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【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 12【一般】

1 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 19:38:51.89 ID:5AZDSQzu
ここはローゼンメイデンの一般向けSS(小説)を投下するスレです。
SSを投下してくれる職人は神様です。文句があってもぐっとこらえ、笑顔でスルーしましょう。
18禁や虐待の要素のあるSSの投下は厳禁です。それらを投下したい場合は、エロパロ板なりの相応のスレに行きましょう。
次スレは>>950を踏んだ人が、またはスレ容量が500KBに近くなったら立てましょう。

2 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 19:40:26.65 ID:5AZDSQzu
前スレ
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 11【一般】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1287763738/
過去スレ
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 10【一般】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1255756428/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 9【一般】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1222956916/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 8【一般】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1198461642/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 7【一般】
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1191748088/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 6【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1184419565/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 5【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1178641673/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 4【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1171710619/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 3【一般】
http://anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1156249254/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 2【一般】
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1146976611/
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】
http://anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1143018114/


保管庫
ttp://rozen.s151.xrea.com/
ttp://www.geocities.jp/rozenmaiden_hokanko/
ttp://rinrin.saiin.net/~library/cgi-bin/1106116340/

避難所(規制時投下先)
ローゼンメイデンのSSスレ 避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14657/

3 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 19:41:07.83 ID:5AZDSQzu
■スーパーリンク
ttp://www.tbs.co.jp/rozen-maiden/
↑ TBS公式
ttp://p-pit.ktplan.ne.jp/
↑ もものたね (原作PEACH-PITのHP)
ttp://www.gentosha-comics.net/birz/index.html
↑ コミックバーズ
ttp://kanaria.ddo.jp/rozen_upload2/
↑ アップローダー (画像関連)
ttp://i.cool.ne.jp/rozen-aa/
↑ ローゼンメイデンAA保管庫
ttp://futaba-info.sakura.ne.jp/cgi/dic/chara/ziten.cgi?action=aiu_i
↑ 虹裏キャラ辞典 (実装・赤提灯など)
ttp://rozen.sync2ch.cc/
↑ 2ch RozenMaiden過去ログ倉庫

4 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 19:41:49.21 ID:5AZDSQzu
以上テンプレでした。


さよなライオン!

5 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 20:17:52.41 ID:5AZDSQzu
即死回避が必要らしいので
駄文埋めを図ります

6 :マスター探し:2011/05/15(日) 20:18:39.37 ID:5AZDSQzu
 昨日の雨が上がって空は底抜けの青さ。
 まあ、視界の端には雲も見えてはいるけれども。気にしない気にしない。
 物件も見ずに決めた郊外の古い一軒家は、つい1週間前まで学生が住んでいたせいか荒れ放題と言うわけでもなく、パッと見にはなかなかのものに見えた。
 もっとも一戸建てに庭と駐車場、物置までついて敷金礼金なしの月額3.5万円という、街中ではまずお目にかかれない格安物件というところが素晴らさの主要因であることは否定しない。
 有体に言ってしまえば田舎のボロ家だ。
 しかしそんなことは百も承知。
 にやにやしっ放しで縁側から引越し荷物一式を屋内に入れ、借りてきた1トントラックを置いてチャリで戻ってくると、俺はまだ電灯一つ据え付けてない家の真ん中で一人祝杯を上げた。
 ビバマイハウス。素晴らしい。

 いい加減に酔っ払ってから、缶ビール片手に家の中を見て回る。
 予想通りのオンボロで、窓なんかはこのご時世というのにサッシでないところさえあったものの、学生が一人で住んでいたにしてはどの部屋も荒れていなかった。
 よほど几帳面なやつだったのか、出て行く前に掃除でもしていったのか。

 異変に気付いたのは、玄関に回ったときだった。
 外から見たときは気が付かなかったが、玄関に何か四角いものが置かれていた。
 ボロ家にそぐわないと言えばそぐわない、古さという点では似つかわしいとも言えそうなそれは、革製の大きなトランクだった。
 無論俺の荷物ではない。上にうっすらと埃が積もっているから、間違いなく暫く前からここに置いてあったものだ。

──前の住人の持ち物か?

 しかし学生が持つにしては違和感がある。アンティーク趣味のおっさんおばはんあたりが好きそうな凝ったデザインだ。
 それに、忘れ物だとしたらこんなでかくて目立つものを1週間もほおって置くとは思えない。いくらなんでも気付くだろう。

──この家の備品か何かでも詰まってるのか。

 その方がまだ可能性としてはありそうだ。
 温くなってしまったビールをちびりと遣りながら、取り敢えず開けてみようと俺は決めた。
 忘れ物なら鍵がかかってるだろう。この家の品なら素直に開くに違いない。
 UHFアンテナか延長コードでも入っててくれれば御の字なんだが、と買い忘れたものが都合よく入っていてくれることを期待しながら鞄に手を掛ける。

7 :マスター探し:2011/05/15(日) 20:19:20.01 ID:5AZDSQzu
「……なんだこりゃ」

 あっさりと開いたそこに入っていたのは、予想の斜め上を行く品物だった。

「子供……?」

 暫く俺はその姿勢のまま固まっていた。
 丁寧に内張りされたトランクの中には、栗色のショートカットに青い服、黒い帽子を被った子供がひざを抱えるようにして……

 なんだこれは。殺人死体遺棄事件てやつか。いや腐臭はない。少なくとも俺の鼻には感じられない。血の匂いもない。じゃあなんだ。できたての病死体。まさか。
 いや死んでるとは限らないだろう。その辺のガキがかくれんぼのついでに空いたトランクに入ってみせてるんじゃないのか。
 しかし、凝固したような視線をじっと向けていても、子供は一向に起き出す気配はなく、それどころか微動だにしなかった。
 ビール缶に付いた露で濡らした指をおそるおそる口元にかざしてみたが、風の動きは感じられない。つまりは……

──いや待て。冷静になれ俺。脈だ。脈があれば生きてる。

 後から考えればお笑いなのだが、とにかくそのときの俺は「脈を取れば生死がわかる」というところに考えが固着してしまっていた。
 アル中のおっさんもかくやというほど震える手を慎重に伸ばし、子供の手首を掴んで……

「……なんだ、脅かしやがって……」

 俺はその場にへたりこんだ。汗が安堵感と一緒にどっと全身の毛穴から噴き出したような気がする。
 トランクの中にいたのは、子供じゃなかった。手首の感触は柔らかかったが人間のそれとは決定的に違っていた。人形の関節だった。

8 :マスター探し:2011/05/15(日) 20:20:02.30 ID:5AZDSQzu
 トランクを薄暗い玄関から縁側に運び出し、ビールをもう一缶空けてから改めて中身を観察してみる。
 中は高級そうな絹の内張りで、そこに立たせると80センチはありそうなでっかい人形が納まっている。どっちもできたての新品のように綺麗だった。
 念のため肩と肘をそっと触ってみたが、やはり両方とも人間のものではなかった。
 球体関節というやつだろう、大きさはだいぶ違うが昔懐かしのコンバットジョーやらミクロマンと同じタイプ。人間とおおむね同じポーズが取れるってアレだ。
 するってーとこいつがアンティークドールってやつか。話に聞いたことはあるし、愛好家がいるというのも知っているが、実物を見るのは初めてだった。
 人形とはいえレジンやらポリプロピレンあたりの素材で組み立てられた大量生産品とは別格だ。
 着ている物は人間用の衣装と同じかそれ以上に凝っている。髪の毛の質感も安いナイロン糸とは訳が違うようだ。
 それに何より、肌の質感や造形が半端じゃない。義肢の上張りに使うようなシリコン系かゴム系の素材を使ってるんだろうが、上っ面だけ塗りつけたんじゃなく、積層は分厚い。
 手や顔なんかは骨の上に素材そのものを盛ってあるようだ。つついてみた触感も含めてまるきり人間そのものだった。
 もっとも、よく見れば顔立ちはいささか美少年過ぎる。もう少し不細工にできていたなら、逆に人間と見分けがつかないだろう。

──こんなモン作るのに幾ら掛かるんだか。

 そんなことを考えながら鞄を閉じようとして、ふと人形の脇に置かれたものに目が行った。少し洒落た形をしているがゼンマイ巻きのようだった。
 他にオルゴールでも入ってるのかと鞄の中をよく見直してみると、案に相違してゼンマイ穴は人形の背中のほうに開いていた。
 これはすごい。ぜんまい巻いたらカタカタ動き出す、なんてお茶汲み人形も真っ青のギミックまでついてるとは、さすがこの手のアンティーク風当世物。

 しかし、待てよ。どう動かすつもりなんだこれ?
 二本足で歩くのか、時計でも内蔵されてるのか、なんにしても不自然だ。
 この体型で二足歩行なんて人間でもなければバランス取れそうにないし、頭かなんかがぱっくり割れて鳩がコンニチハって方も、斜め上すぎて幾らなんでもなさそうな気がする。
 だいたい、愛好家連中は人形買うと「○○ちゃんをお迎えしました〜〜♪」とか言うんだよな、確か。まさにこういうトランクなんかに入れて旅行に連れて行ったり。
 そんなもんに安物の家電みたいに余分な機能を付けるもんかね?

「わからんなぁ」

 謎だ。動かしてみれば分かるとは思うが。
 だが、さすがに鞄から取り出して勝手に動かすのはまずすぎる。なにやら異様に高価そうな代物だし、無闇にぺとぺと触るのでも止めておいたほうが良さそうだ。
 もっとも既に数回触ってしまっているわけだが、そこは勘弁して貰うしかない。手首などに指紋が付くような触り方をしたのは、こっちとしても事情があってのことだ。
 問題はこれが誰のものかということだが……
 鍵が掛っていなかったとはいえ、最初に期待してたような物でなかった以上、これは前の住人の忘れ物とみて間違いなかろう。
 まあ取り敢えずは大家に連絡しよう、と俺は鞄を閉じた。

9 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/15(日) 20:21:47.73 ID:5AZDSQzu
意外に容量がなかった。残念。

という訳で今のところ続きはありません。悪しからず。

10 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/16(月) 02:54:42.75 ID:f+BB7K6m
スレ立て乙。
この板の即死回避条件ってどうなってんの?

11 :乳酸菌取ってるぅ? (代理):2011/05/16(月) 08:00:02.02 ID:2kVlaePz
3レス転載します。

>>10
よくある10レスで回避ってやつかも? と前スレの冒頭見て思ったんですが。
でも他のスレでは見なかったような気もする。

12 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) 1/3:2011/05/16(月) 08:02:04.08 ID:2kVlaePz
シカ婆「ああ、任せといておくれ。

ところで、あんた折角里へ来たんだし、正月をここで過ごしていったらどう
だい?」

番人「ああ、いや、今夜一晩は里に泊めてもらうが、明日の朝には帰るよ。
やっぱり、西側の番人としてはあまり長くあの場所をあけておきたくねえし
な。

それに、最近、犬を飼い始めたんだ。
明日までは大丈夫なように食い物を置いてきたけど、ずっとほっとく訳には
いかなくてな。」

シカ婆「そうかい。まあ、それじゃしょうがないね。あんたは西側の警戒の
要だしね。」

番人「まあな。西側は任せといてくれ。
ただ、他の方角までは距離がありすぎて手が届かねえから、そっちは他の奴
らで警戒を頼むぜ。」

シカ婆「ああ、分かってるよ。今の侍ごとの親方はしっかりしてるし、結界
もある。心配いらんよ。

ところで、今夜はこの家に泊まるよね?」

番人「ああ、いや、この後兄貴の所へ行くつもりだから、そのままそっちへ
泊めてもらうつもりだ。

何か、実験始めちまって手が離せねえって言うけど、手え動かしながら話聞
くぐらいは出来るだろうからな。」

シカ婆「あの子は実験だの分析にのめり込んじまうとアレだから、聞くかど
うか怪しいよ(笑)

ま、これだけ大事な事だから大丈夫とは思うけどね。」

番人「ははは、兄貴は昔からああいうのにのめり込むとまわり見えなくなる
からな(笑)ま、無理にでも聞いて貰うさ。」

13 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) 2/3:2011/05/16(月) 08:04:05.83 ID:2kVlaePz
シカ婆「ま、長老としての自覚もあるだろうからきっと大丈夫さ。

じゃあ、柿屋敷に泊まるとして、夕飯はうちで食べていくだろう?
あの家、干し柿しかないよ(笑)」

番人「ははは、それもそうだな(笑)じゃあ、もうしばらく居て、夕飯はこ
こで食わせて貰うよ。」


その後、夕飯時までは他愛のない話をする。
番人が最近飼い始めた変わった仔犬の話はかなり面白く、皆で笑い転げる。

夕飯がすむと、番人は柿屋敷へ向かう支度をする。
シカ婆さんは明日の朝里を発つ前に顔を出して行くように言い、送り出す。


銀「番人さん、全然変わってなかったね。」

シカ婆「そうだね。元気でよかったよ。」

カ「ねえ、シカさん、番人さんの話・・・」

シカ婆「ああ。」

カ「場合によってはかなり深刻よね?」

シカ婆「ああ、場合によってはそうだね。最悪の場合、この場所は捨てない
といかんかもしれない。」

銀「えっ、そんな・・・」

カ「ここまで作り上げた里を今さら捨てられるの?」

シカ婆「そりゃもう、それは大変な事になる。出来るだけしたくないね。

でも、あたしらの財産は醸しの技と醸しの種だ。それさえあれば場所は変わ
っても何とかなるさ。

それにね、弟が話したのはあくまでも最悪の場合の話だよ。
そこまで悪い方へ物事が運ぶ事は滅多にないさ。

あたしら長老は里を守る立場だからね、そういう最悪の場合の事も考えない
といけない。
弟もそれが分かってるからああいう話もしたけど、まずそこまでの事は起き
やしないよ。」

14 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) 2/3:2011/05/16(月) 08:06:06.31 ID:2kVlaePz
カ「本当?」

シカ婆「本当だとも。今までも、心配な事はたくさんあったのさ。
それこそ、このあたりが大軍同士のいくさの場所になりそうだった事さえあ
るんだよ。
でも、実際はそんな事にはならなかった。

今回はそれに比べれば大した事じゃないさ。
結界があるからまず見つかりやしないし、見つかったら見つかったで、検地
のお役人に袖の下を握らせれば何とでもなるさ。」

カ「ああ、そうね、賄賂って方法もあるね。」

シカ婆「他にも色々方法はあるのさ。だから、あんたらは心配しないで暮ら
しなさい。」

シカ婆さんはいつもの人を安心させる笑顔を浮かべる。

カワセミと水銀燈も安心して笑顔になる。

シカ婆「そうそう、弟が帰るとき、お餠と正月料理を少し持たせてやりたい
んだ。
ちょっと料理と包むの手伝っておくれ。」

カ・銀「はーい。」


三人は少し遅くまで料理をし、いくつかの正月料理を完成させ、大きな竹の
弁当箱に詰める。
良い具合に乾いた餠をいくつか選び、弁当箱と一緒に風呂敷に包む。

15 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) :2011/05/16(月) 23:16:44.03 ID:X9Ki1RvX
3レス投下します。

現在不良超長期掲載物を複数抱えてる身なので>>6-8の続きはご勘弁願いたく。
あくまで即死回避用の埋蔵物ということで。

16 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) 1/3:2011/05/16(月) 23:18:44.64 ID:X9Ki1RvX
>>1
スレ立て乙っすー。

>>6-8
投下乙です。
男のモノローグ形式もいいですね。
読みやすくていい感じです。
続き・新作が浮かんだら是非投下を。

17 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) 2/3:2011/05/16(月) 23:21:09.50 ID:X9Ki1RvX
翌朝。
番人は昼に近い時間になって現れた。

シカ婆「どうだい、あの子とゆっくり話せたかい?」

番人「ああ、兄貴は分析の手を動かしながらだけど、話はたっぷり出来たぜ。
気になる事の話だけじゃなくて、昔の思い出話までしちまったぜ。ついつい、
夜更かししちまって寝坊したよ。」

シカ婆「あはは、まあ、たくさん話せたなら良かったね。それで何か言って
たかい?」

番人「まあ、特に。考えておく、とは言ってたけどな。」

シカ婆「ま、あの子ならそんなとこだろうね(笑)

そうそう、これ。正月料理とお餅だよ。持っていきんさい。」

番人「おお、すまねえな、姉貴。ありがたく頂くよ。」

シカ婆「どういたしまして。
また、もうちょっとまめに里に顔出しんさいな。半日とかからない所に住ん
でるんだから。」

番人「ああ、気が向いたらな。
じゃあまたな、姉貴、お嬢ちゃんたち。世話になったな。」

銀「ええ、また。」

カ「またお待ちしています。」

シカ婆「ああ、またね。近いうちに来んさいよ。」

番人は軽く手を上げると歩き去って行った。


カ「不思議な人ね。」

銀「ええ、でもいい人ね。」

シカ婆「わが弟ながら、何となくうさんくさいけどね(笑)」

カワセミと水銀燈も、口には出さないが内心そう思っていたので笑い転げる。

18 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) 3/3:2011/05/16(月) 23:23:10.09 ID:X9Ki1RvX
今年も残すはあと二日。
一度、カワセミが警備の当番で抜けた以外はずっと三人で正月の支度を続け
る。

例によって共同作業場に晴れ着用の支度部屋が整えられ、いつも借りている
大鏡を持って行って据える。



そして大晦日の夜。
大掃除もお節の支度も済み、いつも通り酒樽も運び込んで正月の支度は万全
だ。
年越し蕎麦を食べ、いつもより夜更かししてお喋りする。

シカ婆「今年はいい年だったね。」

銀「ええ、本当に素晴らしい年だったわ。」

カ「本当だね・・・今年は最高だったね。」

シカ婆「来年もいい年にしようね。」

カ・銀「ええ!」


風に乗って微かに除夜の鐘が聞こえてくる。

鐘の音に聞き入りながら、三人はぐっすりと眠る。

19 :乳酸菌取ってるぅ? (代理) :2011/05/16(月) 23:25:10.70 ID:X9Ki1RvX
>>15の一行目の恥ずかしい誤字。

× 投下
○ 転載


いくらなんでも他人様の文を自分のもの扱いしちゃいけません。反省orz

20 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:07:25.70 ID:DLCYF+zO
規制、終わったかな?

21 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:13:01.52 ID:DLCYF+zO
規制、解除されました。

転載、どうもありがとうございました。

22 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:15:19.56 ID:DLCYF+zO

一晩明けて正月。

この里で祝う二度目の正月だ。
好天は続いており、元旦からからりと晴れた青空が広がる。

三人は去年と同じく、新年の挨拶をし、雑煮とお節とお屠蘇の朝食をゆった
りと楽しむ。
料理は去年より一回り豪華になっていた。

昼からは初詣だ。
晴れ着に着替え、広場へと向かう。

一回り立派になった祭壇に順番にお参りし、北の社と南の祠にもお参りする。
去年はいろいろな事が上手く行った年だったので感謝の祈りも長く、結構時
間が掛かった。

とはいえ、元旦の合同初詣はもともと比較的簡素な行事だ。
長くなったといっても午後の早いうちに終わり、あとは広場での雑談になる。

寒い中ではあるが、甘酒と温かい汁物が出され、それなりに話がはずむ。
長老たち、親方たち、職人たち、女衆たち、源三くん、仁くん、クローザー
さん・・・皆の姿があり、入れ替わり立ちかわり新年の挨拶と雑談、そして
笑顔の交換が繰り返される。

親しい人間の増えた今となっては、いつまで経っても話は尽きないのだが、
夕方になるとさすがに寒くなり、みんな家路についた。


夜も御馳走三昧だ。
去年はあまりなかった海産物が今年は豊富になっている。
特に海老が華やかだ。

三人はご馳走を堪能する。
カワセミは例によって、あー太る太ると言いながら一番たくさん食べていた。


23 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:19:45.35 ID:DLCYF+zO
開けて二日。

朝食が終わるとシカ婆さんは重箱に料理を詰め、餠をいくつか持って柿屋敷
に行ってきた。
何でも、柿屋敷の先生は年末の鉱物調べ以来、分析にのめりこんでしまって
正月の支度もせず、ろくに食べてすらいないらしい。

シカ婆「全く、あの子も困ったもんだよ、いい年して・・・まあ、集中力が
あるのは悪い事じゃないけどねえ。」

カ「食べるのも忘れて、って凄いよねえ。」

銀(食いしん坊のカワセミなら有り得ないわね・・・)

カ「・・・ねえ、水銀燈、あなた今なんか失礼な事考えなかった?(笑)」

銀「え?何の事かしら?(笑)」

シカ婆「ま、食べ物は置いて来たから大丈夫さ。しかし、今年は正月料理を
多めに作っておいて良かったねえ。」

カ「ほんとね。品数が増えたから三が日で食べられるのか心配なぐらいだっ
たけど、丁度よくなりそう。」

シカ婆・銀(いや、カワセミの食欲なら余る事は・・・)

カ「ねえ、二人とも、今何か・・・(笑)」

シカ婆・銀「(笑)」

24 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 12:29:17.47 ID:DLCYF+zO

午後は書き初め、という儀式をする。
儀式と言っても大げさな物ではなく、ほんのちょっと形式ばった書の練習だ。

去年は紙があまりなかったので子供のいる家以外ではやらなかったのだが、
今年はほとんどの家でやっているらしい。

水銀燈も読書やシカ婆さんの手ほどきのおかげ、そして酪水の開発の時にい
ろいろ書いた経験から、書く事もほぼ不自由なくできるようになっていた。

ゆっくりと墨をすり、普通の筆では大きすぎるので小筆を使い、様々なおめ
でたい言葉を半紙に書いていく。

かなりの達筆のシカ婆さんには及ばないものの、なかなか上手に書が書けた。

カワセミもそこそこ書が上手いのだが、途中から脱線して水墨画を書き始め
る。
結構上手い。
そういえば以前、絵地図を巧みに描いていた事もあった。

最終的に、この家を背景にシカ婆さん、カワセミ、水銀燈が並んで立ってい
る絵をなかなか見事に描きあげる。

シカ婆さんはにこにこしながら、水銀燈の書とカワセミの画を簡単な掛け軸
風に仕立て、部屋の壁に飾る。

気づくともう夜だ。

書と画の後始末をし・・・結構、墨がとんでいた・・・食事をする。
こういう時には準備の楽なお節料理は便利だ。

食事が終わっても、今日の書と画の出来具合の話、書の歴史の話、カワセミ
がかなり画才があるという話、有名な絵師の話・・・と話題は尽きなかった。

三人は夜半までお喋りをしてから眠る。


25 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 23:29:43.91 ID:DLCYF+zO

そして三日。

この里では三が日が終わると概ね正月が終わるため、楽しい正月も今日が最
後の日だ。

天気は良いし、からりと乾燥した空気で清清しい日ではあるが、非常に寒い。
しかも風が強かった。
三人は外に出ないで家の中で過ごした。

だらだらしながら食べ続け、時折かるたや双六で遊んだりする。
正月の定番とも言える過ごし方だ。

外は風が強いようで風音が聞こえるし、どこかが微かにがたがたと鳴ってい
る。
それでも三人で過ごしていれば気になる程ではなく、家の中は温かく穏やか
だった。

穏やかで楽しい時間は早く過ぎてしまう。
気が付くともう、夕食の時間だ。

昼間あれだけ食べ続けたのにまた餠をたくさん食べ、お節料理を食べつくす。
すっかり満腹になり、食事の後片付けをする。

囲炉裏を囲み、お茶と茶菓子、そしてシカ婆さんはぐい飲みを手にする。
ぼんやりとしてあたたかい雰囲気の中、取り留めのない事を話す。

穏やかで気だるく、幸せな時間だ。



カワセミ「ん?」

シカ婆「おや?」

二人はちょっと不審げな表情になる。

銀「? どうしたの?」

26 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/17(火) 23:59:02.61 ID:DLCYF+zO

突然、夜だというのに窓の外が明るくなる。
陽光の色とは違う、もっと橙色の明るさだ。

そして、大勢の叫び声が聞こえてきた。

カワセミは飛び上がり、縁側に走り寄ると素早く雨戸を開ける。
シカ婆さんも水銀燈を抱きあげてカワセミに続く。

カ・銀・シカ婆「!!」
三人は驚愕に言葉を失う。

里のあちこちに火の手が上がっていた。
まだ里全体を覆う程ではないものの、驚くほど急に火が燃え広がっている。
あたりは昼間のように明るい。

銀「か、火事?」

カ「あれを!」
カワセミは南西のあたりの一角を指差す。

そこには唖然とするような光景が広がっていた。

大勢の人間がいた。
里の者ではない。
皆、胴丸を付けるか鎧を着込み、槍や刀、弓矢、斧、木槌などを手にしてい
る。
半数ほどの人間は松明(たいまつ)も手にしている。

これは明らかに軍勢であり、兵だ。

弓矢を手にした者たちは火のついた矢をつがえ、次々と放っている。

何人かが細長い布を振り回している。
長い布を二つ折りにし、そこに何か丸っこいものを挟んで振り回し、勢いが
ついたところで上手くその布の一方を放すと、かなり遠くまで丸っこい何か
が飛ぶ。
小さな壷か何かのようだ。

壷は近場にある里の建物を狙って放たれているらしい。
建物にあたると壷は割れ、中からどろりとした液体が流れ出す。
そこへ火矢が当たると急激に炎が上がる。

乾燥続きの気候のせいでどこもかしこも乾ききっている。
折からの風にあおられ、火はあっという間に燃え広がる。


27 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/18(水) 05:07:27.18 ID:H4vB7Me8
解除おめっす。

ついに来たねぇ公儀隠密(違

ジ(ュ)ン君の頑張りに期待。

28 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 14:03:20.21 ID:Vtxk+2ge
「者ども!」

急に大声が響き渡る。

呆然と・・・戦闘経験のあるカワセミでさえ呆然としていた・・・燃える里
に見入っていた三人ははっとわれに返る。

声のするほうを見ると、一人だけ、山の中だというのに馬に乗った男が居る。
立派な鎧兜を身につけ、抜き身の刀を掲げている。
よく見ると男は腕に包帯を巻いており、そこに血が滲んでいる。
周りの徒歩の男たちにもちらほらと怪我をしている者が居る。

騎馬の男「者ども!ここの化け物どもが隣国の卑怯者どもの手先であること
は明白だ!
やれ!殺せ!焼き払え!」

別の男「隣国の手先を殺せ!化け物どもを焼き払え!」


銀(化け物?隣国の手先?・・・一体何のこと?それに・・・殺せ、ってそんな)


兵たち「殺せ!焼き払え!」

騎馬の男「かかれ!」

全員「応!」

男たちは雄たけびをあげながら武器を構え、手近にあった数軒の家へと殺到
していく。
目は吊りあがって血走り、興奮に半ば我を忘れた状態だ。

29 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 14:17:43.31 ID:Vtxk+2ge
軍勢のそばの家から里の者らしい男が両手をあげながら飛び出してくる。

里人「待ってくれ!俺たちはなにも・・・がっ!!」

問答無用で槍が突き出され、男は串刺しになって痙攣する。
刺した兵は容赦なく男を蹴りはなし、槍を引き抜くと次の獲物をさがす。

話し合いなど出来る状態ではないようだ。

騎馬の男「本陣以外は散開して攻撃だ!手元に固まるな!奥へ散開しろ!
大きな建物からどんどん焼き払え!」

一同「おお!」

たいまつと武器を持った兵たちが四方八方へ走り出す。


どういった経過でこうなったのかは分からないが、里は完全に不意打ちを受
けてしまった。
軍勢・・・敵は容赦なく襲い掛かって来ている。


シカ婆「こ、こんな・・・何で・・・そんなはずは・・・結界は・・・」

シカ婆さんは両手を胸の前で合わせ、指を複雑に絡み合わせ、何か唱えよう
とした。

が、その動作を急に止め、視線が一点に釘付けになる。

カワセミと水銀燈はシカ婆さんの視線を追う。

カ「あっ!」

騎馬の男の少し後ろに道服姿の男が数人立っている。
先頭の男は豪華な道服を身につけ、星を象った複雑な紋章をあちこちにつけ
ている。
指にまじない紐のような物をまきつけ、両手で印を組んで里の中心の方を見
つめている。

カ「陰陽師・・・」

背後の闇の中からゆっくりと大きな鳥が飛んできて道服の男の一人の肩にと
まる。
・・・いや、よく見ると鳥ではない。鳥のような翼を持つが鳥ではない何か、だ。

男が何かを差し出すと、その翼をもつ何かは差し出されたものを掴み、飛び
立ってゆく。

30 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 14:35:43.16 ID:Vtxk+2ge
>>27
コメントありがとうございます。

ええ、やっと規制が解けました。
皆さんにご面倒をおかけしてしまっていましたが、これで自力で進められます。

しかし、一回の連載で規制が三回・・・なんともまあ。

♪ ら〜ら〜ら らら〜ら〜 ことぉばに できなぁい〜 ♪

31 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 17:48:56.76 ID:Vtxk+2ge

その間にも新たにあちこちで炎があがり、悲鳴が上がる。

三人とも棒立ちになったまま動けない。


数人の兵が向きを変え、こちらに向かってくる。

カワセミは我に返ると一瞬だけ考え、手裏剣やクナイの入った袋と玄関に置
いてあった自分の槍をひっつかみ、先程雨戸を開けた縁側から飛び出す。

銀「カワセミ!」

カ「私がここで食い止める!その間に逃げて!」

言いながら、カワセミは飛んできた火矢を槍で叩き落す。

銀「駄目!カワセミも一緒に!」

カワセミは丸々一枚開いていた雨戸を顔の幅ぐらいだけ残して閉める。

カ「あんた達は足が遅い。普通に逃げたら追いつかれる。私が時間を稼ぐか
ら、その間に皆と合流するか、脱出路へ!」

カワセミは再び火矢を叩き落す。

銀「でも!」

カ「早く!あんた達が出て、百数えたら私も行くから!」

銀「カワセミ!」

シカ婆「水銀燈、カワセミの言う通りにしよう。多分、それが一番だ。」

シカ婆さんは軍勢と陰陽師の登場の驚きから回復したようだ。

シカ婆「カワセミ!言う通りにするよ。ただ、百も数える必要はない。五十
数えたら追っておいで!」

カ「分かった!」

シカ婆さんは玄関に駆け寄り、一瞬考えたあと、荒地に強い二号車の車椅子
を抱え上げて裏口へ運ぶ。
次いで玄関に戻ると自分の草鞋を持ち、水銀燈を抱き上げて裏口に連れて行
き、手早く車椅子に乗せる。
部屋にあった小さな袋と懐刀だけを懐に入れ、草鞋を履く。

32 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/18(水) 18:15:04.18 ID:Vtxk+2ge
シカ婆「出るよ!」

カ「急いで!」

シカ婆さんは裏口を細く開け、様子を伺う。
見える範囲では誰も居ない。

裏口を大きく開け、水銀燈の車椅子を押しながら小走りに東の道へ向かう。
幸い、先の方も足元が見える程度には明るい。

先の方も明るい?

辺りを見回すと、思った以上に火が燃え広がっている。
軍勢はまだ東側には回り込んでいないようだったが、先の方にもぽつぽつと
火の手が上がっている。

この乾燥と風だ。
火が燃え広がるのは相当速いだろう。
急いで何とかしないと里中が燃えてしまう。

突然、シカ婆さんが足を止め、その場にしゃがみこむ。

銀「シカさん!」

シカ婆「・・・あああ・・・あたしのせいだ・・・よその陰陽師に結界が破られた
のに気づかないなんて・・・」

銀「シカさん・・・」

一瞬、水銀燈もその場で動けなくなりかける。

しかし、後ろで戦っているはずのカワセミや、恐らく逃げまどっている里の
皆の事が頭に浮かぶ。

水銀燈はシカ婆さんの腕に触れながら強い声音で言う。

銀「シカさん!今は行かないと!きっとみんな逃げてる。誰かが皆をまとめ
ないと!」

シカ婆「・・・そうだね・・・行かないと・・・」

シカ婆はよろよろと立ち上がり、再び進み始める。


33 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 11:30:05.65 ID:yNSyo+N5
水銀燈はシカ婆さんにも押して貰いながら、車椅子を懸命に進める。

曲がり角になっている場所まで来ていったん足を止め、建物の壁のかげから
森の東側の道の様子を伺う。

銀「あっ・・・」

森の東側の脱出路のある辺りは炎に包まれていた。
軍勢はまだ来ていないのに、どうして?

ばさばさと音を立てて、炎の向こう側から何かが飛んでくる。
茶色くてちょっと白っぽく、割と頭の大きい鳥・・・いや、鳥ではない。
近くで見ると良く分かる。
それは鳥の翼に獣の頭部を持つ、異形の存在だ。

その何かは、明らかに先程の陰陽師の肩に止まっていたものだった。
・・・そして、以前、里の上空を旋回しているところを水銀燈が見かけたもの
だった。

よく見るとその異形の獣は一匹ではなく数匹おり、東の道の入り口の上空に
集まっていた。

さらに一匹の獣が飛来すると、空から何かを東の道に落とす。
その何かが落ちるとさらに大きな炎があがる。

異形の獣は明らかに脱出路を塞ごうとしていた。・・・おそらくは、先程の陰
陽師の命令で。

炎はかなり大きくなっており、ここを通る事はできない。

シカ婆「水銀燈、ここは駄目だ。共同作業場の地下の脱出路を使おう。多分、
みんなそこにいるはずだよ。」

銀「え、ええ、そうね。」

幸い、異形の獣は二人に気づいていないようだ。
二人は東側の森から離れ、進路を北に取り、共同作業場へと向かう。

微かだが戦闘の物音らしいものが聞こえる。
炎が上がっているのも見える。

34 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 12:06:36.76 ID:yNSyo+N5

二人は共同作業場がはっきり見えるところまで来る。

炎がかなり広がっている。
共同作業場はほとんどが炎上している。

広場の北側では里の警備の者たちを中心に、戦える男たちが小さな防衛線を
作り、抵抗が行なわれていた。
侍ごとの親方が大槍を振り回している。

その向こう側に何人かの里人がおり、戦う者たちの手助けをしつつこちらを
気に掛けているようだ。
何人か見覚えのある姿が見えたような気もするがはっきりしない。

一応防衛線を作ってはいるものの、不意をつかれたためか、里の方は十人も
いない。
武器や防具も少ないし、統制がとれていない。

敵ははるかに数が多い上、完全武装だ。弓矢もある。
多勢に無勢だ。
間もなく、全滅するか防衛線が崩れて散り散りになるだろう。

炎はどんどん勢いを増す。
炎と敵の陣のせいで、これ以上北側へは行けない。
様子すら見えなくなってくる。

シカ婆「ああ!」

シカ婆さんの視線の先を見ると・・・あの、地下の抜け道のある蔵が炎上して
いた。

抜け道を見抜かれたのか、単に目立つ大きな建物だから火を放たれたのか。
その木造の蔵はまるで松明のように炎上していた。
これでは地下の抜け道は使えない。
そもそも、近づくことさえできなかった。

35 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 22:12:32.13 ID:yNSyo+N5
あっ。

上のログ、

「二人は南側からそっと広場に近づき、物陰から様子を伺う。
 広場にたくさんの敵が見える。」

が抜けてました。

シカ&ギンは物陰から様子を伺っています。
敵の軍勢の南にシカ&ギン、北側に里の防衛線。
大勢の敵に間に入られ、合流できない状態です。

36 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 22:26:22.13 ID:yNSyo+N5
?「スイギントウ〜!シカサン!」

訛のある叫び声が先の方から聞こえてくる。
微かに大きな人影が見えたような気がする。

銀(クローザーさん?・・・あ、だめ!危ない!!)


敵の陣から驚愕の叫び声が上がる。
兵「鬼だあ!!」

少し立派な鎧を着た男が叫ぶ。
男「ひるむな!矢、放て!」

一瞬の間の後、ひゅんひゅんと音を立てて矢が放たれる。

向こうの方で叫び声が上がる。

銀「クローザーさん!!」

炎と人に遮られ、状況は分からない。
クローザーが矢に驚いて逃げたのであって欲しかった。


シカ婆さんは血が滲むほど唇をかみ締めていたが、決断を下し、口を開く。

シカ婆「水銀燈、抜け道は駄目だ。それにこれ以上北側へも行けない。
あたしたちは南側の脱出路へ行こう。」

銀「え?南へ?」

シカ婆「ああ。敵は自分達が火に巻かれない様に、自分達が来た南側だけは
火を付けてない筈だ。
連中をすり抜けていく事になるから厳しいが、逃げられるのはそこしかない。
カワセミと合流して、生き残りが居れば拾って、南の脱出路を目指そう。
あそこは常緑樹が多くて視界が利かないから、あの鳥もどきにも見つかりに
くいはずだ。」

銀「え、それはそうだけど、でも・・・北側にいるみんなは?」

シカ婆さんは血を吐くような声で言う。

シカ婆「ここより北の里人には・・・もうあたしたちにはどうしてやること
も出来ない。それぞれ、無事に逃げてくれて、後で合流できる事を祈るしか
ない。」

銀「・・・分かったわ。」

涙をこらえながら二人はその場を離れ、目立たないように物陰伝いに進む。

37 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 22:47:21.57 ID:yNSyo+N5
まわりに注意しながら、家の方へと向かう。

火は燃え広がり、あるいはさらに火矢を放たれ、ほとんど全ての建物が燃え
ていた。
周囲の森にも火が放たれたようで、ぐるりと里を丸く取り巻くように炎が上
がっている。
里は完全に炎に包囲されてしまっていた。
あたりの空気自体が熱を持ち始めており、時折熱気がうねるのを肌で感じる。

家に近づくと、裏側には誰もいないが、表側からは戦闘の物音がしている。
そして、この家も燃え始めていた。
カワセミは五十数えたら追ってくるはずだが・・・とっくにそれだけの時間
は経っているはずだ。

二人は裏口をそっと開けて家の中の様子を伺う。

家の中はまだほとんど燃えていないものの、かなり熱くなっており、熱い空
気が形あるもののように顔を打つ。
所々から煙が上がっている。

カワセミはまだ家の前で戦っていた。
雨戸が一枚だけ残して倒れており、縁側の前で槍を構えたカワセミが見える。

銀「カワセミ!」

カ「!!馬鹿、何で戻って来たの!?」

38 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/19(木) 23:05:08.60 ID:yNSyo+N5
銀「東も、地下の抜け道も燃えてて駄目だったの!南に行くしかっ、危ない!!」

水銀燈の叫びを聞いてカワセミは振り向く。
少し離れた茂みから弓矢を構えた兵が立ち上がり、さらにそれぞれ槍と刀を
構えた二人の兵が呼吸を合わせて左右から突っ込んでくる。

カワセミは一瞬で弓兵に手裏剣を放つ。
弓兵は喉を押さえてのけぞり、そのまま後ろに倒れる。
矢は放たれたが、狙いがそれてあさっての方向へ飛んでいく。

刀を持った兵が右から突っ込んでくる。
カワセミは右側へ大きく踏み込みながら、勢いを付けて槍を突き出す。
兵は刀で槍を払おうとしたが、両者とも踏み込んでいるので勢いが強く、払
いきれない。
槍は兵の左肩と胸の境あたりに深々と突き刺さる。

同時に左から槍を持った兵が突きかかってくる。
カワセミは自分の槍から手を離し、斜めに身を沈めてぎりぎりで槍をかわす。
そのまま敵の槍の柄を左手で掴み、力いっぱい引く。
敵はたたらを踏んで前のめりになる。
カワセミは槍を掴んだまま一気に踏み込み、右手で順手に握った手裏剣を相
手の顔に突き刺す。
敵は槍から手を離して両手で顔を覆い、叫びを上げる。
カワセミはそのまま敵の槍を奪い、中ほどを握って半回転させ、穂先を前に
して逆手に掴み、勢いをつけて体ごとのしかかるように槍を敵に突き刺す。
敵はそのまま仰向けに倒れ、上半身が半ば空中に浮いたまま串刺しになる。
勢いでカワセミも一緒に倒れこむが、すぐに立ち上がる。

先程の刀を持った兵は膝をつき、肩に刺さった槍を抜こうともがいている。
カワセミは槍の柄を掴んでえぐりこんで兵に止めを刺し、その体を蹴り放し
て槍を引き抜く。
血が噴水のように噴き出す。

まるで鬼神のような戦いぶりだ。


39 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/19(木) 23:17:07.68 ID:Y55aUwRs
ひなちゃがいつも乗っている三輪車
サドルを外して素っ裸にしたひなちゃを無理矢理乗せると
肛門にパイプが刺さってしまった
「うをおおおーーー!」
物凄い叫び声を上げてハンドルを掴み
物凄い速さでペダルをこいで庭を三輪車で走り回るが
壁に激突して頭を打って気絶してしまった
             ,',(><)ヽ っ   うをおおおーーー!!
            /((ノノリノ))  っ
            ((ミi!;'゚'Д゚';)ミ) 
   キコキコキコ.    ( O┬O
        ≡ ◎-ヽJ┴◎ キコキコキコ
|                    |
|                |
|                    |
|     \、,,'(><)ヽ 、   |
|     _,ノ (ノリノ))ノ))    |
|     `) ('《ミ)ミ)ノ)ミ)  ___──
|         ヽ   /      ̄ ̄ ̄
|        / , ) )   ̄ ̄ ̄──
|    '⌒)(__,/ ヽ__)(`   |
|    /'        '^\   |

   ,',(><)ヽ
   /((ノノリノ))
  (ミ(;;;)'Д`;(;;)ミ))      
  ⊂    ヽつ
  r'⌒  '(:i:) ⌒つ
  (_ノー''--*⌒´´
      ;:;,・;:.,;

40 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 21:33:18.49 ID:Z1b0Vtsy
連載だがなんか知らんけどダラダラうぜぇ
邪魔でほかのssが来ねえだろうが

41 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 21:39:52.51 ID:QMLBaxfR
ほかの来てもお前どうせ読まんだろ

42 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/20(金) 23:14:22.61 ID:Z1b0Vtsy
>>41
本人乙

43 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 07:51:11.67 ID:zBTz45jH
キモイ

44 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/21(土) 08:32:46.46 ID:z4vbpOP0
ん?本人って俺の事?
>>41は俺じゃないですよ。
idとかip変えられるなら規制で中断とかしてないし(苦笑)

うーん・・・
誰が読んでも面白い、なんて物は書けないから、「つまらない」とかの系統
の批判は気にしても仕方ないけど、ほかのSSの邪魔になってるというなら
気になりますね。
一つの作品の専用スレじゃないのに、ここしばらくスレを使いっぱなしだし。

ちょっと、しばらく中断してみる事にします。

何か意見があったら聞かせてください。

45 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 10:56:57.46 ID:1D1MNY/R
一レスごとの容量/行数に余裕があるから、変な折り返しやレス分けせずに纏めて投げればいいとは思う
書けたら投下ってスタイルもありだが、纏まったところで1章分とか丸めて投げても良い感じ

46 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/21(土) 23:32:32.07 ID:zBTz45jH
>>40
以前にあらかじめ断って投下してたろう
問題があるならその時に言えばよかったろうに

47 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/25(水) 10:21:36.26 ID:p+elkCj2
>>45
うーん、変な折り返しに見えてますか。
以前、一行が長いと、環境によっては横スクロールバーを操作しないとならなく
なった事があって以来の習慣なんですが・・・今はそういう心配はないのかな?

あと、1ログの切り方ですが、だいたい一日分(2〜5ログ)が内容的にひと
かたまりになっていて・・・章より下の単位、節とか小節ですね・・・それを1
ログが一画面分ぐらいになるように分けています。
せっかく連載風にしているので、ちょこちょこ読んでくれる人が読みやすいよ
うに、一日分が内容的にひとかたまりになるようにしたいので。
(ひとかたまりが長い場合はそうならない事もありますが)

今のやり方では凄く読みづらいですか?


>>46
ありがとうございます。

48 : ◆TEGjuIQ24E :2011/05/26(木) 10:30:39.47 ID:kFsClQD2
ども、俺です。
今月中に33話を投稿したいと思います。
遅くなって本当にすいません。
あとタイトル(いつもの○○と△△とかではなく)
が決まったのでその時に発表しよう思います。


>>47=乳酸菌さん
俺のようにトリをつけると良いですよ。
一時的にではありますが本人である証になります。
IDは一日で変わっちゃいますからね。
ちょっち余裕がなくて前スレのケツらへんから読めてないんで、
帰ったら続きを読みます。

49 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/27(金) 00:14:36.89 ID:Ll9bKMcJ
>TEGさん
あ、どうもお久しぶりです。
新作が出来たんですね。
楽しみにしています。

>俺のようにトリをつけると良いですよ。
>一時的にではありますが本人である証になります。
>IDは一日で変わっちゃいますからね。

実は、これを読んだとき、しばらく意味が分かりませんでした(TEGさんのせい
ではないですよ)。

で、38〜44あたりを見直して初めて気づきました・・・>>38と41〜42あたりって
同じ日じゃなかったんですね(汗
>>38を夜中に投下したんで、0時過ぎててその翌日に投下したものと勘違いし
てました。・・・マヌケだ>自分

確かにこれじゃ、>>44で書いてる事はわけわからん事になってますね。
id見ても何の証明にもなってないし。
失礼しました。

もし、再開するとしたらご助言の通り、トリップつけるようにします。

50 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/27(金) 00:22:02.26 ID:Ll9bKMcJ
で、と。

アクセス規制を除いても三ヶ月に及んだ連載、「乳酸菌とってるぅ?」ですが、
まだ読んで下さっている方、読みたいと思って下さっている方はいますか?

ちなみに現在の進度は四分の三から五分の四というところ。
もし、元通りの連載のペースにすると・・・残りは一ヶ月ないと思います。
最後の方はペースアップするので、多分もっと短いです。

51 : ◆TEGjuIQ24E :2011/05/27(金) 01:13:13.83 ID:cnpKz3Ij
>>50=乳酸菌さん

そりゃあもちろんです。読みたいっす。
こっから本編に繋がっていくわけですし
あと、SS書く励みにもなってるんで。

俺は多分壮大な物語になると思うので終わりが見えないのです。
最後の最後までゆっくりと共に頑張りましょうぜ。

52 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/28(土) 08:52:44.55 ID:WSpyveIs
飽きた
人がいなくなったので察しろ

53 : ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 16:48:56.35 ID:/YGL+Sf3
 ども、TEGです。第33話が上がりましたんで投下開始しますよ。
遅くなってすいません、俺は最後までやりまっせ!

 俺が09年8月から投下してきた作品群へのタイトルがやっと決まりまして。
題して「RozenMaiden Fortsetzung」
Fortsetzungは独語で「継続」「続き」、トロイメントからの
時代の続きということで名づけました。
このスレ最初の投下なんで、名前欄もこちらにします。

54 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 16:54:04.04 ID:/YGL+Sf3
【第33話 桜田のりと翠星石の年末】

[2004/12/30 15:50]
[桜田家 台所。]

ザブザブ
のり「お皿を洗ったら〜 お洗濯お洗濯〜♪
   もう年末ねぇ〜……♪」

翠星石「あっというまでしたねぇ。クリスマスが終わってからの
    残り1週間は、とくに早かった気がするですぅ。」

のり「本当ねぇ。クリスマスって昨日じゃなかったかな?
   ……そんなわけないけどね。」

翠「……のりがノリツッコミーってですかぁ?」

のり「さあ……?」

55 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 16:57:55.03 ID:/YGL+Sf3
 12月30日、薄曇り。大掃除も殆ど終わり、翠星石ちゃんと
いっしょに家事をしてます。私の会社もお正月休みに入って、
あとは新年を迎えるだけ。

 今年、2004年はジュン君と巴ちゃんの進学、私の就職、
あの探偵犬くんくんそっくりの犬が来たことや、父の日には、
水銀燈ちゃんたちが、お父さんに手紙を届けられたこと。

 そして、真紅ちゃんがお家に来て1000日。この1年は、
とにかく、色んな事がありました。

56 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:15:19.95 ID:/YGL+Sf3
翠「しかし、チビチビがトモエの家でこしらえてもらってきた
  サンタの服……ちょっとうらやましいです」

のり「あらあら、それなら今度、ジュン君に作ってもらったら?
   でも、パーティーのときの、翠星石ちゃんのトナカイ姿、
   とってもよく似合ってたわよぅ!」

翠「す、翠星石は、パーティーだからって言ってちょっとハメを
  外してやっただけですぅ……真紅にサンタ役を譲ってやった
  だけのことでしてぇ――」


 我が家は、何だか前以上に賑やかになったような気がします。
私はお仕事があるから、お家に居られる時間は減っちゃったけど
その分、お休みの日には全力でこの子たちと遊んでいます。

57 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:18:20.42 ID:/YGL+Sf3
 12月25日の夜は、巴ちゃんの家から帰ってきた雛ちゃんと
真紅ちゃんがサンタクロースの格好、翠星石ちゃんはトナカイの
格好ではしゃぎながらパーティーをしました。

 12月26日からは大掃除。いつも片付けてるつもりでも、
けっこう埃が貯まっちゃったりしてて、みんなでお掃除しても
家中を綺麗にするのに3日もかかってしまいました。

 あとは、ジュン君のお部屋が終われば大掃除は終わり。
年賀状ももう出してるし、テレビはみんな年末ムード。
年賀状は、真紅ちゃんにモデルになってもらいました。

58 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:23:55.71 ID:/YGL+Sf3
ピーピーピー
のり「あっ、お洗濯が終わったみたい!」

翠「こっちは翠星石がやっとくですから、のりは手洗ってから
  さっさと洗濯物を取り込んでくださいですぅ。」

のり「はぁい!」


[16:27]

のり「ふぅ、やっと第2便が終わったわねぇ♪」

翠「一仕事終えた後の紅茶は格別ですぅ。」

のり「もう、すっかり日が暮れるのが早くなっちゃって……」

翠「もうカラスがアホな歌を歌いながら巣へ帰ってるですねぇ。
  なんか幻想的な空の色ですぅ。」

59 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:27:13.26 ID:/YGL+Sf3
 山の端から、赤、白、青。間にオレンジや薄い水色も混じって
翠星石ちゃんの言うとおり、とても幻想的。私も、この空の色は
結構気に入っています。仕事帰りに見ると、切なくなるなぁ。


のり「昔から、この時期にジュン君と外で遊んでたら、なんだか
   歯磨き粉みたいだね、って……」

翠「3色の練り歯磨き粉ですか? アレは、イマイチ仕組みが
  わからんのですぅ。一回、凍らせて縦に割ってみたいです」

のり「た、多分パソコンで検索したら出てくるんじゃないかな?
   切っちゃったら後が大変だし……」

翠「そ、そーですけど……別に翠星石は本気で言ったわけじゃ
  なくて、です……ちょいとジュンの世話になってみるです。
  数学の教科書といい、アイツはいいものを持ってるです」

60 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:32:27.51 ID:/YGL+Sf3
 翠星石ちゃんは、ジュン君をよく慕っています。真紅ちゃんも
雛ちゃんも、周りのみんなが、ジュン君のことを慕っています。
おかげでジュン君も明るくなれたし、姉として、うれしいです。


のり「翠星石ちゃんは、数学が好きなのかな? 2年前から、
   ジュン君の教科書、よく読んでるみたいだけど……」

翠「こまけー事を考えるのは苦手ですけど、問題は解けるです。
  こないだジュンに見てもらったら『すげえじゃん!』、って
  ……フフフ♪」

のり「そうなの! ジュン君は頭がいいから、たくさん教えて
   もらうといいわよぅ。私はちょっと勉強は苦手だけどね。
   そういえば、面白い話があるんだけど」

翠「何ですか?」

61 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:37:05.29 ID:/YGL+Sf3
のり「『あなたの銀行口座に、毎日86400円が振り込まれます。
    しかし、眠りにつくときこれが消えてなくなります。
    あなたならどう使いますか?』」


 これは、私が高校2年生の時に、学校の集会で耳にした話。
私も最初はその言葉の通りに意味を取ってて、「大事に使う」と
思ったけど……本当の意味を知ってから、考えが変わりました。


翠「そりゃあ、毎日それだけ振り込まれるなら、
  ある分全部使わないともったいないです」

のり「その通りだね。じゃあ、これが何のことか分かる?
   86400円」

62 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:41:20.02 ID:/YGL+Sf3
翠「86400…… 86400……
  むむっ、これは一日を秒に直した時の数ですねぇ!?」

のり「正解! つまり、1日1日を精一杯生きることが、
   とっても大切なことだってことなのね。日だけじゃなくて
   ひと月なら259万2千、1年なら3153万6千。」

翠「コレを考えたヤツは見どころがあるです。
  ……うーむ、翠星石たちも長いこと生きてきましたが、
  今こそ、時間についてよく考えるべきかもですぅ。」

のり「そうねぇ…… 86400秒をどう過ごすか、選ぶのも
   それぞれ次第。未来は選び取れるって、真紅ちゃんが
   いつも言ってるね。」

翠「まったくもってその通りですぅ。姉として鼻が高いですぅ。」

のり「ふふ……」

63 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:45:20.34 ID:/YGL+Sf3
[16:55]

ピーピーピー
のり「あっ、ご飯が炊けたわ! もうそろそろ、ジュン君たちも
   掃除が終わって降りてくるころだし、いっしょに晩御飯の
   支度でもしましょう」

翠「よーし、ジュンたちの為に気合入れて作ってやるですぅ!
  そういえば、チビチビはどっちの所で年を越すですか?」

のり「確か、年越しは巴ちゃんと神社に行くって言ってたわよぅ。
   『12時になっちゃうけど、頑張って起きるの』って。
   ジュン君も行くみたいだけど……」

64 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:48:02.46 ID:/YGL+Sf3
翠「なるほど、その日はフルに86400円を使うってことですねぇ。
  のりも行くですか?」

のり「そうねぇ。今年は、行ってみようかな?
   社会人になったことだし……2年目もうまくいくように、
   みんながいい年を過ごせるようにお祈りしなきゃ」

翠「翠星石も、そーするですぅ。」


 去年までは、初詣に行く前に眠ってしまっていたけど、今年は
頑張って起きて、みんなでお参りしに行こうと思います。

65 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 17:51:34.60 ID:/YGL+Sf3
[17:05]

翠「天気の方は大丈夫ですかねぇ?」

のり「九州とか大阪が雪になるって言ってたわよぅ。多分、こっちも
   少し降るかもね。初日の出が見られればいいけど……」

翠「完全武装で行くことにするです。」


 珍しく、年をまたいでの雪の予報が出ていました。雨だった
ことは何回かあったけど、雪が積もるかも……という予報は、
記憶の中にはありませんでした。

66 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:27:31.95 ID:/YGL+Sf3
のり「お給料で買った新しいコートを着ていこうかな。
   翠星石ちゃんも、前に買ってあげたコートを着ていくと
   いいわよぅ。真紅ちゃんと雛ちゃんもね。」

翠「そうするですぅ。 ヒヒヒ、ちょっと趣を変えて、ジュンを
  驚かせてやるです、イッヒッヒッ……♪」

のり「ふふ……」


 ジュン君のことになると、顔がにやけちゃう翠星石ちゃん。
本人が居るとすぐに素直じゃなくなっちゃうけど、私といると
結構素を出してくれるんです。

67 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:34:26.67 ID:/YGL+Sf3
[17:09]

ガチャッ
ジュン「よし、終わった! 姉ちゃん、片付けたぞー!」

真紅「やっと片付いたわね。」

雛苺「おかたづけ、かんりょーなの!」

翠「おっ、終わったみてーですね。ご苦労さんですぅ。」

のり「お疲れさまー! 何とか年内に終わったわね!」

ジュン「じゃ、翠星石、後お前の棚だけなんだ。
    僕たちはいじられないから、あとは頼んだぞー。」

翠「ぬぬうっ、後でやろうと思っとったですぅ!」

68 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:54:49.51 ID:/YGL+Sf3
のり「ホラホラ、ご飯を食べ終わったら、お片付けしましょう。
   ジュン君、アレはちゃんと取ってる?」

ジュン「ああ、鏡もちだろ、心配しなくても食べてないって。
    4つあるぞ、コイツらの分。」

紅「なら、夕ご飯が済んだら、鏡もちを飾るのだわ。」

雛「ヒナね、一番上にみかん置いてー、それからそれから、
  苺のおもちゃも置くの!」

ジュン「……いいのかなー……?」

のり「……いいんじゃないかな? 本当は昆布も置くみたいだし
   紙垂(しで)とか沢山飾りつけするのよぅ」

69 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:57:29.33 ID:/YGL+Sf3
ジュン「立派なのはもうクリスマスあたりに売り切れてたよ……
    ……姉ちゃん、今日は晩御飯何ぃ?」

のり「三十日だけに、お味噌汁! それから花丸ハンバーグ!」

雛「今日花丸なの!? わーい!! やったなの〜!」

翠「年忘れ特大号にしてやるですぅ、腕によりをかけて、
  気合入れて作っちゃるですぅ! 楽しみにするがいいです!」

紅「じゃあ、私も何か手伝うわ。」

雛「ヒナもヒナもー!」

ジュン「よーし、作るかー!」

70 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 21:59:51.91 ID:/YGL+Sf3
 例えば、翠星石ちゃんが手を挙げると、雛ちゃんも手を挙げて
真紅ちゃんがおすましして賛同し、ジュン君も立ち上がる。
蒼星石ちゃんたちが遊びに来ると、みんながみんな集まって……


雛「お皿の上に、お花のかたぬきを置いてー……」

翠「そこを目掛けて、白身と黄身を投下するです!」

紅「ジュン? ねぎを切って頂戴。」

ジュン「じゃあ、端の方を持っててくれ。」


 変わらない日常の光景だけど、一番好きな、一番大切な光景。
私は、それを支えにして過ごしてきました。勿論、これからも。

71 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:03:32.16 ID:/YGL+Sf3
のり「ふふ…… よーし、これでご飯5膳!
   今日はジュースもあるわよぅ!」

雛「わぁ……♪」キラキラ
翠「おぉ……♪」キラキラ

紅「ありがとう、のり。私は食後でお願い。」

のり「はぁい!」


[20:32]

 楽しい夕ご飯も終わり、食器を片づけ、みんなの髪を梳かして
歯磨きして、身体を拭いて、その後、みんなでお餅の飾りつけ。

 雛ちゃんが、2段のお餅の下の方が埋まる程苺の置物を置いて、
みんな笑いが止まりませんでした。翠星石ちゃんも棚の片づけを
終わらせて、これで本当に大掃除が終了です。

 一足早く、新年に向けてみんなでお願い。


のり「ちょっと早いけど、2005年もいい年になりますように!」

72 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:07:42.97 ID:/YGL+Sf3
[21:14]
[ジュンの部屋。]

ジュン「……がー……ぐー……Zzz」
雛「……すぅ……すぅ……」

翠「つくづく、どこの国も年末は忙しいですねぇ。クリスマスで
  街が盛り上がったと思ったら、次は正月って……」

紅「一日の終わりも良い眠りで終わり、次の一日も良い目覚めで
  始まることを祈るように、一年の終わりも良いものにして、
  次の一年も素晴らしく始める、心意気かもしれないわね。」

翠「おっ、いいこと言うじゃねーですか。1日の86400秒も、
  1年の3153万6千秒も、順繰り大切に使わんとですねぇ。」

紅「まあ、素晴らしいわね。その通りよ。
  ……私たちは螺子が朽ち土に還り逝く迄、人間とは比べ物に
  ならないほどの時間を過ごす」

73 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:10:59.86 ID:/YGL+Sf3
紅「だからこそ、日々を大切に過ごしていかなければならない。
  今年は、一年中平穏だったから、とても良かったのだわ。」

翠「コイツ(雛苺)もチビ人間も、大きくなった気がするです。
  もちろん、他の姉妹も、人間たちもですぅ。 今頃世界樹の
  木も、ドでかくなってるですよ!」

紅「そうね。貴女も立派になった…… 自慢の姉なのだわ。」

翠「そ、そんなこと言われたら、照れちまうですぅ……
  ……あっ、ちょいと鏡もちの位置が」

紅「……もう、9時を15分、16分を回ろうとしているわ。
  早めに切り上げて、今日は眠りについた方がいいわ……。」

翠「も、もう少ししたら寝るですよ!
  心配しなくてもいいですぅ!」

74 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:15:43.46 ID:/YGL+Sf3
[21:30]

紅「……すー……すー……」

翠「うーん…… どうも左すぎるような……ですぅ
  ちょっと真紅のくんくんを一つ借りてみるか……
  いや、バレたらヤバいからやめとくですぅ」

チャッ
のり「……あら、翠星石ちゃん、起きてたのね。」

翠「ああ、もちの位置が微妙なんですぅ。もうちょい右ですかね
  この、棚のド真ん中に鎮座させたいんですけど…… もう、
  真紅もあきれて寝ちゃったです。明日の予定はなんですか?」

75 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:18:07.35 ID:/YGL+Sf3
のり「そうねえ、もしかしたら雪が降るかもしれないから、
   ずっとお家にいると思うわ。お菓子でも作ろうかなぁ。
   夜には初詣に行くわよぅ!」

翠「そりゃー楽しみですぅ♪ 明日夜11時に巴が来るですね。
  大晦日も楽しくなりそうですぅ。じゃ、翠星石はそろそろ
  寝るですよ。」

のり「はぁい。 おやすみ、翠星石ちゃん!」

翠「おやすみですぅ。 いい夢見るですよ!」


[2004/12/31 00:19]

ガチャッ
のり『……ただいまー! 今日はみんな来てるから
   花丸ハンバー……』

のり『って……』

76 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:20:11.22 ID:/YGL+Sf3
[桜田家 階段。]
ジュン『うおー、僕の部屋からうまい棒を調達してくれ!』

雛『はいなのォ!』

金糸雀『カナは…… ここから数えて8段目にサラミ味を設置するかしら!
    加えて! 12段目にコーンポタージュでカンペキかしらァ!
    勝利は我々 カナリアンボーゲルズ の手に!!』

のり『……!?』

水銀燈『ふふ…… なかなかやるわねぇ……。
    けどぉ、こっちには うにゅーがあるわよ!
    くんくんは守り通すわ!』

紅『卵ボーロもあるのだわ。まさにおいしい作戦ね……』

翠『ヒヒヒ…… 我らがチーム135にこそ勝機ありですぅ!
  とっとと降伏しやがれですぅ!』

77 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:23:07.61 ID:/YGL+Sf3
のり『ちょっ、何やって…… くんくん……!?』ワナワナ

薔薇水晶『これは探偵ゲーム…… くんくんの方を追うの……
     さあ、くんくんはどこ……? わたしたち
     チーム蒼雪薔に 勝利を差し出しなさい……♪』

雪華綺晶『いいところに帰ってこられましたわね♪
     間もなくゲームも大詰め、3つのチームのうち
     どこが勝ってもおかしくありませんわ……♪』

蒼星石『これは、自分の陣地にあるくんくんフィギュア3体を
    20分間で多く守った方の勝ちというゲームだよ!
    フィギュアの場所は秘密で、お菓子で釣って尋問……』

のり『…… ……』プルプル

78 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:26:19.12 ID:/YGL+Sf3
のり『『こらァァァ!! 食べ物で遊んじゃダメでしょーっ!!』』
ボカァァーン!! ビリビリ……

蒼『わああ……!!』
銀『ひっ……!?』
金『ひええ!!』

翠『だから、翠星石は最初にどうなっても知らんですぅって
  言ったですぅ……!?』

ジュン『お前が一番ノってただろうがァー!』

79 :RozenMaiden Fortsetzung 33 ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:29:04.90 ID:/YGL+Sf3
のり『……9人でお片付けしなさーーーい!!』

翠『……やっぱり、怒るとのりが一番コワイですぅ……』

ジュン『ああ……』


のり「…… すー…… すー…… ふふっ
   ……Zzz」

              【桜田のりと翠星石の年末 完】

80 : ◆TEGjuIQ24E :2011/05/29(日) 22:33:31.37 ID:/YGL+Sf3
 ハイ、「RozenMaiden Fortsetzung」、
第33話「桜田のりと翠星石の年末」は
以上で完結でございます。読んでくれた方乙でした。

 一話完結の日常系を目指して書いてみました。
とりあえず、まだまだ続くんでゆっくりとお付き合い
頂ければ幸いです。

 では、また次回。グッナイ!

81 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/05/31(火) 12:07:47.21 ID:rmFZY9To
>>TEGさん
乙でした!

やっぱりSSはこういう、原作のメインストーリーじゃない部分に限りますよね。

82 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 12:31:37.24 ID:jwb+BhGe
やっと規制解けたよ
自分が避難所使う破目になるかと……
って何も書いてないから駄目だけどね!

TEGさん長編乙でした。
乳酸菌さんもペースはともかく、完結まで頑張ってくだされ。

83 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 16:32:56.63 ID:sLyImOx9
微妙にご無沙汰です。

状況を見るに、結局、スレ住人(書き込みしてくれる人)が以前より減って
るんですね。

まあそれならそれで、まだ見てくれる人の意見を尊重させて頂きます。

色々意見をありがとうございました。

84 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 18:48:07.14 ID:sLyImOx9
   「乳酸菌とってるぅ?」  最近のあらすじ


のんびりと正月を過ごしていたカワセミ、シカ婆さん、水銀燈。
楽しく過ごした正月も終わりに近づいた三日の夜のこと。

不意に、里に正体のはっきりしない軍勢が現れ、里を攻撃し始める。
軍勢にとっては何か理由があるらしいが、もはや話し合いの出来る状況では
なかった。

軍勢に同行している陰陽師に結界を破られたらしく、里は完全に不意打ちを
受ける形となってしまった。

軍勢はあちこちに火を放ち、折からの乾燥と強風のため、あっという間に里
は炎に包まれる。

カワセミは時間を稼ぐために家のそばに残り、その間にシカ婆さんと水銀燈
は裏口から脱出路に向かう。
しかし、偶然か狙ってかは分からないが、複数の脱出路は全て炎に包まれ、
里の北側との行き来も出来なくなっていた。

里はぐるりと炎に取り囲まれてしまっている。
残された出口は軍勢が侵入してきた南側のみ。

シカ婆さんと水銀燈は南を目指す事に決め、まずはカワセミと合流するため
に家へ向かう。


85 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:03:49.34 ID:sLyImOx9
(本編再開)

近づくと、三人の住んでいた家も燃え始めていた。
しかし、まだ半分以上が無事のようだ。

家に近づくと、裏側には誰もいないが、表側からは戦闘の物音がしている。
カワセミは五十数えたら追ってくるはずだが・・・とっくにそれだけの時間
は経っているはずだ。

家の屋根や壁の一部が燃えている。
幸い、裏口のあたりは無事だ。

二人は裏口をそっと開けて家の中の様子を伺う。

家の中はまだほとんど燃えていないものの、かなり熱くなっており、熱い空
気が形あるもののように顔を打つ。
所々から煙が上がっている。

カワセミはまだ家の前で戦っていた。
雨戸が一枚だけ残してはずされており、あるものは盾がわりに置かれ、ある
ものはへし折られている。

カワセミは縁側の前で槍を構えている。

銀「カワセミ!」

カワセミはこちらを振り向く。

カ「!!馬鹿、何で戻って来たの!?」

銀「東も、地下の抜け道も燃えてて駄目だったの!南に行くしかっ、危ない!!」

水銀燈の叫びを聞いてカワセミは向こう側へ向き直る。
少し離れた茂みから弓矢を構えた兵が立ち上がり、さらにそれぞれ槍と刀を
構えた二人の兵が呼吸を合わせて左右から突っ込んでくる。

86 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:35:11.48 ID:sLyImOx9

カワセミは一瞬で弓兵に手裏剣を放つ。
弓兵は喉を押さえてのけぞり、そのまま後ろに倒れる。
矢は放たれたが、狙いがそれてあさっての方向へ飛んでいく。

刀を持った兵が右から突っ込んでくる。
カワセミは右側へ大きく踏み込みながら、勢いを付けて槍を突き出す。
兵は刀で槍を払おうとしたが、両者とも踏み込んでいるので勢いが強く、払
いきれない。
槍は兵の左肩と胸の境あたりに深々と突き刺さる。

同時に左から槍を持った兵が突きかかってくる。
カワセミは自分の槍から手を離し、斜めに身を沈めてぎりぎりで槍をかわす。
そのまま敵の槍の柄を左手で掴み、力いっぱい引く。
敵はたたらを踏んで前のめりになる。
カワセミは槍を掴んだまま一気に踏み込み、右手で順手に握った手裏剣を相
手の顔に突き刺す。
敵は槍から手を離して両手で顔を覆い、叫びを上げる。
カワセミはそのまま敵の槍を奪い、中ほどを握って半回転させ、穂先を前に
して逆手に掴み、勢いをつけて体ごとのしかかるように槍を敵に突き刺す。
敵はそのまま仰向けに倒れ、上半身が半ば空中に浮いたまま串刺しになる。
勢いでカワセミも一緒に倒れこむが、すぐに身を起こす。

素早く視線を走らせ、先の弓を持った兵と刀を持った兵の様子を確かめる。

弓兵はぴくりとも動かない。こと切れているようだ。

刀を持った兵は膝をつき、肩に刺さった槍を抜こうともがいている。
カワセミは兵に駆け寄り、槍の柄を掴んでえぐりこんで兵に止めを刺し、その
体を蹴り放して槍を引き抜く。
血が噴水のように噴き出す。

まるで鬼神のような戦いぶりだ。

87 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:43:37.99 ID:sLyImOx9

カワセミにそうさせているのは怒りと・・・

カ「わたし、あなたを守るからね!みんなを守るからね!」

カワセミは荒い息をつきながら、返り血にまみれた凄惨な姿で微笑む。
その場に似つかわしくないほど澄み切った笑顔だ。

カワセミは自分の槍と、拾い上げた刀を構え、周囲を警戒したまま言う。

カ「南へ抜けるしかないのね?分かった。
私がここでしばらく敵を引き付けるから、裏に大きめに回り込んで南へ向か
って。裏へは一人も通さないから。」

良く見ると、返り血だけではなく、カワセミ自身も何箇所か怪我をしている
ようだ。
幸い、それほど大きな怪我ではないようだが・・・

その間にも家を覆う炎は広がり、煙が充満してくる。
外壁からは細かい燃える破片が落ち始めている。

銀「カワセミ、一緒に!」

カ「追いつかれるに決まってるでしょう!さあ、早く行って!あんたらが充
分進んだら行くから!」

銀「でも!」

カ「早く行って!・・・んっ?」

向こう側から人が近づいて来るようだ。

炎に照らされて、その姿が見える。
再び、数人の敵兵が迫って来ていた。

88 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/03(金) 19:52:26.89 ID:sLyImOx9

カワセミは槍と刀を構えて突っ込んで行き、その姿は雨戸の陰に隠れる。
数回、剣戟の物音が響き、いくつかの野太い叫び声があがる。

どうやらまた何人か敵兵が斃されたようだ。
再び雨戸の陰からカワセミの後姿が少し見える。


敵兵が気圧されて下がった様子が伝わって来る。
手ごわいぞっ、という叫びが聞こえる。

シカ婆「水銀燈、カワセミの言う通りにしよう。連中が気圧された今がいい機
会だ。さあ。」

シカ婆さんは裏口から様子を伺う。
裏側も火が燃え広がっている。
もはや、里全体が燃え盛るたいまつのようだった。
熱風が荒れ狂う。

再び、表側から剣戟の物音。
野太い悲鳴。

おおい、と野太い声が誰かに呼びかけている声が聞こえる。
きっと仲間を呼んでいるのだ。
急がないとさらに敵が来てしまう。

カワセミが心配だが、二人が行かない限り、彼女は今の場所で戦い続けるだ
ろう。
出来るだけ早くカワセミも来てくれる事を願って、ここは行くしかない。

裏口のあたりも、ぼろぼろと火のついた破片が落ちてきている。
腕で顔と頭をかばいながら、シカ婆さんと水銀燈は裏口から出る機会を見計
らう。


89 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/03(金) 23:50:23.93 ID:7X2cqBBz
再会待ってました!

かわせみ、おしかさん、外人さん
 ↓
めぐさん、???、えんじゅさん

脳内生まれ変わり表(適宜変動致します)

90 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:24:21.40 ID:qoYPh1r+
>>89
待っていてくれてありがとうございます。

脳内生まれ変わり表、いいですね。
この後、どう変動するんでしょうか・・・

91 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:27:12.52 ID:qoYPh1r+
裏口側も炎に包まれつつあるものの、素早く通るぶんには問題なさそうだ。
カワセミに出るよ、と一声掛けようとする。


その時だった。


パン!パン!

炎の音と戦闘の物音を圧して、不吉な音が響く。雨戸の上の方に穴が開き、
何かがひゅんと音を立てて家の中を飛び過ぎる。
頭上で木屑が散る。

この音は!


パン!パパパン!

雨戸に表側から「何か」がどさりと倒れこむ音がした。
短くうめき声が上がる。
野太い声ではない。よく知っている声・・・

からん、と槍が落ちる音がした。

銀「カワセミ!」

雨戸の横から、カワセミの手が見えている。
水銀燈は裏口へ向かうのをやめ、カワセミのもとへ向かおうとする。

シカ婆「水銀燈、危ない!行っちゃ・・・うわっ!」

背後で家の梁が燃えながら落下し、シカ婆さんと水銀燈の間に落ちる。


銀「カワセミ、カワセミ!」

カワセミが怪我して倒れてる。
早く行かなきゃ・・・

車椅子にとっては大きすぎる段差がある。
構わず進む。

車椅子は段差に引っかかって倒れ、水銀燈は投げ出される。
がちゃん、と大きな音を立て、板の間と畳の境目に叩きつけられる。
衝撃が全身を突き抜け、一瞬気が遠くなるが、水銀燈は構わず進む。
両手を使い、這って進む。

92 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:35:03.11 ID:qoYPh1r+

家の中も火が燃え広がり、煙があがり、壁に掛かった暦や書や画が燃え出す。

銀「カワセミ!」

早く行ってあげなきゃ。

炎と煙の中、進みは遅いが、着実に這って進む。
背後から叫び声が聞こえたような気がしたが、最早それも耳に入らない。

銀「カワセミ!」

燃える破片がばらばらと降り注ぐ。

もう少しだ。

天井からぎしり、と不吉な音がする。
天井が崩れかけている。

銀「カワセミ!カワセミ!!」

カワセミの手がはっきりと見える。
懸命に手を伸ばす。
あと少し、あと少しで手が届く。

燃える天井が大きく崩れはじめた。


その瞬間。
信じられない事が起きた。

水銀燈の斜め前。
何も無い空間に縦に裂け目が走った。

裂け目は大きく広がり・・・水銀燈は強い力でその中へ引き込まれた。
一瞬、黒い西洋服を着た兎が見えたような気がする。


あまりの事に思考が停止する。

数瞬の後、はっと気づくとそこは薄暗いnのフィールドだった。

銀「え?・・・え?」

93 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/04(土) 19:48:01.93 ID:qoYPh1r+

銀「・・・!!嫌あっ、カワセミ!!」

慌ててnのフィールドから出ようとする。

出口は・・・ない!出口がない!

いつもの鏡は支度部屋だった。
しかも、支度部屋のあった場所は炎上している。

里のはずれの泉は?

その残骸らしき物はあったが、出入り口はほとんど見えないぐらい小さくな
り、濁っている。
森が燃え、干上がるか残骸が積もるかしてしまったのだろうか。

銀「嫌ぁ!カワセミ!カワセミ!シカさん!みんな!!」

水銀燈は半狂乱になってnのフィールドを探し回る。

里の近くには出られる出口が全く無い。

手当たり次第に扉を開け、覗き込む。

どこも里の近くではない。
似た風景を見つけては飛び出すが、どれも違う場所か、似ているが別の世界、
並行世界だった。

何度かは完全に並行世界に出てしまい、時にはそこにいた人間が驚いた顔を
したり、あたりが大騒ぎになる事もあったが、そんな事は気にもせず探し回
る。


探し回る。


94 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 18:10:35.57 ID:s7hT0b5N

どれだけ探し回ったのだろうか、自分でも分からなくなってきたが、それで
も探し回り続ける。


永遠にも等しい時間が経ったように感じた頃。
小さな出口、通る事は出来ないが覗き込むことはできる出口を見つけ、覗き
込む。

はっとする。

ここは確かに里のある場所だ。
地形に見覚えがある。

だが、あたりの風景は一変していた。

里のあった盆地の端のあたりには「鉱山入口」と墨で書かれた大きな看板が
あった。
盆地には深い穴が幾つも穿たれ、半裸の男たちが忙しく出入りしている。

建物が一つあり、そこには暦が掛けられている。
不思議な事に、視点がそこに近づいていく。

月と日付が大きく書かれ、その上に年号と数字、それから漢字二文字が書か
れている。
これは何だったか。
水銀燈はシカ婆さんから教わった暦の知識を必死で思い出す。
年号は朝廷の都合で変わるから参考になる場合とならない場合がある。
漢字二文字は干支の組み合わせで年を表す干支紀年だ。

ええと、甲、乙、丙・・・甲子、乙丑、丙寅・・・・・・


95 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/05(日) 18:11:30.15 ID:luXZotpa
・・・。・゚・(ノД`)・゚・。

でも
この水銀燈は
きっと、きっと、きっと。

96 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 18:13:50.28 ID:s7hT0b5N
え?そんな馬鹿な!

もう一回頭の中で計算し直す。

水銀燈の全身から力が抜ける。
普通の世界ならへたり込んでいただろうが、ここは重力のないnのフィール
ドだ。
水銀燈の体は力が抜けて宙を漂う。


人生五十年。
カワセミの言葉が思い出される。

nのフィールドの特性なのか、並行世界に出入りしたせいか、あるいは本当
にそれだけの時間が経っていたのか。

干支紀年で表された年は・・・人間の寿命にとっては、あまりに長い時間が
過ぎてしまっている事を示していた。


みんな・・・ごめんね、みんな・・・

自分だけが、こんな風に生き残ってしまった。

涙が流れ始める。

nのフィールドを、水銀燈の体がゆっくりと漂い始める。


みんな、いい人で・・・良くしてくれて・・・
ちゃんと生きてて・・・
カワセミは命がけで・・・命を捨ててまで・・・自分を・・・


カワセミとの絆・・・みんなとの絆・・・


自分は・・・絆を貫き通せなかった・・・

絆に殉ずる事ができなかった・・・


水銀燈の体がnのフィールドを漂って行く。


涙の雫の筋を引きながら。



97 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 18:15:20.15 ID:s7hT0b5N

※ まだ終わりじゃないです。念のため。



98 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 19:12:19.19 ID:s7hT0b5N
>>95
コメントありがとうございます。
ええ、泣いてあげてください。

>きっと、きっと、きっと。

きっと、何なのかはいくつも考えられるので分からなかったのですが・・・
まだ、水銀燈の人生(人形生)は続いていくのです。
こんな事があっても。

99 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 19:30:57.22 ID:s7hT0b5N
      乳酸菌とってるぅ? 


            後編 インターミッション


   〜 現代、廃教会 〜


銀「・・・・・・またお父様を探し始められるまで、かなり長い時間がかかった
わ。長い、長い時間が。」

うつむいた水銀燈の顔は半ば銀色の前髪に隠されており、その表情は窺い知
る事ができない。


銀「・・・誰が何のためにあんな事をしたのか、結局分からなかった。

最後、鉱山が見えたけど・・・後から考えると、あれはちょっと怪しいのよね。
あれは私を諦めさせるためにラプラスが見せたのかもしれない。
nのフィールドからしか見てないしね。

もっとも、あれが嘘だったとしても・・・里は・・・みんなは・・・・・・」

水銀燈は俯いたままだ。
メイメイも掛ける言葉が見つからない。


銀「・・・そして・・・私は漂い続け・・・探し続け・・・疲れ切って・・・
真紅とサラの家に辿り着いて・・・」

口調が一瞬激しくなる。ゆらり、と暗く激しい何かが立ちのぼる。
思い出すのも嫌な記憶。

銀「お父様からローザミスティカを頂いて・・・」

そして、真紅のあの仕打ち。
怒りと屈辱。
心の中に積もった闇が溢れ出す。

銀「この翼を得て・・・・・」

そして、水銀燈は大きな「何か」を失った。(ローゼンメイデン オーベルテ
ューレ参照)


100 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 19:42:06.61 ID:s7hT0b5N

作者註:
あまりに長くなったのでお忘れの方も多いかと思いますが、この物語は現代の
廃教会で、水銀燈がメイメイに昔の事を話すシーンから始まっています。
もう、その部分のある前スレは落ちちゃいましたけどね。


あと一応、今後の目次を。

後編 インターミッション   ←今ここ
後編 第二の章
エピローグ

となります。第二の章は第一の章と比べるとずっと短いです。

・・・正直、編分けや章分けは失敗してますね、これは。
すいません。

ちなみに終了まであと20日前後の予定です。

101 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/05(日) 21:26:04.80 ID:s7hT0b5N

しばらくすると、水銀燈は一回大きく深呼吸し、顔を上げ、背筋を伸ばして
足を組む。

振り切るように口調を一変させる。

銀「結局ねぇ。漬物の里とか醸しの里って言ってたけどぉ、ほとんど乳酸菌の
里だったのよねぇ。」

(メイメイ)ふよふよ。

銀「え?何で分かったかですってぇ?あんたが読むように勧めた新聞に書いて
あったんじゃなぁい。」

そういえばそうだった。
新聞を勧めたわけではないのだが・・・

85万時間ほど前の話だ。
その頃、人間の科学技術という物が急速に発展してきていた。
水銀燈はそれには無関心だったが、妹たちの中にはマスターを通じ科学技術
の産物に詳しくなった者もいた。
そしてアリスゲームの際、そういった産物をうまく利用した、自分よりずっ
と劣る妹に水銀燈は再三出し抜かれ、逃げられてしまったのだ。

怒り狂う水銀燈に困惑したメイメイは、水銀燈も何らかの手段で人間の社会
や技術について最低限の知識を得るように勧めた。
その頃は鉄道の駅のそばの倉庫を住処にしていたため、新聞が一番手に入れ
やすかった。
鉄道を利用する人間の中には、新聞を一度読むと置いていってしまう者が結
構いたため、入手は楽なものだった。

丁度その頃、ブルガリアヨーグルト、そして乳酸菌の健康効果とやらが話題
になっており、新聞もちょくちょく乳酸菌について取り上げていたのだ。

アリスゲームのためとは言えこんな下らない物を読むなんて、と文句を言い
ながら新聞を読み始めた水銀燈だったが、すぐに結構楽しんで読むようにな
り、マメに新聞を読むようになる。
現在でも時々読んでいるようだ。
読書好きの真紅とかぶるのを嫌がっているだけで、本当は読む事が好きなの
だろう。
・・・そんな事を水銀燈自身に言えば間違いなく怒り狂うだろうから口には
しなかったが。

102 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/06(月) 00:02:30.74 ID:hpCP7woD
すんき漬けの里だったのかな

エンディングまで目が離せませんね

103 : ◆TEGjuIQ24E :2011/06/06(月) 03:02:35.55 ID:PJmRqKN1
 やっとここまで読めました……
なんか、込み上げるものがありまして、
やっぱね、日常ってのは大事なものなんだなー、と……
>>87のカワセミの笑顔描写、目頭が熱くなりました。
もう本当に前・中編乙っしたっ……!!

 またも何かが始まりそうな予感がします。
乳酸菌さん、俺ァ最後までついていきますぜ!
続き楽しみにしております!!

104 :ブルガリアヨーグルトがもてはやされて早40年:2011/06/06(月) 13:59:22.05 ID:H+E/qC4p
読み落としていた
850,000時間後……だと……!?
舞台は既に未来だったのかッ!

これはやられた……

105 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:25:19.25 ID:PojudKzi


>>102
コメントありがとうございます。

お詳しいですね。
俺は今作のために調べるまですんき漬けを知りませんでした。
長野・山梨周辺の方ですか?

特にすんき漬けだけとは考えていませんが、塩が貴重な山の中で作る漬物だ
と、ああいう塩をあまり使わない乳酸菌発酵の漬物が主になりますよね。
そういった点と、奈良時代から日本にある伝統的なヨーグルト「酪」の生産
があった事から水銀燈の「乳酸菌の里」の発言になっています。

エンディングまであとしばらくお付き合いください。

>>103 TEGさん
コメントありがとうございます。
読み込んで頂いてありがたいです。

そう、日常の大切さ、それゆえに際立つ「いざという時のあり方」。
これはローゼンメイデン原作の重要な点の一つですし、もちろん一般的にも
大切な事ですよね。
そのへん、注目していただけて本当に嬉しいです。


あと、完全に書き手側の話ですのでちょっと蛇足にはなりますが・・・水銀
燈たちの里での暮らしの描写は楽しかったです。
ついつい、長引く程にw
しかし、書きながらもストーリー上こうなる事を知ってたわけで・・・結構、
切ないものがありました。

原作で桜田家のメンバーのほのぼのパート→雪華綺晶登場、劇的な展開へ、
の部分を書くとき、桃種先生もこんな気持ちだったんですかね・・・

分量的にはもう残り少ないですが、どうぞ最後までお付き合いください。

これからしばらく、暗い部分が続きますが・・・

106 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:29:39.67 ID:PojudKzi
>>104
コメントありがとうございます。

すいません、説明不足でしたね。
日本でのブルガリアヨーグルトの普及、という点で見ると40年前後しか経
っておらず、おっしゃる通りです。

85万時間、というのはヨーグルト関連のサイトで調べた、以下の記述から
概算しました。(若干の誤差は大目に見てやってください)


******

1900年代初めには、ロシアのメチニコフという学者が、ブルガリアの人々が
長生きなのはヨーグルトに含まれる乳酸菌の効果によるものが大きい、とい
う説を唱え、以来、ヨーグルトは健康食品として世界に広められるようにな
りました。

 〜ヨーグルトの歴史|乳酸菌の効果(ttp://www2.dzsq.net/post_3.html)より引用

******


ですが、貴重なご指摘を頂きましたね。
里での話が続いたので、(里は勿論日本です)話の舞台は全て日本に見えて
いるかもしれない・・・

作者註を入れておいた方がよさそうです。

ご指摘ありがとうございました。

107 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:42:09.36 ID:PojudKzi
作者註(補足):
作品の舞台になった場所ですが、「里」は勿論日本のどこかです。
廃教会も原作通り日本のどこかです。

ですが、インターミッション等で回想しているシーンの舞台は日本とは限りません。
インターミッションで出てきた新聞のエピソードはヨーロッパのどこか、での話です。
オーベルテューレの舞台も勿論ヨーロッパ(多分イギリス)ですしね。

108 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:46:36.33 ID:PojudKzi

水銀燈は立ち上がり、先に持ってきた器といくつかの皿を洗面所で洗う。
幸いにして水道はちゃんと機能しており、水には不自由しない。

次いで物置に行き、灯油の入った青い安っぽい大きな容器・・・新聞によればポ
リタンク、という物だそうだ・・・を台車に載せて持ってくる。
廃教会の隅に据えつけられていた年代物の石油ストーブのタンクの蓋を開け、
苦労しながら灯油を入れる。

銀「まったくぅ、人間ってどうしてこんな不便な容れ物を作るのかしら。ド
レスが汚れちゃうじゃなぁい。」

ドールにとっては胸ほどの高さのある容器で確かに扱いづらく、水銀燈がぼ
やくのも無理はない。
しかし、この容器でないと駄目らしいのだ。

ある時、たまたま道路を見ていたら、建物の裏にこのポリタンクという物が
たくさん並んでいた。
しばらく経ってから見ると、それらのポリタンクにみんな灯油が入っていた。

水銀燈とメイメイは、廃教会の物置に同じような青いポリタンクが入ってい
るのを見つけていた。
次にポリタンクが並んでいる時にそれを一緒に置いておいてみたら夕方には
灯油が入っていた。

どういう仕組みで灯油が入るのかは分からないが、ガスも電気も来ていない
この廃教会では石油ストーブが唯一の暖房であり、煮炊きの道具なので、灯
油があると助かる。

助かるが、水銀燈とメイメイにとってはもっと小さな容器の方が望ましい。

次にポリタンクが並んでいた時には小瓶や花瓶、水差しなども置いてみたの
だが、それらには灯油が入っていなかった。
どうしてもポリタンクでないといけないらしい。水差しや花瓶の方がずっと
綺麗だし便利なのに。
人間のやることは不可解だ。

109 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 21:54:38.91 ID:PojudKzi

水銀燈は石油ストーブに火をつける。
百年ぐらい基本構造がほとんど変化していない道具であるし、以前に鉄道の駅
舎で使っているのを何度も見たので使い方は分かる。

そして、ヤカンをゆすいで水を入れ、ストーブに乗せる。

とりあえず、作業はそれで一段落らしい。
ストーブから少し離れた椅子に座る。

メイメイは気になっていた事をきいてみる。

(メイメイ) ふよふよ。

銀「え?話の続きぃ?続きなんかないわよ。
・・・それにアンタ、ローザミスティカを得た後のことは知ってるでしょぉ?」

(メイメイ) チカチカ。

銀「ああ、まあ、別行動した時の事はあまり話してないけどぉ・・・別にい
いじゃなぁい。」

ふよふよ。

チカチカ。

ふよふよ。

銀「ああ、もう、分かったわよ、もぅ。話してあげるわよ。
お湯が沸くまでの間だけよ?

全くもう、アンタって詮索好きなおばさんの魂から作られたのぉ?」

水銀燈は椅子に座りなおす。

銀「言っとくけど、大した話じゃないわよ?

あれは目覚めの順番で言うとぉ・・・57万時間ぐらい前の大きな戦争の時代、
石造りの町、軍隊が寝こけてて、パンツァーとか戦車とか呼ばれてたブサイ
クな鉄の塊があって・・・そんなのの上空で真紅とやりあって、結局逃げられ
た時があったでしょ?(トロイメント6話、水銀燈の回想シーン参照)

その次の目覚めの時・・・・・・」




110 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/06(月) 22:52:10.76 ID:PojudKzi


      乳酸菌とってるぅ? 


               後編 第二の章
  


キリ。

ぜんまいが巻かれている。


キリ、キリ。

今回は随分早い目覚めだ。
前回から7万時間も経っていない。


キリ、キリ・・・

前回の、今までの記憶が戻ってくる。
途端に胸の中に憎しみと苛立ちが湧き上がる。


キリ、キリ、キリ・・・

憎い。
真紅、妹たち、人間ども、運命・・・絶望・・・
憎い。真紅。壊してやる。


キリ、キリ、キリキリキリキリ・・・

壊してやる。壊してやる。

壊してやる!

今や呪われたドールとなった水銀燈が暗く燃える目を開く。


111 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/07(火) 18:10:59.50 ID:oDKJTnye

憎しみと苛立ちに満ちて目覚めた水銀燈だったが、とりあえずは肩透かしを
食らった形になっていた。

目覚めた場所の周囲には、最も壊してやりたい真紅どころか、姉妹たちの気
配が一切なかったのだ。

憎しみも苛立ちもぶつける相手の居ないまま、胸のうちでどろどろと熱く渦
巻いている。

水銀燈の纏う雰囲気は昔とは全く異なっていた。
容姿自体は変わらない人形なのに、どうしてここまで雰囲気が変わるものか、
昔の彼女を知るものが居たら驚くだろう。

赤い目は暗く燃え上がり、眉と目は吊り上がり、全身から暗い靄が立ち上る
かのようだった。

不吉な、最凶の、呪われたドール。
水銀燈自身、それが己に相応しい事を疑わなかった。

そうとも、自分のあり方も、能力も、容姿も・・・黒い羽、闇の色の服、逆十
字・・・何もかもが呪われたドールに相応しい。

別に黒=闇ではないし、逆十字には色々な意味があるのだが、そんな事は今
の水銀燈の頭には浮かびもしなかった。

自らの放つ恐ろしく凶暴な雰囲気の中に、ひとかけら、別の物が混じってい
る事にも気づきはしなかった・・・気づこうとはしなかった。


自分達は絶望するために生まれてきたのだ。

あのいい子ちゃん人形の真紅にも、のんきな妹どもにもそれを分からせてや
る。
壊し、バラバラにして思い知らせてやる。

アリスゲームの事を忘れているわけではないが、どちらが手段でどちらが目
的なのか、最早分からなくなりつつある。


禍々しい気を放ちながら、メイメイとともに夜空を飛ぶ。


112 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/07(火) 19:28:21.56 ID:wzY112l2
更新乙です

漫画の銀の字はめぐにのめり込むまでは遊びでアリスゲームしてるように見えるけど
アニメの銀ちゃんは破壊衝動の塊だからなぁ……(´;ω;`)
穏やかな日々が訪れますように……(‐人‐)

113 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/07(火) 22:38:23.49 ID:oDKJTnye
>>112
コメントありがとうございます。

そうそう、漫画とアニメで水銀燈は結構違うんですよね。
温度差があるって言うか・・・
個人的には遊びっぽいのか、余裕がある(つもりでいる)のか判断に迷う部分
も多いんですが。

一応、今回の作品では原作の要素も入れつつ、ややアニメ寄りの立場のつもり
です。

これからの展開がお気に召すかどうかは分かりませんが、もうしばらくお付き
合いください。

114 :「乳酸菌とってるぅ?」:2011/06/07(火) 22:41:52.35 ID:oDKJTnye

目覚めてから半月程が過ぎた。
姉妹は未だに一人も見つからない。

水銀燈は少々うんざりし始めていた。

今回、水銀燈のぜんまいを巻いたのは、サーカスとか言う旅芸人の一座の少
女だった。
空中ブランコ乗り、というのが主な仕事らしい。
ちらりと見ただけだが、実際、その空中ブランコと言うのはなかなか見事な
物だった。
空を飛べない人間が良くあんな事ができるものだ。

華やかな舞台で派手な衣装を身に付け、見事なショウを見せて笑顔で大見得
を切る少女だったが、その素顔はうって変わって暗く、孤独に苦しみ、怯え
ていた。
天涯孤独で一人も身寄りがいないのだそうだ。
自分は一人ぼっちで、誰も信じられず、誰にも心を許せない。
そう語っていた。

少女は職業柄、体力がある。
しかも空中が好きだし、暗さや孤独も持ち、水銀燈とは波長の合う部分もあ
る。
それゆえ、最初は糧として理想的だと思っていた。
この少女を選んだメイメイを褒めてやろうと思ったぐらいだ。

困ったのはその移動距離だ。
少女が、というよりも少女が属するサーカスがだが、頻繁に非常に長い距離
を移動するのだ。
自分は翼を持つ者で、真紅のような引きこもり人形とは違うのだから、多少
の移動など問題にならないと最初は思っていた。


115 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/07(火) 22:45:16.89 ID:oDKJTnye

しかし、人間の移動手段の進歩が急激だったとみえ、このサーカスは列車や
船、航空機を使って一晩でとんでもない距離を動く事があった。
優れた翼を持つ水銀燈でさえ、もしも自力で飛んでいたら追いつく前に力が
尽きてしまう程だ。

別に常に少女と一緒にいる必要はないものの、やはり時々は糧から力を吸い
取る必要があったし、鞄の問題もある。
次第にこの極端な移動は負担になってきていた。

今の所、少女と契約はしていない。
水銀燈はこの少女との契約は見送るつもりになっていた。
あまりに不便すぎる。
落ち着いて姉妹を探すことも出来やしない。

もっとも、複数の姉妹が同時に目覚めていて、手を組んで水銀燈を攻撃して
きた場合にはそんな悠長な事は言っていられず、全力を使えるように契約を
せざるを得ないかもしれないが。


二日後にはまた移動だそうだ。

やれやれ。
もう、ついていくのは止そうかとも思ったが、鞄の置き場所と糧にする人間
の目途が付くまではついていくしかない。

とりあえず、この周辺に姉妹の気配がないかだけは調べておかねば。

メイメイと手分けし、空を飛び回って姉妹の気配を探す。


116 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/07(火) 22:46:10.74 ID:oDKJTnye

一応トリップ付けておきました。


117 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/08(水) 18:35:12.06 ID:TwQncXj+
さらに何日かが過ぎた。

依然、姉妹たちの手がかりはない。
苛立ちは募るばかりだ。

いったい、あれから何度移動しただろう。
さほど距離は長くなかったが、こうしょっちゅう移動すると気疲れする。

別の糧や住処も探してはいるのだが、そう簡単に見つかるものではなく、依
然水銀燈は少女の属するサーカスとともに居た。

まあ、無理やり探せば良い事もないではない。
サーカスは雑多な荷物だらけなので、水銀燈の鞄は全く目立たなかった。
人形もたくさんあるし、仕掛けのある小道具もたくさんある。
ひょっとしたら水銀燈が歩き回っていても、誰も気にしないかもしれない。
そこまでする気はなかったが・・・

もっとも、見つかった場合、金と客の入りの事しか考えていない、あのろく
でもないサーカス団長は大喜びで水銀燈を見世物にしようとしかねない。
見つからないにこした事はない。


この場所での滞在はまた短いという事なので、少女にぜんまいを巻かせ、水
銀燈は夜の探索に出かける。


かなり遠くまで飛んでみたのだが、相変わらず姉妹の気配はない。
水銀燈は一休みしようと、見晴らしの良い場所に立っている木の電柱の上に
降り立ち、座る。

足の少し下のところに傘のついた白熱電球がついており、あたりをぼんやり
と照らし出している。
微かに電球の温かさが脚に伝わって来て心地よい。

風に吹かれながら、眼下に広がる景色を眺める。

この辺りはほとんど近代的な建物がなく、自然の森と昔ながらの民家しかな
い。
面白みはないが、穏やかな眺めだ。

ふぅ・・・


118 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/08(水) 18:40:44.41 ID:TwQncXj+

真紅は、妹たちはちっとも見つからない。
薔薇乙女は一人だけ目覚める事もないではない。
もし、今回がそうであれば目覚め続ける意味は無く、再び眠りにつくしかない。
いや、時間を無駄にしないためにもすぐに眠りにつくべきだ。

しかし・・・何故か、今回の目覚めは全く無意味ではない、という気がするのだ。
特に根拠は無く、水銀燈の勘でしかなかったが。


それにしても静かだ。
ついつい、しばらくぼーっとしてしまう。

何となく、今の糧候補の少女の事を思い出す。
糧としては役に立ちそうだが、なかなか鬱陶しい子でもある。

最近、少女は水銀燈を怖がっているくせに、べたついてくる。
よっぽど寂しいのか、病んでいるのか。
あなたは私のお友達だの、あなたしかいないだの。

あなたと私の間の縁だの、絆だの。

縁・・・絆・・・絆!!

一瞬で胸のうちに怒りと不快感が湧き上がる。
絆!なんて下らない不愉快な言葉!!

思い出すことさえ避けている事が浮かんできそうになり、頭がカッと熱くなる。

ブーツの片足を上げ、足元の電灯をかかとで思い切り蹴り付ける。

電球はかしゃん、と甲高い音を立てて割れ、一瞬火花が散った後、あたりは暗闇
になる。

電球の破片が地面に落下し、下の方からちゃりん、かちゃんという小さな音が
しばらく続く。

暗くささくれだった心の表面を、その甲高い小さな音が撫でていく。


119 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 16:09:29.95 ID:act4+AD5

結局、前の場所では何も見つからなかった。

数回移動し、今回はサーカス一行は大きな繁華街の真ん中にある公園にテン
トを張る。

あたりは人、人、人。
そして雑多な店。
息が詰まりそうだ。

鬱陶しくてかなわなかったが、人がこれだけ多いと糧候補が見つかるかもし
れない。
勿論、姉妹たちがいる可能性だってある。
・・・真紅はこういう所には居なさそうな気がするが。

ともかく、水銀燈は探索に出ることにする。


ちょっと探してみただけでうんざりした。
何だ、この下らない人間だらけの臭い場所は。

繁華街の中央部から遠ざかり、小さな店や民家が並んだ裏通りに行く。
ようやく少しだけ落ち着き、ため息をつく。

人間たちはよくこんな所に集まるものだ。
全く、度し難い愚かさだ。
ますます人間が嫌いになる。

いらいらしながら裏路地を探索する。
一応、目立たないように屋根の高さぐらいの所を静かに飛ぶ。

路地は人がほとんどおらず、静かではある。
比較的店が集まった場所があり、何軒かの店にはあかりが付いている。
工事中の店も何軒かある。

道路にはゴミがいくつか落ちており、電柱にはいい加減に張られた看板や張
り紙が目立つ。
どうという事もない繁華街の裏通りだが、苛立ち、ささくれだった水銀燈に
は落ちている紙くず、曲がった看板、破れた張り紙、そんな些細な事さえ気
にさわる。

舌打ちしそうになりながらしばらく飛び回る。
姉妹の気配も、目立つ何かもない。

一休みしようと、一軒の家の塀に降り立つ。


塀の向こう側から何かが歩いてくる。
ああ、猫か。
どうでもいい。


120 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 16:24:18.45 ID:act4+AD5

しかし、猫は水銀燈の方へ歩いてくると、何が気に喰わなかったのか水銀燈
をにらみ付け、毛を逆立ててフーッ、と威嚇する。

どうでもいい事なのは分かっていたのだが、苛立ち続けていた水銀燈は一瞬
カッとなる。
すっ、と翼を開き、猫に向かって羽根を一本飛ばす。

ふぎゃーっ!
猫は大きな悲鳴をあげて逃げ出す。
水銀燈は最早そちらを見ようともしない。

男の声1「ん〜、なんだなんだぁ?」
男の声2「すげえ声したよなあ?」

近くの店から出てきたらしい二人連れの男がふらふらと危なっかしい足取り
でこちらへ歩いてくる。
二人の男は若くないが年寄りという程でもない。
そろって地味なズボンをはき、白いシャツを着ている。
一人は首のところ、シャツの襟の下に細長い布・・・確か、ネック・タイとい
う物・・・を結び付けている。
もう一人は、何故かその布で額の所にはちまきをしている。

二人の男からはアルコールの匂いがぷんぷんした。
水銀燈は悪臭に顔をしかめる。
元々アルコール臭はあまり好きでないうえ、男たちの振りまいているアルコ
ールの臭いは酷かった。
まともに醸した酒なら絶対にするはずのない、粗悪なアルコールの匂いだ。

トラブルにならないように隠れるべきではあったが、何故かその気になれず、
水銀燈はそのままで居た。

男たちの一人が足をふらつかせながら近づいてきて、水銀燈に気づく。

男1「おあ?何だおめーは?」

不愉快だ。
銀「はぁ? 何のつもりだ、ゴミの分際で。気安く話しかけるな。」

男1「なんだとぉ?」
男2「やんのか、この野郎?」

男達の片方がふらふらしながら、工事現場の端っこに落ちている棒を手にし
て振り上げて凄む。
まるで迫力がなく、足元もふらついていて、かけらも危険を感じなかったが、
もう苛立ちの限界だった。


121 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 16:36:03.67 ID:act4+AD5

銀「クズが!」

一瞬で精神を集中し、たくさんの小羽根を巻き上げて飛ばす。
無数の小羽根が二人の男に叩きつけられ、舞い上がり、視界をなかば塞ぐ。

男1「うわあっ!何だこれ!」
男2「く、クソったれ!」

2枚の大きな羽に意識を集中すると、狙いすまして飛ばす。

男1、2「ぎゃああっ!」

狙い過たず、棒を持った男の腕と、もう一人の男の顔に命中する。

男1「い、痛ぇ〜!!」
男2「ああああ・・・」

二人は羽根が突き刺さり、血が流れ出した傷を押さえて転がる。

銀「あーっはっはっは、おばかさん!!」

サディスティックな喜びが湧き上がってくる。
水銀燈の唇は吊り上がり、残虐な笑みが浮かぶ。

冷たい笑みを浮かべたまま、ゆっくりと男たちに近づく。

男「ひぃっ!」

さらに2枚の羽に精神を集中する。
狙いすまして・・・


・・・急にテンションが下がる。
何をやっているのだ、私は。

馬鹿なことをした。
こんな、「物」にあたるなんて。

ちらりと男たちを見る。
二人とも腰を抜かしている。
しかし、一人は腕を怪我しただけだし、もう一人も額を浅くえぐっただけだ。
本当に壊れはすまい。

羽根から力を抜き、もはや男たちに目もくれず、後味の悪さを感じながらそ
の場を立ち去る。


結局、この日も、妹たちも糧候補も見つからなかった。

122 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 22:31:05.04 ID:act4+AD5

>>121の末尾の一文、微妙におかしいですね。訂正。


結局、この日も成果は無く、妹たちも糧候補も見つからなかった。



123 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/09(木) 22:35:03.03 ID:act4+AD5

またもや移動だ。

全くうんざりだが、今回は少しだけマシな点があるらしい。
今回訪れる町はこのサーカス団にとってゆかりのある町であり、しばらく滞
在するということだ。

どう移動したかも分からない長距離移動が続くのがこたえていた水銀燈はほ
っとする。


町に到着する。

地方都市、という所だろうか。
あの繁華街ほど混み合っていないが、そこそこ大きな建物も民家もある。
町のあちこちに書かれた文字は理解できる文字、漢字とかな文字だ。
何故かイングランド語も多少見かけるが。

ともかく、ようやく落ち着いて探索ができそうだ。

ずっと一緒にいてくれ、という少女を無視し、ねぐらにする場所を探す。


丁度いい建物が見つかった。
地味な頑丈そうな建物で、そこそこの高さがある。
建物の正面には「町立図書館」と書かれている。
最上階の裏側に屋根裏めいたスペースがある。
窓から覗くと、がらくたがたくさん置かれており、ほとんど使われていない
ようだ。

おあつらえ向きだ。
窓枠に手をかざして念を込め、ちゃちな鍵を開け、中に入る。
何年もに渡って誰も入った形跡がない。
よし、ここを寝ぐらにしよう。

メイメイと一緒に簡単に掃除をし、寝ぐらとして使えるようにする。
埃を払うだけなので大した時間もかからなかった。

残った時間でその建物の周辺をざっと探索する。
やはり、姉妹の気配はなかった。

そろそろ休むべき頃合だ。
本格的な探索は翌日にすることにし、休息を取る。

124 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 16:38:28.61 ID:Y8B6QuSZ

翌日。

本格的にこのあたりを探索する事にする。

高く飛んで全体的な地形を把握したあと、町全体を見渡せる高台へ向かう。

高台の端にある電柱の上に降り立ち、町を見下ろす。

銀「・・・小汚い町ね。」


確かに町はあまり綺麗ではなかった。
森や林はあちこちが欠けていた。
町も廃墟同然の状態の場所も多いし、建築中の建物も多い。
それに建っている建築物も粗末なものが多かった。

しかし、町には活気があった。
この国を荒廃させた戦争・・・世界中を大混乱に陥れた大戦争の一部でもある
・・・が終わってしばらく経ち、ようやく復興が本格的になってきたのだ。
まだまだ綺麗な建物は建てられないものの、雨後のタケノコのように新しい
建物が建ち、人間が忙しく出入りしていた。

皆、まだ貧しかったが、復興の活気に満ちていた。


125 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 16:45:06.90 ID:Y8B6QuSZ
しかし、その復興から取り残された者もいた。

町の外れの、誰のものともはっきりしない炭焼き小屋。
そこに薄汚れた男が寝転んでいた。

まだまだ貧しい時代のこと、粗末な服装の者は珍しくない。
その中でも男が薄汚れて見えたのは、その内面的なあり方ゆえだった。

男はそれほどの年齢ではなかった。
若者と中年の境目ぐらいの年齢だろうか。

男はこの小屋以外には家を持たなかった。
職にも就いては居なかった。
時々、日雇いの肉体労働をすることもあったが、主な収入源は別にあった。
金属拾いだ。

この頃、金属の需要が増えていたため、拾った金属くずを然るべき場所へ持
って行けばそこそこの値段で売れた。
それ自体は別に問題の無い事だ。

しかし、男はそれだけでなく、人目を避け、落ちているのではない金属・・・
普通の建築物に使われている金属や神社仏閣の装飾の金属、それ以外にも明
らかに誰かの所有物である金属をも「拾って」いた。

平たく言えば金属ドロだ。

やっている事は勿論悪い事なのだが、どちらかというと無気力ゆえにそんな
生活をしている小物であり、悪人というよりも、単にチンケな存在だった。

そして、その事を男自身も良く分かっていた。

男は上体を起こすと、傍らの徳利を持ち上げ、中身の安酒をあおる。

拳で口元を拭うと再び体を横たえる。

126 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 22:33:06.69 ID:Y8B6QuSZ

水銀燈は町の上空を飛ぶ。

町の隅々まで調べようと思うと結構広い町だ。
もっとも、建物の密集した都市部、と呼べる部分はさほど広くない。

図書館は都市部の端の方にあり、ちょうどそのあたりが都市部と旧来のまば
らな町並みの境界だ。

まずは都市部側を捜索する事にする。

夕闇に紛れて都市部をざっと一周する。
姉妹の気配はないようだ。

夜も探索するか迷う。
まだ力は残っているものの、何の目途も立っていないので、いつ長距離の捜
索をすることになるか分からない。
一旦、糧の所に戻って力を補給しておいた方がいいだろう。
少しはあの少女の相手をする羽目になるが。



夜が来て、例の金属ドロ男はむくりと上体を起こす。

ぼちぼち、北のはずれの賭場が開く頃合だ。
多少の金はある。
行くか。

徳利から一口、酒を飲んで口を湿らせると、男は立ち上がり、小屋から出る。

まばらではあるが、町の明かりが見える。
ずいぶん増えたものだ。

この町は地方都市に過ぎないが、軍の施設があったためにアメリカ軍の爆撃
にさらされ、一時はほとんどの大きな建物が無くなった。

男が青年期までを過ごした家も燃えてしまった。

それも惨いことではあったが、本当にひどかったのはその後、戦争が終わっ
た後だった。


127 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/10(金) 22:36:55.16 ID:Y8B6QuSZ
家のあった場所に、たちの悪い連中が居座ったのだ。

土地の所有を証明するのはそこに住んでいる事(借りている場合を除く)、
権利関係を証明する書類、そして土地の登記だ。
戦災によって住民が家を失って土地を離れ、火災などで権利書類を失い、し
かもその地方の登記所も焼失した場合、所有を証明する事が難しくなる。

それに目をつけたたちの悪い連中が、めぼしい土地に強引に居座る。
本来の持ち主は自分の土地である事を法的に証明できず、そうなると警察も
動けない。
結局、土地はたちの悪い連中に奪われてしまう。
そういったたちの悪い犯罪が戦後すぐには何件か起きていた。

男の土地はその被害にあったのだ。

勿論、思いつく限りの手段で土地を取り戻そうとしたのだが、結局、法的に
所有を証明することはできず、組織された悪党どもに対抗できなかった。

土地を失った事もショックだったが、男はそれ以上に人間の醜さにショック
を受けた。
ただでさえ、戦争とその後の混乱で親類縁者と自分の家を失っている。
さらに、土地を取り戻そうとする努力に疲れ、混乱期に生きる事に疲れ・・・
男は全ての気力を失った。


遅く生まれた子供で親とは年が離れていたため、両親は既に他界している。
もう、親類縁者も全く残っていない。
男は元々、この地方に古くからあった有名な寺の住職の一族である。
住職の家系である本家にごく近い分家にあたる家の生まれであったが・・・


男はとぼとぼと舗装されていない道を歩いていく。

南の方には山があり、その中腹には未だに焼けて黒ずんだ残骸が見える。
だいぶ伸びてきた木々に隠れたものの、まだ目立っている。

それが、寺の今の姿だった。
戦争末期、爆弾を満載したアメリカの大型爆撃機が寺のすぐ脇に墜落したの
だ。
現場を見ていた人の話によれば、山ごと吹き飛ぶかと思うような大爆発だっ
たそうだ。

由緒ある寺と、その周りに住んでいた親類縁者は一瞬で失われた。
生き残ったのはたまたま出かけていた男だけだった。

安酒で濁った頭の隅でうっすらとそんな事を思い出しながら、男は独りとぼ
とぼと賭場へ歩いてゆく。


128 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/11(土) 00:07:01.46 ID:rJBkf9Oa
>>127は誇りうる……
物語がある…!
投下を始めた頃から……
何度も言われてきたはずだ……!
乙だ…って…!

129 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:18:32.48 ID:puRwBdU5

>>128
ざわ…  ざわ…
コメントありがとうございます。 ざわ…

(うろ覚えなんですが、元ネタ、カイジかそのシリーズで合ってますよね?)


物語と言えば、>>127に出てきたような不動産乗っ取りは第二次世界大戦後の
日本で実際に何度も起きたことだったりします。学校の日本史じゃこの時期の
事は教えないですけどね。
カイジの作者がこのテーマを取り上げたら凄い漫画が出来そうです。
まあ、圧力かかって出版は無理だとは思いますが・・・

130 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:20:19.46 ID:puRwBdU5

ここしばらくは雨が多い。
このあたりは雨季があるのだろうか。

曇りや小雨ならよいが、大雨になると空を飛んで捜索するのは大変だ。
そんな日はこの世界ではなくnのフィールドを探索する。
時折、力の補給のために少しだけ糧の少女と過ごす。

サーカス団のテントにはちゃんとした個室がない。
布で仕切られたせまい個人スペースはあるが、そこで大声を出せばまわりに
筒抜けだ。
逆に水銀燈と少女の側からも周りの事が良く分かるが、水銀燈にとってはそ
れはあまりメリットにならない。
変にべたついて来る少女が鬱陶しい事を除いても、長居したい状況ではなか
った。


朝が来る。
人々も人形も新しい一日を過ごし始める。

この日も今にも雨が降り出しそうな陰鬱な空模様だ。
それでも辛うじて雨は降っていないので、飛んで捜索できそうだ。

天気が悪いが、おかげで水銀燈が昼間から低く飛んでもあまり目立たない。
その意味ではこの天気は捜索日和だ。
水銀燈とメイメイは都市部の残りの部分、そして図書館と近い都市部以外の
部分を捜索する事にする。

131 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:27:36.48 ID:puRwBdU5

町外れの小屋にも朝は平等に訪れる。

普段は昼夜逆転に近い生活をしている金属ドロ男だが、何となく眠れずに起
きていた。

ここのところ、賭場では負けっぱなしだ。
まあ、賭博で常に儲かるのは胴元だけに決まっているのだから無理もないの
だが。

辛うじてすっからかんにはならずにすんでいるが、懐はかなり寒い。
せめてもの救いは、徳利にはまだ半分以上酒が入っている事だけだった。

男は小屋の中で身を起こすと、酒で喉を湿し、ぼうっとあたりを眺める。
別に何もやることなどありはしない。

小屋の中には毛布と、拾ってきた雑誌や本・・・ほとんどが露骨なエロス絡み
のものだ・・・が散らばっている。

ふと、小屋の片隅に転がっている木切れを手に取る。
小さめの徳利ぐらいの大きさの木切れだ。
いい感じに乾燥している。

ふむ、いい形だ。
男は刃こぼれした折りたたみ小刀を取り出すと、何を目指すともなく、木切
れを削り始める。
この形だと・・・四足の獣が現れるかな。
いや、縦にしてフクロウなんかかもしれない・・・

そういや、俺は学校に行ってる頃、これが趣味で特技だったっけ。
俺の一族は木彫りや彫刻がうまい奴が多いんだよな・・・そもそも、うちの分
家の誕生のきっかけになったご先祖が木彫りの名人で・・・ひい爺さんの言う
には、俺は一族の中でも特に上手くて・・・

しばらく、男は無心に手を動かす。
自分が何かの形を作るのではなく、元から木切れに隠れている形を表に出し

てやる感じで削る。

手が止まる。

自分のやっている事が馬鹿らしくなる。
こんな事して何になるってんだ。

男は木切れを放り出し、小刀を折りたたんでしまいこむ。

徳利を手にし、酒をあおる。

ようやく眠気が来て、男は体を横たえる。

132 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/11(土) 16:33:40.80 ID:puRwBdU5

作者よりご案内(?)

ここんとこ、結構いいペースで連載が進んでいます。
6/5の時点であと20日と書きましたが、もっと早く終わるかも。



133 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 02:07:31.67 ID:DKrHHMY5
やがて、男は浅い眠りから目覚め、中途半端に伸びをし、頭をがりがり掻く。
そういえば、最近髪が薄くなってきたかもしれない。
まあ、どうでも良い事だが。

さて・・・
バクチをやりに行くにはちょっと軍資金が足りない。
あちこちで工事をしてるから日雇い仕事はあるだろうが、かったるい。
また、どこかの鉄板でも剥がしに行くか。

男はふっ、と口元を歪めて自嘲的に嗤う。

コソ泥の真似事をして小金を稼いでは酒びたりになり、バクチに通う。
たまにバクチで勝つとその金でいかがわしい快楽にふける。
もうくたばっちまったけど、お堅い本家の連中がこのザマを見たら何て言
だろうか。

煩悩まみれの俗物、かな?
あの連中からはそう見えるに違いない。

だけど違うな。
俺は・・・・・・

男は少し考え込み、自分の気持ちを言い表すのに相応しい言葉を探す。
これでも、仏教系の学校でそこそこ優等生だったのだ。

酒で薄くもやのかかった頭でしばらく考え、概ね合っていそうな言葉を見つ
ける。

そう、今の俺は煩悩まみれなんじゃない。
何もないんだ。
空っぽ。
空ろ、虚ろ。

うつろなんだ。

男は再び、ふっ、と嗤う。

そう、俺はからっぽ、うつろ・・・になりかけている。

まだ、完全に空っぽにはなっていないが・・・もうじき、完全にうつろになり、
自分がうつろである事も気にならなくなるだろう。


134 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 02:13:35.70 ID:DKrHHMY5

金属ドロ・・・いや、金属拾いにいくための支度をする。
と言っても、金属を剥ぎ取るための粗末な工具数点と小刀、丈夫な袋を用意
するだけだったが。

用意しながら、男はふと考える。

もし、空ろになっていなかったら、いったい俺はどんな風に生きたいと願っ
ていたんだろう?
空ろになる前はまだ若かったから、そんなに具体的に考えてはいなかったか
もしれないが、それでも何かあったような気がする。
しばらく考えるが、最早、思い出すことができなかった。

それよりも金だ、金。



水銀燈たちの捜索は今日も空振りだった。
灰色の夕方の中、図書館のねぐらへと帰る。

最近はあちこち旅して落ち着かなかったので、動かないねぐらがあってそこ
へ帰れる事が心地よい。

帰る途中、サーカスのテントが見える。
興行の準備をしているようだ。

テントの中を覗くと、裏方の仕事をするサーカスのメンバーが数人おり、こ
まごまとした作業をしている。
糧の少女は他のメンバーから離れ、ステージになる予定の場所で独りで空中
ブランコの練習中だ。
水銀燈はしばらくの間、物陰から練習風景をながめる。


135 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 11:58:41.06 ID:DKrHHMY5

金属ドロ男は疲れ、小屋への帰り道をとぼとぼと歩く。
今日はあまり金属が手に入らなかった。

視界の端に、かつて一族が住職をつとめた寺の残骸が見える。

あーあ、あの寺が今もあればな。
本家でなくとも、うちの一族のもんが金に困る事はなかっただろう。

いや、待てよ。
うちの本家っていうのは住職の一族だが、住職に就いてからは女人に触れな
い、という戒律を厳しく守っている。
なので、基本的に住職には子供が居ない。
住職はある程度の年齢になると本家、もしくは近い分家の誰かを養子にして
住職を継がせるという変形世襲制だ。

だったら、自分が住職を継ぐ可能性も少しはあったわけだ。

そうしたら、金なんか檀家からいくらでも集まったんだろうなあ。
それに、色っぽい檀家の後家さんとかと知り合ったり出来たかもしれない。
そうなったら戒律なんか守るわけない。
楽しい毎日だったろうなあ。

・・・それがこんな事になるとはな。


他に考える事もなかったので、そのまま一族の事と住職の世襲について、ぼ
んやり考える。

住職の跡継ぎに決まるのはだいたい、本家か分家の15〜20歳位の若者だ。
時代にもよるが、その年齢だとまだ妻や子供がいないのが普通だ。
既に妻や子供が居て家庭を持っている場合、普通住職を引き受けない。

136 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 12:06:34.64 ID:DKrHHMY5

でも、例外ってのはあるもので、うちの分家ってのはその例外から生まれた
んだよな。
何百年か前のそのご先祖は若いときに、都から下ってきた、元々は宮仕えで
そこそこ身分もあった、学識ゆたかな女と結婚したとか。

その女との間に子供が出来たんだが、結局その女はどこかへ去っていき、ご
先祖は住職を継ぎ、残った子供がうちの分家の祖になった。

その女・・・いや、ご先祖様だからその女なんて言い方は何だな。
先祖のその女性は色々謎が多いらしい。
何か、不思議な術・・・あー、何だっけな。呪術?方術?陰陽?良く覚えてな
いが、とにかく何か不思議な術を使ったなんて言い伝えがあるとか。

不思議な術かあ・・・


はっ、下らない。
そんなモンあるもんか。

それより金だ、金。
酒。快楽。



図書館の屋根裏部屋。
水銀燈は窓辺にたたずみ、時折小雨の落ちてくる鉛色の空を見つめる。

最後に晴れた日を見たのはいつだろう、と思うほど、ずっと天気が悪い。
糧の少女の話では、熱帯の雨季とは違うものの、雨季に近いものがこの辺り
にはあるんだそうだ。
たしか、ツユとか言っていた。

幸い、ここ何日かは晴れはしないものの大雨にはならない事が多い。

おかげで水銀燈たちは昼間も捜索しやすかったが、未だに妹たちの手がかり
はなかった。



137 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/12(日) 23:52:19.62 ID:DKrHHMY5

またもやどんよりとした朝が来る。

水銀燈は考えこんでいた。
今回の目覚めは無意味ではない、と感じたのは自分の勘違いだったろうか。

ここしばらく、わりと行き当たりばったりに妹たちを捜し続けていたが・・・
もう少し考えて、徹底的に姉妹を捜してみる頃合かもしれない。

しばらく考えて方法を決める。

銀「メイメイ。」

ふよふよ。

銀「メイメイ、ちょっと探し方を変えるわよ。
この世界と、nのフィールドを両方とも広く捜すわ。

まずはこの建物の鏡からnのフィールドに入って、しばらく一緒に真っ直ぐ
飛ぶ。
で、その飛んだ線を軸にした円というか球を考えて。
その球から外側に、少しずつ広がりながら回って、nのフィールドの中を出
来る限り広く妹たちの気配を捜しなさい。
使える時間は・・・夜明け前までにはここで落ち合いたいから、18時間ぐらい
かしらね。

気配があるかどうかだけでいいから、そんなに細かく捜す必要はないわ。
とにかく時間いっぱい、できるだけ広い範囲を捜しなさい。

私はまずnのフィールドで球の内側を捜すわ。
それが終わったらnのフィールドから出て、この世界をこのへんを中心にで
きるだけ広く時間いっぱい探し回るから。

これだけやれば、二人合わせればかなりの範囲を捜せるはずよ。」

チカチカ。

銀「気配を見つけたら、戦わなくていいからすぐに知らせに戻りなさい。

いい?じゃあ、行くわよ。」

水銀燈とメイメイは図書館の階段の踊場にある、下の方に「寄贈 ○○商店
街」と書かれた大きな鏡からnのフィールドへ入る。

138 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/13(月) 23:28:45.54 ID:ItVp6DJz

一時間ほどのち、水銀燈はメイメイと別れ、徐々に小さくなる球を描きなが
らnのフィールドを飛ぶ。
姉妹の気配はない。

しかし、今日はどういうわけか、nのフィールド内でやたらと水晶が目立つ。
nのフィールドの風景に脈絡を求めても意味が無いのだが、それにしても多
い。
人間の世界かなにかで水晶が流行しているのだろうか?

ある場所では、まるで大量の水晶を弾丸がわりに飛ばす練習でもしたかのよ
うに水晶が散らばっていた。
水銀燈は近づき、用心しながら水晶に触れてみる。

最初に触れてみた水晶は単なる幻で実体がなかった。
触れようとした手や羽根が通り抜けるとスッと消えてしまう。

他の水晶にも触れてみる。
幻に過ぎないものが多かったが、中には普通につかめる水晶もある。
触れる事はできるが、非常に脆く、すぐにぼろぼろと崩れてしまう物もある。
全く脈絡がない。

特に意味はなかったかのかもしれない。
ふと辺りを見回すと、ここはもう無意識の海に近いあたりだ。
少し離れた所を様々な記憶やイメージが行き交っている。


不意に・・・だが、危険や敵意は一切感じさせずに穏やかに・・・何か温かくて柔
らかい物がそっと触れたような不思議な感覚がした。

水銀燈は辺りを見回す。

何もいない。

何かが触れてきたのかどうか、自分の体と周りを見回すが、何もない。
そもそも、どこに触れられたのかもはっきりしない。

気のせいだったか?
ひょっとしたら無意識の海の影響かもしれないが、少なくとも悪い物だとは
感じなかったし、気にする事もあるまい。

139 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/13(月) 23:53:12.37 ID:ItVp6DJz

捜索に戻るべく、再び飛び立とうとした時。
視力に優れた水銀燈の目が、視界の隅に小さな光る物をとらえる。

先程探していた、大量に水晶が散らばっているあたりから少し離れた場所に、
不思議な色合いの水晶のような物がある。
場所的に、先程散らばっていた水晶と関係があるのかないのか、微妙な所だ。

その水晶のような物は、おおまかには翡翠(ヒスイ)のような淡い緑色をし
た塊だった。
正確にいうと、基調になる色はヒスイ色だが、微妙に虹色のような色合い
持っており、角度を変えると少しずつ色が変わる。

別に緑色の水晶だってあるのだろうが、水銀燈は何となくその水晶が気にな
った。

用心しながら拾い上げ、顔の前にかざしてみる。
ちょうど水銀燈の手で掴めるぐらいの太さでやや細長い形をしている。
なかなか美しい水晶だ。
特に不審な点は無いようだし、特別な気配も感じない。
単に、変わった色のごく当たり前の水晶に見える。

それでも何か気になる。
後でメイメイにも見せ、よく調べてみよう。

水銀燈はその水晶をドレスの中にしまいこみ、ふたたび探索を続ける。



結局、nのフィールドの水銀燈の担当した部分には妹たちの気配はなかった。
先程の鏡から通常の世界へ戻る。


図書館の鏡から普通の世界に戻り、窓から出て空へ舞い上がる。

この周囲は既に捜索ずみだ。

建物が密集している町の中心部はほぼ探しつくした。
あとは建物がそこそこある中間部、そして外縁部だ。

中間部は今までにある程度探したが、ちゃんと系統立てて探していないので
残っている部分もある。
まずはそこを探そう。

細かく建物を観察する事はせず、気配を探すことだけに絞り、高度を高めに
取ってまだ捜していなかった部分の上空を飛ぶ。


140 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/14(火) 00:15:18.90 ID:W42HNGhU
おや、七番目さんかえ

アニメ版準拠だと一番想像力を働かせられるのが七番目さん
漫画のキラキチそのものからバラシーもどき、いえいえ全くの別個の存在
よりどりみどり、あなたのお好きな七番目さんを……

141 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:19:05.58 ID:/h6lQbC0

金属ドロ男は午後早いうちから上機嫌でふらつきながら歩いていた。

昼間だけやっている小さな賭場でバクチをし、少しだが勝ったのだ。
大儲けは出来なかったが、懐があたたかいと思えるぐらいには金を増やす事
ができた。

おかげで今日は徳利の中身はいつもの安酒ではなく、この地方の山中で昔か
ら作られている、上等な焼酎だ。

途中の店で買った焼きイカをかじりながら、焼酎をあおる。
うまい。

歩きながら飲み食いするのに疲れてきたので、適当に道端に座り込む。
さらにイカをかじり、焼酎を飲む。

うまい酒なのでついつい飲みすぎる。
男はそのまま道端で眠り込んでしまう。



この町ではない、とある場所で、とある人形師が軽く頭を抱えていた。

今、彼は新しい人形を造っている。
素晴らしい人形になるだろう。

しかし、完成に近づきつつある今、問題が出ていた。
彼はその人形に、水晶を扱って戦う能力・・・弾丸のように飛ばしたり、水晶の
中に何かを封じ込める能力を与えようとしていた。

試行錯誤の末、その能力を持たせることができたはずなのでnのフィールド
で実験させたのだが、結果は失敗だった。
色々な点で不安定だったのだ。

・・・まあいい。時間をかけて取り組むさ。
今までだって、相当に長い時間をかけてきたのだ。
このぐらいで焦りはしない。
また何十年もかかるかもしれないが、完璧な人形を造る事の方が大切だ。

人形を「眠らせ」、長期間待機状態にする。

そっと人形を抱き上げると、人形師は再び工房にこもった。


142 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:21:33.58 ID:/h6lQbC0
>>140
コメントありがとうございます。
確かに七番目は想像力を刺激される存在ですよね。

143 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:45:44.51 ID:/h6lQbC0
水銀燈は空を飛び続けていた。

町のそこそこ建物のある部分、中間の部分はほとんど捜した。
結局、妹たちの手がかりはなしだ。
しかし、この町は山間部、そして山の中にもいくつか建物がある。
そちらも捜索することにする。

建物は少ないのだが、広いので時間がかかる。
いつの間にかすっかり夜になってしまった。

あたりは闇に包まれるが、町の中心部の方角にはまばらながら街灯の明かり
が見える。
中心部以外にもぽつりぽつりと小さな明かりが見え、本当の暗闇にはならな
い。


町の南側の外縁部、もう山際になっている場所の上空を飛ぶ。
まだぽつりぽつりと建物と明かりがある。


ふと、水銀燈は不思議な感覚・・・既視感のような物を感じる。
この場所を知っているような気がするのだ。

そんな事は薔薇乙女、特にこの水銀燈にはあり得ない。
ローザミスティカの力が水銀燈にもたらす記憶力は完璧だ。
従って、水銀燈にとっては「知っている」つまり記憶にある場所、「知らな
い」つまり記憶にない場所、の二つしかないのだ。
既視感だの、知ってるような気がする、などという状態はあるはずがないの
だ。

しかし、どうしてもこの場所を知っているような気がするという感覚が去ら
ない。

暗い夜空を飛びながら、水銀燈は考え込む。
いったい何故・・・


ぱさっ、ずっ。


!!うわっ。

ついつい考え事をしながら飛んでいたため、うっかり翼で蛾(ガ)を巻き込
んでしまった。
かなり大きな蛾だ。

気持ち悪い!

144 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/14(火) 23:56:35.17 ID:/h6lQbC0

振り払おうと、慌てて強く羽ばたいたのが失敗だった。
蛾をさらに羽根の内側に巻き込んだあげく、潰してしまった。
羽根に蛾の鱗粉と体液がつく。

ぬるり。

あああ。
気持ち悪さに全身にぞぞぞ、と悪寒が走る。鳥肌が立つ。

空中でもがき、そのせいで墜落しそうになる。
慌ててばさばさと翼をはためかせ、体勢を立て直す。

蛾の鱗粉と体液はそのぐらいでは落ちなかった。
気持ち悪い。
気持ち悪い!


いつも体を綺麗にさせるメイメイはいない。
空中でばさばさともがきながら、嫌悪感に耐えつつどうしたものか必死で考
える。

ふと地上を見ると、町の中心部側、少し離れた所にそこそこ大きな建物があ
り、その端のあたりがぼんやりと明るくなっている。
目を凝らすと、何か金属の箱のような物があってそれが光っている。
箱の中ほどに紐で布か紙の束のような物が吊るされているようだ。

ちょうどいい、あれで羽根を拭こう。
地上へと舞い降りる。
金属箱は人間の背丈よりも少し大きいぐらいで、上の方がガラスの窓になっ
ており、その部分が光っている。

箱の真ん中あたりに目当ての紙の束がさがっている。
灰色がかった紙の束で、それぞれ紙の端に小さな穴が開いており、まとめて
穴に紐を通して金属箱にぶら下げてある。
ちょっとごわごわした紙だが、ペーパータオルがわりには丁度良い。

上空からは見えなかったが、都合の良いことに、近くに水道の蛇口がある。
水銀燈は紙を一掴みむしり取ると水道に歩み寄って蛇口をひねり、紙を濡ら
し、濡れタオルがわりにして羽根を拭う。

その都度、紙を新しい物に替えて水で濡らしながら何度も羽根を拭うと、よ
うやく蛾の鱗粉と体液が落ちた。
最後にまた紙を新しくして少しだけ濡らし、丁寧に羽根全体を拭う。

ああ、ようやくさっぱりした。
ほっとする。
不快さに力んでこわばっていた体からようやく力が抜ける。


はあ・・・どっと疲れた。


145 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 13:32:01.32 ID:NY3X8q2a

 〜 作者よりお詫び 〜

都合により、>>138から>>144の5ログを書き直します。

訂正があるのは前の3つだけで、後ろ二つ(水銀燈の既視感と蛾にやられる
シーン)はほぼそのままですが、一応5ログとも書いておきます。

面倒な方は、>>148まで読んだら>>151にお飛びください。
(間に別の方の書き込みが入った場合は番号がずれます)

146 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:09:03.23 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

一時間ほどのち、水銀燈はメイメイと別れ、徐々に内側へと小さくなる球を
描きながらnのフィールドを飛ぶ。
姉妹の気配はない。

しかし、今日はどういうわけか、nのフィールド内できらきら光る物が妙に
目につく。
ガラス?水晶?宝石?
ともかく、きらきらした物が明らかにいつもより多い。

nのフィールドの風景に理由を求めてもあまり意味が無いのだが、大勢の精
神世界の影響を受けて風景が変わっている場合もたまにある。
人間の世界かなにかで、そういったきらきらした物が流行しているのだろう
か?
水銀燈が見てきた今回の世界は、大戦争の始まる前の時代に比べるときらき
らした物は減っている感じだったが・・・

飛び続けているうちに、大量のきらきらした物が散らばっている場所を見つ
ける。
おかしな気配がないか気をつけながら、ゆっくりと近づいてみる。

何の気配もない。
すぐそばまで近づく。

きらきらした物は、割れている物が多い。
割れ方からするとガラスではないようだ。
断定はできないが、水晶かそれに近い物に見える。
一応、水晶と呼んでおこう。

そっと、実際に触れてみる。
最初に触れてみた水晶は単なる幻で実体がなかった。
触れようとした手や羽根が通り抜けるとスッと消えてしまう。

他の水晶にも触れてみる。
幻に過ぎないものが多かったが、中には普通につかめる水晶もある。
かと思えば、触れる事はできるが非常に脆く、すぐにぼろぼろと崩れてしま
う物もある。

あまり脈絡はないようだ・・・いや、不安定な結晶、というイメージはある
かもしれない。

まあ、直接に妹たちやアリスゲームに関係は無さそうだ。
放っておいていいだろう。


ふと辺りを見回すと、ここはもう無意識の海に近いあたりだ。
少し離れた所を様々な記憶やイメージが行き交っている。


147 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:17:30.09 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

不意に・・・だが、危険や敵意は一切感じさせずに穏やかに・・・何か温かくて
柔らかい物がそっと触れたような不思議な感じがした。

水銀燈は辺りを見回す。

何もいない。

何かが触れてきたのかどうか、自分の体と周りを見回すが、何もない。
そもそも、どこに触れられたのかもはっきりしない。

しばらく様子を見てみるが、それ以上、何も起きなかった。
気のせいだったか?
ひょっとしたら無意識の海の影響かもしれないが、少なくとも悪い物だとは
感じなかった。
まあ、気にしなくていいだろう。


捜索に戻るべく、再び飛び立とうとした時。
視力に優れた水銀燈の目が、視界の隅に気になる物をとらえる。

先程調べていた、大量に水晶が散らばっているあたりから少し離れた場所に、
不思議な色合いの水晶のような物がある。
場所的に、先程散らばっていた水晶と関係があるのかないのか、微妙な所だ。

その水晶のような物は、おおまかには翡翠(ヒスイ)のような淡い緑色をし
た塊だった。
正確にいうと、基調になる色は翡翠色だが、微妙に虹色のような色合いも持
っており、角度を変えると少しずつ色が変わる。

別に緑色の水晶だってあるのだろうが、水銀燈は何となくその水晶が気にな
った。

用心しながら拾い上げ、顔の前にかざしてみる。
ちょうど水銀燈の手で掴めるぐらいの太さでやや細長い形をしている。
見かけも感触も水晶の六角柱状の結晶そのものだ。
しかもこれはどこも割れていない。

そして、なかなか美しい水晶だ。
特に不審な点は無いようだし、特別な気配も感じない。
単に、変わった色のごく当たり前の水晶に見える。

それでも何か気になる。
後でメイメイにも見せ、よく調べてみよう。

水銀燈はその水晶をドレスの中にしまいこみ、ふたたび探索を続けるべき飛
び立つ。

148 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:24:13.86 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

結局、nのフィールドの水銀燈の担当した部分には妹たちの気配はなかった。
先程の鏡から通常の世界へ戻る。

図書館の鏡から普通の世界に戻り、窓から出て空へ舞い上がる。

この周囲は既に捜索ずみだ。
建物が密集している町の中心部はほぼ探しつくした。
あとは建物がそこそこある中間部、そして外縁部だ。

中間部は今までにある程度探したが、ちゃんと系統立てて探していないので
残っている部分もある。
まずはそこを探そう。

細かく建物を観察する事はせず、気配を探すことだけに絞り、高度を高めに
取ってまだ捜していなかった部分の上空を飛ぶ。



金属ドロ男は午後早いうちから上機嫌でふらつきながら歩いていた。

昼間だけやっている小さな賭場でバクチをし、少しだが勝ったのだ。
大儲けは出来なかったが、懐があたたかいと思えるぐらいには金を増やす事
ができた。

おかげで今日は徳利の中身はいつもの安酒ではなく、この地方の山中で昔か
ら作られている、上等な焼酎だ。

途中の店で買った焼きイカをかじりながら、焼酎をあおる。
うまい。

歩きながら飲み食いするのに疲れてきたので、適当に道端に座り込む。
さらにイカをかじり、焼酎を飲む。

うまい酒なのでついつい飲みすぎる。
男はそのまま道端で眠り込んでしまう。


149 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:46:33.15 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正部分です)

水銀燈は空を飛び続けていた。

町のそこそこ建物のある部分、中間の部分はほとんど捜した。
結局、妹たちの手がかりはなしだ。
しかし、この町は山間部、そして山の中にもいくつか建物がある。
そちらも捜索することにする。

建物は少ないのだが、広いので時間がかかる。
いつの間にかすっかり夜になってしまった。

あたりは闇に包まれるが、町の中心部の方角にはまばらながら街灯の明かり
が見える。
中心部以外にもぽつりぽつりと小さな明かりが見え、本当の暗闇にはならな
い。


町の南側の外縁部、もう山際になっている場所の上空を飛ぶ。
まだぽつりぽつりと建物と明かりがある。


ふと、水銀燈は不思議な感覚・・・既視感のような物を感じる。
この場所を知っているような気がするのだ。

そんな事は薔薇乙女、特にこの水銀燈にはあり得ない。
ローザミスティカの力が水銀燈にもたらす記憶力は完璧だ。
人から伝え聞いたあいまいな情報のような物ならともかく、場所のように自
分で具体的に体験した物であれば、水銀燈にとっては「知っている」つまり
記憶にある、「知らない」つまり記憶にない、の二つしかないのだ。
既視感だの、知ってるような気がする、などという状態はあるはずがないの
だ。

しかし、どうしてもこの場所を知っているような気がするという感覚が去ら
ない。

暗い夜空を飛びながら、水銀燈は考え込む。
いったい何故・・・


ぱさっ、ずっ。


!!うわっ。

ついつい考え事をしながら飛んでいたため、うっかり翼で蛾(ガ)を巻き込

んでしまった。
かなり大きな蛾だ。

気持ち悪い!


150 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/16(木) 14:48:05.05 ID:NY3X8q2a
(本文、訂正のない繰り返し部分です)

振り払おうと、慌てて強く羽ばたいたのが失敗だった。
蛾をさらに羽根の内側に巻き込んだあげく、潰してしまった。
羽根に蛾の鱗粉と体液がつく。

ぬるり。

あああ。
気持ち悪さに全身にぞぞぞ、と悪寒が走る。鳥肌が立つ。

空中でもがき、そのせいで墜落しそうになる。
慌ててばさばさと翼をはためかせ、体勢を立て直す。

蛾の鱗粉と体液はそのぐらいでは落ちなかった。
気持ち悪い。
気持ち悪い!


いつも体を綺麗にさせるメイメイはいない。
空中でばさばさともがきながら、嫌悪感に耐えつつどうしたものか必死で考
える。

ふと地上を見ると、町の中心部側、少し離れた所にそこそこ大きな建物があ
り、その端のあたりがぼんやりと明るくなっている。
目を凝らすと、何か金属の箱のような物があってそれが光っている。
箱の中ほどに紐で布か紙の束のような物が吊るされているようだ。

ちょうどいい、あれで羽根を拭こう。
地上へと舞い降りる。
金属箱は人間の背丈よりも少し大きいぐらいで、上の方がガラスの窓になっ
ており、その部分が光っている。

その真ん中あたりに目当ての紙の束がさがっている。
灰色がかった紙の束で、それぞれ紙の端に小さな穴が開いており、まとめて
穴に紐を通して金属箱にぶら下げてある。
ちょっとごわごわした紙だが、ペーパータオルがわりには丁度良い。

上空からは見えなかったが、都合の良いことに、近くに水道の蛇口がある。
水銀燈は紙を一掴みむしり取ると水道に歩み寄って蛇口をひねり、紙を濡ら
し、濡れタオルがわりにして羽根を拭う。

その都度、紙を新しい物に替えて水で濡らしながら何度も羽根を拭うと、よ
うやく蛾の鱗粉と体液が落ちた。
最後にまた紙を新しくして少しだけ濡らし、丁寧に羽根全体を拭う。

ああ、ようやくさっぱりした。
ほっとする。
不快さに力んでこわばっていた体からようやく力が抜ける。

はあ・・・どっと疲れた。

151 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 01:21:11.14 ID:9063gv/1

金属ドロ男は道端で目を覚ます。

ありゃ?何で・・・

しばらく考えて、自分が飲みすぎて眠り込んでしまったと気づく。
まあ、構いはしない。
どうせ何か用があるわけじゃないし、人目なんかどうでもいい。

あたりはすっかり夜になっていた。

強い酒を飲みすぎたため、口の中が荒れている不快な感じがする。
喉も渇いている。
水を飲みたい。

えーと、この辺りだと水が飲める場所はどこにあったかな・・・
ぼりぼりと頭をかきながら男は少し考える。

ああ、そうだ。
あの工場の裏手に水道があったはずだ。
あそこで飲もう。

男は立ち上がるとゆっくりと歩き出す。



嫌な感じに疲れた水銀燈は、間近にあった椅子に座り込んで脱力する。

しばらく経って、一息つくと、ようやくちょっと余裕ができる。
まず、大切な羽根をもう一回チェックし、綺麗である事を確認する。
それから気を落ち着かせてあたりの様子を見る。

ここは、大きな灰色の建物の裏側のようだ。
休憩所と書かれたぼろぼろの木の看板がかかっており、先に使った水道、木
の椅子がいくつか、足つきの灰皿が二つ置かれている。
その先に、先程見た窓付きの金属箱がある。


152 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 16:03:24.41 ID:9063gv/1

ふと、手元にあるタオル代わりにした紙に目をやる。
微かに褐色がかった灰色の粗末な紙だ。
サーカスでも同じような紙を見たことがある。
ワラバンシとかいう紙だ。

濡れてくしゃくしゃになっているが、よく見ると何か文字が印刷されていた
ようだ。
紙はお世辞にも綺麗な紙ではない。
平和な時代のヨーロッパの紙を見てきた水銀燈からすると、とても文字を印
刷するための紙には見えない。
何故、こんな汚い紙に字を印刷するんだろう。


それはさておき、これには何が書いてあったんだろう?

手元の紙はもう読める状態ではないが、さっきの金属箱にはまだ同じ紙がぶ
ら下がっている。
水銀燈は立ち上がり、使い終わった紙を放り捨て、そちらへ行ってみる。

金属箱はわずかに丸みを帯びた箱型だ。
箱の横に柱のようなものがあり、そこから箱の上に向かって、小さな屋根の
ような物がつけてある。
雨よけだろう。

雨よけの下に小さな細長い木切れが下がっており、「自動販売機」と書かれ
ている。

ふうん、自動販売機ねえ。
こんな箱が何を販売するんだか。

箱の上の方には窓があり、その中の両はじに白っぽい明かりがついている。
明かりの間、窓の中央あたりに、妙な形をした瓶が数本並んでいる。
瓶の下側には数字を書いた紙が張ってある。
価格のようだ。
どうやらこれが販売する商品らしい。

金属箱には他にも取っ手やら突起がいくつか付いているのだが、いちいち細
かく見るのが面倒だ。
箱の中ほどに吊るしてある、先程の紙の束に注意を戻す。


153 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 22:08:00.49 ID:9063gv/1

破らないように注意しながら一枚ちぎり取り、見てみる。
綺麗な印刷ではないし、紙に皺がよっている部分では印刷がずれている。
まあ、内容をざっと把握するぶんには問題ないが、ブザマだ。

紙は真ん中あたりで横に折り目がついていて、半分に畳まれた形になってい
る。
まずは上半分を読んでみる。


**************

 体に良くておいしい 乳酸菌飲料□□!

育ち盛りのお子さんに!
働き盛りのお父さん、お母さんに!
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有限会社 S乳飲料がお届けする、最新の乳酸菌飲料です。
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ヨオロッパ・アメリカで健康に良いと評判の乳酸菌がたっぷり入った健康飲
料です。
一本飲めば、元気はつらつ、健康増進!
さわやかな甘酸っぱさで気分爽快!

**************


ふーん。

広告とか宣伝を書いた、チラシという物のようだ。
この箱の中の商品の事だろう。

・・・あんまり才気のある文章じゃない。陳腐ね。


154 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/17(金) 22:14:34.95 ID:9063gv/1

 〜 作者より 〜

いつの間にやら、四ヶ月にも及んだこの連載。

長い間、お付き合い頂いてありがとうございます。

ついに、この話も終わりが見える所まで来ました。

あと、3〜5日で終わりになります。
(アクセス規制等の場合は除く)

最終回は普段より少し長くなる予定です。

155 :(代理してた人) :2011/06/17(金) 22:54:25.12 ID:OT6cn7dt
投下乙です。

いよいよ完結ですか……乙でもあり、寂しいようでもあり……複雑な心境です。
最後まで目が離せないぜ!

実はうちもArcadiaチラ裏で2本ほど長期連載を抱えてます。
こっちへの転載はいろいろな面で現実的ではないですが、興味があったらちらりと覗いてみてくださいまし。

156 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:00:38.79 ID:ayh0VhRq
>代理してた人さん
その節はどうもお世話になりました。

こちらとしても、4ヶ月間、ほぼ毎日書いてたので書くのが普通になっており、
色々複雑ですね。

>興味があったらちらりと覗いてみてくださいまし。

余裕ができたら見ますね。
今度、urlを貼っておいてください。


157 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:03:10.26 ID:ayh0VhRq

チラシの下半分、続きを読んでみる。


*********************

この乳酸菌飲料□□はヨオロッパの×××研究所で開発された最新の特殊製
法で丁寧に作り上げました。

加えて、わが国で長年日本人の健康を守ってきた幻の乳酸菌も配合してあり
ます。

この乳酸菌は、数百年の長きに渡って○県の山中で多種多様な発酵食品を作
り続け、幻の職能集団と言われた「漬物の里」、別名「醸しの里」に伝承さ
れていた乳製品、「酪・・・

*********************



えっ!?

何?・・・なに!?

何だって?
「漬物の里」、「醸しの里」!?


きっ、と箱に向き直る。

窓の中に見える商品は、見慣れない形をしているが、液体を入れる瓶だ。
しかし、それは明らかに見本であり、実際の液体は入っていない。


どうしてもその乳酸菌飲料を見ないわけにはいかない!


この箱を叩き壊すか?
大して厚い金属ではないし、継ぎ目もある。
この程度なら、思い切りやれば・・・

・・・いや、駄目だ。
それでは中身の瓶まで壊してしまうかもしれない。

いらいらするが、この箱・・・自動販売機、という物の正しい操作方法に従
うしかないようだ。

158 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:06:49.23 ID:ayh0VhRq

苛立ちつつ、箱に書かれた操作方法を読む。

ふむ。
この小さな切込みに硬貨を入れた後、押しボタンと呼ばれている突起を押せ
ばいいのか。

硬貨・・・小額のお金の事よね。
当然ながら、お金を持ち歩く習慣などない。


その時、少し離れた所から足音がする。
そちらを向くと、おぼつかない足取りで人間の男が歩いてくる。


薔薇乙女の常識からすれば、隠れるべき状況だ。

しかし、水銀燈は気がはやっていた。
そのまま、近づいてきた男に正面から向かい合う。

水銀燈に気づいた男は驚きに目を見開く。

男は薄汚く、しかも酒の臭いをさせているのだが、不思議とそれほど不愉快
には感じなかった。


銀「ちょっと、そこの人間!硬貨をよこしなさい!」

男の目がさらに丸くなる。

銀「硬貨よ硬貨。小さいお金!」


男は呆然と立ち尽くし、え、う、あう、とわけの分からない声を発するだけ
だ。

ああ、もう、全く人間って奴は!

159 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/18(土) 17:19:46.90 ID:ayh0VhRq

いらいらする。
叩きのめしてやろうか。
それから硬貨を奪う方が早いかもしれない。

しかし・・・どうしても攻撃する気になれない。

この最凶のドール、水銀燈がどういうわけかこの見知らぬ冴えない男を叩き
のめす事ができない。
・・・いや、叩きのめす気にすらなれないのだ。

何なのだ、これは。


見ると、男はまだ呆然としている。
まったく・・・


後から考えると、少し妙だったかもしれない。
しかし、その時は体が自然に動いた。

水銀燈はドレスの内側に手を入れ、先程拾った翡翠色の水晶を取り出すと男
に向かって差し出す。

銀「ほら、これあげるから!」

男はさらに驚いたようだが、その目に理解の色が浮かぶ。
がくがくと頷くと、男は服のあちこちを探り、一掴みの硬貨を掴み出して水
銀燈に差し出す。

水銀燈はその硬貨を引っ掴むように取ると、水晶を男の手に乗せる。


水銀燈も男も気づかないが、一瞬、水晶が淡く光ったように見えた。


水銀燈は急いで自動販売機の前に戻る。
硬貨を入れる切り込みは上の方にあるので、少し空中に浮かび、硬貨を数え
もせずに次々に入れる。

押しボタンを押すと、ガタン、と音がして、箱の下方の開口部に何かが出て
きた。
見本と同じ、妙な形の瓶だ。

160 :(代理してた人) :2011/06/18(土) 19:53:17.79 ID:F/jNS9qk
投下乙です。
おお、翠水晶が……
これが次回作で謎の人形の動力源になるんですネ!


>URL
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=tiraura&all=24888&n=0&count=1
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=tiraura&all=19752&n=0&count=1

多分これで行けるかと……中身がイケてるかどうかってーと腐ってると思いますがw
もし読んで頂いても無理に感想とか頂かなくて結構ですけれども(義務感で感想くれる人がたまにいるので…申し訳なく)
厳しい批評やアドバイス等については、あれば嬉しい限りです。

161 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 00:54:34.10 ID:69cpDEu+
>>160
url、拝見しました。
余裕が出来たら伺いますね。
今は今作の締めくくりに集中していて余裕がありませんので。

162 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:01:43.66 ID:69cpDEu+
どんどん行きます。
もう、いつ最終回まで行ってもおかしくない状況なので。

コメントを頂くのは大歓迎ですが、返答は今作が終わってからになる可能性が
あります。
ご了承ください・・・

163 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:05:35.74 ID:69cpDEu+

もどかしく、むしり取るように蓋を開ける。
匂いを嗅いでみたあと、一口飲んでみる。



あ・・・・・・



間違いなかった。
間違いようもなかった。

甘みの付け方や薄め方が少し変わっているものの、あの味だ。
ずっと昔、みんなと作り上げた、懐かしいあの味・・・

ああ・・・



ふと、ここにはさっきの男もいる事を思い出す。


銀「ふ、ふん・・・」

ふん、くだらない、だろうか。何よこれ、つまらない、だろうか。
斜に構えた、強気な言葉を口にしようとする。

数秒間、ぎこちない空気が流れる。

が・・・

水銀燈は、顔を手で覆い、うつむいてしまった。


胸がいっぱいになってしまったのだ。


あまりにもたくさんの思いが溢れてくる・・・



164 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:08:43.06 ID:69cpDEu+

男は呆然とそれを見ていた。

最初は全くワケが分からなかった。
工場の裏手で水を飲もうと思い、自動販売機の明かりをたよりに歩いてきた
ら、いきなりわけのわからない奴が現れて小銭を要求された。

そいつは一応、小さな女の見かけをしているが、禍々しい気を放つそいつは
まるで魔物か般若のように見えた。

しかし、何故かあまり恐怖を感じなかった。
逃げようと言う気にもならなかった。

そのまま状況に流され・・・
今、そいつは顔を押さえてうつむき、小さく肩を震わせている。


え、ええと・・・


しばらく、気まずい時間が過ぎた後、そいつは顔を上げた。
男ははっとした。
そいつの顔からは、禍々しい雰囲気が消え去っていた。
禍々しささえ消えてしまうと、そいつはとても美しく、柔らかくて優しい雰
囲気を持ち、そして深い何かを宿した存在だった。

魔物なんかではない。
そう、まるで・・・天使、菩薩、女神・・・ああ、女神だ。

そいつ・・・いや、その女神が男の方を向く。
一瞬、両者の視線が交差する。
二人の間を何かが行き来する。

そして、その女神は、限りなく優しく、美しく・・・そしてちょっとだけ恥ず
かしげに、男に向かって微笑みかけたのだ。


男は魂の底から魅せられ、呼吸すら忘れて目の前の女神を見つめていた。



165 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 01:13:03.08 ID:69cpDEu+

身動きもできずにいる男に、女神は淡い光を放ちながらそっと近づいてきた。
そして、男の耳元で、穏やかな口調で短く語りかけた。
男が目を見開く。


そして・・・

女神はゆっくりと宙を舞い、自動販売機の明かりの方へ下がっていく。
その淡い光と、自動販売機の明かりが混じり始める。

少しずつ、女神は光に包まれていき・・・やがて、女神の体全体が淡い光に包
まれる。

女神は男の方を見、ちょっと首をかしげ、笑顔を浮かべる。


そして・・・女神はゆっくりと、淡い光の中へ溶けるように消えていった。




あたりはふたたび暗闇と静寂に包まれた。

男はしばらくの間、女神の消えていったあたりを呆然と見つめていた。

男はいきなり水道の方へ走っていき、水道を全開にすると頭から大量の水を
浴びた。
一回息継ぎをして、またたっぷり水を浴びる。

男は自分の手を見る。
女神に渡された翡翠色の水晶は間違いなく手の中にある。

先程まで女神がいた場所に目をやる。
そこには何も無く、後ろの方に自動販売機がぼんやりと光っているだけだっ
た。

頭から水を滴らせながら、あたりを見回す。
何もない。


何かから醒めたような目で、手の中の水晶を見、女神のいた場所を見る。


立ち尽くしたまま、水晶と、女神の消えた場所を交互に見る。

何度も何度も。

ずっと、ずっと。

166 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 02:33:19.28 ID:69cpDEu+

寝ぐらのある例の図書館はとっくに閉館していた。
人っ子ひとりいない。

しかし、今夜は図書館の中ほどの階、新聞閲覧室に明かりがついていた。

閲覧室の真ん中のソファがふさがっており、小さな手が新聞を支えて読んで
いた。

目当ての新聞を見つけるのに苦労したらしい。
辺りには新聞が山のように積み上げられている。

手の主は2通の新聞を丹念に読み返しているようだ。
片方は、食品・飲料業界の業界紙。
もう一つはこの県内の事を主に扱う地方紙だ。

それぞれの内容は概ね以下のようなものだった。


**************************
「食品・飲料ニュース」

S乳飲料、大手飲料・食品メーカーA乳業と合併

乳酸菌飲料□□等を代表製品とする乳飲料メーカー、有限会社S乳飲料が業
界最大手の一つ、A乳業と合併することになった。

S乳飲料は従業員数20名足らずの小企業であり、会社規模で言えばA乳業
とは百倍以上の開きがある。通常ならA乳業の一部門への吸収、という形に
なるのが自然であるが、S乳飲料の持つ高い技術力と保有する優れた乳酸菌
株、そしてその歴史に敬意を表し、異例の百倍差の合併という形となった。
新会社は何らかの形でS乳飲料の名かブランド名を残す予定である。

また、この合併によりS乳飲料の代表製品、乳酸菌飲料□□の製法と乳酸菌
株A乳業の新製品、Lに用いられる事になった。
乳酸菌飲料□□は知名度は今ひとつであったが、その健康効果と味には定評
があり、それを引き継ぐ飲料Lのヒットが予想される。


※有限会社 S乳飲料
本社所在地○県X町。明治中期に○県山間部にあった発酵職人集団を母体と
して設立された。
乳酸菌発酵及び発酵に用いる容器に関して高い技術を持つ。代表製品は乳酸
菌飲料□□、乳酸菌株ラク・スイート等。

**************************


167 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 02:36:56.14 ID:69cpDEu+
もう一つ、地方新聞の方はこうだ。

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紹介!私の町

この紹介!私の町 コーナーでは県内にあるあなたの町を毎週一つずつ紹介
しています。

第38回 「漬物の里」、別名「醸しの里」

今回紹介するのは異色の町、「漬物の里」、別名「醸しの里」です。
この里は町と言ってもずっと同じ場所にある「土地」ではなく、醸し(発酵
)とそれを支える木工・焼き物技術を専門とする職能集団でした。
彼らは驚くべき事に、決まった土地にあり続けたのではないにも関わらず、
ずっと一つの里と言えるまとまりを保ち続けてきました。
職人たちは当初は県内南部の山中にある盆地にまとまり住んでいたと伝えら
れていますが、戦乱期に何度か紛争に巻き込まれて山系を転々としました。
大変に厳しい時期もあったようですが、若手の職人を中心に結束を続け、近
隣の寺などの力も借りつつその技術を伝え続け、磨き続け、山中でたくまし
く、そして楽しく暮らしてきました。

現在は里という形でまとまって住んではいませんが、山中にいくつか史跡が
残されています。また、里の職人が中心となって作った乳飲料・食品の会社
にその高い技術が伝えられ、ある意味では里は今も続いています。

また、この里は不思議な伝説があることでも有名です。里の言い伝えでは、
妖怪や鬼、生きた人形、謎の呪術使いが住んでいたという伝承があり・・・

********************


以降は民俗学的考察というものと里の住所が記されている。

水銀燈は新聞を置いた。

図書館の別の階には地図がたくさんあり、住所が分かれば色々分かる事を知
っていたが、もう、それ以上調べる必要は感じなかった。

もう、充分だ。


あの日々は消え去ってしまってはいなかった。


再び、胸がいっぱいになる。


168 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:13:03.05 ID:69cpDEu+

長い長い間、思い出すことさえさけていた記憶が一気によみがえる。
何百万時間も昔。
まだローザミスティカを得る前。
にもかかわらず、少しも色あせていない記憶。
笑顔。思い出。情景。


水銀燈はしばらくの間、静かに追憶にふける。

自ら、思い出すことを禁じていた時間を埋めるかのように。



そして・・・おずおずと、と言っていいほどためらいながら、心の中に、と
ある言葉を浮かべる。

自分には似合わない言葉。

心の中で言うのだから、誰にも聞こえるわけがない。
にもかかわらず、誰かに聞かれるのを恐れるように、そっと心の中でつぶや
く。


・・・私・・・みんなに会えなくなって・・・さびしいよ。



新聞閲覧室の空気が小さく震えた。



懐かしい笑顔・・・

抱きしめてくれる温かい腕・・・

真剣なまなざし・・・

みんなでがんばった事・・・

作り上げたもの・・・

楽しい事、おいしい食べ物、あけっぴろげなお喋り・・・


ああ・・・



時間の経つのも忘れて、追憶に浸る。

もう戻らない日々の追憶は悲しくもあったが、甘やかで温かくもあった。


169 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:22:26.47 ID:69cpDEu+

時間が過ぎ去る。
温かさは心に残ったまま、冷静さも戻ってくる。

そして気づく。
水銀燈は呪われたドールではなくなっていた。

先程まで、水銀燈は確かに「呪われた」ドールだった。
水銀燈の事を呪っている者が確かにいたからだ。


呪っていたのは・・・水銀燈だった。


そう、水銀燈を呪っていたのは・・・水銀燈自身だった。


そして今、その呪縛の一部が解けたのだ。
かつて、水銀燈とみんなが、みんなの健康と幸福を願って作った物との出会
い・・いや、再会によって。

心に、そして心を通して体に重くのしかかっていた何かが消えたのを感じる。

水銀燈は、まるで肩が凝った人間がするように、首や肩をぐるぐると回して
みる。
おどろくほど、首や肩が軽くなっていた。
自分は今までこれほど力み、強張っていたのか・・・・・・


170 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:29:29.74 ID:69cpDEu+

水銀燈は少し頭を切り替え、考える。

あの日々は素晴らしかった。そして大切な思い出だ。
決して忘れない。

そして、こういう形で部分的にでも「再会」出来たのは素晴らしい事だった。

しかし、それで何もかもが変わるわけではない。

そうとも、それだけでなにもかも変わるものじゃない。
自分にはあるべき姿と、なすべき事があるのだ。


呪われたドールではなくなった今も、自分は最凶のドールだ。


そして今後も最凶のドールでありつづけるだろう。
何故なら、自分は戦ってアリスゲームに勝たねばならないのだ。
勝ってアリスになり、お父様に会わなければならない。
会いたい。抱きしめて欲しい。

そして、色々な事を尋ねたい。
尋ねなければならない事がたくさんある。
たくさんたくさんある。


そのためには、戦って勝つには、最凶のドールであり続けなければならない。

必要なら、非情な事や汚い事だってやるだろう。
喜んでやるわけではないけれど、必要ならそうする。
そして、アリスになるのだ。
それが自分の宿命であるし、なすべき事だ。

なすべき事をやり遂げる。
きっと、それだけが・・・それこそが・・・自分を大切に思ってくれた人たち、
自分を愛してくれた人たちの想いに報いる事なのだ。

必ず、やり遂げる。



・・・見守っていてね。




171 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:40:46.13 ID:69cpDEu+

階段の方が淡く紫色に光る。
メイメイが帰って来るようだ。

水銀燈は慌てて自分の顔をチェックする。
大丈夫だ、普段と変わりない。


メイメイが敏捷に飛んで来て、傍らにくる。

ふよふよ。

銀「おかえり、メイメイ。どうだった?

そう・・・やっぱり気配はなかったのね。ええ、こっちも見つからなかった
わ。

残念ながら、今回の目覚めはハズレだったようね。
次の時代に旅立つとするわ。」

チカチカ。

銀「ん?ああ、すぐに旅立つわよ。でも、私はちょっとすませることがある
から。
あんたは先に行って、出発の準備をしておいて。」

ふよふよ。

若干、怪訝そうにしながらもメイメイは次の時代へ旅立つ準備をしに窓から
飛び去っていく。


この時代でアリスゲームが行なわれないとはっきりした以上、すぐに旅立つ
べきなのだが・・・


水銀燈はあのサーカスの少女について考えていた。

鬱陶しい子ではあったが、あの孤独な少女をこのまま一人で置いて去ってし
まうのは気が咎める。

何とか、傷つけないようにうまく言い聞かせて・・・



172 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:52:08.72 ID:69cpDEu+

水銀燈は肩をすくめる。
自分はそんな器用なことができるタチじゃない。

面倒ではあるが、どうして行かなければならないかきちんと話して、ちゃん
と別れの挨拶をしよう。
唐突にいなくなる、などということはするべきじゃない。


それと・・・一言、言ってやる事がある。
少女が一人ぼっちだ、と言っていることだ。

確かにあの少女には親も兄弟もいない。
それは変えようがない。

でも・・・少女は本当の一人ぼっちなんかではない。
彼女にはサーカスの仲間がいるのだ。

まあ、あの守銭奴のデブ団長や、ショウで自分が一番目立ちたいと思ってい
る連中はちょっと駄目かもしれない。
しかし、裏方や他の役割のメンバーには、割とマシな人間が何人かいる。
その人間たちは別に少女を嫌ってなどいない。
それなのに少女が一人ぼっちになってしまっているのは・・・少女自身が自分
がひとりぼっちだと頑なに思い込み、自分を閉ざしてしまっているからだ。

少女を孤独にしているのは少女自身なのだ。

その事についてひとこと言ってやろう。



ああ、まったく、人間というやつは面倒だ。
でも・・・


夜空の雲が流れて行き、開けっ放しの窓に月光が射してくる。
窓辺で、月光も静かに微笑んでいる。



水銀燈は翼を広げ、夜空へと飛び立った。




173 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 03:56:31.16 ID:69cpDEu+


 作者より
  予定より若干早いですが、このまま、最終回「エピローグ」をお届けします。



174 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:00:30.76 ID:69cpDEu+


       乳酸菌とってるぅ? 


                 エピローグ



   〜現代 廃教会〜


話し始めるときにストーブに乗せたヤカンはとっくに沸騰しており、盛んに
湯気を吹き上げている。

水銀燈は立ち上がってヤカンを手に取ると、釜飯の容器や皿、スプーンなど
を熱湯消毒する。

次いで、湯を水で薄めて人肌ほどの温度のぬるま湯を作る。

先程持っていた、茶色っぽい荒挽きの粉のような物が入った袋を開ける。
良く見ると、袋には汚い字で「米ぬか ご自由にお持ちください」と書いて
ある。


ぬかを釜飯の容器に入れ、塩の小袋・・・病院食でゆで卵が出るときに付いて
来る物だ・・・をいくつか開封して入れ、ぬるま湯を入れて手早く混ぜていく。
かなり手際が良い。

当人も楽しそうに鼻歌まじりで作業している。

ぬか床を整え終わると、どこかから持ってきたキュウリの切れ端を埋め込む。

銀「これはねぇ、食べるためじゃなくてぬか床作りのためなの。捨て漬けっ
ていうのよぉ。」


175 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:06:13.84 ID:69cpDEu+

次いで、乳酸菌飲料・・・例の大手食品メーカーA乳業のものだ・・・を持ってき
て蓋を開け、ほんの少しぬか床に垂らして浅く混ぜ込む。

銀「こうするとぬか床の熟成が早まるし、味に深みが出るのよぉ♪」

残った乳酸菌飲料を小さく喉を鳴らしながら飲み干す。
束の間、幸せそうな表情になる。


しかし、何故釜飯の容器で作るのだろう?

銀「ん?漬物は甕(かめ)で作るものなのよ。」

え?それはカメじゃないんでは?

銀「何言ってるのぉ。ほら、ここ見てみなさぁい。」


カマ
メシ


銀「ね?カメって書いてあるでしょぉ?」


縦・・・・・・メイメイは余計な事は言わない事にした。


水銀燈は鼻歌を歌いながら漬け込み作業の仕上げをする。

銀「♪ ふんふっ ふんふ ふふふふふ〜ん  
    不浄の月 腐乱のよるぅ〜 ♪」

どんな漬物が出来るのだろう。
自分は食べられないが、楽しみになるメイメイだった。

176 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:34:51.87 ID:69cpDEu+

メイメイは考える。

この漬物はやっぱりめぐに食べさせるのだろうか?

多分そうだろう。
めぐは薄味の病院食にうんざりしている。
たまには漬物でも食べれば食欲が出るかもしれない。
そして何よりも、水銀燈が自分のために食べ物を作ってくれた事を喜ぶだろ
う。

ん?
めぐは心臓に問題がある。
塩分のある漬物は大丈夫だろうか。

普段のめぐの病院食を思い出してみる。
薄味ではあるが、厳しい塩分制限はされていなかったはずだから、少しなら
大丈夫だろう。
まあ、一応、後でめぐのカルテを調べておこう。
・・・メイメイは面倒見の良い性格だった。

そして・・・人工精霊はあくまでも、器のドールではなくローザミスティカに
属するものであるが・・・メイメイはこのちょっと困ったドールが嫌いではな
かった。


めぐと水銀燈の関係はこれからどうなっていくのだろう。
今は不健全な依存がかなり混じりこんでいる。

それを乗り越えて、二人の関係は本物の絆になり・・・かつて、全う出来なか
ったと水銀燈が感じている絆を補い、そしてそれを越える意味を持つのだろう
か。
それとも、このまま共倒れになるのだろうか。

そして、アリスゲームは。水銀燈の運命は。


分からない。
分かりようもない。

分からないけれども、どうなるにせよ、その最後の時まで水銀燈と一緒に居
よう。
そう思うメイメイだった。

177 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 04:47:09.92 ID:69cpDEu+

夜中。

廃教会の近くの国道をトラックが数台通り過ぎていく。

数時間走ると、ある町が見えてくる。
廃教会から凄く遠くはないが、すぐ近くでもない地方都市。

トラックのうち一台が角を曲がり、その町へ入る。
正確には十数年前に近隣の町と合併して市になっていたが、今でも町と呼ぶ
ほうが似合う雰囲気の地方都市だ。

トラックはこの町にある乳酸菌飲料販売店を目指す。
その店にはちょっとしたエピソードがあった。


50年あまり前。
この販売店とは別の販売店に突然ある男がやってきた。

男は粗末ではあるが清潔な服装をし、不思議な色の水晶を紐で不器用にくく
ったペンダントを首に掛けていた。

男は乳酸菌飲料の自動販売機に書かれた店名を見てやってきたと言い、この
店で働かせて欲しいと言った。

男は、住所不定の上、身分を証明する物を何も持っておらず、保証人も居な
い。
この地方にあった寺の住職の一族だとは言うが、それを証明する物は何もな
かった。
しかも、寺は戦災で消失している。

男は書類上は正体不明に等しかった。
しかし、その男の澄んだ目、そして熱意が滲み出る雰囲気に店長は何かを感
じ取り、男を営業兼配達係として雇う事にした。

男は期待を裏切らず熱心に働き、信用を勝ち得ていった。


その後、病気や不景気等もあってその道は平坦ではなかったものの、男は地
道に働き続けた。・・・時折、ペンダントの水晶に触れながら。
そして約二十年の後、男は今の場所に自分の店を持つに至った。
現在、この地区の卸と配達を扱う主販売店だ。

178 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:00:08.11 ID:69cpDEu+

それ以降も男、改め店主は地道に働き続けた。
そしてこの町の人々のために尽力した。

学校や幼稚園への手助け、保育所の設置の世話人、福祉への協力、民生委員
への就任。

のみならず、店主は困った人を見ると放っておけない性格だった。
困った人に頼られればいつでも手を差し伸べた。

店主は誰にでも優しかった。
殊に、心弱いものや道を踏み外した者にも優しかった。
この町の元不良少年・少女で店主の世話にならなかった者はほとんどいない
だろう。

店主の綺麗に禿げ上がり、髪が一本もない温顔は何か超越した物さえ感じさ
せた。
仏様のような人、と言われる事もあった。


また、晩婚だったが良縁に恵まれ、4人の子供にも恵まれていた。

やがて、店主も孫が何人も出来、老人と呼ばれる年齢になる。
老いてもその温顔と優しさは何一つ変わらなかったが、さすがに体力は衰え、
7年前に息子に店を譲り、隠居した。

その後も体力の許す範囲で困った人の相談に乗ったり、困った人々のために
自分が出来る事をしていたが、次第に衰え・・・ついに去る年、この世を去っ
た。

家族に囲まれ、穏やかな最期だったという。

葬儀には親戚や近所の人々のみならず、市長や市会議員、同業者、店主に世
話になった福祉関係者、元不良少年・少女まで、たくさんの人が参列した。

歴史に残るような派手な人物ではないが、町の名士であり、偉人だった。
その在り方は町の人々の心に何かを残した。


179 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:07:29.35 ID:69cpDEu+

もう一つ、店主が残した物があった。

乳酸菌飲料販売店の横には小さな祠が建っている。

そこに、店主が自ら彫った石像があった。
多分、仏像なのだろう。
しかし、それは仏像としては少し変わっていた。

その仏像は、やや長い髪と優美な翼を持つ女性の姿をしていた。
服装も、どちらかと言うと洋風のドレスに近いように見えた。
手にはかつては店主のペンダントだった翡翠色の水晶が乗せられている。

像は微笑みを浮かべ、片手でその水晶を差し出していた。

この像が何かと尋ねた者もいたが、店主は言葉少なに笑顔で菩薩様だよ、あ
るいは水晶菩薩様だよ、と答えるだけだった。

こんな姿の菩薩様が居ただろうか、と疑問に思うものも居たが、ほとんどの
人は素朴な信仰心しか持ち合わせていない。
仏教に関係の深い家に生まれた店主が言うんだから間違いないだろう、と思
うだけだった。

像は見るからに硬そうな石で出来ていた。
店主が石材店で相談し、一番長持ちする石と言われて買ってきたものだ。
店主はこの像が長い間姿を保つ事を望んだのだ。


像の出来は正直に言って、本職の石工が彫ったものと比べれば劣るだろう。
どちらかと言えば素朴な出来だ。

しかし、実にいい顔をしていた。
特に、その笑顔は素晴らしかった。
初めて見る者を例外なく、はっとさせるだけの何かを持っていた。


180 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:14:19.76 ID:69cpDEu+

あの出会いはたった数分に過ぎなかった。
若き日の店主は自分の先祖たちと水銀燈の縁も、巡る想いの歴史も知っては
いなかった。
いなかったが、何かを感じ取っていた。

気力をなくし、希望をなくし、空ろになりかけていても・・・いや、ほとんど
空っぽであったからこそ、あの笑顔の本質を自分の深い所で感じ取った。

そして店主は自分があるべきと感じる生き方へと戻り・・・あの出会いを、あ
の静かに輝く笑顔をずっととどめたいと願って像を刻んだ。

永遠に消えないように。
永遠に忘れないために。


あの笑顔は・・・穏やかだが非常に強い光だった。

「絶望するために生まれてきた」
素直な心の持ち主だった者がそこまで言うほどの運命。
降り積もった悲しみや憎しみでできた深い深い闇。

ささやかな幸福への喜び。
儚い者たちが伝えたもの。
追憶、記憶、想い、愛情の記憶・・・
そういったものたちが放った小さな光。

その光が闇に打ち勝ち、心を穏やかな光で照らした。
あの笑顔はその光の勝利そのものだったのだ。


181 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:17:37.47 ID:69cpDEu+
そして・・・


・・・いや、語りすぎるまい。

その笑顔が・・・見る人の目に映り、思い浮かべる人の心の中に浮かんだその
笑顔が、充分に物語っているのだから。



像の素晴らしさに惹かれて、そして亡き店主の人柄を慕って、像には今も供
物が絶えない。



深夜。
トラックが店の前にとまり、乳酸菌飲料が冷蔵室に運び込まれる。


朝。
配達の女性たちが賑やかに出勤してくる。

乳酸菌飲料が自転車や自動車に積み込まれる。



たくさんの人のもとへ、あの里の乳酸菌の子孫たちが運ばれていく。



水銀燈の顔の石像が、微笑んでそれを見守っている。





         〜  終  〜



182 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/19(日) 05:18:44.11 ID:69cpDEu+


  長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。



183 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 05:55:19.95 ID:R2NP7Ec0
お疲れ様でした

184 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 07:16:19.43 ID:a9tpt+Fb
完結乙。
釜飯が喰いたくなりました。

185 : ◆TEGjuIQ24E :2011/06/19(日) 09:37:09.80 ID:OkWGQOtu
超大作乙でございました。
なんという読後の爽快感……総てが繋がったとき、
銀の魅力的な笑顔が思い浮かんだときに
こう、込み上げる何かが……

里でのほんわかとした雰囲気から
時代が移る直前のただならぬ空気、
浪人との出逢いそして現在、
臨場感あふれる文章最高でした。
ここに心からの 乙っした! を贈ります!


186 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 19:09:41.62 ID:XSUSutek
乙!

187 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:31:31.52 ID:XO5atWR2
>>183
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

>>184
ありがとうございます。
一時期、近作って終わらないんじゃないかと心配になったので、完結できて
良かったです。

釜飯、旨いですよね。是非食べてくださいw
ただ・・・たしか、

かま
めし

って書いてあるのは釜本体じゃなく、包装か解説書きだったと思いますし、
バージョンによって少しずつ違うはずなので、かまめしロゴがなくても怒ら
ないでくださいねw

188 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:40:56.86 ID:XO5atWR2
>>185 TEGさん
本当に、しっかり読み込んで頂いてありがとうございます。
銀の魅力的な笑顔を思い浮かべて頂けたのなら、もう、全てを読み取っていただけたんだと思います。
しっかり読んで頂いて、素晴らしいコメントを頂きまして作者冥利に尽きます。

また、途中でも何度も励ましのコメントを頂きましてありがとうございました。
それがなかったら、多分、完走できなかったと思います。
本当に感謝しております。

TEGさんは壮大なスケールの大作の途中なんですよね。
今回、自分は書き続ける事の難しさをつくづく思い知りました。
TEGさんがずっと書き続けている事、素直にすごいと思います。
多分、全部あわせれば俺の今回の作品より長いでしょうしね。
これからも頑張ってください。応援しております。

189 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:43:35.65 ID:XO5atWR2
>>186
ありがとうございます!
短くともコメントを頂けて嬉しいです。

190 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:46:21.34 ID:XO5atWR2
そして、

>応援してくださった皆様へ

コメントをくださった皆様、本当にありがとうございました。
読んでくださって、コメントをくださる方々が居なかったら、とても完走は
できなかったと思います。

心より、感謝しています。

皆様に幸あらんことを!


191 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/21(火) 01:48:14.80 ID:XO5atWR2

あ、もしも今作について、何か聞きたいことがあれば遠慮なくどうぞ。

答えられる範囲で答えさせていただきます。



#あと、後書きっぽいものを書くかもしれません。


192 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/21(火) 16:49:42.81 ID:kYoyL08x
>>191
では質問

・まとめサイトは欲しいですか?
・避難所は存続させたいですか?

このスレの作品ってぷん太みたいな纏めサイトに拾われないから不幸といえば不幸だよね

193 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 22:09:31.40 ID:lG7PhwYI
>・まとめサイトは欲しいですか?

これはスレ全体で決める事だと思いますが・・・

俺自身は別に欲しくないです。
そこそこマメにスレを見てるので、スレに載ったSSは全部読んじゃってるのでw

>・避難所は存続させたいですか?

これは管理人さんとこれから投稿予定の人で決める事だと思います。
こまめに投稿する(つまりアクセス規制が問題になる)人にとって必要な仕組み
ですからね。

俺自身はもう連載形式での投下の予定はないので、他の方のよろしいように。


194 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 22:43:07.12 ID:lG7PhwYI

  あとがき・・・のようなもの。


まかなかったジュン編で水銀燈がカナリアに「私がおばかさん、って言葉を
覚えたのはあなたのせいよ」みたいな事を言う場面がありましたよね。

だったら、「はぁ?」も誰かの影響で覚えたのかな、と反射的に思いました。
・・・そんな言葉、少女人形に最初から覚えさせてあったとは思えないのでw

それとは別に。
何かの機会にヨーグルトの歴史を調べていた時。
今作の中でも触れましたが、実はヨーグルト(酪)は奈良時代にはもう日本
にあったんですね。
じゃあ、それからずっと日本にあったのかというと、どうやらそうではない
らしく、戦国〜江戸時代に失伝するというか廃れるというか、とにかく絶え
てしまったらしいんです。

そして、日本は明治以降になって、ヨーグルトに「再会」したわけです。
現在の歴史の解釈ではこれが正しいとされています。

でも・・・ひょっとしたら、どこかでひっそりと伝えられていたり、あるいは
他の乳酸菌絡みの何かの中に生きていた、なんてこともあるんじゃないかな。

そんな妄想と、先に書いた「はぁ?」を水銀燈に教えた誰か。
水銀燈=乳酸菌好き。
プラス、伝承や再会・・・言い方を変えると、継がれるもの、失われるもの、
再発見・・・等のモチーフを組み合わせ、今作は生まれました。

#結果、日本の乳酸菌飲料の元祖は銀様が作った物だった、という衝撃の史
実(笑)まで出来ちゃいましたけど。


思いがけなく長編になった「乳酸菌とってるぅ?」、何か印象に残る部分が
ありましたら幸いです。

195 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 22:45:41.70 ID:lG7PhwYI

  おまけ。

「かわせみ」って入力して、漢字に変換してみましょう。

「川蝉」以外にも意外な漢字が当てられてるんですよね。



196 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/22(水) 22:53:49.83 ID:iBx29Mrs
完結乙でした。

カワセミ=めぐでなく、まさかあの人物(?)だったとは。
他の姉妹は何処? なんて野暮なこと聞いちゃいけませんよねぇ。
アニメマンガ通して、確かに彼女とは関わりがイマイチ薄いように見えたけど、実はこんな繋がりがッ!

面白い発想だと思いました。楽しめました、良作をありがとう。

197 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 23:17:05.33 ID:lG7PhwYI
>>196
あ、半分ぐらい誤解させてしまいましたね(汗
その姉妹の言葉遣いから時代物にした、っていう点では関係ありますが、カワ
セミと「=」ではないんです。
ストーリーの中で関係あるのは、最後の方に出てきた謎の水晶の色です。

ところで、生まれ変わりの話をしてた方ですか?
あれ、結構鋭い!と思いました。
カワセミは、実は「水銀燈との関係性が『逆』になっている似たような人」
なんです。

病人のめぐ - 翼を持ち、強気で行動的な水銀燈
まだ飛べないしほとんど歩けない水銀燈 - 作中のカワセミ

ってね。

後半はカワセミはわりと変化しちゃったんでこの印象は弱まってしまいましたが。

今回も、途中でも嬉しいコメントをありがとうございました。

198 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/22(水) 23:18:32.27 ID:lG7PhwYI
訂正。

「水銀燈との関係性が『逆』になっている似たような人」

           ↓

「水銀燈との関係性がめぐと『逆』になっているめぐと似たような人」

199 :「乳酸菌とってるぅ?」 ◆csY6RgNrbU :2011/06/25(土) 15:49:21.80 ID:8fcTyixi

あ、誤解のないように補足しておきますが、俺の作品をまとめサイトで取り上げて
頂くのは大歓迎ですので(^-^)

200 : ◆TEGjuIQ24E :2011/06/26(日) 01:14:16.67 ID:ZyeZ3CjY
 ガッコが忙しくてなかなか参上できなくてすいません。
本編掲載あたりにペースを合わせることもままならず……
うおおお……orz


 まとめサイトは歓迎の考えです。
ちゃんとSSがイッキに読めるから、というだけなんですけども……f^_^;)
良いところで突然○ねだなんだは見たくはない訳です。


 避難所も必要だと思われます。昨今の規制地獄、いつ規制されるか
わかったもんじゃありませんからね。2時間前まで書けたのに、すら
あり得る世界です……メタクソ理不尽ですけども。


 まとめサイト掲載は、俺のもOKです。保管庫があるぐらいですから
多分どっちOKなんでしょうけど、念のためということで……。



201 :(代理してた人) :2011/06/26(日) 21:45:07.33 ID:2OVP1cCR
未だに10月以降の予定が不明で、長期的なことは何とも言えません。
ただ、最悪でも8月一杯くらいまでは避難所だけは管理維持できると思います。

Wiki形式のまとめサイトに関しては、@wiki辺りに簡素なものを作って作れないことはないのですが……
現状では自分自身の去就が上記の通り不透明ですし、
SS関係のwikiはwiki管が手を放した時点で死ぬ傾向があるので、ちょっと今のところ私は手が出せません。
他の方にお願いしたいと思います。

●持ち以外の方が過去作を読む場合、TEGさんのようにSSだけ連続で読めるように等、需要あるとは思います。

202 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/13(水) 14:42:32.52 ID:X+9TTVk8
オワコン

203 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/22(金) 20:58:02.65 ID:ua25ib2D
過去ログ倉庫が更新停止するそうですね
あそこにはお世話になりっぱなしでした

204 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/23(土) 10:30:24.00 ID:DSfxJ6xb
折角原作が動き出してきたのに(´・ω・) 今までご苦労様でしたとしか

やっぱアニメのほうは良くも悪くも5年前の作品ってことですかなぁ…
アニメの完結編も見てみたいんだけど無理なのかなー
権利関係で揉めそうだし…

205 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 19:58:16.74 ID:KNmU/1V7
二式のブリーフ!二式の実が食べたいYO★
殻を割って食べるの汁を吸い出すの!とてつもなく苦いの!
二式の二式の二式の苦いの苦いの苦いの苦いの苦いの苦いのおぉぉお
パリパリパリパリパカァァァーン!あぁ〜っ!WA★RE★TA★YO〜!
ぎゃは母は母は母は母は母は母は母は母は母派は
二式のブリーフ♪おじいちゃんが這い出る二式のブリーフ♪
おじいちゃんの匂いが染み着いて最高〜!!アハアハアハアハアハアハ
臭い臭い臭い細工細工細工債臭い細工債臭い細工臭い臭い臭い
鉄オムツを忘れないでね♪アナザー・二式シリーズ
Here's 二式の鉄オムツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
苦い臭い!アハアハ二式
二式のブリーフ!二式の実が食べたいYO★
殻を割って食べるの汁を吸い出すの!とてつもなく苦いの!
二式の二式の二式の苦いの苦いの苦いの苦いの苦いの苦いのおぉぉお
パリパリパリパリパカァァァーン!あぁ〜っ!WA★RE★TA★YO〜!
ぎゃは母は母は母は母は母は母は母は母は母派は
二式のブリーフ♪おじいちゃんが這い出る二式のブリーフ♪
おじいちゃんの匂いが染み着いて最高〜!!アハアハアハアハアハアハ
臭い臭い臭い細工細工細工債臭い細工債臭い細工臭い臭い臭い
鉄オムツを忘れないでね♪アナザー・二式シリーズ
Here's 二式の鉄オムツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
苦い臭い!アハアハ二式

206 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 19:59:24.00 ID:KNmU/1V7
男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
931931931931931931931913913191319131913191311
916311
191919919191999999999999999999999999
男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
931931931931931931931913913191319131913191311
916311
191919919191999999999999999999999999
男の子が二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを二式のブリーフを
屁をこき過ぎでケツに穴をあけたから、
臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ臭いだけなんだ
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916311
191919919191999999999999999999999999

207 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 20:00:56.34 ID:KNmU/1V7
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ
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二式のブリーフ履かせろ二式の鉄オムツ履かせろ二式のブリーフ喰わせろ二式の鉄オムツ喰わせろ

208 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 20:01:52.61 ID:KNmU/1V7
二式のブリーフ喰いてーよ!おじさんの愛情が籠った二式のブリーフ喰いてーよ!
二式の鉄オムツ喰いてーよ!喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って
喰いまくって腹壊してーよ!!二式のブリーフ履きてーよ!
オーダーメイドの高級品二式のブリーフ履きてーよ!履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履き潰して
気がついたら糞まみれそれが二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式のブリーフ
寒い季節だからこそガチンガチンの二式の鉄オムツ履きてーよ!そのうち重さに耐えられなくなって死ぬべさー
ガチンガチンのガチンガチンのガチンガチンのが亜ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああオーダーメイドがあああああああ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
二式のブリーフ喰いてーよ!おじさんの愛情が籠った二式のブリーフ喰いてーよ!
二式の鉄オムツ喰いてーよ!喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って
喰いまくって腹壊してーよ!!二式のブリーフ履きてーよ!
オーダーメイドの高級品二式のブリーフ履きてーよ!履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履いて履き潰して
気がついたら糞まみれそれが二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式の二式のブリーフ
寒い季節だからこそガチンガチンの二式の鉄オムツ履きてーよ!そのうち重さに耐えられなくなって死ぬべさー
ガチンガチンのガチンガチンのガチンガチンのが亜ああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああオーダーメイドがあああああああ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ

209 : ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:27:38.62 ID:KcK3nR8/
 12週間のご無沙汰でした。TEGです。
大変遅くなってすみません。

RozenMaiden Fortsetzung 第34話と第35話を投下しますよ。

では行きます。
34【蒼星石と結菱一葉の時計】

210 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:31:06.01 ID:KcK3nR8/
【第34話 蒼星石と結菱一葉の時計】

[2005/01/06 07:59]
[柴崎時計店 工房。]


 1月6日、晴れ。最低気温、1度。
庭の草に霜が降りている。お婆ちゃんの淹れたお茶も少し熱めだ。
そんな中でも、マスターは時計を取り出し、今日も仕事を始める。

 何やら、おかしな時計を扱っている。いったい何なんだろう。


元治「さーて、今日も始めるとするかのう。
   昨日の時計は…… と」

蒼星石「マスター、ずいぶんと変わった時計ですね。文字盤の数字が
    てんでバラバラ…… いったい、どんな方が……?」

元治「うむ。これは『クレージーアワー』と言ってな、短針の動きが
   面白いのじゃ。ホレ、間もなく正時じゃ、見ておれ。」

211 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:32:49.81 ID:KcK3nR8/
[08:00]

ヒュンッ
蒼「わあっ!  てっぺんに針が……5時間も進みましたよ!?」

元治「フォッフォッフォ…… これはな、1時間ごとに短針が30度でなく
   150度ずつ進んでいくのじゃ。インパクトは、絶大じゃろう?」

蒼「とても驚かされました…… 短針はびくともしていないのに、
  一気にジャンプするなんて」  

元治「最近世に出たものでの、確か去年だったかな。ワシも初めて見たときは
   腰を抜かしたものじゃわい。」


 時計の針はその動きを変えず、一定に、然るべき方向へ進む。
それは普通の時計でも、逆さ時計でも同じことなんだけど……。
こんな時計もあるんだね。

212 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:37:40.87 ID:KcK3nR8/
蒼「逆さ時計は何度か見たことがありましたが……」

元治「逆さ時計も、預かっておるぞ。これは昨日直し終わったものでのう、
   今日の昼前に持ち主が来られるはずじゃ。」

蒼「ふむふむ……」


 文字盤の6と12を結ぶ線を境に、2色に塗り分けられている。
裏面は、普通の蓋がしてあるけど、文字盤と同じように、左右に
均等に分かれている。

 一方には刻印がしてあって、もう一方には何もない。かなり、
変わったデザインだ……


マツ「あの薔薇屋敷の主ですね? いやあ、どうしてこんな所にと
   思いましたが……ねえ、貴方」

元治「うむ。あの大富豪がの。預かり証の名字ですぐに分かったが、
   意外にも自ら『あの薔薇屋敷から来た』と言ってのう。」

213 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:39:26.50 ID:KcK3nR8/
 薔薇屋敷。nのフィールドの中にも同じ名前の屋敷があるけど、
現実世界に、しかもすぐ近くにあることは知っていた。たまに、
ジュン君の家から外を通って戻るときに、見かけていたんだ。

 翠星石が時々それに見とれて、何回かカラスにぶつかりそうに
なったことがあった。それくらい立派なお屋敷なんだ。


蒼「あのお屋敷でしょう? ジュン君の家から少し歩いたところ
  に建っているって言う……」

元治「そうじゃ、結菱一葉という男じゃよ。先祖が華族で、この
   あたりでは有名なのじゃ。齢75、車いすで、使いの者が
   時たま世話に来るが、誰も共に住んでおらんのじゃ。」

マツ「ええ、それでもあれだけの量の薔薇を手入れしている、
   ときたもんですから、大層しっかりとした健康な体を
   お持ちなのでしょうね。私らも見習いたいですよ。」


 僕らは遠くからしか見たことがないけど、どうやらあの屋敷の
庭にも、nのフィールドのそれと同じように、たくさんの薔薇が
咲いているらしい……一度、見てみたいね。

214 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:41:25.23 ID:KcK3nR8/
元治「昔はマツと薔薇屋敷によく遊びに行ったもんじゃて。ホッホ。
   この時計も、同じようにしっかりとしておる。古い物じゃが、
   この通りよく動いておるぞ。しかし……」

蒼「どうしたんですか?」

元治「彼が時計を持ってきたときに、何やら焦りを感じたのじゃ。」

マツ「それも、かなり深刻な事態のようでした。顔が、青ざめて
   おりましたし……車いすを押していた使いのお方も、どこ
   となく浮かないお顔を……」

蒼「ふむ…… 3時間もすればここに来られるんですよね。
  少しお話を伺ってみるのもいいかもしれませんよ。」

元治「そうじゃなあ…… 何か大切なもののようじゃしのう。
   『K.Yuibishi』……本人の物のようじゃな。
   しかし下段の刻印……半分で途切れておるのか?」

マツ「『MCM』と『12th』……何の12番目ですかね?」

215 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:44:18.20 ID:KcK3nR8/
[10:21]
[公園付近。]


 クレージーアワーの修理が終わるまで、僕は公園で一息入れる
ことにした。さっきの時計の刻印、いったい何なんだろう……


蒼「ふふ……また金糸雀ったら、ジュン君の部屋に忍び込もうと
  していたら、すぐに見つかっちゃってさ」

レンピカ{ピカピカッ}

蒼「とても僕には侵入なんてできないや……はは」

レンピカ{ピカピカッ ピカッ}


「ちょっとそこの、おぼっちゃん」

216 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:47:50.37 ID:KcK3nR8/
蒼「? ……僕のことかな」

「このあたりで時計を見かけなかったかね?」


 突然呼び止められて振り向くと、そこにはマスターと同じ位の
年齢の、眼鏡をかけた男の人がいた。どうやら、時計をこの辺り
でなくしてしまったみたいだ。


蒼「い、いえ…… 僕はいま通りかかっただけなんですけど……
  よければ一緒に探しましょうか?」

「ああ、ありがとうよ。懐中時計なんだが、一昨日私達がここで
 休んでいるときに、どこかに落としてしまったようなのだ。」

蒼「懐中時計ですね。……この公園、けっこう広いから……
  ああ、貴方はここで休んでいてください。僕が、見つけますよ。」

「すまないな…… どのベンチで休んだかも覚えていなくてな。」

蒼「大丈夫です。僕、ここでよくかくれんぼとかしてますから。」

217 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:49:15.11 ID:KcK3nR8/
[10:32]

蒼「とは言ったものの……」

レンピカ{チカチカッ}

蒼「ああ、照らしてくれるんだね。ありがとう。」


 いつも雛苺たちと、かくれんぼや鬼ごっこをしてるおかげか、
公園の内部は大分把握できている。けど、物が物だからなかなか
見つからない……しらみつぶしに探すしかない。


[10:36]

蒼「あと探してないのはこのあたりだけか……」

レンピカ{カッ}

蒼「……! あった……あれ? こ、これは……」

218 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 20:51:28.88 ID:KcK3nR8/
 公園から一番遠くのベンチの裏で、懐中時計を見つけ出した。
見たところ、いわゆる「時計回り」の方向に動く時計のようだ。
けど、このデザイン……どこかで見たことがある。


蒼「ありましたよー!!」

「おお、ありがとうよ。 おお、これだ。良かった……」

蒼「……ところで、最近柴崎時計店に行かれませんでしたか?」

「あ、ああ……一昨日行ったが、どうしてそれを?
 この時計を落としてしまってから行ったのだが……」

蒼「これと、配色が左右逆のデザインの時計を見かけたんです。
  僕、柴崎時計店の者で…… 結菱さん、ですよね?」

「いいや、結菱という者を、私が世話をしているのだ。
 申し遅れた、私は安倍川弘という。」

蒼「僕は……蒼星石といいます。」


 安倍川さん。彼は、薔薇屋敷の近くに住んでいるようで、長年
結菱さんの家と関わりを持ってきたと話してくれた。思いのほか、
早く打ち解けられたみたいだ。

219 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:15:49.92 ID:KcK3nR8/
安倍川「そうせいせき、か。……時計店の者と言ったな。
    修理のほかに、もう一点、頼みがあるのだが……」

蒼「はあ……」

安倍川「……一葉様と、この後時計店に行くことになっている。
    最近、どうも一葉様は何かに悩んでいる。私にも、余り
    口を開こうとはしないゆえ、どうすべきか分からない。」

蒼「ああ、それでしたら…… 話を聞くつもりですよ。
  一昨日も深刻な表情をしていたと、マスターが…… あっ、
  マスターというのは、時計を修理する元治さんで……」

安倍川「なるほど、……それならば良かった。話が早い。
    では、また後程お会いしよう。」

蒼「はい。お待ちしております。」


 多分、もうこの時には「一葉さんの運命を変えに行かなければ
ならない」ような気がしていたんだろう。その時はただの庭師の
カンで片付けようとしていたけど……

220 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:23:34.09 ID:KcK3nR8/

[10:44]

ヒューン……
蒼「……安倍川さんか。使いの者って、あの人のことだったんだね。」

レンピカ{ピカッピカッ}

蒼「しかし、薔薇屋敷は大きいなぁ。ここからでもよく見えるや。」


[11:00]

蒼「ただいま戻りましたー。」

元治「おお、蒼星石や、帰ったか。お茶が入っておるぞ。」

蒼「あっ、ありがとうございます。」

元治「うむ…… 丁度良かった。この時計を良く見てくれんか。
   この、境目の所じゃ。MCMの後に、文字の『セリフ』が
   見えるじゃろう。おそらくこの刻印、続きがあるぞ。」

蒼「はい…… ……やはり」


 セリフとは、文字の先についている「鉤」のことだ。
この刻印の続きは、公園で探したあの時計の裏にあるんだろう。

221 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:24:41.88 ID:KcK3nR8/

 さっきは時計の裏面までは深く読んでいなかったけど、もうすぐ
安倍川さんと結菱さんが来るから……分かるかもしれない。


元治「!? ……な、何か知っておるのか!?」

蒼「実は、先ほど散歩に出かけていた時なんですが、
  結菱さんの使いという人に出くわして……デザインが正反対
  鏡に映したような、同じ時計を見たんです。」

元治「な、なんと……。」


[11:11]


 僕がマスターに安倍川さんに出会ったことを明かした、まさに
その時だった。店の扉が開いて、2人の老人が入ってきた。
安倍川さんと、彼が押している車椅子の上のお爺さん。

 みたところ、マスターよりも年上だった。……この人が、あの
結菱さんで間違いない。

222 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:26:18.04 ID:KcK3nR8/

ガラガラッ
安倍川「すみません、一昨日時計を修理に出した者ですが……
    ……おお、蒼星石。」

一葉「…… ……君が、蒼星石か」

蒼「はい。 結菱さんですね。」

一葉「そうとも。 ……時計は、直りましたかね。」

元治「時計なら、この通り動いておりますぞ。いい仕事を、して
   いらっしゃる…… ところで、この品についてですが……
   もしやもう一品、対になるものがありませんかな?」

一葉「……よくぞお気づきになられましたな。こちらです。」


 結菱さんの手にそっと握られていたのは、僕が探した時計だ。
こうしてみると、本当に文字盤だけ、マスターが直していた時計
を、鏡で映しているみたいだ。

223 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:28:09.63 ID:KcK3nR8/
蒼「マスター、僕が見たのは、この時計です。」

元治「ふむ、何かわけありの様じゃな……よろしければお話を。」

一葉「……裏面の刻印を見ていただけますかな」

元治「こちらは『K.Yuibishi』ですな。そして、今
   貴方が手にしている方には……『F.Yuibishi』。
   『K』は、一葉さんのイニシャルですかな?」

一葉「その通りです。」

一葉「そして…… この『F』は弟の二葉のイニシャル……。
   私は……双子だったのですよ。」

蒼「双子……!」


 結菱さんは、双子だったのか。けど、「だった」って……


224 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:31:42.36 ID:KcK3nR8/
一葉「二葉は27の時に海難事故で亡くなってしまいましてな……
   忘れもしない昭和32年6月14日……48年になります。
   この時計は、その船出の前に贈ったもので……」


 結菱……一葉さんは、そう言うと時計を裏返して、蓋の刻印を
見せてくれた。ふむふむ……さっきの『F.Yuibishi』、
下の段の1行目が『LVII』、そして2行目が『June』。

 2つを繋げると……『MCMLVII』『12th JUNE』。
そうか、この時計は1957年6月12日に、自分と弟のために
作られたものだったのか……


元治「そう、でしたか……」

一葉「私は……ずっと二葉の影に縛られて生きてきたのです。
   二葉が生きている間も、二葉が居なくなってからも……
   私は取り返しのつかないことを……」

225 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:33:25.28 ID:KcK3nR8/
安倍川「……一葉様がお昼寝をしておられるときも、うなされている
    ことがあるのです。」

蒼「……夢の中でも、ですか……」


 この時計に、そんな事情があったんだね……。いったい、何が
あったのだろう。夢の中でも、影に縛られているのかな。
この僕に、何か、してあげられることは……


マツ「……夢の中…… あっ、私に名案がありますよ。」

元治「おお、そうじゃった、そうじゃった。
   ……蒼星石よ、いまこそ……お前の力が必要じゃ。」

蒼「心の、樹……」

226 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:34:57.99 ID:KcK3nR8/

 お婆ちゃんのひらめきが、「僕が何をすべきか」に繋がった。
そう、僕は心の庭師。夢でも苦しんでいるなら、心の樹に何か
起こっているのかもしれない。

 多分、同じような経験をお婆ちゃんがしてきたというのもあった
んだろう。息子のカズキ君のことでずいぶんと悩み、苦しんだ事
があったっけ。あの時は、僕をみんなが助けてくれたな。

 よし、今度は……


蒼「はい。……やってみましょう。」

安倍川「な…… いったい、何が……!?」

蒼「一葉さんのこと……なんとなく、分かる気がするんです。」

一葉「……どうして……」

蒼「……僕も、姉と双子なんです。双子だからこそ……自分が、
  『1』として生きるか、或いは『2分の1』として生きるか。
  長い間、悩んできました。」

227 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:38:24.05 ID:KcK3nR8/

元治「そして……私もこの子に幻影を重ね、縛ってしまった。
   家族を亡くす気持ちは、私にも分かります。」

マツ「30年前、まだ9つのひとり息子を亡くしているのです。」


 僕がこの家に来たのも、そのことがあってだった。誰かの影に
ずうっと縛られながら、何十年も生きてきた。今にして思えば、
レンピカは、そんなマスターたちを支えるべく、選んだのかな。


一葉「出逢ったばかりで、恐縮なのですが…… 私もあなた方
   のお話を詳しく聞きたいのです。二葉に……最愛の弟に
   心からの詫びができるかもしれない。」

安倍川「次の店休日に、薔薇屋敷に来ていただけませんか。
    何人でもご招待しますので……。」

元治「……ぜひとも。この子と、この子の双子の姉と、姉の
   ……親友とで、一緒に行かせていただきます。」

228 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 21:41:05.12 ID:KcK3nR8/

[11:27]

蒼「次の店休日は確か10日…… 祝日で、ジュン君は休みだね。
  翠星石にも、話しておかないと……。」

蒼「……こんど、スコーンを作ってあげよう。」


 翠星石にだけは、心配をかけたくないからね。もう、あの時の
ように、独りで抱え込んだりはしない。


229 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:07:53.51 ID:KcK3nR8/
[20:21]
[桜田家 ジュンの部屋。]

ジュン「もう明日から3学期かー、早いなー。」

翠星石「宿題はちゃんとできてるですか? オメーいつもいつも
    最後の日になってからしかやらないですから……」

ジュン「フフフ、今度はもう完璧に終わらせてあるんだ。
    中学までの僕とは一味違う!」

翠「……す、すごいオーラを感じるですぅ……
  なかなかやるじゃねーですか、チビ人間。」

ジュン「と言っても終わったのは昨日なんだけどな……
    『X』のやつ、なかなか手ごわくなってるぞ。」

翠「さすが、翠星石が目を付けただけのことはあるです。
  さーて、そろそろティータイムにするですか!」

ジュン「そーだな、僕はコーヒーにしようかな……」

230 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:08:52.23 ID:KcK3nR8/
[20:24]
[廊下。]

RRRRRR...
ジュン「ん? こんな時間に誰だろう…… なっ、なんだこの
    名前は……『そうせいせき』!? 蒼星石なのか!?」

翠「んん? ……ああ、これは蒼星石の番号ですねぇ。
  時計屋ですから安心して出るといいですよ。」

ジュン「あ、ああ…… 本当に蒼星石なのか?」

翠「そこの黄色い本に載ってるって、のりが教えてくれたです。
  速攻で翠星石が登録しといたですから早く出ろですぅ。」

ジュン「はぁ……」


ガチャ
ジュン「もしもし、桜田ですけど……」

蒼[もしもし? その声、ジュン君だね。
  よかった、起きてて。夜分遅くにごめんよ。]

231 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:10:05.52 ID:KcK3nR8/

ジュン「ああ、蒼星石か。本当に蒼星石だったのか。」

蒼[え? ……なんだかよくわからないけど……
  いや、そうじゃなくて、ジュン君にお願いがあるんだ。]

ジュン「な、なんだ……?」

蒼[1月10日…… 暇はあるかい?]

ジュン「10日? ……ああ、8日から3連休だから、今の所は
    大丈夫だけど……何かあるのか?」

蒼[うん。 その日に……時計店に来てくれないかい?
 できれば、翠星石も一緒に。薔薇屋敷に行くんだ。]


232 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:11:22.51 ID:KcK3nR8/

ジュン「薔薇屋敷……!? あのnのフィールドの!?」

蒼[いや、違うよ。結菱って言ったらわかると思うけど]

ジュン「ああ、あそこか。 ……わかった。行こう。
    もう、10年ぐらい行ってないけど、場所分かるから。」

蒼「ありがとう。……そうだ、翠星石に代わってくれるかな?」

ジュン「おう、ちょっと待っててくれ。」


翠「翠星石ですけどー。 どうしたですか?」

蒼[翠星石……久々に庭師としての『大仕事』が入ったんだ。]

翠「ははぁ。心の樹関連ですか?」

233 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:12:26.05 ID:KcK3nR8/
蒼[うん。しかも今度は……すこし、厄介かもしれない。
 カズキ君の時よりも、大変になると思う。あくまでも
 僕の勘だけどね……]

翠「まぁジュンも連れていきますから大丈夫ですぅ! 翠星石は
  今までの翠星石とは一味違うですから、安心するがいいです。」

蒼[そっか。ふふ、よかった。兎に角、庭師にしかできない仕事
 だから……本当に危なくなったら、真紅たちにも手伝って貰う
 と思うけど……]

翠「そうそう抱え込まんでも大丈夫ですよ。翠星石たちは、双子
  である前に8人姉妹なんですから、ガンガン頼れって」

蒼[……!]

翠「真紅たちも言ってたですぅ。いざとなった時の対処は翠星石
  に任せるですよ。えーと、10日に何処に行けばいいですか」

蒼[僕のお店に来るといいよ。じゃあ、そろそろ夜も遅いし……
 僕はこれで。ありがとう、翠星石。ジュン君にもよろしくね。]

翠「お、おう、ですぅ。じゃあ、切るですよ。」

234 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:13:26.71 ID:KcK3nR8/
ガチャッ
翠「……まぁ、今の蒼星石なら大丈夫でしょう。翠星石も久々に
  がんばらなきゃあなー、ですぅ。」

ジュン「僕もついてるしな。」

翠「うへえ!? じゅ、ジュン……いきなり何ですか!?」

ジュン「紅茶入ってるぞ。飲もうよ。」

翠「わ、わかったですぅ。とりあえず、10日は、その……
  よろしく頼むです。」

235 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:14:09.49 ID:KcK3nR8/
[20:58]
[ジュンの部屋。]

ジュン「よーしお前らー、僕は明日からまた学校だから、留守番
    しっかり頼んだぞー。といっても明日行ったら、3連休
    なんだけどなー。」

真紅「合点承知、なのだわ。」

雛苺「がってんしょーちのすけ、なのー!」

翠「どこで覚えたですか…… んじゃ、おやすみーですぅ、
  いい夢みるですよー。」

雛「おやすみなのー!」

紅「おやすみなさい。」

ジュン「おーう、また明日ー。」


236 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:20:27.92 ID:KcK3nR8/
[2005/01/07 04:39]
[夢の中。]


蒼『……Zzz』

蒼『うーん…… んん……』

ガラガラッ

蒼『うわっ……! 何だ!? いきなり、崩れ……』


 突然、暗闇が崩れ始めた。崩れ落ちたところからは、
何やら光が漏れている……けど、明るい光ではなかった。

237 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:23:02.08 ID:KcK3nR8/

蒼『若い男の人が二人……よく似てる』

蒼『あれ? この人は……一葉さん、かな?』


 映っていたのは、若い時の一葉さんだった。どこか面影がある。
ということは、もう一人は二葉さん、か。何か、言い争ってる?
一葉さんの手には、懐中時計が握られてる……

 これは、一葉さんの夢の扉か。ずいぶんと、ボロボロな扉だ。
僕は今、一葉さんが夢に見ている、二葉さんとの思い出を見てる
っていうことか…… あの時計があるから、1957年か。


238 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 22:27:01.16 ID:KcK3nR8/

 ……あっ、そのまま二葉さんが出て行ってしまった。これは、
時計を渡せなかったのかな……? あれ? 万年カレンダーが、
机の上に飾ってある…… 6月12日……13日、進んでいく。

 14日…… 1957年6月14日? まさか、この日は……
あっ、後ろに、船が……


一葉(27)『行かないでくれ!!』

二葉(27)『僕は……あのひとと生きることにしたんだ。』


蒼『と、時計は……』

ゾワッ
蒼『!?』

グワアッ
蒼『な、なんだこの……萎れた、茨!?』


 突然、沢山の萎れた薔薇の茨が、僕の体を締め付けたんだ。
まるで、僕が呼びかけるのを止めるかのように、力強く体を
つかんで、離さない。

239 :RozenMaiden Fortsetzung 34 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:06:27.74 ID:KcK3nR8/

蒼『うっ……動けない……!』


 茨に捉えられたのは、僕だけではなかった。


翠『ぬぬっ、枯れてるくせに……手ごわいです』

ズズズ
蒼『翠星石! 君まで!!』

翠『ちっと夢の扉が開いてるから来てみたら、蒼星石が居たです。
  それで、ついてきてみたですけど、これは結構、やっかいな
  事情があるみてーですねっ……』

ググウッ
翠『っっああー!!』

蒼『す、すいせ……ぐうあああ!!』

グルグルグル……

         【蒼星石と結菱一葉の時計・完/第35話に続く】

240 : ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:24:13.90 ID:KcK3nR8/
 続きまして、第35話を投下します。
では行きます。
35【蒼星石と桜田ジュンの探求】

241 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:26:32.63 ID:KcK3nR8/
【第35話 蒼星石と桜田ジュンの探求】


[2005/01/07 06:01]
[ジュンの部屋。]

ブルブルブル……

ジュン「…… ん? 何だ……携帯鳴ってんのか? いや違……」

ブルブルブル……
「……うーん…… ぬぬぅ…… うぐっ」

ジュン「鞄! これか!」


パカッ
ジュン「……翠星石!? 大丈夫か?」

翠「……ハッ! ああ、夢だったですか。
  ジュン〜!! 怖かったですぅ!!」
ヒシッ

ジュン「わっ…… ど、どうしたんだよ、やけにうなされていた
    みたいだけど……」

242 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:29:32.21 ID:KcK3nR8/

翠「あ、ああ、特に何もないですぅ。カナシバリっていう奴です
  アレって意外に怖いんですねぇ……起こしてゴメンですぅ。」

ジュン「そうなのか…… 人形でも金縛りにあうんだな……
    ま、生きてるからな……。どうする? なんだったら
    灯りつけとくけど。」

翠「大丈夫ですぅ。とっとと夢の続きでも見てくるです。
  おやすみですぅ、チビ人間。」

ジュン「ああ。 おやすみー。」


ジュン「……とはいうもののもう6時なんだよな……
    起きとくか……蒼星石のヤツ、もう起きてるかな。」

ジュン「…… ちょっと走りに行くか。 うっ、寒い……」


243 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:32:11.76 ID:KcK3nR8/
[06:17]
[ドールハウス・EnjuDoll前。]

ジュン「だいぶ温まってきたな…… まだ槐さんも起きてないか。
    薔薇水晶はいつも7時ピッタリに起きるんだっけ。」

ジュン「マンションも静かだし…… 夜も明けてない街って
    こんな感じなのか……」


[06:24]
[柴崎時計店前。]


 1月7日、うすぐもり。最低気温0度。僕は、5時半ごろに、
お婆ちゃんに起こしてもらった。僕が鞄の中で、激しくうなされ
ているのを見て、とてもびっくりしたと言っていた。

 お婆ちゃんが淹れてくれたお茶を飲むまで、落着けなかった。
とりあえず、心を整えるために、店の外で軽く体操でもしようと
思ったとき、ジュン君が通りかかった。


244 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:35:34.17 ID:KcK3nR8/

ジュン「……時計店か。 おっ、蒼星石!」

蒼「やあ、ジュン君。おはよう。今朝は、早いんだね。」

ジュン「ああ、ちょっと色々あってな…… なあ蒼星石。」

蒼「なんだい?」

ジュン「……金縛りに遭わなかったか?」

蒼「! ……何か、体が動かなくなるっていうアレだよね……
  本当に「金縛り」かどうかは分からないけど、動けなくて。
  起こしてもらうまで、ずっとうなされてたみたい。」

ジュン「やっぱり…… どんな夢だったんだ?
    翠星石もさっき金縛りにあって……」


 とりあえずはジュン君に、いきさつを話すことにした。
すこし、気が楽になった。


245 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:41:23.89 ID:KcK3nR8/

蒼「結菱っていう人の夢をのぞいたら、急に動けなくなって……
  本当に、影を縛り付けられたような感じだったよ。僕たちは、
  たくさんの萎れた薔薇の茨に捉えられたんだ。」

ジュン「ユイビシって、あの薔薇屋敷の……だよな?」

蒼「そうだけど…… この辺だと、有名みたいだね。」

ジュン「小さいころ姉ちゃんと薔薇を良く見に行ったんだ。
    なんか、めちゃめちゃ寂れてたからがっかりしたっけ。
    それこそ、萎れた薔薇だらけだったな。」

蒼「そうなんだ。 夢の通りだ……
  なら、話は早いね。……そうだ。」

ジュン「なんだ?」

246 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:42:48.31 ID:KcK3nR8/

蒼「今日、学校は何時に終わるんだい?」

ジュン「今日は始業式だから、1時までには帰ってくるけど……
    どっか行きたいのか?」

蒼「図書館に連れて行ってもらおうかな、と思って……」

ジュン「図書館なら、今日は7時までだから大丈夫だな。
    昼ご飯とかもあるし、2時くらいに家に来てくれ。」

蒼「うん、ありがとう。 じゃあ、学校頑張って。」

ジュン「おう、じゃあな!」


247 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:47:11.42 ID:KcK3nR8/
[12:44]
[高校からの帰り道。]

ジュン「柏葉って、薔薇屋敷って行ったことある? 高台の上の
    でっかい屋敷なんだけど……覚えてなくてさ。そこに、
    最後に行ったのはもう10年くらい前かなー。」

巴「ああ、結菱さんの所だよね。行ったことがあるよ。」

ジュン「そうなんだ。」

巴「小さいころに、よくお母さんと行ってたよ。本当にここが、
  人一人の家なのかなーって……お城みたいで、そこの前を
  通るのが楽しみだったっけ。」

ジュン「へぇー……」

巴「けど、たまに庭にあるっていう薔薇園の薔薇が、殆ど萎れて
  寂れてることがあってね。」

ジュン「!?」


248 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/24(水) 23:50:11.80 ID:KcK3nR8/

巴「そういう時は、あんまり通りたくなかったな。なんだか、
  お化け屋敷みたいで……お母さんも、そうなってるところを
  何回も見たことがあるって言ってたよ。」

ジュン「そうなんだ…… 僕も最後に行ったときは薔薇がみんな
    萎れていたな。10日に、薔薇屋敷に行くんだけどさ。」

巴「薔薇屋敷に? いつもの、あの病院の裏じゃなくて……?」

ジュン「まあ、その、翠星石達が庭師の仕事をやるっていうから、
    僕も行こうかなぁ、って。」

巴「なるほど。あの子達なら、枯れ果てた薔薇もなんとかして
  咲かせてくれるかも……そんな気がする。」

ジュン「僕も、そう思うよ。もう10年以上、薔薇屋敷には
    行ってないけど……どうなってるんだろう。」


249 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:08:27.92 ID:0fPKLiJD
[14:01]
[桜田家前。]


 2時を過ぎたから、ジュン君の家に向かった。家の中から、
真紅たちの諍い合う声が聞こえてくる。……あっ、ジュン君が
出てきたみたいだ。

ギイッ
ジュン「よう、蒼星石。行こう。」

蒼「やあ、ジュン君。 ……その」

ジュン「……どした? ……なんだったら図書館まで、カバン
    入っとくか?」

蒼「……そうさせてもらうよ。 ジュン君って、鞄を2個持って
  学校に行くんだね。重くないのかい?」

ジュン「学年主任っていう偉い先生が、『置き勉』を取り締まり
    やがってな。辞書とかも持って帰ってるんだ。もともと
    カバンは2つあるし。まあ、重いよな。」

蒼「へぇ……大変なんだね。」


250 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:14:46.25 ID:0fPKLiJD

ジュン「自転車の籠と荷台に1個ずつ載せてくるやつもいるぞ。
    すごい奴は鞄だけで10キロ行くとか行かないとか……」

蒼「……勉学も、修行なんだ……」

ジュン「……まあ間違っちゃいないよな。さ、行こう。
    僕も、出来る限り協力するよ。」


[14:20]
[市立図書館。]


 ここが、ジュン君や巴さんがよく勉強に使ってるっていう、
図書館か。結構広いけど、今日はほとんど使われてないみたいで
すごく静かだ……


蒼「とりあえず、最重要なカギになりそうなものは持ってきたよ。」

ジュン「これは……? どっちも『Yuibishi』って書いてあるけど」

蒼「結菱さんの持ってきたのと、使いの人が探してた懐中時計の、
  裏面を写したものなんだ。2個とも、半分ずつにこの刻印が
  ほどこされてて……」

251 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:18:36.71 ID:0fPKLiJD

ジュン「へぇー…… 2つで、1つって感じだな。
    名前の下にも何か彫ってあるけど……」

蒼「繋げて読んでみて。」

ジュン「……何ていうか、晴れの天気記号、みたいだな。
    どれどれ……おっ、名前の下にあった刻印が繋がった!
    2段にわたってるけど……」

蒼「そう、これは、この時計が作られた日付なんだ。
  上の段はローマ数字で1957、1957年。」

ジュン「下段は…… 『12th June』。6月12日か。」

蒼「結菱さんは、双子だったんだって。」

ジュン「そうなんだ。 ……だった っていうのは……」

蒼「海難事故で……亡くなられたんだ。そのことで、結菱さんは
  ずっと悩んでる……それで、何か分からないかな、と思って。
  裏付けも兼ねて、ちょっと、調べたいんだ。」

252 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:20:27.23 ID:0fPKLiJD

ジュン「事件の記事とかなら、本にも載ってそうだな。けど、
    ネットの方が早いかもな……」

タカタカタカッ

 慣れた手つきで、即座に検索サイトを開く。
ふふ、流石だね、ジュン君。


蒼「……ジュン君、昭和32年って、西暦だと何年になるんだい?」

ジュン「えーと……、僕が昭和63年生まれで、1988年だから……」

ジュン「1957年だな。今から、48年前。」

蒼「こういうのって、新聞が残ってたりしないのかな……」

ジュン「えーと…… こういう時こそ、ネットが役にたったり
    するんだよな……」

カタカタッ ッターン

 ジュン君は、何か、役に立ちそうなページを見つけたみたいだ。

253 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:21:55.45 ID:0fPKLiJD

ジュン「1957年、っと。これか?」

蒼「へぇ……年代記があるのか。」

ジュン「20世紀の事件について、色々とまとめてある所とか、
    ウェブ百科事典だとか……結構あるもんなんだ。
    薀蓄も貯まるし、大抵の疑問は調べがつくしな。」

蒼「ふむふむ…… 1957年、…… あった。」
 
 
 1957年、6月14日。これが、一葉さんの言っていた、
あの事故のページかな……。あの時夢の中で見た、大きな船の
写真が、ページの真ん中に載っている。


ジュン「ダイナ号沈没事件……?」

蒼「やっぱり……海難事故だったんだ。それに、この船……」

ジュン「何か、分かるのか?」


254 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:24:39.84 ID:0fPKLiJD

蒼「夢で見たものと同じ船なんだ。これがダイナ号……
  搭乗者名簿とか、載ってないかな」

ジュン「……あった。どうやら、『乗員乗客440名中、死者と
    行方不明者が1邦人含む427名。』日本人が1人だけ
    乗っていたみたいだ。その人の、名前は……」

蒼「結菱財閥のご令息、Kazuha Yuibishi……
  え……!?」

ジュン「この、Kって書いてある方の」

蒼「……違う、一葉さんじゃない……」

255 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:26:33.84 ID:0fPKLiJD

ジュン「ど、どういう…… ま、まさか。
    そういえば双子だったって言ってたよな。ということは、
    事故に遭ったってのは……」

蒼「うん。二葉さんなんだ。多分、なにかわけがあるんだろう。
  一葉さんの背負っているもの……弟さんであって、また、
  自分自身でもあったのかな。」

ジュン「事故の日付……この時計の日付と近いのか。これって、
    事故の2日前に贈られた時計なんだな。その使いの人が
    持ってきたんなら、渡せてないんだよな。」

ジュン「渡せてたら、ここにはないだろうし……船に乗る前に、
    何かあったのかもな。」


256 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:29:02.27 ID:0fPKLiJD
[15:21]

蒼「……なんだか、ジュン君の家で調べてもよかったかもね……
  ごめん、わざわざこんなところに連れ出して」

ジュン「いいや、図書館でよかったかもしれない。さっき、隅の
    方の棚の中から、こんなものを見つけたんだよ。
    ……これは、ネットにはなかったんだ。」


 ジュン君は、何やら古くて分厚い本を持っていた。
……『民明経済新書1956』。


ジュン「財閥っていうから、会社をたくさん持ってるのかな、と
    思ってな。そしたら、こんなものが出てきたんだ。」

蒼「『結菱令息、双子で新事業開拓か』? これは……
  『昭和33年頭の開設をめざし、財団を立ち上げる計画』。
  『昭和32年半ばには最終計画を立ち上げる見通し』……。」


257 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:31:26.57 ID:0fPKLiJD

蒼「一葉さんは、二葉さんと一緒に、事業を立ち上げようとした
  みたいだね。だけど……夢で見た限り、海外の誰かと暮らす
  ために、ひとり出て行ってしまったのか。」

ジュン「で、こっちが財団が出来るはずだった年の本だ。
    このページの隅の方……この記事。」

蒼「わっ、こんなに小さく……それはネットに流れないはずだ。」

ジュン「『結菱財閥新財団はどこへ? 役員が語る事情』か。
    どうやら、少し兄弟でもめていたみたいだな……」


 予想通り、二葉さんが出て行ってしまったために、1958年
に始める予定だった事業は頓挫してしまったようだ。一葉さんは、
二葉さんの結婚をどう思ったんだろう……


258 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 00:32:38.12 ID:0fPKLiJD

蒼「……なるほど。けっこう、情報が集まってきたようだね。
  他所で集められる限界ってところかな。」

ジュン「もう、あとは……一葉さん次第か。」

蒼「一葉さんだけに重荷を背負わせはしないさ。何て言ったって、
  僕らも双子だし、何だか似ている気がするんだ。僕も、昔は
  翠星石という存在にとらわれ過ぎていた。勿論、あの子も……」

ジュン「やっぱ、『1』か『2分の1』か、なのかなー……」


 ……今の一葉さんは『2分の1』、自分の影に掛け合わされて
まるで『4分の1』だ。

 僕たちが、『1』にしなきゃね。――心の、庭師として。


259 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:09:20.57 ID:0fPKLiJD

[15:47]
[時計店の近く。]

ジュン「……けど、本当に大丈夫なのか? 知り合ったばかりの
    誰かの心の中に入って、しかもその樹をいじるって……」

蒼「その人はとても深く悩んでいたよ。……抱えきれないくらい、
  とても深い闇を背負ってるんだと思う。それを、打ち明けて
  くれた今、もうただの他人じゃないさ。」

ジュン「蒼星石…… よし。頑張ろうぜ。」

蒼「……うん。やって、みせるよ。」


260 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:11:31.39 ID:0fPKLiJD

[2005/01/10 13:02]
[柴崎時計店。]


 そして2日後、約束の日が訪れた。お昼ご飯を食べ終わって、
僕とマスターはジュン君と翠星石の到着を待つ。お婆ちゃんが、
時折心配してお茶をたててくれる……

 ジュン君たちが来たら、マスターを連れて、薔薇屋敷に行く。
安倍川さんが話してくれたところによると、一葉さんはいつも、
この時間になるとお昼寝をするみたいだ。

 その時が、夢の扉を開ける時。久々に、庭師としての大仕事が
始まろうとしているんだ。


261 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:14:57.11 ID:0fPKLiJD
ガラガラッ
翠「こんにちはーですぅー。」

ジュン「こんにちはー。」

蒼「……やあ。」

元治「いらっしゃい。話は、この子から聞いておるじゃろう。」

ジュン「はい。 ……では、行きましょうか。」

元治「体力だけは、日々鍛えておるからな。行くとしようか。」

翠「……蒼星石、念のために鞄に入っていくがいいです。
  仕事が終わって疲れてもその中で休めるですから。」

蒼「そうだね、そうさせてもらうよ。マスター、お願いします。」

元治「うむ。」


262 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:17:56.86 ID:0fPKLiJD

マツ「気を付けて行ってくるんですよ。何かあったら、私もすぐ
   行きますからね。」

蒼「ありがとうございます。」


[13:24]
[薔薇屋敷 庭。]


 屋敷の門をくぐり、少しの坂を上った後、僕らは庭に出た。
そこは薔薇園として有名みたいだけど、目の前にあったのは、
薔薇園ではなかった。本当に……薔薇園なのかい?


ジュン「これは……」

蒼「すごい荒れようだ……」

翠「ずいぶんと弱ってしまってるですぅ。すぐに翠星石がお水を
  あげてやりますからね。スィドリーム、如雨露を頼むです!」

スィドリーム{ポオッ}カッ


263 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:20:53.45 ID:0fPKLiJD

元治「しかし、これだけの量が萎れてしまっているのでは……!」

翠「ぬう、庭師の如雨露を以ってしてもすぐに枯れちまうです!
  こりゃあ、ユイビシって人間になにか起こってるですね……」

ジュン「あの翠星石の如雨露でもダメなのか……」

蒼「事は一刻を争うね。行こう!」


[13:29]
[薔薇屋敷 玄関。]

ジュン「おお、取っ手をトントンやるタイプなのか……」

元治「久々に見たが、荘厳だのぉ。」


ゴンゴン

ギッ ギィ……
蒼「!」


264 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:23:05.82 ID:0fPKLiJD

安倍川「……これは、お待ちしておりました。ささ、中へ。」

元治「ごめんください。」

ジュン「おじゃま……します。」

翠「ごめんくださいですぅ。」

蒼「おじゃまします。」

ジュン「安倍川さん、でしたね。僕は桜田ジュンといいます……
    突然なんですけど、ここに姿見なんかはありませんか?」

元治「普通の大きさでよいのですが……ございませんかな?」

安倍川「一葉さまのお部屋の中に、立派なものがございます。
    行きましょうか。」

265 :RozenMaiden Fortsetzung 35 ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:26:53.84 ID:0fPKLiJD
[13:37]
[結菱邸 一葉の部屋。]

安倍川「一葉さまは……眠りにつかれています。
    やはり、うなされて……」

翠「ふむふむ、これだけよく眠っていれば大丈夫ですぅ。」

安倍川「……!?
    これは……渦? か、鏡が……!?」

蒼「では、……行ってきます。」

安倍川「い、行く、とは」

翠「今から扉を開けるです。鏡の向こうの、その扉の向こうが、
  一葉のおじじの夢の中なのですぅ。」

ジュン「安倍川さん、でしたね。少し、行ってきますよ。」

元治「さて、ワシも若い衆に続くとしよう。お任せください、
   あの子たちがやるときはやるというのは、何度も見てきて
   おりますから。」

安倍川「は、はい! このとおり、よろしくお願いいたします!」


 安倍川さんは、しばらく礼をしたまま顔を挙げなかった。
その傍らで眠っている一葉さんは、辛そうな表情を浮かべている。

 もう一度、一葉さんの夢の中へ行こう。そして……心の樹を、
あの時のように生き返らせるんだ。行くよ、翠星石、ジュン君!
マスター、そして一葉さん、行きますよ!!


              【蒼星石と桜田ジュンの探求・完/第36話へ続く】

266 : ◆TEGjuIQ24E :2011/08/25(木) 01:32:10.79 ID:0fPKLiJD
 ……というわけで、第34話と第35話をお送りしました。
読んでいただいた方ありがとうございます。

 この蒼星石のシリーズは第3部2番目の長編として描いてます。
原作にだけ出てきた結菱氏と、その人を取り巻く事件に、
アニメの蒼い子たちが出くわしたらどうするのか? というのを
描こうと思っています。そのまんまはアレなんで、時計とか
いろいろ出してます。

 この話は第36話に続きます。
諸事情+体調崩れによって投下が遅れてしまったことをお詫びいたします。
では、また。

267 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/26(金) 17:08:01.25 ID:wAOdSLz6
投下乙です

268 : ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:39:35.38 ID:xO2HchhH
どうも、TEGです。
RozenMaiden Fortsetzung 第36話を投下しますよ。
今度も蒼が語ります。

>>267
乙ありがとうございます。励みになります。


では行きます。
36【蒼星石と柴崎元治の奮躍】

269 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:41:32.38 ID:xO2HchhH
【第36話 蒼星石と柴崎元治の奮躍】

[2005/01/10 13:48]
[夢の中。]

蒼「ここが…… 一葉さんの夢の中」

翠「金縛りに遭った時にみたのと同じ風景ですねぇ。
  けど、翠星石たちは本当に夢の中にいるんですか?」

ジュン「明らかに、僕らが居る屋敷の中だけど……」

元治「ふうむ…… 見たところ、確かにお屋敷の中、ワシたちが
   通された、客間のようじゃが……」

 
 一葉さんの夢の中は、おそろしく静かだった。薔薇屋敷の客間、
そのものだった。長い時を二葉さんと、そして二葉さんの記憶と
ともにここで過ごしたからかな……。

270 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:46:25.72 ID:xO2HchhH
 広い窓があり、上を見上げると天窓が見える。いくつか、細い
窓もある。ここが夢の中とは思えないほどだ。そう思った瞬間、
事態が一変した……。


グラッ
蒼「うわっ! この揺れは……」

一葉「ううう…… うおおお……!!」


 一葉さんの記憶が揺さぶられている。細い窓に、ひびが入る。
窓の外の景色が、歪みだした……そこかしこから、茨が生えては
すぐに萎れていく。今朝見た夢と……よく似ている。


翠「一葉おじじ! しっかりするです!!」
ガシッ
一葉「二葉…… 二葉あああ!!」


271 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:47:56.12 ID:xO2HchhH

 一葉さんの記憶が揺さぶられている。細い窓に、ひびが入る。
窓の外の景色が、歪みだした……そこかしこから、茨が生えては
すぐに萎れていく。今朝見た夢と……よく似ている。


翠「一葉の爺さん! しっかりするです!!」
ガシッ
一葉「二葉…… 二葉あああ!!」

蒼「っ! マスター、あたりに、カレンダーはありませんか!?」

元治「カレンダー…… あったぞい! 万年カレンダー、日付は
   6月15日じゃよ! そして……傍らに、時計がある、
   作られたばかりの……新しい時計が!」

ジュン「あっ…… 新聞が落ちている! こ、これは……!!」


 ジュン君が拾った、古びた新聞。そこには……


272 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:52:01.57 ID:xO2HchhH

蒼「『大西洋沖で440人乗り豪華客船沈没』……。
  日付は1957年、6月15日! ま、まさか!」

ジュン「……ああ。これはダイナ号の記事で間違いない……
    ここにも、DINAって書いてあるんだ……」

一葉「行かないでくれ……行かないで……!!」


グラグラッ
翠「! ま、まだ揺れてるです!!」

ジュン「これは……やばいな…… ま、窓の、外が!」

蒼「景色が……崩れていく、変わっていく……!」


 窓の外に映し出された景色が崩れ……別の風景が映し出された。
西欧の……イギリスみたいだ。なにか、物々しい雰囲気だ……。


グワシャッ……ガラガラ……
蒼「今度は…… あれは、イギリス……?」

元治「……あそこにいるのは、一葉さんではないかの?
   ずいぶんと若いが……」


273 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:54:14.09 ID:xO2HchhH

 そこには、27歳の一葉さんが、沈痛な面持ちで立ち尽くして
いた。


『遺体の損傷が激しく……東洋人の方だということしか……
 ただ、ダイナ号に乗船していた東洋人は一人でして……
 日本の千葉県出身の、結菱二葉さん、27歳です。』

『……弟さんの、結菱二葉さんに間違いありませんか?』

一葉『……ます』

一葉『……違います…… 船に乗ったのは兄の一葉です。』


蒼「!!」
ジュン「!」


一葉『兄が…… 私の名前を使って乗ったのです……』


274 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:57:16.26 ID:xO2HchhH

翠「な…… なんでですか……」

一葉「すまない……! すま……ううう……!!」

翠「なんで、名前をかたったですか!? どうして……!!」

蒼「ちょっ……落ち着くんだ、翠星石!」

一葉「私は…… 二葉の…… 死を認めたくは、なかった……。
   それに…… ……ああ……!!」


 そうか……それで、ジュンくんと見たインターネットの記事の
名前が、一葉さんのものになっていたんだね……。48年前から、
一葉さんは二葉さん自身として、生き続けているのか……


グルグルグル……
翠「!? 何かが、渦を巻いて飛んでくるです!」

バサッ! バサササ……
蒼「これは……日記帳!」


275 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:58:14.36 ID:xO2HchhH

元治「1949、1950…… 1955、1956!
   次々に、年代記として綴った日記が現れては消えてゆく!」

一葉「はあ…… はあ…… わ、私は……ざ、財閥を受け継いだ
   1949年より、年ごとに1冊の日記をつけていたのです。
   ……財閥を、また……顧みるときに……と……」


ヒュルル……パシッ
一葉「最後の……1957年の日記だ……おそらく、この状態で
   つらつらと話をするよりは……わかる……だろう……」

蒼「読ませて……いただきます。」

――――――――――――――――――――――
S32.1.14
 財閥の新事業を立ち上げる準備はあらかた整った。S25年に
父より受け継いだこの庭が、新たな船出の場となるのだ。二葉と
ともに、新時代の礎となる植物園を作るのだ。今は薔薇しかない
が、ゆくゆくは全国いや全世界に、結菱邸産の植物を届けるのだ。
すべては、薔薇からスタートする。また、21世紀に向けては、
さまざまな分野へ裾野を広げよう。
――――――――――――――――――――――
S32.1.15
 昼、二葉が、事業を支援してくれるという方を連れてきた。
欧州の若き女性で、名をピヴォワンヌという。私たちが立ち上げ
んとする事業にはこれ以上ない人物だ。花の世話も趣味であると
おっしゃっていた。日本にはしばらく滞在するそうなので、追々
事業については話を進めていこうと思う。
――――――――――――――――――――――

276 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:58:54.79 ID:xO2HchhH

 あの薔薇園が、立ち上げようとしていた新事業のひとつだった
のか。この、ピヴォワンヌという人は……どんな人なんだろう。
この日記に、書いてあるはず……


――――――――――――――――――――――
S32.1.23
 二葉が夜半を過ぎても帰ってこない。仕事があるとはいえ、
やや遅いのではないだろうか。齢満27にしても、この様態では
事業に支障が出かねない。うんと言って聞かせねば…
――――――――――――――――――――――
S32.2. 2
 ピヴォワンヌさん達との会食が行われた。庭の薔薇を、とても
気に召された様子で、我々は安心した。 …… …… 。
決算までに、庭園の計画を具体的にせねば。
――――――――――――――――――――――
S32.3. 9
 二葉はピヴォワンヌさんと東京の方へ出かけ、私は庭をいじる。
提携先の花屋にも来てもらい、配置なども考えた。やはり、和平
たるビジネスもよいものだ。波風など考えず、風の向くままに
ただ …… たいものだ…
――――――――――――――――――――――


 ピヴォワンヌさんは、一葉さんたちとうまくやっていたみたい
だね。二葉さんと、特に仲が良かったのかな。けど……この日記、
なにかが変だ。


277 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 15:59:37.08 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.4.12
 先日、ピヴォワンヌさんが千葉県内に引っ越しをなされた。
これで会議などがうんと楽になる。金銭的にも、事業の方へと
やりくりする幅が拡がった。何より、彼女に …… ……
が、ひとまずは庭園の拡大を急ごう。そうすれば、 ……

――――――――――――――――――――――


 ところどころ、書いてあるはずの文字が読めなくなっていたり、
不自然に途切れてたりしている。夢の中だからかもしれないけど、
何か、ひっかかるな……。


278 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:00:45.31 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.5.19
 だれかのために何かを成すことは、とても難しく、とても辛く
しかしながらとても素晴らしくとても偉大なことなのだと感じる。
二葉も奔走しているし、私もまた …… だから、力が入るとい
うものだ。まもなく、薔薇の咲き乱るるころになる。ぜひとも、
 …… ……

――――――――――――――――――――――
S32.5.24
 …… …… 。 だが、同じ私を見てはくれぬのか。
そこだけが、唯一の柵である。唯一無二の弟への憎しみは一切が
ない。だのに、…… …… 。
――――――――――――――――――――――


 読めない個所が多くなってきた。何かに深く悩んでいるような、
そんな内容になってきてる。6月の日記には、日付以外書かれて
いないところさえ出てきた。そして……



279 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:03:27.71 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.6.10
 うすら予感はして……のだが、ここまで当たるとなると、やや
寂……ような、そのような……すら抱く。二葉には、秘密にして
作っていたものが今朝届いた。ジューン・…… ……相応しかろ
う。二葉自身何も言ってこないが、双子の兄には、わかるのだ。

――――――――――――――――――――――
S32.6.11
…… ……!
…… ……!
…… ……!
 できれば、行かないでほしい。ともに新事業を行おうではない
か。しかし、…… 。兄として……うことができないのか。

――――――――――――――――――――――


一葉「行かないでくれ…… 行かないでくれ…… なあ……」
一葉(27)『行かないでくれ…… 行かないでくれ……』


 ……この年の日記は、ここからしばらく書かれていなかった。
次に書かれていたのは、日記の最後の方だった。



280 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:14:10.01 ID:xO2HchhH

――――――――――――――――――――――
S32.12.31
 私はどちらで生きてゆけばいいのか?
 どちらが正しく、どちらが間違っていたのか?
 まもなく完成する、テレビ塔も、ともに見ることが叶わないか。
 まもなく開始する、新事業すら、共に歩めないのか。
 
 私は、二葉として生き続けるべきか?
 まだ、二葉はどこかで生きているという想いがある。
 同様に、ピヴォワンヌさんも…… 悪夢、であってほしい……
――――――――――――――――――――――

一葉「うああああ…… あああ……」

翠「い、いかんですぅ! 完全に……我を忘れているです!!」

元治「なんと…… なんとか、ならぬか」

一葉「すまない……! 二葉……!!」

蒼「そのピヴォワンヌさんなら、なにか知っているかもしれない
  けど、今はそんな場合じゃ…… そうだ!」


281 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:32:27.43 ID:xO2HchhH

ジュン「何か、……あるのか?」

蒼「心の樹を…… 見に行ってみよう。それに、なにか起こって
  いるかもしれない!」

翠「なるほど、心の樹を巣食うヤバイ草を切れば……いくらかは
  和らぐかもしれんです。一時的ではありますが、やる価値は
  あるですよ!」

元治「して…… その樹は、どこに……」

一葉「…… こ…… これのことですか……な」


 一葉さんの足元に、萎れた薔薇の茨に包まれた樹を見つけた。
それは……おそろしく痩せ細ってしまった心の樹だった。
本当に長い間、苦しみぬいてきたような……そんな姿だ。

 もう、何処かから衝撃を加えれば、折れてしまいそうだった。
慎重に事を行わなければ……庭師としての、腕が試されるな。

282 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 16:53:51.37 ID:xO2HchhH

翠「こ、こりゃあ重症ですぅ…… 完全に茨が覆い尽くしている
  ですねぇ……。初期状態のジュンのチビ樹より酷いです……」

ジュン「ああ……」

蒼「萎れてしまっている茨は、間違いなく嫌な記憶……これを、
  何とか取り除かないと! レンピカ!!」

翠「スィドリーム! 力を貸しておくれですぅ!」

レンピカ{フゥッ……}

スィドリーム{ホォッ……}

一葉「…… これはいったい……」

ジュン「見ていてください。あいつらは……」


283 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:00:02.15 ID:xO2HchhH

翠「甘い水で、少しでも癒しを与えてあげるのです……」

ジュン「庭師なんです。ちょっと説明しづらいですけど……
    翠星石が、『庭師の如雨露』を使って心を和らげて……」

翠「世界樹さん、力を貸してくれですぅ……!!」

蒼「レンピカ、鋏を! はあああっ!!」
ズバンッ!

一葉「!」
元治「なんと!」

ズバンズバンズバンッ

ジュン「蒼星石は、『庭師の鋏』を用いて、心の成長を妨げる、
    柵……あの雑草を取り除くんです。」


284 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:15:07.31 ID:xO2HchhH

元治「ふむ…… そして、心が整えられる。」

ジュン「あいつらは、『心の庭師』なんです。」

一葉「こ…… これは…… 心強、い…… がっ、」

ズゾゾゾゾ
蒼「うわっ……!」

一葉「し、しまった……!」


 断ち切った茨の根元から、次から次に茨が生えては、瞬く間に
萎れていく。僕が茨を切るよりも早く、翠星石が如雨露の水を満
たすよりも早く、茨が生えてくる……!


ゾワワワワ……!!
翠「は、早くなんとかしねーと、無意識の海にまで流され……!」

蒼「それだけは、させない! 今生えてきた、一番太い茨を!!
  うおおおおお!!」

ズバンッ!!


285 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:25:02.43 ID:xO2HchhH

バサッ!
ジュン「いばらが……開いた! 中に、何か入ってるぞ!」

蒼「これは……新聞だね。日付は……2002年、3月18日?」

元治「3年前か……ずいぶんと、最近の物じゃな……」

一葉「そ、その新聞は…… 間違いない……」


 茨の中には、3年前の新聞が一枚だけ丸め込まれていたんだ。
その紙面の端の方、トップニュースに続いて、こんな記事が書か
れていた。

――――――――――――――――――――――
[ダイナ号生存者45年ぶりに判明 当時29歳欧州の女性]

[……通信によると、17日、1957年6月14日に発生した
 大西洋沖ダイナ号沈没事件で、行方不明になっていた女性が
 生存していることが明らかになった。]

[……現在フランス在住のピヴォワンヌ・ナーノさん(74)で
 救出後すぐに当時の実家に戻り、仕事で各地を転々としていた
 という…… 生存者99名、死者行方不明者341名となった。]
――――――――――――――――――――――


286 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:37:57.91 ID:xO2HchhH

一葉「……一枚だけ……置いておいたのだ……。それが、ここに
   出てきたのだな……。」

翠「!? ……その、ピヴォワンヌっていうのは……」

蒼「うん。さっき読ませてもらった日記の中に出てきた人だ。」


ザワ・・・ ザワ・・・

元治「蒼星石! 茨が……茨が激しく揺れておる!!」


 なるほど、ピヴォワンヌさんは、あの船に二葉さんとともに、
乗り込んでいたのか……。その時、今朝見た夢の中の、二葉さん
の言葉を思い出した。


『僕は……あのひとと生きることにしたんだ。』



287 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:45:36.78 ID:xO2HchhH

 あのひと、っていうのは……ピヴォワンヌさんのことなのか。
だとすれば、一緒に暮らす、その目前で……何ということだ。
そして……また夢の世界が、揺れだした。


ゾワゾワ……
グワラグワラ……
『黙って行けば、駆け落ちになってしまうぞ……!
 ばれでもしたら、一族の示しが、つかなくなって
 しまう……だから、行くんじゃない……!!』

『もう……止めないでくれよ……』


一葉「うううう……おおおおお……!!」

翠「蒼星石!! とにかく、萎れてる茨を薙ぎ払うです!!」

蒼「っ……! さっきより、早く茨が生えてくる……!!」
ズバンッ

ゾゾゾゾ……
元治「どうか……どうか落ち着いてください……!!」

一葉「ううう…… ……!!」



288 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:51:01.17 ID:xO2HchhH

 一葉さんの震えが、止まらなくなっていた。一番、忌まわしい
記憶を見ているようだった。僕も、辛くなってきた。とにかく、
歯を食いしばって、鋏を振るい、茨を取り除こうとした……

 翠星石も、マスターも、頑張っている。ジュンくんも、勿論、
辛い記憶と真正面から向き合っている一葉さんも……。そして、
次の記憶が現れた。もうじき出発する二葉さんが見える。


『お前は……僕の半身なんだ!! 僕にはお前が居ないと……
 お前と共にいないとだめなんだよ!!』

『それは違うんだ、兄さん……』

『僕には、僕の……幸せがあるんだよ。それが、彼女……
 ピヴォワンヌさんだ』


 この記憶が見えた瞬間、僕と翠星石とマスターは、愕然とした。
ただ、驚いた。あまりにも、昔の僕らに似ていたから……。
ジュンくんも、時折うつむいている。


289 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 17:58:01.08 ID:xO2HchhH

『一樹……もうどこにも行くんじゃない……』

『ごめんなさい……』

『僕は…… 君といっしょには行けないんだ』

『や、やめるですぅ……!』


 頭の中で、僕のしてきた経験がよぎる。マスターのところに、
降り立ってすぐの時。僕は一樹くんと存在を共にされていた。
マスターも、お婆さんも苦しんでいたっけ……。


『お父様の幸せは、僕の幸せだ……』

『僕はアリスを目指す……君たちと戦って……ローザミスティカ
 を集めて、アリスになるんだ』

『ぜ、絶対に……離れちゃだめですぅ!!』

『いっしょに……帰るですぅ……』

『いっ……しょ、に……』


290 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:09:06.96 ID:xO2HchhH

 翠星石には、もっと、心配をかけてしまった。翠星石は、僕を
自分の半身だと思ってくれていた。けど、僕は幸せを求めすぎて、
それを拒み続け、ついには、動けなくなっていた。

 ああ、似ているな…… なぜだろう。違うことを分かり合い、
それを認め合って、寄り添い合うことが、こんなに難しいなんて。


ザワ…… ザワザワ……

蒼「みんな違う……違うけど、完全に独りきりじゃあ……
  何にも、できやしないんだ。」

元治「その通りじゃ……色々とあったが、……ワシもお前がいた
   から、立ち直れたのじゃろうな……」

翠「その、半身ってやつに、縛られ過ぎても、それを拒み過ぎて
  ずっと逃げてても、行き詰っちまうだけなんですねぇ。」

ジュン「……僕もそうだったな。それが、自分自身だったし。
    逆上がり出来ない自分だとか、私立中学に行けなかった
    自分とか……変に負い目作ってたな。」


291 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:15:48.19 ID:xO2HchhH

 ジュンくんのように、昔の自分に縛り付けられ、心の樹の生長
さえも止まってしまう……翠星石から聞いた話だけど、最初は、
もう本当に小さな心の樹だったみたいだ。

 そして、マスターが口を開いた。


元治「……私も、事故で家族を失っておるのです。ひとり息子を、
   まだ9つの一樹を亡くしてから……ずっとそれを受け入れ
   ることなく、途方に暮れておりまして……」

元治「家内もそれから実に27年間、入退院を繰り返すまでに、
   精神を病み長く苦しんでおりました……」

一葉「……そうだったのですか……あなたも……」

元治「一樹は、私の一部であり、また家内の一部であることに、
   今も変わりはないのです……ですが、それに縛られ過ぎて、
   この子がやってきた時、名前も聞かず、ただ一樹として……」


292 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:27:39.50 ID:xO2HchhH

蒼「……翠星石も、僕も、歩み寄ることができなかった時期が、
  確かにありました。しかし……大切に思う誰かと、思い合う
  ことなしには……」

蒼「悲しいことを乗り越えることは、難しいんです……」


 しばらく、沈黙が続いた。その時、1年9ヶ月前、マスターや
お婆さんの夢を、心を翠星石とジュンくんとで巡って、一樹君の
想いをマスターたちに何とか伝えた経験を思い出した。


蒼「……その、ピヴォワンヌさんの夢を見に行けないかな。
  その人の心の樹から、記憶をたどれば……」

翠「そうですねぇ……それが、多分一番手っ取り早いです。
  おじじとおばばの夢を梯子した、あの時みたいにすれば……」


293 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:35:12.90 ID:xO2HchhH

一葉「君たちは……、そんなことが……できるのか……?」

翠「樹の幹をたどれば、世界樹に繋がってるです。……世界樹は、
  夢の中で誰かの心の樹とも繋がってるです。まあ、強く思い
  合うってことが、とても重要になってくるですけど……」

蒼「夢と夢をつなぐのが、世界樹なんです。僕らはその世界樹の、
  そこから枝分かれした心の樹を整える力を与えられた……
  『心の庭師』なのです。」

蒼「どこかに、光が溢れる穴があるはずです……。世界樹に注ぐ、
  淡い光が……」

一葉「……この部屋の天窓が、淡く光っている…… そこから、
   世界樹のある場所へ行けるのかね?」

蒼「はい…… 行きましょう、一葉さん。」

294 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:42:31.69 ID:xO2HchhH

一葉「おお…… ありがとうよ……しかし、この体では。」

ジュン「思うだけでいいんですよ。行く、と思うだけで。」

元治「私が後ろから押していきますので、心配なさらずに……」

一葉「……! か、体が、車いすごと……!! おおお……!!
   ……行こう……!」

翠「なんたってここは、一葉おじじの夢の中ですからねぇ。」


 一葉さんの思いが強く、すぐに世界樹のもとへとたどり着けた。
ここからが……正念場だ。



295 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:45:45.76 ID:xO2HchhH

[14:01]
[世界樹。]

蒼「…… これが世界樹…… この枝の先に、心の繋がる人の、
  夢への入り口がある……けど」

翠「うーむ、見当たらんですね……もう少し探してみるですぅ。
  ……まだ時間はあるです。」


 世界樹の周りを見てみたけど、枝らしきものが見当たらない。
心の繋がりさえ、少しでもあれば……


蒼「なにか、思い出せますか……?」

一葉「…… ……彼女は…… あの、生存しているという記事が
   載った新聞を読んだ後、……人づてに、近況を聞くことが
   あって…… 今もヨーロッパに住んでおるようだが……」

元治「ふむ……」


296 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 18:59:17.21 ID:xO2HchhH

一葉「……いま、彼女は全く別の男と暮らしているらしい……。
   ……もう、私のことなど……二葉のことすら、忘れている
   のかも……しれない……」


 どうやら、ピヴォワンヌさんは、新たな生活を手に入れている
ようだった。少し……事情が複雑になってきた。


一葉「もう、ずっとずっと前のことだ…… もはや覚えてなどは」

ジュン「……そうでもないかもしれませんよ。 ……目の前を、
    見てください。」

蒼「これは…… 枝が!」


 世界樹の枝が、か細いけど、確かに枝が一直線に伸びていた。
前にも、マスターの夢の中からここに来た時に、同じような経験
をしたっけ。……ということは。


297 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:05:12.07 ID:xO2HchhH

翠「うっすらですけど、一葉おじじのこと、覚えてるみたいです。」

一葉「ほ、本当なのか……」


 心の隅で、一葉さんのことを覚えていたのかな。お婆さんと、
マスターの夢の間に架かっていた枝よりも、まだ細い枝だ。


翠「それに…… 夢の世界への入り口が見えているということは」

元治「おそらくは、いまその女性も眠っているということじゃな。
   夢を……見ておる。」

ジュン「……今、ヨーロッパらへんは夜明けくらいかな……?
    真冬だし、その人の年齢的にも、眠りについてると思う。
    時間はそう無いけど、出くわすチャンスはあるはず……」


298 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:11:01.00 ID:xO2HchhH

翠「……ここからどうするかは、一葉おじじ次第ですぅ。」

蒼「……この先は…… 一葉さんが決めてください……。
  行きますか、行きませんか……?」

一葉「…… ……二葉、お前なら…… お前なら、どうする……
   教えてくれ……教えてくれ……!」


 一葉さんが、問いかけながら前を向いた時だった。枝の上に、
突然誰かが現れたんだ。うっすらと、人影が見える。


フッ
『…… 兄さん』

蒼「あれは、二葉さん……!?」

翠「間違いねーですぅ……」


 現れた人の影の正体は、若い頃の二葉さんだった。一葉さんの
強く問いかける言葉が、二葉さんに関する記憶を呼びおこして、
二葉さんを夢に登場させたんだね……


299 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:16:49.82 ID:xO2HchhH

一葉「ふ、二葉……二葉なのか?」

二葉『行こう。』


 二葉さんの言葉に、迷いはなかったように思えた。一葉さんも、
何かを決断したような表情をしていた……。

 その時、何もないはずなのに、一陣の風が吹いてきたような、
妙な感覚に包まれた。僕らに……緊張が走る。


蒼「…… この時が……。」

元治「いよいよ、本陣へ赴くということじゃな……
   ……一葉さん、しっかりと、手すりを握ってください。」

ジュン「……翠星石。」

翠「……仕事の、仕上げ段階ですぅ。心してかかるですよ。」

一葉「……分かった。 ……みなさん、行きますよ。」


ゴオオオ…… バシューン……!

300 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:22:35.25 ID:xO2HchhH

[14:11]
[FWT 6:11]
[ピヴォワンヌの夢の中。]

 ピヴォワンヌさんの夢の中は、思いのほか明るかった。心の樹
も、すぐ近くに聳え立っている。


一葉「……これは…… 心の樹という物か。」

蒼「ピヴォワンヌさんの、心の樹……」


 樹を見上げていると、ふと誰かがやってきた。


「……お久しぶりね」

一葉「…… ピヴォワンヌさん」



301 :RozenMaiden Fortsetzung 36 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:23:32.98 ID:xO2HchhH

 この人がピヴォワンヌさん……驚くこともなく、一葉さんとの
会話を進めていく……。48年という歳月を乗り越えて。


一葉「……本当にお久しぶりです、……お変わりなく……」

ピヴォワンヌ「…… ふふ、やはり、見分けのつきにくいこと。
       髪の分け目で判断しないとね……」

一葉「…… その……お話が……あります……」

ピヴォワンヌ「……ええ。私からも、お話を……」

一葉「……!?」



         【蒼星石と柴崎元治の奮躍・完/第37話に続く】

302 : ◆TEGjuIQ24E :2011/09/07(水) 19:37:14.90 ID:xO2HchhH
 ……ハイ、第36話は以上です。読んでいただいた方ありがとうございます。

 原作Phase18〜21(BIRZ及びYJ3巻末〜4巻)を読んでいただけると、
一葉さんがどんな方かわかるかと思われます。こちらのほうがソフト
ですけれども……

 9月10日までに、第37話を投下しますので気長にお待ちください。
37話はついに元治が語ります。


※作者より
今回の話を書くに当たり、第14話(2部7話・真紅の話)を見直したところ
柴崎夫妻が「結婚30周年」となっていましたが、これを「42周年」に訂正
すると同時にここにお詫びいたします。

303 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/08(木) 18:24:28.52 ID:278tAK/4
投下乙です

304 : ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:14:36.62 ID:ijr5eMRj
 ども、TEGです。
RozenMaiden Fortsetzung 第37話を投下しますよ。
さる後の規制のタイミングをつかめないのです。

では行きます。
37【柴崎元治と結菱一葉の苗樹】

305 : ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:23:57.98 ID:ijr5eMRj
【第37話 柴崎元治と結菱一葉の苗樹】

[2005/01/10 14:15]
[FWT 6:15]
[ピヴォワンヌの夢の中。]


 寒い風が、大きな屋敷を襲う昼下がり。蒼星石たちとともに、
夢の世界へとやってきた。事の始まりは、薔薇屋敷の主である、
結菱一葉さんの時計であった……。

 1月4日、一葉さんが時計店に懐中時計を修理に出しに来た時、
憔悴しきったような顔をしていた。わしらはそれが気がかりで、
次に来られた時に詳しく話を伺おうとしておった。

 蒼星石が偶然にも、一葉さんのお手伝いをしている、安倍川と
いう男性に出会い、これまた偶然にも一葉さんの時計と対を為す
意匠の時計を目にしたのであった。

306 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:26:41.18 ID:ijr5eMRj

ピヴォワンヌ「……私からも、お話を……」

一葉「…… な、 何でしょうか……」


 安倍川さんもまた、一葉さんの様子をいたく気にしておった。
心に根差す何か……それを解きほぐすべく、『夢の庭師』である
蒼星石と翠星石、翠星石の契約者桜田ジュンくんが立ち上がった。

 一葉さんは、双子の弟である二葉さんと、彼の婚約者であった
ピヴォワンヌ・ナーノさんとの間にすれ違いを残したまま、弟の
二葉さんを事故で亡くすという出来事に、心を沈めておった。


ピヴォワンヌ「……すぐ連絡をよこさずに……ごめんなさい……
       長く、苦しんだと思います……あの後二葉さんが
       亡くなられたという知らせを聞きました……」


307 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:29:51.14 ID:ijr5eMRj

一葉「…… ……それは、お互い様です……。片時も思い出さぬ
   時はありません……もう、長く……長く……」


 そして二葉さんの死を受け入れられぬあまり、二葉さんの名を
名乗り、『結菱二葉』として生きることを決意したという。その
裏には……並々ならぬ苦悩があったのじゃろう……。

 48年という長きにわたり、一葉さんは自らを押し殺し続けた。
それは、瓜二つの弟の為であった。同じように双子であり、また
一葉さんよりも長い時間、違い続けた蒼星石たちには、自分たち
を見ているふうに映ったろう……。


ピヴォワンヌ「……以来、私はずっと黒い服を着て暮らしました。
       二葉さんにも、一葉さんにも、逢えぬまま……、
       二葉さんを弔うには、これしかなすすべが……」

一葉「……結婚なさっていると、風のうわさでお聞きしました。
   もしや……その間も……」


308 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:35:30.44 ID:ijr5eMRj

ピヴォワンヌ「ええ……1974年に、ミレットという方と結婚
       しました。しかし……私はその間も……喪服を。」

一葉「……夫は…… 何とも思っていなかったのですか……」

ピヴォワンヌ「……ミレットは、それも……分かっていました。
       私が、二葉さんと婚約を交わしていたことも……
       ……しかし……」

一葉「……しかし……?」

ピヴォワンヌ「……結婚から30周年を迎えた昨年、ミレットは、
       ……こう……語りかけました……
      『いつまで、喪服を着ているつもりですか』……と。」


[2004/12/14]

ミレット『……いつまで、喪服を着ているつもりですか』

ピヴォワンヌ『……一生を共に生きてゆくと誓ったあの人が……
       死んでしまったときから…… ずっと……』


309 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:47:38.99 ID:ijr5eMRj

ミレット『貴女は……もう、十分に苦しんだと思う。30年も、
     そんな姿を見て思ったのは……、もう、いいだろう。
     私は苦しむ貴女を見るのが、辛いのだ……』

ピヴォワンヌ『…… ……ですが、もう、私の心も……ともに、
       ……死んでしまった。』

ミレット『二葉さんも、十分に……わかってくれているだろう。
     嘗ての恋人の、影から、解き放たれて……思い出と、
     重い喪服は……もう、しまおう……心の中に……。』

ピヴォワンヌ『…… ……では、もう……忘れろと……』

ミレット『忘れなくていい……忘れなくても、心に刻むのだ……
     ……愛する者の幸せを願わない者など、いない……。
     それは、誰も同じこと……』

ピヴォワンヌ『……ミレット……!』


310 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 13:55:43.37 ID:ijr5eMRj

…… ……


一葉「……今まですまなかった…… 二葉、ピヴォワンヌさん。
   ……自分の存在ともども、48年もの間、……縛り付けて
   しまっていたのだな…… 私は、何ということを……」

二葉『……兄さん、いいんだ…… ……本当は、駆け落ちなんて
   したくはなかった。堂々と、この人とビジネスを共にして
   いきたかった……僕は勝手に兄さんは結婚に反対だと……』

一葉「……すまない……本当は……時計と共に……ジューンブライド、
   これを祝おうとしていたのだ……!! そして……」

二葉『…… ……!』

一葉「思い出した……思い出したのだ。私も、いつしか彼女を、
   ピヴォワンヌさんを……好きになっていたことを……!」

ピヴォワンヌ「!」

蒼「!!」 翠「!!」
元治「!!」 ジュン「!!」


311 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:00:31.79 ID:ijr5eMRj

一葉「双子であることに……負い目を感じた唯一の事象だ……。
   なぜ私ではない…… なぜ二葉なんだ……? 若い私は、
   そうとしか思えなかった……」

一葉「……48年という時の中で…… ただそれだけの理由で、
   お前の名前をかたってしまったことを、強く恥じた……!
   時には、……起き上がれなくなるほどに……」


 しばらく、一葉さんは押し黙ってしまっていた……。
先ほどの事実に驚く我々も、かける言葉が見つからない。
そんな時だった。沈黙を破ったのは……


二葉『本当に……もう、いいんだよ、兄さん』

一葉「……二葉……!」

二葉『僕が出来なかったことを、今、ミレットさんがしてくれて
   いる……それだけでいいんだ……自分が愛するという事が、
   それがあればいいんだ……』


312 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:20:37.39 ID:ijr5eMRj

一葉「……そうか……そうだな……それは、私にも出来なかった
   ことでもある……」

ピヴォワンヌ「…… いいのです。もう、自身を独り半身に委ね
       たまま、苦しみ、生きるのは、…… ……やめに、
       しましょう……互いに、歩み寄って……」

ピヴォワンヌ「……いつの日か、ミレットと共にお屋敷に立ち寄
       らせていただきますから……」

一葉「……私からの…… お話、お願いです……そして二葉から
   の願いです……」 


一葉・二葉「『どうか、どうか、穏やかに、末永く幸せに……、
      お過ごしください……!』」

ピヴォワンヌ「……はい……!」


313 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:28:00.24 ID:ijr5eMRj


 しばらく、二葉さんが見守る中、一葉さんとピヴォワンヌさん
は互いに顔を合わせ、長い時の間に生じた溝を埋めているようで
あった……。そして、夢の終わりに……


蒼(……そろそろ、ピヴォワンヌさんも、目覚められます……。
  この繋がりがあるなら、また……逢えるはずです。)

一葉(うむ……ありがとうよ……)


 一葉さんたちは、ピヴォワンヌさんの後姿が見えなくなる寸前
まで、深々と礼をしていた。75歳の背中は、時折震えていた。



一葉「……さあ…… 戻りましょう、みなさん。」


314 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:36:37.13 ID:ijr5eMRj

[14:59]
[一葉の夢の中。]

 世界樹を通り、一葉さんの夢の世界へ戻る時……二葉さんは、
こちらを向いてまたも深く礼をしたまま、静かに消えていった。
わしは、その時の一葉さんの涙ながらの笑顔を忘れないであろう。

 蒼星石と翠星石が、『最後の仕上げ』にとりかかる。わしらは、
もう萎れた茨の囲わない、小さな心の樹をじっと見守った……。


翠「……世界樹よ、甘い水で……庭師の如雨露を満たしておくれ」

蒼「……庭師の鋏よ、今……力を!」


サアァァァ……

一葉「…… ……こ、これは……!」

元治「心の……樹が、伸びてゆく……!」


315 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:42:54.23 ID:ijr5eMRj

翠「健やかに…… のびやかに……!!」

蒼「さあ…… 強く……清く……!」


スウゥゥ……

ジュン「おお…… それに、見る見るうちに……屋敷の天井が、
    消えてくぞ……!!」

元治「……おそらくは、二葉さんの影に縛り付けられることと、
   この屋敷に閉じ込められることは、同じことなのじゃろう。
   束縛がなくなった今……解き放たれたのじゃな。」


 ……心の樹も、心も……二葉さんも、一葉さん自身も、な。


316 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:52:51.62 ID:ijr5eMRj

[15:07]
[薔薇屋敷、寝室。]

一葉「…… うーん…… ん……」

安倍川「…… おお、一葉さま……お目覚めになられましたか!」

一葉「ああ……何か、とても心地よい……今までの苦悩がすべて
   晴れたようだよ……」

元治「…… ぬう…… おお、ここは……」

蒼「……ああ、マスター、お目覚めに……一葉さんも。」

ジュン「……くあー…… あれ? 布団が掛けてある」

翠「おお、いつの間に……」


 ……目が覚めると、布団が掛けられておった。わしらはここで、
眠っていたのじゃったな。あんなにも克明に夢を見たことを覚え
ておったからなぁ……。


317 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:55:58.85 ID:ijr5eMRj

安倍川「みなさん、お目覚めで。この時期ですから、寒かろうと
    思いまして……」

ジュン「ああ……すいません。」

翠「ありがと、です。」

蒼「ありがとうございます、安倍川さん。……もう大丈夫です。」

元治「もう、問題はありませんぞ。」

安倍川「こちらこそ本当に……本当にありがとうございます……。」


 安倍川さんの眼には、うっすらと涙が浮かんでおった。長く、
一葉さんにお仕えしてきたそうじゃから、何度も苦しみ、悲しみ
に打ちひしがれるところを見てきたのじゃろう……


318 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 14:59:05.67 ID:ijr5eMRj

一葉「……安倍川にも、これまで辛い思いをさせてしまったな。」

安倍川「い、いえ……一葉さまが、元気ならばそれでよいのです。」

一葉「……安倍川、車いすを、押してはくれまいか。
   少し……庭に出たいのだ」

安倍川「……はい!」


 一葉さんには、穏やかな笑顔が戻っておった。それは、永い間
とけることのなかった、固く冷たい氷の壁が砕かれたような……
そんな表情じゃったわい……。


翠「よーし、快気祝いにいっちょ薔薇の世話でもしに行くです!」

蒼「ちょ、翠星石……待っておくれよ! 僕も行くから!」

ジュン「……ったく。 ハハハ……すみません、急に……」


319 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 15:28:40.20 ID:ijr5eMRj

一葉「よいではないか。最近は、薔薇の世話もままならなかった
   からな。蒼星石たちは、庭いじりも得意なのかね。」

蒼「はい、翠星石と共に、よく植物を育ててます。」

翠「何だったら、ちょいちょい薔薇の様子を見にくるですけど?」

一葉「ああ……助かるよ。ともに、また薔薇園を賑やかに……」


[15:19]
[薔薇園。]

元治「そうじゃな、あの二人の48年ぶりの『氷解』を祝って、
   何かできないかの?」

ジュン「……それなら、いい考えがありますよ。庭の真ん中に、
    公園にあるような、大きな時計を立てるんです。」

元治「ほお、時計とな。」


320 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 15:44:02.58 ID:ijr5eMRj

ジュン「あの懐中時計って、2つを組み合わせると、1つになる
    デザインですよね? そのデザインの時計を……」

一葉「そうだな、それはいいな。わざわざ部屋に戻って、時計を
   見に行かなくともよくなる。」

ジュン「一葉さん……!」

一葉「それに、たった今、まさに私も同じことを考えていた所
   だったのですよ。」

一葉「……柴崎さん、どうですかね。お願いできますか。」

元治「ええ、ぜひとも。大時計を作る業者さんにも、長年に亘り
   お世話になっておりますから。」

一葉「ありがとうございます。 ……時計は時計で、これからも
   大切に使わせてもらうよ、二葉。」


 蒼星石たちが庭を整え、荒れた薔薇園は少しだけあるべき姿を
取り戻しておった。またすぐに、とても綺麗な姿を見せてくれる
はずじゃろうて。


321 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 15:57:39.73 ID:ijr5eMRj

[15:39]
[柴崎時計店。]

ガラガラッ
元治「ただいま。」

蒼「ただいま戻りましたー。」

マツ「まあ、お帰りなさい! 大丈夫でしたか!?」

蒼「はい! ……うまく、いきそうです。」

元治「今日は、一樹に美味しい煮物を供えようかの。」


322 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 16:06:26.98 ID:ijr5eMRj

マツ「よかった……! 何度となく、薔薇屋敷に行ってみようか
   と思うほど胸騒ぎがして…… 無事でよかったですよ。」

蒼「ご心配、おかけしまして……」

元治「いやあ、この子らが居なければ解決はできんかったろう。
   そして……一樹もな。」

マツ「ふふ…… さあ、お茶を淹れましょうかね。」


 ……新年最初の「大仕事」を、無事に完了させることができて、
本当によかったわい。時計職人冥利に尽きるというものじゃ……
蒼星石と翠星石も、庭師としての大仕事を果たせて喜んでおった。

 ……そして、13日後の、日曜日の昼間のこと。
薔薇屋敷から、一本の電話がかかってきた。

323 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 16:20:56.49 ID:ijr5eMRj

[2005/01/23 12:21]
[柴崎時計店。]

蒼「時計、出来たんですか!?」

元治「おお、今しがた電話があってのお。マツから聞いたよ。」

マツ「ええ。是非とも姿を見てほしいと。ジュンくんと、双子の
   お嬢ちゃんも一緒に、って。久々に、行ってみましょうか。」

元治「今日は日曜だから、ジュンくんも家にいるじゃろう。」

蒼「あっ、それなら薔薇屋敷に行くように電話をしておきますよ。」


 この3人で薔薇屋敷へ行くのは、初めてじゃな。一樹と3人で、
初めてこの道を歩いたのは、もう38年くらい前になるのかな。
一樹も、丁度蒼星石と同じくらいの背丈じゃった。

 さて、蒼星石がやってきて、春で3年になる……。
薔薇屋敷への道すがら、少し思い出してみようかの……。
本当に、色々なことがあった。

324 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 16:59:15.11 ID:ijr5eMRj

[2002/04/08 16:59]
[柴崎時計店。]

元治(62)『…… 一樹…… 一樹……』

元治『……さて、そろそろ5時か……マツのタオルを変えねばな』


ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー……
元治『……どれだけの時間が経ったか。一樹が出て行ってから、
   マツの気が晴れぬまま……』


ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー
元治『……!?』

元治『おかしい…… ハトが出てきておらんのに』

ポッポー ポッポー ポッポー ポッポー ……パカッ
元治『ぬう、電池の変え時か…… おや?』

元治『ハトが何かくわえておる……どれどれ……
   「……まきますか まきませんか」』


325 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:10:44.49 ID:ijr5eMRj

[17:08]
[居間。]

元治『……おや、あんな所に鞄を……危ないじゃないか……』

元治『いつ出したかのう…… 思い出せん……』

パカッ
元治『……? これは…… 薇が入っておる。
   これを……巻けばよいのか?』


キリキリ……キリッ カチッ

……
蒼『……っ、 ここは…… 』

元治『かずきいいい……!! どこに行っておった……
   どこに……!!』

蒼『…… ……』


 この1か月ほど後、翠星石たちが蒼星石を迎えに来た。
あの時は、わしもマツも、完全に我を忘れて……影に、縛られて
おったっけな……。

326 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:27:19.57 ID:ijr5eMRj

 ……それから、4ヶ月が経ち……今度は、蒼星石までもが、
どこか遠くに行ってしまった……。あの、『アリス・ゲーム』と
いう戦いに、巻き込まれたのじゃったな……。


[2002/09/01 18:02]
[柴崎時計店。]

カラカラ……
翠『……』

ジュン『ごめんください……』

元治『……いらっしゃい。…… 翠星石じゃないか。
   時計でも、壊れたかね?』

ジュン『その…… 蒼星石……を……』

元治『そうか…… 坊ちゃん、翠星石……ありがとうよ……』


327 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:40:02.58 ID:ijr5eMRj

元治『……4日前、指輪が消えておったよ。……そうじゃなぁ、
   26日の、夜半過ぎに蒼星石が来てのう……。たたかい、
   アリスゲーム……じゃったかな』

翠『……うう…… ううぐっ……』

元治『……泣かなくとも、よいぞ。蒼星石は、ここにおる……』

翠『おじじ…… うう……っ』

ジュン『……すいません……護れなくて』

元治『なぜ、君が謝るのかね? ……大方、話は聞いておる……
   蒼星石もだいぶ悩んだと……じゃが、これが宿命だと……』

翠『……っぐ、こんな宿命があって……たまるか、ですぅ……
  た、たましいが……ただ遠くへ、行ってるだけですぅ……
  よ、呼ぶ声が……すれば、その……うあああ……!!』

ジュン『……僕、蒼星石たちを……助けます。必ず救います。
    どれだけ時間がかかっても……ですから、それまでは
    ここに……蒼星石を……』


328 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:46:20.04 ID:ijr5eMRj

元治『……坊ちゃん、名前は何と言うのかい?』

ジュン『……桜田、ジュンです……翠星石と、真紅の契約者で、
    それと雛苺もいます……』

元治『そうか…… ジュンくん。』

ジュン『……はい』

元治『……蒼星石を……助けておくれ……! それまでは、
   ジュンくんのもとに……翠星石のもとに……置いてあげて
   ほしい……長年、安らげはしなかったじゃろうて……。』

ジュン『それで、いいのですか……?』

元治『もちろん…… わしやマツが一樹のことで悩んでいた時、
   助けてくれたろう。一樹も、もう大丈夫だと言ってくれた。
   蒼星石たちがいなければ、気づけはしなかったろう……。』


329 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:48:44.99 ID:ijr5eMRj

翠『……おばばにも、会わせてくださいですぅ……』

元治『マツは……今、買い物に行っておる。もうしばらくすれば
   帰ってくると思うがの……』

翠『そう……ですか…… なら、おばばにもよろしく言っといて
  ……もらえますか……?』

元治『……うむ。……また、いつでも遊びに来るがよい……。』

ジュン『……ときどき、蒼星石を連れてきます……。』


 あの時の、ジュンくんの決意に満ちた瞳は、忘れてはおらぬ。
一葉さんが、ピヴォワンヌさんの夢の世界へ行くと決意した時の、
あの表情に、瞳によく似ておった。


330 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:50:55.73 ID:ijr5eMRj

 そして、それから半年後…… まだ冬の寒さが残るころに、
彼は、約束通り、蒼星石を、そして蒼星石の妹たちを、救い出し
てくれたのじゃ……。


[2003/03/01 08:32]
[柴崎時計店。]

元治『さて…… 今日も始めるとするか……』

トントン……
元治『おや、こんな早くに…… 翠星石かな?』

元治『はいはい、今開けるぞい……』

カラカラ……
元治『いらっしゃ…… !?』

蒼『……ただいま、マスター……遅くなりました……』


331 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:53:54.51 ID:ijr5eMRj

ポオッ……!!
元治『……これは……奇跡が…… 指輪が戻っておる……!
   蒼星石……!』

蒼『心配をおかけして、……ごめんなさい……』

ガシッ
元治『いいんじゃ……よく、戻ってきてくれた……蒼星石よ……
   本当に、よく……つらかったろう。じゃが、もう心配は、
   無用なんじゃ……!』

蒼『……マスター……!!』

マツ『おやおや、誰か来て……あなた!? どうかなすって……
   あら! その子は……蒼星石かい!』

蒼『ただいま……おばあさん』

マツ『まあ……! お帰りなさい、蒼星石!』

蒼『ほんとうに……今まで、すみません……!!』


332 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 17:56:02.61 ID:ijr5eMRj

マツ『いいんですよ、ここに帰ってきてくれたことだけで、十分
   ですから。一樹も、笑ってくれていますよ。蒼星石、朝の
   ご飯は、もう食べてきたんですか?』

蒼『は、はい! ジュンくんの家で……7時半ごろに!』

マツ『なら、いますぐお茶を淹れましょうかね。ささ、上がって。』

蒼『はい……! ……ますたあ……!!』

元治『……これこれ、泣くでない……。』


 そして今、こうして平穏に暮らせておる。人生とは本当に奇妙
なものだ、いつ何が起こるかは分からないが、時に、素晴らしき
出会いをくれる。それが、マツや一樹であり、ジュンくん達、

 ……それに、蒼星石たち薔薇乙女じゃな。


333 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:04:49.89 ID:ijr5eMRj

[13:01]
[薔薇屋敷、庭。]

元治「ほう、これがあの大時計……いやあ、立派じゃ。」

ジュン「おおーっ、すげえ……!!」

翠「こ、こりゃあ懐中時計のばけもんですかぁ!?」

蒼「一葉さんと二葉さんの懐中時計を合わせたデザインだよ。
  これが時計の写し。」

翠「……ふむふむ、なるほどです……それで、ど真ん中に縦線が
  入ってるですねぇ。」

ジュン「しかし、屋敷の2階、3階にも届きそうな大きさだ……」


 完成した大時計はさながら、あの夢の中で見た心の樹。
時計に見とれていると、車いすに乗った一葉さんと、その車いす
を押す安倍川さんが庭に出てきた。


334 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:11:01.66 ID:ijr5eMRj

一葉「これはこれは、何から何まで、本当にお世話になりまして。」

安倍川「ぜひまた、いつでもいらしてください。それから蒼星石。
    翠星石も。」

蒼「もちろんです!」

翠「薔薇の世話に行き詰ったらいつでも呼ぶがいいですぅ。」

一葉「それと……昨日、エアメールが届きましてな。あちらが、
   ダイナ号の記事から我が財閥の情報を集め、こちらに連絡
   をしてくださいまして。」

一葉「『遅くなりましたが、本当にありがとうございました』と。
   夫のミレットさんは……『一葉さん、二葉さん。この私が
   ピヴォワンヌを一生涯かけて幸せにします。』と……。」

蒼「それは、本当に良かった……もう、大丈夫ですね!」


 何の柵もない今、一葉さんは幸せに過ごしてゆけるはずじゃて。
この薔薇園と時計が、それを示してくれておる。

335 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:13:40.76 ID:ijr5eMRj

ジュン「そういえば、時計の裏ってどうなってるんだろう……」

一葉「ははは、裏もしっかりと再現してもらっておるよ。是非、
   見てみるとよい。」

元治「うむ。では、拝見させていただきますぞ。」


 時計の裏には、真っ直ぐな樹のレリーフと、懐中時計に刻んで
あったような刻印がなされておった。あの樹は心の樹、その傍ら、
新たに、別の日付が刻まれておる。

 K.Yuibishi F.Yuibishi
  MCMLVII 12th June
 MMV 10th January
  ...forever



336 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:18:00.25 ID:ijr5eMRj

蒼「わあ……!」

元治「これはお見事だ。」

翠「…… ……」クイクイ

ジュン「……なんだ? 裾引っ張って……」

翠「……もっとよく見えるように肩車してくれですぅ。」

ジュン「ほれ。見えるか?」

翠「おお……! 裏の日付は、あの夢を見た日付ですか。」

一葉「うむ。そして、永遠にな…… しかし、双子というものは
   本当に大変だ。命あるもの、皆違うというのにな……姿が
   似ているから、なおさらだ。」

蒼「僕らのように、最初から2人で1人としての宿命があったと
  しても、それは同じこと……」

翠「翠星石は、もしすぐに何とかできないようなことがあったら、
  一番すんなりと寄りかかることのできる存在だと思うです。」


337 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 18:39:29.86 ID:ijr5eMRj

蒼「それは、兄弟でも、家族でも、他人でも、分かり合える誰か
  との場合でも同じだと思うんです。2分の1でも、7分の1
  でも、8分の1でも…… 中身がてんでばらばらでも。」

元治「同じように分かり合える、糸のようなものがあればよいと
   いうことですかな。」

一葉「自分と誰か、半分ずつをつなぐ糸か。……糸と半で、絆か。
   ハッハッハッ、読んで字のごとくですな!」

元治「ホッホッホ……」


 二葉さんにも、伝わったじゃろう。……心の通い合った己の中
の「半身」をつなぎ合う事、これ即ち、絆であるということが。


          【柴崎元治と結菱一葉の苗樹・完】

338 :RozenMaiden Fortsetzung 37 ◆TEGjuIQ24E :2011/09/10(土) 19:08:21.03 ID:ijr5eMRj
 ……以上で、第37話「柴崎元治と結菱一葉の苗樹-びょうじゅ-」は
完結でございます。読んでくださった方ありがとうございました。

 4話にわたった蒼星石とおじじの話では、長い時を経ながらも
消えない何かがあるしそれを伝えることもできるという所を
描きました。

 この第34〜37話を描くに当たり、一葉たちの生い立ちを把握すべく
本家ローゼンのPhase18〜21(薔薇屋敷編)を参考にさせていただき
ました。本当にありがとうございました。

では、第38話までシーユーアゲーン。

339 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/10(土) 20:39:30.87 ID:8ngYU2OI
投下乙です

340 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/15(木) 02:26:30.13 ID:+rIp0hhN
何年か前にこのスレで、合同で長編SS作るみたいなのあった気がするんだけど、あれってどうなったの?

341 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/15(木) 23:04:11.41 ID:Wz5UvP1t
(´・ω・`)知らんがな

342 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/15(土) 17:14:07.20 ID:k4zJuTIn
オワコン

343 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/18(火) 20:10:06.31 ID:DCuTHEV3
1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. ONE 〜輝く季節へ〜 茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司のSS
茜 小説版、ドラマCDに登場する茜と詩子の幼馴染 城島司を主人公にして、
中学生時代の里村茜、柚木詩子、南条先生を攻略する OR 城島司ルート、城島司 帰還END(茜以外の
他のヒロインEND後なら大丈夫なのに。)
5. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
6. ファーランド サーガ1、ファーランド サーガ2
ファーランド シリーズ 歴代最高名作 RPG
7. MinDeaD BlooD 〜支配者の為の狂死曲〜
8. Phantom of Inferno
END.11 終わりなき悪夢(帰国end)後 玲二×美緒
9. 銀色-完全版-、朱
『銀色』『朱』に連なる 現代を 背景で 輪廻転生した久世がが通ってる学園に
ラッテが転校生,石切が先生である 石切×久世

SS予定は無いのでしょうか?

344 :TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/10/20(木) 22:36:01.41 ID:cvUrf9I9
 どうもご無沙汰しております。
ちくと実生活の方が多忙を極めており、今日からまた
遅くも筆を執ることになりました。

とりあえず次回予告。

38【草笛みつと金糸雀の展望】

今月中に投下予定です。それでは、また。

345 :TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:45:48.92 ID:8cSZo3G3
 遅くなりまして誠に申し訳ございません。
ようやく投下体制整いましたので投下しますよ。
それではいきます。


38【草笛みつと金糸雀の展望】

346 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:49:28.69 ID:8cSZo3G3

[2005/02/13 13:08]
[草笛家。]

金糸雀「みっちゃーん、今日のお昼ごはんはー!?」

草笛みつ「さっき出来たよ! 名付けて……『ふわふわハートの
     スーパーオムそば』! たんと召し上がれっ!」

金「わぁ……! とってもきれいかしら! いただきまーす!!」

みつ「よーし、みっちゃんもいっただっきまぁす!」


 2月13日日曜日、快晴! 今日もカナとお昼ご飯を食べて、
みっちゃんも満足です。そう、私は草笛みつ。服飾パタンナーに
してドールコレクター、そして金糸雀の契約者です!

 パタンナーとはいっても、つい最近までは有名じゃなかったし、
桜田ジュンくん……ジュンジュンに出逢うまでは言ってしまえば
ただのOLだったわけで……

 やっぱり、この子(カナ)が来てから、劇的に生活が変わった
ような気がします。

347 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:52:50.55 ID:8cSZo3G3
[13:20]

みつ「よーし、カナ、今日はおでかけするよ!」

金「おでかけ? どこへ行くの?」

みつ「そうだねー、たまには色んなところをブラブラしたいなー。」

金「ちょっとふらーり放浪の旅、ってやつかしら?」

みつ「そんなところかな!」


 私が休みの日は、カナとコスプレとか撮影会をして遊んでます。
たまーに、どこか出かけたりするけど、大体ジュンジュンの家に
行って、同じように撮影会になっちゃいます。

 今日は、とても気分がいいんで、カナたちがいつもどんな所で
遊んだりしてるかを私も体験しようと思います! 普段は仕事で
あまり外にも出ないし……たまには体を動かさないとね。

 カナにも、この間買った私とお揃いの黄色いダウンジャケット
を着てもらって、そしてセットで買った向日葵の花のような帽子
を被ってもらって、いざ出発!

348 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:55:01.85 ID:8cSZo3G3

[13:34]
[いつもの公園。]

みつ「へぇ、ここでよく蒼星石ちゃんたちと遊ぶんだ。」

金「うん! 大体はアクティビティに遊んでるかしら。鬼ごっこ
  とか、かくれんぼとか、キャッチボールとかしてるかしら!」


 家から少し歩いたところにある、小さな公園。カナ達は、ここ
とかジュンジュンの家の庭とかでお茶会を開いたり、鬼ごっこや
かくれんぼをして遊んでるみたいです。


みつ「そうなんだー。私もよく、こういう所で遊んだっけ。」

金「みっちゃんは何をして遊んでたの?」

みつ「おままごとかなぁ? お人形を山ほど持ってきて、ここで
   筍族ごっことか、男の子がミニカーを持って来たら、砂場
   でパリダカごっことかやってたよ。」

349 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:57:05.71 ID:8cSZo3G3

金「ああ、お正月のあたりにテレビでやってたかしら。しかし、
  みっちゃんもずいぶんとスケールの大きな遊びをしていたの
  かしら。」

みつ「まあ、カナたちと同じように、鬼ごっことかかくれんぼも
   していたと言えばしてたかな? みっちゃんは、いちばん
   捜しだすのがうまかったけど……」

金「……何分間で全員捕らえたかしら?」

みつ「最高記録は……確か7人を10分かな?」

金「ってことは……うん、大体雪華綺晶と同じぐらいかしら。」


 おっ、きらきーちゃんと同じくらい、か……。探してるものを
すぐ見つけ出すイメージがあるから、かくれんぼとか鬼ごっこは
うまいのかな?

350 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 20:59:23.92 ID:8cSZo3G3

みつ「きらきーちゃんが一番見つけるのがうまいの?」

金「いいや、もっと上がいるわ! 雛苺、この前は4人を……
  ……2分で見つけ切ったかしら。」

みつ「どんだけっ!? すごいんだねー。」


 なるほど、雛苺ちゃんが一番こういう遊びがうまいのかぁ。
巴ちゃんが学校に行ってる間に、たまに家に遊びに来るみたいで、
カナが夕飯の時に話をしてくれます。


金「しかも、隠れたら絶対に最後にしか見つからないかしら。
  ……大体、いつもカナと1と2を争ってるかしら。」

みつ「へぇー…… ここって、カナたち以外にも、誰かしら来る
   でしょう? そういう時ってどうしてるの?」


351 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:04:50.59 ID:8cSZo3G3

金「まあ、ひとりやふたりしか来ないけど、チビッ子に混ざって
  遊ぶこともあるわ。それと、紙芝居のおじさんかな? 大体
  2週間に1回くらい来るかしら。」

みつ「そうなんだ。紙芝居のおじさん、活躍してるねぇ。」


 私が幼い頃、公園で遊んでいると、夕方くらいに、自転車に乗
って現れて、紙芝居をしてくれるおじさんがいました。この町で
も紙芝居のおじさんが名物みたいです。

 豆腐屋さんとか焼き芋屋さんも通るけど、自転車のこの人は、
公園の中まで入ってきてくれて、みんなに紙芝居を披露してから
颯爽と去っていく……そういう人です。


352 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:07:08.11 ID:8cSZo3G3

金「みっちゃんも逢ったことあるの?」

みつ「うん。ずっと昔から、この国では有名なんだ。この辺でも、
   カナが来る前から結構噂になってる人がいるよ。たしか、
   腹巻のおじさんと、なんか黒い服のおじさんがいて……」

金「カナたちは鉢巻と腹巻をしてるおじさんしか逢ったことない
  かしら。」

みつ「腹巻のおじさんは、仕事帰りとかにすれ違うことはあるね。
   日曜に会社に行くときとか公園の近くを通ったら、そこで
   紙芝居やってるのを見たことがあるよ。」


 ちょっと前にジュンジュンから聞いたけど……ジュンジュンは
その黒い服のおじさんに逢ったことがあるみたい。あいにく顔は
はっきりとは見えなかったけど、雰囲気が違うと言ってました。


353 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:11:01.43 ID:8cSZo3G3

[14:18]
[道中。]

 さて、公園を出たらしばらく歩きます。10分くらい歩いたら、
何やらすごい存在感を醸し出す古びた教会が見えました。そこは、
カナたちにもゆかりのある所だったんです。


金「こっちはー…… 古い教会かしら。最近、水銀燈はめぐの家
  にいるみたいで、ここにはあんまり来ないみたいだけど……」

みつ「誰もいないねぇ。そういえばこのあたりで、夜中に天使を
   見たー、なんていう噂が職場で流れたっけ。」

金「……それ、きっと水銀燈かしら! 夜中に見つけるなんて、
  よほど目が良かったのかしら?」

みつ「まあ、銀ちゃんもカナも、天使には変わりないけどね♪」

金「もう、照れるかしら…… もうちょっと行ったら、病院だわ。
  めぐがずっと入院してたっていう……」


354 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:14:29.34 ID:8cSZo3G3

 ここからでも一際目立つ大きな病院。この辺りだと10階建て
でもかなり大きい方。噂の『有栖川大学病院』です。


みつ「ああ、ここに…… あれ? 今出てきたの、ひょっとして
   めぐめぐじゃない?」

金「(めぐめぐ……?!)本当かしら。確か、月1で健康診断を
  受けに行ってるって水銀燈が言ってたかしら…… あらっ、
  裏の原っぱにその水銀燈がいるかしら。」

みつ「めぐめぐ、水銀燈を迎えに行ってるみたいだね。」

水銀燈「あら、金糸雀に、みつじゃなぁい。ごきげんよう。」

柿崎めぐ「こんにちは、今日はどちらまで?」

金「適当にブラブラしてるかしら。日曜日だから、みっちゃんも
  お休みだし、たまにはいいかな、と思って。」

355 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:19:10.83 ID:8cSZo3G3

 すらっとした体格の、黒髪が素敵な女の子が柿崎めぐちゃん。
銀ちゃんを肩に乗せて、幸せな表情をしています。2人が逢った
のは、3年前の、あの夏になってからだったそうです。


銀「ああ、それでねぇ…… とりあえず、人が増えてくるから、
  迷子にならないようにしっかり掴まっときなさいよ。」

みつ「まかせてよ〜! 絶対離さないわ!」

銀「いや、今のは金糸雀に言ったのだけどぉ……」

めぐ「ふふ…… 愉快ですね、みつさんは……♪」

みつ「いやぁ〜、よく言われるんだー。めぐめぐったら核心突く
   のがウマいというか……」

めぐ(めぐめぐ……?)


356 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:23:46.90 ID:8cSZo3G3

金「あはは……とにかく、気を付けとくかしら。めぐこそ、風邪
  とかには用心するかしら。」

めぐ「ありがと、金糸雀。そのあたりは大丈夫だよ。昔から気を
   遣ってきてるからね♪ ……あっ、もう2時半になるんだ。
   パパ、おやつを作るって言ってたわ。」

銀「めぐのお父様、今日ケーキを作るって張り切ってたわねぇ。
  早いところ戻りましょうか。 それじゃあね、金糸雀、みつ。」

めぐ「じゃあ、私たちはここで……」

金「バイバイかしらー。」

みつ「またねぇー!」


 ケーキと聞いたら、少しお腹が空いてきました。そういえばもう
2時半。いつもだったら、カナとおやつを作り始める時間です。
家路寄り添う二人の横顔が穏やかで、しばらく見とれていました。


357 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:26:36.51 ID:8cSZo3G3

みつ「ちょっとお腹すいたぁー。何か甘いもの買っていかない?」

金「この辺には『和菓子さとう』と『不死屋』、『ナノカドー』と
  あと『ローリン』があるかしら。」

みつ「おおっ、カナよく知ってるんだ! 一番近いのは?」

金「このあたりをよく偵察(……というかお散歩だけど)してる
  から、楽勝かしら! 一番近いのは不死屋ね!」

みつ「よぉーっし! レッツラゴー!」

金「レッツラゴー!!」


 カナの行動力の大きさを実感した瞬間でした。カナ、すごーい!
日傘を使って、空からこの町を見てきたから、頭の中にこの辺り
の地理が叩き込まれてるみたいです。私はたまに迷うけど……


358 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:29:24.01 ID:8cSZo3G3

[14:36]
[洋菓子 不死屋。]

みつ「さーて、何にしようかなー……」

金「やっぱり、モンブランかしら? うーん……」

ウィーン
鳥越「いらっしゃいませー。」

金「? あっ、巴かしら!」


 私たちがおやつのメニューに迷っていると、巴ちゃんがお店に
来ました。外が寒いせいか、お店の中に入ったとたんに、ほっと
一息ついて手袋を外していました。


巴「あっ、みつさん、金糸雀! こんにちは。」

みつ「こんにちは〜! トモトモもおやつを買いに?」


359 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:35:39.34 ID:8cSZo3G3

巴「(トモトモ……?)ふふっ、はい、おやつというか……その」

金「? 巴……?」

巴「ふふっ、雛苺のおやつを買いに来てるんです。昼前に雛苺が
  桜田君の家に行ったから、そろそろアレ、食べたい頃かなと
  思って……私も、桜田君の家に今から行くところで。」


 雛苺ちゃんのおやつといえば、すぐに苺大福が思い浮かびます。
慣れた感じで、早々と20個の苺大福を注文していました。私も
食べたくなってきた…… カナもさらに悩んでいます。


みつ「ああ、ジュンジュンの家に! 苺大福ねぇ。」

金「折角だからカナたちも苺大福にするかしら!」

360 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 21:45:01.18 ID:8cSZo3G3

巴「ふふ…… みつさんたちはどこへ?」

みつ「日曜日だし、あちこちブラブラしてみようかな、と思って。」

巴「それなら、玄武百貨店なんかどうですか? ここからなら、
  歩きだと少し距離はありますけど、金糸雀とお喋りしてたら
  すぐ着きますよ! 眺めのいい屋上がおすすめです。」

金「屋上?」

巴「うん。確か去年のクリスマスイブだったかな……その時に、
  桜田君と行ったんだけどね。見晴しもいいし、この辺りなら
  よく見渡せるんだよ。たまーに、雛苺ともそこに行くんだ。」


 おおっ、ジュンジュンもスミに置けないというか。聞いた話、
この二人は幼馴染で小さいころはよく一緒に遊んだとか。まあ、
大きくなっちゃったら他人同士になるというのはよくある話で。

 これも、この子たちがめぐり合わせてくれたのかな……? ま、
そのあたりは本人たちに聞いてみないと……。


361 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:12:03.32 ID:8cSZo3G3

金「今日はピーカンだし、偵さ……散歩するには丁度良いかしら。
  よぉーし、みっちゃん、これは行くしかないかしら!?」

みつ「ねぇトモトモ、何かバーゲン的なものはやってないかな!?
   かなかな!? 私、あんまりデパートには行かないから、
   その辺よく分からなくて……」

巴「今日は日曜日だから、何かやってると思います。まだ今日の
  新聞についてるチラシは見てないですけど……」

みつ「よっしゃァァ! カナ、おやつ買ったら、行くよっ!!」

金「合点承知! じゃあ、またねかしらァ!!
  あっ、これ大至急ください!」

鳥越「は、はあ…… 苺大福ですね」

巴「……ふふっ、本当に仲がいいんだねぇ。」


 バーゲンがあるとなれば、善は急げ、なるだけ早く現地に着か
ねばっ! カナは飛んだりとかできるけれど、私は走るしかない
から、とにかく急ぎました。

362 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:16:15.02 ID:8cSZo3G3

 ……けど、無理はするもんじゃないですねえ…… ろくに運動
をしないせいか、デパートに入るころにはもうクタクタ。屋上に
着くやいなやベンチにへたり込んじゃいました。


[15:03]
[玄武百貨店 屋上。]

みつ「っはあぁ……ああ、疲れたぁー……」

金「殆ど全速力で走るからかしら!? ……15時半からの
  スーパーチョコフェアには間に合いそうだけど……
  カナもちょっと疲れたかしら……」

みつ「こうみえても私……昔は速かったんだよ……ぉぉぉ」
クテッ

金「わああ……みっちゃんしっかりするかしら! ななな、何か
  飲んで落ち着いたほうが……!?」

みつ「よ、よぉし…… そこの自販機で…… はひー」

金「もう、みっちゃんったら…… カナははちみつレモンにする
  かしら♪」

みつ「じゃあ、みっちゃんもそれにしようかな! じゃ、まずは
   カナから! おっ、紙パックだから少し安いんだ!」

363 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:21:24.17 ID:8cSZo3G3

ガコンッ

 勢いよく払い出されたジュースを取ろうとしたとき……軽快な
電子音が! この音はもしや……!

ピピロピロピロ……
みつ「こ、この音は絶滅危惧されている『当たり付自販機』!?」

金「これって確か槐のお店の近くにも1台だけあったかしら。
  当たるかな……?」


 ルーレット式になっているランプを、私とカナで二人して見つ
めていると……

ピコーン! テーテッテテー♪

みつ「わわわあああ!! 当たった、当たったよぉーカナぁ!」
ピョンピョン

金「いいい、一発で当てるとは、さすがみっちゃんかしらぁ!」
ピョンピョン

みつ「どどどどどーしよう、どーしよう!?」アタフタ

ピッ
金「……あれ?」

ガコン
みつ「……あれ?」

364 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:26:28.03 ID:8cSZo3G3

 どうやら、予期せぬアクシデントが起こったようです。
取り出し口には、おしるこが一つ。


金「……何かの拍子に腕がぶつかっちゃったかしら……?」

みつ「まあ、おしるこもあたたかいから、いいや♪
   よし、今度カナにもつくってあげるよ!」

金「ほんとかしら!? おしるこは決まって正月だったから……
  とてもご無沙汰かしら。」


[15:19]

 3時を回ってから、少し寒さが増してきたようです。吐く息が
白く出ては消えていきます。カナは人形だってことも、忘れそう。
二人でベンチから、辺りの景色を眺めていました。


みつ「トモトモが言ってたように、ほんとに見晴しがいいねぇ。」

金「けっこう静かかしら…… 遊園地みたいなものはあるけど、
  ほとんど人が居ないみたい……」

みつ「まあでも、落着けるからいいよね。今度からもっとここに
   来てみようかな? マンションの屋上でもいいけど……」

金「みっちゃんの住んでる辺りには、マンションと病院以外には
  高い所もないし……こういう所も、たまにはいいかしら!」

365 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:31:22.73 ID:8cSZo3G3

 その後、ふらっと小さなゲームセンターに寄ると、小さい頃に
遊んだゲームがまだ現役で動いていて感動したり、カナにUFO
キャッチャーのぬいぐるみを取ってあげたらカナが大喜びしたり。

 ひととおり遊んでから、またベンチで一休み。ずっと私の横を
チョコチョコとついてきてくれるカナを見て、また私のとなりに
ちょこんと座るカナを見て、ふっと思いました。


みつ「やっぱ、カナが居ない生活なんて……考えられないかな。」

金「みっちゃん?」

みつ「いや、本気だよ。ずいぶん前……3年前の夏になるのかな。
   カナが戻ってこなくて、ずっと雛苺ちゃんと映ってる写真
   を見てた時に、なぜだかすっごく、切なくなって……」

金「……」

みつ「ナーバスになってた私を、カナは励ましてくれたよね?」

金「うん……」

366 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:36:22.67 ID:8cSZo3G3

みつ「2年前の2月28日に、ジュンジュン達と頑張れたのは、
   カナが、カナ達がいたからだね、今頃だけど……
   たぶん、将来もし結婚することがあって、子どもが出来た
   としても……カナは絶対に離さないから。頭の中から離さ
   ないから。」

金「みっちゃん……! それは、カナだってそうかしら。
  カナもずっと憶えてるかしら! カナの記憶力は、伊達じゃ
  ないわ!」

みつ「あははは……今でも、思い出すなあ。カナが初めて、家に
   来た日。」

金「……?」

 
 二人で、雲の隙間からのぞく透き通った空を見上げてみます。
思えばあの日も、4月にしては少し寒い、そんな昼前でした。


367 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:38:47.68 ID:8cSZo3G3
―――――――――――――
[2002/04/05 11:31]
[草笛家。]

みつ『さあて今日も、例の情報収集っと参上ー……』

□幻のローゼンメイデンがここに  2002/04/05 07:04:58
□ローゼンメイデン情報Vol.X   2002/04/05 07:17:25
□なんでだローゼンメイデン    2002/04/05 08:41:55
□本物のローゼンメイデン売ります 2002/04/05 09:04:03
□超人気ハリケン・ローゼン等々 2002/04/05 09:18:29

みつ『うーん…… 見たところ全部ガセねぇ……』

みつ『Zちゃんねるもあたったけど、スレは25スレも進展なし。
   まあ、相手はマニアも泣いて欲しがる、あの伝説ローゼン
   メイデン……仕方ないかなぁ』


ピロン♪
みつ『……あれ? メールが……』


□おまでとうごぢざいます! 2002/04/05 11:31:57

368 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:41:21.59 ID:8cSZo3G3

みつ『オークション? ……おかしいわね、今日はとくに落札は』

――――――――――――――
 mitsu-k様
 おまでとうごぢいます
 ローゼンメイデン第2ドール
 オークしょんの結果、見事にあなたが落礼しますた!
――――――――――――――

みつ『……しますた って…… 誤字ありまくりだし……
   というか何かもう落札したことになってるし……
   何なんだろう……?』

みつ『って、ローゼンメイデン!? いや、まさかそんな……』

――――――――――――――
 まくばあいはこのメーリに返信してくばさい

 1.まきますか 2.まきませんか
――――――――――――――

みつ『…… まく……? これって……』



369 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:43:53.80 ID:8cSZo3G3

[12:59]

みつ『さてお昼も買ったし、帰ったら服のパターン考えなくちゃ。
   お昼になってからいくらか暖かくなってきたなぁ……』

みつ『たっだいまー! って……』

みつ『……!? この鞄…… ……いや、まさかねぇ……
   ……この大きさ、この前落札しといたビスクドールかも!
   ちょっと開けてみよう』

みつ『薇……? まくって……これかな? 立派なお人形だけど
   ……70cmはあるかな……かなり大きいねコレ』


キリキリキリ…… カチッ!

みつ『おっ、巻き終わった! 薇人形という事は動……』

パチッ
金『…… ……』

みつ『…… ……!?』

370 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 22:45:49.08 ID:8cSZo3G3

金『……ここは あっ、今の時代に目覚めたのかしら。
  ずいぶんとお人形の多い部屋かしら……』

みつ『(し、しゃべった!?)……?! あなたは……』

金『ローゼンメイデンの第2ドール……一の策士・金糸雀かしら。』

みつ『…… ……え、今 な、なんて……?』ドクンドクン

金『…… ……ローゼンメイデンの、第2ど』

みつ『きゃあああああああ! この子超プリティー!!
   しかも探し求めていたローゼンメイデンんんんん!!
   かわいいいいいいい!!』
ギュギュッ

金『えっ!? ちょっ…… わわわ!?』

371 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:10:33.83 ID:8cSZo3G3

ガタガタッ ピンポンピンポン
金『ひええ!? な、何なのかしら!?』

みつ『わああっ、こりゃマズイ!』

トントントン
『どうしたんすかー!! 草笛さんどうしたんですか!!』
『泥棒でも入ったんですか!!』

みつ『あっ、ちょっと待ってて! いや違うんですうコレは!』

金『…… ……』ポカン

――――――――――


みつ「あの時は興奮しすぎて、隣の部屋の人と向かいの部屋の
   人が心配してドアを叩いてきたっけ。」

金「ハハハ…… そうだったかしら?」

みつ「オディールさんが越してくる前は、お向かいさんは大学生
   のお兄さんで『どうしたんすかー!』って叫んでて……」

金「そういえば、最初の時はかなりドタバタしてたかしら……
  まあ、今もだけど。」

みつ「あはは……」

372 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:16:09.85 ID:8cSZo3G3

金「さて、チョコフェスタ? もう始まっちゃうかしら!
  早いところカナを背負うなり鞄に入れるなりするかしら♪」

みつ「よぉーし! しっかりつかまってて!
   レッツ『みっちゃんのぼり』!!」

金「了解かしらー!」 


 ダウンジャケットをキメて向日葵の帽子を被っちゃえば、小柄
な子どもと変わらない感じになります。……3年経った今でも、
本当にカナは人形なのか分からないときがよくあります。

 そういえば明日は2月14日、チョコレートの日。日頃お世話
になってる人たちにも、買っていこうかな? もちろんカナとは、
お揃いのチョコレートを買いました。


373 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:18:45.69 ID:8cSZo3G3

[16:22]
[帰り道。]

 帰り道では、雛苺ちゃんや銀ちゃん、翠星石ちゃんのお友達と
いう3匹の猫に逢いました。カナも、この猫たちに逢ったことが
あったみたいで、よく懐かれてました。


金「しかし、いつもと違う格好なのによく分かったかしら。
  まあ、カナも雛苺たちの姉妹だから、似てるっちゃあ似てる
  けれども……」

みつ「ほれほれ、カナのマスターやってるみっちゃんですよー。」

猫「……にゃあ」
黒猫「うにぃー」
ぶち猫「みゃあ」

みつ「おー、よしよし。」

金「みっちゃんったら…… 速攻で仲良くなったかしら?」


374 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:21:29.98 ID:8cSZo3G3

[16:38]
[草笛家。]

金「ただいまーかしらー!」

みつ「たっだい……あれ? 何かしらこの箱……」

金「『A賞』って書いてあるかしら…… あれ? あっ、これ!」

みつ「えっ、何か知って…… あ! これってもしかして……!」

金「雪華綺晶とはがきを出しに行った時の…… ずいぶんと後に
  なったかしら……」

みつ「全員サービスだとか言ってたけど、やっぱりこういうのが
   届くとうれしいね! よーしカナ、開けるよ!」

金「オッケーイ! 鋏は……いや、カッターの方がいいかしら
  はい、みっちゃん!」

みつ「レッツ、ご対面〜!」

375 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:28:50.53 ID:8cSZo3G3

 家に帰ると、去年の夏に応募した懸賞の賞品が届いていました。
私の代わりに、カナがきらきーちゃんと一緒にポストまで葉書を
出しに行って……その時の冒険も、カナが熱く語ってくれたっけ。

 箱をそっと開けてみると、なにやらでっかいぬいぐるみが2つ。


金「……『くんくんぬいぐるみ超ディテクティブバージョン』
  それと『超限定ケンケン1/1ぬいぐるみケース』かしら!」

みつ「ケンケンって? くんくんのほかにも探偵が!?」

金「5期から出てきた、くんくんの弟子かしら!」

みつ「ふむふむ……ダンディーとセクシーがくんくんで、
   プリティがケンケン……といった所かな?」

金「……分かりにくいかしら……しかもちょっと違うかしら……」


 どうやら真紅ちゃんたちもこれに応募してたみたいで、今頃は
同じように賞品を開けて……大騒ぎしてることでしょう!


376 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:33:53.77 ID:8cSZo3G3

[20:02]

ミヤケ[それでハマダさん、明日はバレンタインですけれども]
ハマダ[もう家族おるがなァ。大明神に何か供えとけェ]
ミヤケ[アスリートのみなさんは……]



みつ「今日の晩御飯は〜、『星の玉子様カレー』と『だし巻き卵』
   だよー!! たんと召し上がれ!」

金「カナの好きなカレーライスかしら! 甘くて美味いかしら♪
  おお、人参とかもハート形になってるかしら!」

みつ「その辺は気合入れて作ったよ! ふふふ、よかったー、
   とっても喜んでもらえて♪」

金「もちろんかしら♪」


 美味しそうにご飯をほおばって、満面の笑顔を見せてくれる
カナを見てると、ご飯を作るにしても気が入っちゃいます。
残業で11時くらいに帰ってきても、私を出迎えてくれることも
あるので、疲れも吹っ飛びます。


377 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:36:34.15 ID:8cSZo3G3

[20:58]

みつ「ホント、色々あったけど……今こうやって居られて、
   みっちゃん幸せだなぁ。」

金「ふふ、それはカナも同じかしら。この時代に来てから、色々
  知ってきたし……」

みつ「今だってカナのこと、まだまだたくさん知りたいし」

金「たとえば?」

みつ「カナの、……誕生日とか……」

金「……うーん…… カナもなんだか思い出せないかしら……」

みつ「……まあ、思い出せるまでは、初めて家に来た4月5日に
   卵焼きケーキ作ってあげようかな!」

金「ま、それでもいいかしら! ……卵焼きケーキ!?
  それは……いけるのかしら!?」

みつ「みっちゃん張り切っちゃうよォー! もちろん、激甘で!」


378 :RozenMaiden Fortsetzung 38 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:38:02.52 ID:8cSZo3G3

金「ふふ……♪ やっぱり、甘い玉子のもとには何にも敵わない
  かしら!? フワッとしてグッと来て、いただきかしら!
  ……っと、もうこんな時間かしら。」

みつ「よーし、今日は仕事も残ってないし、ご飯の前にお風呂も
   入っちゃったし、寝ましょうか!」

金「レッツ就寝かしら! おやすみ、みっちゃん!」

みつ「おやすみー! また明日!」


 今夜の夢には、玉子焼きにかぶり付くカナたちが出てきそう。
今日は何だかいつも以上にカナとの未来を展望したけど、やはり
とっても明るそうです。明日は晴れるかな、カナ?


               【草笛みつと金糸雀の展望/おわり】

379 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/15(火) 23:39:24.59 ID:JZf0amby
投下乙です

380 :TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:41:30.25 ID:8cSZo3G3
 ……ハイというわけで、第38話「草笛みつと金糸雀の展望」は
以上で終了です。読んでくれた方本当にありがとうございました。

 またもや投下が遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。
とりあえず第3部は、あと4話くらいです。

 それでは、急激な気候変化と風邪に気を付けてグッナイ!

381 :TEG24 ◆TEGjuIQ24E :2011/11/15(火) 23:47:51.05 ID:8cSZo3G3
>>339>>379
いつも乙ありがとうございます、本当に励みになってます。

>>340
10スレ目の678にて残念ながら凍結されたとの書き込みがありましたが、
なんだか実現したら面白いと思います。

382 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/17(木) 01:23:44.03 ID:GL/ohHpI
>>340 >>381
合同でSSって、リレー小説みたいなもの?

それとも全体のストーリーを決めてから章分けして各章を分担するやつ?

面白そうだ。……書き手が最低二人、できれば3人以上必要だけど。

383 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/17(木) 07:34:54.84 ID:yk/V5AxD
書き手一人しか居ないように思える最近の傾向

384 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/18(金) 16:19:10.57 ID:TQmV1G8u
>>6-8を書いた者ですが、時間はあるけどネタが浮かばずでごんす。
連作か何かでよければ参加できます。

ネタ提供があれば、一人で書ける場合もあるかも。

385 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/20(日) 04:30:12.82 ID:zfbP/brZ
いつも書き込みしてるところに書き込みできないからもう最後の癒しの場だここは

386 :名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/25(金) 11:35:23.59 ID:+wEmxeDg
投下スレでそんなこと言われても
ならSS書いてよ

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