが、こいつら使い魔はどう考えたって、そう言った「人類」の類ではない。人類では
ないと言うか、それ以前に人型すらしていない。もっと言えば、地球上に存在し得る生物
の常識からも外れている。異形としか表現出来ぬ存在を、我々と同じ種族だなどと思えよ
う筈もなかった。

「マミさん、一つ訊きたいんですけど、魔女っていうのは、生物じゃないんですか?」
「……そうね、高町さんには、こいつらが何に見える?」

 マスケット銃からの砲撃で、浮遊する使い魔を撃墜しながら、マミは問い返す。
 生物らしい内臓器官や体液などは皆無であるらしく、撃ち抜かれた使い魔は跡形も無く
消滅するが、他の使い魔はそれに大した反応も見せずに、機械的に襲い掛かって来るばか
りだった。

「少なくとも、とても生物だとは思えなくって……正直、気味が悪い、です」
「そう、それが普通の反応よね。……こいつらは実際、人の呪いや悪意の塊みたいなもの
なの……まあ、端的に言うと『お化け』みたいなものかしら。人にとっては明確な害でし
かないんだから、遠慮する必要なんかないのよ」

 マミの表情には、変化一つ感じられなかった。ただ淡々と、簡単なゲームを進めて行く
ような感覚で、次々と使い魔を葬って行く。マミの射撃の包囲網を抜けて突貫して来た敵
は、マミのリボンに絡め捕られたり、マミが直接銃で殴り飛ばしたりして、その進行を確
実に阻害する。なのは達に及ぶ実害は、完全なるゼロだった。
 際限なく沸いて、意思も無く襲い掛かり、言葉も無く潰されてゆく使い魔を見ていると、
いかになのはが心優しい人間と言えども、それに同情する気などは起きなかった。
 人を刺したり、感染症をもたらしたりする虫や小動物は、心は持たないが、それでも生
きる為に行動し、その結果人に害を及ぼすものだ。だけれどもそれは、別に人間への意図
的な害意や悪意がある訳ではないし、人にとっては害でも、他の生き物にとっては益であ
る場合だってある。
 だが、魔女たちはそういう動物的な例には当て嵌まらない。ここまでの話を聞く限り、
奴らは明確な悪意の塊となって、人の命を食い散らかすだけだと言う。
 悪意だけしかない生物ほど、恐ろしいものはない。悪意は人を傷つける事しか出来ない
し、そこに優しさなどといったあたたかい感情が何一つないのであれば、奴らと人間の共
存などは絶対に不可能な話だ。

353 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:08:07.56 ID:aCCL6LFO
 
「いやー、やっぱマミさんはかっこいいなー! 使い魔どもが一撃だぜ!」
「もう、見世物じゃないのよ? 危ない事してるって意識は、忘れないで欲しいわ」
「イエース! 分かってますって!」

 言いながら遅い来る使い魔を叩き落して、そいつが消滅するかどうかなどは確認すらせ
ずに、次の使い魔に弾丸を撃ち込んで消滅させてゆくマミの表情は、真剣そのものだった。
 まどかとさやかは瞳を輝かせてそれを見るが、命を賭けて戦う事を少しでも知っている
なのはには、マミの言葉が軽い言葉だとはとても思えなくて、つい黙り込んでしまう。
 戦う事の意味。命を賭してでも、誰かを守る事の意味。身を危険に晒して、化け物に立
ち向かってゆく事の意味。そういったものを、真の意味で理解しなければ、魔法少女にな
るのは危険なのだ。
 興味本位程度ならやまておけと、きっとマミは、そう伝えたいのだろうと思う。
 そんなマミの事を、素直な気持ちで優しくて立派な先輩なのだとなのはは思った。

 幾つもの扉を抜けて、最後の扉をも超えた先に待っていたのは、大広間だった。広さで
表すなら、一般的な体育館くらいで、壁や天井は円形に弧を描いた、ドーム状。
 空に地にと、使い魔は溢れ返る程に駆け回り飛び回り、その数だけでもうんざりする程
だった。しかし、一番に目を引くのは使い魔どもなどではなく、広間の中央の巨大な椅子
に鎮座している、何か。
 何に見えるか、と問われても形容するのは非常に難しかった。頭はヘドロみたいにドロ
ドロしていて、そこから幾つもの薔薇の花が咲き誇って居る。何の動物に似ているとも思
えない身体からは、巨大で不気味な蝶の羽根が生えていた。そいつに脚という概念がある
のかは解らないが、一応脚と思しき部位も、身体の下部に幾つか見受けられた。

「見て。あれが魔女よ」
「うわ……グロい」
「あんなのと、戦うんですか……」

 さやかとまどかが、口々にぼやく。なのははと言うと、困惑はするが、適切な反応が思
い浮かばなくて、ただ冷や汗を流すくらいしか出来なかった。
 なのはと彼女らの違いは、戦闘経験や、非日常経験の有無についてだ。まどかにもさや
かにも、こんな化け物と戦った経験も無ければ、目撃した経験すらもないのだろう。それ
故に彼女らは、恐らく本当の意味では目の前の化け物の本質を解って居ないのだと思う。
 だが、なのはそうではなかった。背筋がぞくりと戦慄して、気味の悪いプレッシャーが、
なのはを押し潰そうと迫る。まるでリンカーコアに直接干渉された時の様な嫌な感覚が、
この身体全体を駆け巡って、なのはに言い知れぬ危機感を知らせるのだ。
 別に怖いと言う訳ではない。なのはが戦えば、如何に魔女と言えどもそれ程苦労もせず
に倒す事は出来るだろう。そう、問題は何もないのだ。
 それなのに、なのはは言い知れぬ不快感を感じて、目の前の化け物をただ眺めるしか出
来なかった。

「何、これ……魔女って、何なの……?」

 ただ、気持ちが悪いのだ。
 恐怖でも何でもない、ただの不快感。それが、なのはの肌を粟立たせて、この心を押し
潰そうと、言うなれば「悪意」を放っているように見えた。近い感覚を上げるなら、凄く
嫌いな人間が居たとして、そんな相手に、凄く嫌な事をされた時、また、言われた時に感
じる感覚。それを極限まで高めたような、至って人間臭い感覚。
 元より感受性が強いからか、それとも度重なる戦闘で、相手の殺気を計り知るだけの能
力を自然と養ってしまったからか、本当の所は分からない。だけれど、これが悪意の塊や、
呪いの塊と表現されるのであれば、その言葉はまさしく正しいものであるのだと、なのは
は思わざるを得なかった。

「大丈夫、安心して。私は負けないわ」

 なのは達三人の反応を脅えているのだと解釈したのだろう。マミは柔らかな笑みを向け
ると、一瞬ののちには、なのは達三人の周囲を金色の光の壁が覆い尽くしていた。それが
なのはの知る防御魔法―プロテクション―に近いものだと判断した時には、マミは既に広
場へと飛び出していった後だった。

354 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:08:58.48 ID:aCCL6LFO
 戦場へと躍り出たマミが、使い魔の一匹を踏み潰すと同時に、翻ったスカートから何丁
ものマスケット銃が出て来て、マミはそれを両手で構える。
 マミの存在に気付いた魔女は、宙へと舞い上がり、つい今し方まで自分が座って居た巨
大な椅子をマミへと投げ飛ばした。構わずマミは横へ跳び、二丁のマスケットでそれを的
確に撃ち抜く。ほんの一瞬の出来事で、投げ込まれた椅子は爆音を響かせて爆発した。
 どうやら反射神経と判断能力は相当に高いらしい。マミの動きには淀み一つなくて、次
に着地する時には、自分の周囲に数えるのも億劫になる程のマスケット銃が出現していて、
なのはは思わず感嘆に息を吐く。
 宙を泳ぐ魔女の速度よりも、マミの速度の方が圧倒的に上回っているのだ。
 一発放てば、その銃は投げ捨てて、次の銃を手に取り発射する。一発ごとに銃を取り変
えるなんて面倒臭い戦い方をしている割には、マミの速度は、なのはが知る限り、通常の
銃型デバイスから魔力弾を連続で発射するのと何ら変わらぬ速度であった。
 しかし、それでも安心は出来ない。マミが放った弾丸はそのほとんどが外れ、魔女を通
り越して壁や床に穴を穿つだけだった。

「ちょっ、ちょっと……当たって無いじゃないですかぁ、マミさん!」

 慌ててさやかが叫ぶ。
 さやかの不安は尤もだ。如何にマミの攻撃と、その弾丸の速度が敵を上回っていると言
えども、それが命中しなければ意味などは皆無なのだ。
 一体彼女は何を考えているのか、或いは何も考えず、ただ外しているだけなのか。なの
はの中で不安が芽生え始めて、いざとなれば自分がレイジングハートで魔女と戦う事も視
野に入れ始めた、その時だった。

「これが私の戦い方よ」

 マミがくすりと微笑んだ。外れ弾に穿たれた無数の穴から、金色の帯が飛び出して、魔
女の身体に纏わりついてゆく。あちらこちらから伸びた魔力の帯は、幾重にもなって魔女
を絡め取り、上下左右、あらゆる方向への移動と、一切の行動を封じ込めた。
 全て、計算に入って居た攻撃だったのだ。それを理解した時、マミの技量は当初なのは
が思っていたよりもずっと上なのだという事実にも気付く。今回は自分の助けは必要ない
なと判断したなのはは、自ずと握り締めていた胸元の宝玉から、手を離した。
 なのはが安堵にほっと息を吐いた頃には、既にマミは巨大な大砲を構えていた。デリン
ジャーと呼ばれる拳銃を、そのまま自分の体よりも大きくしたような形状の大砲だった。

「ティロ……ッ、フィナーレッ!!!」

 収束された金色の魔力は、大砲の撃鉄が降りると同時に、一気に放たれた。
 マミの身体も反動で後方へと飛ぶが、それだけに威力は凄まじいものだった。放たれた
金の魔力は、エネルギーの奔流となって魔女の身体を飲み込み、金色の魔力は灼熱の業火
となって、魔女の身体を焼き払った。


* * *


 窓から差し込む夕焼けに照らされて、ワックスで磨かれたばかりの床は茜色に煌めいて
いた。次第に沈んで行く夕日は今日も美しくて、全てが終わった今となっては、先程まで
この場所で魔女との戦闘が繰り広げられていたなどとは、まるで嘘のようであった。
 広大過ぎる程の規模で展開されていた魔女空間がぐにゃりと歪曲した後で、それが元の
世界へと変わってゆく―戻ってゆく―風景は、やはりどう考えても物理法則では考えられ
ない。まだそれに慣れていないなのはは、今回も呆気に取られた様に眼前のマミを見詰め
るしか出来なかった。
 そんななのは達に、マミは黒い球体に一本の針が刺さったような形の何かを差し出した。

「これがグリーフシード。魔女の卵よ」
「えぇっ!?」
「た、卵ぉ!?」

 これには流石の三人も、短い絶叫を上げずには居られなかった。

355 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:09:47.66 ID:aCCL6LFO
 卵という事は、ここから魔女が生まれるという事か。だとすれば、それは一刻も早く破
壊してしまった方がいいのではないか。
 訝るなのはを安心させようと、マミは柔和な微笑みを向け、グリーフシード自体は危険
ではないのだと教えてくれた。
 どうやらこの黒い球体は、魔女がたまに持っているもので、魔女の撃破時、稀に落とす
事があるらしい。今回は、マミが倒した魔女がこのグリーフシードを持っていたそうで、
その報酬代わりにこれを獲得したそうだ。

「でも、グリーフシードなんか持ってて、何になるんですか?」
「いい質問ね。これを見て?」

 マミは自分のソウルジェムを差し出した。黄色のソウルジェムは、昨日見た通り美しい
輝きを放って居て、どんな宝石よりも煌めいて見える。しかし、綺麗な輝きを放つ一方で、
覗き込んで良く見てみれば、少しだけ昨日とは違って見えた気がした。

「あれ……昨日よりも、ちょっとだけ濁ってる……?」
「そう。魔法少女は、魔力を消耗すればする程、グリーフシードが黒く濁って行くの。そ
こで、このグリーフシードを使うと……」

 僅かに濁ったソウルジェムとグリーフシードを、こつんと当てる。そうすれば、ソウル
ジェムに溜まった濁りが、見る間にグリーフシードに吸い込まれてゆき、一瞬ののちには、
ソウルジェムは昨日なのはが見たままの透明度と輝きを取り戻していた。

「ご覧の通りよ。濁りが吸収されて、私の魔力は元通り」
「なるほど、それが魔女退治の見返りって事なんですね」
「そういうこと」

 出来の良い生徒を褒める様にくすりと笑って、マミは機嫌良さそうに視線を上に向けた。

「あと一回くらいは使えそうだし、このグリーフシード、あなたにも分けてあげるわ――」

 誰に対して言っているのだろう。なのは達三人が不思議そうにマミを見ると、マミは三
人の謎に応えるかのように、少し遠くの物陰へと視線を移した。こつり、と靴音をならし
て、物陰から出て来たのは、黒装束に黒髪の魔法少女だった。
 マミはちらと視線を向けると、挑発的とも取れる口調で、その名を呼んだ。

「――暁美ほむらさん?」

 またしても、なのは達三人の前に現れたのは、暁美ほむらだった。ほむらは特に面白く
もなさそうな表情でマミを見ると、次にその後方に控えたなのはら三人へと視線を向ける。
 さやかは相変わらず好戦的な態度で構え、まどかはどうしていいのかも解らずにあたふ
たする。なのははと言うと、特に変わった反応を示す事もなく、ただほむらの怪しげな言
動から、何が目的なのかを考えて佇むくらいしか出来なかった。
 何となく気まずい空気が流れるが、マミはそれを意にも介さず続ける。

「それとも、人と分け合うのは癪かしら? 丸ごと自分のものにしたかった?」
「……いらないわ。それはあなたの獲物よ。自分だけのものにすればいい」

 交わされた言葉は、たったそれだけだった。
 もうそれ以上の興味はない、話す気すらもないとでも言わんばかりの涼しげな対応で、
ほむらは踵を返す。そのまま何をするでもなく、ほむらは立ち去って行った。
 そんなほむらの様子がやはり気に入らなかったようで、さやかはいつも通り、敵意剥き
出しにほむらの後ろ姿を睨み付ける。

「相変わらず感じ悪い奴……何しに来たんだよ」
「ほむらちゃんも、もっと仲良く出来ればいいのに……」

 さやかに続いたまどかの言葉は、尤もだと思う。

356 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/08(水) 01:29:43.77 ID:aCCL6LFO
 本当は、なのはだって彼女ともっと仲良くしたいと思ってはいるのに、自分達と彼女の
間を塞ぐ見えない壁は、あまりにも分厚過ぎる。目的も何も見えないのでは、戦いようも
ないのだ。
 今回ばかりは、かつての親友達の時のように、分かりやすい―全力全開で想いをぶつけ
合う事が肝要だった―案件ではないのだとすれば、なのはも今後の身の振り方は良く考え
ねばならない。

「お互いに、そう思えればいいんだけどね……」

 ほむらの後ろ姿を眺めながら、マミはぽつりとそう言った。
 やがてほむらの姿が見えなくなって、ここに居るのは、本当に四人だけになった。魔女
と戦った直後だから、という理由もあるのだろうが、何処か落ち着かない気持ちで、なの
ははほむらが消えて行った廊下を見詰め続けていた。
 天井から送り込まれる緩やかな風が、なのは達の髪の毛を僅かに揺らす。彼女らの耳朶
に触れるのは、無機質で無感動な空調の風音だけだった。





今回はここまでです。
書いてみて思いましたが、爽快感やカタルシス溢れる戦闘描写というのはやはり難しいものですね。
戦闘描写になると筆が重たくなって、想像以上に時間が掛かり、まだまだ不慣れなのだと実感させられました。
さて、長々と4話までほぼ原作通りの展開で来ましたが、俗に言う説明回は今回までです。
まどか側となのは側の設定の擦り合わせも大方済んだと思いますので、次回以降は二次展開になっていく予定です。
次回以降は多分、なのはも戦闘に絡んでくるのではないかと思いますので、こんな作品でも楽しみにしてくれる方がいれば幸いです。
それでは、長々とお目汚し失礼致しました。

357 : 忍法帖【Lv=7,xxxP】 :2011/06/08(水) 02:04:55.95 ID:KDN7wTAm
>>356
投下乙!
次回からなのはも参戦ですか!楽しみにしてます!!

358 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/08(水) 03:58:49.13 ID:1Nwv2RdL
>>356
待ってました&GJでした!
管理局の体制からすればQBの目的はやり方を除き否定出来そうにないのがアレですね。
いずれ真実を知った時なのははきちんと道を選べるんでしょうか?

まあまずは目先のマミ死亡フラグをへし折るのが先か。
それ以前になのはの非殺傷設定付魔法が魔女に通じるのかが激しく疑問な訳だが。

359 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/08(水) 08:13:53.33 ID:3G3Yhkrl
職人の皆様、投下乙です!
>リリカルTRIGUN氏
禁書とのクロスですか……上条さんが鬱展開をどうぶち殺してくれるのか
期待してます!
>マスカレード氏
五代さんは果たしてミックを救う事が出来るのか、とても気になりますね!
あと、氷川さん達アギトの警察もどう動くのかも気になりますね。
完結まで頑張ってください!
>◆bv/kHkVDA2氏
戦闘描写は難しいでしょうが、経験を積む内に書けると思いますよ。
ちなみに氏の描写は、結構丁寧で迫力があると感じましたね。
そして、次回以降から氏のオリジナルになると聞いて
一体どうなるのか、とても楽しみですね!
なのはとまどか、二つの魔法少女がどう関わっていくのか……

360 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/08(水) 10:45:26.39 ID:5e/R3MYM
>>マスカレード氏
>>◆bv/kHkVDA2氏
どちらもGJです!

現在の容量464KB

361 : 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/08(水) 16:18:55.50 ID:Kh2W+i4N
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

職人の皆ッッ!!
GJ!!!!!!

362 :Gulftown 忍法帖【Lv=7,xxxP】 ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 20:45:52.62 ID:DNK2GAyv
どーもです
一応今回の投下分を書き上げたのですが
確認したところ約13キロバイトあるようです
タイミング的に微妙ですがどうしましょうかのー
今の忍法Lvだとスレ立てたしかできないはず(汗)

363 : 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/06/08(水) 21:22:51.93 ID:Kh2W+i4N
フムン、

避難所スレで緊急避難もできますよ?

364 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/08(水) 21:29:14.35 ID:fs6arBBp
13kbなら問題ないと思う

365 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 21:37:41.18 ID:DNK2GAyv
どうもです
投下中に475キロバイトを超えてしまうのでどうかと思ってましたが
んでは22時ころから行きますー
今回どうしても車関係の専門用語が増えてしまってますが
グレアムさんが語ってるということでひとつ(;つ )つ

366 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:01:53.59 ID:DNK2GAyv
◆ SERIES 4. 幻の最高速ランナー



 クライド・ハラオウンがジャパニーズ・スポーツカーに出会ったのは、1970年代のカリフォルニアだった。
 当時、日産(ダットサン)が発売した初代フェアレディZ、アメリカ名「240Z」が、
爆発的なヒットを飛ばし、世界中の車が集まる米国市場で急速にその地位を拡大してきていた。
 すでに高性能スポーツカーとしてレースシーンを席巻していたポルシェ911ターボに迫る性能を持ち、さらに価格はその半分。
 現代にいたるまでの、「安価かつ高性能」という、日本製工業製品のアイデンティティを決定づけた車だった。

 その当時から、日米問わず、走り屋たちにとってのZはポルシェのライバル、ポルシェターボ撃墜を最終目標とされたマシンだった。

 フェアレディZは、製造コストを引き下げるため、エンジンや足回りなどの主要コンポーネントを他の車種から流用した。
 搭載されるL型エンジンは、もともとは高級セダン用のもので、パワー志向の性格ではなかった。
 だが、高級車ゆえの静粛性重視の設計のため、エンジンブロックは相当分厚くつくられていた。
 部品としてのエンジンブロックは鉄の塊であるため、厚みを増すことは重量増に直結し、
運動性能を重視するスポーツカーではマイナス要因になりうる。
 だが、重量が大きいということはそれだけエンジンブロックが頑丈ということだ。
 つまり、チューニングによってパワーを上げても、エンジンが出力に耐えるということである。

 エンジンパワーは、「出せる」ものではない。
 出したパワーにエンジン自身が「耐えられる」ことが肝要なのだ。

 エンジンが壊れるというのは、エンジンが自らの発揮するパワーに耐えられなかったことを意味する。

 その点で、日産L型エンジンは比類なきパワーを秘めていた。

 それは、時代が下り、Zがモデルチェンジし、エンジンがVG型に切り替わっていっても、なお不変の魂だった。

 クライドが当時暮らしていた、アメリカ合衆国はユタ州、ソルトレイクシティ。
 初代S30Zのデビューから数えること22年、S30型から3代数えたZ32型フェアレディZが、
世界中のスポーツカーの頂点に立つことをめざし、アメリカに乗り込んできた。

 戦う舞台は、ユタ州グレートソルト湖・ボンネビルスピードウェイ。
 塩湖が干上がった広大な平原に設置された最高速ステージに、その日本製スポーツカーは現れた。

 JUNオートメカニックの手によってチューンされたZ32フェアレディZは、エンジン出力1000馬力オーバー、
速度にして実に424.74km/hという前人未到の記録を打ち立てた。

 若き日のクライドに、その印象は強く焼き付いたものだった。

367 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:06:46.01 ID:DNK2GAyv
 チューニングカーの世界。

 単にストック状態でスピードを出すだけならば、アメリカのシェルビー・SSC、ドイツの
ブガッティ・ヴェイロン、イギリスのマクラーレン・F1などがある。

 だが、これらの超高価格車たちをもってしても、Zの記録を打ち破ることはできなかった。

 伝説の最高速マシン。

 そんな、街場の走り屋たちの心をとらえたのがZ、そして日本製チューンドだった。
 クライドもまた、そのひとりだった。

 ハラオウン家は優秀な軍人を多数輩出しているアメリカ海軍の名門である。
 横須賀基地に駐留する第7艦隊所属として日本への赴任が決まった時、クライドは内心小躍りしたものだった。

 現代でこそ、アメリカでもスポコンブームをはじめとした日本製チューンドカーが広まっているが、
クライドが現役の頃はまだまだ少数派だった。カミナリなどのアメリカ独自ブランドもあるにはあったが、
車両はディーラーで購入できても日本の最新チューニングパーツを入手するには煩雑な輸入手続きもあり、
なかなかおいそれと手の出せるものではなかった。

 本場のチューニングカーに触れたい。

 その思いを胸に秘め、クライドは日本に、そして首都高にやってきた。

 速ければ、それが日本人だろうとアメリカ人だろうと受け入れる下地はあった。
 多忙を極める軍務の合間を縫って、走りに出たりショップを訪ねたり、クライドはすぐに首都高の走り屋たちに馴染んだ。

 そして、クライドと同じように日本での走りを嗜んでいたもう一人の軍人に、出会うのはある意味必然ともいえた。

「提督も走りをされてらしたんですか……?」

「ふふ、お付きの運転手を雇って、メルセデスの後席に座っているだけだと思っていたかね?」

 クロノは恐る恐る尋ねた。
 グレアムほどの人間ともなれば、立場上、危ういことが表に出るのは絶対に避けなければならない。

 それでも、とりつかれてしまう魅力がある。

 スピードの魔力とはそれほど強いものなのだ、と、グレアムは静かに語る。

368 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:12:59.23 ID:DNK2GAyv
 グレアムもクライドも、軍務という仕事の性質上走る日自体がそれほど多くないため、
湾岸でも見かける者はまれだった。
 2台でつるんで走る、おそろいの銀色に全塗装されたダブルエックス2.8とコルベットZR-1は、
当時の最高速ランナーたちにとってはひとつの伝説だった。

 幻の最高速ランナー。

 そうあだ名されたクライドは、80年代末の時点でも既に旧型モデルとなっていたダブルエックスを、
当時最新の1JZ-GTEエンジンに載せ換えて500馬力以上にチューンし、
大台(300km/h)を出す走り屋として知られていた。
 彼ならば、あの悪魔のZやブラックバードにも勝てるだろう。
 そういわれていた。

 だが、その勝負はついに実現することはなかった。

 クロノは黙ってグレアムの話に聞き入っていた。
 アリアもロッテも固唾をのんで二人を見守り、二人のティーカップはいつしかすっかりぬるくなっていた。



 確かに、つまらないこだわり、思い出に浸っているだけ、そう思われても致し方のないことかもしれない。
 だが、グレアムはクロノが日本に来ると知った時、どうしても放っておけないと思った。

 クロノが本当はどちらへ進もうとしているのか。
 ただ単に過去を振り返り、父の面影だけを探そうとしているのか、それとも、父の想いの真実を知り、
その上で自分を前に進めようとしているのか。
 車は楽しいだけのものではない。
 それを実現するための生活基盤を含めて、人生の過ごし方の大きなウェイトを占めるものだ。

 給料のいい仕事をして、その稼ぎを全部車につぎ込むのもいいだろう。だが本当にそれでいいのか。
 仕事をしている時間は、ただ金を稼ぐためだけに、無為に費やされる時間なのか。

 車だけを、いや、車だけにのめりこむからこそ、それ以外の生活をおろそかにしてはいけない。
 グレアムはまず、クロノにそれを教えるつもりだった。

369 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:19:52.24 ID:DNK2GAyv
 クロノは思い切って口に出した。

「提督、実はオレ、一度ブラックバードに会っているんです」

 グレアムはかすかに目を上げた。
 老巧な表情の陰に見え隠れする闘志はまだ衰えていないのだ。

「ロッテと一緒に乗っていた時です。あの911ターボは本当に速い車でした──
──まだまだ、速くなっていく気がします」

「ブラックバード、という二つ名は、実は私とクライドが言い始めたものなのだよ」

「そうなんですか?」

「SR-71という超音速偵察機は知っているだろう。我が空軍が開発した、世界最速のジェット戦闘機──
──その愛称になぞらえて、あの黒いポルシェターボを“ブラックバード”と呼んだのだ。
ドイツ本国でのRUFイエローバード(ポルシェ911ターボをベースにしたチューンドカー)にもちなんでいる。
この愛称は向こうも気に入ったようでね、それ以降、自分でもブラックバードと名乗るようになったのだ」

 ブラックバード。それはグレアムにとっても、またクライドにとっても、
日本で走り始めてからの永遠のライバルのような存在だった。
 日本のストリートレースにおいてどこか敬遠されがちな欧州車を乗りながら、
有無を言わさぬ速さを備えた実力派の走り屋。
 金持ちのお嬢だの、所詮車がいいだけだの、陰口は少なくなかったが、その速さは誰もが認めていた。

 1989年、R32型GT-Rのデビューを皮切りに、トヨタ・A80型スープラ、マツダ・FD型RX-7、ホンダ・NSXなど、
日本の自動車メーカーは続々とハイパフォーマンス志向の車種を投入していった。
 R32GT-Rの登場によって、ようやく日本車はポルシェと対等に戦えるようになったのだ。
 堰を切ったようにチューニングもエスカレートしていく中で、安かろう悪かろうと言われた旧時代の日本車を
300km/hオーバーの速度域へもってゆくクライドの走りは、ある意味皮肉なものでもあった。

370 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:25:35.01 ID:DNK2GAyv
「GT-Rより前の車は古い……父さんの乗っていた車もそうなんですか?」

「うむ。スープラでいえばA70系以前か。クライドのスープラはA60系だ。これらの世代の車たちは、
一般向けの大衆グレードがあってその上にスポーツグレードが置かれる……つまり、もともとただの
乗用車だったものをチューンして上位車種のように仕立てていたんだ」

「つまり基本設計として古い──と」

「GT-Rが日本のツーリングカーレースを軒並み制覇したのは知っているだろう。
レーシングカー、たとえばラリー車などでもそうなのだが、まずレースに参戦するための車があり、
そしてそれは市販車両をベースにしているというレギュレーションがあるために、
外観や構造を似せた車を作って市販する──
そういう作り方を、その頃まで日本のメーカーはやったことがなかったんだ。
レースに出るにも、市販車両をチューンしたものを使っていた」

「われわれアメリカやヨーロッパの車は違うんですか」

「少なくともモータースポーツというジャンルとしては日本より古くからあったわけだからね──
たとえば、バックヤードビルダーという業種がきちんと成り立っているということもある。
市販のスポーツ系車種を、きちんとレーシングカーに仕立て上げる、それがビジネスとして成り立っている。
またそういうコトが社会的にも認められている。日本のカスタムカー事情はこれとは全く環境が違う──」

 だが、それゆえにクライドも引き込まれた部分があった。
 アメリカは広大な大地を自分一人だけで、自分の車で移動する必要があるという背景から、
オーナーが自身の車を自ら整備するという習慣が強い。
 日本のチューニング業界──違法改造車、などという呼ばれ方をされていた頃から、
性格としてはそういったアメリカン車に近いものがあった。
 車検にも通らない、街を走れば後ろ指をさされる違法改造など誰にも頼めない。
 だから、自分で改造技術を身につけるしかない。
 そうやって自分で車を整備する技術を身につけた者が、
金をもらって他の同じような境遇の者のチューンを請け負う。
 そんな個人ガレージから大きなショップになった例が日本にもいくつもあった。

 もっとも、日本の自動車メーカーたちが目指していたのはあくまでもヨーロッパ的な、
悪く言えば昔ながらの舶来賛美的な、“礼儀のいい”ものだった。

 だからこそ、それに反発したチューニング業界はアンダーグラウンドに潜っていったのかもしれない。

371 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:35:41.88 ID:DNK2GAyv
 丸裸にされたパイプフレームシャーシに、巨大な水平対向12気筒エンジンが鎮座している。
 左右の各バンクにそれぞれ独立したインジェクションシステムを取り付け、構造としては
2.7リッターの直列6気筒エンジンを横倒しに2基積んでいるようなものだ。
 それによって駆動されるリヤ2輪はさらにインチアップし、タイヤサイズは実に355/30ZR18となる。

「ECU(エンジン制御コンピュータ)のプログラムも自分で書くんですね」

 背後からかけられた声に振り向かず、スカリエッティは笑いながら答えた。

「まあー、このマレリは本国でさんざんイジったからね。それであれかね、君が最初に持ち込んできた
NOSはそのまま付けるとゆうことでいいのかね」

「お願いします」

「くくく、ドライブシャフトがちぎれ飛んでも知らないぞ。この排気量にNOSを打ち込む──
NOSにより増量される酸素量は約50パーセント増し、単純計算でも8リッター級のエンジンに相当する。
パワーは1000馬力を軽く超えてしまう、2輪駆動のMRレイアウトで制御できる自信は正直ないよ」

「制御します、私が」

「いーねぇ、やはり私の車を乗る人間はそれくらいの意気込みでなければ」

 テスタの隣に置かれている黒いポルシェターボを、フェイトはちらりと横目に見た。

 知識としてならともかく、ポルシェ自体にはさほど興味をひかれなかったが、
それでも、現代となってはもはや型遅れである2輪駆動の964を、
桁外れのスピードで走らせていたあのドライバーには、意識を向けざるを得なかった。

 悪魔のZに挑むということは、そのとき必ず、近くにこのブラックバードもいる。

 穢れを知らないような純白を纏ったZとは対照的に、すべてを飲み込んでいくような闇の色をしたポルシェ。

 この車にもまた、魔力がある。

372 :リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:43:05.47 ID:DNK2GAyv
 エンジンクレーンのチェーン音が、スクライア商会のガレージに響く。

 L28改ツインターボエンジンは、1か月以上かけてようやく、Zのボディに再び収められた。
 すべての補機類を新たに接続し直し、燃料、冷却水、オイル、電力などがすべて
問題なく供給されていることを確認したうえで、はじめてエンジンをかける。
 バッテリーも設置位置を変更して軽量タイプに交換した。
 メーターパネルには新たに電圧計と電流計を取り付け、エンジンの点火状態を監視できるようにしている。

 L28のような古いキャブレター式エンジンでは、点火制御の正確さだけではなく力強さもより要求される。
 とにかく強い火花を飛ばせなければガソリンを燃やせない。
 アナログな機械制御であっても、拾えるデータはすべて拾いたい。
 それはなのはとユーノの考えでもあった。

 通常、エンジンキーのポジションはOFF-ACC-ON-STARTの4つがある。
 OFFは完全に動力が切られている。ACCはアクセサリーの略、室内灯やオーディオなどに電力が供給される。
 ONは通常走行の状態、すべての機器が作動する。STARTではそれに加えてセルモーターが回る。
 ゆっくりとキーを差し込み、いつもそうしていたようにONのポジションで数秒間待つ。燃料ポンプが作動してから
キャブレターにガソリンが溜められるまで、高度な電子制御がある現代の普通乗用車ならまったく必要のない操作だ。
 だけど、それはひとつひとつ、この車と向き合う儀式をこなしていくようなものだ。

「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に──不屈の心はこの胸に!」

 キーを始動位置へ回す。全電力が一気にエンジンに流れ込み、セルモーターが回り、燃料が噴射され始める。

 風──、空気の流れがターボチャージャーを経てインマニからエンジンへ、
 星──、6個のシリンダーに埋め込まれた12個の点火プラグがきらめく星のような火花を散らし、
 光──、メーターパネルに闇夜に浮かぶ光が灯る。

 絶対に挫けることのない、この鼓動。L28改、ツインターボ。

「レイジングハート、セットアップ。油圧、油温、水温、OK──アイドル、OK。──OK、Z!」

 Zのコクピットで声に出しながら、なのはは再び、この車が自分の手足のようになじんでいくのを感じ取っていた。
 長かった。元に戻るまでの1か月、本当に長かった。
 けしてあきらめることなく、前を目指し続けた。そして、Zはそれにこたえてくれた。

 機械は嘘をつかない。機械に見放されるのは、いつだってそれを操作する人間──乗り手の問題だ。

 再び、このZで走り出す。なのはは走り出す。純粋な白の魔力を纏って、悪魔のZが再び走り出す。

373 :Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/06/08(水) 22:48:27.61 ID:DNK2GAyv
今日はここまでです
クライドさんが現役のころはちょうど90年代初頭
280馬力規制ができていろんなスポーツカーがデビューしたてで活躍していたあたりですねー

そういえば劇場版湾岸ミッドナイトTHE MOVIEの主人公
朝倉アキオ役の中村優一は仮面ライダーゼロノス役
島達也役の加藤和樹は仮面ライダードレイク役と
二人ともライダーつながりなんですねー

なんともw

ではー

374 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 01:57:51.42 ID:o0J3vjs9
GJ!

375 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 12:42:10.52 ID:9qIsd9XK
投下乙です!
そろそろ次スレだろうけど、どうなるだろう

376 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 19:09:31.37 ID:9yvVLVRW
既に代理投下スレの方に次スレ投下のストックも貯まってるから、もうスレ作れる人に任せて次スレ移行でいいんでないかな?

377 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 22:00:55.03 ID:9qIsd9XK
自分は立てようと思ったけど、作れませんでした……

378 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 22:57:42.22 ID:2Wj8bA0v
じゃあ行ってみようかな

379 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/09(木) 23:01:07.89 ID:2Wj8bA0v
駄目だった・・・
Lv見たらわかるんだった

380 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 02:53:00.03 ID:0NzptWgs
試しに立ててくる

381 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 02:56:52.67 ID:0NzptWgs
ダメでした…申し訳ない

382 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 03:42:40.26 ID:ZX8dFVZp
◆bv/kHkVDA2さん、
>>350>>351 の間 抜けてない?

383 : ◆bv/kHkVDA2 :2011/06/10(金) 11:52:43.36 ID:ApsQ4jMX
>>382
すみません、投下時にこちらのミスで数行抜けていたようです。
一応まとめに掲載した方ではその部分も補完されていますので、お手数ですがそちらを確認して頂けると幸いです。
該当箇所をスレに貼ろうかとも考えましたが、その数行の為に残り少ない容量を埋めるのもどうかと思いましたので……。

384 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 18:32:18.53 ID:Xj3c/7Cx
最近投下ラッシュが続いてるのに……タイミングが悪いなぁ
俺も昨日スレを立てようとしたけど、無理だったし

385 : 忍法帖【Lv=10,xxxPT】 :2011/06/10(金) 19:44:56.64 ID:F3a9LaTK
レベル10の人いないかなぁ?

386 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 19:47:50.44 ID:F3a9LaTK
じゃあ立ててみます。

387 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 19:55:01.33 ID:F3a9LaTK
>>ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1307702997/l50

立てれました。長くないぽいので代理投下します。

388 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 20:57:28.17 ID:Xj3c/7Cx
スレ立て乙!

389 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/10(金) 21:01:42.59 ID:Pu2fjIY4
乙!

390 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/11(土) 19:58:12.64 ID:xQZUSMUM
こっちは埋めるか?

391 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/11(土) 20:32:53.12 ID:VLlktp/F
本当は埋めなくてもいいんだけどね。放っておいても誰か埋めるだろうけど


392 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/12(日) 00:02:00.38 ID:TC3ZQqeW
よおし!この際だ、まったり1レス妄想クロスSS祭りと行こう!!
まずは俺からイクゾーーー!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

・マブラヴクロス 【リリカルBETA大戦】

「ひどい……」
 ブリッジに居る誰かがポツリとそう言った。
 次元航行艦の艦橋の大型モニターに映るのは……『地獄』だった……。
「ハラオウン提督!直に次元航行艦隊による、可能なあらゆる支援を行う事を提案します!!」
「ダメだ……。非加盟管理外世界への『紛争介入』は原則として認められない」
 クロノは冷酷に遮断する。が、彼は官僚であり、また官僚の抜け穴を知悉していた。
 僅か数分の沈黙。しかしそれは通信員からの声で掻き消された。
「管理局艦隊総司令部から入電!『当該世界を世界レベルの危機に晒されているものと、艦隊総司令部は判断した。
以後は特殊事態対応法に基き適切な行動を行う事を許可する』とのこと!」
「よし!艦隊全兵装使用自由!ただし、惑星環境に致命的なダメージは与えず、かつ現地市民が巻き込まれないよう、最大の注意を払うこととする。以上!
第一目標、敵対存在の『巣』の殲滅!!第二目標、基礎土壌改善システムの設計データを地球の電子機器に送信!!」
「了解!!」

1983年。東ドイツを蹂躙していたBETAの動きが止まった。
こうして第666中隊は、東ドイツは、欧州は、人類は救われたのであった!!

393 : 忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/06/12(日) 00:52:16.39 ID:bJD20fvx
ならば二番槍はいただきだ!

・バオー来訪者【Lyrical visiter BAOH】

ミッドチルダの山中を黒い列車が走っていた……
列車には行き先も認識ナンバーもついていなかった……
「『聖王』が逃げたぞ!捕まえろ!」
その列車はある組織のものだった!その組織は、ベルカ大戦時、管理局の前身となった組織の秘密部隊に由来する!
彼らが行っていた殺人兵器の研究は、管理局の質量兵器規制によって禁止された!
だが管理外世界にわたり、密かに活動していた彼らは、現地の軍需産業と手を結び、特殊兵器開発のための研究機関を作った!
それがこの組織!その名を即ち『ドレス』という!
「さあ、お部屋に帰ってサンドイッチでも食べましょうネ」
今、この列車には2人の人物が囚われている。1人はこの少女、『聖王』
そしてもう1人は!

ウォオオオオム!バルバルッ

ある管理外世界から引き上げられた『水の中の少年』……即ち、『バオー』!
今この時から、バオー=橋沢育郎と『聖王』、ドレス、管理局の三つ巴の戦いが始まる!

394 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/12(日) 02:15:44.78 ID:E1OsS19G
じゃあ便乗させてもらう!
今、小ネタで話を練ってる物だけど。

・史上最強の弟子 ケンイチ 【史上最強の弟子 ヴィヴィオ】

これはまだヴィヴィオがアインハルトと出会ってすぐの話。
専用デバイスを貰い、アインハルトとも出会って、自分のストライクアーツにも何か進化が必要だと考えたヴィヴィオ。
ちょうど長期休暇で海鳴に単身遊びに行ったヴィヴィオは、士郎に相談を持ちかける。

「じゃあ、ここに行くといい。本気で武術を志す者なら必ず学ぶものがあるはずだ。ヴィヴィオにも、きっといい刺激になるだろう」
「おじいちゃん、これは何て読むの?」
「ああ、これはね……」

場所を聞いたヴィヴィオは「一人で行けるもん」と胸を張り、電車に乗る。
しかしヴィヴィオは、指定の駅では降りたものの迷子になり、地図を見ながら当てもなくさ迷っていると、不良にぶつかってしまった。
厳つい目つきで不良たちは道を教えようとしたのだが、たじろぐヴィヴィオを見て勘違いしたのか、乱入してきた女子高生が不良を伸してしまう。
激昂した不良達を難なく制した二人組は、優雅に宙を舞う金髪の美少女と、優しげではあるが何の変哲もなさそうな普通の男子高校生だった。
名を風林寺美羽と白浜兼一。ヴィヴィオはその時、一目で美羽に憧れを覚えたのだった。
ヴィヴィオが相談すると、二人は快諾し、案内までしてくれると言う。そこでヴィヴィオを待ち受けていた人々とは――

『ケンカ百段』、逆鬼至緒
『哲学する柔術家』、岬越寺秋雨
『あらゆる中国拳法の達人』、馬剣星
『裏ムエタイ界の死神』、アパチャイ・ホパチャイ
『剣と兵器の申し子』、香坂しぐれ

士郎に紹介された場所。そこは武術を極めた達人が集う道場、『梁山泊』であった。

そして始まる、史上最強の弟子こと白浜兼一と、ヴィヴィオの鮮烈(ヴィヴィッド)な物語。
ヴィヴィオが梁山泊の面々と交流を深めていくと同時に、己の拳の意味に迷う少女アインハルトは、
殺人拳こそが武術の真髄と掲げる組織『闇』に誘われていく……。


ごめん、ちょっと長くなった。美羽さんの中の人追悼。


395 : 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/06/16(木) 09:39:30.43 ID:PkhfP9R4
こんなんどーかな!

・LIVE A LIVE【LIVE A LIVE Lyrical after】

[シナリオ選択]

『原始編After』

機動6課解散後、自然保護隊に復帰したキャロ。
エリオと共に野を駆け、空を翔け、貴重な動物を守る日々。
そんな中、キャロのもとに一報が舞い込む。

それは、キャロの生まれた地、アルザスの民「ル・ルシエ」の危機。

アルザスの守護竜であるヴォルテールも召喚に応じず、
事態を重く見たキャロとエリオは急遽、第6管理世界へと向かう。
そこで彼女達が見たのは、己の物でない憎しみに囚われた、悲しき人喰い恐竜の姿だった……

『SF編After』

電脳世界。
あらゆるヒト、あるゆる場所を結びつけるもう一つの世界。
それは時として、世界すらも越えて、何かを結びつけあう。

無限書庫のシステムの定期検査。
その最終チェックで、ユーノは正体不明のプログラムが、紛れ込んでいるのを発見する。
あちこちが破損した、『OD-10』という名前のそのプログラムに興味をもったユーノは、
『彼』を私物のデバイスに隔離して修復してみようと試みる。
会話能力を復活させた『彼』はやがて、ユーノにかつての故郷について語る。
かくして、プログラムとヒトの奇妙な対話の日々が始まる……

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